(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記打ち抜き装置によって打ち抜きが行われた前記検査片の前記薄膜塗工シートからの分離を促進する検査片分離促進装置を更に備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の薄膜塗工シート製造装置。
前記打ち抜き装置の前段に配置され、塗工後の前記薄膜塗工シートを乾燥させる乾燥装置を更に備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の薄膜塗工シート製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の薄膜塗工シート製造装置においては、薄膜塗工シートを正確に垂直に打ち抜く際には、薄膜塗工シートの移動を、一旦、停止させる必要がある。そうでなければ、薄膜塗工シートが打ち抜きの際に損傷してしまうからである。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、薄膜塗工シートの移動を停止することなく、検査片を打ち抜くことが可能な薄膜塗工シート製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明に係る薄膜塗工シート製造装置は、電極である薄膜塗工シートから検査片を取得する打ち抜き装置と、前記検査片の取得後に前記薄膜塗工シートを巻き取る巻き取り装置と、前記打ち抜き装置及び前記巻き取り装置を制御する制御装置と、を備えた薄膜塗工シート製造装置において、前記打ち抜き装置は、前記検査片を打ち抜くための刃素子と、前記刃素子が設けられたローラと、前記刃素子と前記薄膜塗工シートとが対向した際の前記刃素子と前記薄膜塗工シートとの間の相対距離を縮小することで、前記検査片を打ち抜いて取得する刃素子適用手段と、を備え、前記制御装置は、前記検査片の取得時においては、前記巻き取り装置による前記薄膜塗工シートの巻き取り時の移動に同期して、前記ローラを回転させつつ、前記刃素子適用手段により前記相対距離を縮小するよう、前記巻き取り装置、前記ローラ、及び、前記刃素子適用手段を制御し、前記刃素子適用手段は、前記ローラの回転軸を、前記薄膜塗工シートに近づける回転軸駆動機構を備え、
前記刃素子は、切断時において前記薄膜塗工シートに当たる刃を備え、前記ローラの回転軸に垂直な断面内における、前記刃素子の前記ローラの周方向の一端部分である、前記刃素子の前記刃の部分は、この断面内における長手方向が前記ローラの径方向に沿って延びており、前記ローラの回転軸と、前記薄膜塗工シートとが近づき、前記刃素子の前記一端部分が、前記薄膜塗工シートに当接した時点で、前記刃素子の一端部分の長手方向と、前記薄膜塗工シートの表面の成す角度が、80°〜100°となることを特徴とする。なお、相対距離が縮小するとは、刃素子と薄膜塗工シートとの相対距離が短くなる場合に限らず、刃素子が薄膜塗工シートの下方に位置するように、刃素子と薄膜塗工シートとの相対距離が負となる場合を含む。
【0007】
本発明の薄膜塗工シート製造装置によれば、検査片の取得時においては、薄膜塗工シートの移動に同期して、ローラを回転させつつ、刃素子を薄膜塗工シートに相対的に近づけている。これにより、薄膜塗工シートの移動速度と、回転するローラに設けられた刃素子の先端の周速度との間の相対速度を原則的にはゼロとすることができる。したがって、巻き取り装置による巻き取りを停止することなく、薄膜塗工シートを移動させながら、刃素子を薄膜塗工シートに押し当てて検査片を打ち抜き、これを取得することが可能となる。
【0008】
また、
上記のように、前記刃素子適用手段は、前記ローラの回転軸を、前記薄膜塗工シートに近づける回転軸駆動機構を備えることを特徴とする。ローラの回転軸を、薄膜塗工シートに近づけると、ローラに設けられた刃素子も薄膜塗工シートに近づくことができ、刃素子を薄膜塗工シートに押し当てて検査片を打ち抜き、これを取得することが可能となる。
【0009】
また、前記刃素子は、前記ローラに固定されていることとしてもよい。刃素子の先端位置は、ローラ回転時の回転半径を与えている。したがって、刃素子を固定して、ローラを移動させれば、刃素子の径方向移動時の回転半径の変化を抑制し、検査片を高い制御性で打ち抜くことができる。
また、前記薄膜塗工シートが移動する方向をX方向、前記薄膜塗工シートの幅方向をY方向、X方向及びY方向の双方に垂直な方向をZ方向、とした場合、XZ平面内において、前記刃素子の刃の先端部は、円弧を描いていることを特徴とする。
【0010】
また、前記刃素子適用手段は、前記刃素子を前記ローラ内に収容する第1状態と、前記刃素子を前記ローラの外周面の外側に露出させる第2状態と、を切り替える刃素子駆動装置を備えることを特徴とする。刃素子単独の質量は、刃素子を有するローラの質量よりも小さいため、慣性が小さく、刃素子をローラに対して移動させた方が、ローラ自体を移動させる場合よりも、刃素子を高速かつ少ないエネルギー消費で移動させ、検査片を打ち抜くことができる。なお、刃素子駆動装置は、上述のローラを移動させる回転軸駆動機構がある場合においても、無い場合においても、適用することができる。
【0011】
また、刃素子駆動装置を備える場合において、前記刃素子は、前記ローラの外周面から内部に向けて延びた凹部内に配置され、前記凹部の内面に沿ってスライドする基部と、前記基部の前記ローラの外周面側の先端部に設けられた刃と、を備え、前記刃素子駆動装置は、前記基部をスライドさせる電気的アクチュエータと、前記電気的アクチュエータに駆動電力を供給する駆動回路とを備えることを特徴とする。
【0012】
駆動回路から、電気的アクチュエータに駆動電力を供給すると、刃素子の基部が凹部内をスライドし、刃が径方向に移動し、刃がローラ内部に収容され、又は、外部に露出することができる。電気的アクチュエータは、電磁コイルなどを用いることができるが、圧電素子などのアクチュエータを用いることも原理的には可能である。
【0013】
また、前記刃素子は、前記ローラの外周面から内部に向けて延びた凹部内に配置され、前記凹部の内面に沿ってスライドする基部と、前記基部の前記ローラの外周面側の先端部に設けられた刃と、を備え、前記刃素子駆動装置は、前記基部をスライドさせる油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータに油を供給する油圧供給装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
油圧供給装置から、油圧アクチュエータに油を供給すると、刃素子の基部が凹部内をスライドし、刃が径方向に移動し、刃がローラ内部に収容され、又は、外部に露出することができる。
【0015】
また、本発明の薄膜塗工シート製造装置は、打ち抜き装置によって打ち抜きが行われた検査片の前記薄膜塗工シートからの分離を促進する検査片分離促進装置を更に備えることができる。薄膜塗工シートは、薄く重量が軽いため、刃素子が薄膜塗工シートを切断しているにも拘らず、検査片の周辺部位がこれに隣接する薄膜塗工シートに引っかかり、検査片を収容できない場合がある。そこで、本装置では、検査片分離促進装置を備えることとし、検査片が薄膜塗工シートから分離しやすくなるようにした。
【0016】
また、本発明の薄膜塗工シート製造装置は、前記打ち抜き装置の前段に配置され、塗工後の前記薄膜塗工シートを乾燥させる乾燥装置を更に備えることを特徴とする。塗工後に乾燥させることで、薄膜を材料シートに十分に固定させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の薄膜塗工シート製造装置によれば、薄膜塗工シートの移動を停止することなく、検査片を打ち抜くことが可能なため、高いスループットで、薄膜塗工シートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態に係る薄膜塗工シート製造装置について説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、薄膜塗工シート製造装置の全体構成を示す図である。
【0021】
本例における薄膜塗工シートSTは、リチウムイオン二次電池などに用いられる電極である。この電極は、基材となる銅又はアルミニウムなどからなる薄い材料シートST’上に、活物質層や保護膜となる塗工材からなる薄膜を塗布して形成する。薄膜材料としては、活物質層を構成するグラファイト、カーボン、リチウムコバルト酸化物、二酸化ケイ素、又は、ケイ素、或いはこれら材料のうち2種以上を含む混合物と樹脂材料との混合材料、保護膜を構成するポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂材料などが挙げられるが、材料自体は用途により様々であり、特に限定されるものではない。材料シートST’上に塗工材を塗布した後には、塗工材は乾燥され、その後、巻き取り装置6によって、ロール状に巻き取られる。
【0022】
この薄膜塗工シート製造装置は、材料シートST’をロール状に巻いた初期ロール体10を配置する巻き出し装置1を備えている。材料シートST’は、巻き取り装置6が薄膜塗工シートSTを巻き取る動作によって引っ張られ、塗工装置2へと移動し、続いて、乾燥装置3、打ち抜き装置4を経て、最後に巻き取り装置6によって巻き取られる。初期の材料シートST’は、ロール状に巻かれているので、巻き出し装置1は、初期ロール体10の中心を回転可能に支持する回転軸を備えており、巻き取り装置6による巻き取りに応じて、材料シートST’を塗工装置2に向けて繰り出す。
【0023】
塗工装置2は、上述の活物質層や保護層の原材料となる塗工材を、材料シートST’上に塗布するディスペンサである。活物質層や保護膜を塗布する塗工装置2としては、グラビア塗工装置やダイコーティング技術を用いた印刷装置が良く知られているが、塗工装置としては、他にも数多くのものが知られている。薄膜塗工シート製造装置は、検査片Sを打ち抜くための打ち抜き装置4を備えている。打ち抜き装置4の前段には、塗工後の薄膜塗工シートを乾燥させる乾燥装置3を更に備えている。塗工装置2による塗工後に、乾燥装置3によって、塗工材を乾燥させることで、塗工材からなる薄膜を材料シートST’に十分に定着させ、固定させることができる。薄膜が塗工された材料シートST’は、薄膜塗工シートSTとして、打ち抜き装置4へと移動する。
【0024】
乾燥装置3としては、種々の種類がある。乾燥装置3は、加熱装置でもあり、必要に応じて、送風機を内蔵するものである。乾燥装置3としては、電熱コイルを用いた電気炉、グラファイトなどの抵抗体に通電することで発熱する抵抗加熱装置、光を用いたランプ加熱装置、又は、油の燃焼や太陽熱、太陽光を用いた加熱装置が挙げられる。本例では、安定した温度制御が容易な電気炉を採用することとする。
【0025】
打ち抜き装置4は、薄膜塗工シートSTから検査片Sを取得する。薄膜塗工シートSTは、検査片Sの取得後に巻き取り装置6によって、巻き取られ、最終ロール体20を構成する。巻き取り装置6は、最終ロール体20の中心を回転可能に支持する回転軸と、回転軸を回転させるためのモータ(図示せず)を備えている。
【0026】
また、薄膜塗工シート製造装置は、打ち抜き装置4によって打ち抜きが行われた検査片の薄膜塗工シートSTからの分離を促進する検査片分離促進装置5を更に備えている。薄膜塗工シートSTは、薄く重量が軽いため、打ち抜き装置4における刃素子が薄膜塗工シートを切断しているにも拘らず、検査片Sの周辺部位がこれに隣接する薄膜塗工シートSTに引っかかり、検査片Sを容器7内に収容できない場合がある。そこで、本装置では、検査片分離促進装置5を備えることとし、検査片Sが薄膜塗工シートSTから分離しやすくなるようにした。検査片分離促進装置5としては、検査片Sに向けて風を送る送風機などを採用することができる。
【0027】
制御装置8は、巻き出し装置1、塗工装置2、乾燥装置3、打ち抜き装置4、検査片分離促進装置5、及び巻き取り装置6を制御することができる。すなわち、制御装置8は、巻き取り装置6における巻き取り用のモータの回転速度を制御し、巻き出し装置1の回転軸を回転させるモータの回転速度を制御することで、巻出し装置1から繰り出される材料シートのテンションを制御することができる。また、制御装置8は、塗工装置2における塗工動作、乾燥装置3における乾燥処理、打ち抜き装置4による打ち抜き動作、及び、検査片分離促進装置5による分離促進動作を制御することができる。
【0028】
打ち抜き装置4によって打ち抜かれた検査片Sは、容器7内に収容される。検査片Sは、例えば厚み検査装置(例:エリプソメータ)などによって検査が行われ、必要に応じて、検査結果が検査片Sの薄膜塗工シートにおける取得位置と共に、制御装置8に記憶される。容器7内に検査装置を配置して、自動的に検査結果を取得することもできるし、操作者が手作業で検査結果を制御装置8に入力することもできる。この検査結果は、最終ロール体20の品質を示すものとなる。厚みを測定する簡便な検査装置としては、重量計を用いることも可能である。計測した重量或いは厚みが規定範囲内であれば良品と判定し、規定範囲外であれば不良品と判定することができる。一般的な薄膜の厚みは、数μm〜数十μmであるが、これは薄膜の種類によって変動する。
【0029】
複数の位置において取得した検査片Sの品質(厚み)が、全て、規定範囲内であれば、最終ロール体20の品質は、出荷に適合するものとなる。例えば、1000mのロールに塗工処理を行う場合において、20m毎に検査片Sの取得を行い、その検査結果が全て規定範囲内であれば、良品であると判定することができる。また、塗工工程を実行しながら逐次検査を行う場合、検査結果が規定範囲外となった場合に装置の稼働を停止し、原因を究明することも可能である。また、検査片Sの取得位置情報を記憶しているので、最終ロール体20の形成後に、薄膜塗工シートを使用する際、検査結果が規定範囲外の結果を示す領域の薄膜塗工シートを不良品として除外することも可能である。
【0030】
以下、打ち抜き装置4の構成を更に詳しく説明する。
【0031】
図2は、打ち抜き装置4の構成を説明するための斜視図である。なお、以下では、XYZ
直交座標系を設定する。打ち抜き装置4の近傍において、薄膜塗工シートSTが移動する方向をX方向、薄膜塗工シートSTの幅方向をY方向、X方向及びY方向の双方に垂直な方向をZ方向とする。
【0032】
打ち抜き装置4は、上部のローラ4U及び下部のローラ4Lを備えている。上部のローラ4U及び下部のローラ4Lの回転軸は、共にY軸に平行である。乾燥装置3は、薄膜塗工シートSTを囲む筐体3Aを備えており、筐体3Aの排出口3Bから、乾燥した薄膜塗工シートSTが、X方向に沿って、打ち抜き装置4に移動してくる。上部のローラ4Uと下部のローラ4Lとは対向しており、これらのローラ4U,4Lは、薄膜塗工シートSTを厚み方向(Z方向)に挟むことができる。
【0033】
打ち抜き装置4において、刃素子による打ち抜きにより、薄膜塗工シートSTから検査片Sが切り出された後、
図1に示した検査片分離促進装置5から、Z軸方向に力Fが与えられ、検査片Sが薄膜塗工シートSTから分離し、分離した後には薄膜塗工シートSTには孔Hが形成され、検査片Sは、
図1に示した容器7内に落下して収容される。ここでの検査片分離促進装置5は、Z軸方向の負方向(下方向)に向けて風を送る送風機であるが、これはエジェクタピンのように、Z軸負方向に移動して検査片Sを押圧して薄膜塗工シートSTから分離させる押圧部材であってもよい。
【0034】
なお、ローラ4U,4Lの周囲には必要に応じて、保護板が設けられ、ユーザがローラ4U,4Lに近づかないようにすることができる。保護板は、内部を観察できるように透明板から構成することもできる。
【0035】
図3は、打ち抜き装置の動作を説明するため、打ち抜き装置4を側方から見た図である。
【0036】
打ち抜き装置4は、検査片Sを打ち抜くための刃素子4Tと、刃素子4Tが設けられたローラ4Uと、刃素子4Tと薄膜塗工シートSTとが対向した際の刃素子4Tと薄膜塗工シートSTとの間の相対距離を縮小することで、検査片Sを打ち抜いて取得する刃素子適用装置(刃素子適用手段:
図3及び
図4では回転軸4U1の上下動作を行う機構)とを備えている。
【0037】
距離を示すZ軸は、薄膜塗工シートSTからローラ4Uに向かう方向が正方向である。ローラ4Uの回転によって、刃素子4Tが最下点に移動した場合、刃素子4Tと薄膜塗工シートSTとが対向し、これらの間の距離の最小値が与えられる。刃素子4Tと薄膜塗工シートとの距離を小さくするように、ローラ4U及び/又は後述の手法(
図8〜
図12)で刃素子4Tを下方(−Z方向)に移動させると、刃素子4Tは薄膜塗工シートSTに到達し、更に、薄膜塗工シートSTを超えて、下部のローラ4Lの表面層に到達する。すなわち、刃素子4Tの絶対位置が下方に移動することで、刃素子4Tと薄膜塗工シートSTとが対向した際の刃素子4Tと薄膜塗工シートSTとの間の相対距離が縮小して、薄膜塗工シートSTの一部領域が切断される。薄膜塗工シートSTのZ軸上の位置を原点とすれば、刃素子4Tの先端は、Z軸上の負の位置に至る。原点から当該負の位置に至る距離の絶対値は、薄膜塗工シートSTの厚みよりも大きい。
【0038】
上部のローラ4Uは、
図3の回転矢印にて示すように、薄膜塗工シートSTがX方向に移動するのと同じ周速度で、左回転を行う。下部のローラ4Lは、薄膜塗工シートSTを下から支持する機能を有するが、薄膜塗工シートSTがX方向に移動するのと同じ周速度で、右回転を行う。下部のローラ4Lの表面層は、ゴムやウレタンなどの弾性層からできており、刃素子4Tが薄膜塗工シートSTを押圧した際に、表面層が凹んで変形する構成となっている。下部のローラ4Lは、原理的には単なる薄膜塗工シートSTの支持板であってもよい。
【0039】
上部のローラ4Uは、Y軸方向に延びた回転軸4U1を有している。回転軸をY軸回りに回転させると、ローラ4Uが回転し、ローラ4Uの外周面に設けられた刃素子4Tが回転する。回転軸4U1は、垂直方向に延びた支持部材4U3の下端部によって回転可能に支持されており、支持部材4U3の上端部は往復移動バー4U4に固定されている。往復移動バー4U4が上下方向(Z軸方向)に往復運動をした場合、これに固定された支持部材4U3が上下方向に移動し、したがって、回転軸4U1及びローラ4Uが上下方向に移動する。
【0040】
ローラ4Uの上下の移動のタイミングに関しては、刃素子4Tの一端部分(X軸正方向の先端に位置する刃の部分)が薄膜塗工シートSTに当接した時点で、一端部分のXZ断面の長手方向(ローラ径方向)と、薄膜塗工シートSTの表面の成す角度(αとする)が、90°となるようにローラ4Uを下方に移動させて刃素子4Tを下方に移動させる。以後、ローラ4Uを下方に移動させて、刃素子4Tを更に下方に移動させ、刃素子4Tの他端部分(X軸負方向の先端に位置する刃の部分)が薄膜塗工シートSTに当接した時点で、他端部分のXZ断面の長手方向(ローラ径方向)と、薄膜塗工シートSTの表面とが成す角度αが90°となるようにする。なお、αは80°〜100°とすることもできる。
【0041】
図4は、打ち抜き装置の構成を更に詳しく説明するための図である。
【0042】
ローラ4Uの回転軸は、これに機械的に結合したローラ回転用モータ4Mによって、Y軸回りに回転させられる。ローラ4Uの回転軸の両端部は、
図3に示した支持部材4U3によって往復移動バー4U4の両端部に機械的に接続されている。往復移動バー4U4の上方には回転駆動シャフト4Bが配置されており、回転駆動シャフト4BはY軸に沿って延びている。回転駆動シャフト4Bの外周には偏心カムC1,C2が固定されており、回転駆動シャフト4BがY軸回りに回転すると、偏心カムC1,C2の最下点、すなわち、偏心カムC1,C2と往復移動バー4U4との接触点が上下方向に往復運動する。回転駆動シャフト4Bは、往復運動用モータ4Fに機械的に結合しており、モータ4Fを回転させることで、回転駆動シャフト4Bを回転させることができる。
【0043】
回転駆動シャフト4Bと下部のローラ4Lとは、これらの両端に設けられた支持基体SBに、固定されている。なお、
図4では、内部構造の明確化のため、片方の支持基体SBのみを示しているが、この装置は、XZ平面に対して左右対称の構造を有しており、装置の両側面に支持基体SBが存在している。支持基体SBには、Z方向に沿って延びたスライド孔SLが設けられており、スライド孔SL内に往復移動バー4U4の両端部が位置し、往復移動バー4U4の両端部は、偏心カムC1,C2の回転に伴って、スライド孔SL内をスライドして移動する。往復移動バー4U4の両端部は、支持基体SBに、バネSP1及びSP2によって固定されており、偏心カムC1,C2の最下点に常に接触するように上方に向けて付勢されている。
【0044】
制御装置8は、検査片Sの取得時においては、巻き取り装置6による薄膜塗工シートSTの巻き取り時の移動に同期して、ローラ4Uをローラ回転用モータ4Mによって回転させつつ、同時に、往復運動用モータ4Fを回転させて、偏心カムC1,C2を駆動し、これにリンクしたローラ4Uの回転軸位置を下方に移動させる。これにより、刃素子4T(
図3参照)と、薄膜塗工シートSTとの間の相対距離が縮小し、打ち抜きが行われる。なお、薄膜塗工シートSTの巻き取り速度は、巻き取り装置6の巻き取り用のモータを制御することで調整する。このように、制御装置8は、刃素子適用装置(4U3,4U4,4B,C1,C2,SP1,Sp2,4F,SL)により、上記相対距離を縮小するよう、巻き取り装置6、ローラ4U、及び、刃素子適用装置を制御している。
【0045】
この薄膜塗工シート製造装置によれば、検査片Sの取得時においては、薄膜塗工シートSTの移動に同期して、ローラ4Uを回転させつつ、刃素子4Tを薄膜塗工シートSTに相対的に近づけている、或いは、遠ざけている。これにより、薄膜塗工シートSTのX軸方向の移動速度と、回転するローラ4Uに設けられた刃素子4Tの先端の周速度(ローラ最下点における接線方向(X軸方向)速度)との間の相対速度を原則的にはゼロとすることができる。したがって、巻き取り装置6による巻き取りを停止することなく、薄膜塗工シートSTを移動させながら、刃素子4Tを薄膜塗工シートSTに押し当てて検査片Sを打ち抜き、これを取得することが可能となる。
【0046】
また、
図4に示した刃素子適用装置は、ローラ4Uの回転軸4U1を、薄膜塗工シートSTに近づける回転軸駆動機構(4U3,4U4,4B,C1,C2,SP1,Sp2,4F,SL)を備えている。ローラ4Uの回転軸4U1を、薄膜塗工シートSTに近づけると、ローラ4Uに設けられた刃素子4Tも薄膜塗工シートSTに近づくことができ、刃素子4Tを薄膜塗工シートSTに押し当てて検査片Sを打ち抜き、これを取得することが可能となる。
【0047】
図5は、刃素子及びローラの断面図である。
【0048】
図3〜
図5に示す例では、刃素子4Tは、ローラ4Uの外周に固定されている。刃素子4Tの先端位置は、ローラ4U回転時の回転半径を与えている。したがって、刃素子4Tを固定して、ローラ4Uを移動させれば、刃素子4Tの径方向移動時の回転半径の変化を抑制し、検査片Sを高い制御性で打ち抜くことができる。
【0049】
刃素子4Tは、ローラ4Uの外周面から内部に向けて延びた凹部4UH内に配置され、凹部4UHの内面に固定された基部4T2と、基部4T2のローラ4Uの外周面側の先端部に溶接等によって固定して設けられた刃4T1とを備えている。XZ断面内において、刃4T1の側壁は、径方向に沿って延びており、ローラ4Uの回転中心Oに向かう方向に延びている。したがって、ローラ4Uの外周面における接線に対して、刃素子4T1は垂直に延びている。これにより、切断時において、薄膜塗工シートSTには、ほぼ垂直に刃4T1が当たることとなり、良好な打ち抜きが実現できる。
【0050】
また、XZ断面内において、刃4T1の先端部(薄膜塗工シートSTと当接する部分)は、回転中心Oを中心とする円弧(中心から離れるように膨らんだ円弧)を描いており、滑らかに切断を行うことができる。当該円弧の曲率半径は、刃素子4T1の先端部を含むローラ4Uの曲率半径よりも小さくすることができる。
【0051】
図6は、刃素子及びローラの平面図である。
【0052】
刃素子4Tをローラ4Uの径方向から見ると、刃素子4Tの刃4T1の形状は円形或いは楕円形である。これにより、切断面における応力分布が面内において概ね均等となる円形又は楕円形の検査片Sを取得することができるが、刃素子の形状としては多角形を採用することも可能である。
【0053】
図7は、変形例に係る刃素子及びローラの平面図である。
【0054】
上記では、Y軸上の1か所に刃素子4Tを設けることとしたが、これは2か所以上の位置において複数の刃素子4Tを設けることとしてもよい。これにより、幅方向の特性分布を検査したり、これらの平均値を評価することができる。
【0055】
図8は、刃素子が移動する場合の刃素子及びローラの断面図である。他の構造は、上記のものと同一である。この構造の場合、ローラ4Uを上下に移動させる必要はないが、上下に移動させてもよい。上下移動させない場合の構造は、ローラ4Uを支持基体SBに固定した構造であってもよいし、或いは、上下移動を行う機能(往復運動用モータ4F)を停止させた構造であってもよい。なお、同図では回転軸の記載は省略してある。
【0056】
この構造の場合、上述の刃素子適用装置は、刃素子4Tをローラ4U内に収容する「第1状態」と、刃素子4Tをローラ4Uの外周面の外側に露出させる「第2状態」とを切り替える刃素子駆動装置(スライド用の凹部4UH、アクチュエータMG、バネSP4、駆動回路9(
図9参照))を備えている。刃素子4Tの単独の質量は、刃素子4Tを有するローラ4Uの質量よりも小さいため、慣性が小さく、刃素子4Tをローラ4Uに対して移動させた方が、ローラ4U自体を移動させる場合よりも、刃素子4Tを高速かつ少ないエネルギー消費で移動させ、検査片Sを打ち抜くことができる。なお、刃素子駆動装置は、上述のローラ4Uを移動させる回転軸駆動機構がある場合においても、無い場合においても、適用することができる。
【0057】
ローラ4Uの中心Oに向けて延びる凹部4UHの深さは、刃素子4Tの基部4T2の径方向長よりも深く、基部4T2の原点側の端部と、凹部4UHの底面との間には、隙間が画成されている。この隙間内に、圧縮バネSP4が配置されており、その両端がそれぞれ基部4T2の原点側の端部と、凹部4UHの底面に固定されている。電磁コイルからなる電気的アクチュエータMGに、駆動電力D1を供給すると、刃素子4Tの基部T2(Fe又はNiなどの磁性体を含む)が、引き寄せられ、刃T1が引っ込む「第1状態」となる。また、電磁コイルからなる電気的アクチュエータMGに、駆動電力D1を供給しない場合、刃素子4Tの基部T2が自然状態の圧縮バネSP4に押され、刃T1が突出する「第2状態」となる。このように、電気的アクチュエータMGへの通電の有無によって、ローラ4Uの径方向に刃を移動させることができる。
【0058】
刃素子4Tの上下移動のタイミングに関しては、ローラ4Uを上下移動をさせる場合のタイミングと同じであり、刃素子4Tの一端部分(X軸正方向の先端に位置する刃の部分)が薄膜塗工シートSTに当接した時点で、一端部分のXZ断面の長手方向(ローラ径方向)と、薄膜塗工シートSTの表面の成す角度(αとする)が、90°となるように刃素子4Tを下方に移動させる。以後、刃素子4Tを更に下方に移動させ、刃素子4Tの他端部分(X軸負方向の先端に位置する刃の部分)が薄膜塗工シートSTに当接した時点で、他端部分のXZ断面の長手方向(ローラ径方向)と、薄膜塗工シートSTの表面とが成す角度αが90°となるようにする。なお、αは80°〜100°とすることもできる。
【0059】
図9は、電気的アクチュエータの制御構成について示す図である。
【0060】
電磁コイルからなる電気的アクチュエータMGは、ローラ4U内部に固定されており、ローラ回転軸4U1と共に回転する。したがって、電気的アクチュエータMGへの電力供給には、ブラシモータの構造を採用する。すなわち、回転軸4U1には、その周方向を取り囲む一対の電極E1,E2が固定されており、電極E1,E2には、ブラシB1,B2が摺動可能に接触している。駆動回路9からは、ブラシB1,B2に互いに相対的に正(+)及び負(−)の電位を与える。これにより、ブラシB1,B2及び電極E1,E2を介して、電磁コイルからなる電気的アクチュエータMGに駆動電力D1を供給することができる。
【0061】
なお、駆動電力D1を供給するかどうかは、制御装置8から駆動回路9に入力されるON/OFF信号SMGによって、決定される。信号SMGがONを指令する場合には、駆動回路9内又は電磁コイルの近傍に設けられた特定のスイッチをONとし、駆動電力D1を供給する。信号SMGがOFFを指令する場合には、駆動回路9内又は電磁コイルの近傍に設けられた特定のスイッチをOFFとし、駆動電力D1を遮断する。
【0062】
以上のように、打ち抜き装置4が刃素子駆動装置を備える場合において、刃素子4Tは、ローラ4Uの外周面から内部に向けて延びた凹部4UH内に配置され、凹部4UHの内面に沿ってスライドする基部4T2と、基部4T2の先端部に設けられた刃4T1とを備え、刃素子駆動装置は、基部4T2をスライドさせる電気的アクチュエータMGと、電気的アクチュエータMGに駆動電力D1を供給する駆動回路9とを備えている。
【0063】
駆動回路9から、電気的アクチュエータMGに駆動電力D1を供給し、又は、供給を停止すると、刃素子4Tの基部4T2が凹部4UH内をスライドし、刃4T1がローラ4Uの径方向に移動し、刃4T1がローラ4Uの内部に収容され、又は、ローラ4Uの外部に露出することができる。電気的アクチュエータMGは、電磁コイルなどを用いることができるが、圧電素子などのアクチュエータを用いることも原理的には可能である。また、圧縮バネSPの代わりに引っ張りバネを用い、刃素子基部4T2及び電気的アクチュエータMGの双方に電磁コイルを設け、電力供給によってこれらに斥力が働く構成とすることも可能である。この場合には、電力供給時のスライドの向きが上記とは逆となる。
【0064】
図10は、油圧を用いた場合の刃素子及びローラの断面図である。
【0065】
また、刃素子4Tは、ローラ4Uの外周面から内部に向けて延びた凹部4UH内に配置され、凹部4UHの内面に沿ってスライドする基部4T2と、基部4T2の先端部に設けられた刃4T1とを備えている。刃素子駆動装置は、基部4T2をスライドさせる油圧アクチュエータACを備えている。他の構造は、上記のものと同一である。なお、同図では回転軸の記載は省略してある。
【0066】
油圧供給装置11から、油圧アクチュエータACに正又は負の油圧(油)D2を与えると、刃素子4Tの基部4T2が凹部4UH内をスライドし、刃4T1がローラ4Uの径方向に移動して、刃4T1がローラ4Uの内部に収容され(第1状態)、又は、外部に露出する(第2状態)ことができる。
【0067】
この構造の場合、上述の刃素子適用装置は、刃素子4Tをローラ4U内に収容する「第1状態」と、刃素子4Tをローラ4Uの外周面の外側に露出させる「第2状態」とを切り替える刃素子駆動装置(スライド用の凹部4UH、アクチュエータAC、油圧供給装置11(
図11参照))を備えている。刃素子4Tの単独の質量は、刃素子4Tを有するローラ4Uの質量よりも小さいため、慣性が小さく、刃素子4Tをローラ4Uに対して移動させた方が、ローラ4U自体を移動させる場合よりも、刃素子4Tを高速かつ少ないエネルギー消費で移動させ、検査片Sを打ち抜くことができる。なお、刃素子駆動装置は、上述のローラ4Uを移動させる回転軸駆動機構がある場合においても、無い場合においても、適用することができる。
【0068】
なお、刃素子4Tの上下移動のタイミングに関しては、電気的アクチュエータを用いて刃素子を上下移動させる場合のタイミングと同じである。
【0069】
図11は、油圧アクチュエータの制御構成について示す図であり、
図12は、ローラ内部の油圧経路について説明するための図である。
【0070】
油圧アクチュエータACは、ローラ4U内部に固定されており、ローラ回転軸4U1と共に回転する。したがって、油圧アクチュエータACへの油(油圧)の供給には、中空回転軸4U1(
図12参照)を採用する。すなわち、回転軸4U1は中空であって、回転軸4U1の一端部(
図11において右端)は封止され、他端部(
図11において左端)には回転軸4U1の回転によっても油が漏れないシール材4USが設けられている。そして、刃素子駆動装置は、油圧アクチュエータACに、シール材US及び回転軸4U1を介して、油圧(油)D2を供給する油圧供給装置11を備えている。
【0071】
中空の回転軸4U1内に供給された油圧(油)D2は、ローラ4Uに形成された油通路を介して、油圧アクチュエータACに圧力を与えることができる。油圧アクチュエータACに油圧(油)D2を供給するかどうかは、制御装置8から油圧供給装置11に入力されるON/OFF信号SMGによって、決定される。信号SMGがONを指令する場合には、油圧供給装置11内又は油圧アクチュエータACの近傍に設けられた特定の油通過用の電磁弁をONとし、油D2を供給する。信号SMGがOFFを指令する場合には、油圧供給装置11内又は油圧アクチュエータACの近傍に設けられた特定の油通過用の電磁弁をOFFとし、油D2の供給を遮断する。
【0072】
以上、説明したように、上述の薄膜塗工シート製造装置は、薄膜塗工シートSTから検査片Sを取得する打ち抜き装置4と、検査片Sの取得後に薄膜塗工シートSTを巻き取る巻き取り装置6と、打ち抜き装置4及び巻き取り装置6を制御する制御装置8とを備えた薄膜塗工シート製造装置において、打ち抜き装置4は、検査片Sを打ち抜くための刃素子4Tと、刃素子4Tが設けられたローラ4Uと、刃素子4Tと薄膜塗工シートSTとが対向した際の刃素子4Tと薄膜塗工シートとの間の相対距離を縮小することで、検査片Sを打ち抜いて取得する刃素子適用手段(
図4:4U3,4U4,4B,C1,C2,SP1,SP2,4F,SL、
図5:SP4、MG、9、E1、E2、B1、B2、
図10:AC、11)と、を備え、制御装置8は、検査片Sの取得時においては、巻き取り装置6による薄膜塗工シートSTの巻き取り時の移動に同期して、ローラ4Uを回転させつつ、刃素子適用手段により相対距離を縮小するよう、巻き取り装置6、ローラ4U、及び、刃素子適用手段を制御している。
【0073】
上述の薄膜塗工シート製造装置によれば、検査片Sの取得時においては、薄膜塗工シートの移動に同期して、ローラ4Uを回転させつつ、刃素子4Tを薄膜塗工シートSTに相対的に近づけている。これにより、薄膜塗工シートの移動速度と、回転するローラ4Uに設けられた刃素子4Tの先端の周速度との間の相対速度を原則的にはゼロとすることができる。したがって、巻き取り装置6による巻き取りを停止することなく、薄膜塗工シートSTを移動させながら、刃素子4Tを薄膜塗工シートSTに押し当てて検査片Sを打ち抜き、これを取得することが可能となる。
【0074】
以上、説明したように、上述の薄膜塗工シート製造装置によれば、薄膜塗工シートの移動を停止することなく、検査片を打ち抜くことが可能なため、高いスループットで、薄膜塗工シートを製造することができる。
【0075】
なお、上述のように、刃素子4Tが回転しつつ、薄膜塗工シートSTに対して相対的に接近/退避可能であれば、ローラ4Uの形状は、円筒状の全外周面が薄膜塗工シートSTに対して接触可能な形状でなくてもよく、例えば、半円筒状の形状であってもよく、また、ローラ4Uの幅方向長が、薄膜塗工シートSTの全幅を覆う長さである必要はなく、薄膜塗工シートSTよりも狭い幅であってもよい。