特許第5919605号(P5919605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919605
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】スカム除去装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/40 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   C02F1/40 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-969(P2012-969)
(22)【出願日】2012年1月6日
(65)【公開番号】特開2013-139014(P2013-139014A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(72)【発明者】
【氏名】増田 智也
(72)【発明者】
【氏名】米山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 修史
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−283814(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3018158(JP,U)
【文献】 特開2001−259629(JP,A)
【文献】 特開2006−095362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/40
B01D 21/18
B01D 21/24
E02B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿池の水面に浮かぶスカムが混入したスカム混入水が流入するトラフ、
前記トラフに流入しようとするスカム混入水を上端部分が前記水面よりも上になる所定の堰止め位置で堰止め該トラフにスカム混入水が流入することを阻止する堰部材を有する堰止め機構、および
前記堰部材を、前記上端部分が前記水面から所定長もぐった流入許容位置から前記堰止め位置まで、前記堰止め機構に当接することで引き上げる引上手段を備え、
前記堰部材は、前記引上手段によって前記堰止め位置まで引き上げられた後、自身に生じる浮力と前記堰止め機構全体の自重とのバランスによって該流入許容位置に復帰しようとするものであり、該堰止め機構が該引上手段と離れた状態で該バランスによって該流入許容位置に留まることが可能なものであり、
前記引上手段は、前記堰部材が前記堰止め位置にある堰止め状態から、該堰部材が前記流入許容位置にある流入許容状態を経て前記堰止め状態に再び戻るまでの間、前記堰止め状態で前記堰止め機構に当接する部分が、前記水面よりも上に位置するものであり、
前記堰止め機構は、前記堰止め状態から、前記流入許容状態を経て前記堰止め状態に再び戻るまでの間、前記堰止め状態で前記引上手段が当接する部分が、前記水面よりも上に位置するものであることを特徴とするスカム除去装置。
【請求項2】
前記引上手段は、支点と重りを有し、
前記堰部材は、前記支点を基準にして前記重りとは反対側に配置されたものであり、
前記反対側には重量が変化する重量変化部材を備え、
前記引上手段は、前記重量変化部材側の回転モーメントよりも前記重り側の回転モーメントが大きくなると前記堰部材を引き上げるものであることを特徴とする請求項1記載のスカム除去装置。
【請求項3】
前記堰部材は、前記重り側の回転モーメントよりも前記重量変化部材側の回転モーメントが大きくなると、前記流入許容位置へ向けて復帰を開始することが可能なものであって、
前記堰止め機構は、前記堰部材が前記堰止め位置に留まっていると、前記重量変化部材側の回転モーメントによって前記引上手段が当接し前記流入許容位置側へ向けて押される押受部を有することを特徴とする請求項2に記載のスカム除去装置。
【請求項4】
前記堰止め機構は、前記堰部材に生じる浮力およびこの堰止め機構全体の自重の少なくとも一方を調整可能なものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載のスカム除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈殿池の水面に浮かぶスカムを除去するスカム除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理施設に設けられる沈殿池の水面には、浄化処理の妨げになるスカムが浮遊している。このため、このスカムを除去するスカム除去装置が沈殿池に設けられる場合がある。沈殿池の外部まで延在したトラフを備えたスカム除去装置では、スカムが混入したスカム混入水を、そのトラフから沈殿池の外部まで流し出すことで、沈殿池からスカムを除去する。このようなスカム除去装置には、スカム混入水のトラフへの流入を阻止したり許容するための堰部材が設けられたものがある。堰部材は、その上端部分が水面より上になる堰止め位置でスカム混入水を堰止める。そして、所定のタイミングで、堰部材は堰止め位置からその上端部分が水中にもぐった流入許容位置まで移動する。堰部材が流入許容位置まで移動すると、スカム混入水が堰部材の上端部分を乗り越えてトラフに流入する。このトラフに流入したスカム混入水は、トラフを通って沈殿池の外部に流された後、ポンプによって汲み上げられ、スカム混入水中のスカムを取り除く所定の処理が行われる。
【0003】
ところで、堰部材を流入許容位置に固定した場合には、沈殿池の水位は一定ではなく変動するため、トラフに流入するスカム混入水の量が変動してしまう。トラフに流入するスカム混入水の量があまりに多いと、このスカム混入水を汲み上げるポンプの駆動負担やスカムを取り除く処理等の負担が大きくなってしまう。一方、トラフに流入するスカム混入水の量が少なすぎると、スカムの除去が不十分であることになる。このため、トラフに流入するスカム混入水の量を一定にすることが望まれる。従来では、堰部材を水位に追従させ、沈殿池の水位の変動にかかわらずトラフに流入するスカム混入水の量を一定にしようと試みたスカム除去装置が提案されている。このようなスカム除去装置として、たとえば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0004】
特許文献1に記載されたスカム除去装置は、下端部分がトラフに回転自在に取り付けられた堰部材と、この堰部材に連結された上下方向に延びたロッド部材と、このロッド部材に係合して、ロッド部材を引き下げる作動アームとを備えている。堰部材は、自身の浮力によって水位に追従し、その上端部が水面から所定距離上方になる堰止め位置に留まるように構成されている。作動アームは、所定のタイミングにおいて所定角度回転して、ロッド部材を所定距離引き下げるものである。この作動アームがロッド部材を引き下げることで、ロッド部材が連結された堰部材は、その上端部が水中にもぐった流入許容位置になる。このスカム除去装置では、作動アームがロッド部材を所定距離引き下げることで、流入許容位置における堰部材の上端部と水面との距離を一定にし、堰部材の上端部を乗り越えてトラフに流入するスカム混入水の量の均一化を実現しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−294902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の堰部材は、沈殿池の水位によって、堰止め位置における傾き角度が異なり、所定距離引き下げられたとしても、流入許容位置における傾き角度も異なってしまう。この流入許容位置における堰部材の傾き角度の違いにより、流入許容位置における堰部材の上端部と水面との距離が一定にならず、トラフへ流入するスカム混入水の量も変わってしまうという問題が生じる。また、堰部材を引き下げるために作動アームとロッド部材の係合等の複雑な構造を用いているため、この機構の動作精度などによって、流入許容位置における堰部材の上端部分から水面までの距離がばらつきやすいという問題もある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、トラフに流入するスカム混入水の量を一定にすることができるスカム除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する本発明のスカム除去装置は、沈殿池の水面に浮かぶスカムが混入したスカム混入水が流入するトラフ、
前記トラフに流入しようとするスカム混入水を上端部分が前記水面よりも上になる所定の堰止め位置で堰止め該トラフにスカム混入水が流入することを阻止する堰部材を有する堰止め機構、および
前記堰部材を、前記上端部分が前記水面から所定長もぐった流入許容位置から前記堰止め位置まで、前記堰止め機構に当接することで引き上げる引上手段を備え、
前記堰部材は、前記引上手段によって前記堰止め位置まで引き上げられた後、自身に生じる浮力と前記堰止め機構全体の自重とのバランスによって該流入許容位置に復帰しようとするものであり、該堰止め機構が該引上手段と離れた状態で該バランスによって該流入許容位置に留まることが可能なものであり、
前記引上手段は、前記堰部材が前記堰止め位置にある堰止め状態から、該堰部材が前記流入許容位置にある流入許容状態を経て前記堰止め状態に再び戻るまでの間、前記堰止め状態で前記堰止め機構に当接する部分が、前記水面よりも上に位置するものであり、
前記堰止め機構は、前記堰止め状態から、前記流入許容状態を経て前記堰止め状態に再び戻るまでの間、前記堰止め状態で前記引上手段が当接する部分が、前記水面よりも上に位置するものであることを特徴とする。
【0009】
本発明のスカム除去装置によれば、堰部材は、引上手段によって堰止め位置まで引き上げられた後、自身に生じる浮力と堰止め機構全体の自重とのバランスによって流入許容位置に復帰しようとするものであり、堰止め機構が引上手段と離れた状態で該バランスによって該流入許容位置に留まることが可能なため、水位が変動しても流入許容位置における水面から堰部材の上端部分までの距離が一定になり、トラフに流入するスカム混入水の量を一定にすることができる。また、堰部材を流入許容位置に留めるために複雑な機構等が不要になり、動作精度の影響による堰部材の流入許容位置のばらつきも生じ難い。
【0010】
ここにいう自身に生じる浮力とは、堰部材自身の浮力であってもよいし、堰部材に浮力を与える浮力付与部材によって発生した浮力であってもよい。
【0011】
本発明のスカム除去装置において、前記引上手段は、支点と重りを有し、
前記堰部材は、前記支点を基準にして前記重りとは反対側に配置されたものであり、
前記反対側には重量が変化する重量変化部材を備え、
前記引上手段は、前記重量変化部材側の回転モーメントよりも前記重り側の回転モーメントが大きくなると前記堰部材を引き上げるものであることが好ましい。
【0012】
重量変化部材側の回転モーメントよりも重り側の回転モーメントが大きくなると堰部材を引き上げる構成とすることで、堰部材の引き上げに電動の部材が不要になり、エネルギー消費を抑えることができる。また、専用の電気設備等も不要になる。
【0013】
また、本発明のスカム除去装置において、前記堰部材は、前記重り側の回転モーメントよりも前記重量変化部材側の回転モーメントが大きくなると、前記流入許容位置へ向けて復帰を開始することが可能なものであって、
前記堰止め機構は、前記堰部材が前記堰止め位置に留まっていると、前記流入許容位置側へ向けて前記重量変化部材側の回転モーメントによって前記引上手段が当接し前記流入許容位置側へ向けて押される押受部を有するものであってもよい。
【0014】
例えば、水面に浮遊するスカム等が邪魔して堰部材が流入許容位置へ向けて復帰を開始しない場合でも、押受部が重量変化部材側の回転モーメントによって押されることで、堰部材が流入許容位置へ移動しやすくなる。
【0015】
さらに、本発明のスカム除去装置において、前記堰止め機構は、前記堰部材に生じる浮力およびこの堰止め機構全体の自重の少なくとも一方を調整可能なものであってもよい。
【0016】
堰部材に生じる浮力や堰止め機構全体の自重を調整することで、堰部材の流入許容位置を変えてトラフへ流入するスカム混入水の量を調整することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスカム除去装置によれば、トラフに流入するスカム混入水の量を一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態であるスカム除去装置が設置された沈殿池の一例を示す断面図である。
図2図1のA部に示すスカム除去装置を拡大して示したA部拡大図である。
図3図2に示すスカム除去装置の平面図である。
図4図2に示すスカム除去装置の拡大断面図である。
図5図2に示すスカム除去装置の堰部材が、堰止め位置に留まっている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態であるスカム除去装置1が設置された沈殿池9の一例を示す断面図である。
【0021】
以下、図1における左方向を上流側と称し、図1における右方向を下流側と称することがある。また、図1における紙面と直交する方向を池幅方向と称することがある。
【0022】
図1に示す沈殿池9は、一対の側壁9aと、上流壁9bと、下流壁9cによって囲まれている。この沈殿池9は、平面視で略長方形状をした池である。沈殿池9は、図1において上流側から沈殿池9に流入した水に含まれる汚泥やスカムを取り除くためのものである。汚泥とスカムが取り除かれた水は、図1において下流側に配置された排水樋94を通って図示しない排水路に流れ、沈殿池9の外部に排水される。
【0023】
この沈殿池9には、スカム除去装置1と、汚泥掻寄機93と、排水樋94と、汚泥ピット95が設けられている。汚泥掻寄機93は、沈殿池9の池幅方向両端部に設けられ、沈殿池9内を循環運動する一対のチェーン931と、その一対のチェーン931の間に掛け渡された複数のフライト板932と、各チェーン931毎に4つ配置されたスプロケット933を備えている。スプロケット933のうちの一つは、図示しないモータによって図1において時計回りに回転駆動されている。チェーン931は、スプロケット933の回転に伴って図1において時計回りに回転している。フライト板932も、チェーン931とともに図1において時計回りに回転している。沈殿池9の池底部に沈殿した汚泥は、沈殿池9の池底部近傍において沈殿池9の上流方向に移動しているフライト板932によって汚泥ピット95に掻き寄せられる。汚泥ピット95に掻き寄せられた汚泥は、図示しない汚泥ポンプによって沈殿池9の外部に排出される。また、沈殿池9の水面Wの近傍で、沈殿池9の下流側に移動しているフライト板932は、上端部が水面から突出し、下端部が水中に没している。沈殿池9の水面Wに浮かんだスカムは、沈殿池9の水面W近傍にあるフライト板932によって後述する堰部材31に向けて移送される。
【0024】
図2は、図1のA部に示すスカム除去装置を拡大して示したA部拡大図である。また、図3は、図2に示すスカム除去装置の平面図である。
【0025】
図2に示すように、スカム除去装置1は、堰部材31を有する堰止め機構3と、トラフ5と、堰部材31を引き上げる引上手段としての引上機構7を備えている。この図2では、堰止め位置にある堰部材31を実線で示し、そのときの引上機構7も実線で示している。一方、流入許容位置にある堰部材31を二点鎖線で示し、そのときの引上機構7も二点鎖線で示している。
【0026】
トラフ5は、上流側側板5aと、下流側側板5bと、上流側側板5aと下流側側板5bを繋ぐ底板5cを備えている。また、図3に示すように、トラフ5は、池幅方向の左側端部に池幅方向側側板5dを備え、トラフ5の池幅方向の右側端部は開放されてトラフ5に流入したスカム混入水を沈殿池の外部に設けられた図示しないスカムピットに流す流路52が設けられている。なお、図2に示す上流側側板5aは、その上端部分が上流側に傾斜している。図3に示すトラフ5は、沈殿池9の池幅方向に延在しており、その池幅方向両端部が一対の取付部材51によって沈殿池9の側壁9aにそれぞれ固定されている。トラフ5の底板5cは、図示しないスカムピットに向かってほんの少し下方に傾斜している。
【0027】
図2および図3に示すように、堰止め機構3は、堰部材31と、堰部材31とトラフ5を接続する接続部材32と、フロート33と、堰部材31に取り付けられたアーム部材34と、アーム部材34に回転自在に連結されたロッド部材35を備えている。
【0028】
接続部材32は、シール部材321と、側板322と、ヒンジ323を有する。また、シール部材321は、底面部分321aと、その底面部分321aの池幅方向両端部に設けられた一対の側面部分321bを備えている。なお、図2では紙面と直交する方向が池幅方向になる。シール部材321の底面部分321aにおける下流側の端部は、接合部分から水が進入できないようにトラフ5の上流側側板5aにおける上流側に傾斜した部分に接着されている。また、シール部材321の側面部分321bにおける下流側の端部は、接着部分から水が進入できないようにトラフ5に接着されている。このシール部材321は、ゴム製のシート材で構成されている。なお、シール部材321を構成する部材は、軟性を有するシート材であればよく、たとえばビニル樹脂製のシート材であってもよい。
【0029】
堰部材31は、金属製の板材で形成され、図2において、下流側の斜め下方が開放した略コの字形状をしたコ字状部分31bと、そのコ字状部分31bから下流側に突出した平板部分31cを備えている。コ字状部分31bの下流側の角部が堰部材31の上端部分31aになる。また、堰部材31の池幅方向両端部は、一対の金属製の側板322に溶接によって接合されている。なお、堰部材31と側板322を、たとえば一枚の金属板を曲げ加工することで一体に形成してもよい。
【0030】
シール部材321の側面部分321bにおける上流側の端部は、接着部分から水が進入できないように側板322に接着されている。また、シール部材321の底面部分321aにおける上流側の端部は、接続部分から水が進入できないように堰部材31の平板部分31cに接着されている。堰部材31の平板部分31cは、ヒンジ323によって回転自在にトラフ5に取り付けられている。このヒンジ323は、シール部材321の底面部分321aを挟み込むように、堰部材31の平板部分31cとトラフ5の上流側側板5aに図示しないボルトで固定されている。なお、ヒンジ323は、図3に示すように、池幅方向に所定間隔をあけて複数(図3では4つ)設けられている。また、シール部材321の側面部分321bは、堰部材31の回転動作を妨げないように外側に円弧状に張り出している。なお、この側面部分321bをジャバラ状に折りたたむ構成としてもよい。
【0031】
側板322の池幅方向における外側の面には、浮力付与部材としての角柱形状のフロート33がそれぞれ取り付けられている。このフロート33は、例えば、発泡スチロールで構成され、堰部材31に浮力を付与するものである。本実施形態では、堰部材31は、外部からの力が付与されなければ、このフロート33による浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスによって、堰部材31の上端部分31aが水面Wから所定長もぐった流入許容位置に留まるように設計されている。すなわち、堰部材31の機能からみると、堰止め位置が堰部材31のホームポジションになるが、堰部材31の浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスからみると、流入許容位置が、外部から力が付与されない場合の堰部材31のホームポジションに相当する。堰部材31は、外部からの力に抗して流入許容位置に戻ろうとするものである。
【0032】
堰部材31の平板部分31cにおける上流側の面には、金属製のアーム部材34が取り付けられている。アーム部材34は、堰部材31の平板部分312における上流側の面に固定された当板341と、この当板341の池幅方向(図2では紙面と直交する方向)に併設され上流側に延びた一対のアーム本体342を有する。一対のアーム本体342の上流側には、それぞれ孔部342aが形成されている。なお、図2では、紙面手前側に位置するアーム本体342が示されている。また、堰部材31のコ字状部分31bにおける一対のアーム本体342と干渉する箇所には、アーム本体342がはまり込むための図示しない切り欠きが形成されている。
【0033】
アーム部材34には、回転自在に金属製のロッド部材35が連結されている。ロッド部材35は、一対のアーム本体342の孔部342aに回転自在に通された軸部351と、この軸部351に取り付けられ上下方向に延びたロッド本体352を備えている。このロッド本体352にはネジ切り加工が施されており、ロッド本体352の上側部分には、ボルトからなる引当部353が取り付けられ、ロッド本体352のやや下側部分にボルトからなる押受部354が取り付けられている。なお、引当部353と押受部354のロッド本体352における上下方向の位置は、調整することができる。
【0034】
図3に示すように、ロッド部材35は、スカム除去装置1の池幅方向における左側に配置されている。なお、このロッド部材35には、回転自在にアーム部材34が連結されているが、図3では省略している。
【0035】
引上機構7は、支点部材71と、天秤部材72と、引上アーム73と、ストッパ部材74を備えている。
【0036】
図2に示す支点部材71は、軸部711と、この軸部711に一体化された、断面が正方形状のフレーム712を備えている。図3に示す支点部材71は池幅方向に延び、軸部711の池幅方向両端部が、トラフ5の池幅方向両側に立設された図示しない一対の支持部材に回転自在に取り付けられている。これにより、支点部材71が、トラフ5から所定距離上方に回転自在に支持されている。この支点部材71の軸部711の中心が支点になる。
【0037】
図3に示す天秤部材72は、金属製の角パイプで構成された2本の天秤アーム721と、2つの重り722と、金属製の貯水タンク723を備えている。天秤アーム721は、上流側から下流側に向かう方向に沿って配置され、下流側部721aと、上流側部721bを有する。図2に示す上流側部721bは、下流側部721aに対して、上方に傾斜するように折曲して形成されている。また、図3に示すように、2本の天秤アーム721は、スカム除去装置1の池幅方向中央から左右外側に向かって、それぞれ所定距離離れた位置に配置されている。天秤アーム721は、その下流側部721aの下面が支点部材71のフレーム712に溶接により固定され、支点部材71が回転することで天秤アーム721も回転する。また、天秤アーム721には、下流側部721aにおける下流側よりに重り722が取り付けられている。図3に示す貯水タンク723は、2本の天秤アーム721に掛け渡され、図2に示す貯水タンク723は、上流側部721bの下面に溶接されて固定されている。図3に示す貯水タンク723には、その上面における池幅方向中央に、注水口723aが設けられている。この注水口723aは、電動弁を備えた図示しない配管が接続され、この配管から下水処理場で処理を施した水が供給される。貯水タンク723は、図示しない小孔が下部に設けられている。この小孔は、貯水タンク723内の水を少量づつ排出するためのものである。このため、貯水タンク723は配管からの水の供給や小孔からの水の排出によって内部に貯まる水の量が変わり、これによって貯水タンク723の重量が変化する。すなわち、貯水タンク723は、重量変化部材に相当する。
【0038】
図3に示すように、引上アーム73は、スカム除去装置1の池幅方向における左側に設けられている。引上アーム73は、金属製の角パイプで構成された基部731と、この基部731の上流側に形成された金属製の挿通部732を備えている。なお、図2では、基部731の大部分が天秤アーム721の下流側部721aに隠れており、基部731の下流側端部731aを点線で示している。図3に示すように、挿通部732は、上流側が開放した平面視コ字形状に形成されている。また、図2に示すように、挿通部732の内側にロッド部材35のロッド本体352が挿通されている。なお、挿通部732を、平面視コ字形状の部材の代わりに、上下方向に貫通する長孔を有する部材で構成し、この長孔にロッド部材35のロッド本体352を挿通させてもよい。また、図2に示す引上アーム73は、その基部731の下面が支点部材71のフレーム712に溶接により固定され、支点部材71が回転することで天秤アーム721とともに引上アーム73も回転する。図2では、ロッド部材35の引当部353の下面が、挿通部732の上面に当接しており、ロッド部材35が所定高さに支持されている。これにより、ロッド部材35に連結されたアーム部材34を介して堰部材31が引き上げられた状態が維持され、堰部材31の上端部分31aが水面より上になっている。すなわち、堰部材31は、トラフ5に流入しようとするスカム混入水を堰止める堰止め位置になっている。
【0039】
ストッパ部材74は、図2に示す取付部741と、上側ストッパ742と、下側ストッパ743と、図3に示す支持部744を備えている。図3に示す支持部744は一端がトラフ5に固定され、他端が引上アーム73近傍まで池幅方向に延びている。この支持部744の他端に図2に示す取付部741が固定されている。図2に示す取付部741の上側には上側取付片741aが形成され、取付部741の下側には下側取付片741bが形成されている。この上側取付片741aと下側取付片741bは、引上アーム73側(図2では紙面手前側)に突出し、上側取付片741aに上側ストッパ742が取り付けられ、下側取付片741bに下側ストッパ743が取り付けられている。これらの上側ストッパ742と下側ストッパ743の間に引上アーム73が位置している。上側ストッパ742と下側ストッパ743は、ボルトとナットを備え、上下方向の位置が調整自在である。なお、図2では、下側ストッパ743は、その上端部743aが、支点部材71のフレーム712の上面と同じ高さになるように設定されている。図2では、引上アーム73の基部731が、下側ストッパ743の上端部743aに当接している。このため、引上機構7は支点部材71を支点にこれ以上時計回りに回転せず、図2に示すように、基部731が水平姿勢を保っている。なお、引上アーム73が支点部材71を支点に反時計回りに回転すると、引上アーム73の基部731が上側ストッパ742の下端部742aに当接し、引上機構7はそれ以上反時計回りに回転しない(図2に示す二点鎖線の引上機構7参照)。
【0040】
続いて、図2を用いて、堰部材31が、堰止め位置から堰部材31の上端部分31aが水面Wから所定長もぐった流入許容位置へ移動し、再び、堰止め位置に戻る動作について説明する。
【0041】
上述のごとく、図2では、堰部材31が堰止め位置になる状態の、堰止め機構3と引上機構7を実線で示している。この状態では、支点部材71を基準にして、引上機構7には貯水タンク723側の回転モーメントよりも大きな回転モーメントが重り722側に生じている。以下、支点部材71を基準にして、引上機構7の貯水タンク723側に生じる回転モーメントを貯水タンク側回転モーメントと称し、引上機構7の重り722側に生じる回転モーメントを重り側回転モーメントと称する。本実施形態では、貯水タンク側回転モーメントは、主として、堰部材31、側板322、アーム部材34、ロッド部材35、貯水タンク723、および天秤アーム721と引上アーム73における支点部材71よりも上流側の部分の重量によって生じる回転モーメントから、フロート33によって生じる浮力を除いた力である。一方、重り側回転モーメントは、重り722、および天秤アーム721と引上アーム73における支点部材71よりも下流側の部分の重量によって生じる回転モーメントになる。重り722の重量は、貯水タンク723内に水がない状態から所定量の水が貯まるまでの間において、貯水タンク側回転モーメントよりも重り側回転モーメントの方が大きくなるように設定されている。堰部材31が堰止め位置になる状態では、貯水タンク723に水が供給されていないか、或いは貯水タンク723内の水の量が、重り側回転モーメントよりも貯水タンク側回転モーメントの方が大きくなる上述した所定量未満である。このため、引上機構7に支点部材71を支点として時計回りの回転モーメントが生じ、引上アーム73の基部731の下面がストッパ部材74における下側ストッパ743の上端部743aに当接した状態で引上機構7の反時計回りの回転は停止する。引上アーム73は略水平な姿勢になる。また、ロッド部材35の引当部353の下面が引上アーム73の挿通部732の上面に当接している。これにより、ロッド部材35が引上アーム73に支持され、ロッド部材35の下端に連結したアーム部材34とともに堰部材31が引き上げられた状態になり、堰部材31の上端部分31aが水面Wよりも上になった堰止め位置になる。
【0042】
図示しない配管から貯水タンク723の注水口723aに水の供給を開始すると、貯水タンク723内の水の量が増加し、貯水タンク723の重量が増すことで、貯水タンク側回転モーメントも大きくなる。なお、図示しない配管から貯水タンク723に供給する単位時間当たりの水の量を、貯水タンク723の図示しない小孔から排出される単位時間当たりの水の量よりも多くしている。したがって、貯水タンク723内の単位時間当たりに増加する水の量は、貯水タンク723に供給する単位時間当たりの水の量から、貯水タンク723の図示しない小孔から排出される単位時間当たりの水の量を除いた量になる。貯水タンク723に水の供給を続け、貯水タンク側回転モーメントが重り側回転モーメントを上回ると、引上機構7には支点部材71を支点として反時計回りの回転モーメントが生じ、引上機構7は反時計回りに回転を開始する。この引上機構7の回転に伴いロッド部材35とアーム部材34が徐々に下がり、堰部材31もヒンジ323を軸に反時計回りに回転して堰部材31の上端部分31aも徐々に下がる。さらに貯水タンク723に水の供給を続けると、引上機構7はさらに反時計回りに回転する。一方、堰部材31は、フロート33とともに水中にもぐるに従いフロート33によって堰部材31に生じる浮力が徐々に大きくなる。やがてロッド部材35の引当部353と引上アーム73の挿通部732の上面が離れて、堰部材31は、二点鎖線で示すように、フロート33によって生じる浮力と堰止め機構3全体の重量とのバランスによって、堰部材31の上端部分31aが水面Wから所定長もぐった流入許容位置に達する。なお、ロッド部材35の引当部353と、引上アーム73の挿通部732の上面が離れた状態では、貯水タンク側回転モーメントは、貯水タンク723、および天秤アーム721と引上アーム73における支点部材71よりも上流側の部分の重量によって生じる。また、堰部材31の上端部分31aが水面Wからもぐった所定長は、例えば、30mmに設定されている。堰部材31が流入許容位置に留まっている状態では、堰部材31の上端部分31aを乗り越えたスカム混入水がトラフ5に流入し、このスカム混入水はトラフ5から図示しないスカムピットに流された後、ポンプによって汲み上げられ、スカムを取り除く所定の処理がなされる。
【0043】
さらに貯水タンク723への水の供給を続けると、引上機構7はさらに反時計回りに回転し、二点鎖線で示すように、引上アーム73の基部731の上面がストッパ部材74における上側ストッパ742の下端部742aに当接し、引上機構7の反時計回りの回転は停止する。
【0044】
貯水タンク723への水の供給を停止し貯水タンク723の図示しない小孔からの水の排出だけが行われると、貯水タンク723内の水が減少して徐々に貯水タンク側回転モーメントも減少する。貯水タンク側回転モーメントより重り側回転モーメントの方が大きくなると、引上機構7は時計回りの回転を開始し、引上アーム73の挿通部732の上面がロッド部材35の引当部353に当接する。さらに貯水タンク723内の水の量が減少し、重り側回転モーメントが大きくなると、引上機構7は時計回りに回転し、ロッド部材35とアーム部材34とともに堰部材31を引き上げる。なお、引上アーム73の挿通部732の上面がロッド部材35の引当部353に当接した後、引上機構7が時計回りに回転するときには、堰止め機構3全体の重量からフロート33によって生じる浮力を除いた力が貯水タンク側回転モーメントに加わる。引上機構7は、引上アーム73の基部731の下面がストッパ部材74における下側ストッパ743の上端部743aに当接するまで時計回りに回転する。これにより、堰部材31はヒンジ323を軸に時計回りに回転し、堰部材31の上端部分31aが水面Wよりも上に浮上して堰止め位置になり、トラフ5内へのスカム混入水の流入が阻止される。なお、この堰部材31が、堰止め位置から流入許容位置へ移動し、再び堰止め位置に戻る一連の動作は、貯水タンク723に水を供給する図示しない配管の電磁弁を制御することで、例えば、1回5分程度、一日数回実施される。
【0045】
次に、図4を用いて水位が異なる場合における堰部材の流入許容位置を説明する。図4は、図2に示すスカム除去装置の拡大断面図である。なお、図4では引上機構7を省略しているが、ロッド部材35の引当部353と引上アーム73の挿通部732の上面が離れて、堰部材31が、自身に生じる浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスによって流入許容位置に留まっている状態を示している。図4では、平均的な水位である水面W1の場合の堰止め機構3を実線で示している。また、水面W1よりも水位が高くなった水面W2の場合には、堰部材31、シール部材321の底面部分321a、ヒンジ323のみを一点鎖線で示している。さらに、水面W1よりも水位が低くなった水面W3の場合には、堰部材31、シール部材321の底面部分321a、ヒンジ323のみを二点鎖線で示している。
【0046】
堰部材31が流入許容位置の場合は、フロート33によって堰部材31に浮力が生じると同時に、堰部材31に堰止め機構3全体の自重、本実施形態では主として、堰部材31、側板322、アーム部材34、およびロッド部材35の重量がかかる。この堰部材31に生じる浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスによって、堰部材31は、その上端部分31aが水面W1から所定長D1もぐった流入許容位置に留まる。この所定長D1は、例えば30mmになるように、堰部材31に生じる浮力と堰止め機構3全体の自重が調整される。
【0047】
また、沈殿池9の水位が上昇して水面W2となった場合は、堰部材31は、ヒンジ323を軸に時計回りに回転して、その上端部分31aが水面W2から所定長D2もぐった流入許容位置に留まる。さらに、沈殿池9の水位が下がって水面W3となった場合は、堰部材31は、ヒンジ323を軸に反時計回りに回転して、その上端部分31aが水面W3から所定長D3もぐった流入許容位置に留まる。
【0048】
水位がW1〜W3のように変動しても、堰部材31自身に生じる浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスによって所定長D1〜D3は同一になる。すなわち、流入許容位置は、堰部材31の上端部分31aが水面Wから所定長D1〜D3もぐった位置に相当する。したがって、水位が変動してもトラフ5に流入するスカム混入水の量を一定にすることができる。さらに、堰部材31は、自身に生じる浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスによって流入許容位置に留まることができるため、流入許容位置に留まらせるための複雑な機構等が不要になり、堰部材31の流入許容位置のばらつきも生じ難い。
【0049】
また、フロート33を、浮力の異なる他のフロートに取り替えて堰部材31に生じる浮力を調整することで、所定長D1〜D3の距離を変えてトラフ5へ流入するスカム混入水の量を調整することができる。さらに、ロッド部材35や堰部材31に重りを取り付けたり、ロッド部材35やアーム部材34等を重量の異なる他のロッド部材やアーム部材等に取り替えたりすることで、堰止め機構3全体の自重を変えて、所定長D1〜D3の深さを調整することもできる。
【0050】
図5を用いて、堰部材31が堰止め位置から流入許容位置へ移動を開始しない場合について説明する。
【0051】
図5は、図2に示すスカム除去装置の堰部材が、堰止め位置に留まっている状態を示す図である。上述したように、引上アーム73が反時計回りの回転を開始すると、通常、堰部材31は、自身に生じる浮力と堰止め機構3全体の自重とのバランスが均衡する流入許容位置へ移動を開始する。しかしながら、沈殿池9の水面Wに厚いスカムが浮いていたりすると、このスカムが邪魔をして、引上アーム73が反時計回りの回転を開始しても、堰止め機構3全体が動かず、堰部材31が堰止め位置に留まってしまう場合がある。堰止め機構3全体が移動せず堰部材31が堰止め位置に留まっていると、反時計回りに回転する引上アーム73の挿通部732における下面の一部が押受部354の一部に当接する。貯水タンク723内の水の量がさらに増えて貯水タンク側回転モーメントが大きくなると、図5の矢印で示すように、引上アーム73の挿通部732が押受部354を下方に押す。これにより、堰部材31を流入許容位置へ移動しやすくすることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態のスカム除去装置1によれば、水位が変動しても流入許容位置における水面から堰部材31の上端部分31aまでの距離が一定になり、トラフ5に流入するスカム混入水の量を一定にすることができる。また、貯水タンク側回転モーメントよりも重り側回転モーメントが大きくなると堰部材31を引き上げる構成とすることで、堰部材31の引き上げにアクチュエータなどの新たな動力源を必要としない(いわゆる無動力)ため、エネルギー消費を抑えることができる。
【0053】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことが出来る。たとえば、本実施形態では、側板322に取り付けたフロート33によって堰部材31に浮力を付与しているが、このフロート33を、堰部材31に直接取り付ける構成としてもよい。また、堰部材31を浮力が生じる材料で構成してフロート33を省略することもできる。なお、堰部材31を浮力が生じる材料で構成した場合には、堰部材31に生じる浮力は、堰部材31自身の浮力になる。また、本実施形態では、支点部材71の下流側に重りを設け、支点部材71の上流側に重量変化部材としての貯水タンク723を設ける構成としたが、この構成を逆にして、支点部材71の下流側に貯水タンク等の重量変化部材を設け、支点部材71の上流側に重りを設けてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 スカム除去装置
3 堰止め機構
31 堰部材
33 フロート
354 押受部
5 トラフ
7 引上機構(引上手段)
71 支点部材(支点)
722 重り
723 貯水タンク(重量変化部材)
9 沈殿池
図1
図2
図3
図4
図5