(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919880
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】車両ガラス用無鉛ハンダ合金
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20160428BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20160428BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20160428BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20160428BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20160428BHJP
C03C 27/04 20060101ALI20160428BHJP
B60J 1/00 20060101ALN20160428BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
B23K35/26 310D
C22C28/00 B
B23K1/19 Z
B23K1/00 330D
C03C27/04 A
!B60J1/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-39470(P2012-39470)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2012-192449(P2012-192449A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2011-45339(P2011-45339)
(32)【優先日】2011年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145632
【弁理士】
【氏名又は名称】小出 誠
(72)【発明者】
【氏名】西 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】堀 光男
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−141078(JP,A)
【文献】
特開2000−119046(JP,A)
【文献】
特開昭61−014096(JP,A)
【文献】
特表2009−504411(JP,A)
【文献】
特表2007−504005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 13/00
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示で、
In 26.0〜56.0、
Ag 0.1〜5.0、
Ti 0.002〜0.05、
Si 0.001〜0.05、
残部がSnの合金組成からなることを特徴とする、車両用ガラス用無鉛ハンダ合金。
【請求項2】
質量%表示で、
In 26.0〜56.0、
Ag 0.1〜5.0、
Cu 0.005〜0.1、
Ti 0.002〜0.05、
Si 0.001〜0.05、
B 0.001〜0.01、
残部がSnの合金組成からなることを特徴とする、車両用ガラス用無鉛ハンダ合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部付きガラスと金属端子を接合するための無鉛ハンダ合金、及びこれを用いたガラス物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用や建築用の一部のガラス物品には、視界確保のためにデフォッガとして導電線が形成されることがある。また、自動車のリアウインドウやサイドウインドウには、ガラスアンテナが用いられることもある。ガラスアンテナでは、ガラス板の表面にアンテナパターンといわれる導電線のパターンが形成される。
【0003】
これらの導電線には、給電用の金属端子(給電端子)が設けられる。従来給電端子とガラスは鉛を含むハンダで接続されてきた。しかし、一般に鉛は毒性の高い環境汚染物質であり、健康・環境への影響の懸念、特に生態系への悪影響や汚染が問題視されている。特に鉛を含むハンダを使用したガラス物品が廃棄された場合、該ハンダに酸性雨などが付着すると鉛が環境中に溶出する恐れがある。
【0004】
この点から家電業界に於いては、電子基板用のハンダの無鉛化が急速に広まっている。しかし、ガラスと金属端子を接合するためのハンダは、電子基板用のハンダと比較して接着強度の要求値が高い上、金属とガラスの熱膨張係数の違いなどから、急激な温度変化が生じる場合に於いては、ガラスと金属端子を接合しているハンダに応力が集中し、接合強度の低下やガラス表面にクラックを生じさせる等の問題が起きやすい。
【0005】
現在電子基板用無鉛ハンダとして主流となっているSn−3Ag−0.5Cu(Ag3質量%、Cu0.5質量%を含むSn系ハンダ)については、電子基板に於いては接合強度も高く、信頼性の高いハンダ合金の一つである(特許文献1参照)。
【0006】
また、Sn−Zn−Bi系(特許文献2参照)、Sn−In−Ag系(特許文献2参照)等、電子基板用では種々のハンダ合金が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−509767号公報
【特許文献2】特開平8−164495号公報
【特許文献3】特開平9−326554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子基板用ハンダとして主流となっているSn−Ag−Cu系ハンダは、電子基板に於いては接合強度も高い。しかし、このハンダはヤング率が50GPaと高く、剛性の高い金属であるため、剛性の高いガラスと金属の接合用途にそのまま使用することは出来ない。
【0009】
すなわち、上記特表2009−509767号公報に記載のものは、機械的な応力や、熱膨張係数の違いによる応力が掛かった場合、ハンダの剥がれ、もしくはガラス基板の割れなどの不具合を起こす可能性がある。
【0010】
また、特開平8−164495号公報に記載のSn−Zn−Bi系は、ヤング率に関しては改善されているものの、鉛と同じように毒性の高いBiを含むことから、最近では使用が控えられるようになっている。
【0011】
特開平9−326554号公報に記載のSn−In−Ag系は、ヤング率をより低くすることが可能であり、車両用としても良好に使用できると期待されたものであった。しかし、この系に於いても車両用途のように屋外で使用するには、性能的に不十分であることが分かってきた。例えば、酸性雨などを想定した耐酸性、海水や氷雪防止剤などを想定した耐塩水性、寒冷地での昼夜の温度差などを想定した耐温度サイクル性などを満足させることは難しい。
【0012】
このように、導電部が形成された導電部付きガラスの導電部を接続されるための車両ガラス用無鉛ハンダには、電子基板用よりも高い性能が求められ、それを満たすハンダが得られないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、質量%表示で、In26.0〜56.0、Ag0.1〜5.0、Ti0.002〜0.05、Si0.001〜0.0
5、残部がSnの合金組成からなることを特徴とする、車両用ガラス用無鉛ハンダ合金である。
【0014】
また、質量%表示で、In26.0〜56.0、Ag0.1〜5.0、Cu0.005〜0.1、Ti0.002〜0.05、Si0.001〜0.0
5、B0.001〜0.01、残部がSnの合金組成からなることを特徴とする、車両用ガラス用無鉛ハンダ合金である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、特に車両用ガラス用途として良好な、ガラスとの接合強度や耐酸性、耐塩水性、耐温度サイクル性に優れた無鉛ハンダ合金が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の成分系においてInは質量%で26.0〜56.0%であることが好ましい。Inが26%未満ではヤング率が大きくなり、ガラスにクラックを与える可能性がある。逆にInが56%を超えると、常温付近の温度変化においてもIn3Sn/In3Sn+InSn4の相変化による内部応力の残留や、クラック発生により、ハンダの接着強度が低下する。
【0017】
より好ましくは31.0〜51.0%の範囲である。
【0018】
さらに、In、Snに対するAg、Ti、Siの適量の添加により、結晶構造が微細化することで結晶構造が安定し、かつIn合金の特有の酸化性を抑制する。また目的とする温度範囲が安定し、良好な接合が得られる。
【0019】
これは熱による接合時(鏝付け・ガスバーナ付け・熱ブロー付け・炉中付け・超音波付け等)では、In−Sn二元合金で低融部の117℃の共晶では安定した接合が得られるが、車両用ガラスの場合、共晶温度付近まで温度が上昇する場合があるため、液相温度を上げる必要がある。
【0020】
これには、Snの含有量を増やし、Inを下げることで対応できるが、Snの含有量を増加させた場合、接合時、熱によりSnの結晶が肥大化し接合面に拡散して接合するが、経年と共に接合面の強度が劣り始め剥離現象が起こり易い。経年変化、剥離現象、クラック等なく安定した接合を得るための手段として、In、SnにAg、Ti、Siを適量添加することで、結晶構造を微細化し安定した接合部にし、かつ酸化性を抑制し物理特性を安定させる低融ハンダ合金が得られる。
【0021】
またさらには、In、Snに対するAg、Cu、Ti、Si、Bの適量の添加により、自然化成酸化膜が微細な(スピネル)構造を形成することで、In−Sn二元合金の酸化膜より均一で安定した酸化膜が形成され、さらに表面腐食を防止することができる。これは熱による接合後(鏝付け・ガスバーナ付け・熱ブロー付け・炉中付け・超音波付け等)、自然化成酸化膜が微細な(スピネル)構造を形成することにより、耐熱性、耐蝕性、耐候性等の環境条件に耐えられ、接合後の母材と接合面との剥離現象や経年変化が起こらない合金内部、合金表面の結晶構造が得られる。
【0022】
すなわち、酸化膜の微細化によって酸化膜が均一化し、安定した接合を得る。そのための手段としてIn、SnにAg、Cu、Ti、Si、Bを適量添加することで、酸化膜結晶構造が微細化し安定した接合部となり、かつ酸化性を抑制し物理特性を安定させる低融ハンダ合金が得られる。
【0023】
本発明のAg添加量は質量%で0.1〜5.0%が好ましい。Agを添加することにより、ハンダの機械的強度の向上に優れた効果を発揮する。
【0024】
また車両用ガラスでは、銀ペーストをスクリーン印刷−乾燥−焼成することでデフォッガ熱線やアンテナ線を形成させるが、これらの銀線と車体の接点を取る給電端子はハンダによって接続される。このとき、ハンダによる銀線の腐食(いわゆる銀喰われ)を防止するため、ハンダ中にAgを添加することが効果的である。しかし、0.1%未満ではこれらの効果が低く、5%を超えると粗大なAg3Snが析出し、強度低下や疲労強度を低下させる原因となる。好ましくは0.5〜3.0%である。
【0025】
本発明のCu添加量は、質量%で0.005〜0.1%が好ましい。この範囲から外れると接合部の接合強度が十分に得られない。さらに好ましくは0.005〜0.05%である。
【0026】
Tiは非常に酸化されやすい元素であるが、酸化物との接合においては結合を造りやすいという効果があり、ハンダの液相温度を上昇させる効果も持つ。
【0027】
また、Snの含有量を増加させた場合、接合時、熱によりSnの結晶が肥大化し接合面に拡散して接合するが、経年と共に接合面の強度が劣り始め剥離現象が起こり易い。Tiを添加することによって、これを抑制する効果が得られる。Tiの添加量は、微量に含まれているだけでこの効果を十分に発揮できるため、本発明のTi添加量は好ましくは質量%で0.002〜0.05%であり、より好ましくは0.005〜0.03%である。
【0028】
Siは、ハンダが溶融−固化する際に各金属成分の界面間に析出し、ハンダ材料の組織を微細化する効果を持つ。Siの添加量は、微量に含まれているだけでこの効果を十分に発揮できるため、本発明のSi添加量は好ましくは質量%で0.001〜0.01%であり、より好ましくは0.002〜0.008%である。
【0029】
BはCuと共に添加することで、熱による接合後(鏝付け・ガスバーナ付け・熱ブロー付け・炉中付け・超音波付け等)、酸化膜が微細な(スピネル)構造を形成させる効果があり、耐熱性、耐蝕性、耐候性等の環境条件に耐えられ、接合後の母材と接合面との剥離現象や経年変化が起こらない合金表面の結晶構造が得られる。すなわち、酸化性を抑制し、物理特性を安定させるハンダ合金が得られる。
【0030】
Bの添加量は、微量に含まれているだけでこの効果を十分に発揮できるため、本発明のB添加量は好ましくは質量%で0.001〜0.01%であり、より好ましくは0.002〜0.008%である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0032】
ハンダ合金を作製するに当たっては、各成分割合になるように混合し、真空中で溶融することで、表1の実施例1〜8及び表2の比較例1〜5の合金を得た。
【0033】
350mm×150mm×3.5tのソーダライムガラス基板に、一般的な自動車用ガラスの黒枠と、熱線部と端子を接続させるために設ける銀のバスバー部を加工するのと同様に、まず黒色セラミックペーストをメッシュ#180のスクリーンを用いて、印刷/乾燥後、その上に銀ペーストをメッシュ#200のスクリーンを用いて、銀プリント(サイズ:12mm×70mm、15箇所)を印刷/乾燥した。スクリーン印刷したガラスは、加熱処理し、強化ガラスとした。
【0034】
JIS H 3100に規定されるC2801P(黄銅板)製の端子にハンダ合金を2mm厚になるように盛り、ガラス上の銀部にセットし、300℃以上の熱風で加熱しハンダを溶融させハンダ付けをした。
【0035】
このようにして作製した各試料について、接合強度、外観、温度サイクル試験、塩水噴霧試験を実施した。
【0036】
初期接合強度は、JIS C62137に準じて行った。プッシュ・プルゲージでの引張試験を行い、80Nで剥がれないものを合格とした。初期外観はハンダ表面のクラックの有無を目視で観察し、クラックのないものを合格とした。温度サイクル試験は、JIS C2807に規定される耐冷熱サイクル試験を参考に行った。すなわち、20℃(3分)→−30℃(30分)→20℃(3分)→85℃(30分)→20℃(3分)を1サイクルとし、100サイクルを繰り返し実施した後のガラス面に外観変化(クラック)のないものを合格とした。なお、JIS C2807では、低温側温度は−25℃である。塩水噴霧試験は、35℃の雰囲気中で5%NaCl水溶液を噴霧圧0.1MPaにて100時間、200時間、300時間連続噴霧し、試験後の接着強度が80N以上のものを合格とした。
【0037】
(結果)
ハンダ組成及び、試験結果を表に示す。合格を○、不合格を×で示したが、塩水噴霧試験結果欄の表記は、×:100時間後不合格、△:100時間後合格、○:200時間後合格、◎:300時間後合格とした。
【表1】
【表2】
【0038】
表1における実施例1〜8に示すように、本発明のハンダ組成のものは接合強度・外観ともに良好であった。
【0039】
他方、本発明の端子構造と異なる比較例1〜5は、接合強度・外観のいずれかまたは両方が不良となり、無鉛ハンダ合金を用いた金属端子とガラス物品との接合には適していない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、金属端子とガラス物品との接合に好適な、無鉛ハンダ合金が与えられるものである。自動車用や建築用などの導電線やガラスアンテナなど広い分野で応用可能である。