【文献】
          Tsai-Pi Hung, Jeremy Rode, Lawrence E. Larson, Peter M. Asbeck,Design of H-Bridge Class-D Power Amplifiers for Digital Pulse Modulation Transmitters,IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND THCHNIQUES,2007年12月,vol.55, no.12,pp.2845-2855
        
        【文献】
          Sung-Rok Yoon, Sin-Chong Park,All-Digital Transmitter Architecture based on Bandpass Delta-Sigma Modulator,Communications and Information Technology, 2009. ISCIT 2009. 9th International Symposium on,2009年  9月,pp.703-706
        
        【文献】
          Martin Schmidt,Stefan Heck,Ingo Dettmann,Dirk Wiegner, Wolfgang Templ,Continuous-Time Bandpass Delta-Sigma Modulator for a Signal Frequency of 2.2GHz,German Microwave Conference,2009,2009年  3月,pp.1-4
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
  以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.通信システム]
  
図1は、実施形態に係る通信システム1を示している。通信システム1は、送信機2と、受信機3と、を有している。通信システム1は、伝送路4が光ファイバ(光伝送路)である光ファイバ通信システムとして構成されている。
  送信機2は、例えば、PON(Passive Optical Network)におけるOLT(局側装置)として用いることができる。受信機3は、例えば、PONにおけるONU(宅側装置)として用いることができる。
  なお、通信システムとしては、光ファイバ通信システムに限られるものではない。例えば、伝送路4は、光ファイバ(光伝送路)ではなく、電気ケーブル(電気伝送路)であってもよい。
 
【0030】
  送信機2は、デジタル信号処理部21を備えている。デジタル信号処理部21は、デジタル信号である量子化信号(ここでは、1ビット量子化信号;パルス信号)を出力する。デジタル信号処理部21は、量子化信号の出力部である電気−光変換器(光リンク)22によって、光伝送路4に出力される。なお、伝送路4が電気伝送路である場合には、出力部22は、量子化信号の電圧を変換する変換器であってもよい。また、電圧などの変換が必要ない場合には、伝送路4への接続端子が出力部であるとみなされる。
 
【0031】
  デジタル信号処理部21は、送信信号であるベースバンド信号(IQ信号)を出力するベースバンド部23と、ベースバンド信号を直交変調する直交変調器24と、バンドパス型ΔΣ変調器25と、を備えている。
 
【0032】
  ベースバンド部23は、IQベースバンド信号(I信号、Q信号それぞれ)をデジタルデータとして出力する。
  直交変調器24では、搬送波(無変調波)をIQベースバンド信号の変化に応じて変調させて、搬送波にIQベースバンド信号が付加された変調波(直交変調波)を出力する。直交変調器24は、デジタル信号処理で直交変調を行うデジタル直交変調器として構成されている。したがって、直交変調器24からは、多ビットのデジタルデータ(離散値)によって表現されたデジタル信号形式の変調波(デジタル変調波)が出力される。出力された変調波は、バンドパス型ΔΣ変調器25に与えられる。
 
【0033】
  前記搬送波の周波数は、通常の無線周波数を採用できる。無線周波数としては、好ましくは30MHz以上、より好ましくは300MHz以上、さらに好ましくは1GHz以上である。
  変調波の信号帯域幅も、特に限定されないが、搬送波周波数に対して十分小さい狭帯域であるのが好ましい。信号帯域幅は、例えば、5MHz〜20MHzの範囲が好ましい。
 
【0034】
  なお、変調波を生成する変調器24としては、直交変調器に限らず、変調波を生成するための他の方式の変調器であってもよい。
  また、実施形態に係る送信機2は、直交変調器24を有しているため、送信機2自体が、搬送波を生成する機能を有しているが、搬送波を生成する機能を有していなくてもよい。例えば、送信機2は、送信機2の外部装置にて生成された搬送波を入力として受け付け、その搬送波をバンドパス型ΔΣ変調器25に与えても良い。
 
【0035】
  バンドパス型ΔΣ変調器25は、直交変調器24から出力された変調信号に対して、バンドパス型ΔΣ変調を行って1bitの量子化信号(パルス信号)を出力する。バンドパス型ΔΣ変調器25は、その中心周波数が、前記搬送波の周波数と一致するように設定されている。
  なお、バンドパス型ΔΣ変調器25から出力される量子化信号は、1bitである必要はない。ΔΣ変調器25から出力される量子化信号は、ΔΣ変調器25に入力されたデジタルデータのビット数よりも少なければよい。
 
【0036】
  バンドパス型ΔΣ変調器25(デジタル信号処理部21)から出力された量子化信号(ΔΣ変調信号)は、電気−光変換器22によって光パルス信号に変換される。当該量子化信号は、変調波として伝送路4に出力される。
  受信機3側では、この量子化信号(パルス信号)からアナログ信号の変調波を取得することができる。なお、ΔΣ変調については、後述する。
 
【0037】
  本実施形態の送信機2では、直交変調器24及びバンドパス型ΔΣ変調器25はいずれもデジタル信号処理によって変調を行うデジタル回路として構成されている。したがって、高周波である変調波を扱いつつも、電気−光変換器22の手前においてアナログ回路を用いる必要がなく有利である。なお、バンドパス型ΔΣ変調器25には、デジタル信号に代えて、アナログ信号を入力しても、同様にパルス信号を出力できるため、直交変調器24をアナログ回路で構成することもできる。
 
【0038】
  受信機3は、光−電気変換器31と、アナログバンドバスフィルタ32と、アナログ回路33と、を備えている。
  受信機3は、伝送路4から送信されてきた光パルス信号(量子化信号)を、入力部としての光−電気変換器31にて受信する。光−電気変換器31は、受信した光パルス信号を電気パルス信号に変換して出力する。
 
【0039】
  なお、伝送路4が電気伝送路である場合には、入力部31は、量子化信号の電圧を変換する変換器であってもよい。また、電圧などの変換が必要ない場合には、伝送路4への接続端子が入力部であるとみなされる。
  また、入力部31では、伝送路4から受信した信号を、基準値と比較することで、伝送路4において信号を整形した信号を得ても良い。
 
【0040】
  アナログバンドパスフィルタ32は、前記搬送波の周波数を中心周波数とする通過帯域が設定されており、前記搬送波の周波数付近の帯域(送信信号の帯域よりやや広い帯域)を通過させる。
  例えば、送信機2の直交変調器24に用いられた搬送波周波数が1GHzであれば、バンドパスフィルタ32は、1GHzが通過帯域の中心周波数として設定される。
  なお、アナログバンドフィルタ32は、ΔΣ変調によってノイズシェイピング(後述)された量子化雑音を除去する。
 
【0041】
  バンドパスフィルタ32の入力に、変調波に対してΔΣ変調を行って得られた量子化信号(ΔΣ変調信号)を与えると、バンドパスフィルタ32の出力からは、変調波がアナログ信号(連続波)として出力される。つまり、アナログバンドパスフィルタ32は、バンドパス型ΔΣ変調器25に入力されたデジタルRF信号に対応するアナログRF信号を生成して出力する。
 
【0042】
  バンドパスフィルタ32の出力は、アナログ回路33に与えられる。アナログ回路33は、アナログ信号を処理する回路であれば特に限定されないが、例えば、無線受信機におけるRF部の回路とすることができる。
 
【0043】
  本実施形態の通信システムは、全体的にみると、送信機2から受信機3へ変調波を伝送するものであるが、送信機2と受信機3との間の伝送路4ではパルス信号が流れるため、伝送路4の影響による信号の劣化がほとんどない。したがって、変調波を高品質で伝送することができる。
  しかも、伝送路4では、パルス信号(デジタル信号)が流れるため、伝送路4中で信号の劣化があっても、受信側においてデジタル信号処理技術を用いて、信号の訂正を行うことができる。したがって、この点からも、アナログ信号(変調波)を高品質で伝送することが可能となる。
 
【0044】
[2.バンドパス型ΔΣ変調]
[2.1  ΔΣ変調器の基本構成]
  
図2に示すように、ΔΣ変調器25は、ループフィルタ27と、量子化器28と、を備えている(非特許文献1参照)。
  
図2に示すΔΣ変調器25は、入力(本実施形態では、変調波)Uが、ループフィルタ27に与えられる。ループフィルタ27の出力Yは、量子化器(例えば、1bit量子化器)28に与えられる。量子化器28の出力(量子化信号)Vは、ループフィルタ27への他の入力として与えられる。
 
【0045】
  ΔΣ変調器25の特性は、信号伝達関数(STF;Signal  Transfer  Function)及び雑音伝達関数(NTF;Noise  Transfer  Function)によって表すことができる。
  つまり、ΔΣ変調器25の入力をUとし、ΔΣ変調器25の出力をVとし、量子化雑音をEとしたときに、ΔΣ変調器25の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
【数1】
 
【0046】
  したがって、所望のNTFとSTFとが与えられると、ループフィルタ27の伝達関数を得ることができる。
 
【0047】
  このようなΔΣ変調は、オーバサンプリング変調の一種であり、一般的には、AD変換又はDA変換に用いられている技術である。
  ΔΣ変調では、信号帯域内の量子化雑音を、信号帯域外に移動させて、信号帯域内の量子化雑音を大きく低下させるノイズシェイピング(Noise  Shaping)が行われる。
 
【0048】
  図3は、1次ローパス型ΔΣ変調器125の線形z領域モデルのブロック図を示している。符号127がループフィルタの部分を示し、符号128が量子化器を示している。このΔΣ変調器125への入力をU(z)とし、出力をV(z)とし、量子化雑音をE(z)としたときに、ΔΣ変調器125の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
  V(z)=U(z)+(1−z
−1)E(z)
 
【0049】
  つまり、
図3に示す1次ローパス型ΔΣ変調器125において、信号伝達関数STF(z)=1であり、雑音伝達関数NTF(z)=1−z
−1である。
 
【0050】
[2.2  ローパス型ΔΣ変調とバンドパス型ΔΣ変調]
  一般に、「ΔΣ変調」という用語は、ローパス型ΔΣ変調を指す。
  ローパス型ΔΣ変調では、
図4(a)に示すように、低い周波数の量子化雑音が、より高い周波数側に移動して、低い周波数の量子化雑音が減衰するようノイズシェイピングされている。つまり、ローパス型Δ変調では、雑音伝達関数(NTF)は、低周波数(0Hz付近)において、通過雑音を阻止する特性を有している。
 
【0051】
  オーバサンプリングを行うため、ΔΣ変調が施される信号の周波数は、ローパス型ΔΣ変調器のサンプリング周波数fsよりも十分小さいことが必要である。換言すると、信号の周波数に対して、十分に大きなサンプリング周波数fsが要求される。例えば、信号の周波数に対して、128倍程度のサンプリング周波数fsが必要である。
 
【0052】
  一方、バンドパス型ΔΣ変調では、
図4(b)に示すように、雑音伝達関数(NTF)は、0Hzよりも大きい周波数において、通過雑音を阻止する。
 
【0053】
  バンドパス型ΔΣ変調では、信号の周波数f
0ではなく、信号の帯域幅f
Bが、サンプリング周波数fsよりも十分に小さければよい。
  したがって、バンドパス型ΔΣ変調では、ΔΣ変調が施される信号の周波数(中心周波数)f
0は、サンプリング周波数fs以下であればよい。
  換言すると、バンドパス型ΔΣ変調では、信号の帯域幅f
Bに対して、十分に大きなサンプリング周波数fsであればよい。例えば、信号の帯域幅f
Bに対して、64倍程度の十分に大きなサンプリング周波数fsがあればよい。
 
【0054】
  ここで、例えば、無線通信の搬送波周波数f
0が1GHz、信号帯域f
Bが20MHzであるものとする。このような無線周波数の変調波(RF信号)に対して、ローパス型ΔΣ変調を行おうとすると、変調波の最大周波数は、約1GHzであるため、変調波の最大周波数である1GHzに対して、十分に大きな(128倍程度)のサンプリング周波数fs(=約128GHz)が必要となる。このように、ローパス型ΔΣ変調では、PWM変調と同様に、サンプリング周波数(サンプリング速度)が高くなりすぎて、現実的ではない。
 
【0055】
  これに対し、バンドパス型ΔΣ変調では、信号の帯域幅f
Bに対して、十分に大きなサンプリング周波数fsであればよいため、信号帯域が20MHzのRF信号であれば、20MHz×64=1.28GHz程度のサンプリング周波数fs(サンプリング速度=1.28GS/S)でよい。また、信号帯域が5MHzであれば、320MHzのサンプリング周波数(サンプリング速度=320MS/s)でよい。
  このように、バンドパス型ΔΣ変調では、サンプリング周波数(サンプリング速度)を小さくできるため、有利である。
 
【0056】
[2.3  ΔΣ変調を用いたDA変換との対比]
  ΔΣ変調を用いたDA変換では、DA変換器への入力であるデジタル信号がΔΣ変調器に与えられ、オーバサンプリングとノイズシェイピングが行われる。ΔΣ変調器から出力された低ビットの量子化信号)は、信号帯域外の成分をカットするアナログフィルタを通過することで、アナログ信号となる。このアナログ信号が、DA変換器の出力となる。
 
【0057】
  本実施形態の送信機2に設けられたΔΣ変調器25は、DA変換器に用いられる場合と同様に、入力されたデジタル信号(変調波)に対してオーバサンプリングとノイズシェイピングを行う。
  ただし、本実施形態のΔΣ変調器25から出力された低ビットの量子化信号は、アナログフィルタを通過することなく、量子化信号のまま、出力部である電気−光変換器22に与えられて、光パルス信号となる。
 
【0058】
  光パルス信号は、受信機3の入力部である光−電気変換器31によって受信されて、電気パルス信号となり、アナログフィルタ(アナログバンドパスフィルタ)32に与えられる。受信機3のアナログバンドパスフィルタ32は、変調波の信号帯域外の成分をカットすることで、アナログ信号である変調波を出力する。
 
【0059】
[2.4  バンドパス型のΔΣ変調器の設計]
[2.4.1  変換式]
  非特許文献1によれば、ローパス型ΔΣ変調器に対して、以下の変換を行うことで、ローパス型ΔΣ変調器を、バンドパス型ΔΣ変調器に変換できる。
【数2】
 
【0060】
  上記変換式に従って、ローパス型ΔΣ変調器125のz領域モデルにおけるzを、z’=−z
2に置き換えることでバンドパス型ΔΣ変調器が得られる。
 
【0061】
  上記変換式を用いると、n次のローパス型ΔΣ変調器(nは1以上の整数)を、2n次のバンドパス型Σ変調器に変換できる。
  例えば、1次ローパス型ΔΣ変調器125の周波数特性は、
図5(a)に示すとおりである。1次ローパス型ΔΣ変調器125を、上記変換式で変換して得られた2次バンドパス型ΔΣ変調器の周波数特性は、
図5(b)に示すようになる。なお、
図5において、横軸θは正規化周波数である。
 
【0062】
  上記変換式で得られたバンドパス型ΔΣ変調器の信号伝達関数及び雑音伝達関数は、変換前のローパス型ΔΣ変調器125と同じ利得を持つものの、
図5(b)に示す周波数特性は、
図5(a)に示す周波数特性が2分の1に圧縮され、折り返されている。
 
【0063】
  上記変換式で得られたバンドパス型ΔΣ変調器は、同じオーバサンプリング比で動作する変換前のローパス型ΔΣ変調器125と同じ安定性特性とSNR特性を持つ。
 
【0064】
  しかし、上記変換式では、
図5(b)に示すように、サンプリング周波数fsの1/4の周波数(正規化周波数θ=±π/2)用のバンドパス型ΔΣ変調器しか得られない。つまり、上記変換式では、サンプリング周波数fsの1/4周波数(正規化周波数θ=±π/2)が量子化雑音阻止帯域の中心周波数f
0であるバンドパス型ΔΣ変調器しか得られない。
 
【0065】
  本発明者は、ローパス型ΔΣ変調器から、所望の周波数f
0(θ=θ
0)を、中心周波数f
0として持つバンドパス型ΔΣ変調器を得るための変換式を見出した。当該変換式は、例えば、次の式(3)に示す通りである。
【数3】
  ここで、
  θ
0=2π×(f
0/fs)
 
【0066】
  式(2)の変換式では、特定の周波数θ
0=π/2に関するものであったが、式(3)の変換式では、任意の周波数(θ
0)に一般化されている。
 
【0067】
[2.4.2  変換式の考え方]
  ローパス型ΔΣ変調器において、z=e
jωT=1という前提に立つと、ローパス型変調器の特性を維持しつつバンドパス型ΔΣ変調器に変換するためのz’の絶対値は1となるべきである。
  |z’|=1でなければ、素子zを通過した信号の大きさ(振幅)が変化するため、変換前のローパス型ΔΣ変調器よりも特性が劣化するからである。
  なお、z’の大きさは、1であっても、−1であってもよい。これは、z’=1とz’=−1とは、単に位相が反転した関係にすぎず、信号の大きさを変化させないからである。
 
【0068】
  したがって、ローパス型ΔΣ変調器の特性を劣化させずに維持しつつ、バンドパス型ΔΣ変調器を得るためのz’は、z及びθ
0を含む関数f
cnv(z,θ
0)であって、任意のz,θ
0について、f
cnv(z,θ
0)の絶対値が常に1となる関数f
cnv(z,θ
0)であれば良い。
 
【0069】
  そのような関数f
cnv(z,θ
0)を見出せば、ローパス型ΔΣ変調器を、所望の周波数f
0(θ
0)用のバンドパス型ΔΣ変調器が得られる。
 
【0070】
  本発明者は、次のようにして、そのような関数z’=f
cnv(z,θ
0)を見出し、式(2)を一般化した変換式z→z’(式(3))を得た。
 
【0071】
  まず、ローパス型ΔΣ変調器から、所望の周波数f
0(θ=θ
0)を中心周波数f
0として持つバンドパス型ΔΣ変調器への変換は、周波数特性で考えると、
図6に示すようになる。
図6は、
図5を、任意の周波数f
0(θ=θ
0)で一般化したものである。
  
図6(b)に示すように、バンドパス型ΔΣ変調器の雑音阻止帯域の中心周波数はf
0(θ
0=2π×(f
0/fs))である。
 
【0072】
  ここで、
【数4】
とおくことで、周波数領域で考える。なお、Tはサンプリング周期である。
 
【0073】
  また、式(4)のωTは、
【数5】
である。
 
【0074】
  そして、
図6(a)に示すように、ローパス型ΔΣ変調器では、f
0=0(θ=0)で動作している。そこで、本発明者は、式(4)に関して、ローパス型ΔΣ変調器では、以下の式(6)が成り立つと考えた。
【数6】
  つまり、ローパス型ΔΣ変調器では、
図6(a)に示すように、e
j0で動作していると考えることができる。
 
【0075】
  式(6)より、以下の式(7)が得られる。
【数7】
 
【0076】
  一方、バンドパス型ΔΣ変調器では、
図6(b)及び
図7(b)に示すように、θ
0及び−θ
0において、複素共役の対で動作する。
  したがって、ローパス型Δ変調器における式(7)に基づくとともに、バンドパス型ΔΣ変調器が複素共役の対を持つことを考慮すると、次の式(8)が得られる。
【数8】
 
【0077】
  本発明者は、式(8)を利用して、z’=f
cnv(z,θ
0)を得た。
  すなわち、まず、上記式(8)を次のように変形して、右辺(一方の辺)の値が1である式(10)を得る。
【数9】
【数10】
 
【0078】
  式(10)は、その左辺(他方の辺)の式の値が、任意のz,θ
0について、常に左辺の値=1となる恒等式であることが明らかである。
  したがって、式(10)の左辺は、任意のz,θ
0について、値が常に1となる関数f
cnv(z,θ
0)となっている。
 
【0079】
  式(10)より、ローパス型からバンドパス型へ変換するための変換式z→z’におけるz’は、次の通りである。
【数11】
  上記式(11)より、式(3)の変換式が得られる。
  なお、上記式(3)において、θ
0=π/2(f
0=fs/4の場合)とおくと、式(2)の変換式と等価であることがわかる。
  さらに、ローパス型ΔΣ変換器は、θ
0=0である。θ
0=0の場合、式(3)の変換式は、z→zとなり、式(3)は、ローパス型ΔΣ変換器を変形させないことがわかる。
 
【0080】
  また、z’=f
cnv(z,θ
0)の値は、−1でもよいため(絶対値が1であればよいため)、z’は、次の形式であってもよい。
 
【0082】
  また、z’=f
cnv(z,θ
0)の分母と分子とを入れ替えても、1又は−1となるため、z’は、次の形式であってもよい。
【数13】
【数14】
 
【0083】
  なお、任意のz,θ
0について、絶対値が常に1となる式z’=f
cnv(z,θ
0)の表現形式は、当然ながら、例示したものに限定されない。f
cnv(z,θ
0)について、多様な表現形式が存在することは、式(8)から一方の辺の値が1又は−1である恒等式を得るための式の変形の仕方が一通りではないことからも明らかである。
 
【0084】
[2.5バンドパスΔΣ変調器の例]
[2.5.1  第1例]
  
図8は、
図3に示す1次ローパス型ΔΣ変調器125を、式(3)の変換式で変換して得られた2次バンドパス型ΔΣ変調器25を示している。
  なお、
図3から
図8への変換では、表記の便宜上、式(3)において、a=cosθ
0とおいた下記の変換式を用いた。
【数15】
 
【0085】
[2.5.2  第2例]
  
図9は、非特許文献1に記載されたCRFB構造のループフィルタ127を持つローパス型ΔΣ変調器125を示している。なお、
図9において、符号128は、量子化器を示す。
 
【0086】
  図9に示すローパス型ΔΣ変調器125を、式(3)の変換式で変換すると、
図10に示すバンドパス型ΔΣ変調器25が得られる。なお、ここでも、表記の便宜上、式(3)において、a=cosθ
0とおいた。
 
【0087】
  図9の(1/(z−1))と(z/(z−1))におけるzが、変換式によって変換される。(1/(z−1))と(z/(z−1))の変換後の式は、それぞれ、次の通りである。
【数16】
【数17】
 
【0088】
[2.5.3  その他]
  バンドパス型ΔΣ変調器への変換は、その他の高次ローパス型ΔΣ変調器(例えば、非特許文献1記載のCIFB構造、CRFF構造、CIFF構造など)に対しても適用できる。
 
【0089】
[2.6  出力結果]
  
図11〜
図14は、第2例(
図10)のバンドパス型ΔΣ変調器において、θ
0=π/4とした場合(
図11)、θ
0=3π/4とした場合(
図12)、θ
0=5π/4とした場合(
図13)、θ
0=7π/4とした場合(
図14)の出力スペクトラム波形を示している。
 
【0090】
  図11〜
図14に示すように、θ
0=π/4,3π/4,5π/4,7π/4の各周波数において、信号が所望のθ
0において出現しており、θ
0=±π/2以外の他の周波数用のバンドパス型ΔΣ変調器が得られていることが分かる。
 
【0091】
  従来、任意の周波数f
0に対してバンドパス型ΔΣ変調を行うバンドパス型ΔΣ変調器の設計手法は確立していなかった。しかし、式(3)などの変換式を用いることで、所望の搬送周波数f
0を、雑音伝達関数(NTF)の雑音阻止帯域として設定でき、所望の搬送周波数f
0に対してバンドパス型ΔΣ変調を行うバンドパス型ΔΣ変調器を設計することができる。
 
【0092】
[3.帯域拡張]
  
図15は、
図1の通信システム1の受信機3に帯域拡張部29を追加したものを示している。
図15の通信システム1において、説明を省略した点については、
図1のものと同様である。
 
【0093】
  前述のように、バンドパス型ΔΣ変調では、信号帯域f
Bがサンプリング周波数fsに対して十分に小さければよい。例えば、信号帯域が20MHzのRF信号であれば、20MHz×64=1.28GHzのサンプリング周波数fs(サンプリング速度=1.28GS/S)でよい。
 
【0094】
  ここで、前述のサンプリング周波数fs(1.28GHz)を更に大きくできる場合、信号帯域f
Bに余裕ができるため、
図15に示すように、帯域拡張部29を設けておき、信号帯域f
Bを拡張しておくのが好ましい。
  帯域拡張部29では、アップサンプリングを行うことにより、
図16に示すように、元々の信号帯域f
B(=20MHz)の両側にゼロ信号を挿入して、信号帯域を2倍(f
B’=40MHz)に拡張する。また、信号帯域f
B’の拡張に伴い、バンドパス型ΣΔ変調器25のサンプリング周波数fsも、2倍の2.56GHzとなる。
 
【0095】
  このように、帯域f
Bを拡張するとサンプリング周波数fsが大きくなる。ここで、搬送波周波数f
0は、サンプリング周波数fs以下の値を選択できるため、サンプリング周波数fsが大きくなると、搬送周波数f
0の選択の幅も大きくなる。
 
【0096】
  ここで、無線通信の規格であるLTE(Long Term Evolution)では、例えば、信号帯域f
B=20MHzで、搬送波周波数f
0が2GHzである。この場合、バンドパス型ΔΣ変調のために、信号帯域f
B=20MHzだけを基準にサンプリング周波数fsを決定すると、サンプリング周波数fs=1.28GHz=20MHz×64となる。しかし、サンプリング周波数fs=1.28GHzが、搬送波周波数f
0=2GHzよりも小さいため、不適切である。
 
【0097】
  しかし、拡張された信号帯域f
B’=40MHzを基準にサンプリング周波数fsを決定すると、サンプリング周波数fs=2.56GHz=40MHz×64となる。この場合、サンプリング周波数fs=2.56MHzが、搬送波周波数f
0=2GHzよりも大きいため適切である。
 
【0098】
  また、帯域拡張部29によって拡張された信号帯域部分f
B1,f
B2は、実質的には、信号が存在しない部分である。したがって、
図17に示すように、受信機3のバンドパスフィルタ32では、拡張前の信号帯域f
Bを通過帯域とするものでよく、拡張された信号帯域f
B’全体が通過帯域となっていなくてもよい。
  しかも、拡張された信号帯域部分f
B1,f
B2を利用して、バンドパスフィルタ32のロールオフ(roll−off)を広くとることができるため、バンドパスフィルタ32の設計が容易となる。
 
【0099】
[4.高調波の利用]
  ΔΣ変調器25の出力は、量子化信号(パルス信号)であるため、主信号成分のほか、折り返しによる高調波成分が存在する。
  この高調波成分を利用することで、送信機2側では、搬送波周波数f
0’及びサンプリング周波数fsを低く抑えつつ、受信機3側で受信される変調波の周波数を高くすることができる。
 
【0100】
  例えば、受信機3にて受信したい周波数(受信周波数)f
0が、2GHzであったとする。これまでの説明した通信システム1のように高調波を利用しない場合には、送信機2側は、搬送波周波数(無変調波の周波数)f
0を2GHzとし、サンプリング周波数fsを2GHzよりも大きい値にする必要がある。
 
【0101】
  しかし、
図18に示すように、バンドパス型ΔΣ変調器25に対して、搬送波周波数f
0’の変調波を入力すると、バンドパス型ΔΣ変調器25の出力(量子化信号)は、搬送波周波数f
0’を中心とする主信号成分を有するだけでなく、折り返しによって、f
0=n×fs+f
0’(nは絶対値が1以上の整数)の高調波成分をも有している。
  この高調波成分を、受信機3側で積極的に受信させることで、送信機2側では、比較的低い周波数f
0’を対象に処理を行いつつも、受信機3側では、搬送波周波数f
0=n×fs+f
0’の高い周波数の変調波を受信することが可能となる。
 
【0102】
  具体的には、受信機3側の受信周波数f
0を2GHzとした場合、受信機3のアナログバンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数fcも2GHzに設定される。つまり、受信機3は、中心周波数f
0が2GHzの変調波を受信する。
  この場合、送信機2のバンドパス型Δ変調器25のサンプリング速度fsを1.5GHz(<f
0)とすると、直交変調器24における搬送波(無変調波)の周波数f
0’は、
    f
0’=f
0−fs=2GHz−1.5GHz=500MHz
でよい。
 
【0103】
  したがって、送信機2としては、実際には、中心周波数(搬送波周波数)f
0’が500MHzの変調波を扱いつつも、受信機3側からみると、送信機2は、あたかも、中心周波数(搬送波周波数)f
0が2GHzの変調波を送信しているものとみなすことができる。この結果、送信機2におけるサンプリング周波数よりも高い周波数の変調波を送信することが可能となる。
 
【0104】
  図18に示す主信号成分を受信機3が所望する周波数(受信周波数)の信号として送信する場合、及び
図18に示す高調波成分を受信機3が所望する周波数(受信周波数)の信号として送信する場合の両者についてまとめると、送信機2の直交変調器24において用いられる搬送波(無変調波)の周波数f
0’は、以下の式を満たすものとなる。
    f
0’=f
0−n×fs
  ただし、
    f
0   :受信機3側の受信周波数
    fs  :バンドパス型ΔΣ変調器25のサンプリング周波数
    f
0’ :直交変調器24の搬送波(無変調波)の周波数
    n    :整数
 
【0105】
  上記式において、n=0の場合が、
図18に示す主信号成分を受信機3が所望する周波数(受信周波数)の信号として送信する場合となり、それ以外の場合が、
図18に示す高調波成分を受信機3が所望する周波数(受信周波数)の信号として送信する場合となる。
  nが大きくなると、高調波成分は徐々に小さくなるため、n=±1(特にn=1)が好ましい。
 
【0106】
  また、受信機3のアナログバンドパスフィルタ32の通過帯域の中心周波数fcは、以下の式を満たすものとなる。
    fc=f
0’+n×fs
  ただし、
    fc   :アナログバンドパスフィルタ32の通過帯域の中心周波数
    fs  :バンドパス型ΔΣ変調器25のサンプリング周波数
    f
0’ :直交変調器24の搬送波(無変調波)の周波数
    n    :整数
 
【0107】
  上記式においても、n=0の場合が、
図18に示す主信号成分を受信機3が所望する周波数(受信周波数)の信号として送信する場合となり、それ以外の場合が、
図18に示す高調波成分を受信機3が所望する周波数(受信周波数)の信号として送信する場合となる。
  nが大きくなると、高調波成分は徐々に小さくなるため、n=±1(特にn=1)が好ましい。
 
【0108】
[5.無線基地局装置への適用]
  
図19は、前述の通信システム1を利用した無線基地局装置41の実施形態のバリエーションを示している。
 
【0109】
  図19に示す無線基地局装置41は、基地局本体42と、基地局本体42に信号伝送路(光伝送路又は電気伝送路)44を介して接続されたリモートレディオヘッド(Remote  Radio  Head)43と、を備えている。
  リモートレディオヘッドを有する無線基地局装置41では、基地局本体42を建物内部に設置しつつ、アンテナ35を有するリモートレディオヘッド43を建物屋上に設置することができ、設置の自由度が高い。
 
【0110】
  ここで、従来の無線基地局装置では、基地局装置本体は、デジタル領域のベースバンド信号処理や制御・管理などを行う無線装置制御部(REC;Radio  Equipment  Control)として構成され、リモートレディオヘッドは、アナログ領域の無線信号処理(変調及び増幅など)を行う無線装置(Radio  Equipment)として構成されている。
 
【0111】
  また、従来の無線基地局装置では、基地局本体(REC)から、伝送路を介して、リモートレディオヘッド(RE)へ送信されるのは、デジタルベースバンド信号であった。したがって、リモートレディオヘッド(RE)は、基地局本体(REC)から送信されてきたデジタルベースバンド信号を変調(直交変調)する回路が必要とされる。しかも、無線基地局装置では、一台の基地局本体(REC)に、複数のリモートレディオヘッドが、並列又は直列に接続されることがあり、この場合、それぞれのリモートレディオヘッドに直交変調回路が必要となる。
 
【0112】
  これに対し、本実施形態の無線基地局装置41では、
図19に示すように、基地局本体42に、本実施形態の通信システム1における送信機2を備え、リモートレディオヘッドに、本実施形態の通信システム1における受信機3を備えている。
 
【0113】
  従来の基地局本体では、本実施形態の送信機2におけるベースバンド部23から出力された信号を光パルス信号にして送信することになるが、本実施形態の基地局本体42では、デジタル信号処理部21として直交変調器24及びバンドパス型ΔΣ変調器25を備えていることで、直交変調された変調波(RF信号)が量子化信号(光パルス)信号によって送信される。
 
【0114】
  したがって、受信機3を備えるリモートレディオヘッド43では、基地局本体42から受信した信号を変調(直交変調)する必要がなく、リモートレディオヘッドの回路規模を小さくできる。これは、一台の基地局本体42に、複数のリモートレディオヘッド43が(並列又は直列に)接続される場合に特に有利である。
  なお、アンテナ35にて受信した変調波(RF信号)に対しては、リモートレディオヘッド43にて、ΔΣ変調(バンドパスΔΣ変調)を行い、基地局本体42に送信される。
 
【0115】
  図19(a)〜(d)において、基地局本体42の構成は共通している。基地局本体42は、本実施形態の送信機2としての機能のほか、無線基地局装置41として必要なその他の機能を備える。
 
【0116】
  図19(a)のリモートレディオヘッド43は、アナログバンドパスフィルタ32から出力されたアナログの変調波(RF信号)を、増幅器を介さずに、アンテナ35から出力するように構成されている。さほど高い無線出力が要求されない場合には、このような接続の仕方も可能である。
 
【0117】
  図19(b)のリモートレディオヘッド43は、アナログバンドパスフィルタ32から出力されたアナログの変調波(RF信号)を、増幅器(アナログ増幅器)36にて増幅して、アンテナ35から出力する。この場合、増幅器36にてアナログの変調波が増幅されるため、高い無線出力が得られる。
 
【0118】
  図19(c)のリモートレディオヘッド43は、アナログバンドパスフィルタ32を通過する前の量子化信号(1bitパルス信号)を、デジタル増幅器37(S級の増幅器)にて増幅してから、アナログバンドパスフィルタ32を通過させて増幅されたアナログの変調波(RF信号)を得る。デジタル増幅器37は、量子化信号(1bitパルス信号)を、そのまま増幅する。デジタル増幅器37は、飽和状態で動作するため高効率である。
 
【0119】
  図19(d)のリモートレディオヘッド43は、
図19(c)のリモートレディオヘッド43におけるアナログバンドパスフィルタ32を省略したものに相当する。
図19(d)のリモートレディオヘッドのアンテナ35は、RF信号(変調波)の中心周波数(搬送波の周波数)付近以外の帯域の信号の通過を阻止する特性を有している。つまり、アンテナ35が、アナログバンドパスフィルタ32と同様の機能を有しており、アナログバンドパスフィルタ32を兼ねている。
 
【0120】
  図19(d)のリモートレディオヘッド43では、デジタル増幅器37にて増幅された量子化信号(1bitパルス信号)は、アンテナ35のバンドパスフィルタ機能によって、帯域制限されることでアナログ変調波となって、アンテナ35から無線波として放射される。
  なお、高い出力が要求されない場合においては、
図19(d)においても、
図19(a)のように、増幅器37を省略してもよい。この場合、増幅器37及びバンドパスフィルタ32の双方を省略することになり、有利である。
 
【0121】
  ここで、本実施形態及び従来の無線基地局装置において、基地局本体からリモートレディオヘッドに送信される信号の伝送速度について考察する。
  LTEの場合、例えば、IQベースバンド信号の信号帯域幅f
B=5MHzであり、IQベースバンド信号のサンプリング速度=7.68MS/sであり、I信号が20bit、Q信号が20bitである。したがって、デジタルIQベースバンド信号をシリアルで、基地局本体からリモートレディオヘッドに送信するためのサンプリング速度は、(20bit+20biti)×7.68MS/s=307.2MS/sとなり、このサンプリング速度が伝送速度となる。
 
【0122】
  一方、本実施形態の無線基地局装置41では、サンプリング速度は、IQベースバンド信号の信号帯域幅f
B=5MHzの64倍程度で良いため、320MS/sとなり、このサンプリング速度が伝送速度となる。この場合、搬送波周波数は、320MHz以下であれば自由に選択でき、
図18に示すように、高調波を利用する場合には、320MHz以上の搬送波周波数も選択できる。
 
【0123】
  このように、従来の無線基地局装置では、307.2Mb/sの伝送速度でIQベースバンド信号を伝送することになるのに対し、本実施形態の無線基地局装置41では、従来とほぼ同程度の320Mb/sという伝送速度で、変調波伝送(RF信号伝送)が行えるため、有利である。
 
【0124】
[6.付記]
  なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。