【実施例】
【0024】
以下には、本発明の非水電解液電池を作製し放電させた例を具体的に説明する。
【0025】
[実施例1]
(評価セルの作製)
正極は、次のようにして作製した。まず、ヨウ化リチウムLiI(アルドリッチ製)123mgと、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)98mgと、結着材としてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104:テフロンは登録商標)19mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材を得た。この正極合材10mgをPtメッシュ(ニラコ製)に圧着して、真空乾燥を行い、正極とした。負極には、直径10mm、厚さ0.4mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。電解液には、支持塩として1Mのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学製)を溶媒としてのリン酸トリメチル(アルドリッチ製)に溶解したものを用いた。表1に、正極、負極及び電解液の構成をまとめた。
【0026】
【表1】
【0027】
これらの正極、負極及び電解液を用いて、次のように評価セルを作製した。まず、
図2に示すように、正極22及び負極24をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でビーカーセル20にセットし、電解液26を15mL注入した。次に、ビーカーセル20の開放部にプラスチック製の蓋28を取り付け、ビーカーセル20を密閉して評価セル(F型セル)とした。なお、ビーカーセル内の空間にはアルゴンが充填されている。
【0028】
(放電試験)
組み立てた評価セルを北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、60℃の恒温器内で正極と負極との間で正極合材10mgあたり0.050mAの電流を流して放電試験を行った。
図3に、実施例1の放電曲線を示す。
【0029】
[実施例2,比較例1〜4]
実施例2は、電解液溶媒としてリン酸トリエチル(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例1は、電解液溶媒としてリン酸トリプロピル(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例2は、電解液溶媒としてリン酸トリブチル(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例3は、溶媒としてプロピレンカーボネート(キシダ化学製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例4は、電解液溶媒としてジメチルスルホキシド(和光純薬製)を用いた以外は実施例1と同様である。
図4に実施例2及び比較例1〜4の放電曲線を示す。
【0030】
[比較例5]
比較例5は、正極合材としてハロゲン化物を含まないものを用いたこと以外は、実施例1と同様である。ここで用いた正極合材は、次のように作製した。導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)198mgと、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)28mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材を得た。
図5に実施例1及び比較例5の放電曲線を示す。
【0031】
[実施例3]
実施例3は、正極合材中のハロゲン化物としてLiBrを用い、放電試験において、正極と負極との間で正極合材10mgあたり0.025mAの電流を流して放電試験を行った以外は、実施例1と同様である。ここで用いた正極合材は、次のように作製した。LiBr(アルドリッチ製)115mgと、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)87mgと、結着材としてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)22mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材とした。
図6に実施例3の放電曲線を示す。
【0032】
[実施例4,比較例6]
実施例4は、正極合材中のハロゲン化物としてMgI
2を用い、負極として金属マグネシウムを用い、電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用い、支持塩として過塩素酸マグネシウムを用い、放電試験において、正極と負極との間で正極合材10mgあたり0.025mAの電流を流して放電試験を行った以外は、実施例1と同様である。ここで用いた正極合材は、次のように作製した。MgI
2(アルドリッチ製)107mgと、導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)119mgと、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)34mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材とした。また、負極には、直径20mm、厚さ1mmの金属マグネシウム(本城金属製)を用いた。電解液には、0.5Mの過塩素酸マグネシウム(アルドリッチ製)をリン酸トリエチル(東京化成工業製)に溶解したものを用いた。比較例6は、電解液として0.5Mの過塩素酸マグネシウム(アルドリッチ)をプロピレンカーボネート(キシダ化学製)に溶解したものを用いた以外は、実施例4と同様である。
図7に実施例4及び比較例6の放電曲線を示す。
【0033】
[実施例5]
実施例5は、正極合材中のハロゲン化物としてMgCl
2を用いた以外は実施例4と同様である。ここで用いた正極は、以下のように作製した。MgCl
2(アルドリッチ製)225mgと、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)224mgと、結着材としてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)60mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に形成し、シート状の正極合材とした。
図8に実施例5の放電曲線を示す。
【0034】
[実施例6]
実施例6は、負極として金属カルシウムを用い、支持塩としてカルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を用いた以外は、実施例4と同様である。ここでは、負極には、直径3mm、長さ10mmのCa金属チップ(アルドリッチ製)を用いた。また、電解液には0.5Mのカルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学製)をリン酸トリエチル(東京化成工業製)に溶解したものを用いた。
図9に実施例6の放電曲線を示す。
【0035】
[実施例7,8]
実施例7では、実施例1で作製した評価セルを用い、45℃の恒温器内で放電試験を行った。実施例8では、実施例1で作製した評価セルを用い、25℃の恒温器で放電試験を行った。
図10に、実施例7,8の放電曲線を示す。
【0036】
[光学顕微鏡観察]
実施例1の放電試験後の正極表面を光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡写真を
図11に示す。
図11に示すように、集電体であるPtメッシュ上の正極合材表面に、白色析出物が観察された。
【0037】
[ラマン分析]
実施例1の放電試験後の正極表面から白色析出物を採取し、ラマン分析を行った。ラマン分析は、レーザラマン分光システム(日本分光(株)製、NRS−3300)を用い、波長532nmの励起光で行った。
図12にラマン分析結果を示す。
図12には、参考として、電解液に用いたリン酸トリメチルのラマン分析結果も示す。実施例1の析出物とリン酸トリメチルとでは、各シグナルのピーク位置が少しずれていた。このことから、溶媒に用いたリン酸とりメチルそのものが析出物に含まれているのではなく、リン酸トリメチルが反応したものであることがわかった。また、実施例1の析出物では、ヨウ素に由来するシグナルも確認された。したがって、白色析出物は、正極合材に含まれるLiIのヨウ素とリン酸トリメチルとが反応したものであることがわかった。
【0038】
[実験結果]
電解液溶媒としてリン酸トリメチルを用いた実施例1では、2.8V付近にプラトーが確認され5mAh以上の放電量が得られた(
図3参照)。また、電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用いた実施例2でも、2.8V付近にプラトーが確認され1.5mAh以上の放電量が得られた(
図4参照)。これに対して、電解液溶媒としてリン酸トリプロピルを用いた比較例1では2.8V付近に段差が生じたものの放電量は0.5mAh程度であり、電解液溶媒としてリン酸トリブチルを用いた比較例2では段差も確認されず、放電量は0.1mAh程度であった(
図4参照)。さらに、電解液溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)を用いた比較例3や、電解液溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた比較例4でも、放電反応がほとんど進行しなかった。以上より、電解液は、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含む必要があることがわかった。また、電解液溶媒としてリン酸トリメチルを用いたが、正極合材中にハロゲン化物を添加しなかった比較例5では、放電反応がほとんど進行しなかった(
図5参照)。このことから、電解液がメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含むものであるだけでなく、正極にハロゲン化物が存在することが必要であることがわかった。また、正極に添加するハロゲン化物としてLiBrを用いた実施例3でも2mAh程度の放電量が得られた(
図6参照)。このことから、ハロゲン化物はヨウ化物に限定されないことがわかった。
【0039】
また、正極に添加するハロゲン化物としてMgI
2を用いたものにおいて、電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用いた実施例4では7mAh以上の放電量が得られたのに対し、電解液溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた比較例6ではほとんど放電量が得られなかった(
図7参照)。このことから、ハロゲン化物は、リチウムとハロゲンの化合物に限定されず、リチウム以外のものとハロゲンとの化合物でもよいことがわかった。また、この場合であっても、電解液はメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含む必要があることがわかった。さらに、正極に添加するハロゲン化物としてCaI
2を用いた実施例5でも1mAh以上の放電量が得られた(
図8参照)。このことから、正極に添加するハロゲン化物は、ヨウ化物に限定されないし、リチウム以外のものとハロゲンとの化合物でもよいことがわかった。
【0040】
また、正極に添加するハロゲン化物としてMgI
2を用いた非水電解液カルシウム電池である実施例6でも、8mAh以上の放電量が得られた(
図9参照)。このことから、正極に添加するハロゲン化物は、電解液中で伝導される金属イオンの金属と同種のものとハロゲンとの化合物でなくてもよいことがわかった。
【0041】
また、実施例1の評価セルと同じ評価セルを用い、実施例1の放電試験(60℃)より低温の45℃で放電試験を行った実施例7でも、1.5mAh以上の放電量が得られた。これに対して、25℃で放電試験を行った実施例8では、放電量が低下した。このことから、放電反応は25℃より高温で進行しやすく、45℃以上ではより進行しやすいことがわかった。