特許第5920014号(P5920014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920014
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】空気ばね及びそれを用いた移動体車両
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/05 20060101AFI20160428BHJP
   B61F 5/10 20060101ALI20160428BHJP
   F16F 9/58 20060101ALI20160428BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20160428BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   F16F9/05
   B61F5/10 C
   F16F9/58 B
   F16F15/023 Z
   F16F15/02 D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-115428(P2012-115428)
(22)【出願日】2012年5月21日
(65)【公開番号】特開2013-241989(P2013-241989A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100139387
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100144691
【弁理士】
【氏名又は名称】小副川 みさ子
(74)【代理人】
【識別番号】100146802
【弁理士】
【氏名又は名称】戸谷 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100157794
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100159374
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 顕
(72)【発明者】
【氏名】澤 隆之
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0315474(US,A1)
【文献】 実開昭52−073386(JP,U)
【文献】 特開2011−080507(JP,A)
【文献】 特開平06−217627(JP,A)
【文献】 特開平08−240238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00− 9/58
F16F 15/00−15/36
B61F 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられる上面板と台車側に設けられる下面板とに挟持されたダイヤフラムと、
前記上面板と前記下面板との間に設けられたストッパゴムとを備える移動体用空気ばねであって、
前記ストッパゴムの側面に向き合うように抑制面を備えた抑制面部材を有し、
デフレート時に前記ストッパゴムに加わる荷重の変化に応じた前記ストッパゴムの形状の変化に応じて、前記ストッパゴムの側面と前記抑制面との接触面積が変化するように構成されており、
前記ストッパゴムは圧縮板によって予備圧縮されていることを特徴とする移動体用空気ばね。
【請求項2】
前記予備圧縮された状態において、前記ストッパゴムの側面の一部が前記抑制面と接触していることを特徴とする請求項1に記載の移動体用空気ばね。
【請求項3】
前記ストッパゴムは側面が円錐または紡錘形状で、上面と下面が平面形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の移動体用空気ばね。
【請求項4】
前記圧縮板は、前記ストッパゴムの側面に向き合うように設けられた第2の抑制面を備え、
デフレート時に前記ストッパゴムに加わる荷重の変化に応じた前記ストッパゴムの形状の変化に応じて、前記ストッパゴムの側面と前記第2の抑制面との接触面積が変化するように構成されていることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の移動体用空気ばね。
【請求項5】
前記抑制面が、ゴム以外の樹脂によって樹脂コーティングされていることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の移動体用空気ばね。
【請求項6】
前記下面板の下部にさらに第2のストッパゴムを有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の移動体用空気ばね。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の移動体用空気ばねを、台車と車体との間に備えた移動体車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両等の移動体に用いられる空気ばね、特に、デフレート(パンク)時の走行安全性を高めた空気ばねに関する。
【背景技術】
【0002】
空気ばねは、移動体走行時の乗り心地を向上させ、さらに、乗車人員数にかかわらず、車体とプラットホーム間の段差を一定に保てるなどの特長があり、鉄道車両での車体と台車間のばねとして多く用いられている。空気ばねは空気により膨らむダイヤフラムを用いることで通常走行時の乗り心地の点で優れているが、デフレート時には空気が抜けてダイヤフラムが機能を果たさない。このため、デフレート時の乗り心地改善や鉄道車両の脱線防止の目的で、ダイヤフラムの内部にストッパゴム(内部ストッパ)を備える構造が採用されている。
【0003】
特許文献1には、このような構造の空気ばねが開示されている。ここでは、ストッパゴムが硬い(そのばね特性は8k〜15kN/mm)と、デフレート時の脱線係数が限度である0.8〜1.0を超えて脱線に至る可能性が高くなり、逆にストッパゴムとして柔軟なもの(例えば3kN/mm程度)とすると、デフレート時のストッパゴムの圧縮量が大きくなり、丈の高いストッパゴムが必要となって車体の沈下量が車輌限界を超え、車体の下面に装備された機器が地面に接触するなどの問題を指摘している。その解決策として、内部ストッパの一部を、下面板を支える積層ゴムの内部空間内に入り込ませ、さらに、内部ストッパを予備圧縮して空気ばねの全高を低くする構造が開示されている。
【0004】
特許文献2には、同様にダイヤフラム内に設けたストッパゴムについて、低ばね定数の第1のストッパゴムと、第1のストッパゴムの軸方向の撓みを制限する高ばね定数の第2のストッパゴムとを設けることで、非線形のばね特性を発揮し、乗心地性への影響を小さくし、車体の沈下量を制限して安全な走行が可能となる構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3866520号公報
【特許文献2】特開2006−105244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構造では、デフレート時の乗り心地を保ち、かつ車両の脱線係数を低く抑えて走行安定性を確保することができるとしているが、構造が複雑になり、コスト増の要因となる。また特許文献2の構造では、非線形のばね特性を発揮し、乗心地性への影響を小さくしつつ車体の沈下量を制限して安全な走行が可能な構造とされているが複数のストッパゴムを用いることが必要である。
【0007】
そこで本発明では、より簡便な構造で乗り心地と車両走行の安定性を両立することが可能な移動体用空気ばねを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達するため本発明では、車体側に設けられる上面板と台車側に設けられる下面板とに挟持されたダイヤフラムと、デフレート時に上面板と下面板との間に設けられたストッパゴムとを備える移動体用空気ばねであって、ストッパゴムの側面に向き合うように抑制面を備えた抑制面部材を有し、デフレート時にストッパゴムに加わる荷重の変化に応じたストッパゴム形状の変化に応じて、ストッパゴムの側面と抑制面との接触面積が変化するように構成されていることを特徴とする移動体用空気ばねとした。
【0009】
デフレート時にストッパゴムに車体からの圧縮荷重が加わることによって、ストッパゴムは側面方向に膨らむように変形する。この時、膨らんだ側面が抑制面部材の抑制面と接触することで変形が抑制され、結果としてストッパゴムのばね常数が大きくなる。変形の度合いに応じて接触面積が増えるように構成することで、荷重の大きさに応じてばね常数を変化させることができる。すなわち、このような比較的簡易な構造によって、荷重が大きくなるに従ってばね定数が大きくなる非線形性を持たせることが可能となる。
【0010】
ここで、抑制面部材はストッパゴムの側面を取り囲むように設けられ、ストッパゴムの無荷重状態において抑制面とストッパゴムは離間しており、当該離間の間隔が上下方向に増加または減少するように構成されていることが好ましい。
【0011】
通常の移動体運行時にはストッパゴムは全く機能しておらず、その側面と抑制面は接触していないことが好ましい。また、デフレート時の初期段階でストッパゴムへの荷重が小さい段階では極力やわらかい(ばね定数が小さい)状態で、荷重が増すに従って硬い(ばね定数が大きい)状態になる非線形性を持つ方が乗り心地と安定走行の点で好ましい。
【0012】
このような間隔を持つ構成として、ストッパゴムは側面が円錐または紡錘形状で、上面と下面が平面形状であり、抑制面は略垂直の壁面とすれば良い。また、ストッパゴムは側面が略垂直な形状で、上面下面が平面形状であり、抑制面は、円錐または紡錘形状の一部側面をなす形状の壁面としても良い。面間隔を徐々に大きくするなどにより、ばね定数の変化を任意に設計することができ、また、乗り心地を良く保ちつつ脱線係数を低く抑えるような設計を実現することが可能となるからである。
【0013】
抑制面が樹脂コーティングされていると好ましい。一般に空気ばねの部材内面はプレス型や鍛造型、鋳型で製造されたままの面であり、粗く凹凸が大きい場合が多い。本発明においては、ストッパゴムとの接触による機能を持たせているため、粗い面ではゴムの損傷による製品寿命や機能面での悪影響が生じうる。そこで、抑制面のストッパゴムと接する部分は、面の粗さを押さえることが好ましく、樹脂コーティングされているとより好ましい。当該樹脂はナイロン、ポリエチレン等の汎用の樹脂によることができ、特に限定されないが、低摩擦係数を実現するためフッ素樹脂などが特に好ましい。
【0014】
抑制面部材は上面板または下面板と一体に形成された壁面部材であると良い。さらに、ストッパゴムは予備圧縮されていることが好ましい。
【0015】
一般に空気ばねに用いられる金属部材は製缶加工や鍛造、鋳造によって製造される。よって、抑制面部材は独立した部材として製造され、上面板または下面板に固定することができる。抑制面部材を上面板または下面板と一体に設計し、一体物として製造することにより、構造がより簡易となり製造コストの低減が図られる。ストッパゴムは抑制面部材との組み合わせとして下面板や上面板に設けることができるが、製造の容易性を考慮して、好ましくは下面板に固定される構造とすれば良い。また、ストッパゴムが予備圧縮されていれば、空気ばねを適用した車両の低床化に寄与することができる。
【0016】
さらに本発明は、上記の移動体用空気ばねを、台車と車体との間に備えた鉄道車両等の移動体車両である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より簡便な構造で乗り心地と車両走行の安定性を両立することが可能な移動体用空気ばねを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一例としての空気ばねを示す断面模式図である。
図2図1の空気ばねがデフレートした状態を示す断面模式図である。
図3図1の空気ばねにおいてストッパゴムの圧縮変位量Xと圧縮荷重Pの関係を説明する図である。
図4】本発明の別な例としての空気ばねを示す断面模式図である。
図5図4の空気ばねがデフレートした状態を示す断面模式図である。
図6】本発明の別な例としての空気ばねを示す断面模式図である。
図7図6の空気ばねにおいて内部のストッパゴムを予備圧縮した状態を説明する断面模式図である。
図8図6の空気ばねがデフレートした状態を示す断面模式図である。
図9図6の空気ばねにおいて内部のストッパゴムの圧縮変位量Xと圧縮荷重Pの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にかかる空気ばねの構成を図面を参照して説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一または相応する要素を示すものとする。本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
図1は、本発明の一例としての空気ばねを示す断面模式図である。図1は空気ばねをその中心軸を通る垂直面で切断した断面を示しており、上面図、下面図は示さないが、全体は中心軸を中心に回転させた円形形状である。図1を用いて本発明の基本的な構成要素とその作用について説明する。空気ばねの基本的な構造は、上面板1と下面板2により上下面をそれぞれ封止かつ狭持されたダイヤフラム4により構成される。上面板1や下面板2の構造は単なる板ではなく種々複雑な構造があるが、本発明ではどのような構造かは問わないので、図1を始め各図面ではその一例として代表的な構造を模式的に示している。ダイヤフラム4は、上面板1と下面板2で挟まれた空間内に空気を圧縮充填することにより膨らまされている。上面板1は車両の車体側に、下面板2は台車側にそれぞれ取り付けられる。ダイヤフラム4が車体側の重量を支え、空気がばねの役割を果たす。
【0021】
図1の空気ばねは、上面板1と下面板2との間であって、ダイヤフラム4の内部空間となる位置にストッパゴム5を備えている。ストッパゴムがダイヤフラム内部に設けられているものであることから、内部ストッパとも呼ばれる。図1においてストッパゴム5は、下面板2に底面を接するように置かれたゴムの塊である。ストッパゴム5の上面側は上面板1に向き合う平面であって、上面板1には固定されていない。この状態において、ストッパゴム5には何らの荷重もかかっていない。
【0022】
図2は、図1の空気ばねの空気が抜けた状態(当該状態をデフレートした状態と言う。)を示した図である。デフレート状態になると、ダイヤフラム4はもはや空気ばねとしての機能を果たさない。上面板1は、その上部からの荷重、すなわち車体側の荷重によって下方に下がる。ここで、ストッパゴム5の存在により、上面板1がストッパゴム5の上面に接触し、ストッパゴム5が荷重を支えることとなる。ストッパゴム5は上部からの荷重によって上下に押し潰され、左右に膨らむように変形する。
【0023】
なお、図1に示す空気ばねの寸法は、例えば、上面板の外直径が350〜1,000mm、ストッパゴムの直径が下面で100〜500mm、上面で50〜450mm、高さ15〜250mmであり、特性としてデフレート時にばねとして有効に働くストッパゴムのばね定数が3kN〜15kN/mm程度であるが、これ等は適用する鉄道車両の仕様に応じて定められるものであって、例示の数値に限定されるものではない。
【0024】
本発明に係る抑制面部材とその機能について説明する。図1および図2において、ストッパゴム5の側面に対向するように抑制面部材3が設けられている。抑制面部材3の、ストッパゴムの側面に対向する面が抑制面3aとして機能する。ここで、側面とは、ストッパゴムの上面板側に対向した上面および下面板側に対向した下面にそれぞれ連接した面であって上下方向の荷重により膨らむ様に変形する側の面を言う。また、抑制面部材3は、ダイヤフラムの正常使用時には抑制面3aがストッパゴム5の側面と離れた状態になるように離間して配置されている(図1)。一旦ダイヤフラム4がデフレート状態となると、ストッパゴム5の側面が変形して、抑制面3aに接し、抑制面部材3によってその変形が抑制される。この抑制によって、ストッパゴム5は変形し難くなり、すなわちゴムとして硬い状態となる。
【0025】
この様子を表すのが図3のグラフである。図3の横軸はストッパゴム5の上下方向の圧縮変位量Xを、縦軸は同じくストッパゴム5に加わる圧縮荷重Pである。ダイヤフラムがデフレート状態となり、上面板1がストッパゴム5の上面に接した位置を原点X=0として表している。上面板1からの垂直荷重(すなわち車体側の重量)によりストッパゴム5は圧縮されて行くと共に、側面が横方向に膨らむように変形する。よって、荷重Pに対して圧縮変位量Xは線Bのように変化する。しかし、ストッパゴム5の側面が抑制面部材3の抑制面3aに接した状態(P=P、X=X)になると、側面の変形が抑制面によって抑制されるため、ゴムのばね定数が大きくなり、線Aのように圧縮荷重に対しての変位量が小さくなる。すなわち、このことは、デフレート発生時の初期には柔らかいゴムが車体を受け止める一方で、一定以上の車体の変位を起こしにくいように抑制されるという効果を生む。車体が台車側に過度に変位する(沈む)と、車体と台車間に設置された他の機器類の破損や動作不良等の悪影響がある他、ばねとしての機能を全く果たせなくなるなどの不具合を生じる。本発明によれば、そのような不具合を抑制しつつ、デフレート時の乗り心地を確保することができる。
【0026】
以上において、抑制面部材3は下面板2の一部部分として構成されている例を図1に示したが、下面板2に別部材としての抑制面部材3を溶接やボルト等で固定してもよく、また一体品として成型しても良い。一体品として成型される場合は製造コストや強度面で好ましい場合が多い。また、ストッパゴム5は下面板2に設置される以外に、上面板1に固定される構成でも良い。また抑制面部材3も下面板2に設けられるものに限定されず、上面板1側に設けられても良い。いずれにおいても、ストッパゴムの側面と抑制面が、ダイヤフラムのデフレート状態において対向する位置に配置され、ストッパゴムの変形を抑制面との当接によって抑制できる構成になっていれば良い。
【0027】
ストッパゴム5の形状は、図1図2では側面が円錐または紡錘の一部形状で、上面と下面が平面形状であり、抑制面部材3の抑制面3aが略垂直の壁面である例としたが、このほかに以下のような構成が可能である。
【0028】
まず基本形態として、ストッパゴムの側面と抑制面の両方が垂直な面としても良い。この場合、ストッパゴムは概ね円柱形状となる。上下方向の荷重によってストッパゴムの側面は例えば上下の中央部が太く、上下端部が細いように不均一に変形するため、抑制面には太く膨らむ部分から順次当接して行くことになる。このように抑制の効果が連続的に進展することによって、ゴム定数が徐々に大きくなり、図3に例示するように緩やかに変位が進むため、衝撃の少ない乗り心地を得ることができるのである。
【0029】
かかる抑制の効果は、図3のグラフでは線Aの傾きや曲線形状として現れ、ストッパゴムの側面と抑制面の配置形状(間隔と傾き)によって種々設計することができる。より緩やかなばね定数の変化を実現するために、側面と抑制面の離間の間隔が上下方向に増加または減少するように構成されていると好ましい。ストッパゴムの側面が図1のような円錐形状や丸みを帯びた紡錘形状で、抑制面部材3の抑制面3aが略垂直の壁面でも良く、また、ストッパゴムの側面が略垂直な形状で、抑制面が、円錐または紡錘形状の一部側面をなす形状の壁面としても良く、それらの組み合わせでも良い。
【0030】
ストッパゴム5の上面は、ダイヤフラム4のデフレート時に上面板1との接触状態において水平方向には滑らかな方が好ましい。乗り心地が良い点と、ストッパゴムの破損が生じにくい点でメリットがあるからである。このため、上面が低摩擦の摺動材で覆われている方が良い。
【0031】
また、抑制面3aはストッパゴム5との接触部分が低摩擦の摺動材で覆われていることが破損防止の点で好ましい。すなわち、ストッパゴムが接した状態での接線方向の摩擦係数が抑制面部材そのものの表面よりも小さい材料で覆われることが好ましい。低摩擦の板材を表面に有することもできるが、より簡便には、抑制面をゴム以外の樹脂でコーティングすると良い。樹脂材料は、ポリエチレンやポリビニル、ナイロンなど特に限定されないが、低摩擦の点でポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂が好ましい。
【0032】
図4は、図1と同様の空気ばねにおいて内部ストッパとしてのストッパゴムを、積層ゴムにより構成された積層ストッパゴム50に置き換えた例である。積層ストッパゴム50は、中心を孔とする円盤形状の金属板である積層板50aと同じく厚みのある円盤形状である積層ゴム50bを複数枚積層した構造である。このような積層ストッパゴムは空気ばねの分野では既に多く用いられており、詳細構造は既知のものが用いられる。図5は、図4の空気ばねにおいてダイヤフラムがデフレートした状態を示している。上下荷重により、積層ストッパゴム50を構成する個々の積層ゴム50bが、それぞれ概ね均等に水平方向に変形する。積層ストッパゴムを用いる場合は、図1のようなゴム塊によるストッパゴムの場合に比べて、上下荷重により水平方向に膨らむ向きのゴムの変形量が少なく、個々の積層ゴム50b毎にほぼ均等に変形する事になる。そのため、抑制面部材3の抑制面を積層ゴムのそれぞれに近接して設けることが効果的である。また、抑制面部材3による抑制の効果を徐々に持たせるために、抑制面部材3の抑制面を若干傾けて設けたり、積層ゴムに合わせて階段状に拡がるように設けたりすることも可能である。
【0033】
図6から図8は、本発明のまた別な構成例を示す図である。図1に示した空気ばねとは大きく2つの点で構成が異なっている。1つは、内部ストッパであるストッパゴム5が予備圧縮されている点である。以下予備圧縮とその作用について説明する。
【0034】
図6を参照して、ストッパゴム5の上面板側になる上面には、圧縮板8が蓋をするように設けられている。この状態で、ストッパゴムは自由な状態であり、圧縮されていない。ここで、圧縮板8を下方に押し下げ、ストッパゴム5を一定量圧縮変形させた状態が図7である。なお、図6から図8において圧縮板の圧縮および固定構造を詳しくは図示していないが、既知の手段により、例えばボルトと抑え用の部品等を用いて圧縮され、その状態で固定される。圧縮荷重は例えば30k〜80kN、圧縮変位量は5〜35mm程度である。このような空気ばねは、図7のようにストッパゴム5が一定量圧縮された状態で用いられる。
【0035】
ここで、ダイヤフラム4がデフレート状態となった場合を図8により説明する。デフレートにより、上面板1が車体側荷重によって下方に下がり、圧縮板8を押し下げる。圧縮板8は、予備圧縮の荷重によりストッパゴム5から予め上方に力が加わっているため、その荷重までは車体はそれ以上沈下せず、当該荷重を超えた荷重に対してばねとして機能する。よって、デフレート時の車体の沈下量を抑制することが可能である。図8では予備圧縮された荷重を超えた荷重が加わり、圧縮板8が下面板2と接触した状態を示している。このように、当該空気ばねにあっては、図7の状態から図8の状態までが圧縮方向の変位幅となる。
【0036】
ここで、抑制面部材3の機能を説明する。予備圧縮前のストッパゴム5の無荷重状態では、ストッパゴム5の側面は抑制面3aとは離間している(図6)。予備圧縮状態においてストッパゴム5は一定量の変形をしており、この状態では、ストッパゴム5の側面の一部が抑制面3aと接触している。さらに、デフレート状態となると、ストッパゴム5の変形が進み、ストッパゴム5の側面と抑制面3aとの接触面積が増加する。このように車体の沈下による荷重の増加に伴って上下方向のばね定数が徐々に大きくなることで、乗り心地と走行安定性を得ることが可能となる。
【0037】
さらに本例では、圧縮板8をも抑制面部材として機能する形状にできることを示す。すなわち、本例において圧縮板8もストッパゴム5の側面に向き合うように抑制面8aを備えた抑制面部材となっており、デフレート時においてストッパゴム5に加わる荷重の変化に応じたストッパゴム5の形状の変化に応じて、図8のようにストッパゴム5の側面が抑制面8aに接触し、その抑制面8aとの接触面積が変化するように構成されている。
【0038】
2つ目の違いは、本例ではダイヤフラムの下面板2とさらに下方に設けられた狭持板6との間、すなわちダイヤフラム4の外部にさらに別のストッパゴムが設けられている点である。このようなストッパゴムは外部ストッパと呼ばれ、ダイヤフラムと直列にばねとして機能する。外部ストッパである積層ストッパゴム7は、積層ゴム7aと積層板7bを複数積層された例を示している。その他既知の構成を適用することもできる。
【0039】
図9図6から図8に示した空気ばねの特性を説明するグラフである。図9の横軸はストッパゴム全体、すなわち上面板1と狭持板6との間の上下方向の圧縮変位量Xを、縦軸は同じく上面板1と狭持板6との間に加わる圧縮荷重Pである。ダイヤフラムがデフレート状態となり、上面板1が圧縮板8の上面に接した位置を原点X=0として表している。上面板1からの垂直荷重P(すなわち車体側の重量)が圧縮板8に加わった状態で、内部ストッパであるストッパゴム5は予備圧縮荷重分の反力を持っているため、ストッパゴム5自体は変形せずに、その力は下面板を介して外部ストッパである積層ストッパゴム7に伝わる。よって、積層ストッパゴム7が変位を始める。荷重が予備圧縮の荷重P(変位X)に達すると、ストッパゴム5もばねとして機能し始め、変位を始めるため、全体のばね定数は小さくなる。ここで、抑制面部材3が無い場合を想定したものが図9での線Bの特性である。変位Xは、荷重の増加に伴って同じばね定数の延長で変化し、圧縮板8が下面板2に接触した時点(X)にて急激に変化して、元の積層ストッパゴム7のみの特性に戻る。したがって、この変化点において車体に衝撃が加わる。さてここで、本例では抑制面部材3がある場合の特性を線Aに示す。予備圧縮荷重を超えた後、ストッパゴム5の側面が抑制面3aに接触し始めると、ストッパゴム5のばね定数が次第に大きくなるため、圧縮板8が下面板2に接するまでの変位変化が斬減し、接触時の衝撃が緩和される。このように衝撃を緩和することによって車両乗客の乗り心地が大きく改善されると共に、走行安定性が確保される。なお、図7のように、予備圧縮時点で既にストッパゴム5の側面が抑制面3aに接している場合は、図9の特性グラフにおいては、XがXと一致する事になる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の空気ばねによれば、簡便な構造で乗り心地と車両走行の安定性を両立することが可能であり、鉄道車両等のように台車と車体との間をばねで支える構造の移動体、特に高速走行により直線走行時の横変位やカーブ走行時の遠心力による横変位に対応して安定性と乗り心地が求められるような移動体車両に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 上面板
2 下面板
3 抑制面部材
3a 抑制面
4 ダイヤフラム
5 ストッパゴム
50 積層ストッパゴム
50a 積層板
50b 積層ゴム
6 狭持板
7 積層ストッパゴム
7a 積層ゴム
7b 積層板
8 圧縮板
8a 抑制面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9