特許第5919635号(P5919635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許5919635積層ポリエステルフィルムおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919635
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20160428BHJP
   B05D 5/08 20060101ALI20160428BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20160428BHJP
   B41M 5/382 20060101ALI20160428BHJP
   B41M 5/40 20060101ALI20160428BHJP
   B41M 5/41 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B32B27/36
   B05D5/08 Z
   C08J7/04 BCFD
   B41M5/26 B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-74649(P2011-74649)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2012-206045(P2012-206045A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2014年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前羽 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 治美
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−240256(JP,A)
【文献】 特開平11−321127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
B41M 5/00−5/52
C08J 7/00−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルム(層A)の片面に層Bを有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルム(層A)の厚みが0.5μm〜10μmであり、層Bの厚みが5〜50nmであり、層B側の表面欠点の数が10個/25cm以下であり、少なくとも、インク層、基材層、滑性層から構成され、一方の最外層が滑性層であり、もう一方の最外層がインク層である熱転写リボンに用いられ、前記層Bが主成分がワックス成分である滑性層として、前記層Aが基材層として用いられる積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルフィルム(層A)の少なくとも片面に塗液が塗布されることによって塗布層(層B)が設けられる、積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステルフィルム(層A)に下記(1)〜(6)の条件を満たす放電処理が施された後に、塗液が塗布される積層ポリエステルフィルムの製造方法。
(1)放電電極と、それに対峙する対極を有する放電処理装置を用いること。
(2)放電電極と対極との最短距離が1.0[mm]以上2.0[mm]以下であること。
(3)放電電極と対極間に16[kHz]以下の周波数で放電を起こし、放電電極と対極間の放電密度を0.8×10[W/m]以上5.2×10[W/m]以下とすること。
(4)放電電極と対極との間にポリエステルフィルム(層A)を位置させることによって、放電処理を施すこと。
(5)塗液が塗布される側のポリエステルフィルム(層A)表面と放電電極が対向していること。
(6)放電処理時間が0.005秒以上0.025秒以下であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面欠点が良好なポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの表面処理方法、およびポリエステルフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートなどを用いたポリエステルフィルムは、機械特性、耐熱性、寸法安定性、耐薬剤性、コストパフォーマンス性などに優れることから、その性能を活かして多くの用途に使用されている。そのひとつに熱転写用リボンが挙げられる。熱転写記録方式は、コストパフォーマンスやメンテナンス性、操作性などに優れることからFAX、バーコード印刷といった分野に用いられているが、近年はカラー熱転写インクを用いることで、高精細、高画質などの特性も加わり、カラー熱転写プリンターなどにも用いられている。
【0003】
これらの熱転写方式は、顔料、染料等の色材とワックス等の結合剤とを含む熱転写層をポリエステルフィルム上に設けた熱転写インクリボンを受像シートと重ね、該熱転写インクリボンの裏側からサーマルヘッドにより熱を与え、前記熱転写層を溶融させて前記受像シート上に融着させることにより、該受像シート上に画像を形成する方式である。
【0004】
熱転写インクリボンにおいて、印画時におけるサーマルヘッドとポリエステルフィルムとの滑り(プリント走行性)を良好にし、画質を向上させる観点から、耐熱性、滑り性の良好な滑性層を前記ポリエステルフィルム上に設けることが一般的に行われてきた。しかしながら、ポリエステルフィルムの表面はぬれ性が低いため接着性に乏しく、直接、ワックス等を主成分とする滑性層を塗布しても密着しない。そのため滑性層との接着性を強固なものとするために、フィルム表面上に各種ガス雰囲気下でのコロナ放電処理等を実施し、フィルム表面のぬれ性を改善した後に滑性層が設けられてきた。
【0005】
従来のFAXやバーコード印刷といった用途で使用する場合、熱転写インクが全て転写するため、前記放電処理等を実施した後に滑性層を設けていれば、滑性層に多少のムラが存在していても印画には影響がなく、走行性や耐ブロッキング性に優れたポリエステルフィルムが製造されていた。そのため、滑性層の成分を規定したり(特許文献1)、静摩擦係数や3次元粗さを規定したり(特許文献2)することで耐ホットスティック性、耐ブロッキング性や走行性に優れた滑性層を設ける試みがされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3148782号
【特許文献2】特開2004−59861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、サーマルヘッドからの熱量を調整して、インクの転写量の調整をする高精細、高画質なカラー熱転写用途においては、上記の特性を備えた上で、滑性層の均一さも要求される。これは、滑性層が均一でなく僅かでも厚みのムラがあると、転写の色調や画質に影響を与えるためである(以下、滑性層の厚みムラを表面欠点と呼ぶことがある)。
【0008】
本発明はかかる問題を解決し、印画時に滑性層のムラが転写に影響しない高画質な印画ができるベースフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、印画時にムラは以下の現象に基づいて引き起こされることが判明した。すなわち、ポリエステルフィルムと滑性層との間の密着力を高めるために、通常、フィルム表面上に各種ガス雰囲気下での放電処理等が行われるが、放電の際にポリエステルフィルムに熱がかかり、フィルム長手方向に微細なシワが多数発生する。そして、熱転写リボンを得るために、このようなポリエステルフィルムに滑性層が設けられると、ポリエステルフィルムのシワに沿って滑性層に厚みのムラ(線状の厚みムラ)が生じる。そして、このような熱転写リボンを用いて印画すると、熱転写リボンの滑性層の厚みのムラに沿って、線状の印画ムラが多数生じることが判明した。
【0010】
そして、さらに検討を重ねた結果、ポリエステルフィルム(層A)の少なくとも片方に層B(滑性層)を有する積層ポリエステルフィルムにおいて、層B側の表面欠点の数を10個/25cm以下とすれば、印画時の画質を飛躍的に向上させることができることを見出した。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための手段は、
ポリエステルフィルム(層A)の少なくとも片面に層Bを有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルフィルム(層A)の厚みが0.5μm〜10μmであり、層B側の表面欠点の数が10個/25cm以下である積層ポリエステルフィルムである。
【0012】
また、ポリエステルフィルム(層A)の少なくとも片面に塗液が塗布されることによって塗布層(層B)が設けられる、積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステルフィルム(層A)に下記(1)〜(6)の条件を満たす放電処理が施された後に、塗液が塗布される積層ポリエステルフィルムの製造方法である。
(1)放電電極と、それに対峙する対極を有する放電処理装置を用いること。
(2)放電電極と対極との最短距離が1.0[mm]以上2.0[mm]以下であること。
(3)放電電極と対極間に16[kHz]以下の周波数で放電を起こし、放電電極と対極間の放電密度を0.8×10[W/m]以上5.2×10[W/m]以下とすること。
(4)放電電極と対極との間にポリエステルフィルム(層A)を位置させることによって、放電処理を施すこと。
(5)塗液が塗布される側のポリエステルフィルム(層A)表面と放電電極が対向していること。
(6)放電処理時間が0.005秒以上0.025秒以下であること。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフィルムを熱転写フィルムとして用いることによって、印画時の画質を飛躍的に向上せしめることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法により、シワが少なく、塗布層の厚みのムラが極めて小さなフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム(層A)の少なくとも片面に層Bを有する積層ポリエステルフィルムであることが必要である。
【0016】
ポリエステルフィルム(層A)に用いられるポリエステルとは、延伸に伴う分子配向によって高強度フィルムとなり得るポリエステルであればよく、ポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。これらはポリエステル共重合体であってもよいが、その繰り返し構造単位のうち、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレートもしくはエチレン−2,6−ナフタレートであることが好ましい。他のポリエステル共重合体成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、またはアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、ないしはトリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分やp−ヒドロキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。また、上記のポリエステルに、該ポリエステルと反応性のないスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、あるいは該ポリエステルに不溶なポリアルキレングリコールや脂肪族ポリエステルなどのうち一種以上を、5%を超えない程度ならば共重合ないしブレンドしてもよい。
【0017】
本発明におけるポリエステルフィルム(層A)の厚みは0.5μm〜10μmであることが必要である。より好ましくは2.0μm〜6μmであることが好ましい。0.5μm未満であると、熱転写リボンにした際に、印画シワ、穴あき等が発生するため好ましくない。一方、10μmより厚いと、熱転写リボンにした際に印画感度が低くなるため好ましくない。
【0018】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、 熱転写リボンに用いられることが好ましい。熱転写リボンは、通常、複数の層から構成され、少なくとも、インク層、基材層、滑性層からなる。そして、インク層は一方の最外層に位置し、滑性層がもう一方の最外層に位置し、基材層がそれらの中間に位置する。本発明では、層Bが滑性層であることが好ましい。加えて、層Aが基材層であることが好ましい。
【0019】
本発明における層Bの主成分は、ワックス成分であることが、印画時のサーマルヘッドとの融着を防止する点、円滑にプリント走行させる点(滑性を向上させる点)、熱転写インクとのブロッキングを防止する点で好ましい。また、主成分とは、層中の成分の中で最も含有量が多い成分、もしくは30重量%以上の成分のことをいう。
【0020】
本発明において用いるワックス成分には、市販の各種のワックス、例えば石油系ワックス、植物性ワックス、動物系ワックス、低分子量ポリオレフィン類などを使用することができ、特に制限されるものではないが、石油系ワックス、植物系ワックスの使用が易滑性の点で好ましい。石油系ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリステリンワックス、酸化ワックスなどが挙げられるが、酸化ワックスが特に好ましい。また、植物性ワックスとしてはキャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ロウ、オリーキューリーワックス、サトウキビワックス、ロジン変性ワックスなどが挙げられるが本発明においては特に下記化合物から成る組成物が好ましい。すなわち、ロジン、不均化ロジン、水添ロジンおよびα , β 置換エチレン( α 置換基: カルボキシル基、β 置換基: 水素又はメチルまたはカルボキシル) 付加物からなる群より選ばれた1 以上および炭素数1 〜 8 のアルキルまたはアルケニルアルコールポリマー( 繰り返し単位1 〜 6 ) のエステル付加物との組成物を用いるのが易滑性や離型性の点で好ましく、さらにかかる組成物を前記の酸化ワックスとの混合系で用いるとより好ましい。生産時ならびに加工時には、防爆性、環境汚染防止の観点から水に溶解、乳化、懸濁させることができるワックスが好ましい。
【0021】
本発明において、滑性層の厚み(層B)は1〜100nmであることが好ましい。より好ましくは5〜50nmであることが好ましい。1nm未満では十分な滑り性、耐熱性が得られず、サーマルヘッドと基材であるポリエステルフィルムとの融着、サーマルヘッドが基材にひっかかることによる印画時の破れや穴あき等が発生したりするので好ましくない。100nmより厚いと滑性層の融解で消費される熱量が多くなり、印画感度が悪化するので好ましくない。
【0022】
本発明のポリエステルフィルム構成は、A/Bでも、B/A/Bの場合でも、もちろん、Bと異なる表面状態を有する層CをBと反対面に設けたB/A/Cでも、あるいはそれ以上の多層構造でもよい。ここでA、Cそれぞれのポリエステルの種類は同種でも、異種でもよいが、少なくとも片方の表面は層B(ワックス成分を含有した層)であることが必要である。
【0023】
この滑性層(層B)に球状無機粒子を添加することにより、滑り性を付与しながらフィルムの巻き取りを容易にし、剥離帯電を防ぐことができ、生産性がよくなる。本発明において滑性層(層B)に添加する粒子は、印画時の熱に耐えうる無機物が好ましい。有機粒子を使用すると印画時の熱に耐えられず印画物の画質を損なう恐れがある。無機粒子とは、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸アルミニウム、硫酸バリウムなどの鉱物類、金属、金属酸化物、金属塩類等の微粒子のことである。形状は球状が好ましい。
【0024】
また、本発明では、層B側の表面欠点の数が10個/25cm以下であることが必要である。層B側の表面欠点の数を10個/25cm以下とすることで、印画時の画質を飛躍的に向上させることができる。なお、層B側の表面欠点の数を上記数値範囲内とするための方法については、後に詳しく述べる。
【0025】
本発明の積層ポリエステルフィルムを製造するためには、以下に示した工程によって製造できるが、これに限定されるものではない。
【0026】
粒子含有ポリエステル原料(層Aの原料)を溶融し、スリット状のダイを用いてフィルム状に成形した後、表面温度20〜70℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させ、未延伸フィルムとする。続いて80〜130℃で長手方向に3.0〜7.0倍延伸して、一軸延伸フィルムを得る。このとき、多段階延伸をすることにより製膜性を損なわずに長手方向に強く配向したフィルムを得ることができる。
【0027】
熱転写リボンを製造する場合には、インクを塗布する面とは反対面を、印画時のサーマルヘッドとの融着を防止し、かつ走行性を良好にすることが望まれる。
【0028】
そのため、ポリエステルフィルム(層A)に対し放電処理を実施した後、ワックス系あるいはシリコーン系を主成分とした塗液(層Bの原料)を、コーティング法を用いて層Aに塗布し、層Bを層Aに積層することが好ましい。
【0029】
また、層B側の表面欠点の数が10個/25cm以下とするために、ポリエステル層(層A)の少なくとも片面に塗液が塗布されることによって塗布層(層B)が設けられ、かつ以下の(1)〜(6)の条件を満たす放電処理が施された後に、塗液が塗布される方法(以下、「本方法」と称することがある。)を採用することが好ましい。
(1)放電電極と、それに対峙する対極を有する放電処理装置を用いること。
(2)放電電極と対極との最短距離が1.0[mm]以上2.0[mm]以下であること。
(3)放電電極と対極間に16[kHz]以下の周波数で放電を起こし、放電電極と対極間の放電密度を0.8×10[W/m]以上5.2×10[W/m]以下とすること。
(4)放電電極と対極との間にポリエステルフィルム(層A)を位置させることによって、放電処理を施すこと。
(5)塗液が塗布される側のポリエステルフィルム(層A)表面と放電電極が対向していること。
(6)放電処理時間が0.005秒以上0.025秒以下であること。
【0030】
上記(1)に関し、本方法において用いられる放電処理装置とは、放電電極とそれに対峙する対極を有していれば、特に限定されるものではないが、一般的なコロナ放電処理装置を用いることも可能である。
【0031】
本方法における「対極」とは、一般的には放電処理が行われる処理ロールのことを指し、対極ロールとも呼ばれるが、本発明においてはロールに限定するものではない。対極の材質についてもシリコンラバー、ハイパロンラバー、EPTラバー、セラミックなどを用いるのが好ましいが、特に限定されない。
【0032】
また、上記(4)に関し、本方法では、放電電極と対極との間にポリエステルフィルムを位置させる必要がある。より好ましくは放電電極と対極との間にポリエステルフィルムを位置させ、ポリエステルフィルムと対極が接していることが好ましい。ポリエステルフィルムが対極と放電電極との間に位置していないと放電処理を施すことができない。ポリエステルフィルムと対極が接していると、ポリエステルフィルムの対極へのグリップ力が放電の際にポリエステルフィルムの収縮を妨げるため、より効果的である。
【0033】
また、上記(5)に関し、本方法では、塗液が塗布される側のポリエステルフィルム表面と放電電極が対向していることが必要である。対向していないと十分な放電処理の効果が得られないためである。
【0034】
また、上記(2)に関し、本方法では、放電電極と対極との最短距離(ギャップ)が1.0[mm]以上2.0[mm]以下であることが好ましい。より好ましくは1.3[mm]以上1.7[mm]以下であることが好ましい。最短距離が1.0[mm]未満であると放電電極とポリエステルフィルムとの間の距離が近いため、ポリエステルフィルムに与えられる熱量が大きくなり、ポリエステルフィルムに熱収縮によるシワを生じ、放電処理にムラが生じるので滑性層(層B)にもムラが生じ好ましくない。一方、2.0[mm]よりギャップが大きいとポリエステルフィルムへの放電にムラが生じるため好ましくない。
【0035】
また、上記(3)に関し、本方法にて用いられる電源の周波数は、16[kHz]以下とする必要がある。より好ましくは11[kHz]以下であることが好ましい。16[kHz]より大きいと放電からポリエステルフィルムに与える熱量が大きくなり、ポリエステルフィルムに熱収縮によるシワを生じ、放電処理にムラが生じるので滑性層(層B)にもムラが生じ好ましくない。
【0036】
また、本方法では、放電密度は0.8×10[W/m]以上5.2×10[W/m]以下である必要がある。より好ましくは1.8×10[W/m]以上4.4×10[W/m]以下であることが好ましい。0.8×10[W/m]未満であると放電が微弱になりすぎ、放電処理のムラが発生するので好ましくない。一方、5.2×10[W/m]より大きいと、スパーク状の放電が発生し、放電の均一性が損なわれる。加えて、ポリエステルフィルムに与える熱量も大きくなり、ポリエステルフィルムに熱収縮によるシワを生じ、放電処理にムラが生じるので滑性層(層B)にもムラが生じ好ましくない。
【0037】
ここで、「放電密度」とは、放電処理を行う放電の強さに関係するものであって、放電にかかる供給電力[W]を、放電電極を対極方向に投影したときの放電電極の面積[m]で割った、単位面積あたりの放電の強さである。放電にかかる供給電力[W]は、(高周波)電源1次側の電力である。放電電極の面積とは、電極表面のうち放電している部分の面積を指す。ただし、フィルムに相対する電極面のほとんど全面で放電光が観測される場合には、電極をフィルム面に投影したときの投影面の面積として計算する。複数の放電電極からなる場合には、各放電電極の投影面積の総和である。
【0038】
また、上記(6)に関し、本本法では、放電処理時間が0.005秒以上0.025秒以下であることが必要である。より好ましくは0.01秒以上0.02秒以下であることが好ましい。0.005秒未満であると放電処理が不十分で、滑性層(層B)にムラが生じるため好ましくない。一方0.025秒より長いと、ポリエステルフィルムに与える熱量も大きくなり、ポリエステルフィルムに熱収縮によるシワを生じ、放電処理にムラが生じるので滑性層(層B)にもムラが生じ好ましくない。
【0039】
ここで、本発明における「放電処理時間」とは、ポリエステルフィルムが放電処理にさらされる時間である。放電処理にさらされる時間とは、ポリエステルフィルムが放電電極を通過するまでにかかる時間のことであり、放電電極のフィルム長手方向の長さを、移動するフィルムの移動速度[m/秒]で割ったときの時間[秒]である。放電電極が複数ある場合は各放電電極のフィルム長手方向の長さの和を、移動するフィルムの移動速度[m/秒]で割ったときの時間[秒]である。
【0040】
なお、本方法において、放電電極の幅方向の長さは走行するフィルムの幅方向の長さの95%以下であることが望ましい。95%より長いと放電電極の端部からの放電により、対極に損傷を与え、均一な処理が困難になるためである。
【0041】
このような方法などによって得られる滑性層(層B)は、ポリエステルフィルムの製造工程内、あるいは製造後のいずれでも設けることが可能であるが、後者の場合、工業的に非効率であること、均一に塗布することが困難なこと、また塵埃を巻き込んで印画時の欠点になりやすいことから、前者の手法を採ることが好ましい。製造工程内での塗布は、配向結晶化が完了する前の状態であればどの段階で行っても良く、未延伸状態のフィルム、一軸延伸した後のフィルム、低倍率延伸した状態で最終的に再延伸を行う前のフィルムのいずれにも設けることが可能である。
【0042】
滑性層(層B)を設ける前の放電処理としては各種ガス雰囲気下でのコロナ放電処理が一般的である。ガス雰囲気としては空気雰囲気下、窒素雰囲気下等が挙げられるが、特に限定するものではない。
【0043】
滑性層(層B)の形成方法(塗布方法)としては、ロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、キスコーター、バーコーター、カーテンコーター、ロッドコーターなどを用いるのが好ましいが、特に限定されない。
【0044】
一軸延伸せしめたポリエステルフィルム(層A)に、上記の方法などを用いて、層Bを設けた場合は、層Bが積層せしめられた一軸延伸フィルムをテンター内に導入し、90〜130℃で予熱するが、塗布の乾燥も兼ねる。次に幅方向に3.0〜4.5倍に延伸して二軸延伸フィルムとし、200〜240℃で熱固定する。熱固定温度は200℃〜240℃が好ましい。温度が200℃よりも低いと、熱結晶化が十分進まず、結晶性の低いフィルムとなる。温度が240℃より高いと、熱結晶化が進みすぎ、延伸で進行した分子鎖の配向が低下してしまう。熱固定前にさらに縦ないし横方向に、または縦横両方向に再度延伸させて強度を高めることも可能である。熱固定後、100〜185℃で幅方向に0〜8%収縮させてからロール状に巻き取る。なお、必ずしもここで示した製造方法に限定されるものではない。インクリボンとしてのヘッド走行性を付与する目的や巻き取り性を良くし生産性を向上させる目的で、滑性層(層B)側を粗面タイプとした、2層積層フィルムとすることも出来る。
【0045】
滑性層を設けた積層ポリエステルフィルムに熱転写インクを塗布することで、熱転写リボンを製造することができる。
【0046】
以上のようにして作られた本発明の積層ポリエステルフィルムを、滑性層を有する熱転写リボン用ポリエステルフィルムとして用いると、サーマルヘッドとの良好な滑性とムラのない良好な転写性を両立でき、高精細、高画質な印画にも対応が可能となる。
【0047】
[特性の測定方法・評価方法]
(1)表面欠点数の測定方法
積層フィルムの層Bが設けられている側の表面とは反対側の表面に、120℃で溶融攪拌した次に示す溶融型インクを、最終的に得られる溶融型インク層の厚みが0.5μmになるようにホットメルトコーターにて100℃で塗布し、熱転写リボンを得た。
【0048】
(溶融型インク)
カルナウバワックス (カルナバ1号、東洋アドレ社製):30重量部
パラフィンワックス(HNP−10、日本精蝋社製) :35重量部
カーボンブラック(MA−8、三菱化学社製) :12重量部
エチレン酢酸ビニル共重合体(MB−11、住友化学社製):10重量部
シリコーンオイル(SF8427、東レ・ダウコーニング社製 ): 3重量部。
【0049】
ついで、得られた熱転写リボンの長手方向(積層ポリエステル長手方向とする)0.5cm×幅方向(積層ポリエステルフィルムの幅方向とする)50cmからなる25cmの領域において、X-rite社製分光光度計SpectroEyeを用いて光学濃度OD値を測定した。光線入射面は、溶融型インク層側の表面とは反対側の表面とした。測定は、測定対象領域である25cmを幅方向に均等に100分割した5mm四方に対する測定を1点として100点測定を実施した。それぞれの測定点における光学濃度をODn(n=1〜100)とし、100点のODの平均値(ODave)を求めた。次いで、100点(ODn (n=1〜100))について、ODnとODaveとの差の絶対値(ΔOD)を求め、ΔOD≧0.03以上の点を表面欠点がある点とし、その個数を数え、積層ポリエステルフィルム25cmあたりの表面欠点の数とした。
【0050】
(2)印画評価(印画時の画質評価)
上記(1)にて得られた熱転写リボンを熱転写プリンター(セイコー電子工業(株)製高精細プリンター Color Printer 2 8階調のソフト“PALMIX”)を用いて、印画し、画像を目視で確認し、次の基準で評価した。
◎:印画ムラなく良好。
○:かすかに印画ムラが確認できるが実用上問題ない。
△:印画ムラが確認でき、商品価値に劣る。
×:容易に印画ムラが確認でき、商品価値を有しない。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
富士シリシア社製、数平均粒径2.6μmの二酸化ケイ素粒子を0.05質量%含有した、固有粘度0.61の東レ製ポリエチレンテレフタレートを押出機中で285℃に溶融させ、口金からシート状に溶融押し出しし、25℃の回転冷却ドラムに密着させて固化させ、未延伸ポリエステルフィルム(層A)を得た。加熱したロールの周速差を用いてフィルムの長手方向に125℃で2.4倍に延伸(1段目延伸)を行い、ついで長手方向に115℃で2.5倍に延伸(2段目延伸)して、一軸延伸(一軸配向)フィルムを得た。
【0052】
放電電極とそれに対峙する対極を有する放電処理装置を用いて、得られた一軸延伸フィルムの片面を以下の条件で放電処理した。
・放電電極と対極との最短距離(ギャップ):1.5mm
・放電周波数:9.3kHz
・放電密度:1.8×10W/m
・放電処理時間:0.01秒
なお、放電処理は、放電電極と対極との間にポリエステルフィルム(層A)を位置させ、かつ、層Aの表面と放電電極を対向させて行った。
【0053】
放電処理を施したフィルムを、引き続きコーティング工程へ移動させ、放電処理を実施したフィルム(層A)の表面に、以下のコーティング用の塗液を塗布し、層Bを形成せしめた。
【0054】
コーティング(層B)用の塗液は、下記比率に混合した塗液を全固形分重量比率が1.0%となるように水で希釈して作成した。
・酸化ワックス水分散体: 60重量部(固形分比)
・植物性ワックス水分散体{水添ロジン・αβ置換エチレン(α置換基:カルボキシル、β置換基:メチル)付加物}}・アルキル(炭素数:6)ポリ(繰り返し単位:5)アルコ−ルのエステル付加物:40重量部(固形分比)
コーティングはメタリングバーを使用し、ウェット厚みを6μmとした。
【0055】
次にこのフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、110℃で幅方向に4.0倍に延伸し、さらに230℃で熱処理し、150℃で幅方向に4.0%弛緩させて、厚さ4.5μmの二軸配向(二軸延伸)積層ポリエステルフィルムを得た。
【0056】
得られた積層ポリエステルフィルムの表面欠点の数や、印画評価の結果を表に示す。
【0057】
[実施例2、3]
実施例1において最終厚みを表1に示すように変えるほかは実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0058】
[実施例4〜12および比較例1〜9]
実施例1において放電処理条件を表1に示すように変えるほかは実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0059】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリエステルフィルムは熱転写リボン用に使用できるが、その応用範囲がこれに限られるものではない。