特許第5920107号(P5920107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920107変性ジエン系ゴム組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920107
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】変性ジエン系ゴム組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20160428BHJP
   C08C 19/28 20060101ALI20160428BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20160428BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20160428BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20160428BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C08L15/00
   C08C19/28
   C08F8/00
   C08K5/544
   C08K3/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-183008(P2012-183008)
(22)【出願日】2012年8月22日
(65)【公開番号】特開2014-40514(P2014-40514A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100103274
【弁理士】
【氏名又は名称】千且 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100172443
【弁理士】
【氏名又は名称】小路 愛美
(72)【発明者】
【氏名】テンポーン プワナットワッタナー
(72)【発明者】
【氏名】庄田 恒志
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−015695(JP,A)
【文献】 特開昭56−116702(JP,A)
【文献】 特開2012−140511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジエン系ゴムと、(B)不飽和ジカルボン酸と、(C)アミノ基を有するシランカップリング剤及び糖類のうちいずれか1以上とを反応させた変性ジエン系ゴムと、シリカとを含有することを特徴とする変性ジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
前記(A)ジエン系ゴムの重量平均分子量が、10万〜200万であることを特徴とする請求項1記載の変性ジエン系ゴム組成物
【請求項3】
ジエン系ゴムに不飽和ジカルボン酸を練り込む第一工程と、
前記不飽和ジカルボン酸が練り込まれたジエン系ゴムにアミノ基を有するシランカップリング剤及び糖類のうちいずれか1以上を練り込む第二工程と、
を備え
前記第二工程に続き、シリカを練りこむ
ことを特徴とする変性ジエン系ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低燃費を目的としたタイヤ用ゴム材料として用いられる変性ジエン系ゴム及びその製造方法、並びにそれを用いた変性ジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への意識が高まり、自動車の燃費向上を目的とした低燃費タイヤ用ゴム材料の開発が盛んに行われている。その中でも、シリカは、機械特性、濡れ特性及び低転がり抵抗などといった低燃費タイヤ性能の最も重要なバランスに優れ、非常に重要なタイヤ用無機充填材になっている。しかしながら、シリカ粒子の極性表面にはシラノール基があるため、水素結合による相互作用が生じ易い。そのため、シリカはゴムマトリクス、特にポリブタジエンなどの炭化水素構造との適合性あるいは親和性が悪くなる傾向を示す。これにより、シリカ−ゴム化合物中において、シリカ粒子が凝集し易くなり、熱による著しいエネルギー損失や発熱の増加、さらには転がり抵抗の増加などの原因となる。
【0003】
したがって、低燃費を目的としたタイヤ用ゴム材料は、フィラーであるシリカの分散性を向上させ、ゴム分子間の摩擦やシリカとゴム分子間の摩擦を低減させて発熱を減らす必要がある。そのための方法として、結合剤としてシランカップリング剤を使用する方法、シランカップリング剤と結合した表面極性の低い表面処理シリカを用いる方法、シリカ−ゴム化合物のゴムを化学変性する方法などが、タイヤ用シリカ化合物製造の工業規模において有効な方法として行われている。例えば、特許文献1に記載のゴム組成物は、シリカと同様なタイヤ用無機充填材であるカーボンブラックとのカップリング効果を向上させるため、無水マレイン化されたゴムとシランカップリング剤を用いている。また、特許文献2に記載のタイヤトレット用ゴム組成物は、シリカの良好な分散性を付与するために、ゴム組成物にカルボキシル基を有する液状ポリイソプレンを配合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−15695号公報
【特許文献2】特開2011−252108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のゴム組成物は、原料ゴムの化学変性が行われているものの、良好なシリカの分散には問題がある。シリカ粒子が凝集すると、上記の通り、シリカ凝集体内部の強いシリカ−シリカ相互作用が生じ、熱による著しいエネルギー損失や発熱の増加による生産性の悪化、さらに、転がり抵抗の増加の原因となる。また、分散性を改善するためにゴム組成物に非常に高価なシランカップリング剤を多量に使用することは、経済的にも不利である。また、低燃費性に関しては、従来よりもさらに優れることが要望されている。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性を維持しつつ、低燃費性とウェット性能のバランスを改良した変性ジエン系ゴム及びその製造方法、並びにそれを用いた変性ジエン系ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上の目的を達成するために、鋭意検討した結果、有機酸で変性させたジエン系ゴムにさらにシランカップリング剤や含酸素環状化合物を反応させた変性ジエン系ゴムは、耐摩耗性を維持しつつ、低燃費性とウェット性能のバランスを改良することを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、(A)ジエン系ゴムと、(B)有機酸と、(C)シランカップリング剤及び含酸素環状化合物のうちいずれか1以上とを反応させたことを特徴とする変性ジエン系ゴムに関する。
【0008】
また、本発明は、ジエン系ゴムに有機酸を練り込む第一工程と、前記有機酸が練り込まれたジエン系ゴムにシランカップリング剤及び含酸素環状化合物のうちいずれか1以上を練り込む第二工程と、を備えたことを特徴とする変性ジエン系ゴムの製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記変性ジエン系ゴムとシリカとを含有することを特徴とする変性ジエン系ゴム組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、耐摩耗性を維持しつつ、低燃費性とウェット性能のバランスを改良する変性ジエン系ゴム及びその製造方法、並びにそれを用いた変性ジエン系ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る変性ジエン系ゴムにおいて、原料となる(A)ジエン系ゴムは、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有のブタジエンゴム(VCR)、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴムなどである。この中でも、特にブタジエンゴムが好ましい。上記(A)ジエン系ゴムは、1種類単独、または2種類以上を組み合わせて使用してもよいが、2種類以上の組合せでは、そのうち1種類のみに変性が偏る可能性がある点から1種類の単独重合体が好ましい。
【0012】
(A)ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、10万〜200万が好ましく、30万〜100万が特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が、200万を超えると、加工性が悪化して好ましくなく、10万未満では、機械強度が低下するので好ましくない。
【0013】
また、(A)ジエン系ゴムのシス−1,4含有量は95%以上であることが好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上が特に好ましい。シス−1,4含有量が上記以下であると耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0014】
さらに、(A)ジエン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、20〜100であることが好ましく、30〜95であることがより好ましい。ムーニー粘度が上記範囲より低すぎると機械特性の低下の問題が生じ、逆に高すぎると混練時でのフィラー分散性が悪くなり、十分な性能が発揮できないことと、また、加工性に問題が生ずるため好ましくない。
【0015】
本発明に係る変性ジエン系ゴムにおいて、ジエン系ゴムを変性する原料となる(B)有機酸としては、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物など、特に制限されないが、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸モノエステルなどのカルボン酸化合物が好ましく用いられる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸のような不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸のような不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のような不飽和ジカルボン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソブチルのような不飽和ジカルボン酸モノエステルなどを例示することができる。この中でも特に、無水マレイン酸が好ましい。
【0016】
本発明に係る変性ジエン系ゴムにおいて、有機酸変性ジエン系ゴムと反応する(C)シランカップリング剤としては、特に制限はなく、例えば、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、ウレイド基、アクリロキシ基、イソシアネート基、スチリル基、メタクリロキシ基、スルフィド基、ニトロ基、ハロゲン基、エポキシ基またはグリシジル基を有するシランカップリング剤などが挙げられ、さらに、チオカルバモイルテトラスルフィド構造、ベンゾチアゾールテトラスルフィド構造、メタクリレートモノスルフィド構造を有するシランカップリング剤などが挙げられる。中でも、アミノ基有するシランカップリング剤が好ましい。
【0017】
上記アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、N−3−トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルなどが挙げられる。この中でも特に、N−3−トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミンが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る変性ジエン系ゴムにおいて、有機酸変性ジエン系ゴムと反応する(C)含酸素環状化合物は、糖類やセルロースなどが挙げられる。
【0019】
糖類としては、例えば、D−グルコース、D−フルクトース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−キシロースなどの単糖類、マルトース、ラクトース、スクロース、セロビオースなどの二糖類、デンプン、デキストリンなどの三糖類以上の多糖類、また、これらの誘導体、例えば、糖アルコール、デオキシ糖、アミノ糖、配糖体、ウロン酸などが挙げられるが、これらの中でもデキストリンが好ましく用いられる。
【0020】
デキストリンとしては、マルトデキストリン、シクロデキストリンなどが挙げられるが、シクロデキストリンが好ましい。シクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン並びに、グルコシルシクロデキストリン、マルトシルシクロデキストリン及びクラスターデキストリンなどの分岐シクロデキストリンが挙げられるが、β−シクロデキストリンが特に好ましく用いられる。
【0021】
上記(C)シランカップリング剤及び含酸素環状化合物は、1種類単独、または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明に係る変性ジエン系ゴムは、(A)ジエン系ゴムに(B)有機酸を練り込む第一工程と、前記有機酸が練り込まれたジエン系ゴムに(C)シランカップリング剤及び含酸素環状化合物のうちいずれか1以上を練り込む第二工程とによって製造することができる。
【0023】
第一工程において、(B)有機酸の添加量は、(A)ジエン系ゴム100gに対し、0.1〜10phrが好ましく、0.1〜8phrがより好ましい。
【0024】
第一工程における変性反応は、機械的混練によって行うことが好ましい。機械的混練とは、機械的せん断力を与えてゴムを混練することであり、その混練に用いられる混練機は、機械的せん断力を与えてゴムを混練できる装置であれば特に制限はなく、ロール混練機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、一軸押出機、二軸押出機、2軸テーパー押出機等、樹脂加工に用いられる一般的な混練機械を用いることができる。機械的混練することで、低コストで生産効率がよく、廃液等を発生させずに変性ジエン系ゴムを製造することができる。
【0025】
第一工程の変性反応時の温度は、25〜200℃が好ましく、30〜180℃がより好ましい。温度が低すぎると変性反応の進行が遅く、温度が高すぎるとゲル化が進みやすくなる恐れがある。
【0026】
また、第一工程の変性反応時間は、特に制限はないが、通常は1分〜2時間が好ましい。変性反応の時間が短すぎると反応が充分に進行せず、長すぎるとゲルが発生するおそれがある。
【0027】
ジエン系ゴムが有機酸で化学的に変性されていることは、滴定分析やNMR分析により確認することができる。本発明に係る変性ジエン系ゴムの製造方法においては、第一工程終了後の有機酸変性ジエン系ゴムの変性率は、0.01〜20%が好ましい。変性率が上記範囲より低いと所望の物性効果が得られないので好ましくなく、上記範囲より高いと加工性が悪化したり、ゲル化が発生するので好ましくない。
【0028】
また、本発明においては、有機酸による変性(第一工程)の後に、有機酸変性ジエン系ゴムに(C)シランカップリング剤及び含酸素環状化合物のうちいずれか1以上を第一工程と同様に機械的混練によって練り込むことが好ましい。このとき、上記(C)成分は、有機酸変性が終了した直後の有機酸変性ジエン系ゴムに直接添加しても良いし、または、有機酸変性ジエン系ゴムを一度取り出し乾燥させたものと再度混練することもできる。さらに、市販の有機酸変性ジエン系ゴムに上記(C)成分を練り込むこともできる。
【0029】
第二工程において、(C)シランカップリング剤の添加量は、(A)ジエン系ゴム100gに対し、0.01〜15phrが好ましく、0.1〜10phrがより好ましい。
【0030】
また、第二工程において、(C)含酸素環状化合物の添加量は、(A)ジエン系ゴム100gに対し、0.01〜15phrが好ましく、0.1〜10phrがより好ましい。
【0031】
第二工程の反応時の温度は、25〜200℃、さらには、30〜180℃が好ましい。温度が低すぎると変性反応の進行が遅く、温度が高すぎると主鎖変性ジエン系重合体がゲル化するおそれがある。
【0032】
第二工程の反応時間は、特に制限はないが、通常は1分〜2時間が好ましい。変性反応の時間が短すぎると反応が充分に進行せず、長すぎると主鎖変性ジエン系重合体がゲル化するおそれがある。
【0033】
また、第二工程終了後に有機酸変性ジエン系ゴムが(C)成分で化学的に変性されていることは、誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)や赤外分光法分析、NMR分析により確認することができる。上記変性率は、0.01〜10%が好ましい。変性率が上記範囲より低いと所望の物性効果が得られず、上記範囲より高いと加工性が悪化したりゲルが発生する恐れがあるため好ましくない。
【0034】
本発明に係る変性ジエン系ゴムの製造方法によれば、有機酸で変性させたジエン系ゴムにさらにシランカップリング剤や含酸素環状化合物を反応させるため、ゴム組成物を製造する際にシリカの分散性を向上させることができ、得られるゴム組成物は、耐摩耗性を維持しつつ、一般に二律背反の関係であることが知られている低燃費性とウェット性能のバランスを改良できる。
【0035】
次に、本発明に係る変性ジエン系ゴムを用いたゴム組成物について説明する。本発明に係るゴム組成物は、上記変性ジエン系ゴムと、シリカとを含有することを特徴とする。
【0036】
本発明に係るゴム組成物においては、上記変性ジエン系ゴムの他にそれ以外のゴムを加えて、ゴム組成物として使用することもできる。変性ジエン系ゴム以外のゴムとしては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有のブタジエンゴム(VCR)、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴムなどのジエン系単量体の重合体;アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ニトリルクロロプレンゴム、ニトリルイソプレンゴムなどのアクリロニトリル−ジエン共重合ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンクロロプレンゴム、スチレンイソプレンゴムなどのスチレン−ジエン共重合ゴム;エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。この中で、ブタジエンゴム、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン含有のブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴムが好ましい。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、本発明に係るゴム組成物において、シリカの含有量は、上記変性ジエン系ゴムとそれ以外のゴム成分100重量部に対して10〜120重量部、より好ましくは30〜90重量部、特に好ましくは50〜80重量部である。シリカが10重量部より少ないと、本発明の変性ジエン系ゴムを用いなくても充分なシリカの分散が得られるため、本発明の効果がなく、120重量部より多いと加工性が著しく悪くなり、かつ耐摩耗性も低下し、好ましくない。
【0038】
また、本発明に係るゴム組成物は、ゴム補強剤を加えることができる。ゴム補強剤としては、上記シリカの他、各種のカーボンブラック、ホワイトカーボン、活性化炭酸カルシウム、超微粒子珪酸マグネシウム等などが挙げられる。中でも、好ましくは、粒子径が90nm以下、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が70ml/100g以上のカーボンブラックであり、例えば、FEF、FF、GPF、SAF、ISAF、SRF、HAF等が用いられる。
【0039】
また、本発明に係るゴム組成物は、更に、加硫剤、加硫促進剤を添加することができる。加硫剤としては、硫黄、加熱により硫黄を生成させる化合物、有機過酸化物、酸化マグネシウム等の金属酸化物、多官能性モノマー、シラノール化合物等が挙げられる。加熱により硫黄を生成させる化合物としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。加硫促進剤としては、例えばアルデヒド類、アンモニア類、アミン類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカーバメイト類、キサンテート類等が挙げられ、より具体的には、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジンクジ−n−ブチルジチオカーバイト(ZnBDC)、ジンクジメチルジチオカーバイト(ZnMDC)等が挙げられる。
【0040】
また、本発明に係るゴム組成物は、その他、必要に応じて、老化防止剤、充填剤、プロセスオイル等、通常ゴム組成物に用いられる公知の添加剤を添加することができる。
【0041】
老化防止剤としては、アミン・ケトン系、イミダゾール系、アミン系、フェノール系、硫黄系及び燐系等の老化防止剤が挙げられる。より具体的には、老化防止剤としてはフェノール系の2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、リン系のトリノニルフェニルフォスファイト(TNP)、硫黄系の4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート(TPL)等が挙げられる。
【0042】
充填剤としては、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、クレー、リサージュ、珪藻土等の無機充填剤、再生ゴム、粉末ゴム等の有磯充填剤が挙げられ、プロセスオイルとしては、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系のプロセスオイルが挙げられる。
【0043】
さらに、本発明に係るゴム組成物は、シランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤としては、一般式RSiX4−nで表される有機珪素化合物で、Rは、水素、ビニル基、アシル基、アリル基、アリルオキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、クロル基、アルキル基、フェニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基などから選ばれる反応基を有する炭素数1〜20の有機基であり、Xは、クロル基、アルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基、アミノ基などから選ばれる加水分解基であり、nは1〜3の整数を示す。
【0044】
具体的なシランカップリング剤として、市販で利用できるものは、例えば、以下のものが含まれるが、決してこれらに限定されるものではない。ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエトキシシラン、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイル テトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾール テトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレート モノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート モノスルフィド、ビニルトリクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジビニルジクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、クロロメチルジメチルビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、ジアセトキシメチルビニルシラン、アリルオキシジメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、フェニルビニルジクロロシラン、トリアセトキシビニルシラン、3−クロロプロピルメチルジビニルシラン、ジエトキシジビニルシラン、ジメチルエチルメチルケトキムビニルシラン、ジメチルイソブトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、メチルフェニルビニルクロロシラン、メチルフェニルビニルシラン、ジメチルイソペンチルオキシビニルシラン、4−ブロモフェニルジメチルビニルシラン、3−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、4−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、ジメチルピペリヂノメチルビニルシラン、ジメチル−2−[(2−エトキシエトキシ)エトキシ]ビニルシラン、ジビニルメチルフェノキシシラン、ジメチル−P−アニシルビニルシラン、トリス(1−メチルビニロキシ)ビニルシラン、トリイソプロポキシビニルシラン、ジエトキシ−2−ピペリヂノエトキシビニルシラン、ジフェニルビニルクロロシラン、3−ジメチルビニルフェニルN,N−ジエチルカルボメイト、トリフェノキシビニルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1−(4−メチルピペリヂノメチル)−1,1,3,3−テトラメチル−3−ビニルジシロキサン、1,4−ビス(ジメチルビニルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジメチルビニルシロキシ)ベンゼン、1,3−ビス(ジメチルビニルシロキシ)ベンゼン、1,1,3,3−テトラフェニル−3−ジビニルジシロキサン、1,3,5−トリメチル−1,3,5−トリビニルサイクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルサイクロテトラシロキサン、テトラキス(ジメチルビニルシロキシメチル)メタン、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどがある。
【0045】
添加剤のシランカップリング剤の添加量としては、シリカ量に対して0.2〜20%が良く、5〜15%が特に好ましい。
【0046】
シランカップリング剤は、シリカのゴムマトリクス中での分散性を向上させる働きがあるので、上記の範囲よりも少ないと、所望のシリカ分散が得られず、耐摩耗性や低燃費性といった物性が悪化するので好ましくない。また、上記の範囲よりも多いと経済的に好ましくない。
【0047】
本発明においては、ゴム成分として本発明に係る変性ジエン系ゴムを用いることで、ゴム組成物を製造する際のシランカップリング剤の添加量を従来よりも減量させることができる。
【0048】
本発明に係るゴム組成物は、上記各成分を通常行われているバンバリー、オープンロール混練機、ニーダー、二軸混練り機などを用いて混練時の最高温度がシランカップリング剤の反応温度以上となる条件で混練りすることで得られる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。先ず、本実施例で用いた測定方法を以下に示す。
【0050】
(素ゴムのムーニー粘度)
JIS−K6300に準拠して100℃で測定した。
【0051】
(素ゴムの重量平均分子量(Mw)と分子量分布)
GPC法:HLC−8220(東ソー社製)で測定し、標準ポリスチレン換算により算出した。
【0052】
(素ゴムのシス−1,4構造)
赤外吸収スペクトル分析によって行った。シス740cm−1、トランス967cm−1、ビニル910cm−1の吸収強度比からミクロ構造を算出した。
【0053】
(加硫物tanδ(50℃))
EPLEXOR 100N(GABO社製)を用いて、動歪み0.3%、周波数16Hz、温度50℃の測定条件で各配合物のtanδを測定し、比較例1のtanδを100として下記式(1)で指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗特性が優れることを示す。
【0054】
【数1】
【0055】
(加硫物tanδ(0℃))
EPLEXOR 100N(GABO社製)を用いて、動歪み0.3%、周波数16Hz、温度0℃の測定条件で各配合物のtanδを測定し、比較例1のtanδを100として下記式(2)で指数表示した。指数が大きいほど、ウェット性能が優れることを示す。
【0056】
【数2】
【0057】
(ランボーン摩擦指数)
ランボーン摩擦性は、JIS−K6264に規定されている測定法に従って、スリップ率60%で測定し、比較例1を100として上記式(2)で指数表示した。指数が大きいほど、ランボーン摩擦性に優れることを示す。
【0058】
(実施例1)
まず、工程1として、無水マレイン酸変性ポリブタジエンゴムを作製した。具体的には、ポリブタジエン(宇部興産(株)製:UBEPOL BR150L)を100g取り、6インチロール混練機(安田精機製、温度:55℃)に1分間巻きつけた。次に、無水マレイン酸(WakoCompany社製)1phrをロール上のポリブタジエンゴムに添加し、4分間練り込むことで、無水マレイン酸変性ポリブタジエンゴムを作製した。
次に、工程2として、工程1で得られた無水マレイン酸変性ポリブタジエンゴムを6インチロール混練機(安田精機製、温度:55℃)に1分間巻きつけた。次に、N−3−トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン(TMDETA、TCI Tokyokasei Compan社製)1phrをロール上の無水マレイン酸変性ポリブタジエンゴムに添加し、さらに5分間練り込んだ。その後、真空乾燥機で真空下、90℃で1時間熱処理することで、実施例1に係る変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0059】
(実施例2)
実施例1において、工程2で添加するTMDTAの添加量を2phrに変えたこと以外は実施例1と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0060】
(実施例3)
実施例1において、工程2で添加するTMDTAの添加量を4phrに変えたこと以外は実施例1と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0061】
(実施例4)
実施例1において、工程1で添加する無水マレイン酸の添加量を2phrに変えたこと以外は実施例1と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0062】
(実施例5)
実施例4において、工程2で添加するTMDTAの添加量を4phrに変えたこと以外は実施例4と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0063】
(実施例6)
実施例1において、工程2で添加するTMDTAをβ−シクロデキストリン(和光純薬工業社製)に変えたこと以外は実施例1と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0064】
(実施例7)
実施例6において、工程2で添加するβ−シクロデキストリンの添加量を2phrに変えたこと以外は実施例6と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0065】
(実施例8)
実施例6において、工程2で添加するβ−シクロデキストリンの添加量を4phrに変えたこと以外は実施例6と同様にして変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0066】
(比較例1)
ポリブタジエン(宇部興産(株)製:UBEPOL BR150L)を使用した。
【0067】
(比較例2)
実施例1において、工程1で得られた無水マレイン酸変性ポリブタジエンゴムを使用した。
【0068】
(比較例3)
工程1において、無水マレイン酸の添加量を2phrに変えたこと以外は比較例2と同様にして無水マレイン酸変性ポリブタジエンゴムを作製した。
【0069】
作製した試料の素ゴム物性を表1に示す。
【表1】
【0070】
(ゴム組成物)
次に、表2に示した配合で、ゴム組成物を作製した。具体的には、得られた実施例1乃至8及び比較例1乃至3に係るゴム試料30重量部と、市販の溶液重合スチレン−ブタジエンゴム70重量部を、予め90℃に加温した250ccのプラストミルに投入して30秒混練した。続けてシリカ(Ultrasil 5000GR)75重量部、シランカップリング剤(Evonik Degussa Japan社製:ニボニックデグザSi69)6重量部を投入し1分間混練した。次に、プロセスオイル(サンセンオイル4240)21.5重量部、亜鉛華3重量部、老化防止剤(住友化学製:アンチゲン6C)1重量部、ステアリン酸(花王社製)1重量部を混合してプラストミルに投入し、約4分30秒混練した。混練を開始してから合計で6分間経過した後、混練物をプラストミルより取り出した。次に、6インチロールに取り出した混合物を巻きつけてロール混練しながら、加硫剤である粉末硫黄1.4重量部と加硫促進剤ノクセラーCZ(CBS)1.7重量部およびノクセラーD(DPG)2重量部を添加した。ロールの温度は55〜65℃とし、約5分間の間に粉末硫黄と加硫促進剤を混合した。表3に示す試験に必要な加硫成型体を得るため、加硫成型を行い、実施例1乃至8及び比較例1乃至3に係るゴム組成物を得た。
【0071】
【表2】
【0072】
得られた実施例1乃至8及び比較例1乃至3に係るゴム組成物について、ランボーン摩擦指数、並びに0℃及び50℃におけるtanδをそれぞれ測定した結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
以上より、実施例に係るゴム組成物は、耐摩耗性を維持したまま、低燃費性とウェット性能のバランスに優れることが分かる。