特許第5919987号(P5919987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5919987潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
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  • 特許5919987-潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919987
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/12 20060101AFI20160428BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20160428BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20160428BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20160428BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C08L25/12
   C08L23/26
   C08L51/00
   C08L83/04
   C08L101/00
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-92150(P2012-92150)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-221050(P2013-221050A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】502163421
【氏名又は名称】ユーエムジー・エービーエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
(72)【発明者】
【氏名】垰 幸作
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 智紀
(72)【発明者】
【氏名】仁位 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】篠原 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】八木 圭一
(72)【発明者】
【氏名】長谷 信隆
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−173863(JP,A)
【文献】 特開平06−220277(JP,A)
【文献】 特開平08−003455(JP,A)
【文献】 特開2011−020348(JP,A)
【文献】 特開平10−287702(JP,A)
【文献】 特開平09−067473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
C08F 2/00−2/60
4/00−4/82
212/00−212/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)とからなる潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、
前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)100質量部に対して0.01〜25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)と、グラフト共重合体(C)および/または酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、
前記グラフト共重合体(C)が、ゴム質重合体に、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを必須とし、必要に応じてα,β−不飽和カルボン酸エステル類およびマレイミド類から選ばれる他の単量体をグラフト重合させたものであり、
前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01〜25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記官能基付与潤滑剤(B)の官能基(B1)が、アミノ基、水酸基、エポキシ基、及びカルボン酸無水物基のいずれかである請求項1又は2に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、ポリシロキサン鎖、及びポリエチレン鎖のいずれかである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の潤滑性、表面外観に優れ、永続的に潤滑性が維持される潤滑性熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂に代表されるゴム強化熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、機械的性質、成形加工性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物として、OA機器や自動車分野、その他雑貨製品など各種分野で幅広く使用されている。しかしながら、ABS樹脂は非結晶性樹脂であり、結晶性樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレンやポリアセタールに比べると摩擦係数(動摩擦係数、動摩擦係数の振れ幅)が大きい。このため、機器の振動、自動車の発進時や走行時の振動により、OA機器のスイッチ部分やカーオディオなどの嵌合部分などでスティックスリップ現象が生じ、きしみ音が発生する問題があった。
【0003】
従来、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物の摩擦係数(動摩擦係数、動摩擦係数の振れ幅)を小さくする手法として、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンやポリエチレンなどの潤滑剤を添加することが行われており、例えば、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物に潤滑剤としてシリコーンを添加したもの(特許文献1)、特定粘度のシリコーンを添加したもの(特許文献2)、ポリテトラフルオロエチレンやポリエチレンを添加したもの(特許文献3)などが提案されている。
【0004】
これらの潤滑剤を添加する手法は、ゴム強化熱可塑性樹脂組成物に配合された潤滑剤が成形品の表面にブリードアウトすることで、成形品の潤滑性を高め、摩擦係数を小さくするものである。このため、ブリードアウトした潤滑剤が成形品の表面外観を悪化させたり、ブーリドアウトした潤滑剤が徐々に失われることで、潤滑性が時間経過とともに失われていく問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2688619号公報
【特許文献2】特開2011−174029号公報
【特許文献3】特開2011−168186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、成形品の潤滑性、表面外観に優れ、永続的に潤滑性が維持される潤滑性熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、芳香族ビニルとシアン化ビニルを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体に対して、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する潤滑剤を用いることにより、共重合体のカルボキシル基と、潤滑剤の官能基との反応で、潤滑剤が共重合体に固定され、成形品表面にブリードアウトした潤滑剤が経時により失われることが防止され、潤滑性を永続的に維持することが可能となること、また、この共重合体に固定された潤滑剤は成形品内部に分散・固定されることにより、ブリードアウトしないため、成形品外観を悪化させることがなく、表面外観に優れた成形品を得ることができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)とからなる潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)100質量部に対して0.01〜25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
[2] 芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)と、グラフト共重合体(C)および/または酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)とを含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物であって、前記グラフト共重合体(C)が、ゴム質重合体に、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを必須とし、必要に応じてα,β−不飽和カルボン酸エステル類およびマレイミド類から選ばれる他の単量体をグラフト重合させたものであり、前記官能基付与潤滑剤(B)を、前記酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計100質量部に対して0.01〜25質量部含有する潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
] 前記官能基付与潤滑剤(B)の官能基(B1)が、アミノ基、水酸基、エポキシ基、及びカルボン酸無水物基のいずれかである[1]又は[2]に記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
] 前記官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)が、パーフルオロアルキル基、ポリシロキサン鎖、及びポリエチレン鎖のいずれかである[1]ないしのいずれかに記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
] [1]ないし[]のいずれかに記載の潤滑性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成形品の潤滑性、表面外観に優れ、永続的に潤滑性が維持される潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例における潤滑性の評価方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
[潤滑性熱可塑性樹脂組成物]
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ビニルとシアン化ビニルとを含む単量体混合物の共重合体であって、分子鎖にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)とを同一分子内に有する官能基付与潤滑剤(B)とを含有するものであり、酸変性共重合体(A)と官能基付与潤滑剤(B)の他に、用途や必要とされる機械物性等に応じて、グラフト重合体(C)、および/または酸変性共重合体(A)以外のその他の熱可塑性樹脂(D)、更にはその他の添加剤を含有していてもよい。
【0020】
<酸変性共重合体(A)>
本発明に係る酸変性共重合体(A)は、芳香族ビニルとシアン化ビニルを含む単量体混合物を共重合させたものであり、分子鎖にカルボキシル基を有するものである。
【0021】
酸変性共重合体(A)のカルボキシル基を有する位置は、酸変性共重合体(A)の分子鎖中(即ち、分子鎖の末端以外の部分)であってもよく、分子鎖の末端であってもよく、その両方であってもよい。このうち、分子鎖の末端のみにカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)は、カルボキシル基同士の反応により架橋構造となることがないため、得られる潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形品外観が良好となることから好ましい。
【0022】
分子鎖中のみにカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)(この分子鎖中にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)は、分子鎖の末端以外の部分にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)である。)は、カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体と、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを含む単量体混合物を共重合させることにより製造することができる。
【0023】
一方、分子鎖末端にのみカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)は、カルボキシル基を有する有機過酸化物、アゾ重合開始剤、或いは光重合開始剤を使用して、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルを含む単量体混合物を共重合させることにより製造することができる。
【0024】
また、分子鎖中と分子鎖末端の両方にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)は、上記のカルボキシル基を有する有機過酸化物、アゾ重合開始剤、或いは光重合開始剤を使用して、芳香族ビニルおよびシアン化ビニルと、カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体とを含有する単量体混合物を共重合させることにより製造することができる。
【0025】
このような酸変性共重合体(A)の製造において、酸変性共重合体(A)の分子鎖中へのカルボキシル基の導入量は、単量体混合物へのカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の添加量を調整することにより調整することができる。
また、酸変性共重合体(A)の分子鎖末端へのカルボキシル基の導入量は、カルボキシル基を有する有機過酸化物、アゾ重合開始剤、或いは光重合開始剤の使用量または共重合時の反応温度を調整することにより調整することができる。
【0026】
本発明において、酸変性共重合体(A)の製造に用いる芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−、m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これら芳香族ビニルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
単量体混合物の芳香族ビニルの含有量は特に制限はされず、用途や必要とされる機械物性等に応じて選択することができるが、一般的に、単量体混合物100質量%に対して60〜95質量%であることが好ましい。単量体混合物中の芳香族ビニルの含有量が上記範囲内にあれば、得られる潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形加工性、成形品の耐衝撃性が向上する。
【0028】
一方、シアン化ビニルとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらシアン化ビニルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
単量体混合物のシアン化ビニルの含有量は特に制限はされず、用途や必要とされる機械物性等に応じて選択することができるが、一般的に、単量体混合物100質量%に対して5〜40質量%であることが好ましい。単量体混合物中のシアン化ビニルの含有量が上記範囲内にあれば、得られる潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形品の耐衝撃性が向上する。
【0030】
単量体混合物は、上記の芳香族ビニル、シアン化ビニルの他に、これらと共重合可能な他の単量体を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のα,β−不飽和カルボン酸エステル類、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド類が挙げられる。これらの他の単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を意味する。
【0031】
分子鎖中にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)を製造する場合に使用されるカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、o−、m−もしくはp−ビニル安息香酸、桂皮酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。これらカルボキシル基を有するラジカル重合性単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の使用量は、カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体の分子量により異なることから特に制限はないが、得られる酸変性共重合体(A)の酸価が1〜100mg−KOH/gとなるように用いることが好ましい。酸変性共重合体(A)の酸価が1mg−KOH/g未満であると、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物の潤滑性が永続的に維持されにくい傾向にあり、100mg−KOH/gを超えると、成形品外観が悪化する傾向にある。
なお、ここで「酸価」とは、共重合体1gが含有するプロトン酸を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量をmgで表した時の数値であり、JIS K 2501に準拠して測定した値である。
【0033】
分子鎖の末端のみにカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)を製造する際に用いられるカルボキシル基を有する有機過酸化物としては、ビス(3−カルボキシプロピオニル)ペルオキシド、4−(tert−ブチルペルオキシ)−4−オキソ−2−ブテン酸等が挙げられる。また、カルボキシル基を有するアゾ重合開始剤としては、4,4’−アゾビズ(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]等が挙げられる。また、カルボキシル基を有する光重合開始剤としては、2−ベンゾイル安息香酸、3−ベンゾイル安息香酸などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
分子鎖末端にのみカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)の酸価は1〜30mg−KOH/gであることが好ましい。従って、分子鎖末端のみにカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)を製造する際には、このような酸価の酸変性共重合体(A)が得られるように、カルボキシル基を有する有機過酸化物、アゾ重合開始剤、或いは光重合開始剤を用いることが好ましい。分子鎖末端にのみカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)の酸価が1mg−KOH/g未満であると、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物の潤滑性が永続的に維持されにくく、30mg−KOH/gを超えると、分子鎖末端にのみカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)を製造する際の、カルボキシル基を有する有機過酸化物、アゾ重合開始剤、或いは光重合開始剤の必要量が多くなり、製造上の理由から好ましくない。
【0035】
なお、分子鎖中と分子鎖末端の両方にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)の酸価については、上記分子鎖中にカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)と分子鎖末端にのみカルボキシル基を有する酸変性共重合体(A)の酸価におけると同様の理由から、通常1〜130mg−KOH/gであることが好ましい。
【0036】
本発明に係る酸変性共重合体(A)の重量平均分子量は40000〜450000であることが好ましく、40000〜400000であることがより好ましい。酸変性共重合体(A)の重量平均分子量が40000未満であると、得られる潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形品の外観が悪化し、450000を超えると潤滑性に劣るものとなる。なお、ここで、酸変性共重合体(A)の重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミェーション・クロマトグラフィー、溶媒:テトラヒドロフラン(THF))によるポリスチレン換算の値である。
【0037】
このような本発明に係る酸変性共重合体(A)を製造する際の単量体混合物の重合法としては特に制限されるものではなく、通常行われている方法を使用して製造することができる。一般的な方法としては、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合および乳化重合などが挙げられる。
【0038】
<官能基付与潤滑剤(B)>
本発明で用いる官能基付与潤滑剤(B)は、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)と潤滑性を有する潤滑部位(B2)を同一分子内に有するものである。
【0039】
カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)としては、アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基、カルボキシル基、メルカプト基、オキセタン環基等が挙げられる。これらのうち、酸変性共重合体(A)のカルボキシル基との反応性の点でアミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基が好ましい。これらのカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)の位置は、官能基付与潤滑剤(B)の分子鎖中であっても、分子鎖末端のみであっても、その両方でもよい。また、官能基付与潤滑剤(B)は、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)の1種のみを有するものであってもよく、2種以上を有するものであってもよい。
【0040】
官能基付与潤滑剤(B)が有するカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)の数については、官能基付与潤滑剤(B)の潤滑性を有する潤滑部位(B2)の種類によっても異なり、それぞれ以下の通りである。
【0041】
官能基付与潤滑剤(B)の潤滑部位(B2)としては、潤滑性を発揮する部位であればよく、特に制限はないが、好ましいものとして、パーフルオロアルキル基、ポリシロキサン鎖、ポリエチレン鎖が挙げられる。即ち、本発明に係る官能基付与潤滑剤(B)は、アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基、カルボキシル基、メルカプト基、オキセタン環基等、好ましくはアミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基などのカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有する、パーフルオロアルキル化合物、シリコ−ン、或いはポリエチレンであることが好ましい。
【0042】
潤滑部位(B2)としてパーフルオロアルキル基を有する官能基付与潤滑剤(B)としては、官能基(B1)が1価の官能基である場合、下記一般式(1a)〜(3a)で表されるものが挙げられる。また、官能基(B1)がエポキシ基、カルボン酸無水物基等の2価の官能基である場合、下記一般式(1b)〜(3b)で表されるものが挙げられる。
(2n+1)−X …(1a)
(2n+1)−R−X …(2a)
m’(2m’+1)−R(−X)−C(m−m’)(2m−2m’+1) …(3a)
【0043】
【化1】
【0044】
上記一般式(1a)〜(3a)、(1b)〜(3b)において、nは通常1〜40、好ましくは1〜20の整数であり、m,m’は、それぞれ、m+m’=nとなる整数である。n(=m+m’)が上記上限を超えると、化合物の融点が高くなり、潤滑性熱可塑性樹脂組成物への分散性が悪くなることから、得られる成形品の潤滑性が悪くなるだけでなく、成形品外観も悪化する傾向にある。
【0045】
Xは、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)であり、前述の通り、例えば、アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基、カルボキシル基、メルカプト基、オキセタン環基等が挙げられ、アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基が好ましい。
【0046】
Rは特に限定された化学構造ではなく、例えば、一般式(2a),(3a)においては、C(2n+1)或いはCm’F(2m’+1)およびC(m−m’)(2m−2m’+1)であるパーフルオロアルキル基と、Xであるカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)とを結合できるものであればよく、例えば、メチレン基、フェニレン基、ナフチレン基、オキシエチレン基、或いはメチン基、3価のベンゼン環基、3価のナフタレン環基、オキシエチレン基から更に水素原子が1つとれた基などが挙げられる。
【0047】
潤滑部位(B2)としてポリシロキサン鎖を有する官能基付与潤滑剤(B)としては、例えば、ジメチルシリコーン、ジフェニルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルビニルシリコーンなどのシリコーンの片末端、両末端、分子鎖中、またはその混合部位に、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有するものが挙げられ、官能基(B1)の数としては、官能基当量として100〜6000g/molであることが好ましい。ここで、官能基当量とは、官能基1モル当たりに結合している主骨格 (ポリシロキサン鎖)の質量を意味している。カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)としては、前述の通り、例えば、アミノ基、水酸基、エポキシ基、カルボン酸無水物基、カルボキシル基、メルカプト基、オキセタン環基が挙げられ、アミノ基、水酸基、カルボン酸無水物基が好ましい。
【0048】
潤滑部位(B2)としてポリシロキサン鎖を有する官能基付与潤滑剤(B)、即ち、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有するシリコーンよりなる官能基付与潤滑剤(B)は、潤滑性熱可塑性樹脂組成物への分散性の点から動粘度が10〜1000mm/sであることが好ましい。なお、ここで、官能基付与潤滑剤(B)の動粘度とは、ASTM D445−46Tに準拠し、25℃においてウッベローデ粘度計で測定した値である。
【0049】
潤滑部位(B2)としてポリエチレン鎖を有する官能基付与潤滑剤(B)としては、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有するビニル化合物をポリエチレンにグラフト重合させたもの、或いはカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有するビニル化合物をエチレンと共重合させたものが挙げられる。
【0050】
ここで、カルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有するビニル化合物としては、例えば、ビニルアミン、ビニルアルコール、グリシジル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、好ましくはビニルアミン、ビニルアルコール、グリシジル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸である。
【0051】
潤滑部位(B2)としてポリエチレン鎖を有する官能基付与潤滑剤(B)が有するカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)の数は、官能基当量として100〜6000g/molであることが好ましい。ここで、官能基当量とは、官能基1モル当たりに結合している主骨格 (ポリエチレン鎖)の質量を意味している。
【0052】
また、潤滑性熱可塑性樹脂組成物への分散性の点から、潤滑部位(B2)としてポリエチレン鎖を有する官能基付与潤滑剤(B)の粘度平均分子量は1000〜9000であることが好ましく、1500〜4000であることがより好ましい。ここで、粘度平均分子量とはJIS K 7367−3に準拠して測定した値である。
【0053】
<グラフト共重合体(C)>
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がグラフト重合体(C)を含有する場合、成形品の外観、潤滑性に優れ、永続的に潤滑性が維持されるだけでなく、耐衝撃性にも優れるものとなることから、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物はグラフト共重合体(C)を含有することが好ましい。
グラフト重合体(C)は、ゴム質重合体に芳香族ビニルとシアン化ビニルを含む単量体混合物をグラフト重合させたものである。
【0054】
ゴム質重合体としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)等が挙げられる。これらゴム質重合体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。なお、EPDMに含有されるジオレフィンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−エチル−1,11−トリデカジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン、2−メチル−2,5−ノルボルナジエン、メチルテトラヒドロインデン、リモネン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
グラフト重合体(C)の製造に用いる単量体混合物中の芳香族ビニルとしては、酸変性共重合体(A)の製造に用いるものと同様のものが使用できる。これら芳香族ビニルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
単量体混合物100質量%中の芳香族ビニルの含有量は、特に制限はされず、用途や必要とされる機械物性等に応じて選択することができる。一般的にABS樹脂に代表されるゴム強化熱可塑性樹脂においては、単量体混合物100質量%中芳香族ビニルは60〜95質量%であることが好ましい。単量体混合物中の芳香族ビニルの含有量が上記範囲内にあれば、得られる潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形加工性、成形品の耐衝撃性が向上する。
【0057】
グラフト重合体(C)の製造に用いる単量体混合物中のシアン化ビニルとしては、酸変性共重合体(A)の製造に用いるものと同様のものが使用できる。これらシアン化ビニルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
単量体混合物100質量%中のシアン化ビニルの含有量は、特に制限はされず、用途や必要とされる機械物性等に応じて選択することができる。一般的にABS樹脂に代表されるゴム強化熱可塑性樹脂においては、単量体混合物100質量%中シアン化ビニルは5〜40質量%であることが好ましい。単量体混合物中のシアン化ビニルの含有量が上記範囲内にあれば、得られる潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形品の耐衝撃性が向上する。
【0059】
グラフト重合体(C)の製造に用いる単量体混合物には、上記の芳香族ビニルおよびシアン化ビニルの他に、これらと共重合可能な他の単量体を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。他の単量体としては、酸変性共重合体(A)の製造に用いるものと同様のものが使用できる。これら他の単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
グラフト重合体(C)の製造に用いるゴム質重合体量は40〜80質量部であり、単量体混合物量は20〜60質量部である(ただし、ゴム質重合体と単量体混合物の合計を100質量部とする)。ゴム質重合体の割合が上記範囲内であれば、グラフト共重合体(C)を配合して得られる本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に優れたものとなる。
【0061】
グラフト重合体(C)の製造方法としては特に制限されるものではなく、通常行われている方法を使用して製造することができる。一般的な方法としては、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合および乳化重合などが挙げられる。
【0062】
<その他の熱可塑性樹脂(D)>
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物に用いられるその他の熱可塑性樹脂(D)としては、一般的にABS樹脂、AES樹脂やSAS樹脂に代表されるゴム強化熱可塑性樹脂とアロイ化できるものであれば特に制限はなく、例えば、酸変性共重合体(A)の製造時に使用した単量体混合物と必要に応じてその他の共重合可能な単量体を共重合したSAN樹脂、スチレン−アクリロニトリル−α−メチルスチレン共重合体やスチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。特に、SAN樹脂、スチレン−アクリロニトリル−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体が好ましい。これらのその他の熱可塑性樹脂(D)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
<その他の成分>
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物には、さらに上記の諸成分の他に、その物性を損なわない範囲において、樹脂組成物の製造時(混合時)、成形時に慣用の他の添加剤、例えば、滑剤、顔料、染料、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン、ガラス繊維、炭素繊維など)、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種の添加剤の1種または2種以上を配合することができる。
【0064】
<配合割合>
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物における官能基付与潤滑剤(B)の含有量は、潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.01〜25質量部、特に0.1〜10質量部が好ましい。官能基付与潤滑剤(B)の含有量が0.01質量部未満であると潤滑性熱可塑性樹脂組成物の潤滑性が十分でなく、25質量部を超えると成形品外観が悪化する傾向にある。
【0065】
ここで、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分とは、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がグラフト共重合体(C)およびその他の熱可塑性樹脂(D)を含まない場合は酸変性共重合体(A)をさし、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物が酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)を含む場合は、酸変性共重合体(A)とグラフト共重合体(C)、および/またはその他の熱可塑性樹脂(D)との合計をさす。
【0066】
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がグラフト共重合体(C)を含有する場合、グラフト重合体(C)の含有量は特に制限されるものではなく、用途や必要とされる機械物性等に応じて選択することができるが、潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して3〜30質量部となるようにグラフト重合体(C)が配合されることが好ましい。潤滑性熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が、上記下限未満であると得られる成形品の耐衝撃性の改善効果が十分でなく、上記上限を超えると成形品外観が悪くなる。
【0067】
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物がその他の熱可塑性樹脂(D)を含有する場合、その配合量は、特に制限されるものではなく、用途や必要とされる機械物性等に応じて配合すればよい。
【0068】
<製造方法>
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物を製造する方法には特に制限はなく、通常行われている方法および装置を使用して製造することができる。一般的に使用されている方法としては溶融混合法があり、その装置例としては押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を挙げることができる。その製造方式は回分式または連続式のいずれでもよく、また各成分の混合順序にも特に制限はなく、すべての成分が十分均一に混合されていればよい。
【0069】
[潤滑性熱可塑性樹脂成形品]
本発明の成形品は、上記の本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物が成形加工されたものである。
本発明の潤滑性熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらの中でも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0070】
本発明の成形品は、潤滑性に優れ、その潤滑性が永続的に持続するため、OA機器や自動車部材などの摺動部品に好適に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
[製造例1:酸変性共重合体(A−1)]
蒸留水170質量部とアルキルベンゼンスルホン酸2.0質量部を内温75℃に保ち、ピロリン酸ナトリウム0.2質量部と過硫酸カリウム0.25質量部を加えた。次に、ここへ、単量体混合物としてスチレン68質量部、アクリロニトリル27質量部、およびメタクリル酸5質量部と、t−ドデシルメルカプタン0.3質量部とを360分かけて同時に滴下して重合を行った。この間、内温75℃で一定に制御した。滴下終了後、さらに100分間75℃のまま保持した後に冷却して重合を終了した。反応生成物のラテックスを塩化カルシウム水溶液で凝固、水洗した後、乾燥して酸変性共重合体(A−1)を得た。
酸変性共重合体(A−1)の重量平均分子量は135000であり、酸価は31mg−KOH/gであった。
【0073】
[製造例2:酸変性共重合体(A−2)]
t−ドデシルメルカプタンの添加量を1.0質量部とした以外は、製造例1の酸変性共重合体(A−1)と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−2)を得た。
酸変性共重合体(A−3)の重量平均分子量は33000であり、酸価は30mg−KOH/gであった。
【0074】
[製造例3:酸変性共重合体(A−3)]
t−ドデシルメルカプタンの添加量を0.8質量部とした以外は、製造例1の酸変性共重合体(A−1)と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−3)を得た。
酸変性共重合体(A−3)の重量平均分子量は52000であり、酸価は32mg−KOH/gであった。
【0075】
[製造例4:酸変性共重合体(A−4)]
t−ドデシルメルカプタンの添加量を0.05質量部とした以外は、製造例1の酸変性共重合体(A−1)と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−4)を得た。
酸変性共重合体(A−4)の重量平均分子量は370000であり、酸価は31mg−KOH/gであった。
【0076】
[製造例5:酸変性共重合体(A−5)]
t−ドデシルメルカプタンを添加しない以外は、製造例1の酸変性共重合体(A−1)と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−5)を得た。
酸変性共重合体(A−5)の重量平均分子量は430000であり、酸価は30mg−KOH/gであった。
【0077】
[製造例6:酸変性共重合体(A−6)]
蒸留水250質量部とアルキルベンゼンスルホン酸2.0質量部を内温80℃に保ち、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)2.0質量部を加えた。次に、ここへ、単量体混合物としてスチレン70質量部およびアクリロニトリル30質量部と、t−ドデシルメルカプタン0.5質量部とを150分かけて同時に滴下して重合を行った。この間、内温を80℃で一定に制御した。滴下終了後、60分間80℃のまま保持した後に冷却して重合を終了した。反応生成物のラテックスを塩化カルシウム水溶液で凝固、水洗した後、乾燥して酸変性共重合体(A−6)を得た。
酸変性共重合体(A−6)の重量平均分子量は79000であり、酸価は6mg−KOH/gであった。
【0078】
[製造例7:酸変性共重合体(A−7)]
単量体混合物をスチレン69.85質量部、アクリロニトリル30質量部、およびメタクリル酸0.15質量部とした以外は、製造例1と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−7)を得た。
酸変性共重合体(A−7)の重量平均分子量は140000であり、酸価は0.8mg−KOH/gであった。
【0079】
[製造例8:酸変性共重合体(A−8)]
単量体混合物をスチレン69.8質量部、アクリロニトリル30質量部、およびメタクリル酸0.2質量部とした以外は、製造例1と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−8)を得た。
酸変性共重合体(A−8)の重量平均分子量は145000であり、酸価は1.2mg−KOH/gであった。
【0080】
[製造例9:酸変性共重合体(A−9)]
単量体混合物をスチレン63質量部、アクリロニトリル22質量部、およびメタクリル酸15質量部とした以外は、製造例1と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−9)を得た。
酸変性共重合体(A−9)の重量平均分子量は135000であり、酸価は95mg−KOH/gであった。
【0081】
[製造例10:酸変性共重合体(A−10)]
単量体混合物をスチレン62質量部、アクリロニトリル21質量部、およびメタクリル酸17質量部とした以外は、製造例1と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−10)を得た。
酸変性共重合体(A−10)の重量平均分子量は140000であり、酸価は105mg−KOH/gであった。
【0082】
[製造例11:酸変性共重合体(A−11)]
4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を0.3質量部、t−ドデシルメルカプタンを1質量部とした以外は、製造例6と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−11)を得た。
酸変性共重合体(A−11)の重量平均分子量は121000であり、酸価は0.8mg−KOH/gであった。
【0083】
[製造例12:酸変性共重合体(A−12)]
4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を0.4質量部、t−ドデシルメルカプタンを1質量部とした以外は、製造例6と同様の製造方法で酸変性共重合体(A−12)を得た。
酸変性共重合体(A−12)の重量平均分子量は102000であり、酸価は1.2mg−KOH/gであった。
【0084】
[製造例13:グラフト共重合体(C−1)]
蒸留水170質量部に、ポリブタジエンゴムのラテックス(ゲル含有量:95%、平均粒子径:3000Å)70質量部(固形分換算)と、スチレン70質量%及びアクリロニトリル30質量%の単量体混合物30質量部と、不均化ロジン酸カリウム1質量部、水酸化ナトリウム0.01質量部、ピロリン酸ナトリウム0.45質量部、硫酸第1鉄0.01質量部、デキストローズ0.57質量部、t−ドデシルメルカプタン0.08質量部及びクメンハイドロパーオキサイド1.0質量部とを仕込み、60℃から反応を開始し、途中で75℃まで昇温し、2時間半後乳化グラフト重合を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(C−1)を得た。
【0085】
[製造例14:熱可塑性樹脂(D−1)]
蒸留水120質量部にアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.003質量部、スチレン68質量部、アクリロニトリル質量部、t−ドデシルメルカプタン0.35質量部、過酸化ベンゾイル0.15質量部とリン酸カルシウム0.5質量部とを添加し、110℃で10時間懸濁重合し、SAN樹脂である熱可塑性樹脂(D−1)を得た。
【0086】
水酸基変性のパーフルオロアルキル基を持つ化合物(B−1)として、東京化成工業(株)製 1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロ−1−デカノールを使用した。
アミノ基変性のパーフルオロアルキル基をもつ化合物(B−2)として、和光純薬工業(株)製 2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクタン−1−アミンを用いた。
エポキシ基変性のパーフルオロアルキル基をもつ化合物(B−3)として、和光純薬工業(株)製 1,2−エポキシ−1H,1H,2H,3H,3H−ヘプタデカフルオロウンデカンを用いた。
カルボキシル基変性のパーフルオロアルキル基をもつ化合物(B−4)として、和光純薬工業(株)製 ペルフルオロノナン酸を用いた。
未変性のパーフルオロアルキル化合物(B−5)として、東京化成工業(株)製 ぺルフルオロノナンを使用した。
【0087】
アミノ基変性シリコーン(B−6)として、信越化学工業(株)製の両末端アミン変性シリコーン:製品名 KF−8012(動粘度:90mm/s、アミノ基量:官能基当量=2200g/mol)を使用した。
エポキシ基変性シリコーン(B−7)として、信越化学工業(株)製の両末端エポキシ変性シリコーン:製品名 X−22−163B(動粘度:60mm/s、エポキシ基量:官能基当量=1750g/mol)を使用した。
カルボキシル基変性シリコーン(B−8)として、信越化学工業(株)製の両末端カルボン酸変性シリコーン:製品名 X−22−162C(動粘度:220mm/s、カルボキシル基量:官能基当量=2300g/mol)を使用した。
未変性シリコーン(B−9)として、信越化学工業(株)製のジメチルシリコーン:製品名 KF−96−100cs(動粘度:100mm/s)を使用した。
【0088】
無水マレイン酸変性ポリエチレン(B−10)として、三井化学(株)製Hi−Wax2203A(粘度平均分子量:3000、無水マレイン酸基量:官能基当量=1870g/mol)を使用した。
未変性ポリエチレン(B−11)として、三井化学(株)製Hi−Wax320P(粘度平均分子量:3000)を使用した。
【0089】
充填材(CB)として、三菱化学(株)製 三菱カーボンブラックを使用した。
【0090】
[実施例1〜27、比較例1〜5]
表1〜4に示す配合組成(質量部)の成分と更に充填材(CB)0.5質量部とを混合し、30mm二軸押出機(日本製鋼所製「TEX−30α」)を用いて230℃で溶融混練し、ペレット状の潤滑性熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られた潤滑性熱可塑性樹脂組成物を射出成形して各種成形品(試験片)を作成し、潤滑性、潤滑性の永続性、成形品外観、耐衝撃性を以下の方法により評価した。評価結果を表1〜4に示す。
【0091】
<潤滑性>
図1に示す方法で試験を行った。
リブ構造をもった試験片1と平面部分を有する試験片2を用い、荷重500gまたは1kgをかけながら往復運動を行ったときにきしみ音が発生するか否かを調べ、下記基準で評価した。
◎:荷重500gと1kgのいずれでもきしみ音が発生しない
○:荷重1kgの場合は小さなきしみ音が発生するが、500gの場合は発生しない
△:荷重500gと1kgのいずれでも小さなきしみ音がする
×:荷重500gと1kgのいずれでもきしみ音が発生する
荷重500gと1kgのいずれでも小さなきしみ音がする場合(△)以上を潤滑性があるとした。
【0092】
<潤滑性の永続性>
図1に示す方法で試験を行った。
リブ構造をもった試験片1と平面部分を有する試験片2を60℃にて10日間アニールした後、各種試験片1,2の表面をイソプロピルアルコールで脱脂することでブリード成分を取り除き、脱脂後のきしみ音の発生を、上記潤滑性の評価で用いた方法と同様の方法で測定することで、潤滑性の永続性を調べ、下記基準で評価した。
◎:荷重500gと1kgのいずれでもきしみ音が発生しない
○:荷重1kgの場合は小さなきしみ音が発生するが、500gの場合は発生しない
△:荷重500gと1kgのいずれでも小さなきしみ音がする
×:荷重500gと1kgのいずれでもきしみ音が発生する
荷重500gと1kgのいずれでも小さなきしみ音がする場合(△)以上を潤滑性の永続性があるとした。
【0093】
<成形品外観>
100×100mm(厚み2mm)の成形品表面に対してスガ試験機(株)製のデジタル変角光計「UGV−5D」を用い、入射角60°、反射角60°での反射率の測定を行った。反射率が大きい程、表面光沢があり、成形品外観に優れる。
【0094】
<耐衝撃性>
ISO試験法179に準拠し、23℃において、4mm、Vノッチ付きシャルピー衝撃強度(kJ/m)を測定した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
上記の表1〜3の実施例1〜27に示すように、本発明によれば、成形品の潤滑性、表面外観に優れ、永続的に潤滑性が維持される潤滑性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することができ、グラフト共重合体(C)とその他の熱可塑性樹脂(D)の配合量を制御することにより、耐衝撃性にも優れた成形品を得ることができる。
【0100】
一方、表4の比較例1は酸変性共重合体(A)が含まれていないことから、潤滑性が永続的に維持されない。比較例2〜4は官能基付与潤滑剤(B)がカルボキシル基と反応し得る官能基(B1)を有しないため、潤滑性が永続的に維持されない。比較例5は官能基付与潤滑剤(B)が含まれていないため、潤滑性および永続的な潤滑性に劣る。
【符号の説明】
【0101】
1,2 試験片
図1