特許第5919679号(P5919679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919679
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】光送信機
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/068 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   H01S5/068
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-179819(P2011-179819)
(22)【出願日】2011年8月19日
(65)【公開番号】特開2013-42089(P2013-42089A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100108257
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 伊知良
(72)【発明者】
【氏名】甘利 彰悟
【審査官】 河原 正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−235400(JP,A)
【文献】 特開2002−299753(JP,A)
【文献】 特開2011−018833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電流に応じて光信号を出力する発光素子と、
電気信号に応じて前記発光素子を加熱または吸熱する熱電素子と、
電流設定信号に応じて前記発光素子に前記駆動電流を供給する第1ドライバと、
温度設定信号に応じて前記熱電素子に前記電気信号を供給する第2ドライバと、
前記電流設定信号を前記第1ドライバに送出し、前記温度設定信号を前記第2ドライバに送出するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、光出力がオフ状態であるとき、前記電流設定信号を初期電流値に設定するとともに前記温度設定信号を前記発光素子が前記光信号を出力しているときの前記発光素子の温度に等しい初期温度に設定し、前記光信号を出力しているとき、前記電流設定信号を前記初期電流値よりも大きい目標電流値に設定するとともに前記温度設定信号を前記初期温度から前記発光素子の発熱による温度上昇分を差し引いた目標温度に設定し、前記光出力の前記オフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号を検出したとき、前記電流設定信号を前記初期電流値から前記目標電流値へ段階的に増加させるとともに、前記温度設定信号を前記初期温度から前記目標温度へ段階的に減少させる光送信機。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記指示信号を検出する指示信号検出部と、
前記電流設定信号を生成する駆動電流設定部と、
前記温度設定信号を生成する温度設定部と、
を備え、
前記駆動電流設定部は、前記指示信号検出部が前記指示信号を検出したとき、前記電流設定信号を前記初期電流値から前記目標電流値まで段階的に増加させ、
前記温度設定部は、前記指示信号検出部が前記指示信号を検出したとき、前記温度設定信号を前記初期温度から前記目標温度まで段階的に減少させる請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記第1ドライバは、前記電流設定信号に応じて前記駆動電流を段階的に増加させ、
前記第2ドライバは、前記温度設定信号に応じて前記電気信号を段階的に減少させる請求項2に記載の光送信機。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記初期電流値及び前記電流設定信号を記憶する第1記憶部と、
前記初期温度及び前記目標温度を記憶する第2記憶部と、
をさらに備え、
前記駆動電流設定部は、前記電流設定信号を前記初期電流値から前記目標電流値まで段階的に増加させることにより、前記第1ドライバから前記発光素子に供給される前記駆動電流の電流値を前記初期電流値から前記目標電流値まで段階的に増加させ、
前記温度設定部は、前記温度設定信号を前記初期温度から前記目標温度まで段階的に減少させることにより、前記第2ドライバから前記熱電素子に供給される前記電気信号を段階的に減少させる請求項2又は請求項3に記載の光送信機。
【請求項5】
前記駆動電流設定部は、周期ごとに前記電流設定信号に一定の増加値を加えて前記電流設定信号を前記初期電流値から前記目標電流値まで段階的に増加させ、
前記温度設定部は、前記周期ごとに前記温度設定信号に一定の減少値を減じて前記温度設定信号を前記初期温度から前記目標温度まで段階的に減少させる請求項4に記載の光送信機。
【請求項6】
前記駆動電流設定部は、一定の期間で、前記電流設定信号を前記初期電流値から前記目標電流値まで段階的に増加させ、
前記温度設定部は、前記期間で、前記温度設定信号を前記初期温度から前記目標温度まで段階的に減少させる請求項5に記載の光送信機。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記周期を示す値及び前記期間を示す値を記憶する第3記憶部と、
前記期間における前記周期の繰り返し回数であるステップ数を算出するステップ数算出部と、
をさらに備え、
前記ステップ数算出部は、前記指示信号検出部が前記指示信号を検出したとき、前記第3記憶部から前記周期を示す値及び前記期間を示す値を読み出し、前記周期を示す値及び前記期間を示す値に基づいて前記ステップ数を算出し、算出した前記ステップ数を前記駆動電流設定部及び前記温度設定部に送出し、
前記駆動電流設定部は、前記ステップ数に基づいて前記増加値を算出し、
前記温度設定部は、前記ステップ数に基づいて前記減少値を算出する請求項6に記載の光送信機。
【請求項8】
前記発光素子の温度をモニタするための温度モニタ素子をさらに備え、
前記熱電素子は、前記電気信号に応じて前記熱電素子の温度を変化させ、
前記第2ドライバは、前記電気信号を調整して、前記温度モニタ素子によってモニタされた温度を前記温度設定信号に近づける請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の光送信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用され、レーザダイオード(以下、「LD」ともいう。)を駆動して光信号を出力する光送信機が知られている。例えば、下記の特許文献1には、光信号を出力する発光素子と、光信号のパワーを所定の設定値に制御する出力制御回路と、設定値を出力制御回路に供給する設定値制御回路とを備える光送信機において、急激に光信号を出力することによる光増幅器の利得制御への影響を低減するために、設定値制御回路は、光信号のオフ状態からオン状態への遷移を指示する信号を外部から受けると、設定値をオン時設定値(目標値)まで段階的に上昇させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−235400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の光送信機では、以下のような問題がある。すなわち、上記特許文献1に記載の光送信機では、光送信機の起動時において光信号のパワーの段階的な上昇を行うためにLD駆動電流が段階的に増加される。光出力を開始した直後では、LD駆動電流が小さく、LD駆動電流によるLDの発熱は少ないので、LD温度は、光信号のパワーがLD稼働中の目標値に達した状態(以下、「定常状態」という。)におけるLD温度である目標温度よりも小さくなることがある。一般に、LD温度が低いほどLDが出力する光信号の波長が短くなる。したがって、LD温度が目標温度より低くなると、その波長は定常状態における光信号の波長である目標波長よりも短くなる。このため、LD駆動電流を段階的に増やしているときには、LD温度は目標温度よりも小さくなり、出力光の波長も光送信機の目標波長よりも短くなってしまうことがある。
【0005】
ところで、WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長多重分割)システムでは、互いに僅かに異なる波長の光信号を出力する複数の光送信機が用いられ、これらの光送信機から出力される光信号が合波されてデータが送信される。このデータの送信は、光出力がオフ状態からオン状態に遷移したとき(以下、「起動時」ともいう。)から、定常状態になるまでの期間においても行われる。このため、複数の光送信機のうちのある光送信機から出力される光信号の波長が目標波長からずれると、この波長と他の光送信機から出力される光信号の波長とが接近して、正しいデータが送れないことがある。
【0006】
そこで本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、光出力がオフ状態からオン状態に遷移する際に、安定した波長の光を出力する光送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る光送信機は、(a)駆動電流に応じて光信号を出力する発光素子と、(b)発光素子の温度を制御する熱電素子と、(c)発光素子に駆動電流を供給する第1ドライバと、(d)熱電素子の温度を制御する第2ドライバと、(e)駆動電流を制御するための電流設定信号を第1ドライバに送出し、熱電素子の温度を制御するための温度設定信号を第2ドライバに送出するコントローラと、を備える。また、コントローラは、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号を検出したとき、電流設定信号によって第1ドライバを制御して駆動電流を段階的に増加させるとともに、温度設定信号によって第2ドライバを制御して熱電素子の温度を段階的に減少させることを特徴とする。
【0008】
このような光送信機によれば、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号を検出したことに応答して、発光素子の駆動電流を段階的に増加させるとともに、熱電素子の温度を段階的に減少させる。このため、駆動電流による発光素子の発熱が小さいときに熱電素子の温度を高くし、駆動電流の増加による発光素子の発熱が大きくなるに従い熱電素子の温度を減少することができ、発光素子自体の温度の変化が抑えられる。その結果、発光素子の温度変化による光信号の波長の変動が抑制され、安定した波長の光信号が出力可能となる。
【0009】
コントローラは、指示信号を検出する指示信号検出手段と、電流設定信号を生成し、電流設定信号を第1ドライバに送出する駆動電流設定手段と、温度設定信号を生成し、温度設定信号を第2ドライバに送出する温度設定手段と、を備えてもよい。また、駆動電流設定手段は、指示信号検出手段によって指示信号が検出されたとき、第1ドライバに駆動電流の電流値を初期電流値から目標電流値まで段階的に増加させるために、電流設定信号を第1ドライバに送出してもよい。また、温度設定手段は、指示信号検出手段によって指示信号が検出されたとき、第2ドライバに熱電素子の温度を初期温度から目標温度まで段階的に減少させるために、温度設定信号を第2ドライバに送出してもよい。
【0010】
この場合、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号を検出したことに応答して、発光素子の駆動電流の電流値が初期電流値から目標電流値まで段階的に増加され、熱電素子の温度が初期温度から目標温度まで段階的に減少される。このため、駆動電流による発光素子の発熱が小さいときに熱電素子の温度を高くし、駆動電流の増加による発光素子の発熱が大きくなるに従い熱電素子の温度を減少することができ、発光素子自体の温度の変化が抑えられる。その結果、発光素子の温度変化による光信号の波長の変動が抑制され、安定した波長の光信号が出力可能となる。
【0011】
駆動電流設定手段は、電流設定信号によって示される電流設定値を段階的に増加することにより、第1ドライバに駆動電流を段階的に増加させてもよい。また、温度設定手段は、温度設定信号によって示される温度設定値を段階的に減少することにより、第2ドライバに熱電素子の温度を段階的に減少させてもよい。この場合、コントローラが電流設定値を段階的に増加することにより、発光素子の駆動電流を段階的に増加し、温度設定値を段階的に減少することにより、熱電素子の温度を段階的に減少する。このように、コントローラは電流設定値を増加させることによって、発光素子の駆動電流を増加し、温度設定値を減少させることによって、熱電素子の温度を減少することができる。
【0012】
コントローラは、目標電流値に対応する電流設定値である第1電流設定値を記憶する第1記憶手段と、初期温度に対応する温度設定値である第1温度設定値及び目標温度に対応する温度設定値である第2温度設定値を記憶する第2記憶手段と、をさらに備えてもよい。また、駆動電流設定手段は、電流設定値を初期値から第1電流設定値まで段階的に変化させることにより、第1ドライバに初期電流値から目標電流値まで駆動電流の電流値を段階的に増加させてもよい。また、温度設定手段は、温度設定値を第1温度設定値から第2温度設定値まで段階的に変化させることにより、第2ドライバに初期温度から目標温度まで熱電素子の温度を段階的に減少させてもよい。なお、電流設定値は、電流設定信号によって示される値であり、温度設定値は、温度設定信号によって示される値である。
【0013】
この場合、コントローラが電流設定値を初期値から第1電流設定値まで段階的に変化させることにより、発光素子の駆動電流の電流値が初期電流値から目標電流値まで段階的に増加し、コントローラが温度設定値を第1温度設定値から第2温度設定値まで段階的に変化させることにより、熱電素子の温度が初期温度から目標温度まで段階的に減少する。このように、コントローラは電流設定値及び温度設定値を変化させることによって、発光素子の駆動電流及び熱電素子の温度を制御することができる。
【0014】
駆動電流設定手段は、周期ごとに電流設定信号に一定の増加値を加えて電流設定値を初期値から第1電流設定値まで段階的に増加してもよい。また、温度設定手段は、上記周期ごとに温度設定信号から一定の減少値を減算して温度設定値を第1温度設定値から第2温度設定値まで段階的に減少してもよい。この場合、発光素子の駆動電流の増加と熱電素子の温度の減少とが、同じタイミングで行われる。このため、発光素子自体の温度の変化がさらに抑えられる。その結果、発光素子の温度変化による光信号の波長の変動がさらに抑制され、より安定した波長の光信号が出力可能となる。
【0015】
駆動電流設定手段は、一定の期間で、電流設定値を初期値から第1電流設定値まで段階的に増加し、温度設定手段は、上記期間で、温度設定値を第1温度設定値から第2温度設定値まで段階的に減少してもよい。この場合、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号が検出されてから一定の期間で、発光素子の光信号の波長を安定させながら定常状態の発光レベルにすることができる。
【0016】
コントローラは、上記周期を示す値及び上記期間を示す値を記憶する第3記憶手段と、上記期間における上記周期の繰り返し回数であるステップ数を算出するステップ数算出手段と、をさらに備えてもよい。また、ステップ数算出手段は、指示信号検出手段によって指示信号が検出されたとき、第3記憶手段に記憶された周期を示す値及び期間を示す値に基づいてステップ数を算出し、算出したステップ数を駆動電流設定手段及び温度設定手段に送出してもよい。また、駆動電流設定手段は、ステップ数に基づいて増加値を算出し、温度設定手段は、ステップ数に基づいて減少値を算出してもよい。この場合、算出したステップ数に基づいて、電流設定値の増加値及び温度設定値の減少値を算出することにより、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号が検出されてから一定の期間で、発光素子の光信号の波長を安定させながら定常状態の発光レベルにすることができる。
【0017】
発光素子の温度をモニタするための温度モニタ素子をさらに備えてもよく、熱電素子は、熱電素子に流れる電流に応じて熱電素子の温度を変化させ、第2ドライバは、温度モニタ素子によってモニタされた温度と設定温度とに基づいて、熱電素子に流す電流を制御してもよい。この場合、発光素子の温度をモニタすることによって、熱電素子の温度をより適切に制御することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光出力がオフ状態からオン状態に遷移する際に、安定した波長の光を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る光送信機の概略構成図である。
図2図1のコントローラの機能ブロック図である。
図3図1の光出力イネーブル信号と、駆動電流と、TECの温度との関係の一例を示す図である。
図4図1のコントローラの起動時の処理を示すフローチャートである。
図5】比較例の光出力イネーブル信号と、駆動電流と、TECの温度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る光送信機の構成概略図である。図1に示されるように、光送信機1は、光通信において用いられ、データ信号TXに応じた光信号Pを生成するための装置であって、光送信サブアセンブリ(Transmitting Optical Sub-Assembly、以下「TOSA」という。)2と、LDドライバ3と、TEC(Thermoelectric Cooler)ドライバ4と、コントローラ5と、を備えている。
【0022】
TOSA2は、外部に光信号Pを出力する光送信サブアセンブリであって、LD21、TEC22及びサーミスタ23を含み、例えばTEC22の上にLD21及びサーミスタ23が設けられている。LD21は、光信号Pを出力する発光素子であって、LDドライバ3から駆動電流ILDを受けて光信号Pを生成し、生成した光信号Pを出力する。TEC22は、LD21の温度TLDを制御する熱電素子であって、TECドライバ4によってTEC22の温度TTECが調節されて、LD21の温度TLDを制御する。TEC22では、TECドライバ4から供給された駆動電圧VTECによってTEC22に電流ITECが流れ、電流ITECに応じてその温度TTECが変化する。このTEC22は、LD21に近接して設けられ、LD21から吸熱またはLD21へ放熱することによりLD21の温度TLDを制御する。サーミスタ23は、LD21の温度TLDをモニタする温度モニタ素子であって、LD21に近接して設けられている。サーミスタ23は、モニタしたLD21の温度を示す値TdetをTECドライバ4に送出する。
【0023】
LDドライバ3は、LD21に駆動電流ILDを供給する第1ドライバである。具体的に説明すると、LDドライバ3は、コントローラ5から送出された電流設定信号Sを受信し、受信した電流設定信号Sによって示される値である電流設定値に応じた電流値の駆動電流ILDをLD21に供給する。ここで、駆動電流ILDには、バイアス電流及び変調電流が含まれており、変調電流のオン/オフは、光送信機1の外部からLDドライバ3に入力されるデータ信号TXに応じて制御される。すなわち、LDドライバ3は、電流設定値に応じた電流値のバイアス電流と、データ信号TXに応じた変調電流とを含む駆動電流ILDをLD21に供給する。
【0024】
TECドライバ4は、TEC22の温度TTECを制御する第2ドライバである。具体的に説明すると、TECドライバ4は、コントローラ5から送出された温度設定信号Sを受信し、受信した温度設定信号Sによって示される値である温度設定値に応じた電圧値の駆動電圧VTECをTEC22に供給する。また、TECドライバ4は、サーミスタ23によってモニタされたモニタ温度Tdetと温度設定値に対応する温度とを比較し、温度設定値に対応する温度とモニタ温度Tdetとの温度差を算出して、モニタ温度Tdetが温度設定値に対応する温度に近づくようにTEC22に供給する駆動電圧VTECを制御してもよい。なお、温度設定値に対応する温度とは、温度設定値に応じた電圧値の駆動電圧VTECによって設定されるTEC22の温度を意味する。
【0025】
コントローラ5は、LD21の駆動電流ILDを制御するための電流設定信号SをLDドライバ3に送出し、TEC22の温度TTECを制御するための温度設定信号SをTECドライバ4に送出する。具体的には、コントローラ5は、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する光出力イネーブル信号ENがイネーブルを示す状態になったことを検出したとき、電流設定信号SによってLDドライバ3を制御して、LD21の駆動電流ILDを段階的に増加させるとともに、温度設定信号SによってTECドライバ4を制御して、TEC22の温度TTECを段階的に減少させる。
【0026】
次に、コントローラ5の機能ブロックについて説明する。図2は、コントローラ5の機能ブロック図である。図2に示されるように、コントローラ5は、光出力イネーブル信号検出部51と、ステップ数算出部52と、ステップ情報記憶部53と、駆動電流設定部54と、駆動電流情報記憶部55と、温度設定部56と、TEC温度情報記憶部57と、を備える。
【0027】
光出力イネーブル信号検出部51は、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号を検出する指示信号検出手段として機能する。光出力イネーブル信号検出部51は、例えば、光出力イネーブル信号ENがディセーブルを示す状態からイネーブルを示す状態になった(以下、単に「光出力イネーブル信号ENがイネーブルになった」等という。)ことを検出する。光出力イネーブル信号検出部51は、光出力イネーブル信号ENがイネーブルになったことを検出したことに応答して、検出信号をステップ数算出部52、駆動電流設定部54及び温度設定部56に送出する。
【0028】
ステップ数算出部52は、ステップ設定時間におけるステップ設定周期の繰り返し回数であるステップ数を算出するステップ数算出手段として機能する。ここで、ステップ設定時間とは、ステップ情報記憶部53に予め設定された期間(時間間隔)であって、光出力イネーブル信号ENがディセーブルからイネーブルに遷移したときを始点とする期間である。このステップ設定時間は、例えば10sec程度である。ステップ設定周期とは、LD21の駆動電流ILDを段階的に増加する周期である。ステップ設定周期は、TEC22の温度TTECを段階的に減少する周期でもある。このステップ設定周期は、ステップ設定時間中において、波長のずれが規格を満たす(WDMシステムにおいてデータの誤送信が生じない)程度に短い時間であって、例えば5msである。
【0029】
ステップ数算出部52は、光出力イネーブル信号検出部51から送出された検出信号を受信したとき(すなわち、光出力イネーブル信号検出部51によって光出力イネーブル信号ENがイネーブルになったことが検出されたことに応答して)、ステップ情報記憶部53に記憶されたステップ設定周期を示す値及びステップ設定時間を示す値に基づいてステップ数を算出する。ステップ数算出部52は、例えば、ステップ設定時間をステップ設定周期で除算することにより、ステップ数を算出する。そして、ステップ数算出部52は、算出したステップ数及びステップ設定周期を駆動電流設定部54及び温度設定部56に送出する。
【0030】
ステップ情報記憶部53は、ステップ設定周期を示す値及びステップ設定時間を示す値を記憶する第3記憶手段として機能する。なお、本実施形態においては、ステップ設定周期は固定であるが、ステップ設定時間は光送信機1の起動中においても変更可能である。このため、ステップ数算出部52は、算出したステップ数を予め記憶しておくこともできるが、光出力イネーブル信号検出部51によって光出力イネーブル信号ENがイネーブルになったことが検出されるごとに、ステップ数を算出するのが好ましい。
【0031】
駆動電流設定部54は、電流設定信号Sを生成し、電流設定信号SをLDドライバ3に送出する駆動電流設定手段として機能する。駆動電流設定部54は、光出力イネーブル信号検出部51から送出された検出信号を受信したとき、LDドライバ3に駆動電流ILDの電流値をステップ設定時間内で初期電流値Iから目標電流値Iまで段階的に増加させるために、電流設定信号SをLDドライバ3に送出する。駆動電流設定部54は、例えば、電流設定信号Sによって示される電流設定値を段階的に増加することにより、LDドライバ3に駆動電流ILDを段階的に増加させる。
【0032】
具体的に説明すると、駆動電流設定部54は、検出信号の受信に応答して、後述の駆動電流情報記憶部55から第1電流設定値を読み出す。そして、駆動電流設定部54は、初期電流設定値と第1電流設定値との差を算出し、その差をステップ数算出部52から受信したステップ数で割る。これによって、駆動電流設定部54は、各ステップ設定周期における電流設定値の増加値を算出する。次に、駆動電流設定部54は、ステップ設定周期ごとに電流設定信号Sに増加値を加え、電流設定値を初期電流設定値から第1電流設定値まで段階的に増加させることにより、LDドライバ3に駆動電流ILDを初期電流値Iから目標電流値Iまで段階的に増加させる。
【0033】
ここで、初期電流値Iは、起動時の駆動電流ILDの電流値であり、目標電流値Iは、定常動作時における駆動電流ILDの電流値である。また、初期電流設定値は、初期電流値Iに対応する電流設定値であって、LDドライバ3に初期電流値Iの駆動電流ILDを供給させるための電流設定値(初期値)である。また、第1電流設定値は、目標電流値Iに対応する電流設定値であって、LDドライバ3に目標電流値Iの駆動電流ILDを供給させるための電流設定値である。駆動電流情報記憶部55は、第1電流設定値を記憶する第1記憶手段として機能する。
【0034】
温度設定部56は、温度設定信号Sを生成し、温度設定信号SをTECドライバ4に送出する温度設定手段として機能する。温度設定部56は、光出力イネーブル信号検出部51から送出された検出信号を受信したとき、TECドライバ4にTEC22の温度TTECをステップ設定時間内で初期温度Tから目標温度Tまで段階的に減少させるために、温度設定信号SをTECドライバ4に送出する。温度設定部56は、例えば、温度設定信号Sによって示される温度設定値を段階的に減少することにより、TECドライバ4にTEC22の温度TTECを段階的に減少させる。
【0035】
具体的に説明すると、温度設定部56は、検出信号の受信に応答して、後述のTEC温度情報記憶部57から第1温度設定値及び第2温度設定値を読み出す。そして、温度設定部56は、第1温度設定値と第2温度設定値との差を算出し、その差をステップ数算出部52から受信したステップ数で除算する。これによって、温度設定部56は、各ステップ設定周期における温度設定値の減少値を算出する。次に、温度設定部56は、ステップ設定周期ごとに温度設定信号Sから減少値を減算し、温度設定値を第1温度設定値から第2温度設定値まで段階的に減少させることにより、TECドライバ4にTEC22の温度TTECを初期温度Tから目標温度Tまで段階的に減少させる。
【0036】
ここで、初期温度Tは、起動時のTEC22の温度TTECであり、目標温度Tは、定常動作時におけるTEC22の温度TTECである。この初期温度Tは、目標電流値Iの駆動電流ILDに応じた発熱による温度上昇分だけ目標温度Tよりも高く設定され、目標温度Tは、光信号Pの波長が所望の波長範囲に入るように設定される。また、第1温度設定値は、初期温度Tに対応する温度設定値であって、TECドライバ4にTEC22の温度TTECを初期温度Tとさせるための温度設定値である。また、第2温度設定値は、目標温度Tに対応する温度設定値であって、TECドライバ4にTEC22の温度TTECを目標温度Tとさせるための温度設定値である。TEC温度情報記憶部57は、第1温度設定値及び第2温度設定値を記憶する第2記憶手段として機能する。
【0037】
なお、図2の説明においては、コントローラ5の各機能ブロックがハードウェアにより構成された一例について説明したが、これらの機能ブロックは、ソフトウェアにより構成されてもよい。この場合、コントローラ5の各機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0038】
次に、光送信機1の起動時の動作の一例を、図3及び図4を参照して説明する。図3は、光出力イネーブル信号ENと、駆動電流ILDと、温度TTECとの関係の一例を示す図である。図4は、コントローラ5の起動時の動作を示すフローチャートである。なお、図3において、横軸は時間であり、縦軸は、光出力イネーブル信号ENについてはディセーブル状態を示す電圧レベル及びイネーブル状態を示す電圧レベルを示し、駆動電流ILDについては電流[mA]を示し、温度TTECについては温度[℃]を示す。また、この例において、初期電流値Iは0mAであり、目標電流値Iは120mAである。また、この例において、初期温度Tは44℃であり、目標温度Tは40℃である。
【0039】
図4に示されるように、まず光出力イネーブル信号ENのディセーブルからイネーブルへの遷移を光出力イネーブル信号検出部51が検出したか否かの判定が行われる(ステップS01)。図3に示されるように、時間tより前では、光出力イネーブル信号ENはディセーブルであるので、ステップS01の判定において、光出力イネーブル信号ENのディセーブルからイネーブルへの遷移は検出されていないと判定され(ステップS01;No)、再度ステップS01の判定が行われる。次に、時間tにおいて光出力イネーブル信号ENはディセーブルからイネーブルになる。このとき、光出力イネーブル信号検出部51は、光出力イネーブル信号ENがディセーブルからイネーブルになったことを検出するので、ステップS01の判定において、光出力イネーブル信号ENのディセーブルからイネーブルへの遷移が検出されたと判定される(ステップS01;Yes)。そして、光出力イネーブル信号検出部51は、ステップ数算出部52、駆動電流設定部54及び温度設定部56に対して検出信号を送出する。
【0040】
次に、ステップ数算出部52は、光出力イネーブル信号検出部51から検出信号を受け取ったことに応答して、ステップ情報記憶部53からステップ設定周期を示す値及びステップ設定時間を示す値を読み出す(ステップS02)。そして、ステップ数算出部52は、ステップ設定時間τをステップ設定周期τで割ることによって、ステップ数を算出し(ステップS03)、算出したステップ数を示す情報を駆動電流設定部54及び温度設定部56に送出する。
【0041】
また、駆動電流設定部54は、光出力イネーブル信号検出部51から検出信号を受け取ったことに応答して、駆動電流情報記憶部55から第1電流設定値を読み出す(ステップS04)。そして、駆動電流設定部54は、現在の電流設定値である初期電流設定値と第1電流設定値との差を算出し、その差をステップ数で割る。これによって、各ステップ設定周期における電流設定値の増加値を算出する(ステップS05)。
【0042】
一方、温度設定部56は、光出力イネーブル信号検出部51から検出信号を受け取ったことに応答して、TEC温度情報記憶部57から第1温度設定値及び第2温度設定値を読み出す(ステップS06)。そして、温度設定部56は、第1温度設定値と第2温度設定値との差を算出し、その差をステップ数で割る。これによって、各ステップ設定周期における温度設定値の減少値を算出する(ステップS07)。
【0043】
次に、駆動電流設定部54は、電流設定信号Sに増加値を加算し、加算後の電流設定信号SをLDドライバ3に送出する(ステップS08)。また、温度設定部56は、ステップS08が行われるのと同じタイミングで、温度設定信号Sから減少値を減算し、減算後の温度設定信号SをTECドライバ4に送出する(ステップS09)。ここで、電流設定値の増加値に対応する電流値をΔI[mA]、温度設定値の減少値に対応する温度をΔT[℃]とすると、時間tにおいて、駆動電流ILDの電流値は(初期電流値I+ΔI=)ΔI[mA]、温度TTECは(初期温度T−ΔT=)44−ΔT[℃]となる。次に、駆動電流設定部54は、電流設定値が第1電流設定値であるか否かを判定し、温度設定部56は、温度設定値が第2温度設定値であるか否かを判定する(ステップS10)。時間tでは、電流設定値は第1電流設定値でなく、温度設定値は第2温度設定値でないため、駆動電流設定部54及び温度設定部56は、時間tからステップ設定周期τが経過するのを待つ(ステップS11)。
【0044】
次に、時間tからステップ設定周期τが経過した時間tにおいて、駆動電流設定部54は、電流設定信号Sに増加値をさらに加算し、加算後の電流設定信号SをLDドライバ3に送出する(ステップS08)。また、時間tにおいて、温度設定部56は、温度設定信号Sから減少値をさらに減算し、減算後の温度設定信号SをTECドライバ4に送出する(ステップS09)。これにより、時間tにおいて、駆動電流ILDの電流値はΔI×2[mA]となり、温度TTECは44−ΔT×2[℃]となる。次に、駆動電流設定部54は、電流設定値が第1電流設定値であるか否かを判定し、温度設定部56は、温度設定値が第2温度設定値であるか否かを判定する(ステップS10)。時間tでは、電流設定値は第1電流設定値でなく、温度設定値は第2温度設定値でないため(ステップS10;No)、駆動電流設定部54及び温度設定部56は、時間tからステップ設定周期τが経過するのを待つ(ステップS11)。このように、駆動電流設定部54及び温度設定部56は、時間tまでステップS08〜ステップS11の処理を繰り返す。
【0045】
そして、時間tにおいて、駆動電流設定部54は、電流設定信号Sに増加値をさらに加算し、加算後の電流設定信号SをLDドライバ3に送出する(ステップS08)。また、温度設定部56は、温度設定信号Sから減少値をさらに減算し、減算後の温度設定信号SをTECドライバ4に送出する(ステップS09)。これにより、時間tにおいて、駆動電流ILDの電流値は目標電流値I(=120mA)となる。また、時間tにおいて、温度TTECは目標温度T(=40℃)となる。次に、駆動電流設定部54は、電流設定値が第1電流設定値であるか否かを判定し、温度設定部56は、温度設定値が第2温度設定値であるか否かを判定する(ステップS10)。時間tでは、電流設定値は第1電流設定値であり、温度設定値は第2温度設定値であるため(ステップS10;Yes)、駆動電流設定部54は電流設定値を第1電流設定値に固定し、温度設定部56は温度設定値を第2温度設定値に固定して、光送信機1の起動時の動作を終了する。
【0046】
なお、図4では、ステップS04〜ステップS05の処理の後にステップS06〜ステップS07の処理が行われるように記載しているが、ステップS04〜ステップS05の処理とステップS06〜ステップS07の処理とは並列に行われるのが好ましい。また、図4では、ステップS08の処理の後にステップS09の処理が行われるように記載しているが、ステップS08の処理とステップS09の処理並列とは、同じタイミングで並列に行われるのが好ましい。
【0047】
次に、光送信機1の作用効果について説明する。図5は、従来の光送信機100における光出力イネーブル信号ENと、駆動電流ILDと、TECの温度TTECとの関係の一例を示す図である。なお、図5において、横軸は時間であり、縦軸は、光出力イネーブル信号ENについてはディセーブル状態を示す電圧レベル及びイネーブル状態を示す電圧レベルを示し、駆動電流ILDについては電流[mA]を示し、温度TTECについては温度[℃]を示す。また、この比較例において、初期電流値Iは0mAであり、目標電流値Iは120mAである。図5に示されるように、光送信機100では、温度TTECは、起動前から定常状態まで常に一定(例えば40℃)に設定されている。この光送信機100は、時間tにおいて光出力イネーブル信号ENのディセーブルからイネーブルへの遷移を検出したとき、LDの駆動電流ILDをステップ設定周期τごとに段階的に増加する。そして、光送信機100は、時間tから時間tにかけて、LDの駆動電流ILDを初期電流値I(=0mA)から目標電流値I(=120mA)まで段階的に増加する。
【0048】
この光送信機100では、光出力がオフ状態(起動前)におけるLDの温度TLDは、TECの温度TTECにより定められる。そして、光出力のオフ状態からオン状態への遷移に伴い、LDに供給される駆動電流ILDが段階的に増加される。一般的にLDでは、駆動電流が増加するごとにLDの温度が上昇し、駆動電流が減少するごとにLDの温度が下降することが知られている。この光送信機100では、例えば、駆動電流ILDが30mA増加するごとにLDの温度TLDが1℃程度上昇し、駆動電流ILDが30mA減少するごとにLDの温度TLDが1℃程度下降する。このため、駆動電流ILDに応じた発熱による温度とTECによる温度とがLDに加わり、温度TLDは段階的に増加する。そして、温度TLDは、定常状態において、TECによる温度と目標電流値Iに応じた発熱による温度とを合わせて、温度Tとなる。このように、LDの温度TLDは起動前から定常状態になるまでの間で段階的に上昇する。したがって、駆動電流ILDを段階的に増加している間は、定常状態におけるLDの温度Tよりも低くなる。
【0049】
ところで、LDが出力する光信号Pの波長は、LDの温度の影響を受けることが知られている。例えば、LDの発振波長は、温度変化による熱膨張及び屈折率変化等の影響を受ける。また、LDの特性は、ジャンクション部分の温度変化によっても影響を受けると考えられる。光送信機100では、例えば、LDの温度が1℃上昇するごとに、LDが出力する光信号Pの波長は100pm増加し、LDの温度が1℃下降するごとに、LDが出力する光信号Pの波長は100pm減少する。光送信機100では、初期電流値Iは0mAであり、目標電流値Iは120mAであるから、起動直後のLDの温度は定常状態におけるLDの温度よりも4℃程度低くなり、起動直後の光信号Pの波長は、定常状態における光信号Pの波長である目標波長に対して、400pm程度短くなる。駆動電流ILDを段階的に増加していくと、光信号Pの波長は、目標波長に対するずれが小さくなるもののゼロにはならず、段階的に目標波長に近づいていく。
【0050】
この光送信機100がWDMシステムにおいて用いられた場合、光送信機100の起動後、光信号Pのパワーが定常状態になるまでの間において、光送信機100の光信号Pの波長は、定常状態における光信号Pの波長よりも短くなってしまう。WDMシステムでは、互いに僅かに異なる波長の光信号Pを出力する複数の光送信機が用いられ、これらの光送信機から出力される光信号が合波されてデータが送信される。このデータの送信は、光送信機の起動後、定常状態になるまでの期間においても行われる。このため、複数の光送信機のうちのある光送信機100から出力される光信号Pの波長が目標波長からずれると、この波長と他の光送信機から出力される光信号Pの波長とが接近して、正しいデータが送れないことがある。このように、光出力がオフ状態からオン状態に遷移した直後においては、光出力のパワーは定常状態よりも小さいが、隣接チャンネルの別波長の光信号に対して悪影響を与えてしまうことがある。したがって、光出力がオフ状態からオン状態に遷移した直後から、光信号の波長のずれを抑える必要がある。
【0051】
一方、光送信機1では、図3に示されるように、起動前におけるTEC22の温度TTECは、定常状態におけるTEC22の温度TTEC(40℃)よりも高め(44℃)に設定されている。このため、光出力がオフ状態(起動前)におけるLD21の温度TLDは、比較例と比べて4℃程度高い。そして、光出力のオフ状態からオン状態への遷移に伴い、LD21に供給される駆動電流ILDが段階的に増加されると同時に、TEC22の温度TTECが段階的に減少される。このとき、TEC22による温度TTECと駆動電流ILDに応じた発熱による温度とがLD21に加えられるが、TEC22の温度TTECが段階的に減少されるため、LD21の温度TLDはほとんど変化しない。すなわち、駆動電流ILDが段階的に増加される初期においては、駆動電流ILDに応じた発熱による温度が低いので、TEC22の温度TTECによって補うように、温度TTECは高めの温度に制御される。そして、駆動電流ILDが段階的に増加されるにつれて、TEC22の温度TTECは減少され、定常状態において温度TTECは固定される。
【0052】
光送信機1では、起動前の駆動電流ILDの電流値は0mAであり、定常状態における駆動電流ILDの電流値が120mAである。したがって、LD21の温度TLDは、起動前から定常状態までの間に、駆動電流ILDの増加により4℃程度上昇することになる。これに対し、光送信機1では、起動前のTEC22の温度TTECは44℃であり、定常状態におけるTEC22の温度TTECは40℃である。したがって、LD21の温度TLDは、起動前から定常状態までの間に、TEC22の温度TTECの減少により4℃程度下降することになる。LD21の温度TLDは、駆動電流ILDの発熱による温度と、TEC22の温度TTECとに基づいて定められることから、光送信機1では、駆動電流ILDの増加による上昇分とTEC22の温度TTECの減少による下降分とが相殺される。このため、LD21の温度TLDは、起動前から定常状態までの間でほとんど変化しない。その結果、起動時から定常状態までの間においても、光送信機1から出力される光信号Pの波長の変化を抑制でき、WDMシステムにおいてデータの誤送信を抑制することが可能となる。
【0053】
また、光送信機1では、駆動電流ILDの増加とTEC22の温度TTECの減少とを同じタイミングで行っている。これにより、駆動電流ILDの増加による温度TLDの上昇と、TEC22の温度TTECの減少による温度TLDの下降が同じタイミングで生じるため、温度TLDの変化がさらに抑えられる。その結果、起動時から定常状態までの間において、光送信機1から出力される光信号Pの波長の変化を抑制でき、より安定した波長の光信号Pが出力可能となる。
【0054】
なお、本発明に係る光送信機は上記実施形態に記載したものに限定されない。例えば、上記実施形態では、発光素子としてLDが用いられているが、LED(Light Emitting Diode)等の他の発光素子が用いられてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、光出力のオフ状態からオン状態への遷移を指示する指示信号として、光出力イネーブル信号ENが用いられているが、光出力ディセーブル信号が用いられてもよい。この場合、光出力イネーブル信号検出部51は、光出力ディセーブル信号がイネーブルからディセーブルに遷移したことを検出し、この遷移を検出したことに応答してステップ数算出部52、駆動電流設定部54及び温度設定部56に検出信号を送出してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、光出力イネーブル信号検出部51によって光出力イネーブル信号ENがディセーブルからイネーブルに遷移したことを検出したことに応じて、ステップ数算出部52がステップ数を算出しているが、ステップ数算出部52は予めステップ数を算出しておいてもよい。また、固定のステップ数をRAM等に記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ5は、ステップ数算出部52及びステップ情報記憶部53を備える必要はない。
【0057】
また、上記実施形態では、電流設定値が増加されることにより、LDドライバ3は駆動電流ILDを増加しているが、電流設定値が減少されることにより、LDドライバ3は駆動電流ILDを増加してもよい。すなわち、電流設定信号Sは、LDドライバ3に駆動電流ILDを増加させ、減少させることができれば、如何なる信号であってもよい。また、上記実施形態では、温度設定値が減少されることにより、TECドライバ4はTEC22の温度TTECを減少しているが、温度設定値が増加されることにより、TECドライバ4はTEC22の温度TTECを減少してもよい。すなわち、温度設定信号Sは、TECドライバ4にTEC22の温度TTECを増加させ、減少させることができれば、如何なる信号であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、駆動電流ILDの増加とTEC22の温度TTECの減少とが同じタイミングで行われるが、異なるタイミングで行われてもよい。また、TEC22の温度TTECの減少は、段階的に行う必要はなく、連続的に減少させてもよい。光出力イネーブル信号ENがディセーブルからイネーブルに遷移したときからステップ設定時間内にTEC22の温度TTECが目標温度Tに達するのであれば、どのようなタイミングで初期温度Tから目標温度Tまで減少させてもよい。
【0059】
また、初期温度T(第1温度設定値)としては、サンプリングによって最適な値が設定されてもよく、LD21の特性に応じて個々に最適な値が設定されてもよい。例えば、起動前のLD21の温度と定常状態でのLD21の温度とを比較してその温度差を算出しておき、初期温度Tを目標温度Tよりも算出した温度差だけ高く設定する。あるいは、LD21の光信号Pの波長を測定して、光出力がオフ状態からオン状態に遷移した直後の光信号Pの波長と定常状態における光信号Pの波長とが同程度になるように、初期温度Tを設定する。すなわち、初期温度Tは、光出力がオフ状態からオン状態に遷移した直後において、光信号Pの波長の目標波長からのずれを補正するのに必要な温度に設定される。
【0060】
また、TEC温度情報記憶部57は、LDの種類に対応付けて第1温度設定値及び第2温度設定値を記憶しておき、温度設定部56がLD21の種類に対応した第1温度設定値及び第2温度設定値を読み出すようにしてもよい。これに対しては、予め製造工程等において、光送信機1に用いられるLDの種類に対応したソフトウェアに書き換えることによって実現することができる。これによれば、光送信機1は、LDの種類に応じてTEC22の温度を制御でき、LD21の温度TLDを、起動前から定常状態までの間、略一定に保つことができる。その結果、起動時から定常状態までの間において、光送信機1から出力される光信号Pの波長の変化を抑制でき、より安定した波長の光信号Pが出力可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1…光送信機、3…LDドライバ(第1ドライバ)、4…TECドライバ(第2ドライバ)、5…コントローラ、21…LD(発光素子)、22…TEC(熱電素子)、23…サーミスタ(温度モニタ素子)、51…光出力イネーブル信号検出部(指示信号検出手段)、52…ステップ数算出部(ステップ数算出手段)、53…ステップ情報記憶部(第3記憶手段)、54…駆動電流設定部(駆動電流設定手段)、55…駆動電流情報記憶部(第1記憶手段)、56…温度設定部(温度設定手段)、57…TEC温度情報記憶部(第2記憶手段)。
図1
図2
図3
図4
図5