(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の長さの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0011】
又、以下に示す第1及び第2の実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る半導体装置1は、
図1に示すように、シリコン基板10と、シリコン基板10上に隣接するように配置された、不純物としてシリコンがドープされた窒化アルミニウム層(以下において、「SiドープAlN層」という。)20と、SiドープAlN層20上に配置された、複数の窒化物半導体膜31が積層された構造のバッファ層30と、バッファ層30上に配置された、窒化物半導体からなる半導体機能層40とを備える。
【0013】
バッファ層30は、互いに組成が異なる複数のAl
XGa
1-XN(0≦X≦1)膜が隣接して配置された多層膜が周期的に積層された構造を有する。複数の窒化物半導体膜31は、例えばノンドープのAl
XGa
1-XN膜であるが、不純物を添加してもよい。ここで「ノンドープ」とは、不純物が意図的に添加されていないことを意味する。なお、バッファ層30を構成する窒化物半導体膜31の繰り返し数や膜厚などには、特に制限はない。
【0014】
例えば、バッファ層30は、Al
X1Ga
1-X1N膜とAl
X2Ga
1-X2N膜とが交互に積層された構造を採用可能である(0≦X2<1、X2<X1≦1)。より具体的には、例えば
図2(a)に示すように、膜厚5nm程度のAlN膜と膜厚20nm程度のGaN膜とを交互に積層してバッファ層30を形成できる。
【0015】
或いは、Al
X1Ga
1-X1N膜とAl
X2Ga
1-X2N膜のペアを積層した積層体上にAlGaN膜を配置した構造をバッファ層30に使用可能である。例えば、
図2(b)に示すような、AlN膜とGaN膜とが交互に積層されたペアを10ペア程度重ねた積層体300上にGaN膜を配置した積層構造を構成し、この積層構造を周期的に繰り返すことによって、バッファ層30を形成してもよい。AlN膜とGaN膜の膜厚は5nm程度であり、積層体300上に配置されるGaN膜の膜厚は200nm程度である。
図2(b)に示した積層構造を採用することにより、バッファ層30の膜厚をより厚くすることができる。
【0016】
シリコン基板10上に形成される、SiドープAlN層20、バッファ層30及び半導体機能層40からなる窒化物半導体層の総膜厚は5μm程度以上であることが好ましい。これは、半導体装置1を、例えば耐圧が300V以上の高耐圧デバイスにするためである。
【0017】
以下に、SiドープAlN層20の膜厚について説明する。
【0018】
窒化物半導体膜の成長は1000℃以上の高温で行われるため、窒化物半導体膜を厚く成長させるためには、高温での熱処理を長く行う必要がある。この熱処理によって、バッファ層30及び半導体機能層40の形成時に、SiドープAlN層20中をバッファ層30からのガリウム(Ga)原子が拡散する。このため、熱処理を長く行うことによって、SiドープAlN層20中に拡散したGa原子がシリコン基板10に到達し、Ga原子とシリコン基板10中のSi原子が反応するメルトバックが生じる。
【0019】
SiドープAlN層20を厚くすることにより、メルトバックを生じさせずに窒化物半導体層の膜厚を厚くすることができる。しかし、膜厚を厚くすることによって、窒化物半導体層にクラックが生じる可能性が高くなる。このため、SiドープAlN層20の膜厚は、300nm以下程度であることが好ましい。
【0020】
一方、メルトバックを生じさせずに膜厚が5μm程度の窒化物半導体層を形成するためには、SiドープAlN層20の膜厚は数十nm程度が必要である。
【0021】
したがって、高耐圧の半導体装置1を実現するためには、SiドープAlN層20の膜厚は、20nm〜300nm程度であることが好ましい。更に、メルトバックの発生及びクラックの発生をより確実に抑制するためには、SiドープAlN層20の膜厚が、100nm〜150nm程度であることが好ましい。なお、SiドープAlN層20に加わる電界は、SiをドープしないAlN層に比べて低くなる。このため、電界の面からのSiドープAlN層20の膜厚に対する制限を考慮する必要はない。
【0022】
従来から、シリコン基板を用いて窒化物半導体からなる機能層を結晶性良く、且つ平坦性良く形成するために、シリコン基板と機能層間にバッファ層を配置することが行われている。Al組成の異なるAlGaN膜を複数組み合わせ、各膜を適切な膜厚に設計することによって、窒化物半導体からなる高電子移動度トランジスタ(HEMT)やショットキーバリアダイオード(SBD)といった半導体素子を形成可能な表面が平坦なバッファ層を実現できる。
【0023】
例えば、
図3に示す比較例のように、シリコン基板10上にAlN層20Aを配置し、AlN層20A上にバッファ層30及び半導体機能層40を配置して、半導体装置が形成される。バッファ層30の構造を工夫してバッファ層30の膜厚を厚くすることにより、半導体装置の破壊耐圧も飛躍的に向上されてきた。
【0024】
高耐圧パワースイッチング素子などでは、リーク電流の低減と高耐圧化が求められている。これらを実現する手段の一つとして、AlN層20Aの膜厚を厚くする方法がある。
【0025】
しかしながら、AlN層20Aの膜厚を厚くした場合に、半導体装置の初期特性は良くても、信頼性が低下する問題が生じることを本発明者らは新たな知見として得た。本発明者らは、この信頼性の低下の原因として、シリコン基板10上に最初に形成されるAlN層20Aの表面の平坦性が大きく影響することを、以下のように見出した。
【0026】
シリコン基板上に最初に形成するAlN層は、Siと窒化物半導体との格子定数の差に起因して、平坦に成長させることが困難である。一般的に、半導体装置の機能層の表面にピットが存在すると、特性が悪化する。このため、シリコン基板上に平坦な窒化物半導体層を形成する努力が行われている。
【0027】
しかし、シリコン基板上に最初に形成されるAlN層の平坦性については、これまで重要視されてこなかった。これは、
図4に示すように、表面にピット21が形成されてAlN層20Aの平坦性が悪くても、AlN層20A上に形成されるバッファ層30によって半導体機能層40が形成される面を平坦化できるためである。更に、AlN層20Aの平坦性が悪くても、AlN層20Aを厚く形成することによって破壊耐圧を向上させることができると考えられてきたためである。
【0028】
しかしながら、その絶縁性に起因して、AlN層20Aには高電界が加わる。そして、AlN層20Aの平坦性が悪い場合には、薄くなっている箇所に更に電界が集中する。
【0029】
例えば、AlN層20Aの平坦部分の膜厚が250nmであるときに、部分的に膜厚が200nmの箇所があるとする。AlN層20Aに60Vの電圧が加わると、厚い箇所には2.4×10
6V/cm程度の電界が加わるのに対し、薄い箇所には3×10
6V/cm程度の電界が加わる。ここで、AlN層20A上のバッファ層30はAlN層20Aに比較すると低抵抗であるため、AlN層20Aには均一に電圧が加わっていると考えられる。このとき、バッファ層30及び半導体機能層40に加わる電界は、1×10
6V/cm程度である。
【0030】
GaN膜の絶縁破壊電界は4×10
6V/cm程度、AlN膜の絶縁破壊電界は2〜11.7×10
6V/cm程度である。したがって、バッファ層30及び半導体機能層40に加わる電界は、絶縁破壊電界の1/4程度である。
【0031】
一方、シリコン基板10上のAlN層20Aには、絶縁破壊電界である11.7×10
6V/cmの1/4程度の電界が加わると考えられるが、実際に形成されるAlN層20Aは欠陥密度の高い膜であり、AlN層20Aの絶縁破壊電界は11.7×10
6V/cmよりも小さいと予想される。そのため、AlN層20Aには絶縁破壊電界に近い電界が加わっていると推定される。
【0032】
AlN層20Aの薄くなっている箇所に電界が更に集中するため、膜厚の薄い箇所にリーク電流が集中する。これは、バッファ層30を構成する互いに組成が異なる窒化物半導体膜間にヘテロ界面が形成され、ヘテロ界面で発生するキャリアが界面と平行に移動できる程度の導電性をバッファ層30が有するためである。絶縁破壊電界に近い電界が加わっている領域にリーク電流が集中することにより、AlN層20Aの劣化が進行し、半導体装置は短時間で破壊され、このため、信頼性は低い。
【0033】
したがって、平坦性が高く、一部分にリーク電流が集中することのないAlN層20Aを形成することが望まれる。しかしながら、シリコン基板10とAlN層20Aとに格子定数の差があることに加え、オン抵抗低減化に伴い素子サイズが数mm角と大きくなっているため、このような広い領域全体で平坦なAlN層20Aを形成することは困難である。
【0034】
一方、
図1に示した半導体装置1によれば、SiドープAlN層20をシリコン基板10上に形成することにより、一部分にリーク電流が集中して流れることに起因して半導体装置が短時間で破壊することを防止できる。
【0035】
既に述べたように、SiがドープされていないAlN層20Aを用いた場合、部分的に高電界が加わっている箇所にリーク電流が集中する。これに対し、半導体装置1では、SiがドープされていないAlN層20Aと比較して、SiドープAlN層20に加わる電界が緩和される。このため、リーク電流が特定の箇所に集中することはない。したがって、SiドープAlN層20が短時間で破壊されることが防止される。その結果、素子耐圧は低下するが、半導体装置1の寿命が改善される。
【0036】
SiドープAlN層20にドープされるSi濃度は、1×10
18〜1×10
21cm
-3程度であることが好ましい。シリコン濃度が低すぎると、SiドープAlN層20に加わる電界の緩和が不十分になる。一方、シリコン濃度が高すぎると、SiドープAlN層20において結晶品質が低下する。SiドープAlN層20のSi濃度は、半導体装置1に要求される特性に応じて、任意の分布を持たせてもよい。
【0037】
SiをドープしていないAlN層20Aを用いた半導体装置の半導体機能層40上にチタンアルミニウム(TiAl)電極を形成し、このTiAl電極とシリコン基板10間に電圧を印加した場合の発光状態を、
図5に示す。SiをドープしていないAlN層20Aを用いた場合には、
図5に示すように局所的に光るドット光が多く発生しており、リーク電流がいくつかの箇所に集中して流れていることが分かる。なお、
図5は半導体機能層40の表面を観察した写真である。TiAl電極とシリコン基板10間に印加した電圧は600Vであり、TiAl電極とシリコン基板10間に流れる電流は100μAである。
【0038】
一方、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置1の半導体機能層40上にTiAl電極を形成し、このTiAl電極とシリコン基板10間に電圧を印加した場合の発光状態の例を、
図6に示す。
図6は半導体機能層40の表面を観察した写真である。TiAl電極とシリコン基板10間に印加した電圧は600Vである。なお、SiドープAlN層20にドープされたSiの濃度は1×10
19cm
-3である。
【0039】
図6に示すように、SiをドープしたSiドープAlN層20を用いた場合には、半導体機能層40の表面にドット状の発光は見られない。したがって、SiドープAlN層20を用いた半導体装置1では、リーク電流が集中して流れないことが分かる。なお、
図5と
図6は、半導体機能層40がAlGaN層とGaN層とを積層したHEMT構造である場合の例を示した。
【0040】
上記のように、シリコン基板10とバッファ層30との間にSiドープAlN層20を配置することにより、部分的にリーク電流が集中して流れることが防止され、半導体装置1の寿命を改善することができる。
【0041】
シリコン基板10上にSiドープAlN層20及びバッファ層30が形成された構造を有する半導体ウェハを用意し、バッファ層30上に所定の半導体機能層40を形成することによって、所望の機能を有する半導体装置1を実現できる。例えば、半導体装置1は、HEMTやSBDなどである。
【0042】
半導体装置1がHEMTである場合には、
図7に示すように半導体装置1を構成する。即ち、キャリア走行層41とキャリア供給層42とによって半導体機能層40を構成する。そして、半導体機能層40上にソース電極51とドレイン電極52を互いに離間して配置し、ソース電極51とドレイン電極52間にゲート電極53を配置する。
図7に示す半導体装置1では、キャリア走行層41とキャリア供給層42間のヘテロ接合面近傍のキャリア走行層41に、電流通路(チャネル)としての二次元キャリアガス層43が形成される。
【0043】
キャリア走行層41は、例えばノンドープ又は不純物を添加したGaNを2000nm程度の厚みに、有機金属気相成長(MOCVD)法等によりエピタキシャル成長させて形成する。
【0044】
キャリア供給層42は、キャリア走行層41よりもバンドギャップが大きく、且つキャリア走行層41と格子定数の異なる窒化物半導体からなる。キャリア供給層42は、例えばAl
xGa
yM
1-x-yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y≦1、Mはインジウム(In)或いはボロン(B)等)で表される窒化物半導体である。また、キャリア供給層42としてノンドープのAl
xGa
1-xNも採用可能である。更に、n型不純物又はp型不純物を添加したAl
xGa
1-xNからなる窒化物半導体もキャリア供給層42に採用可能である。更に、キャリア走行層41とキャリア供給層42の格子定数を同一にしてもよい。キャリア供給層42の膜厚は10〜50nm程度、例えば20nm程度である。キャリア供給層42上に、ソース電極51、ドレイン電極52、ゲート電極53が配置されている。
【0045】
また、半導体装置1によってSBDを実現するためには、
図8に示す構造を採用できる。即ち、HEMTの場合と同様に、例えばGaN膜からなるキャリア走行層41とAlGaN膜からなるキャリア供給層42とによって、半導体機能層40を構成する。そして、半導体機能層40上にアノード電極61とカソード電極62を互いに離間して配置する。アノード電極61とキャリア供給層42との間にショットキー接合が形成され、カソード電極62とキャリア供給層42との間にオーミック接合が形成される。
図8に示した半導体装置1では、二次元キャリアガス層43を介して、アノード電極61とカソード電極62間に電流が流れる。
【0046】
以上に説明したように、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置1では、シリコン基板10とバッファ層30との間にSiドープAlN層20を配置することにより、SiドープAlN層20の平坦性の低さに起因してリーク電流が部分的に集中して流れることが抑制される。このため、半導体装置1によれば、シリコン基板10直上の窒化物半導体層の平坦性が低いことによる信頼性の低下が抑制され、寿命が改善された半導体装置を提供できる。
【0047】
本発明の第1の実施形態に係る半導体装置1は、例えば300V以上の高耐圧用半導体素子として、HEMTやSBDなどに採用できる。
【0048】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る半導体装置1では、
図9に示すように、SiドープAlN層20が、第1の濃度でシリコンがドープされた第1の窒化アルミニウム(AlN)領域201と、第1の濃度よりも低い第2の濃度でシリコンがドープされた第2の窒化アルミニウム(AlN)領域202とを有する。即ち、SiドープAlN層20が、ドープされたSiの濃度が異なる複数の領域が積層された構造を有することが、
図1に示した半導体装置1と異なる点である。その他の構成については、第1の実施形態と同様である。
【0049】
第1のAlN領域201にドープされるシリコンの濃度は、例えば1×10
18cm
-3以上且つ1×10
21cm
-3以下である。一方、第2のAlN領域202にドープされるシリコンの濃度は、例えば1×10
17cm
-3以下である。ただし、第1のAlN領域201にドープされるシリコンの濃度が、第2のAlN領域202にドープされるシリコンの濃度よりも高ければよい。例えば第1のAlN領域201にドープされるシリコンの濃度が1×10
21cm
-3である場合に、第2のAlN領域202にドープされるシリコンの濃度を1×10
19cm
-3にする。また、第2のAlN領域202にSiをドープしなくてもよい。
【0050】
図9に示した例は、SiドープAlN層20が、複数の第1のAlN領域201と複数の第2のAlN領域202とが交互に積層された構造である。積層する回数は、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202の積層体のトータルの膜厚が、SiドープAlN層20の所定の膜厚を超えないように設定される。既に述べたように、SiドープAlN層20の膜厚は、20nm以上且つ300nm以下であることが好ましい。なお、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202とが1層ずつでもよい。
【0051】
Siがドープされることによって、SiドープAlN層20は結晶が硬くなる。このため、クラックやピットを生じやすくなり、SiドープAlN層20の結晶品質が低下する。
図9に示した構造を採用し、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202を積層することによって、第1のAlN領域201内で低下した結晶品質が第2のAlN領域202内で改善される。そのため、SiドープAlN層20の膜厚方向にSiが均一にドープされた場合に比べて、
図9に示した半導体装置1のSiドープAlN層20の結晶品質がよい。これにより、バッファ層30及び半導体機能層40の結晶品質が改善される。その結果、より優れた移動度などの特性を備えた半導体装置1が得られる。
【0052】
図9に示した例では、シリコン基板10に接して第1のAlN領域201が配置され、バッファ層30に接して第2のAlN領域202が配置されている。Si濃度が高くなるとAlN層の結晶品質が低下するが、電界緩和効果が高くなる。したがって、
図9に示した半導体装置1では、シリコン基板10に接する第1のAlN領域201の結晶品質は低いが、バッファ層30に接する第2のAlN領域202を成長させることにより、SiドープAlN層20の結晶品質が改善される。このとき、第1のAlN領域201を形成することにより、SiドープAlN層20に発生する電界が緩和され、半導体装置1の耐圧信頼性が改善される。
【0053】
一方、
図10に示すように、シリコン基板10に接して第2のAlN領域202を配置し、バッファ層30に接して第1のAlN領域201を配置してもよい。
図10に示した構造を採用した場合、シリコン基板10と第2のAlN領域202との界面における結晶品質がよく、第2のAlN領域202上の第1のAlN領域201を、比較的よい結晶品質で形成することができる。
【0054】
図11に示すように、シリコン基板10とバッファ層30のそれぞれに接して第1のAlN領域201を配置してもよい。
図11に示した構造を採用することによって、SiドープAlN層20内部にSi濃度が低く高抵抗な領域である第2のAlN領域202を備えつつ、SiドープAlN層20とシリコン基板10との界面、及び、SiドープAlN層20とバッファ層30との界面は、Si濃度が高い第1のAlN領域201により形成される。その結果、界面におけるピット部分に電界が集中することを効果的に緩和することができる。
【0055】
また、
図12に示すように、シリコン基板10とバッファ層30のそれぞれに接して第2のAlN領域202を配置してもよい。
図12に示した構造を採用することによって、第1のAlN領域201内で低下した結晶品質を、バッファ層30に接する第2のAlN領域202内で改善することができる。
【0056】
なお、SiドープAlN層20が複数の第1のAlN領域201を有する場合に、複数の第1のAlN領域201にそれぞれドープされるSiの濃度は同じであってもよいし、第1のAlN領域201毎にSiの濃度が異なっていてもよい。また、SiドープAlN層20が複数の第2のAlN領域202を有する場合に、複数の第2のAlN領域202にそれぞれドープされるSiの濃度は同じであってもよいし、第2のAlN領域202毎にSiの濃度が異なっていてもよい。つまり、SiドープAlN層20において、Siの濃度が高い領域と低い領域とが交互に配置されていればよい。
【0057】
Siの濃度が低い第2のAlN領域202は、それ自体の導電性は低い。このため、膜厚を薄く設計することが好ましい。例えば、第2のAlN領域202の膜厚を10nm以下にする。この場合、キャリアのトンネル効果により、第2のAlN領域202の膜厚方向にキャリアが容易に移動できる。そのため、電界の集中によって破壊されない程度に良好な導電性を有するSiドープAlN層20を実現することができる。
【0058】
また、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202の膜厚をそれぞれ2nm〜5nm程度にすれば、キャリアのトンネル効果によって、良好な導電性を有するSiドープAlN層20を実現できる。つまり、Siのドープ量を下げても良好な導電性を有し、且つSiのドープ量の低下によって結晶品質が改善された半導体装置1を実現できる。
【0059】
シリコン基板10上に最初に成長されるAlN領域の不純物(Si)のドープ量が少ない場合(或いはノンドープの場合)、成長初期の結晶品質と平坦性が向上する。その影響はその後の積層膜すべてに影響し、半導体装置1の特性向上につながる。SiドープAlN層20の途中に、不純物(Si)のドープ量が少ない領域(或いはノンドープの領域)を形成することによっても、同様の効果が得られる。
【0060】
本発明の第2の実施形態に係る半導体装置1では、SiドープAlN層20におけるSiの濃度が膜厚方向に沿って変化する。これにより、膜厚方向にSiが均一にドープされた場合よりも、半導体装置1の特性や信頼性を向上させることができる。即ち、SiドープAlN層20内にSiのドープ量が少ない、或いはノンドープの領域を膜厚方向に沿って1箇所以上形成することにより、SiドープAlN層20全体の結晶品質を改善することができる。更に、Siのドープ量が多い領域によって、SiドープAlN層20に発生する電界が緩和される。その結果、半導体装置1の初期特性を改善させつつ、耐圧信頼性を向上できる。他は、第1の実施形態と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。
【0061】
シリコン基板10を化学気相成長(CVD)装置内に設置して、トリメチルガリウム(TMG)、アンモニア(NH
3)及びモノシラン(SiH
4)やジクロロシラン(SiH
2Cl
2)の各気相供給量を適宜調整しながら、シリコン基板10上にSiドープAlN層20を形成できる。アンモニア(NH
3)の流量の切り替え、成長温度の切り替え、パルス成長と連続成長の切り替えなどによって、Siの濃度が異なる第1のAlN領域201と第2のAlN領域202を交互に積層することができる。なお、「パルス成長」とは、Al原料(TMAなど)や窒素原料(アンモニアなど)を断続的に供給する成長方法である。
【0062】
シリコン基板10上に最初に形成されるAlN膜の不純物(Si)のドープ量が多い場合は、シリコン基板10の表面に島状のAlN膜が成長する「3次元成長」が生じる。しかし、この3次元成長したAlN膜を利用することにより、SiドープAlN層20の結晶品質を向上させることも可能である。3次元成長したAlN膜上に、横方向成長しやすい成膜条件でAlN膜を形成することにより、横方向成長を利用した転位密度低減効果が得られる。また、シリコン基板10上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることにより生じる歪みを緩和する効果も同時に得られる。横方向成長しやすい成膜条件としては、不純物のドープ量を小さくする(または、ノンドープ)、成膜温度を上げる、水素ガス比率を上げる、Al原料や窒素原料を断続的に供給する、などがある。
【0063】
<変形例>
図13に示すように、SiドープAlN層20が、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202との間に配置された中間窒化アルミニウム(AlN)領域203を備える構造であってもよい。中間AlN領域203には、第1のAlN領域201のSi濃度よりも低く、且つ第2のAlN領域202のSi濃度よりも高い中間濃度でシリコンがドープされている。
【0064】
中間AlN領域203が存在せず、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202とが交互に配置されている場合には、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202との界面でのみ、結晶の歪が緩和される。一方、
図13に示した構造を採用することによって、第1のAlN領域201と中間AlN領域203との界面、及び、第2のAlN領域202と中間AlN領域203との界面において、それぞれ結晶の歪みが緩和される。つまり、歪みを緩和する領域が増えることにより、半導体装置1の信頼性が向上する。
【0065】
なお、第1のAlN領域201と第2のAlN領域202との間に複数の中間AlN領域203を配置してもよい。Si濃度が異なる複数の中間AlN領域203を、Si濃度が膜厚方向に沿って徐々に変化するように第1のAlN領域201と第2のAlN領域202との間に配置することにより、SiドープAlN層20におけるSi濃度の変化は緩やかになる。Siのドープ量に応じてAlN膜の硬度や結晶歪が変化する。このため、中間AlN領域203によってSi濃度の変化を緩やかにすることにより、SiドープAlN層20内に隣接して配置されたSi濃度の異なる領域間の歪みが緩和され、クラックの発生を抑制できる。
【0066】
或いは、SiドープAlN層20内のSi濃度を膜厚方向に沿って連続的に変化させてもよい。例えば、
図14に示すSiドープAlN層20において、シリコン基板10に接する領域210のSi濃度が高く、バッファ層30に接する領域220のSi濃度が低いように、膜厚方向に沿ってSi濃度を徐々に変化させる。例えば、Si濃度が高い領域210のSi濃度は1×10
18cm
-3〜1×10
21cm
-3程度、Si濃度が低い領域220のSi濃度は1×10
17cm
-3以下程度に設定される。
【0067】
図14に示したSiドープAlN層20においては、
図15に示すように、SiドープAlN層20のSi濃度は傾斜をもって変化する。これに対し、例えば
図9に示した構造のSiドープAlN層20のSi濃度は、
図16に示すように階段状に変化する。
【0068】
上記のようにSi濃度を膜厚方向に沿って連続的に変化させる傾斜ドーピングによって、SiドープAlN層20内の歪みが緩和され、クラックの発生を抑制できる。
【0069】
なお、シリコン基板10に接する領域210のSi濃度が低く、バッファ層30に接する領域220のSi濃度が高いように、SiドープAlN層20内のSi濃度を膜厚方向に沿って連続的に変化させてもよい。
【0070】
発明者らの実験において、良好な導電性を有し、且つ結晶品質が改善された半導体装置1を実現することについて効果的だったのは、不純物としてSiをドープした領域(第1のAlN領域201)とノンドープの領域(第2のAlN領域202)とを交互に積層した構造において、それぞれの領域の厚みを10nm以下、更に好ましくは5nm以下にしたときである。各領域の厚みが10nm以下のときに、トンネル効果によりキャリアの積層方向の移動が容易になり、導電性が向上する。そのため、Siのドープ量を少なくして結晶品質を向上させつつ、所望の導電性が得られる。各領域の厚みが5nm以下の場合に、より効果的である。
【0071】
また、この構造において、シリコン基板10に近づくほどSiのドープ量を増やすことで、クラックの発生を抑制して良好な結晶品質が得られる。これは、先に述べたようにシリコン基板10付近のドープ量が増えることによりAlN膜の3次元成長が助長され、それを利用した横方向成長による転位密度低減とクラック発生の抑制が可能だからである。
【0072】
上記のように、本発明は第1及び第2の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。即ち、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。