特許第5919956号(P5919956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919956
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】PZT系強誘電体薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20160428BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20160428BHJP
   H01L 41/18 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 29/788 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 29/792 20060101ALI20160428BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20160428BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20160428BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01L21/316 P
   H01L41/18 101D
   H01L41/43
   H01L41/18 101Z
   H01L41/08 C
   H01L27/10 444C
   H01L27/10 444A
   H01L29/78 371
   H01G4/12 397
   H01G4/12 400
   H01G4/06 102
   C01G25/00
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-78916(P2012-78916)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211306(P2013-211306A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】土井 利浩
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−070926(JP,A)
【文献】 特開平11−060211(JP,A)
【文献】 特開2011−236113(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/135731(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0059076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
C01G 25/00
H01G 4/12
H01G 4/33
H01L 21/336
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 29/788
H01L 29/792
H01L 41/09
H01L 41/18
H01L 41/187
H01L 41/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶面が(111)軸方向に配向した下部電極を有する基板の前記下部電極上に、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物を塗布し、仮焼した後、焼成して結晶化させることにより前記下部電極上にPZT系強誘電体薄膜を製造する方法において、
前記仮焼は、赤外線を用いて行われ、かつ0℃〜150℃の温度範囲内の温度(又は室温)から昇温して200℃〜350℃の温度範囲内の温度に保持する第1保持段階と、前記第1保持段階の保持温度から昇温して前記第1保持段階の保持温度より高い425℃〜500℃の温度範囲内の温度に保持する第2保持段階とを少なくとも含むことを特徴とするPZT系強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1保持段階に至るまでの第1昇温速度が1℃/秒〜10℃/秒の範囲内にあり、前記第1保持段階から昇温して前記第2保持段階に至るまでの第2昇温速度が1℃/秒〜100℃/秒の範囲内にある請求項1記載のPZT系強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記焼成の保持温度が550℃〜800℃の温度範囲内にあり、前記保持温度までの昇温速度が2.5℃/秒〜150℃/秒の範囲内にある請求項1又は2記載のPZT系強誘電体薄膜の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CSD(Chemical Solution Deposition)法を用いて比較的厚い膜を基板上に形成した後、仮焼し焼成してPZT系強誘電体薄膜を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、PZT系強誘電体組成物を含む溶液をCSD法を用いて基板上に1回塗布し、一層当たり100nm以上の比較的厚い膜(厚膜)のPZT系強誘電体薄膜を成膜する方法が採り入れられつつある。これは、PZT系強誘電体薄膜を材料とする圧電素子等の圧電特性を向上させ、かつ、結晶配向が(100)又は(111)のものを安価に製造する方法が必要とされているからである。しかし、上記の一回塗布による比較的厚い膜は、その製造中、膜にクラックが発生し易くかつ膜密度が低下しがちがあった。
【0003】
そこで、係る不具合を解決するために、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物の溶液に、当該溶液の粘性を向上させるためプロピレングリコールとエタノールアルコール等の揮発性アルコールを添加する試みがなされている(例えば特許文献1参照)。またPZT系強誘電体薄膜形成用組成物の溶液に、DCCA(Drying Control Chemical Additive)又は結晶性微細粉等を添加する試みがなされている(例えば非特許文献1参照)。更にPZT系強誘電体薄膜形成用組成物の溶液に、クラック防止のため応力発生を緩和するためのPVPのような高分子を添加しかつ赤外線及び/又は電気ヒータからの熱によって一段階で仮焼し、続いて焼成をを行う試みがなされている(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−261338号公報(請求項1、段落[0018]〜[0025]、表1)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】(株)技術情報協会発行「目的を達成するためのゾル−ゲル法における構造制御ノウハウ集」pp.60−63
【非特許文献2】JSol−Gel Technol(2008)47,pp.316−325
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、工業化を念頭に置き、有害性の高い2−メトキシエタノールを含まないゾルゲル液を用いて、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物を1回の塗布により厚膜を形成し、この厚膜を一段階で仮焼し、続いて焼成した場合には、得られたPZT系強誘電体薄膜が緻密かつ結晶配向性の高い薄膜にならないことを本発明者らは知見した。そして、この課題を解決するために、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物の溶液に一定の添加物を加えることを前提に、仮焼の段階で赤外線を用いた特徴のある温度パターンを発明者らは鋭意検討した結果、本発明をするに至った。
【0007】
本発明の目的は、ゾルゲル法に代表されるCSD法を用いて一層あたり100nm以上の比較的厚い膜のPZT系強誘電体薄膜を1回で塗布、仮焼、焼成して成膜しても、このPZT系強誘電体薄膜にクラックが発生せず緻密なかつ結晶配向性の高いPZT系強誘電体薄膜を製造する成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、結晶面が(111)軸方向に配向した下部電極を有する基板の前記下部電極上に、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物を塗布し、仮焼した後、焼成して結晶化させることにより前記下部電極上にPZT系強誘電体薄膜を製造する方法において、前記仮焼は、赤外線を用いて行われ、かつ0℃〜150℃の温度範囲内の温度(又は室温)から昇温して200℃〜350℃の温度範囲内の温度に保持する第1保持段階と、前記第1保持段階の保持温度から昇温して前記第1保持段階の保持温度より高い425℃〜500℃の温度範囲内の温度に保持する第2保持段階とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に前記第1保持段階に至るまでの第1昇温速度が1℃/秒〜10℃/秒の範囲内にあり、前記第1保持段階から昇温して前記第2保持段階に至るまでの第2昇温速度が1℃/秒〜100℃/秒の範囲内にあることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記焼成の保持温度が550℃〜800℃の温度範囲内にあり、前記保持温度までの昇温速度が2.5℃/秒〜150℃/秒の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の方法では、図1及び図2に示すように、結晶面が(111)軸方向に配向した下部電極11を有する基板10の下部電極11上に、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物12を塗布し、仮焼した後、焼成して結晶化させることにより下部電極11上にPZT系強誘電体薄膜12を製造する方法において、上記仮焼は、赤外線を用いて行われ、かつ0℃〜150℃の温度範囲内の温度(又は室温)から昇温して200℃〜350℃の温度範囲内の温度に保持する第1保持段階14と、前記第1保持段階14の保持温度から昇温して第1保持段階14の保持温度より高い425℃〜500℃の温度範囲内の温度に保持する第2保持段階16とを少なくとも含むことを特徴とする。このように、仮焼に際し第1保持段階14と第二保持段階16を含む複数の仮焼温度の保持段階を設け(以下「二段仮焼」とする。一方、従来の保持段階が一段のものを「一段仮焼」とする。)、かつ、赤外線を仮焼のための熱源としたことから、PZT系強誘電体薄膜の仮焼の際、熱分解、熱膨張、熱収縮等の進行が穏やかなものとなるため、クラックが防止できかつ緻密なPZT系強誘電体薄膜の製造方法を提供することを可能とする。
【0014】
本発明の第2の観点の方法では、仮焼段階において、室温等の初期温度から第1保持段階14に至るまでの第1昇温速度13、そして第1保持段階14から第2保持段階16に至るまでの第2昇温速度15を、それぞれ所定範囲にすることにより、過度な昇温速度により発生する大きな応力由来のクラックが発生、急激な熱分解又は脱ガスが防止され、より緻密なPZT系強誘電体薄膜が得られる。
【0015】
本発明の第3の観点の方法では、前記焼成の保持温度が550℃〜800℃の温度範囲内にあり、前記保持温度までの昇温速度が2.5℃/秒〜150℃/秒の範囲内にあるようにして、第2保持段階16から焼成の保持温度までの昇温速度を所定範囲にすることにより、過度な昇温速度に起因する熱膨張等によるクラックの発生、急激な熱分解又は脱ガスが防止され、より緻密なPZT系強誘電体薄膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のPZT系強誘電体薄膜が基板及び下部電極に配置されている状態を概略的に示す断面図である。
図2】本発明に係る二箇所に保持温度領域がある二段仮焼に係る仮焼の温度プロファイル(一点鎖線)と、従来技術の一箇所に保持温度領域ある一段仮焼のの温度プロファイル(実線))を概略的に示すグラフである。
図3】本発明に係る二段仮焼の温度プロファイルに従う、三種類の傾きの第1昇温温度の実施例を概略的に例示するグラフである。
図4】本発明に係る製造方法によって製造されたPZT系強誘電体薄膜のSEM像による断面構造を示す。
図5】従来技術によって製造されたPZT系強誘電体薄膜のSEMによる断面構造を示す。
図6】実施例6及び比較例2によって作製されたPZT系強誘電体薄膜の結晶のXRDチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
PZT系強誘電体薄膜の製造方法に係る本実施形態を、<組成物準備段階>、<塗布段階>、<仮焼段階>及び<焼成段階>に分けて以下説明する。
【0018】
<組成物準備段階>
PZT系強誘電体薄膜形成用組成物は、複合金属酸化物を構成するための原料が所望の金属原子比を与えるような割合となるように有機溶媒中に溶解している有機金属化合物溶液により製造される。なお、「PZT系」強誘電体薄膜にはPLZT、PMnZT、PNbZT等のPZT以外の強誘電体組成物を含む。
【0019】
上記複合金属酸化物の原料は、Pb、La、Zr及びTiの各金属元素に、有機基がその酸素又は窒素原子を介して結合している化合物が好適である。例えば、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上が例示される。特に好適な化合物は、金属アルコキシド、その部分加水分解物、有機酸塩である。このうち、Pb化合物、La化合物としては、酢酸塩(酢酸鉛:Pb(OAc)2、酢酸ランタン:La(OAc)3)、鉛ジイソプロポキシド:Pb(OiPr)2、ランタントリイソプロポキシド:La(OiPr)3などが挙げられる。Ti化合物としては、チタンテトラエトキシド:Ti(OEt)4、チタンテトライソプロポキシド:Ti(OiPr)4、チタンテトラn−ブトキシド:Ti(OiBu)4、チタンテトライソブトキシド:Ti(OiBu)4、チタンテトラt−ブトキシド:Ti(OtBu)4、チタンジメトキシジイソプロポキシド:Ti(OMe)2(OiPr)2などのアルコキシドが挙げられる。Zr化合物としては、上記Ti化合物と同様なアルコキシド類が好ましい。金属アルコキシドはそのまま使用しても良いが、分解を促進させるためにその部分加水分解物を使用しても良い。
【0020】
これらの原料を所望のPZT系強誘電体薄膜組成に相当する比率で適当な溶媒に溶解して塗布に適した濃度にするための同組成物の調製は以下のような液合成フローによることが好ましい。反応容器に、Zr源と、Ti源と、安定化剤を入れて、窒素雰囲気中で還流する。その次に還流後の化合物にPb源とを添加するとともに、溶剤を添加し、窒素雰囲気中で還流し、減圧蒸留して副生成物を除去した後、この溶液に更にプロピレングリコールを添加して濃度を調節し、更に、この溶液にn−ブタノールを添加する。
【0021】
ここで用いるPZT系強誘電体薄膜形成用組成物の溶媒は、使用する原料に応じて適宜決定されるが、一般的には、カルボン酸、アルコール(例えば、多価アルコールであるプロピレングリコール)、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフランなど、或いはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0022】
上記のカルボン酸としては、具体的には、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸,3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0023】
また、上記のエステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノールを用いるのが好適である。
【0024】
なお、PZT系強誘電体薄膜を形成するための組成物の有機金属化合物溶液中の有機金属化合物の合計濃度は、金属酸化物換算量で0.1〜23質量%程度とすることが好ましい。
【0025】
この有機金属化合物溶液中には、必要に応じて安定化剤として、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、上記オキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類(例えば、ジアセトンアルコール、アセトイン等)、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン)、多価アミン等を、(安定化剤分子数)/(金属原子数)で0.2〜3程度添加してもよい。
【0026】
また、PZT系強誘電体薄膜形成用組成物はβ−ジケトン類及び多価アルコール類を含むようにしてもよい。このうち、β−ジケトン類としてはアセチルアセトンが、多価アルコール類としてはプロピレングリコールが特に好ましい。
【0027】
更に、上記調製された有機金属化合物溶液は、濾過処理等によって、パーティクルを除去することが好ましい。
【0028】
<塗布段階>
この塗布段階でPZT系強誘電体薄膜を製造するには、CSD法であって、スピンコータを用いたスピンコート法によることが好ましく、組成物準備段階で作製された溶液をスピンコータ上にセットしたSi基板上にSiO2膜、TiO2膜及びPt膜がこの順に形成された下部電極のPt膜上に滴下し、1500rpm〜2000rpmで60秒間スピンコートを行いPt基板上に塗布膜を形成する。塗布後には、塗布膜が形成された基板を150℃のホットプレート上に配置し3分間加熱し、低沸点溶媒や吸着した水分子を除去して、当該塗布膜をゲル状の膜(以下「ゲル膜」と称する)とする。スピンコート法の代わりに、ディップコート法、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法等その他のCSD法を適宜適用してもよい。
【0029】
<仮焼段階>
この仮焼段階では、ゲル膜中の溶媒や水分を除去するとともに有機金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させる。そのため、空気中、酸化雰囲気中又は含水蒸気雰囲気中で行うようにする。本明細書では<仮焼段階>は、複合酸化物の相としてペロブスカイト相が所望のPZT系強誘電体薄膜中で形成し始める温度未満でゲル膜を焼成するための段階と定義し、一方、後述の<焼成段階>は、PZT系強誘電体薄膜中にペロブスカイト相を形成させるための段階と定義する。
【0030】
更に詳細に、図2を参照し、従来技術に係る一段仮焼と比較しながら本実施形態係る二段仮焼を説明する。
図2は、横軸に仮焼のプロセス時間(秒)、縦軸に仮焼温度(℃)をパラメータとした仮焼段階の温度プロファイルである。図2では、一点鎖線が本実施形態に係る二段階仮焼の温度プロファイルを指し、実線が従来技術の一段仮焼の温度プロファイルを指す。
図2から分かるように、従来技術の一段仮焼では、仮焼温度を保持温度(図2では450℃)まで生産性向上のためRTAにより単調かつ急に上昇する昇温速度17で昇温され、それ以降、一定の保持時間で保持温度18が維持される。一方、本実施形態の仮焼段階に係る二段仮焼では、第1保持段階14と第2保持段階16の二箇所の保持温度領域を設け、室温等の比較的低い一定温度から第1保持段階14までRTAよりかなり遅い昇温速度(第1昇温速度13)で昇温し、更に、第1保持段階14から第2保持段階16までは好ましくは第1昇温速度よりは速い第2昇温速度15で昇温するように仮焼が行われる。本実施形態では、温度の保持段階の数を二箇所としたが、原料の組成や添加物の配合等、必要に応じ三箇所以上設けるようにしてもよい。
加えて、上記の二段仮焼では赤外線を使用する。例えば赤外線を発生するヒータ(不図示)を基板10の下に配置しからゲル膜を加熱すると、残留有機分をゲル膜から除去(脱ガス)することができ、かつ、緩やかにゲル膜を、熱分解、熱膨張、熱収縮させるながら焼成することができる。
【0031】
図2に示される二段仮焼プロファイルに従う温度は、基板10を図示しない赤外線ヒータの上に配置し、赤外線ヒータに接続された図示しない温度制御装置によってコントロールすることができる。係る温度制御によれば、昇温速度、保持温度、保持時間を含む温度プロファイルの条件を適宜変えることができる。例えば、図3に示すように、予め温度制御装置にプログラム設定した温度プロファイルに従い、仮焼時の第1昇温速度について3種類のいずれかを選択できる二段仮焼の温度プロファイルを示す。
更に詳細に、当該二段仮焼するための温度プロファイルの条件、理由を以下説明する。
第1保持段階の主目的は、PZT系強誘電体薄膜組成物の溶液に含まれるポリマーや溶媒などの残留有機物の分解、燃焼、乾燥である。よって第1保持段階の保持温度が高すぎると、残留有機分の燃焼などにより局所的に目的外の酸化物が生成してしまい緻密で均質な膜を得られない。そのため、第1保持段階では200℃〜350℃のいずれかの保持温度(例えば275℃)とし、1〜5分間保持する。この理由は、第1保持段階の保持温度が200℃未満では十分に前駆体の分解が促進しないためであり、350℃を超えると分解が急激に進行しすぎてガス発生由来のボイド生成や膜収縮由来の応力によりクラックが発生するためである。また第1保持段階の保持時間が1分未満では前駆物質の分解が不十分であり、5分を超えると生産性が悪化するためである。
更に、第1保持段階では、好ましくは250℃〜300℃のいずれかの保持温度とし、好ましくは3〜5分間保持する。この理由は、第1保持段階の保持温度が250℃未満では前駆体に含まれるポリマーなどの分解が不十分となりガス発生によるボイドの発生などを誘発するからであり、300℃を超えると熱分解が急激に進行し、クラックやボイドの発生の恐れがあるためである。また第1保持段階の保持時間は1分〜5分とする。この理由は第1保持段階の保持時間が、1分未満では熱分解が不十分であるため、5分を超えると生産性が悪化するためである。
【0032】
また、0℃〜150℃の温度範囲内の温度(又は室温)から昇温速度1℃/秒〜50℃/秒(第1昇温速度)で第1保持段階の保持温度まで昇温する。この理由は、第1昇温速度が、1℃/秒未満では生産性が悪いためであり、50℃/秒を超えるとオーバーシュートにより膜の一部が結晶化する恐れがあるためである。更に第1昇温速度は、好ましくは2.5℃/秒〜10℃/秒とする。この理由は、第1昇温速度が2.5℃/秒未満では生産性が悪いためであり、10℃/秒を超えると前駆体の分解が急激に進行すぎるためであるためである。
【0033】
次に、第2保持段階は、第1保持時間では除去できない微量な金属アルコキシド由来のアルコキシル基や安定化剤として添加されている有機配位子の除去、また、アモルファス膜の緻密化を主目的とする。このため、第2保持段階では425℃〜500℃のいずれかの保持温度(例えば450℃)とし、5〜10分間保持する。この理由は、第2持段階の保持温度が425℃未満では熱分解が不十分であって膜中に不要な酸化物を生成させ易いためであり、500℃を超えると膜の一部がペロブスカイト相となりエピタキシャルライクな膜を得にくくなるためである。
【0034】
また、第1保持段階から第2保持段階に至るまでは、出来る限りPZT系強誘電体薄膜の膜の緻密化を進行させる。そのため、昇温速度1℃/秒〜100℃/秒(第2昇温速度)で第2保持段階の保持温度まで昇温する。この理由は、第2昇温速度が1℃/秒未満では生産性が悪いためであり、100℃/秒を超えると急激な熱分解により目的外の酸化物が膜中で生成するためである。更に第2昇温速度は、好ましくは2.5℃/秒〜50℃/秒とする。この理由は、第2昇温速度が2.5℃/秒未満では生産性が悪いからであり、50℃/秒を超えると急激に前駆物質の分解が進行し緻密化が進行しないためである。
また第2保持段階の保持時間は、PZT系強誘電体薄膜のアモルファス化を十分に促すため3分〜20分とする。この理由は第2保持段階の保持時間が、3分未満では前駆体の熱分解が不十分であり、3分を超えると十分に反応が進行するためである。更に、第2保持段階の保持時間は、好ましくは3分〜10分とする。この理由は、第2保持段階の保持時間が3分未満では前駆体の熱分解が不十分であり、10分を超えると熱分解はほぼ完了し、膜の配向性などに大きな影響がないためである。
【0035】
<焼成段階>
この焼成段階は、仮焼成段階で得られたPZT系強誘電体の薄膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための段階であり、この段階を経てペロブスカイト相を備えるPZT系強誘電体薄膜が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気はO2、N2、Ar、N2O又はH2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。
【0036】
当該焼成は450℃〜800℃で1分間〜60分間行われ、生産効率を上げるためにもRTA処理を採用することができる。この理由は焼成温度が450℃未満ではペロブスカイト相が得られないためであり、800℃を超えると膜特性が悪化するためである。また、1分間未満では焼成が不十分であり、60分間を超えると生産性が悪化するためである。好ましくは、焼成温度、焼成時間について好ましくは600℃〜700℃で1分間〜5分間行われる。この理由は焼成温度が600℃未満では特殊な溶液や焼成雰囲気でなければ結晶性の高い膜を得られないからであり、700℃を超えると膜特性が悪化するからである。また、1分間未満では焼成が不十分であり、5分間を超えると特殊な溶液や焼成雰囲気を除いてそれ以上結晶化が進行しないためである。RTA処理で焼成する場合、その昇温速度を2.5℃/秒〜150℃/秒とする。この場合、好ましくはその昇温速度は10℃/秒〜100℃/秒とする。昇温速度が10℃/秒未満では生産性が悪いからであり、100℃/秒を超えると焼成に関わる装置の制御が難しいからである。
【0037】
以上のようにして本実施形態によって製造されるPZT系強誘電体薄膜は、適宜加工されることによって、薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品に使用することができる。
【実施例】
【0038】
次に本発明に係る実施例を、従来技術に係る比較例とともに図3図4図5<、図6>並びに表1、2を参照しながら詳しく説明する。
【0039】
実施例は、組成物準備段階、塗布段階、赤外線を用いた二段階仮焼による仮焼段階及び焼成段階により、16種類のPZT系強誘電体薄膜を得た。一方、比較例は、組成物準備段階、塗布段階、従来の保持段階を設けないようにした仮焼段階及び焼成段階により5種類のPZT系強誘電体薄膜を得た。表1、表2に核実施例の仮焼段階の第1保持温度、第1昇温速度並びに第2昇温温度、第2昇温速度の条件をまとめた。この表1、表2には各条件毎に、仮焼後、焼成後の膜厚及び屈折率の値をまとめているが、測定方法、評価方法、評価結果については後述する。
【0040】
組成物準備段階及び塗布段階は、すべての実施例及び比較例に共通に含まれる段階であり以下のように行った。
【0041】
まず、組成物準備段階では、Pb/Zr/Ti組成比が115/52/48(酸化物換算で25wt%)となるように、24.24gのPb(CH3COO)3)・3H2O、13.44gのZr(Oi−Pr)4、7.64gのTi(Oi−Pr)4をエタノールとプロピレングリコールの混合溶液に溶解し、かつ安定化剤としてアセチルアセトンを添加したものをPZT系強誘電体組成物の原料溶液とした。さらに、この原料溶液にモル比でPZT:ポリビニルピロリドン=1:0.5となるようにポリビニルピロリドンを添加し、24時間、常温で撹拌した。そして、N-メチルホルムアミドを原料溶液に対して7wt%の濃度になるように添加し、2時間撹拌後、24時間室温で安定化させた。
【0042】
次に、塗布段階では、組成物準備段階で得られた溶液をスピンコータ上にセットしたSi/SiO2/TiO2/Pt基板に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートを行い塗布膜を形成した。また、仮焼段階前に塗布膜を150℃のホットプレート上で3分間加熱し、低沸点溶媒や吸着した水分子を除去しゲル膜を得た。
【0043】
<実施例1>
実施例1では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度2.5℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0044】
<実施例2>
実施例2では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0045】
<実施例3>
実施例3では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度25℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0046】
<実施例4>
実施例4では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度50℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0047】
<実施例5>
実施例5では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度2.5℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0048】
<実施例6>
実施例6では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0049】
<実施例7>
実施例7では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0050】
<実施例8>
実施例8では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度50℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0051】
<実施例9>
実施例9では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度2.5℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0052】
<実施例10>
実施例10では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0053】
<実施例11>
実施例11では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度25℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0054】
<実施例12>
実施例12では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度50℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0055】
<実施例13>
実施例13では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0056】
<実施例14>
実施例14では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から300℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0057】
<実施例15>
実施例15では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で425℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0058】
<実施例16>
実施例16では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で475℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0059】
<比較例1>
比較例1では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、400℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0060】
<比較例2>
比較例2では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、450℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0061】
<比較例3>
比較例3では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、475℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0062】
<比較例4>
比較例4では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、500℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0063】
<比較例5>
比較例5では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度2.5℃/秒、450℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0064】
<比較例6>
比較例6では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度50℃/秒、450℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0065】
<比較試験>
実施例1〜16及び比較例1〜6で得られたPZT系強誘電体薄膜について、以下の手法により、当該薄膜の仮焼後及び焼成後の層厚及び屈折率を求めた。その結果を表1に示す。また、実施例6の断面SEM像(倍率100,000倍)を図4に、比較例6の断面SEM像(倍率100,000倍)を図5にそれぞれ示す。また、実施例6、比較例2のXRDチャートを図6に示す。
(1)層厚測定:得られたPZT系強誘電体薄膜の層厚は、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製;M−2000)によって測定し、測定結果を表1にまとめた。
(2)屈折率測定:同薄膜の屈折率は、同様の分光エリプソメーターによって測定し、測定結果を表2にまとめた。
(3)断面観察:同薄膜の断面を、SEM(日立製作所製;S-4300SE)によって撮影された写真(倍率100,000倍)によって観察した。図4は実施例6の薄膜の断面写真であり、図5は比較例6の断面写真である。
(4)結晶配向:実施例6、比較例2で得られたPZT系強誘電体薄膜の結晶配向、結晶の完成度を調べるために、図6にX線回折装置(Bruker製;MXP-18VAHF)によりXRDチャートを作成した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
表1、表2並びに図4図5図6を参照して、以下評価結果を述べる。
【0068】
表1の層厚の欄の数値を考察すると、赤外線を用いた二段仮焼による実施例1〜16で得られたPZT系強誘電体薄膜と、赤外線を用いない一段仮焼による比較例1〜6とを得られたPZT系強誘電体薄膜を比較すると、仮焼後の層厚は、実施例1〜16の方が比較例1〜6よりも薄くなっている。これは、実施例1〜16によるゲル膜を仮焼した後のPZT系強誘電体薄膜が緻密になっていることを示すと考えられる。また、仮焼後の層厚と焼成後の層厚との差は、実施例1〜16の方が比較例1〜6よりも小さくなっている。これは、実施例1〜16のPZT系強誘電体薄膜の方が比較例1〜6のものより仮焼時と焼成時の間で熱収縮率が低くなっているため、実施例1〜16のPZT系強誘電体薄膜の方が比較例1〜6よりクラックが発生しにくいものと推測される。引いては、当該結果は一回のPZT系強誘電体薄膜組成物の下部電極面への1回の塗布で100nm以上の厚膜をクラックなしで得ることができるPZT系強誘電体薄膜の製造方法を提供することが可能となる。
【0069】
表2の屈折率の欄の数値を考察すると、実施例1〜16の方が比較例1〜6よりも全体的に高くなっている。これは二段仮焼をすることによって、結晶性が向上し、屈折率が向上したものと考えられる。
【0070】
また、実施例の中で、図3で示されるような二段仮焼段階の温度プロファイルに従う実施例4、8及び12に関して、層厚と屈折率とを表1及び表2を参照して考察する。実施例4、8及び12は、第1昇温速度がそれぞれ1℃/秒、2.5℃/秒、10℃/秒で第1保持温度が275℃であり、かつ、第2昇温速度50℃/秒で第2保持温度が450℃である。
【0071】
実施例4、8及び12の仮焼後の層厚は、366nm、382nm、389nmであり、それぞれの焼成後の層厚は、314nm、331nm、314nmであり、仮焼後の層厚は第1昇温速度が速くなるほど厚くなる傾向があったが、一方、焼成後の層厚はそれほど顕著な差はなかった。また、実施例4、8及び12の仮焼後の屈折率は、2.21、2.26、2.24であり、それぞれの焼成後の屈折率は、2.44、2.46、2.46であり、実施例間でそれほど顕著な差はなかった。この結果から、第1昇温速度は、実施例の中で最速の昇温速度10℃/秒としても不具合は生じなかったことが分かる。生産効率を考えれば昇温速度は大きい方がよいが、あまり昇温速度を大きくするとクラックの発生等従来の問題点が発生しうるため好ましくないと考えられる。
【0072】
更に、図4図5を参照すると、SEMの断面写真から観察されるPZT系強誘電体薄膜(図1の参照符号12に想到する層に相当)に関し、実施例6で得たPZT系強誘電体薄膜が明らかに緻密な結晶構造となっていることが分かるが、比較例6で得たPZT系強誘電体薄膜には微小クラックが発生し緻密さがない粗い結晶構造となっていることが分かった。
【0073】
また、図6を参照すると、実施例1〜16では良好な結晶性であったが、一方、比較例1〜6では無配向で結晶性が低い膜であった。これにより赤外線による二段階仮焼を導入することで緻密かつ結晶性の高い膜が得られることが分かった。
【0074】
以上より、本発明による赤外線を用いた二段仮焼をPZT系強誘電体薄膜の製造方法によれば、層厚が100nm以上の比較的厚い層を一回で塗布、仮焼、焼成したとしても、クラックフリーな緻密かつ結晶性のよいPZT系強誘電体薄膜を製造することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のPZT系強誘電体薄膜の製造方法は、一層当たりの厚さが従来の当該製造方法の5〜10倍程度で塗布、仮焼、焼成を可能とし、1μm〜3μmの膜厚が要求される用途、例えば薄膜圧電の用途に好適であり、低コストで緻密かつ結晶性の優れたPZT系強誘電体薄膜を提供することができる。
【符号の説明】
【0076】
10:基板
11:下部電極
12:強誘電体薄膜
13:第1昇温速度
14:第1保持温度
15:第2昇温速度
16:第2保持温度
17:従来の昇温速度
18:従来の保持温度
図1
図2
図3
図6
図4
図5