(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、カチオン成分として、P
5+およびAl
3+を含有し、カチオン%表示で、P
5+の含有率が22.0〜38.0%、Al
3+の含有率が11.0〜23.0%であり、アニオン成分として、F
-およびO
2-を含有し、屈折率(nd)が1.50以上で、アッベ数(νd)が65以上である光学ガラスである。
このような光学ガラスを、以下では「本発明の光学ガラス」ともいう。
【0011】
本発明の光学ガラスは、P
5+およびAl
3+を各々特定量含有することが特徴の1つである。
本発明者は、P
5+およびAl
3+の各々を特定量含有し、F
-およびO
2-を(好ましくは特定量)含有し、屈折率およびアッベ数が特定値以上の光学ガラスは、従来のものと比較して異常分散性(Δθg,F)が高くガラスレンズの色収差を高精度に補正することができ、高屈折率、低分散性を備え、さらに、従来のものと同等以上に摩耗度が低く研磨加工を行い易く、加えて耐酸性が優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
<ガラス成分>
本発明の光学ガラスを構成する各成分について説明する。
本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%またはアニオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」および「アニオン%」とは、本発明の光学ガラスのガラス構成成分をカチオン成分およびアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0013】
[カチオン成分について]
<P
5+>
本発明の光学ガラスはP
5+を22.0〜38.0%含む。P
5+は、ガラス形成成分であり、失透を抑制し、ガラスの屈折率を高め、アッベ数の低下を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、P
5+の含有率は好ましくは23.0%、より好ましくは24.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは25.5%を下限とし、好ましくは37.0%、より好ましくは36.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは34.0%を上限とする。
P
5+は、原料として例えばAl(PO
3)
3、Ca(PO
3)
2、Ba(PO
3)
2、Zn(PO
3)
2、BPO
4、H
3PO
4等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0014】
<Al
3+>
本発明の光学ガラスはAl
3+を11.0〜23.0%含む。Al
3+は、ガラスの耐失透性、屈折率およびアッベ数を高め、磨耗度を低くし、さらに加工性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Al
3+の含有率は好ましくは11.5%、より好ましくは12.0%、さらに好ましくは12.4%を下限とし、好ましくは22.0%、より好ましくは21.5%、さらに好ましくは21.0%を上限とする。
Al
3+は、原料として例えばAl(PO
3)
3、AlF
3、Al
2O
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0015】
<R
2+>
本発明の光学ガラスはR
2+を含むことが好ましい。R
2+とは、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+およびBa
2+からなる群から選ばれる少なくとも1つを意味する。R
2+の含有率とは、これらの4つのイオンの合計含有率を意味するものとする。
R
2+の含有率は30.0〜70.0%であることが好ましい。このような範囲の含有率であると、安定なガラスを得ることができるからである。R
2+の含有率は、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは38.0%を下限とし、より好ましくは65.0%、さらに好ましくは60.0%を上限とする。
【0016】
<Mg
2+>
本発明の光学ガラスはR
2+の1つとして、Mg
2+を含む場合がある。Mg
2+は、ガラスの耐失透性を高め、摩耗度を低くする性質を有する。
このような性質が強まるので、Mg
2+の含有率は1.0〜20.0%であることが好ましい。Mg
2+の含有率は、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは5.0%を下限とし、より好ましくは17.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とする。
Mg
2+は、原料として例えばMgO、MgF
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0017】
<Ca
2+>
本発明の光学ガラスはR
2+の1つとして、Ca
2+を含む場合がある。Ca
2+は、ガラスの耐失透性を高め、屈折率の低下を抑制し、ガラスの磨耗度を低くする性質を有する。
このような性質が強まるので、Ca
2+の含有率は0%〜20.0%であることが好ましい。Ca
2+の含有率は、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは3.0%を下限とし、より好ましくは19.0%、さらに好ましくは18.0を上限とする。
Ca
2+は、原料として例えばCa(PO
3)
2、CaCO
3、CaF
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0018】
<Sr
2+>
本発明の光学ガラスはR
2+の1つとして、Sr
2+を含む場合がある。Sr
2+は、ガラスの耐失透性を高め、ガラスの屈折率の低下を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、Sr
2+の含有率は0%〜20.0%であることが好ましい。Sr
2+の含有率は、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Sr
2+は、原料として例えばSr(NO
3)
2、SrF
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0019】
<Ba
2+>
本発明の光学ガラスはR
2+の1つとして、Ba
2+を含む場合がある。Ba
2+は、所定量含有したときにガラスの耐失透性を高める性質を有する。また、低い分散性を維持し、屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Ba
2+の含有率は15.0%〜40.0%であることが好ましい。Ba
2+の含有率は、より好ましくは16.0%、さらに好ましくは17.0%を下限とし、より好ましくは38.0%、さらに好ましくは37.0%を上限とする。
Ba
2+は、原料として例えばBa(PO
3)
2、BaCO
3、Ba(NO
3)
2、BaF
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0020】
<Ln
3+>
本発明の光学ガラスはLn
3+を含むことが好ましい。Ln
3+とは、Y
3+、La
3+、Gd
3+、Yb
3+およびLu
3+からなる群から選ばれる少なくとも1つを意味する。Lu
3+の含有率とは、これらの5つのイオンの合計含有率を意味するものとする。
Ln
3+の含有率は0〜10.0%であることが好ましい。このような範囲の含有率であると、ガラスの屈折率を高まり、低分散となるからである。Ln
3+の含有率は、より好ましくは1.5%、さらに好ましくは2.0%を下限とし、より好ましくは9.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
【0021】
<Y
3+>
本発明の光学ガラスはLn
3+の1つとしてY
3+を含む場合がある。Y
3+は、ガラスの屈折率を高めるとともに、異常分散性を低下し難くし、ガラス転移点(Tg)の上昇を抑えつつ、耐失透性を高めることができる性質を有する。
このような性質が強まるので、Y
3+の含有率は、好ましくは1.5%、より好ましくは2.0%を下限とし、好ましくは9.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
Y
3+は、原料として例えばY
2O
3、YF
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0022】
<La
3+>
本発明の光学ガラスはLn
3+の1つとしてLa
3+を含む場合がある。La
3+は、ガラスの屈折率を高めるとともに、異常分散性を低下し難くする性質を有する。
このような性質が強まるので、La
3+の含有率は、好ましくは1.5%、より好ましくは2.0%を下限とし、好ましくは9.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
La
3+は、原料として例えばLa
2O
3、LaF
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0023】
<Gd
3+>
本発明の光学ガラスはLn
3+の1つとしてGd
3+を含む場合がある。Gd
3+は、ガラスの屈折率を高めるとともに、異常分散性を低下し難くし、さらに耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Gd
3+の含有率は、好ましくは1.5%、より好ましくは2.0%を下限とし、好ましくは9.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
Gd
3+は、原料として例えばGd
2O
3、GdF
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0024】
<Yb
3+>
本発明の光学ガラスはLn
3+の1つとしてYb
3+を含む場合がある。Yb
3+は、ガラスの屈折率を高めるとともに、異常分散性を低下し難くし、さらに耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Yb
3+の含有率は、好ましくは1.5%、より好ましくは2.0%を下限とし、好ましくは9.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
Yb
3+は、原料として例えばYb
2O
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0025】
<Lu
3+>
本発明の光学ガラスはLn
3+の1つとしてLu
3+を含む場合がある。Lu
3+は、ガラスの屈折率を高めるとともに、異常分散性を低下し難くし、さらに耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Lu
3+の含有率は、好ましくは1.5%、より好ましくは2.0%を下限とし、好ましくは9.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
Lu
3+は、原料として例えばLu
2O
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0026】
<Si
4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてSi
4+を含んでもよい。Si
4+は、所定量含有したときに耐失透性を高め、屈折率を高めつつ、磨耗度を低下させて加工性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Si
4+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Si
4+は、原料として例えばSiO
2、K
2SiF
6、Na
2SiF
6等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0027】
<B
3+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてB
3+を含んでもよい。B
3+は、所定量含有したときに耐失透性を高め、屈折率を高めつつ、磨耗度を低下させて加工性を高め、さらにガラスの化学的耐久性を悪化し難くし、ガラスへの脈理の形成を低減する性質を有する。
このような性質が強まるので、B
3+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
B
3+は、原料として例えばH
3BO
3、Na
2B
4O
7、BPO
4等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0028】
<Rn
+>
本発明の光学ガラスでは、Rn
+(Rn
+はLi
+、Na
+およびK
+からなる群から選ばれる少なくとも1つ)の合計含有率が、20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%であることがさらに好ましい。
【0029】
<Li
+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてLi
+を含んでもよい。Li
+は、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する。
このような性質が強まるので、Li
+の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限とする。
Li
+は、原料として例えばLi
2CO
3、LiNO
3、LiF等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0030】
<Na
+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてNa
+を含んでもよい。Na
+は、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する。
このような性質が強まるので、Na
+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Na
+は、原料として例えばNa
2CO
3、NaNO
3、NaF、Na
2SiF
6等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0031】
<K
+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてK
+を含んでもよい。K
+は、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する。
このような性質が強まるので、K
+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
K
+は、原料として例えばK
2CO
3、KNO
3、KF、KHF
2、K
2SiF
6等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0032】
<Zn
2+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてZn
2+を含んでもよい。Zn
2+は、所定量含有したときにガラスの耐失透性を高める性質を有する。また、ガラスの摩耗度を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、Zn
2+の含有率は15.0%〜40.0%であることが好ましい。Zn
2+の含有率は、より好ましくは16.0%、さらに好ましくは17.0%を下限とし、より好ましくは38.0%、さらに好ましくは37.0%を上限とする。
Zn
2+は、原料として例えばZn(PO
3)
2、ZnO、ZnF
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0033】
<Nb
5+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてNb
5+を含んでもよい。Nb
5+は、ガラスの屈折率を高め、化学的耐久性を高め、さらに、アッベ数の低下を抑制し、溶融温度の上昇を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、Nb
5+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Nb
5+は、原料として例えばNb
2O
5等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0034】
<Ti
4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてTi
4+を含んでもよい。Ti
4+は、ガラスの屈折率を高め、着色を低減する性質を有する。
このような性質が強まるので、Ti
4+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする
。
Ti4+は、原料として例えばTiO
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0035】
<Zr
4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてZr
4+を含んでもよい。Zr
4+は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの機械的強度を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Zr
4+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Zr
4+は、原料として例えばZrO
2、ZrF
4等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0036】
<Ta
5+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてTa
5+を含んでもよい。Ta
5+は、ガラスの屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Ta
5+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Ta
5+は、原料として例えばTa
2O
5等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0037】
<W
6+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてW
6+を含んでもよい。W
6+は、ガラスの屈折率を高め、さらにアッベ数の低下を抑える性質を有する。
このような性質が強まるので、W
6+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
W
6+は、原料として例えばWO
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0038】
<Ge
4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてGe
4+を含んでもよい。Ge
4+は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が顕著になるので、Ge
4+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Ge
4+は、原料として例えばGeO
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0039】
<Bi
3+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてBi
3+を含んでもよい。Bi
3+は、ガラスの屈折率を高め、ガラス転移点を低下する性質を有する。
このような性質が強まるので、Bi
3+の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Bi
3+は、原料として例えばBi
2O
3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0040】
<Te
4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてTe
4+を含んでもよい。Te
4+は、ガラスの屈折率を上げ、失透し難くすることができ、着色を抑える性質を有する。
このような性質が強まるので、Te
4+の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Te
4+は、原料として例えばTeO
2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0041】
[アニオン成分について]
<F
->
本発明の光学ガラスはF
-を含む。F
-は、ガラスの異常分散性およびアッベ数を高め、さらにガラスを失透し難くする性質を有する。
このような性質が強まるので、F
-の含有率はアニオン%表示で20.0〜95.0%であることが好ましい。F
-の含有率は、好ましくは25.0%、より好ましくは30.0%、より好ましくは33.0%、さらに好ましくは35.0%を下限とし、好ましくは70.0%、より好ましくは65.0%、より好ましくは60.0%、より好ましくは58.0%を上限とする。
F
-は、原料として例えばAlF
3、MgF
2、BaF
2等の各種カチオン成分のフッ化物を用いてガラス内に含有させることができる。
【0042】
<O
2->
本発明の光学ガラスはO
2-を含む。O
2-は、ガラスの磨耗度の上昇を抑制する性質を有し、また、網目構造を形成するのに必要な成分である。
O
2-の含有率とF
-の含有率との合計は、アニオン%表示で98.0%以上であることが好ましく、99.0%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。安定なガラスを得ることができるからである。
O
2-は、原料として例えばAl
2O
3、MgO、BaO等の各種カチオン成分の酸化物や、Al(PO)
3、Mg(PO)
2、Ba(PO)
2等の各種カチオン成分の燐酸塩等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0043】
[含有すべきでない成分について]
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、および含有することが好ましくない成分について説明する。
【0044】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。
【0045】
また、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、AgおよびMo等の遷移金属のカチオンは、それぞれを単独または複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0046】
さらに、Pb、Th、Cd、Tl、Os、BeおよびSeのカチオンは、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、および製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、および廃棄できる。
【0047】
[製造方法]
本発明の光学ガラスの製造方法は特に限定されない。例えば、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝またはアルミナ坩堝または白金坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝またはイリジウム坩堝に入れて900〜1200℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、850℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより製造することができる。
【0048】
[物性]
本発明の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が特徴的である。したがって、色収差を高精度に補正できる光学ガラスを得易い。
部分分散比(θg,F)は0.530以上であり、0.533以上であることが好ましく、0.538以上であることがより好ましく、0.540以上であることがさらに好ましい。
なお、部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定して得た値を意味するものとする。
また、本発明でいう部分分散比は、短波長域での部分分散比を意味するものとする。
【0049】
本発明の光学ガラスは、異常分散性(Δθg,F)が高い。したがって、色収差を高精度に補正できるレンズを得易い。
異常分散性(Δθg,F)は0.006以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましく、0.010以上であることがより好ましく、0.011以上であることがより好ましく、0.012以上であることがより好ましく、0.013以上であることがさらに好ましい。
【0050】
ここで、部分分散比(θg,F)および異常分散性(Δθg,F)について説明し、その後、本発明の光学ガラスの物性における特徴をより詳細に説明する。
初めに、部分分散比(θg,F)について説明する。
部分分散比(θg,F)とは、屈折率の波長依存性のうち、ある2つの波長域における屈折率の差の割合を示すものであり、次の式(1)で表される。
θg,F=(n
g−n
F)/(n
F−n
C)・・・・・・式(1)
ここでn
gはg線(435.83nm)、n
FはF線(486.13nm)、n
CはC線(656.27nm)における屈折率を意味する。
そして、この部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)との関係をXYグラフ上にプロットすると、一般的な光学ガラスの場合、ほぼ、ノーマルラインと呼ばれる直線上にプロットされることになる。ノーマルラインとは、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(νd)を横軸に採用したXYグラフ上(直交座標上)で、NSL7とPBM2の部分分散比およびアッベ数をプロットした2点を結ぶ右上がりの直線を意味する(
図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、NSL7のアッベ数(νd)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436、PBM2のアッベ数(νd)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828である)。
【0051】
このような部分分散比(θg,F)に対して、異常分散性(Δθg,F)とは、部分分散比(θg,F)およびアッベ数(νd)のプロットが、ノーマルラインから縦軸方向にどの程度離れているかを示すものである。異常分散性(Δθg,F)が大きいガラスからなる光学素子は、青色付近の波長範囲について、他のレンズによって生じていた色収差を補正することができる性質を有する。
【0052】
また、中低分散領域(アッベ数が55程度以上の領域)においては、従来、アッベ数(νd)が大きいほど、異常分散性(Δθg,F)が大きくなる傾向があった。さらに、磨耗度を600以下としつつ、かつ異常分散性を高位に維持することは困難となる傾向があった。
【0053】
本発明者は鋭意検討し、アッベ数(νd)に対する異常分散性(Δθg,F)の値が、従来のものと比較して、より高くなる光学ガラスを開発することに成功した。
例えば、後に実施例として示したより好ましい態様の光学ガラスであると、アッベ数(νd)が70〜78程度の場合に、部分分散比(θg,F)が0.530以上となり、異常分散性(Δθg,F)も0.010以上となる光学ガラスを得ることができる。このような部分分散比(θg,F)および異常分散性(Δθg,F)の値は、同程度のアッベ数(νd)を有する従来のものと比較して、著しく高い値である。
【0054】
本発明の光学ガラスは、高い屈折率(nd)を有するとともに、低い分散(高いアッベ数)を有する。
屈折率(nd)は1.50以上であり、1.51以上であることが好ましく、1.52以上であることがより好ましく、1.524以上であることがさらに好ましい。
アッベ数(νd)は65以上であり、66以上であることが好ましく、68以上であることがより好ましく、70以上であることがより好ましく、71以上であることがさらに好ましい。
本発明の光学ガラスは、このような屈折率(nd)およびアッベ数(νd)を備えるので、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
なお、屈折率(nd)およびアッベ数(νd)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定して得た値を意味するものする。
【0055】
本発明の光学ガラスは、磨耗度が低い。したがって、光学ガラスの必要以上の磨耗や傷が低減され、光学ガラスに対する研磨加工における取扱いを容易にして、研磨加工を行い易くすることができる。
摩耗度は600以下であることがより好ましく、580以下であることがより好ましく、535以下であることがより好ましく、510以下であることがより好ましく、500以下であることがより好ましく、490以下であることがより好ましく、480以下であることがより好ましく、470以下であることがより好ましく、460以下であることがより好ましく、450以下であることがさらに好ましい。
一方、摩耗度が低すぎると逆に研磨加工が難しくなる傾向がある。したがって、摩耗度は80以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、120以上であることがさらに好ましい。
なお、摩耗度とは、「JOGIS10−1994光学ガラスの磨耗度の測定方法」に準じて測定して得た値を意味するものとする。
【0056】
本発明の光学ガラスは、耐酸性に優れる。したがって、容易に洗浄することができるので、品質に優れる。また、強酸を用いて洗浄することができるので品質に優れる。
本発明の光学ガラスは、粉末法によって評価する耐酸性が好ましくは2級以上、より好ましくは1級である。
【0057】
[プリフォームおよび光学素子]
本発明の光学ガラスは、様々な光学素子および光学設計に有用であるが、その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームに対して研磨加工や精密プレス成形等の手段を用いて、レンズやプリズム、ミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等のような光学素子に可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。ここで、プリフォーム材を製造する方法は特に限定されるものではなく、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法および製造装置のように溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造する方法を用いることもでき、また、光学ガラスから形成したストリップ材に対して研削研磨等の冷間加工を行って製造する方法を用いることもできる。
【実施例】
【0058】
本発明の実施例(No.1〜No.8)のガラスの組成、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、異常分散性(Δθg,F)、磨耗度、耐酸性および密度を第1表に示す。
【0059】
本発明の実施例(No.1〜No.8)の光学ガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の弗燐酸塩ガラスに使用される高純度原料を選定し、第1表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で900〜1200℃の温度範囲で2〜10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、850℃以下に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0060】
ここで、実施例(No.1〜No.8)の光学ガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)については、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスとして、アニール条件は徐冷降下速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。そして、測定されたアッベ数(νd)における、
図1のノーマルライン上にある部分分散比(θg,F)の値と測定された部分分散比(θg,F)の値との差から、異常分散性(Δθg,F)を求めた。
【0061】
磨耗度は「JOGIS10−1994光学ガラスの磨耗度の測定方法」に準じて測定した。すなわち、30×30×10mmの大きさのガラス角板の試料を水平に毎分60回転する鋳鉄製平面皿(250mmφ)の中心から80mmの定位置に乗せ、9.8N(1kgf)の荷重を垂直にかけながら、水20mLに#800(平均粒径20μm)のラップ材(アルミナ質A砥粒)を10g添加した研磨液を5分間一様に供給して摩擦させ、ラップ前後の試料質量を測定して、磨耗質量を求めた。同様にして、日本光学硝子工業会で指定された標準試料の磨耗質量を求め、
磨耗度={(試料の磨耗質量/比重)/(標準試料の磨耗質量/比重)}×100
により計算した。
【0062】
比重は、JIS Z 8807(固体比重測定方法)に準ずる。
【0063】
【表1】
【0064】
第1表に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)が0.533以上であり、屈折率(nd)が1.52以上であった。また、いずれも異常分散性(Δθg,F)が0.017以上であった。
このような部分分散比(θg,F)および異常分散性(Δθg,F)の値は、同程度のアッベ数(νd)を有する従来のものと比較して、著しく高い値である。
【0065】
また、いずれについても摩耗度が600以下となった。
【0066】
また、いずれについても耐酸性が1級または2級となった。
【0067】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、研磨加工用プリフォームを形成した後で研削および研磨を行い、レンズおよびプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形加工してレンズおよびプリズムの形状に加工した。いずれの場合も、様々なレンズおよびプリズムの形状に加工することができた。