特許第5919600号(P5919600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919600
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】車両用ラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 85/26 20140101AFI20160428BHJP
   E05B 77/38 20140101ALI20160428BHJP
   E05B 77/40 20140101ALI20160428BHJP
【FI】
   E05B85/26
   E05B77/38
   E05B77/40
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-90442(P2012-90442)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-217148(P2013-217148A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】長岡 智治
【審査官】 川島 陵司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−276228(JP,A)
【文献】 特開2009−41289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 85/26
E05B 77/38
E05B 77/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカを係合保持するラッチと、
前記ラッチと噛合することで、前記ストライカと前記ラッチの係合状態を維持するラチェットと、
を備える車両用ラッチ装置であって、
互いに噛み合う前記ラッチの噛合面と前記ラチェットの噛合面のうち、一方の噛合面が他方の噛合面より狭幅に形成され、
前記他方の噛合面より狭幅な一方の噛合面を有するラッチ又はラチェットの側方に、該ラッチ又は該ラチェットの側面との間に間隙を設けて支持部材を配置すると共に、該支持部材の端面を前記一方の噛合面よりも低い位置に設け、
前記端面を含む支持部材の周囲を樹脂材料によって覆うと共に、前記間隙を樹脂材料によって埋め、さらに、前記端面を覆う樹脂材料の外面を前記一方の噛合面より高い位置に設けることで、該外面を前記他方の噛合面に当接可能な緩衝部として形成したことを特徴とする車両用ラッチ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用ラッチ装置において、
前記一方の噛合面は前記ラチェットの噛合面であり、
前記支持部材は、前記ラチェットの側方に一体的に固定されることで、前記ラチェットを回動させるためのラチェットレバーに設けられることを特徴とする車両用ラッチ装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用ラッチ装置において、
少なくとも前記ラチェットの噛合面を露出させた状態で、前記ラチェットと前記ラチェットレバーとを前記樹脂材料によって一体的に覆ったことを特徴とする車両用ラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドア、バックドア、トランクリッド、シートバック及びシートクッション等に用いられる車両用ラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドア等に設けられ、ドアをロックする車両用ラッチ装置は、一般的に、車体側のストライカと係合可能な金属板状のラッチと、このラッチと噛み合うことによりラッチの回動を阻止する金属板状のラチェットとからなる噛合機構を備えて構成されている。このような噛合機構では、ラッチとラチェットが当接する際に金属同士の当接による当接音が発生するため、この当接音を低減することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ラチェットの板厚方向略中央部に形成した帯状の溝部に樹脂材料を埋め込むようにモールドして噛合面にたすき状の樹脂部分を設け、この樹脂部分を緩衝部として機能させることでラッチの噛合面と当接する際の当接音を低減する構成が開示されている。また、特許文献2には、ラチェットの板厚方向で両側部を樹脂材料で覆うことで、噛合面の両側方から樹脂材料を突出させ、この突出部分を緩衝部として機能させることで前記当接音を低減する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−41289号公報
【特許文献2】特開2002−276228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1記載の構成では、緩衝部として機能する樹脂部分によってラッチとラチェットとが噛み合う際の当接音の低減が可能であるものの、この樹脂部分がラチェットの中央部に噛合面にたすき状に架け渡されていることから、ラッチとラチェットとの噛み合いが繰り返されるうちに、次第に樹脂材料が捲れて剥がれ落ちてしまう可能性があるため、緩衝部の肉厚を上げて捲れを防止する必要がある。そのため、ラチェットの溝部を深く形成する必要があり、加工面での問題があった。また、上記特許文献2記載の構成についても略同様であり、ラチェットの両側部を包む樹脂部分が捲れて、剥がれを生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、ラッチとラチェットの当接音を長期に渡って低減することができる車両用ラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用ラッチ装置は、ストライカを係合保持するラッチと、前記ラッチと噛合することで、前記ストライカと前記ラッチの係合状態を維持するラチェットとを備える車両用ラッチ装置であって、互いに噛み合う前記ラッチの噛合面と前記ラチェットの噛合面のうち、一方の噛合面が他方の噛合面より狭幅に形成され、前記他方の噛合面より狭幅な一方の噛合面を有するラッチ又はラチェットの側方に、該ラッチ又は該ラチェットの側面との間に間隙を設けて支持部材を配置すると共に、該支持部材の端面を前記一方の噛合面よりも低い位置に設け、前記端面を含む支持部材の周囲を樹脂材料によって覆うと共に、前記間隙を樹脂材料によって埋め、さらに、前記端面を覆う樹脂材料の外面を前記一方の噛合面より高い位置に設けることで、該外面を前記他方の噛合面に当接可能な緩衝部として形成したことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、ラッチとラチェットとが噛み合う場合に、一方の噛合面の側方に樹脂材料によって形成した緩衝部を設けたことにより、この緩衝部が最初に他方のラッチ又はラチェットの噛合面と当接するため、噛み合い時の当接音を低減することができる。この際、一方の噛合面を有するラッチ又はラチェットの側方に設けた支持部材の周囲を樹脂材料で覆うと共に、間隙を樹脂材料で埋めているため、該樹脂材料が一層強固に固着・保持され、ラッチとラチェットとの噛合動作が繰り返されたとしても、その捲れや剥がれを生じることが防止され、当接音を長期に渡って低減できる。しかも、緩衝部となる樹脂材料の外面の内側には、支持部材の端面が設けられているため、噛み合い時に樹脂材料(の外面)が過剰に撓むことが防止され、その剥がれを一層確実に防止できる。
【0009】
前記一方の噛合面は前記ラチェットの噛合面であり、前記支持部材は、前記ラチェットの側方に一体的に固定されることで、前記ラチェットを回動させるためのラチェットレバーの一部として構成でき、支持部材のための部材をラチェットに別途設ける必要がなく、簡素な構造を実現できる。
【0010】
少なくとも前記ラチェットの噛合面を露出させた状態で、前記ラチェットと前記ラチェットレバーとを前記樹脂材料によって一体的に覆うとよい。そうすると、上記の支持部材や間隙による樹脂材料の高い保持効果に加えて、さらに、ラチェットとラチェットレバーとの間に形成される各隙間等にも樹脂材料が回りこむため、樹脂材料を一層強固に設けることができ、捲れや剥がれの発生を一層確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ラッチとラチェットとが噛み合う場合に、一方の噛合面の側方に樹脂材料によって形成した緩衝部を設けたことにより、この緩衝部が最初に他方のラッチ又はラチェットの噛合面と当接するため、噛み合い時の当接音を低減することができる。しかも、一方の噛合面を有するラッチ又はラチェットの側方に設けた支持部材の周囲を樹脂材料で覆うと共に、間隙を樹脂材料で埋めているため、該樹脂材料が一層強固に固着・保持され、ラッチとラチェットとの噛合動作が繰り返されたとしても、その捲れや剥がれを生じることが防止され、当接音を長期に渡って低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る車両用ラッチ装置の概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、ラッチがアンラッチ位置にある状態での平面図である。
図3図3は、ラッチがハーフラッチ位置にある状態での平面図である。
図4図4は、ラッチがフルラッチ位置にある状態での平面図である。
図5図5は、ラッチとラチェットとの噛合状態での要部拡大斜視図であり、図5(A)は、ラッチがハーフラッチ位置にある状態での斜視図であり、図5(B)は、ラッチがフルラッチ位置にある状態での斜視図である。
図6図6は、ラチェットを本体ボディ側から見た斜視図である。
図7図7は、ラチェットをカバープレート側から見た斜視図である。
図8図8は、樹脂カバーを省略した状態でラチェットを本体ボディ側から見た斜視図である。
図9図9は、樹脂カバーを省略した状態でラチェットをカバープレート側から見た斜視図である。
図10図10は、ラチェットレバーの斜視図である。
図11図11は、ラチェットの要部拡大斜視図である。
図12図12は、ラチェットの板厚方向に沿う要部拡大断面図であり、図12(A)は、ラッチとラチェットとが噛み合っていない状態での断面図であり、図12(B)は、ラッチとラチェットとが当接し始めた状態での断面図であり、図12(C)は、ラッチとラチェットとが完全に噛み合った状態での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る車両用ラッチ装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用ラッチ装置10の概略構成を示す斜視図である。図2図4は、図1に示す車両用ラッチ装置10におけるストライカSとラッチ26との係合状態、及びそのときのラッチ26とラチェット28との噛合状態を示す平面図であり、図2は、ラッチ26がアンラッチ位置にある状態での平面図であり、図3は、ラッチ26がハーフラッチ位置にある状態での平面図であり、図4は、ラッチ26がフルラッチ位置にある状態での平面図である。
【0015】
図1図4に示すように、本実施形態に係る車両用ラッチ装置10は、四輪自動車等の車両本体(車体)に設けたストライカSに噛合機構LMを係合させることにより、車両本体に対してドアを閉じた状態に維持するものである。
【0016】
車両用ラッチ装置10は、内部に噛合機構LMを収容した平面視略三角形状の本体ボディ16と、本体ボディ16の一面側に形成された開口部を閉塞する蓋体となるカバープレート18とを備える。
【0017】
カバープレート18の略中央部には、ストライカSが進入するためのストライカ進入溝20が設けられ、ストライカ進入溝20を挟む両側にラッチ軸22及びラチェット軸24が設けられる。ラッチ軸22及びラチェット軸24は、それぞれ噛合機構LMを構成するラッチ26及びラチェット28を回動可能に軸支するものであり、本体ボディ16とカバープレート18との間に固定されている。ストライカ進入溝20は、カバープレート18の一端側中央部から奥部に向けて形成された切欠であり、ストライカSが挿通できる幅に形成されている。
【0018】
ラッチ26は、図2図4に示すように、略中央に形成された貫通孔にラッチ軸22が挿通される金属板状の部材であり、第1噛合面34a及び第2噛合面36aを除く外面の大部分が樹脂材料(例えば、合成樹脂)をモールドした樹脂カバー(カバー部材)30によって覆われている。ラッチ26は、内側に向かう切欠である係合溝32と、係合溝32の左側に位置し、ストライカSが当接するストライカ当接部となるハーフラッチ噛合部34と、係合溝32の右側に位置するフルラッチ噛合部36とを有する。ハーフラッチ噛合部34の先端に第1噛合面(ハーフラッチ側噛合面)34aが形成され、フルラッチ噛合部36の先端に第2噛合面(フルラッチ側噛合面)36aが形成されている。
【0019】
ラッチ26は、係合溝32がストライカ進入溝20と交差するようにラッチ軸22の軸心回りに回転する。ラッチ26は、本体ボディ16との間に配置したラッチばね(図示せず)によってラッチ軸22を中心として図2図4の反時計方向へ付勢されている。
【0020】
ラチェット28は、ラッチ26の回転位置を規制するものであり、図2図4に示すように、略中央に形成された貫通孔にラチェット軸24が挿通される金属板状(板片状)の部材であり、噛合面(ラチェット側噛合面)40aを除く外面の大部分が樹脂材料(例えば、合成樹脂)をモールドした樹脂カバー(カバー部材)38によって覆われている(図5図7も参照)。ラチェット28は、ラチェット軸24が挿通される貫通孔の外周から半径方向外方へ延出された噛合部40と、図2において下端に設けられた解除レバー部42と、上方に突出する突出片44とを有する。詳細は後述するが、ラチェット28の側部にはラチェットレバー46が一体的に設けられており(図6及び図7参照)、解除レバー部42はラチェットレバー46の一部に形成されている。
【0021】
ラチェット28は、ラチェット軸24の軸心回りに回転し、本体ボディ16との間に配置したラチェットばね(図示せず)によってラチェット軸24を中心として図2の時計方向へ付勢されている。噛合部40は、ラッチ26のハーフラッチ噛合部34又はフルラッチ噛合部36に噛合することにより、図3及び図4に示すように、ラッチ26の反時計方向の回転を規制する。突出片44は、ラチェット28側の側面に樹脂カバー38の一部を扁平リング状に形成した弾性当接部44aを有し、この弾性当接部44aが図3及び図4に示す噛み合い時にラッチ26と当接するストッパ部として機能する。
【0022】
ここで、噛合機構LMとストライカSとの係合動作について図2図4を参照して説明する。
【0023】
先ず、図2に示すように、係合溝32の開口がカバープレート18に形成したストライカ進入溝20の開口に合致し、係合溝32よりも右側に位置するフルラッチ噛合部36がストライカ進入溝20から退避した状態の場合、ラッチ26は、ストライカSと係合していない。以下、ラッチ26がストライカSと係合していない図2に示す位置にある場合をラッチ26の「アンラッチ位置」という。ラッチ26がアンラッチ位置の場合、当該車両用ラッチ装置10を取り付けたドアは、操作ハンドル等を操作しなくとも開閉することができる。
【0024】
次いで、ドアを閉じると、車両用ラッチ装置10が車両本体に設けたストライカSに係合するように接近する。これにより、ラッチ26は、ストライカSと係合するのに従ってラッチ軸22を中心として時計方向(以下、「係合方向」という)に回転し、図3に示すように、フルラッチ噛合部36がストライカ進入溝20の前端側から奥部側へと漸次移動しながらこれを横切る状態となる。この状態の場合、ラッチ26は、ストライカSと後述するフルラッチ位置手前にて係合しているが、ラチェット28の噛合部40がハーフラッチ噛合部34に噛み合いしているので(図5(A)も参照)、反時計方向(以下、「開放方向」という)への回転が規制される。以下、ラッチ26が図3に示す位置にある場合をラッチ26の「ハーフラッチ位置」という。ラッチ26がハーフラッチ位置の場合、当該車両用ラッチ装置10を取り付けたドアは、操作ハンドル等を操作してラッチ26をアンラッチ位置へ切り換えなければ開くことができない。
【0025】
そして、ラッチ26がハーフラッチ位置から更に時計方向へ回転すると、図4に示すように、フルラッチ噛合部36がストライカ進入溝20の奥部を横切ることによりストライカ進入溝20の開口が閉塞される。この状態の場合、ラッチ26は、ストライカSと完全に係合すると共に、噛合部40がフルラッチ噛合部36に噛み合いしているので(図5(B)も参照)、開放方向への回転が規制される。以下、ラッチ26が図4に示す位置にある場合をラッチ26の「フルラッチ位置」という。ラッチ26がフルラッチ位置の場合、当該車両用ラッチ装置10を取り付けたドアは、操作ハンドル等を操作してラッチ26をアンラッチ位置へ切り換えなければ開くことができない。
【0026】
なお、ラチェット28の解除レバー部42は、図3及び図4においてラチェット28を反時計方向であるラッチ26から離反する方向へ回転させてラッチ26への噛合状態を解除し、ラッチ26をアンラッチ位置へ戻す際の操作部として機能する。つまり、解除レバー部42を操作することにより、図3及び図4に示される噛合機構LMとストライカSとの係合状態(ラッチ26とラチェット28との噛合状態)を解除することができる。
【0027】
次に、ラチェット28のより具体的な構成について説明する。
【0028】
図6は、ラチェット28を本体ボディ16側から見た斜視図であり、図7は、ラチェット28をカバープレート18側から見た斜視図である。図8は、樹脂カバー38を省略した状態でラチェット28を本体ボディ16側から見た斜視図であり、図9は、樹脂カバー38を省略した状態でラチェット28をカバープレート18側から見た斜視図である。図10は、ラチェットレバー46の斜視図である。図11は、ラチェット28の要部拡大斜視図である。図12は、ラチェット28の板厚方向に沿う要部拡大断面図であり、図12(A)は、ラッチ26とラチェット28とが噛み合っていない状態での断面図であり、図12(B)は、ラッチ26とラチェット28とが当接し始めた状態での断面図であり、図12(C)は、ラッチ26とラチェット28とが完全に噛み合った状態での断面図である。
【0029】
ラチェット28は、樹脂カバー38を省略して図示した図8及び図9に示すように、ラチェット軸24が挿通される板厚方向の貫通孔50と、貫通孔50の上部の嵌合孔52とが形成された略矩形状の板状部材である。ラチェット28の上部には突出片44が突設され、この突出片44の根元部分からラチェット28側に向けて僅かに傾斜した端面(上面)が、噛合部40の噛合面40aを形成している。
【0030】
ラチェットレバー(レバーラチェット)46は、図8図10に示すように、ラチェット28の側部に重なるようにして一体的に固定される略L字状の板状部材である。ラチェットレバー46は、ラチェット28に沿う部位(つまり、ラチェット28と平行する部位)に、ラチェット軸24が挿通される板厚方向の貫通孔54と、上縁部を形成する円弧状の端面のラッチ26側から上方へと突出する支持部材(支持部)56と、支持部材56の背面側からラチェット28に対して直交する方向に屈曲して突出した取付片58とが設けられ、ラチェット28に沿う部位の下端を略90°屈曲させた部分に解除レバー部42が設けられている。ラチェットレバー46は、取付片58がラチェット28の嵌合孔52に挿入・嵌合され、貫通孔54にラチェット28の貫通孔50と共にラチェット軸24が挿通されることで、ラチェット28の側部に該ラチェット28と一体的に回動可能に設けられる。
【0031】
支持部材56は、ラチェット28の側面から離間する方向に多少屈曲された後、該ラチェット28の側面と平行するように上方へと延びることにより、その側面とラチェット28の側面との間に谷状の間隙60を形成し、その端面(上面)がラチェット28の噛合面40aより低い位置で該噛合面40aと並んだ支持面(端面)56aを形成している(図12も参照)。
【0032】
図6図7図11及び図12に示すように、樹脂カバー38は、上記のように一体的に設けられるラチェット28及びラチェットレバー46の大部分をまとめて覆うようにモールドされるものであり、少なくともラチェット28の噛合面40a及びその周辺部と解除レバー部42とが、樹脂カバー38で覆われない金属露出部(金属露出面)となっている。ここで、図11及び図12に示すように、樹脂カバー38は、支持部材56の周囲を全て囲繞するようにモールドされることで、支持部材56の支持面56aを覆うように樹脂カバー38の外面(緩衝部)38aが形成され、さらに、間隙60も樹脂カバー38を形成する樹脂材料によって埋め尽くされる。
【0033】
この際、図12に示すように、ラチェット28の噛合面40aよりも低い位置にあった支持部材56の支持面56aの上部に、樹脂カバー38の外面38aがモールドされることで、この外面38aが噛合面40aよりも多少高い位置に設定され、外面38aと噛合面40aとの間には段部62が形成される。また、図12(A)に示すように、ラチェット28の噛合面40aの幅(板厚)t1は、ラッチ26のハーフラッチ噛合部34及びフルラッチ噛合部36に形成された第1噛合面34a及び第2噛合面36aの幅(板厚)t2よりも狭幅に設定されている。本実施形態の場合、ラッチ26の第1噛合面34a及び第2噛合面36aは、ラチェット28の噛合面40aの板厚方向一方側縁部近傍から、間隙60を越えて支持部材56の支持面56aの略中央部まで渡る幅t2に設定されている。
【0034】
従って、噛合機構LMにおいて、ラッチ26の第1噛合面34a又は第2噛合面36aとラチェット28の噛合面40aとが噛み合う場合(図3及び図4参照)、図12(A)に示すように、第1噛合面34aと噛合面40aとが近づくと、先ず、図12(B)に示すように、第1噛合面34aが支持面56a上に設けられた樹脂カバー38の外面38aに当接する(図12(B)参照)。さらに、噛合動作が進行すると、第1噛合面34aが外面38aを押し潰して第1噛合面34aが噛合面40aに当接し、金属同士の強固な噛合状態となり、これによりラッチ26とラチェット28とが噛合状態となる。
【0035】
すなわち、ラッチ26の第1噛合面34a(第2噛合面36a)は、先ず、樹脂材料である樹脂カバー38の外面38aに当接した後、この外面38aを押し潰してからラチェット28の噛合面40aと当接して噛み合うため、該樹脂カバー38(外面38a)がラッチ26とラチェット28の当接時の緩衝部として機能し、ラッチ26とラチェット28の噛み合い時の衝撃が吸収され、当接音が低減される。
【0036】
以上のように、本実施形態に係る車両用ラッチ装置10によれば、ラチェット28の噛合面40aをラッチ26の第1噛合面34a及び第2噛合面36aよりも狭幅に形成し、ラチェット28の側方に、該ラチェット28の側面との間に間隙60を設けて支持部材56を配置すると共に、該支持部材56の端面である支持面56aを噛合面40aよりも低い位置に設け、しかも、支持面56aを含む支持部材56の全周囲を樹脂カバー38の樹脂材料によって覆うと共に、間隙60を樹脂カバー38の樹脂材料によって埋め、さらに支持面56aを覆う樹脂材料の外面38aを噛合面40aより高い位置に設けることで、該外面38aをラチェット28の第1噛合面34a及び第2噛合面36aに当接可能な緩衝部として形成している。
【0037】
従って、ラッチ26とラチェット28とが噛み合う場合に、緩衝部である樹脂カバー38の外面38aが、最初にラッチ26の第1噛合面34a(第2噛合面36a)と当接するため、噛み合い時の当接音を低減することができる。この際、ラチェット28の側方に設けた支持部材56の周囲を樹脂カバー38で覆うと共に、間隙60に樹脂カバー38の樹脂材料を埋め込んでいるため、樹脂カバー38はラチェット28に対して強固に固着され、ラッチ26とラチェット28との噛合動作が繰り返されたとしても、その捲れや剥がれを生じることが防止され、当接音を長期に渡って低減できる。しかも、緩衝部となる樹脂カバー38の外面38aの内側には、ラチェット28の噛合面40aよりも1段低い支持部材56の支持面56aが設けられているため、ラッチ26によって樹脂材料(外面38a)が過剰に撓むことが防止され、樹脂カバー38の剥がれを一層確実に防止できる。
【0038】
当該車両用ラッチ装置10では、支持部材56をラチェットレバー46の一部として構成したため、支持部材56のための部材をラチェット28に別途固定する必要がなく、簡素な構造を実現できる。なお、支持部材56はラチェット28の一部として構成してもよく、この場合には、例えば、ラチェット28の噛合面40aの幅t1(図12(A)参照)を確保した状態で、この噛合面40aの側方に板厚を増やし、この板厚の増加部分を切削等することで、支持部材56と同様に構成するとよい。
【0039】
当該車両用ラッチ装置10では、少なくともラチェット28の噛合面40aを露出させた状態で、ラチェット28とラチェットレバー46とを樹脂カバー38によって一体的に覆っている。このため、樹脂カバー38は、上記の支持部材56や間隙60による高い保持効果に加えて、さらに、ラチェット28とラチェットレバー46との間に形成される各隙間等にも樹脂材料が回りこむため、樹脂カバー38を一層強固に設けることができ、捲れや剥がれの発生を一層確実に防止することができる。本実施形態の場合、樹脂カバー38として、ラチェット28及びラチェットレバー46の大部分を覆うものを例示したが、樹脂カバー36は、少なくとも支持部材56の周囲を覆い、緩衝部としての機能を発揮できるものであればよい。
【0040】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、互いに噛み合うラッチ26とラチェット28のうち、ラチェット28の噛合面40a側に支持部材56を設け、樹脂カバー38の外面38aを当接時の緩衝部として形成した構成を例示したが、ラッチ26側に支持部材を略同様に設けても勿論よい。ただし、この場合には、ラッチ26のハーフラッチ噛合部34及びフルラッチ噛合部36の両方に支持部材を設ける必要があるため、上記実施形態の構成例に比べて構造がやや複雑化することになる。なお、ラッチ26とラチェット28とは、互いに噛合状態となることができ且つその噛合状態を解除可能なものであれば、その形状や構成は適宜変更可能であることは勿論である。
【0042】
上記実施形態では、ラチェット28(又はラッチ26)の一側部にのみ支持部材56を設けた構成を例示したが、支持部材56をラチェット28(又はラッチ26)の両側部に設け、そこに樹脂カバー38をモールドした構成としてもよく、この場合には、ラッチ26の第1噛合面34aや第2噛合面36aを両側部の樹脂カバー38の外面38aに当接可能な幅に構成するとよい。
【符号の説明】
【0043】
10 車両用ラッチ装置
26 ラッチ
28 ラチェット
30、38 樹脂カバー
34 ハーフラッチ噛合部
34a 第1噛合面
36 フルラッチ噛合部
36a 第2噛合面
38a 外面
40 噛合部
40a 噛合面
46 ラチェットレバー
56 支持部材
56a 支持面
58 取付片
60 間隙
62 段部
LM 噛合機構
S ストライカ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12