(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
治療用カテーテルを着脱可能に挿通することが可能なカテーテル用内腔部を有するカテーテル挿通用筒状体と、該カテーテル挿通用筒状体の外周部に配された拡張体と、前記カテーテル挿通用筒状体の近位側端部から延設された軸体とを備え、
前記カテーテル挿通用筒状体に、コイル状の連結部材が配され、
前記軸体が、前記連結部材と連結する線状体を備え、
前記連結部材の近位側端部と前記線状体の遠位側端部とで連結されているアンカーカテーテル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0013】
本発明のアンカーカテーテルは、治療用カテーテルを着脱可能に挿通することが可能なカテーテル用内腔部を有するカテーテル挿通用筒状体と、該カテーテル挿通用筒状体の外周部に配された拡張体と、前記カテーテル挿通用筒状体の近位側端部から延設された軸体とを備える。
【0014】
当該構成により、アンカーカテーテルのカテーテル用内腔部に治療用カテーテルが挿通可能なため、従来のようなバルーンカテーテルを側枝に配することなく、治療用カテーテルとともに、所望の患部の直近にアンカーカテーテルを誘導することが可能である。そのため、側枝に配するためのガイドワイヤーを別途使用することもないうえ、側枝にバルーンカテーテルを配する操作を省略することが可能となる。従って、側枝の血管を損傷させることによる機能不全となる血管を増加させることがなく、従来よりも患者や術者の負担が生ずる可能性を低減することが可能である。また、側枝に配するためのガイドワイヤーが不要なため、コスト面でも有利である。
また所望の位置に誘導して、拡張体を拡張させて、アンカーカテーテルを狭窄部位の直近の所望の位置にアンカリング(固定)し、アンカーカテーテルの軸体を術者又は補助者が手で把持し、必要により引っ張りながら、カテーテル用内腔部に挿通されている治療用カテーテルを押込むことで、アンカーカテーテルをガイディングカテーテルの補強部材として機能させて、ガイディングカテーテルのバックアップを強固にしつつ、治療用カテーテルを所望の患部に到達させ、かつ、当該患部を通過させることができる。このように、本発明に係るアンカーカテーテルにより、バルーンカテーテルを側枝に配することなく、アンカーテクニックを従来よりも簡便かつ安全に実施することができる。また、狭窄部位の直近に拡張体が配されることから、仮に血管に損傷が生じたとしても、従来のように正常な側枝の血管が損傷した場合の側枝の血管系全体の機能不全を招来させるような危険性も回避することが可能である。
【0015】
図1は、本発明に係るアンカーカテーテルの実施形態の第一例を示したものであり、
図2は、
図1に示すアンカーカテーテルの長手方向断面図である。
図1に示すように、本例のアンカーカテーテル10は、カテーテル挿通用筒状体20と、拡張体30と、軸体としての流体用筒状体40とを備える。また、軸体である流体用筒状体(以下、特にことわらない限り、単に「流体用筒状体」と称する。)40の近位側端部には、ハブ70が接続されている。
【0016】
図1および2に示す実施形態の第一例では、カテーテル挿通用筒状体20は、その両端で開口する全長に亘るカテーテル用内腔部21を備える。カテーテル用内腔部21は、治療用カテーテルを着脱可能に挿通することができるようになっている。従って、生体内にアンカリングした状態で、その補強機能を保持しつつ、同種あるいは別種の治療用カテーカテーテルを交換することが可能である。挿通用筒状体20の外周部22には、拡張体30が配されている。本例では、拡張体30は、薄膜の筒状体であり、その内部をカテーテル挿通用筒状体20が貫通するように配されている構造を有しているが、それに限定されるものではなく、例えば、1つ又は2つ以上の拡張体を個別に挿通用筒状体20の外周部22に配してもよい。また、その際の配置も特に限定はなく、アンカーとしての機能を果たすように、用途などに応じて決定することができる。
また、カテーテル挿通用筒状体20および拡張体30の近位側(
図1および2では右側)には、拡張体30の内部34に連通する流体用内腔部41を有する流体用筒状体40が配されている。流体用筒状体40は、カテーテル挿通用筒状体20の近位側端部(本例では、拡張体30の近位側端部でもある。)から近位側に向かって延設されている。流体用筒状体40の近位側端部には、ハブ70が設けられている。ハブ70は、本例では、その両端部で開口し、流体用内腔部41に連通する内腔部71を備えている。そして、ハブ70を介して生体外から拡張体30の内部34へ流体を注入し、あるいは、内部34から流体を排出することができる。尚、流体の注入および排出には、図示しないシリンジなどを用いることができるが、それに限定されるものではない。
【0017】
カテーテル挿通用筒状体20及びカテーテル用内腔部21の大きさは特に限定はなく、用途などに応じて適宜決定することができる。例えば、経皮的冠動脈形成術に用いる場合は、治療用カテーテルを挿通可能とする観点から、カテーテル用内腔部21の最小幅(本例では内径)は0.5〜3.0mmが好ましく、0.5〜2.4mmがより好ましい。また、同じく経皮的冠動脈形成術に用いる場合は、冠動脈の長さの観点から、カテーテル挿通用筒状体20(又はカテーテル用内腔部21)の長手方向の長さは3〜250mmが好ましく、3〜200mmがより好ましい。
また、カテーテル用内腔部21の最小幅(本例では内径)(以下、「D」とする。)とカテーテル挿通用筒状体20(又はカテーテル用内腔部21)の長手方向の長さ(以下「L」とする。)との関係については、特に限定はないが、DとLの比が、1/500≦D/L≦1であるのが好ましく、1/400≦D/L≦4/5がより好ましい。DとLの比が、この範囲にある場合は、治療用カテーテルの挿通性、デリバリー性能がより良好で、治療用カテーテルを血管内でスムースに進めることができるうえ、最小幅Dに対して所定の長さLを確保することで、アンカリング(固定)により適した所望の軸方向長さの拡張体30を配することが可能であるため、拡張体30を拡張させて、アンカーカテーテル10を所望の位置に確実にアンカリング(固定)することができる。
【0018】
カテーテル挿通用筒状体20を構成する材質としては、特に限定はなく、本技術分野において使用可能な金属材料、樹脂材料などを適宜選択して使用することができる。金属材料としては、例えば、ステンレス、C−Mn−Si−P−S−Cr−Mo−Ni−Fe−X(X=Au,Os,Pd,Re,Ta,Ir,Ru)合金、C−Mn−Si−P−S−Cr−Mo−Ni−X(X=Au,Os,Pd,Re,Ta,Ir,Ru)合金、銅、ニッケル、チタン、ピアノ線、Co−Cr合金、Ni−Ti合金、Ni−Ti−Co合金、Ni−Al合金、Cu−Zn合金、Cu−Zn−X合金(例えば、X=Be、Si、Sn、Al、Ga)のような合金、アモルファス合金等の各種金属が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィンやポリオレフィンエラストマー等のオレフィン系樹脂、ポリエステルやポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリアミドやポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが例示できるが、これらに限定されるわけではない。
【0019】
また、カテーテル挿通用筒状体20の構造は、断面方向に単層でも良いが、各種材料を組合せて2層以上の多層としてもよい。多層構造としては、例えば、硬度などの物性の異なる樹脂材料を複数組合せてもよいし、異なる金属材料を組合せてもよいし、金属材料と樹脂材料を組合せてもよい。また、多層構造にする場合、各層は一様な連続層であってもよいし、断面が方形や円形などである金属線材の単線や撚り線、各種の合成繊維や天然繊維材料などを用いた単線や撚り線をコイル状や各種の編み組みして形成した層であってもよい。
尚、カテーテル挿通用筒状体20を多層構造にする場合、その一部を後述する連結部材として使用することも可能である。
【0020】
更に、カテーテル挿通用筒状体20には、拡張体30内に配される部分に、図示しない位置マーカーを配しても良い。位置マーカーとしては、X線不透過性の高い部材を用いてカテーテル挿通用筒状体20の外周又は内周部分に配しても良いし、筒状体20を構成する壁内部に配しても良い。位置マーカーの形状は、拡張体の位置を確認することができれば、特に限定はなく、例えばリング状などが挙げられるが、これに限定されない。位置マーカーとしては、例えば、白金、金などのX線不透過性の高い金属をリング状にして使用したり、バリウム、などを練り込んだ樹脂をリング状などに成形するなどして使用することができる。
尚、位置マーカーは後述する連結部材として使用することも可能である。
【0021】
本実施形態の例では、拡張体30は、上記のように、拡張体30は、薄膜の筒状体であり、その内部をカテーテル挿通用筒状体20が貫通するように配されている構造を有している。このような構造を有する拡張体は、一般にバルーンと称されるものであるが、本発明では、必ずしも、このようなバルーンに限定されるものではなく、例えば、いわゆるマレコットと称される構造その他アンカーカテーテルを固定可能な構造を有するものであればよい。但し、アンカー機能をより発揮させる観点からは、血管内壁面全体と接するようにする構造が好ましく、このような拡張体としては、薄膜の筒状体が好ましい。またこのような構造にすることで、血管内壁への負荷を血管内壁面全体に分散することが可能になるため、アンカーとして機能させている際に、血管の損傷をより低減することができる。
【0022】
また、本例における拡張体30の構造を、
図2をもとに更に詳細に説明するが、本例に限定されない。拡張体30は、直管部31とその遠位側及び近位側に液密に接合を行うためのスリーブ部32を有し、直管部31とスリーブ部32の間にテーパー部33を有している。拡張体30の寸法は、配置部位の大きさなどを考慮して適宜決定すればよいが、例えば、血管内治療に使用する場合は、血管の損傷を防止しつつアンカー機能を発揮させる観点から、拡張されたときの直管部31の外径が1.5〜35mmとなるように直感部31の外径を設定することが好ましく、1.5〜30mmがより好ましい。また、同じく例えば、血管内治療に使用する場合は、アンカー機能を確保する観点から、直管部31の軸方向の全長は、1〜200mmが好ましく、1〜190mmがより好ましい。
また、本例の場合は、拡張体30は
図1および2に示すような形状に賦形されたものであるため、折り畳んだ状態で生体内の所望の位置に誘導される。本発明では、このような形状の他、テーパー部33が存在せず、内外径がほぼ変化しない円筒形状を有するものであっても良い。このような形状の場合は、拡張体を折り畳むことなく、生体内の所望の位置に誘導される。
【0023】
また、本例では、拡張体30の全長はカテーテル挿通用筒状体20およびカテーテル用内腔部21の長手方向の全長と一致しているが、本発明では、これに限られない。カテーテル挿通用筒状体20は拡張体30より長くしても良い。また、その場合は、拡張体30の位置は特に限定はないが、拡張体30を所望の位置のより近くに配する観点から、拡張体30はカテーテル挿通用筒状体20の遠位側端部に配されるのが好ましい。
【0024】
拡張体30を構成する材質としては特に限定はなく、カテーテル挿通用筒状体20を構成する材質と同様の金属材料や樹脂材料を採用可能である。但し、拡張体がいわゆるバルーンである場合は、本技術分野において一般的に使用可能な樹脂材料を用いることができる。例えば、ポリオレフィンやポリオレフィンエラストマーなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステルやポリエステルエラストマーなどのポリエステル系樹脂、ポリアミドやポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂、ポリウレタンやポリウレタンエラストマーなどのポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これら樹脂材料は、単独で用いても、2種以上を混合したブレンド材料として用いても良い。また、これらの樹脂材料のうち1種を用いて単層構造としても良いし、2種以上積層して多層構造としても良い。
【0025】
図1および2に示す拡張体30は、ディッピング成形、ブロー成形等本技術分野において通常適用可能な方法で製造することができる。ブロー成形にて拡張体を成形する場合について簡単に説明すると、例えば、次のようなものである。
まず、押出成形等により任意寸法のチューブ状パリソンを成形する。このチューブ状パリソンを所望の拡張体(バルーン)の外部形状に一致する型を有する金型内に配置し、チューブ状パリソンをその軸方向と径方向とに延伸すること(二軸延伸工程)により、前記金型と同一形状のバルーンを成形する。前記二軸延伸工程は、加熱条件下で行っても良いし、常温条件下で行っても良い。また、当該工程は、1回行っても良いし、2回以上行ってもよい。また、軸方向の延伸は径方向の延伸と同時に行っても良いし、径方向の延伸の前のみ、その後のみ、その前後に行っても良い。さらに、バルーンの形状や寸法を安定させるため、定法に従って、バルーンにアニーリング処理を施しても良い。
【0026】
本実施形態の例においては、本発明において使用する軸体は、上記のように、流体用筒状体40であり、拡張体30の内部34に連通する流体用内腔部41を有する。流体用筒状体40の構成は、特に限定はなく、本技術分野において適用可能な構成を用途などに応じて適宜採用することができる。例えば、長手方向や長手方向に対して直交する方向の物性を同一にしたり、変化させることができる。より具体的には、例えば、長手方向において遠位側から近位側に向かうに従い、強度(例えば、引張強度、硬度など)が高くなるように単層の筒状体を接合したものや、内層を全長に亘り同一材質の筒状体とし、その外周に、長手方向において遠位側から近位側に向かうに従い、強度(例えば、引張強度、硬度など)が高くなるように異なる材質を配して一体とした2層構造の筒状体、内層、中間層、外層の3層構造の筒状体のうちの中間層として、各種の線材を用いてコイル状または編組の層を設け、当該線材からなる層の構造を調整して、同様に強度を調整した3層構造の筒状体などが例示できるが、これらに限定されものではなく、種々の構造を採用することが可能である。
【0027】
また、流体用筒状体40に使用可能な材質としては、上記のような構成などを実現することが可能なものであれば、特に限定はなく、例えば、カテーテル挿通用筒状体20に示した金属材料及び樹脂材料並びに単線及び撚り線を用いることができる。
【0028】
また、
図1および2に示したハブ70は、一例であって、本技術分野において一般的に使用される構造および材質を適宜選択して使用することができる。
【0029】
尚、拡張体としていわゆるバルーンとは異なる構造を有する構成を採用した場合は、拡張体を拡張、縮小させる機構に応じた軸体およびハブの構造を採用すればよい。
【0030】
図1および2に示すように、本例では、拡張体30の遠位側スリーブ部32はカテーテル挿通用筒状体20の遠位側端部の外周部22と接合されている。一方、拡張体30の近位側スリーブ部32は、カテーテル挿通用筒状体20の近位側端部の外周部22および流体用筒状体40の遠位側端部に接合されるとともに、カテーテル挿通用筒状体20の近位側端部の外周部22と流体用筒状体40の遠位側端部が接合されている。カテーテル挿通用筒状体20、拡張体30および流体用筒状体40の所定の位置での接合方法は、特に限定はなく、それぞれに使用する材質の種類に応じて、拡張体30の内部34の気密が保持可能なように、接着剤、溶着、溶接により接合すればよい。
【0031】
図3は、本発明に係るアンカーカテーテルの実施形態の第二例における拡張体を含む部分の断面図である。本例では、
図3に示すように、拡張体30の内部34において、カテーテル挿通用筒状体20に連結部材50が配されている点、及び、軸体である流体用筒状体40が、連結部材50と連結するように配されている点を除き、
図1および2に示す例と同一である。従って、以下では、これらの相違点について説明し、同一部材については同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、図示しない流体用筒状体40の近位側の構成も
図1および2と同様に構成することができるため、説明は省略する。
【0032】
図3に示す例のように、連結部材50を用い、連結部材50と軸体である流体用筒状体40が連結されていることで、手元で術者などにより軸体(流体用筒状体40)が引っ張られた時に、軸体(流体用筒状体40)とカテーテル挿通用筒状体20および拡張体30が分離する可能性をより低減することが可能となる。一方、従来のアンカーテクニックで用いられる側枝に配したバルーンカテーテルは本来的には引っ張るためのデバイスではないため、引張ることで破損しないように充分に配慮しながら引張らなければならない。
図3に示す例では、連結部材50は、カテーテル挿通用筒状体20の外周部22に固定されている。連結部材50の長手方向の固定位置は特に限定はなく、例えば、カテーテル挿通用筒状体20の中央部または拡張体30の直管部31の中央部に対応する位置でもよいし、中央部又は直管部31の中央部に対応する位置より近位側でも、遠位側でもよい。
図3ではカテーテル挿通用筒状体20中央部(又は直管部31の中央部に対応する位置)に配した例を示したものである。
【0033】
連結部材50の構造は、カテーテル挿通用筒状体20の外周部22に固定可能で、流体用筒状体40と連結可能であれば、特に限定はなく、例えば、外周部22の周方向に一周する筒状(例えば
図3〜5参照)、平板を外周部22の周方向に半周から一周程度巻きまわした形状、素線を長手方向に所定長さコイル状に巻き回したもの(例えば
図6参照)、素線を編み組したもの等が挙げられるが、これらに限定されない。また、
図3に示す例では、連結部材50は、カテーテル挿通用筒状体20の外周部22に配されているが、流体用筒状体40と連結可能であれば、カテーテル挿通用筒状体20の壁内に配してもよい。
【0034】
連結部材50と流体用筒状体40との連結方法は、特に限定はなく、接着剤、溶着、溶接の他、連結部材50と流体用筒状体40にかしめや雄雌嵌合などの物理的連結手段を可能にする構造を付与して、当該物理的連結手段を採用することができるが、これらに限定されるものではない。
また、連結部材50の材質も特に限定はなく、流体用筒状体40を構成する材質、連結方法を考慮して適宜選択することができ、上記のカテーテル挿通用筒状体20、流体用筒状体40に使用可能なものを採用することが可能である。材質と連結方法の組み合わせの具体例としては、例えば、連結部材50と流体用筒状体40がともに金属であれば、溶接を採用し、両者が同種の樹脂であれば、熱溶着を採用することで、より強固な連結が期待できる場合がある。
さらに、流体用筒状体40から連続体として連結部材50を形成してもよい。例えば、流体用筒状体40の遠位側部分を、カテーテル挿通用筒状体20の外周部22に固定可能な大きさになるようにコイル状に巻き回した構造としたものなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
図4は、本発明に係るアンカーカテーテルの実施形態の第三例の概略を示す斜視図である。
図5は、
図4に示すアンカーカテーテルの長手方向の断面図である。
図1〜3に示す実施形態の例と、
図4及び5に示す実施形態の例との相違は、第三例においては、線状体60を用いている点、流体用筒状体40が遠位側筒状体42と近位側筒状体43とから構成されている点である。そこで、以下では、これら相違点について説明し、他の構成は、
図1〜3に示す例と共通するため、同一部材については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0036】
図4および5に示す第三例においては、
図1および2に示すアンカーカテーテルにおいて、
図3に示す第二例において用いられた連結部材50を採用するとともに、遠位側筒状体42と近位側筒状体43とから構成される流体用筒状体40を採用し、連結部材50と近位側筒状体43とに連結する線状体60を流体用筒状体40の流体用内腔部41に配している。このように、線状体60を別途配することで、アンカリング時に近位側で術者が意図的に又は不意にアンカーカテーテルをある程度強く引っ張った時でも、カテーテル挿通用筒状体20と流体用筒状体40との接合部位や、遠位側筒状体42と近位側筒状体43との接合部位などの流体用筒状体40における接合部位において、接合が破壊されたり、流体用筒状体40の任意の位置で破断したりしてアンカーカテーテルが損傷する可能性を効果的に低減することが可能である。
【0037】
線状体60の構造は、アンカーカテールを引っ張った際の破損の可能性を低減することが可能であれば、特に限定はなく、例えば、単線でも撚り線でもよいし、また、長手方向に直交する方向の幅(又は外径)を、長手方向に変化させても良いし、実質的に一定にしても良いし、その他の構成であっても良い。尚、本例では、線状体60の外径は、長手方向に実質的に一定な構造を有するものである。
【0038】
線状体60に使用する材質としては、アンカーカテールを引っ張った際の破損の可能性を低減することが可能であれば、特に限定はなく、金属材料や樹脂材料などを適宜選択することができる。これらの具体例は、第一例および第二例において示した金属材料、樹脂材料、繊維材料を適宜選択して使用することが可能である。尚、金属材料としては、上記各例の場合と同様に、ステンレスを用いることが好ましい。
【0039】
図4および5に示す第三例においては、流体用筒状体40は、遠位側筒状体42と近位側筒状体43とから構成されている。本発明では、筒状体42、43のそれぞれを、更に、複数の筒状体で構成することも可能である。これにより、長手方向の特性をより多段階で調節することが可能となる。尚、流体用筒状体40におけるこれらの構成は、
図1および2に示した第一例において、既に説明しているため、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0040】
線状体60と連結部材50および流体用筒状体40との連結方法は特に限定はなく、それぞれの部材を構成する材質などを考慮して、接着剤、溶着、溶接により連結する方法の他、線状体60、連結部材50、流体用筒状体40にかしめや雄雌嵌合などの物理的連結手段を可能にする構造を付与して、当該物理的連結手段を採用することができる。
また、線状体60と連結部材50の連結方法の他の方法としては、後述するように(
図6など参照)、連結部材と線状体とを一体として形成することも可能である。
【0041】
線状体60と流体用筒状体40との接合位置は、アンカーカテーテルの損傷を低減、防止する観点からは、アンカーカテーテルを引っ張る際に、術者などが手で把持する部位付近であることが好ましい。従って、流体用筒状体40のうち、アンカリングした時に、体外部分に位置する部分に接合することが好ましい。流体用筒状体40の体外部分に位置する位置としては、例えば、流体用筒状体40を複数の筒状体を用いて構成する場合は、それらのうち、把持する部分にあたる筒状体(把持筒状体)に接合位置を設けることができる。また、把持筒状体における接合位置は、把持筒状体を構成する材質や内外径差(厚み)などを考慮して適宜決定することができる。例えば、把持筒状体を強度の高い材質を用いた場合は、把持筒状体自体が破断するなどの不具合が生じることは殆どないため、把持部分よりも遠位側となり得る、把持筒状体の遠位側端部近傍部で固定してもよい。一方、把持筒状体を強度が高くない材質を用いた場合は、把持筒状体自体が破断するなどの不具合が生じることも想定され得るため、把持部分よりも近位側となる、把持筒状体の近位側端部近傍部で固定するとよい。
図5に示す例では、流体用筒状体40を構成する筒状体のうちの近位側筒状体43の遠位側端部近傍部に線状体60と流体用筒状体40との接合位置を設けている。このような構成は、上記のように、近位側筒状体43が強度の高い材質、例えば強度の高い材質、例えば金属材料を用いた場合に好適である。また、後述する第4例の
図7に示すように、近位側筒状体43の近位側端部近傍部に、線状体60と流体用筒状体40との接合位置を設けてもよい。このような構成は、上記のように、近位側筒状体43が強度の低い樹脂材料を用いた場合に好適である。もっとも、線状体60と流体用筒状体40との接合位置は、これらに限定されるわけではなく、アンカーカテーテルの用途(適用部位)や流体用筒状体40の構成などを考慮して適宜決定することができる。
【0042】
図6は、本発明に係るアンカーカテーテルの実施形態の第四例の概略を示す斜視図であり、
図7は、
図6に示すアンカーカテーテルの長手方向の断面図である。
図8〜11は、それぞれ
図6のA−A〜D−Dの位置における断面図である。
【0043】
図6〜11に示した第四例は、
図4および5に示した第三例の変形である。
図4および5に示した第三例とは、連結部材および線状体の具体的構成が異なるが、その他の構成は、第三例と同様であるため、以下では、異なる構成について説明し、共通する構成については、同じ符号を付して、その説明は省略する。
【0044】
第四例では、
図6〜8に示すように、連結部材51は、カテーテル挿通用筒状体20の外周部22に接して固定可能となるように素線をコイル状に巻き回した構造を有するものである。連結部材51の材質は、第二および三例の連結部材と同様のものを採用することができる。また、素線の構造は、単線でも撚り線でもよい。
【0045】
また、連結部材51と後述する線状体61とは、第三例と同様の方法で接合することができる他、線状体61の遠位側端部に上記のコイル状の形状を付与して、連結部材51と線状体61とを連続体として形成することができる。これにより、連結部材と線状体とを別部材として接合する場合よりも、強固な連結状態を実現することが可能となり、アンカーカテーテルを引っ張った時の損傷の可能性をより低減することができる。
更に、流体用筒状体40と線状体61とは、第三例と同様の方法で接合、連結することができる。また、線状体61と流体用筒状体40との接合位置は、本例では、
図7に示すように流体用筒状体40を構成する近位側筒状体43の近位側端部近傍部に設けているが、これに限定されるわけではない。上述のように、アンカーカテーテルの用途(適用部位)や流体用筒状体40の構成などを考慮して適宜決定することができる。
【0046】
第四例では、線状体61の構造は、長手方向に直交する方向の幅(又は外径)を、長手方向に変化させた構造を採用しているが、
図5に示す例のように実質的に一定にしても良いし、その他の構成であっても良い。また、線状体61は、単線でも撚り線でもよい。またその材質は第三例と同様のものを適宜選択して採用することができる。
線状体61の構造をより詳細に説明すると、
図9〜11に示すように、近位側筒状体43に配される領域においては、遠位側に向かうに従い徐々に外径が細くなるテーパー形状とし、遠位側筒状体42に配される領域においては、外径が一定である形状としている。これにより、アンカーカテーテルを治療用カテーテルとともに生体内の所望の部位に誘導する際に、遠位側での柔軟性を保持しつつ、近位側から遠位側への押込み力を伝達することが容易となる場合があり、治療用カテーテルの誘導の補助として機能させることができる場合がある。
【0047】
図9には、第四例における、カテーテル挿通用筒状体20、拡張体30、流体用筒状体40の接合状態が示されているため、本構成を簡単に説明する。既に述べたように、これらの部材は、材質などを考慮して、接着剤、溶着、溶接などにより接合することができる。これらの材質が全て樹脂材料である場合は、熱溶着により接合することができるため、
図9に示すような境界線が必ずしも形成されるものではなく、符号80に示す部分もこれら部材を構成する構成樹脂により形成され得る。従って、拡張体30の内部34の気密性を確保するための接着剤などは必ずしも必要ない。一方、拡張体30のみが樹脂材料である場合など、金属材料を用いて構成された部材を使用する場合は、符号80に示す部分には、接着剤などの樹脂材料を配して、拡張体30の内部34の気密性を確保する必要がある。
尚、第一〜三例についても同様の構成を採用することができる。
【0048】
以下、本発明のアンカーカテーテルを冠動脈の狭窄部を拡張する治療に供する場合の使用方法を従来の方法と対比しつつ説明する。尚、本発明のアンカーカテーテルは冠動脈に限らず、その他の生体内の管状器官内の所望の部位に誘導し、治療する際にも同様に適用することができることは勿論のことである。
【0049】
図12は、狭窄部90が形成された冠動脈91に冠動脈入口部92から浅く冠動脈91内に挿入されたガイディングカテーテル93から、予め挿入され狭窄部90に穿通されたガイドワイヤー94に沿って挿入された狭窄部拡張用バルーンカテーテル95を、狭窄部90へ挿通させる直前の状態を示したものである。尚、
図12中、符号96は大動脈、符号97は大動脈弁、符号98は側枝の血管を示している。
【0050】
図13は、
図12に示した状態から、バルーンカテーテル95を狭窄部90に挿通させるために、バルーンカテーテル95を術者が手元で押し込んだ時の状態を示した説明図である。
図13に示すように、ガイディングカテーテル93が冠動脈入口92から抜けており、ガイディングカテーテル93によるバックアップが得られず、バルーンカテーテル95を狭窄部90に挿通させることは不可能か極めて困難な状態となっている。尚、図示しないが、ディープエンゲイジによると、ガイディングカテーテル95を冠動脈入口92から
図12に示される位置よりもさらに冠動脈内に挿入させるが、この際に冠動脈91の内壁を入口92近くから大きく損傷する可能性が高く、入口92より先の冠動脈全体が機能不全に陥るおそれがある。
【0051】
図14は、従来のアンカーテクニックにより、狭窄部拡張用バルーンカテーテル95を狭窄部90に挿通させている時の状態を示した説明図である。
図14に示すように、狭窄部90が形成された冠動脈91に冠動脈入口部92から浅く冠動脈91内に挿入されたガイディングカテーテル93から、予め側枝98に挿入された他のガイドワイヤー99に沿って従来のアンカー用のバルーンカテーテル100が側枝に挿入され側枝91内でバルーン101が拡張されて、アンカー用のバルーンカテーテル100が側枝98に固定されている。さらに、
図13の場合と異なり、この状態で、アンカー用のバルーンカテーテル100を術者等が手元側で引っ張ってガイディングカテーテル93が冠動脈入口部92から抜けないように保持しつつ、ガイディングカテーテル93のバックアップを確保することが可能なため、狭窄部拡張用バルーンカテーテル95を押し込んで、狭窄部90に挿通させている。
但し、アンカー用のバルーンカテーテル100を側枝に配してバルーン101を拡張するため、側枝にアンカー用のバルーンカテーテル100を誘導するために他のガイドワイヤー99が必要となり、ガイドワイヤー99を側枝に配置するための手間が発生する。また、アンカー用のバルーンカテーテル100のバルーン101の拡張によって側枝に損傷を与えてしまうことが懸念される。従って、患者および術者の負担が増すおそれがある。
【0052】
図15は、本発明のアンカーカテーテル10を狭窄部90に挿通させる直前の状態を示した説明図である。
図15に示すように、本発明のアンカーカテーテル10を使用することで、カテーテル挿通用筒状体20の内腔部に狭窄部拡張用バルーンカテーテル95を挿通させて、バルーンカテーテル95と共に狭窄部90の直近に拡張体30を誘導することができる。従って、
図14に示す従来のアンカーテクニックの場合のように、他のガイドワイヤー99を用いて側枝98にアンカー用のバルーンカテーテル100を誘導する必要がない。
【0053】
図16は、本発明のアンカーカテーテル10を狭窄部90に挿通させている時の状態を示した説明図である。
図16に示すように、本発明のアンカーカテーテル10を使用することで、狭窄部90の直近に拡張体30を拡張させて、アンカーカテーテルを当該位置に固定することができ、かつ、従来のアンカーテクニックと同様に、アンカーカテーテル10を術者等が手元側で引っ張ってガイディングカテーテル93が冠動脈入口部92から抜けないように保持しつつ、ガイディングカテーテル93のバックアップを確保することが可能なため、狭窄部拡張用バルーンカテーテル95を押し込んで、狭窄部90に挿通させることが可能である。このように、本発明のアンカーカテーテルでは、側枝にバルーンカテーテルを誘導して固定しないため、従来のアンカーテクニックとは異なり、側枝を損傷するおそれがない。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨が損なわれない範囲で各種変更を行うことが可能である。
【0055】
(実施例1)
アンカーカテーテルとしては、連結部材の構成を
図6に示したものを採用し、その他の構成を
図4、5に示した構成を有するものを作製した。具体的には、以下のとおりである。
カテーテル挿通用筒状体として、ポリアミド系樹脂を用いて、内径φ1.0mm、外径φ1.2mmのチューブを押出成形し、長さ40mmにて切断したものを用いた。
拡張体としては、
図4(
図1)に示す形状のバルーンを用いた。まず、押出成形によりポリアミドエラストマーのチューブ状パリソンを成形し、次に、このチューブ状パリソンを所定のバルーン形状を有する金型内に配置し、金型内で軸方向と径方向とに延伸することにより、金型と同一形状の外形を有するバルーンを成形した。前記金型は、直管部の径をφ4.0mm、直管部の全長を20mm、両スリーブ部の両端部の全長を30mmとした。
軸体としては
図5に示す構造を有する、近位側筒状体と遠位側筒状体からなる流体用筒状体を用いた。近位側筒状体は、ステンレス製で、内径φ0.5mm、外径φ0.6mm、長さ1200mmの円筒形状のチューブを使用した。遠位側筒状体は、ポリアミド系樹脂製の内径φ0.6mm、外径φ0.7mm、長さ200mmの円筒形状のチューブを使用した。近位側筒状体の遠位側端部と遠位側筒状体の近位側端部とを、接着により接合し、全長が約1440mmの流体用筒状体を作製した。
連結部材としては、
図6に示す素線をコイル状に巻き回した構造のものを用いた。素線は、外径φ0.15mmのステンレス製の単線を用い、ピッチ間隔0.2mm、内径φ1.2mmとなるようにコイル形状に形成した。
線状体としては、
図5に示す構造を有するものを用いた。具体的には、ステンレス製の単線からなり、外径をφ0.2mm、長さ210mmとしたものを作製した。
線状体の遠位側端部をコイル状の連結部材の近位側端部に溶接により接合し、さらに線状体を流体用筒状体の内腔部に挿通し、近位側筒状体の遠位側端部近傍の内壁面に線状体の遠位端を溶接により接合した。近側筒状体の近位側端部に
図4、5に示すハブを接着剤により接合した。コイル状の連結部材の内腔部にカテーテル挿通用筒状体を挿通し、それらを熱溶着により接合した。流体用筒状体を構成する遠位側筒状体の遠位側端部、カテーテル挿通用筒状体の近位側端部、バルーンの近位側のスリーブ部を、熱溶着により接合した。また、カテーテル挿通用筒状体の遠位側端部、バルーンの遠位側のスリーブ部を、熱溶着により接合した。
以上により、連結部材の構成を
図6に示したものを採用し、その他の構成を
図4、5に示した構成を有する本発明のアンカーカテーテルが得られた。
【0056】
(比較例1)
従来のアンカーテクニックに用いられている、治療用カテーテルを挿通できない一般的なバルーンカテーテル(株式会社カネカ製、ikazuchi)を用いた。
【0057】
(評価)
実施例1及び比較例1を評価するために、模擬血管モデル内でアンカーテクニックを実施し、実施例1で作製したアンカーカテーテル及び比較例1のバルーンカテーテルを用いて、狭窄部拡張用バルーンカテーテル(株式会社カネカ製、ikazuchi)が狭窄モデル部位を通過できるか否かを検証した。
比較例のバルーンカテーテルを模擬血管モデル内の側枝に配置し、推奨圧力である8atm(0.8MPa)をかけた状態で、アンカーテクニックを実施したところ、ガイディングカテーテルが模擬血管入口部から外れることなく狭窄部拡張用バルーンカテーテルがφ0.75mmのモデル狭窄部を通過することを確認した。アンカーテクニックなしでは、ガイディングカテーテルが模擬冠動脈入口部から外れ、狭窄部拡張用バルーンカテーテルはφ0.85mmの狭窄モデルしか通過できなかった。
実施例1で作製したアンカーカテーテルを模擬血管モデル内のモデル狭窄部の直前に配置し、推奨圧力である8atm(0.8MPa)をかけた状態で、アンカーテクニックを実施したところ、ガイディングカテーテルが模擬冠動脈入口部から外れることなく狭窄部拡張用バルーンカテーテルがφ0.75mmの狭窄モデルを通過することを確認した。
以上より、実施例1のアンカーカテーテルを用いることで、比較例のバルーンカテーテルを側枝に配する従来のアンカーテクニックと同様の効果が得られることが分かった。一方、実施例1のアンカーカテーテルでは、側枝にアンカーカテーテルを配する必要がないため、側枝の血管に損傷を与えることなく、簡便かつ安全にアンカーテクニックを実施することができる。