特許第5920034号(P5920034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920034送信機、及びこれを搭載した移動体、信号処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920034
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】送信機、及びこれを搭載した移動体、信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 3/02 20060101AFI20160428BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H03M3/02
   H04B1/04 J
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-127621(P2012-127621)
(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公開番号】特開2013-254996(P2013-254996A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前畠 貴
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 一幸
【審査官】 北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−187298(JP,A)
【文献】 特開平02−214236(JP,A)
【文献】 特開2004−048703(JP,A)
【文献】 Tsai-Pi hung ,Jeremy Rode, Lawrence E. Larson, Peter M. Asbeck,Design of H-Bridge Class-D Power Amplifiers for Digital Pulse Modulation Transmitters,IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES,2007年12月,VOL.55, NO.12,PP.2845-2855
【文献】 Sung-Rok Yoon, Sin-Chong Park,All-Digital Transmitter Architecture based on Bandpass Delta-Sigma Modulator,Communications and Information Technology, 2009. ISCIT 2009. 9th International Symposium on,2009年 9月,pp.703-706
【文献】 Martin Schmidt,Stefan Heck,Ingo Dettmann,Dirk Wiegner, Wolfgang Templ,Continuous-Time Bandpass Delta-Sigma Modulator for a Signal Frequency of 2.2GHz,German Microwave Conference,2009,2009年 3月,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/00−11/00
H04B 1/04
IEEE Xplore
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波に送信信号が付加された変調波を送信する送信機であって、
前記変調波をデジタル信号処理によって生成する処理部と、
前記処理部によって生成されたデジタル変調波に対して、デジタル信号処理によってバンドパス型ΔΣ変調を行うバンドパス型ΔΣ変調器と、
前記バンドパス型ΔΣ変調器から出力された量子化信号を送信する送信部と、
前記搬送波の周波数を決定するとともに、前記変調波の周波数帯域が前記バンドパス型ΔΣ変調器が行うΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、前記バンドパス型ΔΣ変調器を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記搬送波の周波数の決定によって前記搬送波の周波数が変化しても、前記バンドパス型ΔΣ変調器のサンプリング周波数を変更することなく、決定された前記搬送波の周波数に応じて、前記変調波の周波数帯域が前記バンドパス型ΔΣ変調器が行うΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、前記バンドパス型ΔΣ変調器を制御する
ことを特徴とする送信機。
【請求項2】
前記変調波は、無線周波数の変調波である請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記搬送波の周波数は、前記バンドパス型ΔΣ変調器のサンプリング周波数の範囲内で設定される請求項1又は2に記載の送信機。
【請求項4】
揮発性の記憶部をさらに備え、
前記記憶部は、前記搬送波の周波数を示す周波数情報を記憶可能に構成されている請求項1〜のいずれか一項に記載の送信機。
【請求項5】
前記制御部は、予め定められた複数の周波数の中から周波数ホッピングによって前記搬送波の周波数を決定する機能をさらに備えている請求項1〜のいずれか一項に記載の送信機。
【請求項6】
前記記憶部は、前記複数の周波数情報、及び周波数ホッピングのホッピングパターンに関するパターン情報を記憶可能に構成されており、
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記複数の周波数情報、及び前記パターン情報を参照することで前記搬送波の周波数を決定する請求項に記載の送信機。
【請求項7】
情報を送信する送信部を備えた移動可能な移動体であって、
前記送信部は、請求項1〜に記載の送信機であることを特徴とする移動体。
【請求項8】
搬送波に送信信号が付加された変調波をデジタル信号処理によって生成する処理部と、
前記処理部によって生成されたデジタル変調波に対してデジタル信号処理によってバンドパス型ΔΣ変調を行うバンドパス型ΔΣ変調器と、
前記搬送波の周波数を決定するとともに、前記変調波の周波数帯域が前記バンドパス型ΔΣ変調器が行うΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、前記バンドパス型ΔΣ変調器を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記搬送波の周波数の決定によって前記搬送波の周波数が変化しても、前記バンドパス型ΔΣ変調器のサンプリング周波数を変更することなく、決定された前記搬送波の周波数に応じて、前記変調波の周波数帯域が前記バンドパス型ΔΣ変調器が行うΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、前記バンドパス型ΔΣ変調器を制御する
ことを特徴とする信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機、及びこれを搭載した移動体、信号処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ΔΣ変調は、オーバサンプリング変調の一種であり、一般的には、AD変換又はDA変換に用いられている技術であり、信号伝送等に用いられる(非特許文献1参照)。
ΔΣ変調では、信号帯域内の量子化雑音を、信号帯域外に移動させて、信号帯域内の量子化雑音を大きく低下させるノイズシェイピング(Noise Shaping)が行われる。
【0003】
ここで、「ΔΣ変調」という用語は、多くの場合、ローパス型ΔΣ変調を指す。
ローパス型ΔΣ変調では、低い周波数の量子化雑音が、より高い周波数側に移動して、低い周波数の量子化雑音が減衰するようノイズシェイピングされる。つまり、ローパス型Δ変調では、雑音伝達関数は、低周波数(0Hz付近)において、通過雑音を阻止する特性を有している。
【0004】
ΔΣ変調としては、ローパス型ΔΣ変調以外に、雑音伝達関数が、0Hzよりも大きい周波数において通過雑音を阻止するバンドパス型ΔΣ変調もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】和保 孝雄、安田 明 監訳(原著者 Richard Schreier, Gabor C. Temes)ΔΣ型アナログ/デジタル変換器入門(Understanding Delta-Sigma Data Converters)、丸善株式会社、2007,pp1−17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1によれば、ローパス型ΔΣ変調器のz領域モデルに対して、z→−zの変換を行うことで、ローパス型ΔΣ変調器を、バンドパス型ΔΣ変調器に変換できる。
【0007】
しかし、z→−zの変換式を用いても、サンプリング周波数fsの1/4の周波数で動作するfs/4バンドパス型ΔΣ変調器(量子化雑音阻止帯域の中心周波数fがfs/4であるバンドパス型ΔΣ変調器)しか得られない。
つまり、z→−zの変換式を用いて得たバンドパス型ΔΣ変調器は、処理対象の信号の帯域の中心周波数fが、サンプリング周波数fsの1/4の周波数であるものに限られる。
【0008】
そして、非特許文献1には、サンプリング周波数fsの1/4の周波数以外の周波数f用のバンドパス型ΔΣ変調器の構造は全く開示されていない。
このため、例えば、無線周波数の搬送波の送信にバンドパス型ΔΣ変調器を用いようとしても、上記バンドパス型ΔΣ変調器では、上記のように、処理対象となる周波数が制限されるので、任意の搬送波周波数での信号送信を行うことができない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、所望の搬送波周波数の変調波にバンドパス型ΔΣ変調を行うことができる送信機、及びこれを搭載した移動体、信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための本発明は、搬送波に送信信号が付加された変調波を送信する送信機であって、前記変調波に対してバンドパス型ΔΣ変調を行うバンドパス型ΔΣ変調器と、前記バンドパス型ΔΣ変調器から出力された量子化信号を送信する送信部と、前記変調波の周波数帯域が前記バンドパス型ΔΣ変調器が行うΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、前記バンドパス型ΔΣ変調器を制御する制御部と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
上記構成の送信機によれば、変調波の周波数帯域がΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、制御部がバンドパス型ΔΣ変調器を制御するので、所望の搬送波周波数の変調波にバンドパス型ΔΣ変調を行うことができる。
また、本発明の送信機によれば、制御部が、変調波の周波数帯域がΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、バンドパス型ΔΣ変調器を制御するので、送信部は、周波数変換することなく、ΔΣ変調器が出力する量子化信号から変調波を取り出して送信することができる。
【0012】
(2)(3)上記送信機において、前記送信信号は、無線周波数の変調波であることが好ましい。
また、前記制御部は、前記搬送波の周波数を決定する機能をさらに備えていることが好ましい。この場合、搬送波の周波数の決定、及び、これに応じたΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域の中心周波数の制御を制御部にて集約して行うことができる。
【0013】
(4)なお、前記搬送波の周波数は、前記バンドパス型ΔΣ変調器のサンプリング周波数の範囲内で設定されることが好ましい。
【0014】
(5)上記搬送波の周波数が第三者に認知されると、通信の傍受等、通信の秘匿性を著しく低下させる。このため、上記送信機において、揮発性の記憶部をさらに備え、前記記憶部は、前記搬送波の周波数を示す周波数情報を記憶可能に構成されていてもよい。
この場合、記憶部に供給される電力が絶たれると、記憶されていた周波数情報が消去されるので、例えば、リバースエンジニアリングによって、周波数情報が認知されるのを極力防止でき、通信の秘匿性を維持することができる。
【0015】
(6)また、上記送信機において、前記制御部は、予め定められた複数の周波数の中から周波数ホッピングによって前記搬送波の周波数を決定する機能をさらに備えていることが好ましい。
上記送信機において、送信部は、周波数変換することなくΔΣ変調器が出力する量子化信号から変調波を取り出して送信することができるので、制御部が搬送波の周波数を決定することでその設定の自由度が高められる。これにより、より広範な範囲の中から前記複数の周波数情報を設定することができる。この結果、例えば、搬送波の周波数の設定にその設定帯域幅が制限されるVCOを用いた場合と比較して、搬送波の周波数をより広帯域に拡散させることができ、耐障害性が高く、かつ通信の秘匿性に優れた周波数ホッピングを実現することができる。
【0016】
(7)さらに、前記複数の周波数情報、及び周波数ホッピングのホッピングパターンに関するパターン情報を記憶可能に構成された揮発性の記憶部を更に備えている場合には、前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記複数の周波数情報、及び前記パターン情報を参照することで前記搬送波の周波数を決定するものであってもよい。
この場合も上記同様、記憶部に供給される電力が絶たれると、記憶されていた複数の周波数情報及びホッピングパターンが消去されるので、通信の秘匿性を維持することができる。
【0017】
(8)また、本発明は、情報を送信する送信を備えた移動可能な移動体であって、前記送信は、上記(1)〜(7)に記載の送信機であることを特徴としている。
(9)また、本発明に係る信号処理装置は、搬送波に送信信号が付加された変調波に対してバンドパス型ΔΣ変調を行うバンドパス型ΔΣ変調器と、前記変調波の周波数帯域が前記バンドパス型ΔΣ変調器が行うΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、前記バンドパス型ΔΣ変調器を制御する制御部と、を備えていることを特徴としている。
上記構成の移動体及び信号処理装置によれば、情報送信において、所望の搬送波周波数の変調波にバンドパス型ΔΣ変調を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所望の搬送波周波数の変調波にバンドパス型ΔΣ変調を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る送信機を示すブロック図である。
図2】ΔΣ変調器の構成図である。
図3】1次ローパス型ΔΣ変調器である。
図4】1次ローパス型ΔΣ変調器から変換して得られた2次バンドパス型ΔΣ変調器である。
図5】変調処理部における信号の周波数変換機能を説明するための図である。
図6】(a)は、周波数ホッピングを適用したときのΔΣ変調器による出力の周波数スペクトルの波形図の一例であり、(b)は、(a)における搬送波周波数近傍の帯域を拡大した図である。
図7】本実施形態の送信機を搭載した、遠隔制御によって操縦可能な飛行機を示す図である。
図8】VCOを用いた無線送信機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
[1.システム構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る送信機1を示すブロック図である。この送信機1は、デジタル信号処理部21と、アナログフィルタ32と、アナログフィルタ32に接続された増幅器33と、増幅器33の出力端に接続された送信用アンテナ34とを有している。
【0022】
デジタル信号処理部21は、搬送波を用いる帯域伝送方式のアナログ信号(変調波)であるRF(Radio Frequency)信号を表現するデジタル信号(1bit量子化信号:1bitパルス列)を出力する。RF信号は、無線波として空間に放射されるべき送信信号であり、例えば、移動体通信のためのRF信号、テレビ/ラジオなどの放送サービスのためのRF信号である。
【0023】
デジタル信号処理部21による出力は、アナログフィルタ(バンドパスフィルタ又はローパスフィルタ)32に与えられる。1bitパルス列が表現するアナログ信号は、RF信号以外のノイズ成分も含んでいる。そのノイズ成分は、アナログフィルタ32によって除去される。
1bitパルス列は、アナログフィルタ32を通過するだけで、純粋なアナログ信号となる。
アナログフィルタ32から出力されるアナログRF信号は、送信用アンテナ34に与えられて空間に放射される。なお、送信用アンテナ34が、アナログフィルタ32としての機能を有していてもよい。
【0024】
アナログフィルタ32として、バンドパスフィルタを用いるか、ローパスフィルタを用いるかは、RF信号の周波数によって、適宜決定される。
なお、デジタル信号処理部21が、バンドパス型ΔΣ変調によって信号変換を行う場合には、アナログフィルタ32としてバンドパスフィルタが用いられ、ローパス型ΔΣ変調によって信号変換を行う場合には、アナログフィルタ32としてローパスフィルタが用いられる。
【0025】
デジタル信号処理部21とアナログフィルタ32との間の信号伝送路4は、回路基板に形成された信号配線であってもよいし、光ファイバー又は電気ケーブルなどの伝送線路であってもよい。また、信号伝送路4は、1bitパルス列を送信するための専用線である必要は無く、インターネットなどのパケット通信を行う通信ネットワークであってもよい。パケット通信を行う通信ネットワークを信号伝送路4として用いる場合、送信側(デジタル信号処理部21側)は、1bitパルス列を、ビット列に変換して、信号伝送路4に送信し、受信側(アナログフィルタ32側)が、受信したビット列を元の1bitパルス列に復元すればよい。
【0026】
デジタル信号処理部21は、信号伝送路4に対して、1bitパルス列を送信する送信機とみなすことができる。この場合、アナログフィルタ32を有する装置は、RF信号の受信機とみなすことができる。
【0027】
デジタル信号処理部21は、送信信号であるベースバンド信号(IQ信号)を出力するベースバンド部23と、ベースバンド信号の変調等を行う処理部24と、ΔΣ変調器25と、制御部35と、記憶部36とを備えている。
【0028】
ベースバンド部23は、IQベースバンド信号(I信号、Q信号それぞれ)をデジタルデータとして出力する。
処理部24は、IQベースバンド信号に対してデジタル直交変調などの処理を行う。したがって、処理部24からは、多ビットのデジタルデータ(離散値)によって表現されたデジタル信号形式の信号が出力される。
なお、処理部24における変調は、直交変調に限らず、変調波を生成するための他の方式の変調であってもよい。
処理部24は、直交変調のほか、DPD(Digital Pre-distortion)、CFR(Crest Factor Reduction)、DUC(Digital Up Conversion)などの様々なデジタル信号処理を施す。処理部24からは、上述のような各種のデジタル信号処理によって生成されたRF信号が出力される。
【0029】
処理部24は、IQベースバンド信号を直交変調する上で当該IQベースバンド信号を搬送波に重畳(付加)するが、このときの搬送波周波数fは、後述するように制御部35の制御に基づいて設定される。つまり、処理部24からは、搬送波周波数fのデジタルのRF信号が出力される。
【0030】
なお、本実施形態では、処理部24が搬送波周波数fへの周波数変換を行う構成としたが、処理部24と、ΔΣ変調器25との間に、信号周波数を変換するための周波数変換部を設ける構成としてもよい。この場合、処理部24は、所定の中間周波数のデジタル信号を生成し、前記周波数変換部が、制御部35の制御に基づいて中間周波数のデジタル信号の周波数変換を行い、搬送波周波数fのデジタルのRF信号を出力する。
【0031】
処理部24から出力されるデジタルRF信号は、バンドパス型ΔΣ変調器(変換器25)に与えられる。なお、変換器25は、ローパス型ΔΣ変調器であってもよいし、PWM変調器であってもよい。
【0032】
ΔΣ変調器25は、入力信号であるRF信号に対して、ΔΣ変調を行って1bitの量子化信号(1bitパルス列)を出力する。ΔΣ変調器25から出力された1bitパルス列は、デジタル信号であるが、アナログRF信号を表現したものとなっている。
ΔΣ変調器25から出力された1bitパルス列は、デジタル信号処理部21の出力信号として、デジタル信号処理部21から信号伝送路4へ出力される。
【0033】
ΔΣ変調器25が出力する量子化信号が信号伝送路4を通じてアナログフィルタ32に与えられると、アナログフィルタ32は、アナログのRF信号を出力する。
アナログフィルタ32が出力するアナログのRF信号は、増幅器33を経て送信用アンテナ34に到達し、放射される。
よって、アナログフィルタ32、増幅器33、及び送信用アンテナ34は、ΔΣ変調器25から出力された量子化信号をアナログのRF信号として送信する送信部を構成している。
【0034】
制御部35は、後述する搬送波周波数の制御などの制御機能を有しており、デジタル信号処理部21における各部、及びアナログフィルタ32を制御する。
記憶部36は、制御部35や、処理部24、ΔΣ変調器25、アナログフィルタ32がアクセス可能である。記憶部36は、後述する搬送波周波数の制御に必要な情報が記憶可能に構成されている。
制御部35及び記憶部36の機能については、後に詳述する。
【0035】
[2.ΔΣ変調器について]
図2に示すように、ΔΣ変調器25は、ループフィルタ27と、量子化器28と、を備えている(非特許文献1参照)。
図2に示すΔΣ変調器25は、入力(本実施形態では、RF信号)Uが、ループフィルタ27に与えられる。ループフィルタ27の出力Yは、量子化器(1bit量子化器)28に与えられる。量子化器28の出力(量子化信号)Vは、ループフィルタ27への他の入力として与えられる。
【0036】
ΔΣ変調器25の特性は、信号伝達関数(STF;Signal Transfer Function)及び雑音伝達関数(NTF;Noise Transfer Function)によって表すことができる。
つまり、ΔΣ変調器25の入力をUとし、ΔΣ変調器25の出力をVとし、量子化雑音をEとしたときに、ΔΣ変調器25の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
【数1】
【0037】
したがって、所望のNTFとSTFとが与えられると、ループフィルタ27の伝達関数を得ることができる。
【0038】
図3は、1次ローパス型ΔΣ変調器125の線形z領域モデルのブロック図を示している。符号127がループフィルタの部分を示し、符号128が量子化器を示している。このΔΣ変調器125への入力をU(z)とし、出力をV(z)とし、量子化雑音をE(z)としたときに、ΔΣ変調器125の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
V(z)=U(z)+(1−z−1)E(z)
【0039】
つまり、図3に示す1次ローパス型ΔΣ変調器125において、信号伝達関数STF(z)=1であり、雑音伝達関数NTF(z)=1−z−1である。
【0040】
非特許文献1によれば、ローパス型ΔΣ変調器に対して、以下の変換を行うことで、ローパス型ΔΣ変調器を、バンドパス型ΔΣ変調器に変換できる。
【数2】
【0041】
上記変換式に従って、ローパス型ΔΣ変調器125のz領域モデルにおけるzを、z’=−zに置き換えることでバンドパス型ΔΣ変調器が得られる。
【0042】
上記変換式を用いると、n次のローパス型ΔΣ変調器(nは1以上の整数)を、2n次のバンドパス型Σ変調器に変換できる。
【0043】
本発明者は、ローパス型ΔΣ変調器から、所望の周波数f(θ=θ)を、中心周波数fとして持つバンドパス型ΔΣ変調器を得るための変換式を見出した。当該変換式は、例えば、次の式(3)に示す通りである。
【数3】

ここで、
θ=2π×(f/fs) fsはΔΣ変調器のサンプリング周波数。
【0044】
式(2)の変換式では、特定の周波数θ=π/2に関するものであったが、式(3)の変換式では、任意の周波数(θ)に一般化されている。
【0045】
図4は、図3に示す1次ローパス型ΔΣ変調器125を、式(3)の変換式で変換して得られた2次バンドパス型ΔΣ変調器25を示している。
なお、図3から図4への変換では、表記の便宜上、式(3)において、a=cosθとおいた下記の変換式を用いた。
【数4】
【0046】
なお、バンドパス型ΔΣ変調器への変換は、その他の高次ローパス型ΔΣ変調器(例えば、非特許文献1記載のCIFB構造、CRFF構造、CIFF構造など)に対しても適用できる。
【0047】
ΔΣ変調器25は、前述の式(3)に基づいて、zの値が変換可能となっている。つまり、ΔΣ変調器25は、量子化雑音阻止帯域の中心周波数を変更可能となっている。換言すると、量子化雑音阻止帯域が変更可能となっている。
【0048】
制御部35は、ΔΣ変調器25に入力される信号の中心周波数(デジタルRF信号の搬送周波数f)に応じて、前述の式(3)に基づいてΔΣ変調器25のzを変換することにより、任意の周波数の信号に対して、バンドパス型ΔΣ変調が行える。
このように、RF信号の搬送周波数fに応じて、上記変換式(3)におけるcosθ(係数a)を変更することで、サンプリング周波数fsを変更することなく、任意の周波数fに対応したバンドパスΔΣ変調が行える。cosθを変更すると、式(1)に示すNTFの係数が変更されたことになるが、式の次数は維持される。このため、RF信号の搬送波周波数fに応じて、バンドパス型ΔΣ変調器25の構成を変化させても、式の複雑度(次数)は変化せず、したがって、バンドパス型ΔΣ変調器25における信号処理負荷も変化しない。
【0049】
このように本実施形態では、搬送波周波数fを変化させても、バンドパス型ΔΣ変調器25における信号処理負荷が変化しないため有利である。本実施形態において、バンドパス型ΔΣ変調器25における信号処理負荷は、ナイキストの定理により、信号帯域幅によって決定されるサンプリング周波数fsに依存するが、搬送波周波数fを変化させても信号帯域幅が変化するわけではないためサンプリング周波数fsを変更する必要はない。なお、ΔΣ変調器がローパス型である場合、搬送波周波数fの変化に対応するには、サンプリング周波数fsを変更する必要があり、この点において、バンドパス型が有利である。
【0050】
また、式(3)を利用すると、ΔΣ変調器25を任意の周波数(f)に対応できるバンドパス型ΔΣ変調器として利用できるだけでなく、ローパス型ΔΣ変調器として利用することもできる。つまり、ΔΣ変調器25は、ローパス型とバンドパス型とに切り替え可能となっている。
【0051】
以上のように、制御部35と、バンドパス型ΔΣ変調器25とは、所望の搬送波周波数の変調波に対してバンドパス型ΔΣ変調を行うことができる信号処理装置を構成している。
【0052】
[3.搬送波周波数の制御について]
制御部35は、上述のように、ΔΣ変調器25による量子化雑音阻止帯域の中心周波数を変更し制御する機能を有している他、アナログフィルタ32の中心周波数、及び通過帯域を制御する機能も有している。
また、制御部35は、搬送波周波数fを決定するとともに、処理部24を制御し、処理部24から出力されるデジタルRF信号の搬送波周波数fを調整する機能を有している。
【0053】
記憶部36には、制御部35が決定する搬送波周波数fを示す情報である周波数情報が記憶されている。
制御部35は、処理部24に記憶部36を参照させて、当該制御部35が決定した搬送波周波数fを示す周波数情報を取得させる。処理部24は、記憶部36から搬送波周波数fを示す周波数情報を取得すると、これに基づいて直交変調を行う。
【0054】
図5は、処理部24におけるIQベースバンド信号の直交変調に関する機能を説明するための図である。図に示すように、IQベースバンド信号が与えられる処理部24は、I成分に搬送波周波数fの余弦波を乗算する第1乗算器24aと、Q成分に搬送波周波数fの正弦波を乗算する第2乗算器24bと、これら両成分を加算する加算器24cとを備えている。
処理部24は、直交変調の際にIQベースバンド信号の各成分ごとに搬送波周波数fの信号波を重畳することで、搬送波周波数fのデジタルRF信号を出力する。
以上のようにして、制御部35は、処理部24を制御し、当該処理部24が出力するデジタルRF信号の搬送波周波数fを設定する。
【0055】
また、制御部35は、ΔΣ変調器25に記憶部36を参照させて、当該制御部35が設定した搬送波周波数fを示す周波数情報を取得させ、搬送波周波数fであるRF信号の周波数帯域がΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、ΔΣ変調器25を制御する。
ΔΣ変調器25は、記憶部36から周波数情報を取得すると、量子化雑音阻止帯域の中心周波数が、搬送波周波数fとなるように調整する。これによって、搬送波周波数fとされたRF信号は、ΔΣ変調器25のΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含められる。
制御部35は、アナログフィルタ32についても、ΔΣ変調器25と同様に、記憶部36を参照させて、当該制御部35が設定した搬送波周波数fを示す周波数情報を取得させて制御する。
【0056】
図1を参照して、制御部35は、搬送波周波数fを決定すると、処理部24、ΔΣ変調器25、及びアナログフィルタ32を制御し、決定した搬送波周波数fに基づいた処理を実行させる。
つまり、制御部35は、決定した搬送波周波数fに基づいて、処理部24が出力するRF信号が搬送波周波数fとなるように調整する。また、制御部35は、ΔΣ変調器25における量子化雑音阻止帯域の中心周波数が搬送波周波数fとなるように調整する。さらに、制御部35は、アナログフィルタ32の中心周波数及び通過帯域を搬送波周波数fのRF信号を取り出し可能に調整する。
【0057】
以上のように、制御部35は、搬送波周波数fを所望の値に決定するとともに、決定した搬送波周波数fに基づいて処理部24、ΔΣ変調器25、及びアナログフィルタ32を制御して、任意の搬送波周波数のRF信号をアンテナ34から送信することができる。
【0058】
上記構成の送信機1によれば、搬送波周波数fであるRF信号がΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、制御部35がΔΣ変調器25を制御するので、所望の搬送波周波数の変調波としてのRF信号にバンドパス型ΔΣ変調を行うことができる。
【0059】
ここで、RF信号を送信する送信機では、一般に、VCO(Voltage Controlled Oscilator:電圧制御発振器)を用いて無線周波数の搬送波を生成する。
図8は、VCOを用いた無線送信機の構成を示すブロック図である。この送信機は、ベースバンド信号をデジタル処理するためのデジタル信号処理部100を備えている。デジタル信号処理部100が出力するデジタル信号は、デジタルアナログコンバータ101によってアナログ信号に変換される。変換されたアナログ信号は、VCO(Voltage Controlled Oscilator:電圧制御発振器)102が供給する搬送波が重畳されることで周波数変換される。周波数変換されたアナログ信号は、RF信号としてアンプ103によって増幅され、アンテナ104から空間に放射される。
上記送信機のように、RF信号を得るためにVCOを用いると、搬送波周波数として使用可能な周波数帯域が、VCOによって発振可能な周波数に制限されてしまう。
【0060】
この点、本実施形態の送信機1によれば、搬送波周波数fであるRF信号がΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域に含まれるように、制御部35がΔΣ変調器25を制御するので、送信部としての後段に接続されたアナログフィルタ32や送信用アンテナ34において、周波数変換することなく、ΔΣ変調器からの量子化信号からRF信号を取り出して送信することができる。よって、VCOを用いる必要がなく、搬送波周波数fの設定の自由度を高めることができる。
つまり、本実施形態の送信機1は、デジタル信号処理部21によるデジタル処理によって搬送波周波数fのRF信号を生成し、生成したRF信号を周波数変換することなく送信するので、VCOを用いる必要がない。この結果、VCOによって発振可能な周波数に制限されることなく、搬送波周波数fの設定の自由度を高めることができる。
【0061】
また、本実施形態の制御部35は、搬送波周波数fを決定する機能を備えているので、搬送波周波数fの決定、及び、これに応じたバンドパス型ΔΣ変調の量子化雑音阻止帯域の中心周波数の制御を制御部にて集約して行うことができる。
【0062】
[4.周波数ホッピングについて]
本実施形態の送信機1は、周波数ホッピングによって搬送波周波数fを決定する機能を備えている。
制御部35は、搬送波周波数fを決定するために、記憶部36に記憶されている情報を参照する。
図1のように、記憶部36には、搬送波周波数fを決定するために必要な情報として、複数の周波数情報と、これら複数の周波数情報を用いて周波数ホッピングを実行する際のホッピングパターンとが記憶されている。
【0063】
複数の周波数情報は、周波数ホッピングを適用する際に逐次変更するために予め定められた搬送波周波数fを示す情報である。複数の周波数情報は、送信機1が搬送波周波数fとして設定可能な周波数範囲の中から、互いに異なる周波数となるように設定されている。
制御部35は、複数の周波数情報の中から一つの周波数情報を、搬送波周波数fとして選択、決定し、処理部24、ΔΣ変調器25、及びアナログフィルタ32を制御することで周波数ホッピングを実行する。
【0064】
ホッピングパターンは、複数の周波数情報が、周波数ホッピングを適用する際に逐次変更すべき複数の周波数情報を選択するためのパターンに対応づけられて登録されたものである。
制御部35は、搬送波周波数fを決定する際、記憶部36に格納されたホッピングパターンを参照する。制御部35は、ホッピングパターンに基づいて、複数の周波数情報の中から一つの周波数情報を選択し、搬送波周波数fを決定する。
制御部35は、ホッピングパターンにしたがって搬送波周波数fの決定を逐次行う。これによって、送信機1は、周波数ホッピングが適用された送信信号を送信する。
【0065】
なお、複数の周波数情報及びホッピングパターンは、予め定められており、送信機1による送信信号を受信する受信機との間で共有されている。
複数の周波数情報及びホッピングパターンを共有することで、前記受信機は、送信機1が送信する周波数ホッピングが適用された送信信号を受信することができる。
【0066】
本実施形態の送信機1は、上述のように、VCOを用いることなく搬送波周波数fを調整することができる。よって、搬送波周波数fがVCOにより発振可能な周波数の範囲に制限されることがない。
VCOが発振可能な信号周波数の上限は一般に5GHz程度であるため、上記従来の送信機では、5GHz程度の帯域内でホッピングのための周波数情報を設定する必要がある。
【0067】
一方、本実施形態の送信機1では、VCOを用いることなく、デジタル信号処理部21から出力された量子化信号を周波数変換することなくアナログフィルタ32及びアンテナ34等を介してRF信号として放射する。
放射されるRF信号の搬送波周波数fは、デジタル信号処理部21が備える処理部24によって、デジタル処理によって調整される。
したがって、搬送波周波数fは、デジタル信号処理部21が発生可能な周波数の範囲で調整することができる。デジタル信号処理部21を構成しているデジタル回路が発生可能な周波数は、VCOの一般的な上限である5GHz程度よりも高く、搬送波周波数fは、VCOを用いた場合よりも広帯域の範囲で設定することができる。
【0068】
ただし、周波数情報が示す搬送波周波数fは、ΔΣ変調器25のサンプリング周波数fsの範囲内で設定される。搬送波周波数fが、ΔΣ変調器25のサンプリング周波数fsを超えると、量子化信号から得られるRF信号が精度良く再現されないおそれがあるからである。
【0069】
図6(a)は、周波数ホッピングを適用したときのΔΣ変調器25による出力の周波数スペクトルの波形図の一例である。図例では、0Hz〜6GHzの範囲の内、搬送波周波数fは、図中、ひし形のマーク1で示す周波数位置である800MHzに設定されている。つまり、800MHzにおいて見られる電力ピーク部分は、信号が重畳されているRF信号の周波数である。
搬送波周波数fに応じて、ΔΣ変調器25の量子化雑音阻止帯域の中心周波数も800MHzに設定されている。このため、800MHzにおいて見られる帯域の両側には、極端に電力値が低下している部分が見られる。
なお、他の部分においても、電力ピーク部分が見られるが、これらは、800MHzにおいて重畳されているRF信号の高調波が現れたものである。
【0070】
図6(b)は、図6(a)における搬送波周波数f近傍の帯域を拡大した図である。図において、800MHzを中心に信号(RF信号)が重畳されている。
図6では、RF信号の搬送波周波数fを800MHzに設定した場合を例示したが、図6(a)に現れている高調波を利用して搬送波周波数fを設定することもできるし、搬送波周波数fを、例えば、6GHzまでの範囲で任意の周波数に設定することもできる。また、より高い周波数を発生可能な場合、図6に示す帯域よりもさらに広い帯域内から設定することもできる。
【0071】
このように、周波数ホッピングによって搬送波周波数fを決定する制御部35は、搬送波周波数fの設定の自由度が高められ、より広範囲の周波数帯域から搬送波周波数fを設定することができることによって、より広範な範囲の中から複数の周波数情報を設定することができる。この結果、搬送波周波数の設定範囲が制限されるVCOを用いた場合と比較して、搬送波周波数fをより広帯域に拡散させることができ、耐障害性が高く、かつ通信の秘匿性に優れた周波数ホッピングを実現することができる。
さらに、搬送波周波数fをより広帯域に拡散させることができるので、多重化したとしても帯域の重複の可能性が低く、多ユーザでの利用が容易となる。
【0072】
[5.他の実施形態について]
上記実施形態では、制御部35が周波数ホッピング適用のために用いる複数の周波数情報及びホッピングパターンを記憶部36に記憶した場合を例示したが、これら複数の周波数情報及びホッピングパターンは、第三者に認知されてしまうと、通信の秘匿性が維持できなくなる重要な情報である。
そこで、複数の周波数情報及びホッピングパターンが、第三者に認知されてしまうのを防止するために、記憶部36を、電力の供給が絶たれると記憶している情報が消去される揮発性の記憶部によって構成してもよい。記憶部36は、複数の周波数情報及びホッピングパターンを記憶可能に構成されている。
【0073】
図8に示す送信機のように、VCOを用いた場合、VCOがアナログ回路なので、周波数ホッピングを実現するには、VCOを含むハードウェアの調整や設定が必要となる。このため、リバースエンジニアリングによって、第三者に周波数情報やホッピングパターンが認知されるおそれがある。
【0074】
この点、本実施形態では、デジタル信号処理部21が、RF信号の搬送波周波数fを決定し、調整することができるので、デジタル処理の中でRF信号の搬送波周波数fの決定及び調整を行うことができる。
したがって、複数の周波数情報及びホッピングパターンが外部から与えられて記憶部36(図1)に情報として記憶しておけば、制御部35は、ハードウェアの調整等を行うことなく、記憶された情報に基づいて周波数ホッピングを行うことができる。また、この記憶部36を揮発性の記憶部によって構成したとしても、制御部35は、同様に周波数ホッピングを行うことができる。
【0075】
ここで、本実施形態では、記憶部36が上述の揮発性の記憶部によって構成されているので、仮に、送信機1が第三者によって分解されたとしても、送信機1の電源が停止し、記憶部36への電力の供給が絶たれれば、記憶していた複数の周波数情報及びホッピングパターンは消去される。これにより、第三者がリバースエンジニアリングによって、周波数情報及びホッピングパターンが認知されるのを防止でき、通信の秘匿性を維持することができる。
【0076】
また、上記実施形態の送信機1では、記憶部36の電力の供給が絶たれれば、周波数情報及びホッピングパターンが第三者に認知されるのを防止できるので、例えば、陸上を走行する車両や飛行機等の移動体に搭乗している搭乗者と、移動体の外部に位置する者との間で、秘匿通信を行う場合に好適に用いることができる。
【0077】
この場合、移動体が、上記実施形態の送信機1と、送信機1による送信信号を受信可能な受信機を搭載する。また、移動体の外部に位置する者も移動体と同様に送信機1及び前記受信機を備える。
仮に、移動体に搭載された送信機1が、第三者によって取得されたとしても、当該送信機1が壊れ記憶部36への電力の供給が絶たれていれば、周波数情報及びホッピングパターンが第三者に認知されことはない。よって、送信機1が第三者に取得された場合にも通信の秘匿性を維持することができる。
【0078】
また、移動体を外部から遠隔制御する際に、制御に必要な制御情報を送受信するための通信手段として、上記実施形態の送信機1を用いることもできる。
図7は、上記実施形態の送信機1を搭載した、遠隔制御によって操縦可能な飛行機を示す図である。図中、飛行機40は、例えば地上に位置する制御装置50から送信される制御情報を受信することで遠隔制御される。
【0079】
飛行機40は、当該飛行機40の操縦制御を行う操縦制御部41と、上記実施形態の送信機1と、外部としての制御装置50から与えられる制御情報を受信する受信機42と、アンテナ43とを備えている。
なお、制御装置50も、上記実施形態の送信機1を備えている。また、飛行機40の送信機1から送信される周波数ホッピングが適用された送信信号を受信可能な受信機を備えている。
【0080】
飛行機40の受信機42は、制御装置50からの制御情報を受信すると、この制御情報を操縦制御部41に与える。操縦制御部41は、制御情報に基づいた処理を行うとともに、この制御情報に対する応答情報(例えば、飛行機40の現在位置や、速度、周囲の状況等)を送信機1に与える。応答情報が与えられた送信機1は、当該応答情報を周波数ホッピングにより制御装置50に向けて送信する。
以上のようにして、飛行機40は、制御装置50との間で相互に通信を行うことで遠隔制御される。
【0081】
この場合も、飛行機40に搭載された送信機1は、制御装置50との間の通信における搬送波周波数fの設定の自由度が高められ、通信の秘匿性に優れた周波数ホッピングを行うことができる。
また、仮に、飛行機40及び送信機1が第三者に取得されたとしても、送信機1が壊れる等して記憶部36への電力の供給が絶たれていれば、周波数情報及びホッピングパターンが第三者に認知されことはない。よって、飛行機40及び送信機1が第三者に取得された場合にも通信の秘匿性を維持することができる。
【0082】
通信に必要な複数の周波数情報及びホッピングパターンは、以下のようにして送信機1に与えられる。すなわち、起動する前の段階での飛行機40の送信機1において、揮発性の記憶部36(図1)は、複数の周波数情報及びホッピングパターンを記憶していない。
飛行機40を遠隔操作するために送信機1を起動する場合、まず、記憶部36に、制御装置50と通信を行うために必要な、複数の周波数情報及びホッピングパターンが与えられる。複数の周波数情報及びホッピングパターンが与えられた記憶部36は、これらを記憶する。これによって、送信機1は、記憶部36に記憶された周波数情報及びホッピングパターンを利用することで、制御装置50と通信可能となる。
【0083】
その後、飛行機40に故障が生じ、送信機1が壊れる等して記憶部36への電力の供給が絶たれれば、記憶部36が記憶していた複数の周波数情報及びホッピングパターンは消去される。この場合、記憶部36に対して再度電力を供給したとしても、複数の周波数情報及びホッピングパターンは消去されてしまっているので、飛行機40及び送信機1が第三者に取得された場合にも通信の秘匿性を維持することができる。
【0084】
なお、上記実施形態では、移動体としての飛行機40を遠隔制御する場合を例示したが、例えば、ミサイル等、発射すれば、元の位置には戻って来ず、壊れる確率の高い移動体に好適に搭載することができる。
【0085】
[6.付記]
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0086】
1 送信機
21 デジタル信号処理部
32 アナログフィルタ
33 増幅器
34 送信用アンテナ
24 変調処理部
25 バンドパス型ΔΣ変調器
35 制御部
36 記憶部
40 飛行機(移動体)
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図6