【実施例】
【0038】
次に本発明に係る実施例を、従来技術に係る比較例とともに
図3、
図4、
図5<、
図6>並びに表1、2を参照しながら詳しく説明する。
【0039】
実施例は、組成物準備段階、塗布段階、赤外線を用いた二段階仮焼による仮焼段階及び焼成段階により、16種類のPZT系強誘電体薄膜を得た。一方、比較例は、組成物準備段階、塗布段階、従来の保持段階を設けないようにした仮焼段階及び焼成段階により5種類のPZT系強誘電体薄膜を得た。表1、表2に核実施例の仮焼段階の第1保持温度、第1昇温速度並びに第2昇温温度、第2昇温速度の条件をまとめた。この表1、表2には各条件毎に、仮焼後、焼成後の膜厚及び屈折率の値をまとめているが、測定方法、評価方法、評価結果については後述する。
【0040】
組成物準備段階及び塗布段階は、すべての実施例及び比較例に共通に含まれる段階であり以下のように行った。
【0041】
まず、組成物準備段階では、Pb/Zr/Ti組成比が115/52/48(酸化物換算で25wt%)となるように、24.24gのPb(CH
3COO)
3)・3H
2O、13.44gのZr(Oi−Pr)
4、7.64gのTi(Oi−Pr)
4をエタノールとプロピレングリコールの混合溶液に溶解し、かつ安定化剤としてアセチルアセトンを添加したものをPZT系強誘電体組成物の原料溶液とした。さらに、この原料溶液にモル比でPZT:ポリビニルピロリドン=1:0.5となるようにポリビニルピロリドンを添加し、24時間、常温で撹拌した。そして、N-メチルホルムアミドを原料溶液に対して7wt%の濃度になるように添加し、2時間撹拌後、24時間室温で安定化させた。
【0042】
次に、塗布段階では、組成物準備段階で得られた溶液をスピンコータ上にセットしたSi/SiO
2/TiO
2/Pt基板に滴下し、2000rpmで60秒間スピンコートを行い塗布膜を形成した。また、仮焼段階前に塗布膜を150℃のホットプレート上で3分間加熱し、低沸点溶媒や吸着した水分子を除去しゲル膜を得た。
【0043】
<実施例1>
実施例1では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度2.5℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0044】
<実施例2>
実施例2では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0045】
<実施例3>
実施例3では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度25℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0046】
<実施例4>
実施例4では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度1℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度50℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0047】
<実施例5>
実施例5では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度2.5℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0048】
<実施例6>
実施例6では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0049】
<実施例7>
実施例7では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0050】
<実施例8>
実施例8では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度50℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0051】
<実施例9>
実施例9では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度2.5℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0052】
<実施例10>
実施例10では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0053】
<実施例11>
実施例11では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度25℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0054】
<実施例12>
実施例12では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度10℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度50℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0055】
<実施例13>
実施例13では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0056】
<実施例14>
実施例14では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から300℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で450℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0057】
<実施例15>
実施例15では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で425℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0058】
<実施例16>
実施例16では、塗布段階で得られたゲル膜を、二段仮焼による仮焼段階において赤外線により仮焼した。具体的な仮焼条件は、昇温速度2.5℃/秒で25℃から275℃まで昇温し、3分間保持した後、昇温速度10℃/秒で475℃まで昇温して5分間保持した。次に焼成段階において、仮焼段階で得られたアモルファス膜を昇温速度5℃/秒、700℃で保持時間5分間焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0059】
<比較例1>
比較例1では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、400℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0060】
<比較例2>
比較例2では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、450℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0061】
<比較例3>
比較例3では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、475℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0062】
<比較例4>
比較例4では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度10℃/秒、500℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0063】
<比較例5>
比較例5では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度2.5℃/秒、450℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0064】
<比較例6>
比較例6では、塗布段階で得られたゲル膜を、従来の一段仮焼による仮焼段階で昇温速度50℃/秒、450℃まで昇温し、この温度で8分間保持して仮焼し、次に焼成段階において、仮焼段階で得られた膜を昇温速度10℃/秒、700℃、5分間の条件で焼成しPZT系強誘電体薄膜を得た。
【0065】
<比較試験>
実施例1〜16及び比較例1〜6で得られたPZT系強誘電体薄膜について、以下の手法により、当該薄膜の仮焼後及び焼成後の層厚及び屈折率を求めた。その結果を表1に示す。また、実施例6の断面SEM像(倍率100,000倍)を
図4に、比較例6の断面SEM像(倍率100,000倍)を
図5にそれぞれ示す。また、実施例6、比較例2のXRDチャートを
図6に示す。
(1)層厚測定:得られたPZT系強誘電体薄膜の層厚は、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製;M−2000)によって測定し、測定結果を表1にまとめた。
(2)屈折率測定:同薄膜の屈折率は、同様の分光エリプソメーターによって測定し、測定結果を表2にまとめた。
(3)断面観察:同薄膜の断面を、SEM(日立製作所製;S-4300SE)によって撮影された写真(倍率100,000倍)によって観察した。
図4は実施例6の薄膜の断面写真であり、
図5は比較例6の断面写真である。
(4)結晶配向:実施例6、比較例2で得られたPZT系強誘電体薄膜の結晶配向、結晶の完成度を調べるために、
図6にX線回折装置(Bruker製;MXP-18VAHF)によりXRDチャートを作成した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
表1、表2並びに
図4、
図5、
図6を参照して、以下評価結果を述べる。
【0068】
表1の層厚の欄の数値を考察すると、赤外線を用いた二段仮焼による実施例1〜16で得られたPZT系強誘電体薄膜と、赤外線を用いない一段仮焼による比較例1〜6とを得られたPZT系強誘電体薄膜を比較すると、仮焼後の層厚は、実施例1〜16の方が比較例1〜6よりも薄くなっている。これは、実施例1〜16によるゲル膜を仮焼した後のPZT系強誘電体薄膜が緻密になっていることを示すと考えられる。また、仮焼後の層厚と焼成後の層厚との差は、実施例1〜16の方が比較例1〜6よりも小さくなっている。これは、実施例1〜16のPZT系強誘電体薄膜の方が比較例1〜6のものより仮焼時と焼成時の間で熱収縮率が低くなっているため、実施例1〜16のPZT系強誘電体薄膜の方が比較例1〜6よりクラックが発生しにくいものと推測される。引いては、当該結果は一回のPZT系強誘電体薄膜組成物の下部電極面への1回の塗布で100nm以上の厚膜をクラックなしで得ることができるPZT系強誘電体薄膜の製造方法を提供することが可能となる。
【0069】
表2の屈折率の欄の数値を考察すると、実施例1〜16の方が比較例1〜6よりも全体的に高くなっている。これは二段仮焼をすることによって、結晶性が向上し、屈折率が向上したものと考えられる。
【0070】
また、実施例の中で、
図3で示されるような二段仮焼段階の温度プロファイルに従う実施例4、8及び12に関して、層厚と屈折率とを表1及び表2を参照して考察する。実施例4、8及び12は、第1昇温速度がそれぞれ1℃/秒、2.5℃/秒、10℃/秒で第1保持温度が275℃であり、かつ、第2昇温速度50℃/秒で第2保持温度が450℃である。
【0071】
実施例4、8及び12の仮焼後の層厚は、366nm、382nm、389nmであり、それぞれの焼成後の層厚は、314nm、331nm、314nmであり、仮焼後の層厚は第1昇温速度が速くなるほど厚くなる傾向があったが、一方、焼成後の層厚はそれほど顕著な差はなかった。また、実施例4、8及び12の仮焼後の屈折率は、2.21、2.26、2.24であり、それぞれの焼成後の屈折率は、2.44、2.46、2.46であり、実施例間でそれほど顕著な差はなかった。この結果から、第1昇温速度は、実施例の中で最速の昇温速度10℃/秒としても不具合は生じなかったことが分かる。生産効率を考えれば昇温速度は大きい方がよいが、あまり昇温速度を大きくするとクラックの発生等従来の問題点が発生しうるため好ましくないと考えられる。
【0072】
更に、
図4、
図5を参照すると、SEMの断面写真から観察されるPZT系強誘電体薄膜(
図1の参照符号12に想到する層に相当)に関し、実施例6で得たPZT系強誘電体薄膜が明らかに緻密な結晶構造となっていることが分かるが、比較例6で得たPZT系強誘電体薄膜には微小クラックが発生し緻密さがない粗い結晶構造となっていることが分かった。
【0073】
また、
図6を参照すると、実施例1〜16では良好な結晶性であったが、一方、比較例1〜6では無配向で結晶性が低い膜であった。これにより赤外線による二段階仮焼を導入することで緻密かつ結晶性の高い膜が得られることが分かった。
【0074】
以上より、本発明による赤外線を用いた二段仮焼をPZT系強誘電体薄膜の製造方法によれば、層厚が100nm以上の比較的厚い層を一回で塗布、仮焼、焼成したとしても、クラックフリーな緻密かつ結晶性のよいPZT系強誘電体薄膜を製造することができることが分かった。