特許第5919949号(P5919949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5919949ケーブル解析システム、ケーブル解析方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919949
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ケーブル解析システム、ケーブル解析方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/06 20060101AFI20160428BHJP
   G01B 15/04 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   G01B15/06
   G01B15/04 H
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-74530(P2012-74530)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-205219(P2013-205219A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂樹
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−205802(JP,A)
【文献】 特開2007−312837(JP,A)
【文献】 特開平06−259555(JP,A)
【文献】 特開平06−096163(JP,A)
【文献】 米国特許第04725963(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01B 15/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの状態を解析するための解析システムであって、
前記ケーブルの長手方向に沿った複数箇所について当該ケーブルの断面内における基準点の位置情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記位置情報の誤差を低減する処理を行う誤差処理部と、
を備え、
前記誤差処理部は、
前記ケーブルの第1の断面内における基準点の位置情報と前記第1の断面の周囲の他の断面である第2の断面内における基準点の位置情報とを用いて前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーを算出し、前記第1の断面内における前記基準点での前記変形エネルギーが低下する方向へ前記第1の断面内における前記基準点を移動させると共に、前記第1の断面内における前記基準点の移動を、前記取得部による前記位置情報の取得の際に生じる可能性のある最大誤差の範囲以内で行う補正部と、
前記補正部によって移動させた前記基準点を、前記第1の断面内における新たな基準点として設定する設定部と、
を有していることを特徴とするケーブル解析システム。
【請求項2】
前記補正部は、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーの大きさに応じた移動量について、変形エネルギーが低下する方向へ当該基準点を移動させる請求項1に記載のケーブル解析システム。
【請求項3】
前記補正部は、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーとして、前記ケーブルの曲げによる変形エネルギー又は前記ケーブルのねじりによる変形エネルギーを求める請求項2に記載のケーブル解析システム。
【請求項4】
前記補正部は、前記ケーブルの複数の断面それぞれにおける前記基準点それぞれの変形エネルギーを総和した総エネルギーが、閾値よりも小さくなるまで、前記基準点を移動させる処理を繰り返し行う請求項1〜3のいずれか一項に記載のケーブル解析システム。
【請求項5】
前記誤差処理部は、補正の対象とする前記基準点をサンプリング間隔毎の基準点とするために、ケーブルの断面寸法に基づいて前記サンプリング間隔を決定する決定部を更に有し、
前記補正部は、前記サンプリング間隔毎の前記基準点それぞれに対して、当該基準点の移動を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載のケーブル解析システム。
【請求項6】
ケーブルの長手方向に沿った複数箇所について当該ケーブルの断面内における基準点の位置情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得した前記位置情報の誤差を低減する処理を行う誤差処理ステップと、
を備え、
前記誤差処理ステップでは、
前記ケーブルの第1の断面内における基準点の位置情報と前記第1の断面の周囲の他の断面である第2の断面内における基準点の位置情報とを用いて前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーを算出し、前記第1の断面内における前記基準点での前記変形エネルギーが低下する方向へ前記第1の断面内における前記基準点を移動させると共に、前記第1の断面内における前記基準点の移動を、前記取得ステップでの前記位置情報の取得の際に生じる可能性のある最大誤差の範囲以内で行い、
この移動させた前記基準点を、前記第1の断面内における新たな基準点として設定することを特徴とするケーブル解析方法。
【請求項7】
ケーブルの長手方向に沿った複数箇所について当該ケーブルの断面内における基準点の位置情報を取得する取得処理、及び、この取得した前記位置情報の誤差を低減する誤差処理を、コンピュータによって実行させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
前記誤差処理において、前記ケーブルの第1の断面内における基準点の位置情報と前記第1の断面の周囲の他の断面である第2の断面内における基準点の位置情報とを用いて前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーを算出し、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーが低下する方向へ前記第1の断面内における前記基準点を移動させると共に、前記第1の断面内における前記基準点の移動を、前記取得処理での前記位置情報の取得の際に生じる可能性のある最大誤差の範囲以内で行う補正手段、
及び、前記補正手段によって移動させた前記基準点を、前記第1の断面内における新たな基準点として設定する設定手段、
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルの状態を解析するための解析システム、解析方法、及び、この解析システムのためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業機器等には、信号送信や電力供給のためにケーブルが用いられている。このようなケーブルには、素線を撚り束ねて一本のケーブルとしたものや、素線を撚り束ねた芯線をさらに複数本撚り束ねて一本のケーブルとしたもの等がある。
ケーブルは、例えば自動車のボディとドアとの間の可動部に跨って設けられることがあり、この場合、可動部の動作に伴ってケーブルが屈曲したりねじれたり変形する。このようなケーブルの変形が繰り返し行われると、ケーブルが疲労することが考えられる。
【0003】
そこで、このようなケーブルの変形(疲労)をコンピュータによりシミュレーションすることが可能であり、例えば、屈曲したケーブルの長手方向における曲率分布を求め、ケーブルの状態を評価することができる。そして、本発明者は、ケーブルの曲率分布を求める手法を、特許文献1により提案している。
【0004】
特許文献1に記載の手法では、まず、X線CTスキャナ装置によってケーブルが撮像され、ケーブルの断面画像が複数取得される。そして、これら断面画像それぞれから、その断面におけるケーブルの中心位置が画像処理により求められ、これら中心位置に基づいて、ケーブルの状態として、ケーブルの長手方向における曲率分布を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−205802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、さらに研究を進めた結果、ケーブルの解析精度を向上させるための新たな着想を得た。
つまり、ケーブルの断面画像から、その断面におけるケーブルの中心位置を画像処理により読み取る際に、読み取り誤差が生じ、その誤差が解析処理においてノイズとなることがある。そこで、本発明者は、この読み取り誤差を低減することにより、ケーブルの解析精度を向上させることができるという着想を見出した。
【0007】
読み取り誤差を低減するための手法として、断面画像から読み取ったその断面におけるケーブルの中心位置に関する位置情報を、ローパスフィルタを用いて平滑化処理する手法が考えられる。この場合、高周波のノイズを抑制することは可能であるが、強いフィルタを作用させると時間遅れが生じてしまい、平滑化処理後のケーブルの中心位置が、元の読み取り位置から乖離してしまうおそれがある。
【0008】
また、このようなローパスフィルタによる平滑化処理を行う場合、その処理の強さと回数とに応じてケーブルの形状が変化して曲率やねじり率が変化するが、このようなローパスフィルタによる処理と、実際のケーブル状態(曲げやねじりの挙動)との間には全く関連性がなく、どの程度の強さ・回数で平滑化処理すればよいのか判断が困難である。
【0009】
そこで、本発明は、ケーブルの状態を解析するために必要となる情報を、正確に求めることができる手段を備えたケーブル解析システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、ケーブルの状態を解析するための解析システムであって、前記ケーブルの長手方向に沿った複数箇所について当該ケーブルの断面内における基準点の位置情報を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記位置情報の誤差を低減する処理を行う誤差処理部とを備え、前記誤差処理部は、前記ケーブルの第1の断面内における基準点の位置情報と前記第1の断面の周囲の他の断面である第2の断面内における基準点の位置情報とを用いて前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーを算出し、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーが低下する方向へ前記第1の断面内における前記基準点を移動させると共に、前記第1の断面内における前記基準点の移動を、前記取得部による前記位置情報の取得の際に生じる可能性のある最大誤差の範囲以内で行う補正部と、前記補正部によって移動させた前記基準点を、前記第1の断面内における新たな基準点として設定する設定部とを有していることを特徴とする。
【0011】
実際のケーブルの状態(曲げやねじり等の挙動)と、そのケーブルの断面内における点(基準点)での変形エネルギーとは関連性がある。したがって、例えば、ある基準点の位置情報が大きな誤差を含んで取得され、その位置情報に基づいてその基準点での曲げやねじりによる変形エネルギーが算出された場合、その変形エネルギーは、実際の値よりも大きくなってしまうことがある。
【0012】
そこで、このような場合であっても、前記(1)の本発明によれば、誤差処理として、誤差を含む基準点を、変形エネルギーが低下する方向へ移動させ、しかも、この基準点の移動を最大誤差の範囲以内で行うことにより、前記基準点の位置(位置情報)を、実際のケーブルの状態に即した位置へと補正することが可能となり、ケーブルの状態を解析するために必要となる基準点(位置情報)を、正確に求めることができる。そして、このように補正した基準点が、ケーブルの断面内における新たな基準点として設定され、この新たな基準点に基づいてケーブルの解析を行えば、解析精度を高めることが可能となる。
【0013】
(2)また、前記補正部は、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーの大きさに応じた移動量について、変形エネルギーが低下する方向へ当該基準点を移動させるのが好ましい。
この場合、例えば、ある基準点における変形エネルギーを求めると、その値が際立って大きい場合、その大きさに応じた移動量について、変形エネルギーが低下する方向へ基準点を移動させることができる。
【0014】
(3)また、前記(2)に記載のケーブル解析システムにおいて、前記補正部は、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーとして、前記ケーブルの曲げによる変形エネルギー又は前記ケーブルのねじりによる変形エネルギーを求める。
この場合、曲げによる変形エネルギーの基礎となるケーブルの曲率、ねじりによる変形エネルギーの基礎となるねじり率は、前記誤差によって桁違いに大きな値となるため、このような曲げによる変形エネルギー又はねじりによる変形エネルギーを求め、この変形エネルギーの大きさに応じた移動量について、基準点を移動させることで、誤差の大きさに応じた補正が可能となる。
【0015】
(4)また、前記補正部は、前記ケーブルの複数の断面それぞれにおける前記基準点それぞれの変形エネルギーを総和した総エネルギーが、閾値よりも小さくなるまで、前記基準点を移動させる処理を繰り返し行う。この補正部の処理により、基準点(位置情報)を、実際のケーブルの状態に即した位置へと確実に補正することができる。
【0016】
(5)前記取得部によって基準点の位置情報を取得する対象となるケーブルの断面が多数存在していると、実際のケーブルの表面に局所的な凹凸部が在る場合、この取得部によって取得される基準点の位置情報は、この局所的な凹凸部に追従して大きな影響を受けてしまう。そこで、前記誤差処理部は、補正の対象とする前記基準点をサンプリング間隔毎の基準点とするために、ケーブルの断面寸法に基づいて前記サンプリング間隔を決定する決定部を更に有し、前記補正部は、前記サンプリング間隔毎の前記基準点それぞれに対して、当該基準点の移動を行うのが好ましい。
この場合、取得部によって基準点の位置情報を取得する対象となり得るケーブルの断面が多数存在していても、補正の対象とする基準点をサンプリング間隔毎の基準点とする(基準点を間引く)ことができ、ケーブルの局所的な凹凸の影響を受けにくくすることが可能となる。
【0017】
(6)また、本発明のケーブル解析方法は、ケーブルの長手方向に沿った複数箇所について当該ケーブルの断面内における基準点の位置情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップにおいて取得した前記位置情報の誤差を低減する処理を行う誤差処理ステップとを備え、前記誤差処理ステップでは、前記ケーブルの第1の断面内における基準点の位置情報と前記第1の断面の周囲の他の断面である第2の断面内における基準点の位置情報とを用いて前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーを算出し、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーが低下する方向へ前記第1の断面内における前記基準点を移動させると共に、前記第1の断面内における前記基準点の移動を、前記取得ステップでの前記位置情報の取得の際に生じる可能性のある最大誤差の範囲以内で行い、この移動させた前記基準点を、前記第1の断面内における新たな基準点として設定することを特徴とする。
本発明によれば、前記(1)のケーブル解析システムと同様の作用効果を奏する。
【0018】
(7)また、本発明は、ケーブルの長手方向に沿った複数箇所について当該ケーブルの断面内における基準点の位置情報を取得する取得処理、及び、この取得した前記位置情報の誤差を低減する誤差処理を、コンピュータによって実行させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、前記誤差処理において、前記ケーブルの第1の断面内における基準点の位置情報と前記第1の断面の周囲の他の断面である第2の断面内における基準点の位置情報とを用いて前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーを算出し、前記第1の断面内における前記基準点での変形エネルギーが低下する方向へ前記第1の断面内における前記基準点を移動させると共に、前記第1の断面内における前記基準点の移動を、前記取得処理での前記位置情報の取得の際に生じる可能性のある最大誤差の範囲以内で行う補正手段、及び、前記補正手段によって移動させた前記基準点を、前記第1の断面内における新たな基準点として設定する設定手段、として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
本発明によれば、前記(1)のケーブル解析システムと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、誤差を含む基準点を、実際のケーブルの状態に即して補正することが可能となり、ケーブルの状態を解析するために必要となる基準点(位置情報)を、正確に求めることができる。そして、このように補正した基準点が、ケーブルの断面内における新たな基準点として設定され、この新たな基準点に基づいてケーブルの解析を行うことにより、解析精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ケーブル解析システムを示すブロック図である。
図2】解析プログラムに基づくケーブル解析システムのブロック図である。
図3】(a)は、解析対象となるケーブルの構成を示している概略図であり、(b)は、Z軸方向に連続して撮影された複数の断面画像を模式的に示している説明図であり、(c)は、断面画像からケーブルの中心位置を読み取る手段を説明する説明図である。
図4】ケーブルの解析方法を示すフローチャートである。
図5】読み取り誤差の補正処理を示すフローチャートである。
図6】誤差の補正の第1ステップを説明する説明図である。
図7】誤差の補正の第2ステップを説明する説明図である。
図8】誤差の補正の第4ステップを説明する説明図である。
図9】誤差の補正の第5ステップを説明する説明図である。
図10】局所座標の説明図である。
図11】全体座標と局所座標との関係を示す説明図である。変位データを示す図である。
図12】曲率算出の説明図である。
図13】曲率算出の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
〔1.ケーブル解析システム〕
図1は、ケーブル解析システムを示すブロック図である。このケーブル解析システム(以下、解析システムという)は、ケーブル4(図3(a)参照)を解析対象として、このケーブル4の曲げやねじり等の状態(挙動)を解析するためのものであり、ケーブル4の断面画像を取得するためのスキャナ装置(撮影装置)1と、スキャナ装置1により取得された断面画像の情報を処理するパーソナルコンピュータ2とを備えている。本実施形態に係るスキャナ装置1は、X線CTスキャナ装置である。
【0022】
パーソナルコンピュータ2(以下、コンピュータ2という)は、各種の演算処理を実行する中央処理ユニット(CPU)21、キーボードやマウス等の入力装置からなる入力部22、ディスプレイ等の表示部23、外部機器とのデータの入出力を行うためのLAN等の通信インターフェースからなる通信部24、及び、メモリやハードディスク等から構成される記憶部25を備えている。
【0023】
記憶部25には、コンピュータ2のオペレーティングシステムの他、ケーブル解析用のコンピュータプログラム26(以下、解析プログラム26という)が格納されている。この解析プログラム26が中央処理ユニット21によって実行されることで、コンピュータ2がケーブル解析装置3(以下、解析装置3という)として機能する。
通信部24は、スキャナ装置1と接続されており、スキャナ装置1から出力される情報を受信する。
【0024】
スキャナ装置1は、ケーブル4の長手方向に沿ってケーブルを走査し、長手方向の複数箇所におけるケーブル4の断面画像を取得し、取得したこれら断面画像の情報を出力する。出力された断面画像の情報は、通信部24を通じてコンピュータ2に入力され、記憶部25に保存される。
そして、解析プログラム26は、この断面画像の情報に基づいて、コンピュータ2にケーブル解析の処理を実行させる。なお、解析の処理を実行する際、スキャナ装置1とコンピュータ2とは、接続されている必要は無い。
【0025】
図2は、解析プログラム26に基づく解析装置3のブロック図を示している。この解析装置3は、解析プログラム26に基づく機能部として取得部30を備えており、この取得部30は、ケーブル4(図3(a)参照)の長手方向に沿った複数箇所について、このケーブル4の断面(横断面)内における基準点の位置情報(座標値)を取得する。なお、本実施形態では、前記基準点は、ケーブル4の断面内における中心点である。つまり、前記のとおり、スキャナ装置1は、ケーブル4の長手方向に沿ってケーブル4を走査し、長手方向の複数箇所におけるケーブル4の断面画像を取得することから、取得部30は、各断面画像におけるケーブル4の中心点の位置情報を取得する。
【0026】
また、解析装置3は、解析プログラム26に基づく機能部として誤差処理部31を備えており、この誤差処理部31は、取得部30がケーブル4の中心点の位置情報を取得する際に生じた位置情報の誤差(以下に説明する読み取り誤差)を低減する処理を行う。また、この誤差処理部31は、複数の機能を有しており、決定部35、補正部36及び設定部37を有している。これら各機能については後に説明する。
さらに、解析装置3は、位置情報である座標値を変換する局所座標変換部32と、ケーブル4の長手方向の各中心点における曲率分布等の形状データを生成する形状データ生成部33とを備えている。
【0027】
ここで、解析対象となるケーブル4について説明する。図3(a)において、ケーブル4は、螺旋状に撚り束ねられた7本の芯線41と、その外周側を覆う絶縁体からなる外部被覆層42とを有している。また、各芯線41は、7本の銅線等の導電金属線材を螺旋状に撚り束ねた素線43と、その外周側を覆う絶縁体からなる内部被覆層44とにより構成されている。各芯線41は、それぞれ独立して信号伝達や電力供給を行うことができるように構成されており、一本のケーブル4によって、多数の信号伝達や電力供給を行うことができる。なお、ケーブル4を構成している芯線41、芯線41を構成している素線43においても、それぞれ、信号送信や電力供給のためのケーブルとみなすことができる。
【0028】
〔2.ケーブルの解析方法〕
前記構成を備えている解析システムによって実行されるケーブル4の解析方法について説明する。図4は、ケーブル4の解析方法を示すフローチャートである。
【0029】
〔2.1 ケーブルの断面画像の取得〕
ケーブル4を屈曲変形させ、実機に設置された状態を再現して治具等によって固定し、これをスキャナ装置1で撮影する。スキャナ装置1の撮影面A(図3(a)参照)は、ケーブル4を横断する平面となり、図3(b)に示すように、ケーブル4の横断面の画像(以下、断面画像gという)が取得される。この断面画像gは、ケーブル4を透過撮影して得られた画像であり、コンピュータ2によって読み込み可能な画像データ(ピクセルデータ)として取得される。また、スキャナ装置1は、ケーブル4の長手方向に沿ってケーブル4を走査することから、ケーブル4の長手方向の複数箇所におけるケーブル4の断面画像gが取得される。
【0030】
各断面画像gは、X線の吸収率の差によって、導電金属線材からなる素線43と、被覆層42,44を含むその他の部分との間で大きくコントラストが生じるものであり、図3(b)に示すように、断面画像gは、周囲よりも濃く(暗く)現れる図中破線で示した濃部g1と、濃部g1よりも薄い(明るい)淡部g2とで現される濃淡画像となる。本実施形態の場合、ケーブル4において、芯線41の断面像が7箇所の濃部g1として現れている。これにより、芯線41の部分を濃部g1として認識することができる。素線43の断面は、前記画像データの1ピクセル(1画素)よりも十分に大きい。
【0031】
なお、一般的にX線画像は、X線吸収率の高い部分が明るく現れ、吸収率の低い部分が暗く現れるため、ケーブル4の撮影像は、金属である素線43が存在する部分が明るい淡部、他の部分が暗い濃部となって得られるのである。しかし、本実施形態の断面画像gでは、淡部と濃部とを反転させることで、素線43(芯線41)の断面像が濃部、他の部分が淡部となるように示し、素線43(芯線41)の断面像をより明瞭に把握できるようにしている。
【0032】
複数の断面画像gが並ぶ方向、つまり、スキャナ装置1の走査方向を、Z軸方向とし、このZ軸方向に直交する一の方向をX軸方向とし、Z軸方向及びX軸方向に直交する方向をY軸方向とする。本実施形態では、複数の断面画像gが並ぶ方向を、ケーブルの長手方向にほぼ一致させている。また、以下では、このXYZ軸による3次元座標を、全体座標という。
【0033】
スキャナ装置1は、Z軸方向についての所定の撮影範囲内を、所定のピッチL(一定のピッチL)で撮影することにより、ケーブル4の断面画像gがZ軸方向に複数得られる(図4のステップS1)。図3(b)は、複数の断面画像gを模式的に示している。各断面画像gは、X−Y平面に平行である2次元画像として得られるとともに、Z軸方向に沿って一定のピッチLで連続的に複数得られる。
なお、ケーブル4の長手方向と、全体座標におけるZ軸方向とを、できるだけ一致させているが、ケーブル4は屈曲変形しているので両者は必ずしも一致しない。
【0034】
前記ステップS1において取得された複数の断面画像gの情報は、スキャナ装置1から出力され、コンピュータ2に入力され、記憶部25に記憶される。
そして、コンピュータ2のCPU21は、解析プログラム26に基づいて、以下の処理(図4のステップS2〜S7、ステップS8)を実行する。
【0035】
〔2.2 ケーブル4の中心位置の取得〕
コンピュータ2の取得部30は、記憶部25に記憶させた複数の断面画像gそれぞれについて、ケーブル4の断面における中心位置(座標値)を取得する(図4のステップS2)。
つまり、取得部30として機能するCPU21は、記憶部25に記憶させた複数の断面画像gそれぞれを画像解析して、濃淡画像から2値化画像に変換する。そして、断面画像g中(図3(c)参照)、ケーブル4の部分を示す濃部g1の輪郭を示す境界線g3の2次元データを取得する。
さらに、CPU21は、境界線g3の2次元データから、ケーブル4(濃部g1)の中心位置g4を取得する。中心位置g4は、例えば、境界線g3の2次元データに基づいて、境界線g3で囲まれた領域の面積中心を求め、この面積中心をケーブル4の中心位置g4として特定する。
【0036】
スキャナ装置1の走査方向はZ軸方向であり、複数の断面画像gは、X−Y平面に平行かつZ軸方向に沿って一定のピッチLで連続的に撮影されているため、各断面画像gに対して、Z軸方向の座標値を割り当てることができる。したがって、CPU21は、各断面画像g中の中心位置g4に対して、それぞれZ座標値を割り当てることができる。この結果、各断面画像g中の中心位置g4におけるX−Y−Zの3方向の3次元座標値を、その中心位置g4の位置情報として取得することができる。
なお、複数の断面画像gのZ軸方向における間隔が、一定のピッチLでなくても、その間隔を予め把握しておけば、各断面画像gにおける中心位置g4のZ座標値を特定することができる。
以下、この3次元座標系におけるケーブル4の中心位置g4を、ケーブル4の中心点iと呼んで説明する。
【0037】
各断面画像gにおけるケーブル4の中心点iは、ケーブル4の位置、状態(曲げ等の挙動)を定める基準位置となる。なお、ケーブル4の基準位置は、ケーブル4の中心点i以外であってもよく、他の点を基準位置としてもよい。
【0038】
以上のように、ケーブル3の断面内における中心点iの3次元座標値を、そのケーブル4の長手方向の複数箇所から取得することができ、これら複数の中心点iそれぞれについての全体座標における3次元座標値(位置情報)は、各中心点iの位置情報として記憶部25に格納される(図4のステップS2)。この図4のステップS2が、ケーブル4の長手方向に沿った複数箇所について、このケーブル4の断面内における中心点iの位置情報を取得する取得ステップとなる。
【0039】
ここで、取得部30による処理において発生する位置情報の誤差について説明する。
前記のようにして取得されたケーブル4の各断面内における中心点iのX座標値とY座標値とには、誤差が含まれることがある。図3(c)において、この誤差は、ケーブル4の中心位置g4を求めるための前記画像解析の処理性能に起因しており、前記のとおり、ケーブル4の部分を示す濃部g1の輪郭を示す境界線g3の2次元データを取得する際に生じることがある。つまり、境界線g3を、画像解析の際の画素の基本単位となる1ピクセルについて、読み間違えることが起こり得ることから、中心点iのX座標値とY座標値とに関して、この1ピクセルを最大として誤差が生じることがある。以下の本実施形態では、この誤差を、読み取り誤差ともいう。そして、誤差の最大値は1ピクセルに相当する寸法である。
【0040】
〔2.3 読み取り誤差の補正〕
このように、中心点iの座標値に関して読み取り誤差が生じていることから、この読み取り誤差を補正する処理を、誤差処理部31は実行する(図4のステップS3)。なお、以下に説明する読み取り誤差の補正の処理は、特に断らない限り、誤差処理部31の機能によって実現される。
【0041】
図5は、読み取り誤差の補正処理(誤差処理ステップ)を示すフローチャートである。図6(a)は、誤差の補正の第1ステップS31を説明する説明図であり、ケーブル4の一部と、このケーブル4の断面画像から位置情報が取得された複数の中心点iを示している。図6(a)に示すように、取得部30によって取得された複数の中心点iは、前記読み取り誤差等に起因して実際のケーブル4の中心線Cと一致していない。
【0042】
誤差処理部31(決定部35)は、複数の中心点iそれぞれの3次元座標値に基づいて、隣り合う中心点i,i間の距離Siを求める。
そして、ケーブル4の直径をd[mm]とし、定数をαとすると、誤差処理部31による補正処理において、中心点のサンプリング距離L[mm]を、次の式により決定する。定数αは1以上(α≧1)の整数である。
【数1】
【0043】
そして、サンプリング間隔nを、次の式により決定する。なお、この式によるサンプリング間隔nの値は四捨五入され1以上の整数とされる。
【数2】
【0044】
これにより、複数の中心点iのうち、読み取り誤差の補正の対象とする中心点Pi−n,Pi,Pi+n・・・が決定され(図6(a)参照)、ケーブル4の局部的な凹凸や付着物等の影響が除去されて、ケーブル4の純粋な曲率及び/又はねじり率を求めることが可能となる。
つまり、誤差処理部31の決定部35は、ケーブル4の断面寸法(本実施形態では、ケーブルの径)に基づいてサンプリング間隔nを決定し、後に説明する補正の対象とする中心点を、サンプリング間隔n毎の中心点とする。
【0045】
このように、決定部35の処理によって、複数の中心点iのすべてを対象とするのではなく、検出距離L及びサンプリング間隔nを決定する意義は、次のとおりである。すなわち、仮に、図6(b)に示すように、複数の中心点iのすべてを対象としてサンプリング距離が近すぎると、中心点iを近似して結ぶ計算上の中心線C1が、ケーブル4の表面にある局部的な凹凸の影響を強く受けてしまうが、本実施形態のように、サンプリング間隔nの代表とする中心点Pi−n,Pi,Pi+n・・・を定義することで、ケーブル4の表面にある局部的な凹凸の影響を強く受けることを防止できる。
以下、サンプリング間隔n毎の中心点Piをサンプリング点ということもできる。読み取り誤差の補正に関して、以上の処理を第1ステップS31(図5参照)という。
【0046】
そして、誤差処理部31の補正部36は、サンプリング間隔n毎の中心点それぞれに対して、この中心点の位置情報についての補正を行う。
以下、この補正の具体例を説明する。
【0047】
図6(a)と図7(a)とに示すように、各中心点(Pi)に関して、その一つ前に隣りの中心点(Pi−n)と、その一つ後に隣りの中心点(Pi+n)との3点に基づいて、その中心点(Pi)における曲率Kiを次の式により求める。なお、この式において、中心点(Pi)等は3次元の座標ベクトルである。
【数3】
【0048】
また、図7(b)に示すように、各中心点(Pi)とこの周囲の特徴点との位置に基づいて、及び、その隣りの中心点(Pi−n)とこの周囲の特徴点との位置に基づいて、その中心点(Pi)におけるねじり率Tiを次の式により求める。θiとθi−nは中心点PiとPi−nのねじり角である。なお、この式において、中心点(Pi)等は3次元の座標ベクトルである。
【数4】
【0049】
なお、前記特徴点は、中心点Piと同じ断面画像g中に含まれる任意の点とすることができ、例えば、図3(c)において、境界線g3上の点であって、その境界線g3の形状が大きく変化している点であり、本実施形態では、境界線g3上の点であって、隣り合う芯線41,41の間の凹んだ点V(谷となっている点)である。
以上の曲率、ねじり率を求める処理を第2ステップS32(図5参照)という。
【0050】
次に、補正部36は、各中心点(Pi)におけるケーブル4の曲げによる変形エネルギーEiを、次の式により算出する。また、式中の「EI」は曲げ剛性[Nmm]であり、(曲げモーメント)=EI×Kiという関係がある。
【数5】
【0051】
また、各中心点(Pi)におけるケーブル4のねじりによる変形エネルギーFiを、次の式により算出する。式中の「GJ」はねじり剛性[Nmm]であり、(ねじりモーメント)=GJ×Tiという関係がある。なお、これら式中のSiは、中心点間の距離である。
【数6】
【0052】
さらに、解析対象とするケーブル4の各中心点(Pi)における変形エネルギーの総和である総エネルギーUを、次の式による算出する。なお、この補正の処理において、後に説明するが、この総エネルギーUが最小となる場合に、一次補正後の中心点Pi’が得られる。
【数7】
【0053】
さらに、解析対象とするケーブル4の複数の中心点(Pi)それぞれにおける変形エネルギーのうち、曲げによる変形エネルギーの最大値をE0とし、ねじりによる変形エネルギーの最大値をF0として、各中心点Piにおける、曲げのエネルギーの比率ai(ai=Ei/E0)、ねじりのエネルギーの比率bi(bi=Fi/F0)を算出する。以上のエネルギーの値を算出する処理を第3ステップS33(図5参照)という。
【0054】
そして、前記総エネルギーUが最小となるように、次の式により、各中心点を結ぶ線を直線化する。
【数8】

つまり、この式では、各中心点(Pi)を、その隣接する2点の中心線(Pi−1、Pi+1)を結ぶ直線上に投影して得た投影点(qi)を求め、そして、補正位置Pi’を求める(図8(a)参照)。
【0055】
また、次の式により、各中心点におけるねじり率を平滑化し、各中心点の位置補正を行う。
【数9】

この式では、中心点(Pi)を含むケーブル4の各断面画像g上においてその中心点(Pi)の周囲の特徴点から求まる角度(θi)についても同様に、その隣接する2点の中心点(Pi−1、Pi+1)のねじり率θi−n,θi+nから補正角度ψiを求め、そして、補正位置(補正ねじり角度)θi’を求める(図8(b)参照)。
【0056】
この補正を一次補正という。以上のように、誤差処理部31の補正部36は、中心点Piでの変形エネルギーが低下する方向へ、その中心点Piを移動させる。
【0057】
ここで、前記の二つの式に関して説明する。曲率及びねじり率は、読み取り誤差によって桁違いに大きな数値となるため、前記のエネルギー比率ai,biを重み係数として、これら式に採用することで、読み取り誤差要因に基づく曲率変化を優先的に除去することができる。つまり、補正部36は、各中心点(Pi)での変形エネルギーを求め、この変形エネルギーの大きさに応じた移動量(つまり、前記重み係数に基づく移動量)について、変形エネルギーが低下する方向へその中心点(Pi)を移動させる。
これにより、ある中心点(Pi)において求められた変形エネルギーの値が、際立って大きい場合、その大きさに応じた移動量について、変形エネルギーが低下する方向へ中心点Piを移動させることができる。
以上の中心点(Pi)を補正する処理を第4ステップS34(図5参照)という。
【0058】
さらに、補正部36は、図9(a)に示すように、各中心点(Pi)に関して、元の読み取り位置(P0_i)と、補正後の位置(前記補正位置Pi’)との距離を算出し、この距離と読み取り誤差の最大値Δとを比較し、算出した距離が読み取り誤差の最大値Δよりも大きい(乖離している)場合には、次の式による二次補正を行い、二次補正後の中心点の位置をPi’’とする。
【数10】
【0059】
ねじり率についても同様に、角度読み取り誤差の最大値δよりも大きい場合は、次の式による二次補正を行い、二次補正後の中心点の位置をθi’’とする(図9(b)参照)。以上の処理を第5ステップS35(図5参照)という。
【数11】
【0060】
図5の第4ステップS34で説明したように、誤差処理部31の補正部36は、各中心点(Pi)での変形エネルギーが低下する方向へこの中心点(Pi)を移動させるが、さらに、この第5ステップS35では、補正部36によるこの中心点(Pi)の移動は、読み取り誤差(最大誤差)の範囲以内、つまり、読み取り誤差の最大値以下の範囲で行われる。
【0061】
なお、本実施形態における読み取り誤差の最大値Δ,δは、取得部30がケーブル4の中心点の位置情報(座標値)を取得する際に(図4のステップS2)生じる可能性のある最大誤差であり、前記のとおり、本実施形態では、画像解析の際の画素の基本単位となる1ピクセルに相当する値である。
【0062】
さらに、補正部36は、補正前の総エネルギーU(t−dt)の他に、補正後の総エネルギーU(t)を求め、これら補正前後の総エネルギーの変化量を求め、この変化量を、既定の閾値と比較する(図5の第6ステップS36)。この変化量が閾値未満となった場合(第6ステップS36でYesの場合)、総エネルギーの最小状態が求まったとして、その状態における補正後の中心点Pi’’の座標値を、最終的な補正後の中心点の位置に関する情報として生成する。
【0063】
これに対して、前記変化量が未だ閾値以上である場合(第6ステップS36でNoの場合)、図5の第2ステップS32に戻り、「Pi=Pi’’」及び「θi=θi’’」として、各ステップS32〜S35の処理を、前記変化量が閾値以下となるまで繰り返す(第6ステップS36でYesとなるまで繰り返す)。
このように、補正部36は、複数の中心点それぞれの変形エネルギーを総和した総エネルギーが、閾値よりも小さくなるまで、中心点を移動させる処理(ステップS32〜ステップS35までの処理)を繰り返し行う。
【0064】
以上の読み取り誤差の補正処理のように、ケーブル4における総エネルギーが最小となるようにして行うケーブル4の中心点の補正は、実際のケーブル4の状態(挙動)と関連性を有している。このため、ローパスフィルタを用いて平滑化処理を行う場合(比較例)では、その処理と実際のケーブルの状態(曲げやねじりの挙動)との間には全く関連性がなく、どの程度の強さ・回数で平滑化処理すればよいのか判断が困難であるという問題点があったが、本実施形態の場合、このような問題点は解消される。
【0065】
そして、補正部36によって移動させた中心点を、誤差処理部31の設定部37は、ケーブル4の断面内における新たな中心点として設定する。以下、この読み取り誤差の補正処理により補正したケーブル4の新たな中心点Pi’’を、点iと定義する。
【0066】
なお、各中心点(Pi)での変形エネルギー、及び、ケーブル4の総エネルギーは、ケーブル4の曲げによる変形エネルギーとケーブル4のねじりによる変形エネルギーとの双方に基づくエネルギーであってもよいが、いずれか一方のみであってもよい。つまり、ケーブル4の曲げによる変形エネルギー、又は、ケーブル4のねじりによる変形エネルギーに着目して、前記実施形態に係る読み取り誤差の補正が行われてもよい。
【0067】
以上の本実施形態に係る補正処理(誤差処理)を行う解析システムによれば、ケーブル4の断面画像から、その断面におけるケーブル4の中心点iが取得されるが、この中心点iの取得の際には、前記のとおり読み取り誤差が含まれる。そこで、誤差処理部31によれば、この誤差を含むケーブル4の中心点iを、実際のケーブル4の状態に即して補正することが可能となり、ケーブル4の状態を解析するために必要となる中心点の位置情報(座標値)を、正確に求めることができる。
【0068】
すなわち、実際のケーブル4の状態(曲げやねじり等の挙動)と、そのケーブル4の断面内における中心点での変形エネルギーとは関連性がある。したがって、例えば、ある中心点iの位置情報が大きな誤差を含んで取得され、その位置情報に基づいてその中心点での変形エネルギーが算出された場合、その変形エネルギーは、実際の値よりも大きくなってしまう。
しかし、このような場合であっても、本実施形態に係る誤差処理部31によれば、誤差を含む中心点iを、変形エネルギーが低下する方向へ移動させ、しかも、この中心点iの移動を最大誤差の範囲以内で行うことにより、この中心点の位置(位置情報)を、実際のケーブル4の状態に即した位置へと補正することが可能となる。
そして、このように補正した中心点(P’’)が、ケーブル4の断面内における新たな中心点として設定され、この新たな中心点に基づいて、以下に示すケーブル4の状態(挙動)に関する解析を行えば、その解析精度を高めることが可能となる。
【0069】
なお、新たな中心点に基づく、ケーブル4の状態(挙動)に関する解析としては、以下に説明する(図4のステップS4〜S7)ケーブル4の曲率分布の生成及び出力以外に、ケーブル4のねじり率の分布を生成、出力してもよい。
または、読み取り誤差を補正して得られた、新たな中心点の位置情報を出力してもよい(図4のステップS8)。この場合、新たな中心点の位置情報に基づくことで、ケーブル4の配線(線形)についての情報が得られ、ケーブル4の直径の情報も考慮して、ケーブル4の周囲に存在する他の部品、他のケーブルとの干渉の有無を確認する解析を行うことが可能となる。
なお、以下では、ケーブル4の曲率分布の生成(出力)を例として説明する。
【0070】
〔2.4 全体座標から局所座標への変換〕
コンピュータ2(解析装置3)が有する局所座標変換部32(図2参照)は、前記読み取り誤差の補正をそれぞれ行った複数の前記点iの座標値(全体座標での座標値)を、以下に説明する局所座標の座標値(位置情報)に変換する(図4のステップS4)。
局所座標は、u軸、v軸、w軸を有する3次元直交座標であり、点iを局所座標原点とする局所座標の各軸を、u軸,v軸,w軸と表す。なお、以下では、u,v,wは、局所座標の軸を表すだけでなく、各軸方向の単位ベクトルを表す場合がある。
【0071】
図10(a)に示すように、任意の点iの局所座標のw軸の方向は、点iに隣接する点(一つ手前の点)i−1から、点iに向かう方向に一致するように設定される。したがって、全体座標からみると、各点iを原点とする局所座標におけるw軸は、それぞれ、ケーブルの屈曲により、異なる方向を向き得る。
【0072】
各局所座標のu軸及びv軸は、各局所座標におけるw軸に直交する平面内に設定される。
各局所座標のu軸は、点iの変化によっては大きく変化しないか、又は、点iの位置の変化に応じて連続的に変化し、かつ、w軸と直交するベクトルの方向に設定される。各局所座標のv軸は、u,w軸と直交するベクトルの方向に設定される。
軸及びv軸を設定するには、例えば、図10(b)に示すように、曲率の算出対象となっている全ての点iのw軸に対して、平行とならない固定の単位ベクトルuを予め規定する。そして、v=w×uのベクトル演算、及び、u=v×wのベクトル演算により、u軸及びv軸の方向を持つ単位ベクトルを算出すればよい。なお、上記ベクトル演算式において「×」は、外積を求めるためのベクトル演算記号である。
【0073】
また、u軸及びv軸を設定するには、例えば、図10(c)に示すように、ケーブル4の位置iからみた特定位置、例えば、特定の素線43の中心位置g5への単位ベクトルをu(i)として規定しておく。そして、上記と同様に、v=w×u(i)のベクトル演算、及び、u=v×wのベクトル演算により、u軸及びv軸の方向を持つ単位ベクトルを算出すればよい。
【0074】
各点iの局所座標の設定の仕方は、上記のものに限られないが、事後的に局所座標値を全体座標値に変換したり、局所座標でのケーブル4の状態を評価したりできるように、所定のルールに基づいて、一意に決定されるものであればよい。なお、例示した局所座標の設定の仕方によれば、u軸及びv軸は、w軸の方向の連続的な変化に応じて、その方向が連続的に変化するため、点iの位置の変位や曲率を算出するのに適切であるとともに、後述の平滑化にも適切なものとなっている。
【0075】
局所座標への変換について、さらに説明すると、局所座標変換部32として機能するCPU21は、記憶部25に格納されている全体座標での点iの位置情報(座標値)を、次の式に基づく演算により、上記のように設定される局所座標における座標値に変換する。複数(4以上)の点iの局所座標における座標値(位置情報)は、記憶部25に格納される。
【数12】
【0076】
ここで、この式中のAは、任意の点iについての全体座標における座標値(ベクトル値)であり、Bは、局所座標における座標値(ベクトル値)であり、oは、前記局所座標の原点の全体座標における座標値(ベクトル値)であり、e,e,eは、前記局所座標軸u,v,wの単位ベクトルである。A,B,o,e,e,eは、それそれ、次の式ように定義される(図11参照)。
【数13】
【0077】
本実施形態では、点i+1の座標値を示す局所座標の原点は、点iが採用される。したがって、局所座標における点i+1の座標値Bは、隣接する点(一つ手前の点)iからみた、点i+1の変位量を示すことになる。より具体的は、座標値Bは、隣接する点iからみた、u軸方向の変位と、v軸方向の変位と、を示しており、これらの変位は、点i+1におけるケーブル4の曲げ度合いを示す情報となっている。また、当然ながら、座標値Bは、w軸方向の変位も示している。
なお、点i+1の座標値を示す局所座標の原点は、点iに限定されるものではなく、点i+1近傍の他の点であってもよい。
【0078】
本実施形態では、点i+1の座標値を示す局所座標のw軸の方向は、点i−1から点iに向かう方向としたが、点i−1から点i+1に向かう方向、又は、点iから点i+1に向かう方向などとしても良い。つまり、点i+1の座標値を示す局所座標のw軸の方向は、点i+1又はその付近のケーブル4の長手方向にほぼ沿っていればよい。
【0079】
〔2.5 曲げ方向成分別の曲率算出〕
〔2.5.1 第1の曲率算出方法(外接円近似)〕
コンピュータ2(解析装置3)が有する形状データ生成部33(図2参照)は、記憶部25に格納されている複数の点iの局所座標での座標値(位置情報)を用いて、u軸方向、v軸方向毎の変位データ(位置情報)を生成し、この変位データから各方向u,vごとの曲率分布を生成する(図4のステップS5)。
【0080】
軸方向の変位データは、ケーブル4上での長手方向位置を示す指標値L(ケーブル端部からの距離など)が示す位置(点i)におけるケーブル4のu軸方向変位(隣接する点i−1からの変位)を示すものである。つまり、u軸方向の変位データは、複数の点iの局所座標値におけるu軸の値の集合から構成される。
軸方向の変位データは、前記指標値Lが示す位置(点i)におけるケーブル4のv軸方向変位(隣接する点i−1からの変位)を示すものである。つまり、v軸方向の変位データは、複数の点iの局所座標値におけるv軸の値の集合から構成される。
【0081】
形状データ生成部33の機能について説明する。形状データ生成部33として機能するCPU21は、u軸方向、v軸方向ごとの変位データ(位置情報)を、全体座標における各点iごとの座標値(位置情報)に戻す。そして、CPU21は、複数の点iの中の任意の点iの曲率を求める場合、その点iの両隣の点i−1,i+1の座標を、それぞれ、その点iを原点とする局所座標の座標値に変換する。
【0082】
さらに、CPU21は、点i−1,i+1の局所座標値から、外接円の式に基づき、点iの曲率を算出する。曲率の算出は、局所座標のv−w面に投影した曲率K,u−w面に投影した曲率Kそれぞれついて別々に行われる。つまり、複数の方向成分ごとの曲率K,Kが算出される。なお、v−w面に投影した曲率Kについては、各点についてのu軸の座標値を0として演算すればよい。
点iにおける曲率K,Kの算出は、例えば、外接円の式を用いて行うことができる。
外接円の式による曲率の算出には、図12に示すように、点i−1をA、点iをO,点i+1をBとし、ベクトルOA,OBを算出する。そして、OA,OBの角度を算出する。OA,OBの角度θは、cosθ=OA・OB/((|OA|)|OB|)により求めることが可能である。
この角度θを用いて、外接円の式(R=|AB|/sinθ)により、曲率半径Rを算出することができる。そして、この曲率半径Rより、曲率K=1/Rを求めることができる。
【0083】
〔2.5.2 第2の曲率算出方法(ケーブル軸(w軸)からの変化量2次微分換算)〕
各軸u,vまわりの曲率K,Kは、次の式によって求めることもできる。
【数14】
【0084】
上記式によって曲率K,Kを求めるには、前記変位データを用いて、点iと点i+1間のZ微分値を、次の式により求める。
【数15】
【0085】
点i−1,点iにおける微分値は、次の式のとおりである。
【数16】
【0086】
したがって、点i−1から点i間の距離をsとし、点iから点i+1間の距離をsi+1とすると、数値解析手法における差分法に基づき、曲率K,K≒2次微分値は、次の式により算出できる(図13参照)。
【数17】
【0087】
上記のようにして各点iについて算出された曲率Kからなる曲率分布(第1の方向成分別別曲率分布)と、各点iについて算出された曲率Kからなる曲率分布(第2の方向成分別曲率分布)が、記憶部25に格納される。
なお、上記演算方法は、一例であり、局所座標の定義の仕方に応じて演算方法を適宜変更すればよい。例えば、ケーブル長手方向(w軸方向)を、点i−1から点i+1に向かう方向、又は、点iから点i+1に向かう方向とした場合、それに応じて演算方法を変更すればよい。
また、形状に与えられた微分方程式を解くことができる数値解析手法として、上記では、差分法を採用したが、有限要素法などの他の数値解析手法を用いて、軸からの位置変動の2次微分(曲率成分)を求めることもできる。
【0088】
〔2.6 曲率分布の平滑化〕
形状データ生成部33は、さらに、前記曲率分布の平滑化を行うことで、曲率分布に含まれるノイズの除去/抑制を行う機能を有している(図4のステップS6)。
この平滑化の処理は、例えば、近似関数による近似のほか、ローパスフィルタによって脈動を抑制/除去することにより行うことができる。
【0089】
〔2.7 曲率分布出力〕
形状データ生成部33は、平滑化処理された曲率Kからなる曲率分布(第1の方向成分別別曲率分布)及び曲率Kからなる曲率分布(第2の方向成分別曲率分布)から、絶対曲率分布を求める。そして、形状データ生成部33は、平滑化処理された第1・第2の方向成分別曲率分布、及び/又は、絶対曲率分布を出力する(図4のステップS7)。
【0090】
絶対曲率分布は、第1及び第2の方向成分別曲率分布のように、曲げ方向成分毎の曲率分布ではなく、方向とは無関係に、各点iにおけるケーブル曲率の分布を示すものである。
形状データ生成部33は、各点iにおける絶対曲率Kを、K=Kui2+Kvi2によって算出する。
【0091】
なお、本実施形態の解析システムは、曲率分布のほか、変位データを出力してもよい。変位データは、局所座標によるものであってもよいが、ケーブルの状態の評価をする上で、全体座標が好ましい場合には、次の式に基づいて、局所座標値Bを全体座標値Aに変換して出力すればよい。
【数18】
【0092】
なお、本実施形態では、図4のステップS6において平滑化処理を実行しているが、この処理を不要としてもよい。
また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0093】
前記実施形態では、ケーブル4の3次元位置情報を、スキャナ装置1によって複数の断面画像gとして取得しているが、3次元位置情報は、他の装置により取得してもよく、3次元読み取り装置等によってケーブル4の複数の点の座標値を読み取ることができる。
【符号の説明】
【0094】
2:コンピュータ 4:ケーブル 26:解析プログラム(コンピュータプログラム) 30:取得部 31:誤差処理部 35:決定部(決定手段) 36:補正部(補正手段) 37:設定部(設定手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13