(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920022
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/22 20060101AFI20160428BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
B60T7/22
B60T17/18
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-118893(P2012-118893)
(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公開番号】特開2013-244800(P2013-244800A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 千眞
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−236936(JP,A)
【文献】
特開2003−072489(JP,A)
【文献】
特開2008−100603(JP,A)
【文献】
国際公開第01/034437(WO,A1)
【文献】
特開2003−276583(JP,A)
【文献】
特開平06−234342(JP,A)
【文献】
特開2009−241764(JP,A)
【文献】
特開平06−298075(JP,A)
【文献】
特開平10−147208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられた電源(5)に繋がる電源ライン(6)に接続され、該電源ライン(6)を通じて前記電源(5)からの電力供給に基づいて作動させられることで駐車ブレーキ力を発生させると共に、前記電源(5)からの電力供給を遮断した後にも発生させた前記駐車ブレーキ力を保持する自己保持能力を備えた電動駐車ブレーキ(2)と、
前記電動駐車ブレーキ(2)の作動を制御する電動駐車ブレーキ制御装置(4)と、
前記電源ライン(6)に備えられ、前記電源(5)から前記電動駐車ブレーキ制御装置(4)への電力供給のオンオフを制御する電源用スイッチ(7)と、
前記電動駐車ブレーキ(2)を少なくとも1回作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させる分の蓄電を行う蓄電器(9)と、
前記車両が衝突したことを検出する衝突検出手段(10)と、を有し、
前記衝突検出手段(10)にて前記車両が衝突したことが検出されたときに、前記電源用スイッチ(7)をオフして前記電源(5)からの電力供給を遮断し、前記蓄電器(9)からの電力供給に基づいて前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記電源は車載バッテリ(5)であり、前記蓄電器は前記車載バッテリ(5)に接続されたキャパシタ(9)であることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記蓄電器(9)の蓄電状態を検出する蓄電状態検出手段を有し、
前記蓄電状態検出手段にて前記蓄電状態が前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させるのに足りていることが検出されたときには、前記電源用スイッチ(7)をオフして前記電源(5)からの電力供給を遮断し、前記蓄電器(9)からの電力供給に基づいて前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記蓄電状態検出手段にて前記蓄電状態が前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させるのに足りないことが検出されたときには、前記電源用スイッチ(7)をオンのままとして、前記電源(5)からの電力供給に基づいて前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させたのち、前記電源用スイッチ(7)をオフして前記電源(5)からの電力供給を遮断することを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
車輪毎に備えられるホイールシリンダ内のブレーキ液圧を自動的に加圧することでサービスブレーキ力を発生させる自動加圧機能を有するサービスブレーキ(1)を有し、
前記衝突検出手段(10)にて前記車両が衝突したことが検出されたときには、前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させるのに加えて、前記サービスブレーキ(1)による前記自動加圧機能にて前記サービスブレーキ力を発生させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記蓄電器(9)は、前記電源ライン(6)に接続されることで前記電源(5)からの電力供給に基づいて蓄電を行い、
前記電源ライン(6)には前記電源用スイッチ(7)に加えて補助電源用スイッチ(8)が備えられ、前記補助電源用スイッチ(8)にて前記蓄電器(9)から前記電動駐車ブレーキ(2)への電力供給をオンオフさせられ、
前記蓄電器(9)からの電力供給に基づいて前記電動駐車ブレーキ(2)を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させたのち、前記補助電源用スイッチ(8)をオフすることで前記蓄電器(9)から前記電動駐車ブレーキ(2)への電力供給も遮断することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駐車ブレーキ(以下、EPB(Electric parking brake)という)を備えた車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が他車両などに衝突したとき、衝突後にEPBを自動的に駆動することで駐車ブレーキ力を発生させ、車両を停止させるようにした技術がある(特許文献1参照)。このように衝突後にEPBを自動的に駆動することで、ドライバがブレーキ操作を行わなくても車両を停止させることができ、安全性向上を図ることができる。しかしながら、衝突後にも電源が入った状態のままEPBを駆動することを前提としているため、火災や電気事故などが懸念される。
【0003】
これに対して、車両衝突後に、衝突後にも動作させておくべき所定の装置以外の電源を遮断しつつ、自動ブレーキをかけることで車両を停止させる技術がある(特許文献2参照)。このように電源を遮断することで火災や電気事故を防止しつつ、自動ブレーキをかけることで二次衝突を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−276583号公報
【特許文献2】特開平6−234342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、自動ブレーキ用の電源などについては遮断されないことになるため、火災や電気事故の可能性は残る。このため、自動ブレーキをかけた後に更に自動ブレーキ用の電源を遮断することも考えられるが、ブレーキ力の自己保持能力を有しているのか分からず、自動ブレーキをかけた後に自動ブレーキ用の電源を遮断できるのか不明である。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、車両の電気系統を速やかに遮断することができ、かつ、車両衝突後に自動的にブレーキ力を発生させつつ、そのブレーキ力を自己保持できるようにすることができる車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電源(5)に加えてEPB(2)を少なくとも1回作動させて駐車ブレーキ力を発生させる分の蓄電を行うことができる蓄電器(9)を備え、衝突検出手段(10)にて車両が衝突したことが検出されたときに、電源用スイッチ(7)をオフして電源(5)からの電力供給を遮断し、蓄電器(9)からの電力供給に基づいてEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させることを特徴としている。
【0008】
このように、EPB(2)を少なくとも1回作動させて駐車ブレーキ力を発生させる分の蓄電を行うことができる蓄電器(9)を備えるようにしている。これにより、車両衝突時に直ぐに電源(5)を遮断しても蓄電器(9)にてEPB(2)を作動させられるため、車両の電気系統を速やかに遮断することができ、かつ、蓄電器(9)からの電力供給に基づいて自動的にブレーキ力を発生させ、そのブレーキ力を自己保持できるようにすることが可能となる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、電源としては車載バッテリ(5)、蓄電器としては車載バッテリ(5)に接続されたキャパシタ(9)を挙げることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、蓄電器(9)の蓄電状態を検出する蓄電状態検出手段を備え、蓄電状態検出手段にて蓄電状態がEPB(2)を作動させるのに足りていることが検出されたときには、電源用スイッチ(7)をオフして電源(5)からの電力供給を遮断し、蓄電器(9)からの電力供給に基づいてEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させることを特徴としている。
【0011】
このように、蓄電状態がEPB(2)を作動させるのに足りている場合にのみ、電源用スイッチ(7)をオフして電源(5)からの電力供給を遮断し、蓄電器(9)からの電力供給に基づいてEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させるようにしても良い。
【0012】
この場合において、請求項4に記載したように、蓄電状態検出手段にて蓄電状態がEPB(2)を作動させるのに足りないことが検出されたときには、電源用スイッチ(7)をオンのままとして、電源(5)からの電力供給に基づいてEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させたのち、電源用スイッチ(7)をオフして電源(5)からの電力供給を遮断するようにすれば良い。
【0013】
請求項5に記載の発明では、車輪毎に備えられるホイールシリンダ内のブレーキ液圧を自動的に加圧することでサービスブレーキ力を発生させる自動加圧機能を有するサービスブレーキ(1)を有し、衝突検出手段(10)にて車両が衝突したことが検出されたときには、EPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させるのに加えて、サービスブレーキ(1)による自動加圧機能にてサービスブレーキ力を発生させることを特徴としている。
【0014】
このように、車両が衝突したと判定されたときに、サービスブレーキ(1)の自動加圧機能を用いてサービスブレーキ力を駐車ブレーキ力と同時に発生させるようにし、より制動力の早期確保が行えるようにしても良い。このようにすれば、衝突時により大きな制動力を発生させることが可能となり、車両が停止前の状態であればより速く停止させることが可能となる。
【0015】
請求項6に記載の発明では、蓄電器(9)は、電源ライン(6)に接続されることで電源(5)からの電力供給に基づいて蓄電を行い、電源ライン(6)には電源用スイッチ(7)に加えて補助電源用スイッチ(8)が備えられ、補助電源用スイッチ(8)にて蓄電器(9)からEPB(2)への電力供給をオンオフさせられ、蓄電器(9)からの電力供給に基づいてEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させたのち、補助電源用スイッチ(8)をオフすることで蓄電器(9)からEPB(2)への電力供給も遮断することを特徴としている。
【0016】
このように、蓄電器(9)からの電力供給に基づいてEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させ、車輪をロックさせたのち、補助電源用スイッチ(8)もオンからオフに切り替え、蓄電器(9)からの電力供給も停止してEPB(2)をシステムダウンさせるようにしている。これにより、車両の電気系統を速やかに遮断することができる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の回路構成を示した図である。
【
図2】EPB−ECU4が実行する衝突時の電源制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【
図3】キャパシタ9の蓄電状態が足りているときの衝突時のタイミングチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。
図1は、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の回路構成を示した図である。この図を参照して、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の構成について説明する。
【0020】
図1に示すように、車両用ブレーキ装置は、ドライバの踏力に基づいてサービスブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時などに車両の移動を規制するためのEPB2とを備えている。
【0021】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダルの踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダルの踏み込みに応じた踏力を倍力装置にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/CとW/Cとの間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータが備えられており、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0022】
アクチュエータを用いた各種制御は、ESC(Electronic Stability Control)−ECU3にて実行される。例えば、ESC−ECU3からアクチュエータに備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータに備えられる油圧回路を制御し、W/Cに伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータは、各車輪毎に、W/Cに対してM/C内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータは、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/Cを加圧できるようにしている。このアクチュエータの構成に関しては、従来より周知となっているため、ここでは詳細については省略する。
【0023】
一方、EPB2は、電動モータにてブレーキ機構を制御することで駐車ブレーキ力を発生させるものであり、EPB制御装置(以下、EPB−ECUという)4によって制御される。
【0024】
EPB2は、例えば電動モータの回転力を減速増幅するギア機構を有する減速装置と、減速装置にて減速増幅された電動モータの回転力を直動運動に変換する直動変換装置とを有し、直動変換装置にて変換された直動運動に基づいてブレーキパッドを移動させられる構成とされる。具体的には、電動モータを正回転駆動することによりブレーキパッドをブレーキディスクに当接させて押圧することで駐車ブレーキ力を発生させると共に、電動モータを逆回転駆動することによりブレーキパッドをブレーキディスクから離間させて前記駐車ブレーキ力を解除するように構成される。
【0025】
このように構成されたEPB2は、直動変換装置を構成するネジ機構における雄ネジ溝と雌ネジ溝との噛合いによる摩擦力により電動モータ停止後にもブレーキパッドを同じ位置に保持することができる。このため、EPB2は、駐車ブレーキ力を発生させた状態で電動モータを停止した場合には、その駐車ブレーキ力を保持することができる自己保持機能を有している。
【0026】
これらサービスブレーキ1を制御するESC−ECU3やEPB2を制御するEPB−ECU4の電源としては、車載バッテリ5が用いられている。車載バッテリ5に対してESC−ECU3やEPB−ECU4が接続されており、車載バッテリ5からの電力供給に基づいて、ESC−ECU3はアクチュエータに備えられた各種制御弁やモータを駆動し、EPB−ECU4はEPB2の電動モータを駆動する。
【0027】
車載バッテリ5からEPB−ECU4に対して電力供給を行う電源ライン6には、電源用スイッチ7と補助電源用スイッチ8とが備えられ、各スイッチ7、8をオンオフさせることで電源ライン6のオンオフを制御できるようになっている。電源用スイッチ7と補助電源用スイッチ8は、直列接続されており、電源用スイッチ7が車載バッテリ5側、補助電源用スイッチ8がEPB−ECU4側に配置されている。これら電源用スイッチ7および補助電源用スイッチ8は、EPB−ECU4からの制御信号に基づいてオンオフ制御が行えるようになっている。
【0028】
また、車載バッテリ5に対して補助電源を構成する蓄電器としてのキャパシタ9が並列接続されており、車載バッテリ5からの電力供給に基づいてキャパシタ9に蓄電が行われるようになっている。キャパシタ9は、車載バッテリ5からEPB−ECU4への電力供給が遮断されたときでも、EPB2を少なくとも1回作動して駐車ブレーキ力を発生させられる分の蓄電が行える容量で構成されている。
【0029】
具体的には、キャパシタ9は、電源用スイッチ7と補助電源用スイッチ8との間において電源ライン6に接続されており、電源用スイッチ7がオンされたときに充電されることで蓄電を行う。そして、電源用スイッチ7がオフ、補助電源用スイッチ8がオンされているときには、EPB−ECU4はキャパシタ9に蓄えられた電荷に基づく電力供給により、EPB2の電動モータを制御して駐車ブレーキ力を発生させることができる。
【0030】
なお、EPB−ECU4は、電力供給源となる車載バッテリ5の電圧(以下、バッテリ電圧という)を検出しいる。そして、バッテリ電圧が所定の閾値よりも高い状態であるか否かを判定することで、バッテリ電圧が低くてEPB2を作動させるのに足りないことを検出できるようになっている。
【0031】
さらに、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置には、加速度センサ10が備えられている。この加速度センサ10の検出信号をEPB−ECU4に入力しており、EPB−ECU4にて車両加速度を検出できるようにしている。車両衝突時には、車両の加速度が急激に変化する。このため、EPB−ECU4では、車両の加速度の急変を例えば車両加速度の変化速度が所定の閾値を超えたときに車両が衝突したと判定することができる。なお、車両加速度としては、車両前後方向の加速度と車両横方向の加速度が想定されるが、それぞれ前後加速度センサと横加速度センサで検出でき、ここでいう加速度センサ10にはいずれの加速度も含まれる。
【0032】
次に、上記のように構成された車両用ブレーキ装置の作動について説明する。
図2は、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置に備えられたEPB−ECU4が実行する衝突時の電源制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図を参照して、車両用ブレーキ装置の動作について説明する。
【0033】
まず、車両が衝突していない非衝突時には、通常のブレーキ動作が行われる。すなわち、サービスブレーキ1ではドライバのブレーキペダルの踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、そのブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる。また、ブレーキ時に車輪スリップが発生し得るときには、ESC−ECU3にて各種制御弁やモータが制御されることでアンチスキッド制御が実行され、車輪スリップが抑制されて車輪をロックから回避する。
【0034】
そして、車両衝突時には、加速度センサ10の検出信号に基づいて検出される車両加速度の変化速度が所定の閾値を超えることから、EPB−ECU4で車両が衝突したと判定される。この判定に基づいて、EPB−ECU4は
図2のフローチャートに示す処理を実行する。
【0035】
まず、ステップ100において、バッテリ電圧が所定の閾値よりも高い状態であるか否かを判定する。バッテリ電圧が所定の閾値よりも高い状態であるときには、キャパシタ9もEPB2を作動させるのに足りる程度に蓄電が為されている状態であると想定される。このため、ここで肯定判定されたときには、電源を遮断して車載バッテリ5からの電力供給を停止したとしても、キャパシタ9からの電力供給に基づいてEPB2を作動させることが可能な状況となっている。逆に、ここで否定判定されたときには、電源を遮断して車載バッテリ5からの電力供給を停止した場合に、キャパシタ9からの電力供給に基づいてEPB2を作動させることが困難な状況である可能性がある。そこで、ステップ100で肯定判定された場合にはステップ110〜130の処理を実行し、否定判定された場合にはステップ140〜150の処理を実行する。
【0036】
具体的には、ステップ100で肯定判定されたときには、ステップ110において電源を遮断することでエンジン系を含む各部のシステムダウンを行う。このとき、電源用スイッチ7をオンからオフに切り替えることで、車載バッテリ5からEPB−ECU5への電力供給も停止する。続いて、ステップ120においてキャパシタ9からの電力供給に基づいてEPB2を作動させて駐車ブレーキ力を発生させ、車輪をロックさせる。その後、ステップ130において補助電源用スイッチ8もオンからオフに切り替え、キャパシタ9からEPB−ECU4への電力供給も停止してEPB2をシステムダウンさせる。
【0037】
一方、ステップ100で否定判定されたときには、ステップ140において電源を遮断する前に、車載バッテリ5からの電力供給に基づいてEPB2を作動させることで駐車ブレーキ力を発生させ、車輪をロックさせる。その後、ステップ150において電源を遮断することでエンジン系を含む各部のシステムダウンを行うと共に、電源用スイッチ7および補助電源用スイッチ8をオンからオフに切り替え、車載バッテリ5やキャパシタ9からEPB−ECU4への電力供給も停止してEPB2もシステムダウンさせる。
【0038】
このように、バッテリ電圧に基づいてキャパシタ9の蓄電状態を検出し、蓄電状態がEPB2を作動させるのに足りるか否かを判定できるようにしている。そして、車両衝突時に蓄電状態が足りていれば、車載バッテリ5からエンジン系を含む各部への電力供給を直ぐに停止することで車両の電気系統を速やかに遮断することができるようにしつつ、キャパシタ9からの電力供給に基づいて確実にEPB2を作動させ、自動的に駐車ブレーキ力を発生させている。さらに、このとき発生させた駐車ブレーキ力は、キャパシタ9からの電力供給が停止した後でも、直動変換装置を構成するネジ機構における雄ネジ溝と雌ネジ溝との噛合いによる摩擦力によりブレーキパッドを同じ位置に保持することができるため、自己保持させられる。また、駐車ブレーキ力を発生させた後には、補助電源用スイッチ8をオフしてEPB2もシステムダウンさせるようにしているため、車両の電気系統を速やかに遮断することができる。
【0039】
また、車両衝突時に蓄電状態が足りていなければ、車載バッテリ5からの電力供給を直ぐに停止せずに、車載バッテリ5からの電力供給に基づいて確実にEPB2を作動させ、自動的に駐車ブレーキ力を発生させて、その駐車ブレーキ力を自己保持できるようにしつつ、その後に車載バッテリ5からの電力供給を停止して車両の電気系統を速やかに遮断することができるようにしている。
【0040】
このように、キャパシタ9の蓄電状態が足りているときにはキャパシタ9にてEPB2を作動させ、キャパシタ9の蓄電状態が足りていないときには車載バッテリ5にてEPB2を作動させるようにしている。これにより、キャパシタ9の蓄電状態にかかわらず確実にEPB2を作動させて停車が維持できるようにしつつ、できるだけ早い段階で電源を遮断することで車両の電気系統を速やかに遮断することもできる。
【0041】
図3は、キャパシタ9の蓄電状態が足りているときの衝突時のタイミングチャートを示した図である。この図に示されるように、所定の閾値を超えるほど大きな加速度が検出されると、それと同時に電源用スイッチ7がオンからオフに切替えられ、車載用バッテリ5からESC−ECU3への電力供給が停止される。これにより、サービスブレーキ1によるサービスブレーキ力が低下するため、車両に発生させられる制動力が低下していくことになる。
【0042】
しかし、このときには補助電源用スイッチ8はオンのままであるため、キャパシタ9からの電力供給に基づいてEPB2が作動させられる。これにより、駐車ブレーキ力が発生させられ、制動力が再び上昇させられていく。そして、EPB2の電動モータに流れるモータ電流が所定値に達すると、所望の駐車ブレーキ力が発生させられたとして、電動モータを停止させると共に、補助電源用スイッチ8がオンからオフに切り替えられる。このようにして、より早い段階で電源を遮断しつつ、キャパシタ9からの電力供給に基づいてEPB2を作動させて駐車ブレーキ力を発生させ、その駐車ブレーキ力を自己保持することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置によれば、車両衝突時に直ぐに電源を遮断することで車両の電気系統を速やかに遮断することができ、かつ、キャパシタ9からの電力供給に基づいて自動的にブレーキ力を発生させ、そのブレーキ力を自己保持できるようにすることが可能となる。そして、キャパシタ9の蓄電状態が足りていないときには、車載バッテリ5からの電力供給に基づいてEPB2を確実に作動させて、ブレーキ力を自己保持できるようにしつつ、その後は電源を遮断することで車両の電気系統を速やかに遮断することが可能となる。
【0044】
(他の実施形態)
上記実施形態では、キャパシタ9からの電力供給に基づいてEPB2を作動させることで駐車ブレーキ力を発生させるようにした。しかしながら、衝突時にサービスブレーキ力が発生させられている状況であるとは限らないため、車両が衝突したと判定されたときに、サービスブレーキ1の自動加圧機能を用いてサービスブレーキ力を駐車ブレーキ力と同時に発生させるようにし、より制動力の早期確保が行えるようにしても良い。このようにすれば、衝突時により大きな制動力を発生させることが可能となり、車両が停止前の状態であればより速く停止させることが可能となる。また、キャパシタ9の蓄電状態が足りていない場合には、車載バッテリ5からの電力供給に基づく作動を行えることから、その場合にのみサービスブレーキ1の自動加圧機能を用いるようにすることもできる。
【0045】
また、上記実施形態では、蓄電状態検出手段として、バッテリ電圧に基づいて蓄電器としてのキャパシタ9の蓄電状態を検出するものを例に挙げて説明したが、他の方法、例えばキャパシタ9の両端電圧から蓄電状態を検出したりしても良い。
【0046】
また、上記実施形態では、衝突検出手段として加速度センサ10を用いる場合について説明したが、例えば車載カメラの画像に基づいて車両の検出を行っても良い。また、加速度センサ10を用いる場合には、エアバッグ装置の加速度センサ10を用いたり、エアバッグ装置で車両の衝突を検知したときに、その旨を示す検出信号を車内LANなどを通じて送って貰うことで衝突検出を行っても良い。
【0047】
さらに、上記実施形態では、サービスブレーキ1を制御するESC−ECU3とEPB2を制御するEPB−ECU4とを別々のECUで構成する場合について説明したが、これらが一体化されていても良い。
【符号の説明】
【0048】
1…サービスブレーキ、2…EPB、3…ESC−ECU、4…EPB−ECU、5…車載バッテリ、6…電源ライン、7…電源用スイッチ、8…補助電源用スイッチ、9…キャパシタ、10…加速度センサ