特許第5920060号(P5920060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920060非水電解液電池の使用方法及び非水電解液電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920060
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】非水電解液電池の使用方法及び非水電解液電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20160428BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01M6/16 A
   H01M10/05
   H01M10/0569
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-148393(P2012-148393)
(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公開番号】特開2014-11105(P2014-11105A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志賀 亨
【審査官】 山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/008763(WO,A1)
【文献】 特開平03−043960(JP,A)
【文献】 特開昭60−000070(JP,A)
【文献】 特開2006−260945(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123572(WO,A1)
【文献】 特開2009−117126(JP,A)
【文献】 特開2004−265678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/16
H01M 10/05−0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、金属イオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し前記金属イオンを伝導する非水電解液と、を備える非水電解液電池の使用方法であって、
前記正極は、金属ヨウ化物、金属臭化物及び金属塩化物から選ばれる1種以上であるハロゲン化物を正極活物質として含み、
前記非水電解液はメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含み、放電時に前記リン酸エステルと前記ハロゲン化物とを正極表面で反応させる、非水電解液電池の使用方法。
【請求項2】
前記金属イオンは、Liイオン,Mgイオン及びCaイオンから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の非水電解液電池の使用方法。
【請求項3】
前記リン酸エステルは、リン酸トリメチル又はリン酸トリエチルである、請求項1又は2に記載の非水電解液電池の使用方法。
【請求項4】
45℃以上の温度条件で放電を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液電池の使用方法。
【請求項5】
金属ヨウ化物、金属臭化物及び金属塩化物から選ばれる1種以上であるハロゲン化物を正極活物質として含む正極と、
金属イオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、前記金属イオンを伝導し、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含む非水電解液と、
を備える非水電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池の使用方法及び非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヨウ素などのハロゲン元素を正極活物質として用いた電池が知られている(特許文献1,2参照)。例えば、特許文献1の電池では、リチウム陰極と、有機錯塩とヨウ素とからなる陽極活物質と、リチウム−ヨウ素電解質とを備えている。また、特許文献2の電池では、ヨウ素を正極活物質とする正極と、リチウムを負極活物質とする負極と、ヨウ化リチウムを含む電解質層とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4049890号
【特許文献2】特開2010−244856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1,2のような電池では、放電時にLiIが生成するが、このLiIは最終生成物であってそれ以上反応に関わることがないため、LiIの生成が終了すると放電反応が終了してしまう。このため、LiIを放電反応に関与させることのできる新規な電池の使用方法および電池が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、LiIなどのハロゲン化物が放電反応に関与する新規な電池の使用方法及び電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、LiIを含む正極とLi負極とを備えた電池について、リン酸トリメチルを含む非水電解液を用いて放電を行うと、ハロゲン化物がリン酸トリメチルと反応すること、つまり、LiIが放電反応に関与することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の非水電解液電池の使用方法は、
正極と、金属イオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し前記金属イオンを伝導する非水電解液と、を備える非水電解液電池の使用方法であって、
前記正極はハロゲン化物を含み、
前記非水電解液はメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含み、放電時に前記リン酸エステルと前記ハロゲン化物とを正極表面で反応させるものである。
【0008】
また、本発明の非水電解液電池は、
ハロゲン化物を含む正極と、
金属イオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、前記金属イオンを伝導し、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含む非水電解液と、
を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
この非水電解液電池の使用方法及び非水電解液電池では、従来の電池では放電反応に関与しなかったハロゲン化物を、放電反応に関与させることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。従来の電池における放電生成物であるLiIなどのハロゲン化物は、それ以上反応しない。しかし、このハロゲン化物と所定のリン酸エステルとを共存させると、ハロゲン化物がリン酸エステルと反応する。この反応により放電反応が進行すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の非水電解液電池10の一例を模式的に示す説明図である。
図2】ビーカーセル20の構成の概略を示す説明図である。
図3】実施例1の放電曲線である。
図4】実施例2及び比較例1〜4の放電曲線である。
図5】実施例1及び比較例5の放電曲線である。
図6】実施例3の放電曲線である。
図7】実施例4及び比較例6の放電曲線である。
図8】実施例5の放電曲線である。
図9】実施例6の放電曲線である。
図10】実施例7,8の放電曲線である。
図11】実施例1の放電終了後の正極表面の光学顕微鏡写真である。
図12】実施例1の正極表面の析出物のラマン分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水電解液電池は、正極と、金属イオンを吸蔵放出可能な負極と、正極と負極との間に介在し金属イオンを伝導する非水電解液とを備えている。
【0012】
本発明の非水電解液電池において、正極は、ハロゲン化物を含む。ハロゲン化物は特に限定されず、ハロゲンを含む化合物が付いたフラーレンやカーボンナノチューブ(例えばヨウ化ジメチルピロリジニウムフラーレンやヨウ化ジエチルピペリジウムカーボンナノチューブなど)や、金属ハロゲン化物などが挙げられる。金属ハロゲン化物としては、金属ヨウ化物、金属臭化物及び金属塩化物などを好適に用いることができる。金属ヨウ化物における金属は特に限定されないが、アルカリ金属やアルカリ土類金属であることが好ましく、Li,Mg,Caなどを好適に用いることができる。また、Al,Zn,Ceなども好適に用いることができる。この正極は、例えばハロゲン化物と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、電池の性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、活性炭、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化MPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。ハロゲン化物、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体には、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート上、ネット上、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0013】
本発明の非水電解液電池において、負極は、負極活物質を有するものである。負極活物質は、金属イオンを吸蔵放出可能なものであればよいが、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1以上の金属イオンを吸蔵放出可能なものであることが好ましく、リチウム,マグネシウム,カルシウムのうち少なくとも1以上を吸蔵放出可能なものであることがより好ましい。リチウムを吸蔵放出可能なものであれば非水電解液リチウム電池とすることができるし、マグネシウムを吸蔵放出可能なものであれば非水電解液マグネシウム電池とすることができるし、カルシウムを吸蔵放出可能なものであれば非水電解液カルシウム電池とすることができるからである。リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えばアルミニウムやスズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、シリコンなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。この他、リン化鉄などとしてもよい。マグネシウムを吸蔵放出可能な負極活物質としては、金属マグネシウムやマグネシウム合金のほか、上述した金属酸化物、金属硫化物、炭素質物質などが挙げられる。マグネシウム合金としては例えばアルミニウムとマグネシウムとの合金などが挙げられる。カルシウムを吸蔵放出可能な負極活物質としては、金属カルシウムやカルシウム合金のほか、上述した金属酸化物、金属硫化物、炭素質物質などが挙げられる。負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0014】
非水電解液は、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含むものである。リン酸エステルは、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するものであればよく、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸メチルジエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸メチルジプロピル、リン酸メチルエチルブチル、リン酸ジエチルブチルなどが挙げられる。これらのうち、リン酸トリメチルやリン酸トリエチルが好ましい。
【0015】
非水電解液は、上述したリン酸エステルを溶媒とし、この溶媒に支持塩を溶解したものとしてもよい。支持塩は、特に限定されるものではなく、公知の支持塩を用いることができる。例えば、非水電解液リチウム電池のようなアルカリ金属系電池であれば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,Li(CF3SO3),LiN(C25SO22などを用いることができる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。リチウム電池の場合支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。また、非水電解液マグネシウム電池や非水電解液カルシウム電池のようなアルカリ土類金属系電池であれば、アルカリ土類金属元素をMとすると、パークロレート塩(M(ClO42)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩(M[N(CF3SO22])、トリフルオロメタンスルホネート塩(M(CF3SO32)、フルオロブタンスルホネート塩(M(C49SO32)、有機アルミン酸塩などの公知のアルカリ土類金属元素を含む塩を用いることができる。具体的には、マグネシウム電池の場合、支持塩としては、マグネシウムパークロレート、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、マグネシウムトリフルオロメタンスルホネート、マグネシウムフルオロブタンスルホネート、有機アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。また、カルシウム電池の場合、支持塩としては、カルシウムパークロレート、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カルシウムトリフルオロメタンスルホネート、カルシウムフルオロブタンスルホネート、有機アルミン酸カルシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属系電池の場合、支持塩の濃度としては、0.1〜1.5Mであることが好ましく、0.3〜0.6Mであることがより好ましい。
【0016】
非水電解液は、上述したリン酸エステルの他に、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジオキサン、ヘキサエトキシシクロトリフォスファゼン、3−メトキシプロピオニトリルなど従来の電池などに使われる有機溶媒、又はそれらの混合溶媒を含むものとしてもよい。この場合、非水電解液におけるリン酸エステルの混合比率が30体積%以上となるようにすることが好ましい。また、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子のほか、アミノ酸誘導体や、ソルビトール誘導体などの糖類などと混合してゲル状として用いてもよい。
【0017】
本発明の非水電解液電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水電解液電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0018】
本発明の非水電解液電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。この非水電解液電池の一例を図1に示す。図1は、コイン型の非水電解液電池10の構成の概略を表す断面図である。この非水電解液電池10は、カップ形状の電池ケース11と、この電池ケース11の内部に設けられた正極12と、正極12に対してセパレータ14を介して対向する位置に設けられた負極13と、非水電解液17と、絶縁材により形成されたガスケット15と、電池ケース11の開口部に配設されガスケット15を介して電池ケース11を密封する封口板16と、を備えている。
【0019】
このような本発明の非水電解液電池では、従来の電池では放電生成物であり放電反応に関与しなかったハロゲン化物を、放電反応に関与させることができる。
【0020】
次に、本発明の非水電解液電池の使用方法について説明する。本発明の非水電解液電池の使用方法は、正極と、金属イオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在し金属イオンを伝導する非水電解液と、を備える非水電解液電池の使用方法であって、正極はハロゲン化物を含み、非水電解液はメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含み、放電時にリン酸エステルとハロゲン化物とを正極表面で反応させるものである。なお、非水電解液電池の構成は上述した本発明の非水電解液と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0021】
本発明の非水電解液電池の使用方法では、放電時にリン酸エステルとハロゲン化物とを正極表面で反応させる。リン酸エステルとハロゲン化物との反応により、放電反応が進行するものと考えられる。リン酸エステルとハロゲン化物との反応は、室温(25℃)より高い温度で進行しやすい。このため、本発明の非水電解液電池の使用方法では、25℃より高温で放電を行うことが好ましく、45℃以上で放電することがことがより好ましく、50℃以上で放電することがさらに好ましい。また、70℃以下で放電することが好ましく、60℃以下で放電することがより好ましい。60℃以下であれば、電池反応以外の反応による電池の劣化が抑制されるからである。なお、リン酸エステルとハロゲン化物とが正極表面で反応したか否かは、正極表面に析出物が存在するか否かで判断できる。また、この析出物をラマン分析すると、ハロゲン元素に起因するピークと、リン酸エステルのピークに対してピーク位置がわずかにシフトした複数のピークが確認される。例えば、リン酸トリメチルのP=O基の伸縮に由来する1277cm-1のシグナルや、P−O基の伸縮に由来する740cm-1のシグナルが、LiIと反応すると、それぞれ、1250cm-1、783cm-1付近にピークシフトする。また、ヨウ素の存在は140cm-1のシグナルで裏付けられる。
【0022】
このような本発明の非水電解液電池の使用方法では、上述した非水電解液電池において、従来の電池では放電生成物であり放電反応に関与しなかったハロゲン化物を、放電反応に関与させることができる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0024】
以下には、本発明の非水電解液電池を作製し放電させた例を具体的に説明する。
【0025】
[実施例1]
(評価セルの作製)
正極は、次のようにして作製した。まず、ヨウ化リチウムLiI(アルドリッチ製)123mgと、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)98mgと、結着材としてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104:テフロンは登録商標)19mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材を得た。この正極合材10mgをPtメッシュ(ニラコ製)に圧着して、真空乾燥を行い、正極とした。負極には、直径10mm、厚さ0.4mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。電解液には、支持塩として1Mのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学製)を溶媒としてのリン酸トリメチル(アルドリッチ製)に溶解したものを用いた。表1に、正極、負極及び電解液の構成をまとめた。
【0026】
【表1】
【0027】
これらの正極、負極及び電解液を用いて、次のように評価セルを作製した。まず、図2に示すように、正極22及び負極24をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内でビーカーセル20にセットし、電解液26を15mL注入した。次に、ビーカーセル20の開放部にプラスチック製の蓋28を取り付け、ビーカーセル20を密閉して評価セル(F型セル)とした。なお、ビーカーセル内の空間にはアルゴンが充填されている。
【0028】
(放電試験)
組み立てた評価セルを北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)に接続し、60℃の恒温器内で正極と負極との間で正極合材10mgあたり0.050mAの電流を流して放電試験を行った。図3に、実施例1の放電曲線を示す。
【0029】
[実施例2,比較例1〜4]
実施例2は、電解液溶媒としてリン酸トリエチル(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例1は、電解液溶媒としてリン酸トリプロピル(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例2は、電解液溶媒としてリン酸トリブチル(アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例3は、溶媒としてプロピレンカーボネート(キシダ化学製)を用いた以外は実施例1と同様である。比較例4は、電解液溶媒としてジメチルスルホキシド(和光純薬製)を用いた以外は実施例1と同様である。図4に実施例2及び比較例1〜4の放電曲線を示す。
【0030】
[比較例5]
比較例5は、正極合材としてハロゲン化物を含まないものを用いたこと以外は、実施例1と同様である。ここで用いた正極合材は、次のように作製した。導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)198mgと、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)28mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材を得た。図5に実施例1及び比較例5の放電曲線を示す。
【0031】
[実施例3]
実施例3は、正極合材中のハロゲン化物としてLiBrを用い、放電試験において、正極と負極との間で正極合材10mgあたり0.025mAの電流を流して放電試験を行った以外は、実施例1と同様である。ここで用いた正極合材は、次のように作製した。LiBr(アルドリッチ製)115mgと、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)87mgと、結着材としてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)22mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材とした。図6に実施例3の放電曲線を示す。
【0032】
[実施例4,比較例6]
実施例4は、正極合材中のハロゲン化物としてMgI2を用い、負極として金属マグネシウムを用い、電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用い、支持塩として過塩素酸マグネシウムを用い、放電試験において、正極と負極との間で正極合材10mgあたり0.025mAの電流を流して放電試験を行った以外は、実施例1と同様である。ここで用いた正極合材は、次のように作製した。MgI2(アルドリッチ製)107mgと、導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)119mgと、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)34mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に成形し、シート状の正極合材とした。また、負極には、直径20mm、厚さ1mmの金属マグネシウム(本城金属製)を用いた。電解液には、0.5Mの過塩素酸マグネシウム(アルドリッチ製)をリン酸トリエチル(東京化成工業製)に溶解したものを用いた。比較例6は、電解液として0.5Mの過塩素酸マグネシウム(アルドリッチ)をプロピレンカーボネート(キシダ化学製)に溶解したものを用いた以外は、実施例4と同様である。図7に実施例4及び比較例6の放電曲線を示す。
【0033】
[実施例5]
実施例5は、正極合材中のハロゲン化物としてMgCl2を用いた以外は実施例4と同様である。ここで用いた正極は、以下のように作製した。MgCl2(アルドリッチ製)225mgと、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600JD)224mgと、結着材としてテフロンパウダー(ダイキン工業製T-104)60mgとを、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせ、薄膜状に形成し、シート状の正極合材とした。図8に実施例5の放電曲線を示す。
【0034】
[実施例6]
実施例6は、負極として金属カルシウムを用い、支持塩としてカルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を用いた以外は、実施例4と同様である。ここでは、負極には、直径3mm、長さ10mmのCa金属チップ(アルドリッチ製)を用いた。また、電解液には0.5Mのカルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学製)をリン酸トリエチル(東京化成工業製)に溶解したものを用いた。図9に実施例6の放電曲線を示す。
【0035】
[実施例7,8]
実施例7では、実施例1で作製した評価セルを用い、45℃の恒温器内で放電試験を行った。実施例8では、実施例1で作製した評価セルを用い、25℃の恒温器で放電試験を行った。図10に、実施例7,8の放電曲線を示す。
【0036】
[光学顕微鏡観察]
実施例1の放電試験後の正極表面を光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡写真を図11に示す。図11に示すように、集電体であるPtメッシュ上の正極合材表面に、白色析出物が観察された。
【0037】
[ラマン分析]
実施例1の放電試験後の正極表面から白色析出物を採取し、ラマン分析を行った。ラマン分析は、レーザラマン分光システム(日本分光(株)製、NRS−3300)を用い、波長532nmの励起光で行った。図12にラマン分析結果を示す。図12には、参考として、電解液に用いたリン酸トリメチルのラマン分析結果も示す。実施例1の析出物とリン酸トリメチルとでは、各シグナルのピーク位置が少しずれていた。このことから、溶媒に用いたリン酸とりメチルそのものが析出物に含まれているのではなく、リン酸トリメチルが反応したものであることがわかった。また、実施例1の析出物では、ヨウ素に由来するシグナルも確認された。したがって、白色析出物は、正極合材に含まれるLiIのヨウ素とリン酸トリメチルとが反応したものであることがわかった。
【0038】
[実験結果]
電解液溶媒としてリン酸トリメチルを用いた実施例1では、2.8V付近にプラトーが確認され5mAh以上の放電量が得られた(図3参照)。また、電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用いた実施例2でも、2.8V付近にプラトーが確認され1.5mAh以上の放電量が得られた(図4参照)。これに対して、電解液溶媒としてリン酸トリプロピルを用いた比較例1では2.8V付近に段差が生じたものの放電量は0.5mAh程度であり、電解液溶媒としてリン酸トリブチルを用いた比較例2では段差も確認されず、放電量は0.1mAh程度であった(図4参照)。さらに、電解液溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)を用いた比較例3や、電解液溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた比較例4でも、放電反応がほとんど進行しなかった。以上より、電解液は、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含む必要があることがわかった。また、電解液溶媒としてリン酸トリメチルを用いたが、正極合材中にハロゲン化物を添加しなかった比較例5では、放電反応がほとんど進行しなかった(図5参照)。このことから、電解液がメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含むものであるだけでなく、正極にハロゲン化物が存在することが必要であることがわかった。また、正極に添加するハロゲン化物としてLiBrを用いた実施例3でも2mAh程度の放電量が得られた(図6参照)。このことから、ハロゲン化物はヨウ化物に限定されないことがわかった。
【0039】
また、正極に添加するハロゲン化物としてMgI2を用いたものにおいて、電解液溶媒としてリン酸トリエチルを用いた実施例4では7mAh以上の放電量が得られたのに対し、電解液溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた比較例6ではほとんど放電量が得られなかった(図7参照)。このことから、ハロゲン化物は、リチウムとハロゲンの化合物に限定されず、リチウム以外のものとハロゲンとの化合物でもよいことがわかった。また、この場合であっても、電解液はメチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するリン酸エステルを含む必要があることがわかった。さらに、正極に添加するハロゲン化物としてCaI2を用いた実施例5でも1mAh以上の放電量が得られた(図8参照)。このことから、正極に添加するハロゲン化物は、ヨウ化物に限定されないし、リチウム以外のものとハロゲンとの化合物でもよいことがわかった。
【0040】
また、正極に添加するハロゲン化物としてMgI2を用いた非水電解液カルシウム電池である実施例6でも、8mAh以上の放電量が得られた(図9参照)。このことから、正極に添加するハロゲン化物は、電解液中で伝導される金属イオンの金属と同種のものとハロゲンとの化合物でなくてもよいことがわかった。
【0041】
また、実施例1の評価セルと同じ評価セルを用い、実施例1の放電試験(60℃)より低温の45℃で放電試験を行った実施例7でも、1.5mAh以上の放電量が得られた。これに対して、25℃で放電試験を行った実施例8では、放電量が低下した。このことから、放電反応は25℃より高温で進行しやすく、45℃以上ではより進行しやすいことがわかった。
【符号の説明】
【0042】
10 非水電解液電池、11 電池ケース、12 正極、13 負極、14 セパレータ、15 ガスケット、16 封口板、17 非水電解液、20 ビーカーセル、22 正極、24 負極、26 電解液、28 蓋。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12