【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構委託研究「バイオマスの化成品転換のための熱化学反応技術基盤の構築とそれに基づく脂肪族、芳香族化合物ポリマー製造プロセスの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バイオマスを分解して得られたリグニン誘導体と、キヌクリジンおよびピジンのうちの少なくとも1種を含む架橋剤と、を含有することを特徴とするリグニン樹脂組成物。
前記ベンゼンスルホン酸シクロヘキシル類は、シクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3,5−ジメチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、4−ブチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−ヒドロキシシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート及び4−ヒドロキシシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートからなる群から選択される少なくとも1種である請求項10に記載のリグニン樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のリグニン樹脂組成物、および、リグニン樹脂成形材料について好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0029】
<リグニン樹脂組成物およびリグニン樹脂成形材料>
本発明のリグニン樹脂組成物は、バイオマスを分解して得られるリグニン誘導体と、後述する化合物を含む架橋剤と、を含むものである。
【0030】
また、本発明のリグニン樹脂成形材料は、上記リグニン樹脂組成物を含むものであり、各種成形法により成形されることによって樹脂成形品を得るのに用いられるものである。
【0031】
このようなリグニン樹脂成形材料は、溶融粘度が低いため流動性が高く、例えば各種成形法により成形される際の成形性(形状転写性)に富んでいるとともに、硬化後の機械的特性に優れたものとなる。このため、成形型の形状が複雑な場合や、充填材の添加量が多い場合、硬化触媒を添加した場合にも、寸法精度が高く機械的特性に優れた樹脂成形品を製造することができる。また、リグニン樹脂組成物は、芯材に対する含浸性が高く硬化後には剛直な構造を形成し得るため、耐久性および外観に優れた積層板を製造することができる。
【0032】
以下、リグニン樹脂組成物およびリグニン樹脂成形材料の各成分について順次説明する。
【0033】
(リグニン誘導体)
まず、リグニン誘導体について説明する。リグニンは、セルロースおよびヘミセルロースとともに、植物体の骨格を形成する主要成分であり、かつ、自然界に最も豊富に存在する物質の一つである。リグニン誘導体は、フェノール誘導体を単位構造とする化合物であり、この単位構造は、化学的および生物学的に安定な炭素−炭素結合や炭素−酸素−炭素結合を有するため、化学的な劣化や生物的分解を受け難い。このため、リグニン誘導体は、樹脂原料として有用とされる。
【0034】
本発明に用いられるリグニン誘導体は、バイオマスを分解して得られたものである。バイオマスとは、植物または植物の加工品であるが、これらは光合成の過程で大気中の二酸化炭素を取り込み固定化してなるものであるため、大気中の二酸化炭素の増加抑制に寄与している。このため、バイオマスを工業的に利用することによって、地球温暖化の抑制に寄与することができる。
【0035】
リグニン誘導体の具体例としては、下記式(8)で表わされるグアイアシルプロパン構造、下記式(9)で表わされるシリンギルプロパン構造、下記式(10)で表わされる4−ヒドロキシフェニルプロパン構造等が挙げられる。なお、針葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造が、広葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造およびシリンギルプロパン構造が、草本類からは主にグアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造および4−ヒドロキシフェニルプロパン構造がそれぞれ抽出される。
【0037】
また、本発明におけるリグニン誘導体は、水酸基に対して芳香環のオルト位およびパラ位の少なくとも一方が無置換になっているものが好ましい。このようなリグニン誘導体は、芳香環への親電子置換反応により硬化剤が作用する反応サイトを多く含み、水酸基での反応において立体障害が低減できることになるため、反応性に優れたものとなる。
【0038】
また、リグニン誘導体は、上記基本構造の他、リグニン誘導体に官能基を導入したもの(リグニン二次誘導体)であってもよい。
【0039】
リグニン二次誘導体が有する官能基としては、特に限定されないが、例えば2個以上の同じ官能基が互いに反応し得るもの、または他の官能基と反応し得るものが好適である。具体的には、エポキシ基、メチロール基の他、炭素−炭素不飽和結合を有するビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネート基、イソシアネート基等が挙げられる。このうち、メチロール基を導入した(メチロール化した)リグニン誘導体が好ましく用いられる。このようなリグニン二次誘導体は、メチロール基同士の自己縮合反応により自己架橋が生じるとともに、上記架橋剤中のアルコキシメチル基や水酸基に対して確実に架橋する。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、機械的特性に優れた硬化物が得られる。
【0040】
また、本発明におけるリグニン誘導体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の数平均分子量が200〜2000であるものが好ましく、300〜1800であるものがより好ましい。このような数平均分子量のリグニン誘導体は、その反応性(硬化性)と溶融性または溶解性とをより高度に両立するものとなる。したがって、硬化後の機械的特性と成形性とを高度に両立するリグニン樹脂成形材料が得られる。
【0041】
また、本発明におけるリグニン誘導体は、
1H−NMR分析に供されたとき、得られる化学シフトのスペクトルにおいて、芳香族プロトンに帰属するピークの積分値が、脂肪族プロトンに帰属するピークの積分値の15〜50%程度であるのが好ましく、15〜45%程度であるのがより好ましく、20〜40%程度であるのがさらに好ましく、20〜35%程度であるのが特に好ましい。これにより、リグニン誘導体の架橋樹脂の機械的特性に寄与する反応性と成形材料の成形性に寄与する溶融性または溶媒への溶解性とをより高度に両立することができる。その結果、寸法精度が高く機械的特性に優れた樹脂成形品が得られる。
【0042】
なお、前記比率が前記下限値を下回ると、架橋反応を生じる反応サイトあるいは反応性基を導入するための反応サイトが脂肪族基で置換されていて架橋反応点が少なくなるため、リグニン誘導体を架橋させたとき、架橋物の物性が低下するおそれがある。一方、前記比率が前記上限値を上回ると、リグニン誘導体の溶融性または溶媒への溶解性が低下し、リグニン誘導体を含む成形材料の成形性が低下するおそれがある。
【0043】
なお、芳香族プロトンおよび脂肪族プロトンは、
1H−NMR分析の化学シフトのスペクトルにおいて、離れた位置にピークを生じるため、ピークの分離が可能であり、ピークの同定および積分値の算出を行うことができる。
【0044】
具体的には、分析の基準物質としてテトラメチルシランを用いた場合、一般的には、芳香族プロトンに帰属するピークは6〜8ppm付近に位置する。また、脂肪族プロトンに帰属するピークは0.5〜5ppm付近に位置することとなる。
【0045】
なお、上述した芳香族プロトンに帰属するピークの積分値、および、脂肪族プロトンに帰属するピークの積分値は、それぞれバイオマスの処理条件により調整することができる。例えば、バイオマスの処理温度や処理圧力を高めたり、処理時間を長くしたりすることにより、芳香族プロトンに帰属するピークの積分値が大きくなる傾向が強いと考えられる。
【0046】
(架橋剤)
次に、架橋剤について説明する。
【0047】
本発明のリグニン樹脂組成物に含まれる架橋剤は、リグニン誘導体を架橋し得るものであれば特に限定されないが、下記式(1)で表される化合物を含むものが好ましい。
【0048】
Z−(CH
2OR)
m (1)
[式(1)中のZはメラミン残基、尿素残基、グリコリル残基、イミダゾリジノン残基および芳香環残基のうちのいずれか1種である。また、mは2〜14の整数を表す。また、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。ただし、−CH
2ORは、メラミン残基の窒素原子、尿素残基の1級アミノ基の窒素原子、グリコリル残基の2級アミノ基の窒素原子、イミダゾリジノン残基の2級アミノ基の窒素原子および芳香環残基の芳香環の炭素原子のいずれかに直接結合している。]
【0049】
このような化合物を含むリグニン樹脂組成物は、硬化後の機械的特性に優れるとともに、硬化物の耐久性および外観の向上に寄与する。これは、架橋剤中に含まれる上記式(1)で表される化合物が、多官能性の架橋点を形成し得るため、リグニン誘導体を高密度かつ均一に架橋し、均質で剛直な骨格を形成するからである。剛直な骨格によって硬化物の機械的特性および耐久性(耐煮沸性等)が向上するとともに、膨れや亀裂等の発生が抑制されるため硬化物の外観も向上することとなる。
【0050】
また、上記架橋剤は、自硬化性を有するとともに、リグニン誘導体との間で共架橋構造を形成し得るものである。このため、このようなリグニン樹脂組成物を含むリグニン樹脂成形材料を成形し硬化させてなる硬化物は、その特性がリグニン誘導体と架橋剤との相溶性が良好であり均質性が高くなる。したがって、リグニン樹脂成形材料の成形性と硬化物の機械的特性との両立という観点から配合比率の最適化を図ることができ、寸法精度および機械的特性に優れた樹脂成形品が得られる。
【0051】
さらには、上記架橋剤は架橋反応時における揮発成分の発生が穏やかであるため、揮発成分が硬化物の外部に放出されるのに伴って生じる膨れや亀裂等の不具合を抑えることができる。その結果、外観に優れた樹脂製品が得られる。
【0052】
なお、上記架橋剤は、リグニン樹脂成形材料の成形性の向上に寄与する。これは、上記架橋剤の融点が低く、加熱時に成形材料の粘性が低下すること、および、上記架橋剤が比較的遅架橋性であり、加熱されたときに徐々に架橋反応が進むためであると考えられる。
【0053】
また、−CH
2ORは、前述したようにメラミン残基の窒素原子、尿素残基の1級アミノ基の窒素原子、グリコリル残基の2級アミノ基の窒素原子、イミダゾリジノン残基の2級アミノ基の窒素原子および芳香環残基の芳香環の炭素原子のうちのいずれかに直接結合しているが、同一の窒素原子または炭素原子に2つ以上の「−CH
2OR」が結合している場合、そのうちの少なくとも1つの「−CH
2OR」が含む「R」はアルキル基であるのが好ましい。これにより、リグニン誘導体を確実に架橋させることができる。
【0054】
なお、本明細書においてメラミン残基とは、下記式(A)で表されるメラミン骨格を有する基のことをいう。
【0056】
また、本明細書において尿素残基とは、下記式(B)で表される尿素骨格を有する基のことをいう。
【0058】
また、本明細書においてグリコリル残基とは、下記式(C)で表されるグリコリル骨格を有する基のことをいう。
【0060】
また、本明細書においてイミダゾリジノン残基とは、下記式(D)で表されるイミダゾリジノン骨格を有する基のことをいう。
【0062】
また、本明細書において芳香環残基とは、芳香環(ベンゼン環)を有する基のことをいう。
【0063】
また、上記式(1)で表される化合物としては、特に、下記式(2)〜(5)のうちのいずれかで表される化合物が好ましく用いられる。これらは、リグニン誘導体中のフェノール骨格に含まれる芳香環上の架橋反応点に対して反応しリグニン誘導体を確実に架橋するとともに、官能基同士の自己縮合反応により自己架橋を生じる。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、機械的特性、耐久性および外観に優れた硬化物が得られる。
【0064】
【化12】
[式(2)中、XはCH
2ORまたは水素原子であり、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。また、nは1〜3の整数を表す。]
【0065】
【化13】
[式(3)中、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。]
【0066】
【化14】
[式(4)中、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。]
【0067】
【化15】
[式(5)中、Rは独立して炭素数1〜4のアルキル基または水素原子である。]
【0068】
また、上記式(2)で表される化合物としては、特に、下記式(6)または(7)で表される化合物が好ましく用いられる。これらは、リグニン誘導体中のフェノール骨格に含まれる芳香環上の架橋反応点に対して反応しリグニン誘導体を特に確実に架橋するとともに、官能基同士の自己縮合反応により自己架橋を生じる。その結果、とりわけ均質で剛直な骨格を有し、機械的特性、耐久性および外観に優れた硬化物が得られる。
【0069】
【化16】
[式(6)中、nは1〜3の整数を表す。]
【0070】
【化17】
[式(7)中、nは1〜3の整数を表す。]
【0071】
なお、上記式(1)で表される化合物の具体例としては、スミカノール507A(田岡化学工業製)、2,4,6−トリス[ビス(メトキシメチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン(東京化成工業製)、ニカラックMW−30HM、ニカラックMW−390、ニカラックMW−100LM、ニカラックMX−750LM、ニカラックMX−290、ニカラックMX−280、ニカラックMX−270(いずれも三和ケミカル製)等が挙げられる。
【0072】
また、上記式(1)で表される化合物のうち、Zがメラミン残基、尿素残基、グリコリル残基およびイミダゾリジノン残基のうちのいずれかであるものとしては、例えば、特開2005−43883号公報の化16、化18に記載された化合物等が挙げられる。
【0073】
また、上記式(1)で表される化合物のうち、Zが芳香環残基であるものとしては、例えば、特開2005−37925号公報の化21〜化26に記載された化合物や、特開2005−43883号公報の化17に記載された化合物等が挙げられる。
【0074】
一方、上記架橋剤は、上記式(1)で表される化合物に代えて、またはこの化合物とともに、キヌクリジンおよびピジンのうちの少なくとも1種の化合物を含むものであってもよい。このような架橋剤を含む硬化物は、機械的強度に優れるとともに、耐久性および外観の高いものとなる。これは、キヌクリジンおよびピジンがリグニン誘導体を高密度かつ均一に架橋し、均質で剛直な骨格を形成するからである。
なお、キヌクリジンおよびピジンにリグニン誘導体からのプロトンが付加すると、カルボカチオンが生じる。このカルボカチオンはリグニン誘導体に反応してメチレン結合を形成する。このようにして上述した均質で剛直な骨格が形成される。
【0075】
また、架橋剤には、上記化合物以外の架橋剤成分を含んでいてもよいが、その場合でもその添加量は、上記化合物より少なくなるよう設定される。上記化合物以外の架橋剤成分としては、例えば、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ化グリセリン、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油のようなエポキシ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートのようなイソシアネート化合物、リグニン誘導体の芳香環に対し親電子置換反応して架橋し得る化合物として、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラールのようなアルデヒド類、ポリオキシメチレンのようなアルデヒド源、ヘキサメチレンテトラミンの他、レゾール型フェノール樹脂等の通常のフェノール樹脂で公知の架橋剤、リグニン誘導体の芳香環に対し親電子置換反応して架橋し得る化合物等を挙げることができる。そして、架橋剤中における上記化合物の含有率は架橋反応前において80質量%以上であるのが好ましい。また、リグニン誘導体100質量部に対して上記化合物は5〜60質量部であるのが好ましく、10〜50質量部であるのがより好ましい。
【0076】
さらに、上記化合物以外の架橋剤成分としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールのようなイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノナン−5−エンのようなアニオン系重合触媒、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルスルホニウムテトラフルオロボレートのようなスルホニウム塩、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートのようなジアゾニウム塩といったカチオン系重合触媒等が挙げられる。
【0077】
また、後述するようにリグニン誘導体に反応性官能基が導入されている場合、上記化合物に加え、その反応性官能基の種類に応じた架橋剤成分を適宜選択して用いるようにしてもよい。
【0078】
具体的には、反応性官能基がエポキシ基である場合、例えば、ノボラック型フェノール樹脂のようなフェノール樹脂、フェノール性水酸基を有するリグニン化合物、ジエチレントリアミン、m−キシリレンジアミン、N−アミノエチルピペラジンのようなアミン系化合物、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸のような酸無水物、ジシアンジアミド、グアニジン類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等の一般的なエポキシ樹脂用硬化剤が挙げられる。
【0079】
また、反応性官能基がイソシアネート基である場合、架橋剤成分としては、例えば、フェノール樹脂、リグニン分解物、ポリビニルアルコール、ポリアミン系化合物等の一般的なイソシアネート樹脂用硬化剤が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0080】
また、反応性官能基がビニル基である場合、架橋剤成分としては、例えば、ブチルリチウム、ナトリウムエトキシドのようなアニオン系重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)のようなラジカル重合開始剤等の一般的なビニル基含有化合物の重合開始剤が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0081】
また、反応性官能基がエチニル基である場合、架橋剤成分としては、例えば、5塩化モリブデン、5塩化タングステン、ノルボルナジエンロジウムクロリドダイマー等の一般的なエチニル基含有化合物の重合触媒が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0082】
また、反応性官能基がマレイミド基である場合、架橋剤成分としては、例えば、BPOのようなパーオキサイド、前述したアニオン系重合開始剤等の一般的なマレイミド基含有化合物の重合開始剤が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0083】
また、反応性官能基がシアネート基である場合、架橋剤成分としては、例えば、ナフテン酸コバルトのような金属触媒等の一般的なシアネート基含有化合物の重合触媒が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0084】
なお、これらの架橋剤成分を含む場合も、架橋剤中における上記化合物の含有率は架橋反応前において80質量%以上に設定するのが好ましい。
【0085】
(潜在性触媒)
また、上記架橋剤に加え、温度に応じて架橋剤の架橋反応の有無または架橋反応の速度を異ならせる潜在性触媒を含んでいてもよい。このような潜在性触媒を含むことにより、本発明のリグニン樹脂組成物およびリグニン樹脂成形材料は、加熱されたときに架橋剤の架橋反応を開始させたり、あるいは、架橋反応の反応速度を高めたりすることができるものとなる。これにより、上記成形材料を成形型のキャビティに充填する際には架橋反応を生じさせないあるいは反応速度が遅くなるようにし、成形が完了した時点で温度を上昇させ、架橋反応を生じさせたりあるいは反応速度が速くなるようにすることができる。その結果、キャビティに対して隙間なく成形材料を充填することができ、均質で機械的特性、耐久性および外観に優れた樹脂成形品が得られる。
【0086】
上記潜在性触媒としては、例えば、加熱により酸性物質を放出する化合物が挙げられる。この酸性物質は、上記架橋剤による架橋反応を促進させるよう作用する。これにより、加熱したときの硬化速度が速くなり、樹脂成形品の外観が向上するとともに製造効率を高めることができる。
【0087】
また、加熱により酸性物質を放出する化合物は、加熱により2以下の解離定数pKaを有する酸性物質を放出する化合物であるのが好ましい。潜在性触媒としてこのような酸性物質が放出される化合物を含むことにより、架橋剤による架橋反応を特に促進させることができる。
【0088】
2以下の解離定数pKaを有する酸性物質としては、例えば、シュウ酸(pKa=1.3)、p−トルエンスルホン酸(pKa=1.7)等が挙げられる。
【0089】
また、このような酸性物質を放出する化合物としては、例えば、シクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、4−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、4−ブチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、4−シクロヘキシルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2,6−ジメチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2,4−ジメチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3,4−ジメチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3,5−ジメチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−ヒドロキシシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、4−ヒドロキシシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、シクロヘキシル=4−ビフェニルスルホネート及び4,4’−ビシクロヘキシル=ビス(4−メチルベンゼンスルホネート)のようなベンゼンスルホン酸シクロヘキシル類、シクロヘキシル=1−ナフタレンスルホネート及びシクロヘキシル=2−ナフタレンスルホネートのようなナフタレンスルホン酸シクロヘキシル類といった各種の芳香族スルホン酸シクロヘキシル類等が挙げられる。このような芳香族スルホン酸シクロヘキシル類は、酸性物質を安定的に放出する一方、架橋剤による架橋反応を阻害し難いことから、潜在性触媒として有用である。
【0090】
また、これらの中でも特にベンゼンスルホン酸ヘキシル類が好ましく用いられ、さらには、シクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、3,5−ジメチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、4−ブチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、2−ヒドロキシシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート、および4−ヒドロキシシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく用いられ、とりわけシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートがさらに好ましく用いられる。これらのベンゼンスルホン酸ヘキシル類によれば、上記芳香族スルホン酸シクロヘキシル類がもたらす効果がより顕著なものとなる。
【0091】
また、上述した化合物において酸性物質が放出される加熱温度は120〜150℃程度であるのが好ましい。このような温度範囲は、リグニン誘導体と架橋剤とを含むリグニン樹脂成形材料を硬化する処理の温度に非常に近いため、例えばこの温度範囲より低温でリグニン樹脂成形材料を成形し、その後、この温度範囲まで昇温することによって、優れた成形性と硬化後の機械的特性とを高度に両立させることができる。
【0092】
(充填材)
充填材としては、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラスのようなケイ酸塩、酸化チタン、アルミナのような酸化物、溶融シリカ(溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ)、結晶シリカのようなケイ素化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトのような炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムのような水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウムのような硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウムのようなホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素のような窒化物等の粉末、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維片といった無機充填材の他、木粉、パルプ粉砕粉、布粉砕粉、熱硬化性樹脂硬化物粉、アラミド繊維のような有機充填材等が挙げられる。このうち、充填材としては、特に、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、ケイ素酸化物、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、木粉、パルプ粉砕粉、および布粉砕粉のうちの少なくとも1種を含むものが好ましく用いられる。これらの充填材は、リグニン樹脂成形材料から製造された樹脂成形品の膨張率を確実に低くすることができる。
【0093】
この場合、充填材の含有量は、樹脂材料100質量部に対して、10〜1000質量部であるのが好ましく、20〜500質量部であるのがより好ましく、100〜400質量部であるのがさらに好ましい。充填材の含有率が前記下限値を下回ると、リグニン樹脂成形材料から製造された樹脂成形品の膨張率を十分に低下させることができないおそれがある。一方、充填材の含有率が前記上限値を上回ると、充填材の割合が多すぎるため、リグニン樹脂成形材料の成形性が低下するおそれがある。
【0094】
また、充填材の平均粒径は、0.1〜500μm程度であるのが好ましく、0.2〜300μm程度であるのがより好ましい。充填材の平均粒径が前記範囲内であることにより、リグニン樹脂成形材料から製造された樹脂成形品は、低膨張率と優れた成形性とを高度に両立するものとなる。なお、充填材の平均粒径とは、充填材の粒度分布において、体積の累積で50%の部分に分布する粉末の粒径を指す。
【0095】
また、充填材の形状としては、例えば、フレーク状、樹枝状、球状、繊維状等が挙げられ、特に限定されない。
【0096】
なお、充填材が繊維状の場合は、繊維径0.5〜100μm、繊維長1〜50mm程度であるのが好ましい。
【0097】
(その他の成分)
なお、本発明のリグニン樹脂成形材料は、リグニン誘導体や架橋剤以外にその他の樹脂成分を含んでいてもよい。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分を含むことにより、樹脂成分の相対的な溶融粘度が低下するため、リグニン樹脂成形材料の成形性が向上する。なお、これらの樹脂成分を含む場合、架橋反応前においてリグニン誘導体の含有率が好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上になるよう調整される。
【0098】
本発明のリグニン樹脂成形材料は、上記の成分以外に、必要に応じて、メトキシナトリウム、t−ブトキシカリウムのようなアルカリ金属塩、酢酸カルシウムのようなアルカリ土類金属塩、Na
2O、K
2Oのようなアルカリ金属酸化物、CaO、BaOのようなアルカリ土類金属酸化物といった硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0099】
また特に、反応性基としてエポキシ基を有するリグニン二次誘導体を含む場合には、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールのようなイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノナン−5−エン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミンのような3級アミン類、トリフェニルホスフィン、テトラ−n−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート等を含んでいてもよい。
【0100】
また、反応性基として、メチロール基、ビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネ−ト基等を有するリグニン二次誘導体を含む場合には、例えば、前記重合触媒を含んでいてもよい。
さらに、必要に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。
【0101】
かかる添加剤としては、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシランのようなシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、アルミニウム/ジルコニウムカップリング剤のような各種カップリング剤、カーボンブラック、ベンガラのような着色剤、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類、水素硬化油のような合成ワックス、パラフィンワックス、モンタンワックスのような天然ワックス、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛のような高級脂肪酸およびその金属塩類、パラフィンのような離型剤、シリコーンオイル、シリコーンゴムのような低応力化成分、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、フォスファゼンのような難燃剤、酸化ビスマス水和物のような無機イオン交換体、内部離型剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものが用いられる。
【0102】
また、リグニン樹脂成形材料が離型剤を含む場合、離型剤の含有量は、リグニン誘導体100質量部に対して0.01〜10質量部であるのが好ましく、0.1〜5質量部であるのがより好ましい。なお、離型剤の含有量が前記未満である場合、リグニン樹脂成形材料を成形型に充填して成形したとき、離型性が不十分となるおそれがあり、一方、離型剤の含有量が前記上限値を上回る場合、リグニン樹脂成形材料の硬化性が低下するおそれがある。
【0103】
なお、本発明のリグニン樹脂成形材料は、液状、粉末状等の形態をなしていてもよいが、好ましくはタブレット状または顆粒状をなすものとされる。これにより、リグニン樹脂成形材料の成形安定性をより高めることができる。
【0104】
タブレットの形状としては、円柱、円錐、円錐台形等が挙げられる。
一方、顆粒の平均粒径は、10〜6000μm程度であるのが好ましく、100〜5000μm程度であるのがより好ましい。
【0105】
<リグニン成形材料の製造方法>
次に、本発明のリグニン樹脂成形材料を製造する方法について説明する。
【0106】
本発明のリグニン樹脂成形材料を製造する方法は、[1]バイオマスを溶媒存在下におき、これらを高温高圧下で分解処理する工程と、[2]処理物中の固形成分を極性溶媒で処理し、極性溶媒に対する不溶分と溶解液とを分離する工程と、[3]溶解液を乾燥させ、溶質(リグニン誘導体)を回収する工程と、[4]回収した溶質と架橋剤とを混合し、リグニン樹脂成形材料を得る工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0107】
[1]
まず、バイオマスを溶媒存在下におき、高温高圧下で分解処理する。バイオマスとは、前述したように植物または植物の加工品であるが、この植物としては、例えば、ブナ、白樺、ナラのような広葉樹、スギ、マツ、ヒノキのような針葉樹、竹、稲わらのようなイネ科植物、椰子殻等が挙げられる。
【0108】
そして、分解処理にあたり、バイオマスをブロック状、チップ状、粉末状等に粉砕しておくことが好ましい。その場合、粉砕後の大きさが100μm〜1cm程度であるのが好ましく、200〜1000μm程度であるのがより好ましい。このような大きさのバイオマスを用いることにより、液中でのバイオマスの分散性を高めるとともに、バイオマスの分解処理を効率よく行うことができる。
【0109】
本工程において用いる溶媒としては、例えば、水の他、メタノール、エタノールのようなアルコール類、フェノール、クレゾールのようなフェノール類、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、アセトニトリルのようなニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミドのようなアミド類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合溶媒が用いられる。
【0110】
また、溶媒としては特に水が好ましく用いられる。水としては、例えば、超純水、純水、蒸留水、イオン交換水等が用いられる。水を用いることにより、リグニン誘導体の意図しない変性が抑制されるとともに、分解処理に伴って発生する廃液が水性であることから、環境負荷を最小限に抑えることができる。溶媒の使用量としては、バイオマスに対して多いほどよいが、好ましくはバイオマスに対して1〜20質量倍程度であるのが好ましく、2〜10質量倍程度であるのがより好ましい。
【0111】
次に、溶媒存在下においたバイオマスを高温高圧下で分解処理する。これにより、バイオマスは、リグニン、セルロース、ヘミセルロース、およびその他のそれらの分解物や反応物等に分解される。
【0112】
高温高圧環境の生成においては、オートクレーブのような耐圧容器が用いられる。また、この耐圧容器としては、加熱手段や撹拌手段を備えているものが好ましく用いられ、高温高圧下でバイオマスを撹拌するようにするのが好ましい。また、必要に応じて容器内の温度など圧力に影響を与える要因とは独立に加圧する手段を備えていてもよい。かかる手段としては、例えば、容器内にアルゴンガス等の不活性ガスを導入する手段等が挙げられる。
【0113】
分解処理における条件は、処理温度が150〜400℃であるのが好ましく、180〜350℃であるのがより好ましく、220〜320℃であるのがさらに好ましい。処理温度が前記範囲内であれば、分解後に得られるリグニン誘導体の分子量を最適化することができる。これにより、リグニン樹脂成形材料の成形性と硬化後の機械的特性とをより硬度に両立させることができる。
【0114】
また、分解処理における処理時間は、480分以下であるのが好ましく、30〜360分であるのがより好ましい。処理時間が前記範囲内であれば、分解後に得られるリグニン誘導体の芳香族プロトンと脂肪族プロトンの比率が適切な値となり、かつ、リグニン樹脂成形材料の成形性と硬化後の機械的特性とを高度に両立させることができる。
【0115】
さらに、分解処理における圧力は、1〜40MPaであるのが好ましく、1.5〜25MPaであるのがより好ましく、3〜20MPaであるのがさらに好ましい。圧力が前記範囲内であれば、バイオマスの分解効率を格段に高めることができ、その分、処理時間の短縮化を図ることができる。
【0116】
なお、分解工程の前処理として、バイオマスと前記溶媒とを十分に撹拌し、両者をなじませる工程を行うのが好ましい。これにより、バイオマスの分解を特に最適化することができる。撹拌温度は、0〜150℃程度であるのが好ましく、10〜130℃程度であるのがより好ましい。また、撹拌時間は、1〜120分程度であるのが好ましく、5〜60分程度であるのがより好ましい。さらに、撹拌方法としては、ボールミル、ビーズミル等の各種ミル、撹拌翼を備えた撹拌機等を用いた方法、ホモジナイザー、ジェットポンプなどによる水流攪拌を用いた方法等が挙げられる。
【0117】
また、溶媒中には、必要に応じて、分解処理を促進する触媒、酸化剤を添加するようにしてもよい。この触媒としては、例えば、炭酸ナトリウムのような無機塩基類、酢酸、ギ酸のような無機酸類等が挙げられ、酸化剤としては、過酸化水素等が挙げられる。これらの触媒および酸化剤の添加量は、水溶媒中の濃度で0.1〜10質量%程度であるのが好ましく、0.5〜5質量%程度であるのがより好ましい。
【0118】
さらに、上記分解処理の前処理として、バイオマスと前記水溶媒とを十分に撹拌し、両者をなじませる工程を行うのが好ましい。これにより、バイオマスの分解を特に最適化することができる。
【0119】
なお、撹拌温度としては、0〜150℃程度であるのが好ましく、10〜130℃程度であるのがより好ましい。
【0120】
また、撹拌時間としては、1〜120分程度であるのが好ましく、5〜60分程度であるのがより好ましい。
【0121】
さらに、撹拌方法としては、ボールミル、ビーズミル等の各種ミル、撹拌翼を備えた撹拌機等を用いた方法、ホモジナイザー、ジェットポンプなどによる水流攪拌を用いた方法等が挙げられる。
【0122】
また、分解処理において用いる溶媒は、亜臨界または超臨界の状態(条件)で用いられるのが好ましい。亜臨界または超臨界の状態にある溶媒は、触媒等の特別な添加成分なしにバイオマスの分解処理を促進することができる。このため、煩雑な分離プロセスを用いずに、バイオマスを短時間で分解処理することが可能となり、リグニン誘導体の製造コストの低減および製造工程の簡略化を図ることができる。
一例として、水の臨界温度は約374℃、臨界圧力は約22.1MPaである。
【0123】
[2]
次に、耐圧容器内の処理物を濾過する。そして濾液を除去し、濾別した固形成分を回収する。そして、回収した固形成分を、リグニンが可溶な溶媒に浸漬する。リグニンが可能な溶媒に浸漬した固形成分は、溶媒に溶解する成分(可溶分)と溶媒に不溶な成分(不溶分)とに分離する。
【0124】
リグニンが可溶な溶媒としては、各種極性溶媒が用いられ、特にメタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類を含むものが好ましく用いられる。これらの極性溶媒を用いることにより、回収した固形成分から、極性溶媒に溶解するリグニン誘導体とこの極性溶媒に不溶なリグニン誘導体とを分離して抽出することができる。
【0125】
浸漬時間は、特に限定されないが、1〜48時間程度であるのが好ましく、2〜30時間程度であるのがより好ましい。また、浸漬時に溶媒の沸点以下で加温することも可能である。
【0126】
[3]
次に、浸漬工程により得られた処理物を濾過する。そして濾液(溶解液)からリグニンが可溶な溶媒を留去し、乾燥させた溶質(リグニン誘導体)を回収する。
一方、濾過により、処理物から不溶分も回収される。
【0127】
なお、リグニン二次誘導体を含むリグニン樹脂成形材料を得る際には、抽出されたリグニン誘導体に対して反応性官能基を含む化合物を接触させることにより、リグニン誘導体に反応性官能基を導入するようにしてもよい。
【0128】
反応性官能基を導入する方法としては、例えば、リグニン誘導体と反応性官能基を含む化合物とを混合する方法が用いられ、混合後、必要に応じて触媒等を添加するようにしてもよい。
【0129】
具体的には、エポキシ基を導入する場合、リグニン誘導体とエピクロロヒドリンと溶媒とを混合し、これに減圧還流下で水酸化ナトリウム等の塩基触媒を添加すればよい。
【0130】
また、ビニル基を導入する場合、リグニン誘導体とハロゲン化アリルまたはハロゲン化ビニルベンジル等のビニル基を含むハロゲン化合物と溶媒とを混合し、これに加熱攪拌下で水酸化ナトリウム等の塩基触媒を添加すればよい。
【0131】
また、エチニル基を導入する場合、リグニン誘導体とハロゲン化プロパルギルまたはハロゲン化フェニルアセチレン等のエチニル基を含むハロゲン化合物と溶媒とを混合し、これに加熱攪拌下で水酸化ナトリウム等の塩基触媒を添加すればよい。
【0132】
また、シアネート基を導入する場合、リグニン誘導体とハロゲン化シアネートと溶媒とを混合し、これに加熱攪拌下で水酸化ナトリウム等の塩基触媒を添加すればよい。
【0133】
また、マレイミド基を導入する場合、リグニン誘導体とパラクロロニトロベンゼンとを混合する。これにより、リグニン誘導体のフェノール性水酸基にクロロ基が反応し、エーテル結合を介して結合したポリニトロ化リグニンが得られる。次いで、ポリニトロ化リグニンを還元することで、ポリアミノ化リグニンに変換され、さらに無水マレイン酸と反応させることで、マレイミド基が導入される。
【0134】
また、イソシアネート基を導入する場合、リグニン誘導体と無水マレイン酸とを混合することで、リグニン誘導体中の水酸基がカルボキシル基に変換される。その後、混合物をジフェニルリン酸アジド存在下で加熱することにより、イソシアネート基が導入される。
【0135】
[4]
次に、回収した溶質(リグニン誘導体)と、架橋剤と、必要に応じて添加される充填材およびその他の成分と、を混合する。これにより、リグニン樹脂成形材料が調製される。
【0136】
また、混合する際には、熱板や、加圧ニーダー、ロール、コニーダー、二軸押し出し機等の混練機等を用い、混合物が硬化する温度未満で加熱溶融混練する。加熱する際の具体的な加熱温度は、選択する組成に応じて若干異なるが、好ましくは50〜130℃程度とされる。前記混合物を冷却したものを粉砕することにより、顆粒状のリグニン樹脂成形材料が得られる。
【0137】
また、リグニン樹脂成形材料を調製する際には、必要に応じて有機溶媒を添加するようにしてもよい。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセルソルブ、アセトン、メチルセルソルブ、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、キノリン、シクロペンタノン、キシレン、m−クレゾール、クロロホルム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0138】
なお、必要に応じて、希釈剤を添加するようにしてもよい。希釈剤としては、例えば、ブチルセロソルブ、カルビトール、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸カルビトール、エチレングリコールジエチルエーテル、α−テルピネオール等の比較的沸点の高い有機溶媒が挙げられる。
さらには、その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0139】
かかる添加剤としては、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシランのようなシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、アルミニウム/ジルコニウムカップリング剤のような各種カップリング剤、カーボンブラック、ベンガラのような着色剤、ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類、水素硬化油のような合成ワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ステアリン酸のような天然ワックス、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛のような高級脂肪酸およびその金属塩類、パラフィンのような離型剤、シリコーンオイル、シリコーンゴムのような低応力化成分、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、フォスファゼンのような難燃剤、酸化ビスマス水和物のような無機イオン交換体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものが用いられる。
【0140】
<リグニン樹脂成形品>
次に、本発明のリグニン樹脂成形材料から製造されるリグニン樹脂成形品について説明する。リグニン樹脂成形品は、本発明のリグニン樹脂成形材料を成形した後、硬化させることにより製造される。
【0141】
具体的には、リグニン樹脂成形材料を成形金型内で加熱加圧成形した後、硬化させることにより製造される。
【0142】
加熱加圧成形時の温度は、100〜280℃程度であるのが好ましく、120〜250℃程度であるのがより好ましい。また、圧力は、0.5〜20MPa程度であるのが好ましく、1〜10MPa程度であるのがより好ましい。
【0143】
得られるリグニン樹脂成形品は、例えば、半導体部品、航空機部品、自動車部品、産業用機械部品、電子部品、電気部品、機構部品等の用途に適用される。
【0144】
なお、成形方法は特に限定されず、本発明のリグニン樹脂成形材料は、公知の成形法、例えば、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、キャスト成形法等を用いて成形品とすることができる。このようにして得られる成形品の形態は、どのような形態であってもよく、例えば、成形材料を最終成形品にする前の中間成形品であっても、最終成形品であってもよい。
【0145】
なお、リグニン樹脂成形材料は、加熱されることにより、リグニン誘導体が架橋剤で架橋されて硬化するが、脱アルコール反応や脱水反応に伴う縮合反応により、架橋剤とリグニン誘導体の架橋反応点とが架橋するものと考えられる。
【0146】
さらに、リグニン誘導体がメチロール化されている場合、脱水縮合反応が生じ、架橋剤とメチロール基とが架橋するとともに、架橋剤同士やリグニン誘導体同士が自己縮合する。
【0147】
以上のような反応により、リグニン樹脂組成物およびリグニン樹脂成形材料が硬化する際、上記反応に伴う揮発成分の発生が穏やかであるため、膨れやボイド等の不具合を効果的に抑えることができる。
【0148】
以上、本発明について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、リグニン樹脂組成物およびリグニン樹脂成形材料には任意の成分が添加されていてもよい。
【0149】
また、リグニン樹脂組成物を紙や布帛等の芯材に含浸させることにより、機械的特性、耐久性および外観に優れた樹脂板を製造することができる。芯材としては、例えば、薄葉紙、クラフト紙、チタン紙、リンター紙、板紙、石膏ボード用原紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙、和紙等の各種紙、ガラス繊維、石綿繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭素繊維、金属繊維、鉱物繊維のような無機質繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維のような合成樹脂繊維または天然繊維等の各種繊維の不織布または織布等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の複合体が用いられる。
【実施例】
【0150】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.リグニン樹脂成形材料およびリグニン樹脂成形品の製造
【0151】
(実施例1)
(1)リグニン誘導体の抽出
スギ木粉(60メッシュアンダー)100gと、純水からなる溶媒400gと、を混合し、これを1Lオートクレーブに導入した。そして内容物を300rpmで攪拌しながら、前処理として室温で15分間撹拌を行い、スギ木粉と溶媒とを十分になじませた後、300℃、10MPaで60分間処理して、スギ木粉を分解した。
【0152】
次いで、得られた分解物を濾過し、濾別された固形成分を回収した。
次いで、得られた固形成分を極性溶媒であるアセトンに浸漬し、アセトンに対する不溶分と可溶分とに分離した。これを濾過し、濾別された溶解液を回収した。
次いで、溶解液を乾燥させ、溶質(リグニン誘導体)を回収した。
【0153】
(2)リグニン樹脂成形材料の調製
次いで、得られたリグニン誘導体100質量部と、ヘキサメトキシメチルメラミン(東京化成品工業社製試薬一級)30質量部と、シリカ粉末(電気化学社製、平均粒径15μm)200質量部と、を配合し、熱ロールで90℃、5分間混練してシート状の混練物を得た。なお、ヘキサメトキシメチルメラミンは、架橋剤成分であり、上記式(7)で表される化合物(ただし、n=1)である。
【0154】
次いで、シート状の混練物を冷却させた後、これを粉砕することにより、平均粒径3mmの顆粒状のリグニン樹脂成形材料を得た。
【0155】
(3)リグニン樹脂成形品の製造
次に、得られた顆粒状のリグニン樹脂成形材料をタブレットマシンに供給し、外径20mmのタブレットとした。
【0156】
次いで、トランスファー成形により、175℃、6.9MPaの成形条件で5分間成形し、平均厚さ1.6mmの板状のリグニン樹脂成形品を得た。
【0157】
(実施例2〜13)
バイオマスの種類、リグニン誘導体の抽出条件、およびリグニン樹脂成形材料の調製条件をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0158】
(実施例14)
架橋剤成分をヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルに変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルは、上記式(6)で表される化合物(ただし、n=1)である。
【0159】
(実施例15)
架橋剤成分をペンタメトキシメチルメラミン(三和ケミカル社製MX−750LM)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、ペンタメトキシメチルメラミンは、下記式(11)で表される化合物である。
【0160】
【化18】
【0161】
(実施例16)
リグニン樹脂成形材料に、加熱によりp−トルエンスルホン酸(pKa=1.7)を放出する化合物としてシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートを2質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、シクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートの酸放出温度は138℃である。
【0162】
(実施例17)
リグニン樹脂成形材料に、加熱によりp−トルエンスルホン酸(pKa=1.7)を放出する化合物として4−ブチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートを2質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、4−ブチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネートの酸放出温度は144℃である。
【0163】
(実施例18)
抽出したリグニン誘導体をアルカリ水溶液中でホルムアルデヒドと接触させ、メチロール化した。そして、このメチロール化したリグニン誘導体を用いてリグニン樹脂成形材料を調製するようにした以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0164】
(実施例19)
リグニン樹脂成形材料に液状エポキシ樹脂を添加するようにした以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、リグニン樹脂/エポキシ樹脂の比率(質量比)が70/30となるようにした。また、架橋剤として上記式(7)で表される化合物21質量部に加え、トリフェニルホスフィンを添加した。なお、トリフェニルホスフィンの添加量は、樹脂材料100質量部に対して1質量部とした。また、液状エポキシ樹脂として、アデカ製 アデカサイザー O−180Aを使用した。
【0165】
(実施例20)
リグニン樹脂成形材料に液状フラン樹脂を添加するようにした以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、フラン樹脂の添加量は、リグニン樹脂/フラン樹脂の比率(質量比)が70/30となるようにした。また、液状フラン樹脂として、住友ベークライト社製 FR−16475を使用した。
【0166】
(実施例21、22)
バイオマスの種類を表2に示すように変更し、バイオマスの分解、リグニン誘導体の抽出処理を以下のように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0167】
まず、バイオマスの粉50gを2Lビーカーにとり、p−クレゾールのメタノール溶液を加え、ガラス棒で撹拌し、24時間静置した。その後、メタノールを完全に留去して、p−クレゾール収着木粉を得た。この木粉に対して、72質量%硫酸500mlを加え、30℃で1時間激しく撹拌した後、混合物を大過剰の水に投入し、不溶分を回収した。
次いで、回収した不溶分を脱酸し、乾燥させてリグニン誘導体を得た。
【0168】
(実施例23)
(1)リグニン誘導体の抽出
実施例1と同様にしてリグニン誘導体を抽出した。
【0169】
(2)リグニン樹脂成形材料の調製
次いで、攪拌機および冷却管を備えた3つ口フラスコに、抽出したリグニン誘導体と、エピクロロヒドリンとを導入し、100mmHg(1.3×10
4Pa)の圧力下で減圧還流しながら、20質量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液2gを30分かけて滴下した。その後、90分間減圧還流状態を保持して反応処理物を得た。
【0170】
次いで、反応処理物から不溶分を濾過して取り除き、エピクロロヒドリン可溶部を単離した。そして、このエピクロロヒドリン可溶部からエピクロロヒドリンを留去し、乾燥させることでエポキシ基が導入されたリグニン二次誘導体を得た。
【0171】
その後、得られたリグニン二次誘導体を用いるとともに、シリカ粉末の含有率を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形材料を得た。
【0172】
(3)リグニン樹脂成形品の製造
次いで、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0173】
(実施例24)
実施例4と同様にしてリグニン誘導体を抽出するとともに、エピクロロヒドリンに代えてアリルプロミドを用いるようにし、ビニル基が導入されたリグニン二次誘導体を得た後、これを用いてリグニン樹脂成形材料を調製するようにした以外は、実施例23と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、シリカ粉末の含有率は表3に示すように変更した。
【0174】
(実施例25)
実施例8と同様にしてリグニン誘導体を抽出し、これを用いるとともに、リグニン樹脂成形材料の調製条件を表3に示すように変更した以外は、実施例23と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0175】
(実施例26)
架橋剤成分をニカラックMX−290(三和ケミカル製、上記式(3)で表される化合物のRをCH
3としたものに相当。)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0176】
(実施例27)
架橋剤成分をニカラックMX−280(三和ケミカル製、上記式(4)で表される化合物のRをCH
3としたものに相当。)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0177】
(実施例28)
架橋剤成分をニカラックMX−270(三和ケミカル製、上記式(5)で表される化合物のRをCH
3としたものに相当。)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0178】
(実施例29)
架橋剤成分を下記式(12)で表される化合物に変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0179】
【化19】
【0180】
(実施例30)
架橋剤成分を下記式(13)で表される化合物に変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0181】
【化20】
【0182】
(実施例31)
架橋剤成分をキヌクリジンに変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0183】
(実施例32)
架橋剤成分をピジンに変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。
【0184】
(比較例1)
以下のようにして調製されたフェノール樹脂成形材料を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてフェノール樹脂成形品を得た。
【0185】
市販のノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製 PR−53195)を100質量部、ヘキサメチレンテトラミン10質量部、シリカ粉末(電気化学社製、平均粒径15μm)200質量部と、を配合し、熱ロールで90℃、5分間混練してシート状の混練物を得た。
【0186】
次いで、シート状の混練物を冷却させた後、これを粉砕することにより、平均粒径3mmの顆粒状のフェノール樹脂成形材料を得た。
【0187】
(比較例2)
架橋剤成分をヘキサメチレンテトラミンに変更した以外は、実施例1と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、ヘキサメチレンテトラミンは、リグニン誘導体100質量部に対して10質量部の割合で添加した。
【0188】
(比較例3)
架橋剤成分をヘキサメチレンテトラミンに変更した以外は、実施例6と同様にしてリグニン樹脂成形品を得た。なお、ヘキサメチレンテトラミンは、リグニン誘導体100質量部に対して10質量部の割合で添加した。
【0189】
以上、各実施例および各比較例におけるリグニン樹脂成形品の製造条件を表1、2、4に示す。なお、表1、2、4における略称は、以下に示す化合物に対応している。
【0190】
HMMM:ヘキサメトキシメチルメラミン
HMMPME:ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル
PMMM:ペンタメトキシメチルメラミン
HMTA:ヘキサメチレンテトラミン
CH4MBS:シクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート
4BC4MBS:4−ブチルシクロヘキシル=4−メチルベンゼンスルホネート
MX−290:ニカラックMX−290
MX−280:ニカラックMX−280
MX−270:ニカラックMX−270
【0191】
2.リグニン誘導体の評価
2.1 ゲルタイムの評価
各実施例および各比較例で得られたリグニン誘導体90gに対してヘキサメトキシメチルメラミン(東京化成品工業社製試薬一級)10gを添加し、この試料について、JIS K 6910に規定の方法に準じて150℃におけるゲルタイム(ゲル化時間)を測定した。測定結果を表1、2に示す。
【0192】
表1、2から明らかなように、各実施例で用いたリグニン誘導体は、ゲルタイムの値が低過ぎずかつ高過ぎない範囲(好ましくは30〜190程度)のものとなるため、このようなリグニン誘導体を含むリグニン樹脂成形材料は、成形性が高く、かつ硬化後の機械的特性に優れたものとなる。
【0193】
2.2 NMR分析による評価
各実施例および各比較例で得られたリグニン誘導体について、
1H−NMR分析による化学シフトのスペクトルを取得し、脂肪族プロトンに帰属する複数のピークの積分値に対する芳香族プロトンに帰属する複数のピークの積分値の割合を算出し、算出結果を表1、2に示す。
【0194】
2.3 数平均分子量の評価
各実施例および各比較例で得られたリグニン誘導体について、数平均分子量(Mn)を測定し、測定結果を表1、2に示す。
【0195】
3.リグニン樹脂成形材料およびリグニン樹脂組成物の評価
3.1 スパイラルフローの評価
各実施例および各比較例で得られたリグニン樹脂成形材料について、スパイラルフローを測定した。測定にはスパイラルフロー測定用金型を用い、低圧トランスファー成形機にて温度175℃、射出圧6.9MPa、保圧時間300秒の条件でEMMI−1−66に規定の方法に準じてスパイラルフロー(SF)値(単位:cm)を測定した。そして、測定したスパイラルフロー値を以下の評価基準にしたがって評価した。
【0196】
<流動性の評価基準>
〇:スパイラルフロー値が70cm以上である
×:スパイラルフロー値が70cm未満である
【0197】
3.2 溶融粘度の評価
各実施例および各比較例の成形材料処方から、充填材を除いた樹脂処方を用いて、メタノールに溶解した固形分濃度40%の樹脂ワニス(リグニン樹脂組成物)を得た。そして、この樹脂ワニスを減圧下50℃で脱溶媒して樹脂組成物の固形分を単離し、得られた固形分の150℃における溶融粘度を測定した。そして、以下に示す評価基準にしたがって評価した。
【0198】
<溶融粘度の評価基準>
◎◎:最低溶融粘度が3Pa・s未満である
◎:最低溶融粘度が3Pa・s以上5Pa・s未満である
○:最低溶融粘度が5Pa・s以上15Pa・s未満である
△:最低溶融粘度が15Pa・s以上30Pa・s未満である
×:最低溶融粘度が30Pa・s以上である
【0199】
なお、樹脂ワニスの溶融粘度の測定には、アレス粘弾性測定装置(TAインスツルメンツジャパン社製)を用いた。また、治具としてφ20mmのパラレルプレートを用い、ギャップを1mmに設定した。そして、150℃において1Hzで歪みを変化させて歪み依存性を測定することにより測定した。
【0200】
4.リグニン樹脂成形品の評価
4.1 曲げ破断時伸びの評価
各実施例および各比較例で得られたリグニン樹脂成形品について、JIS−C6481に規定の方法に準じて、破断するまでの曲げ試験を行った。そして、試験前寸法に対する試験後寸法の変化の割合(曲げ破断時伸び)を、以下の評価基準に従って評価した。
【0201】
<曲げ破断時伸びの評価基準>
〇:曲げ破断時伸びが1%以上である
×:曲げ破断時伸びが1%未満である
【0202】
4.2 外観の評価
各実施例および各比較例で得られたリグニン樹脂成形品について、外観を目視で確認し、以下の評価基準にしたがって評価した。
【0203】
<外観の評価基準>
◎:成形品の表面が平滑で、ひずみ、しわ、斑点が認められない
○:成形品の表面に肉眼では分からない凹凸が認められる、または、ひずみ、しわ、斑点が1〜2個である
△:成形品の表面に肉眼で分かる凹凸が認められる、または、ひずみ、しわ、斑点が3〜5個である
×:成形品の表面に肉眼で分かる著しい凹凸が認められる、または、ひずみ、しわ、斑点が6個以上である
以上、3および4の評価結果を表1〜4に示す。
【0204】
【表1】
【0205】
【表2】
【0206】
【表3】
【0207】
【表4】
【0208】
表1〜4から明らかなように、各実施例で得られたリグニン樹脂成形材料は、流動性が高く、このため成形性に優れていることが認められた。そして、この成形材料により製造された成形品の外観は良好であった。また、各実施例で得られたリグニン樹脂成形品は、その外観も良好であった。なお、比較例1で得られたフェノール樹脂成形材料は、植物由来成分を含まないが、この成形材料および成形品については各実施例と同様であった。
【0209】
一方、比較例2、3で得られたリグニン樹脂成形材料は、流動性が低く、このため成形性が低いことが認められた。そして、この成形材料により製造された成形品の外観には、やや大きな凹凸や多数のひずみ、しわ、斑点等が認められたが、これらは成形材料の成形性が低いことに起因するものと考えられる。また、比較例2、3で得られたリグニン樹脂成形品は、脆い傾向にあり、破断時にほとんど伸びないことが認められた。
【0210】
以上のことから、本発明によれば、流動性および硬化後の機械的特性に優れたリグニン樹脂組成物、および、成形性および硬化後の機械的特性に優れたリグニン樹脂成形材料が得られることが明らかとなった。