(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回路部(28)は、前記ベース(22)に対する垂直方向において、前記ベース(22)から離れた位置で前記基板(26)に実装されていることを特徴とする請求項2に記載の車載用アンテナ装置。
前記接続部の接続強度を第1接続強度、前記熱可塑性樹脂層(46)の前記対向面に対する密着強度を第2接続強度、前記回路部(28)と前記筐体(34)との前記熱伝達経路の接続強度を第3接続強度とすると、前記第1接続強度>前記第2接続強度>前記第3接続強度、の関係を満たしていることを特徴とする請求項5に記載の車載用アンテナ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アンテナ装置では、使用電波の周波数が高くなるほど、伝送ケーブルでの損失、すなわち伝送損失が問題となる。特に、車々間通信や路車間通信に用いられるアンテナ装置では、使用電波の周波数が例えば5.9GHz帯と高く、伝送損失が問題となる。そこで、基板にアンテナ素子部を形成し、この基板に、無線通信回路の少なくとも一部をなす回路部を実装することで、回路部をアンテナ素子部に近づけ、伝送損失を抑制することが考えられる。
【0005】
このように回路部を基板に実装すると、特許文献1に記載のようなアンテナ装置では、筐体内部に回路部が配置されることとなる。したがって、回路部自身の発熱により、内部空間に熱がこもり、回路部から放熱が十分になされず、回路部の性能が低下する虞がある。特に車両ルーフに配置される場合には、太陽の輻射熱の影響も加味され、回路部の性能が低下しやすくなる。しかしながら、筐体は車両外郭をなすため、意匠の制約などから、冷却ファンの取り付けや、通気用の孔部を形成することはできない。
【0006】
また、使用環境での熱応力、車両の振動、回路部が実装された基板を筐体に組み付ける際の応力などが、回路部とアンテナ素子部との接続部に作用するため、接続部の寿命として所望の寿命を確保できない虞がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、使用電波の周波数が数GHzと高い車載用アンテナ装置において、回路部の性能低下を抑制しつつ、回路部とアンテナ素子部との接続部の寿命を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る車載用アンテナ装置は、アンテナ素子部(42)を有する基板(26)と、アンテナ素子部(42)と電気的に接続される無線通信回路の少なくとも一部をなし、基板(26)に実装された回路部(28)と、樹脂材料を用いて形成され、車両外郭の突起部をなす筐体(34)と、を備え、基板(26)及び回路部(28)は、
筐体(34)の内部空間に配置されており、回路部(28)と
筐体(34)との間には、空気よりも熱伝導率の高い熱伝達経路が形成され、回路部(28)とアンテナ素子部(42)とは、固相拡散接合により電気的に接続されていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、回路部(28)が基板(26)に実装されている、換言すればアンテナ素子部(42)の近くに回路部(28)が配置されているため、使用電波の周波数が高くても、伝送損失を抑制することができる。したがって、例えば数GHzを使用電波の周波数とする車載用アンテナ装置として好適である。
【0010】
そして、回路部(28)と
筐体(34)との間に、空気よりも熱伝導率の高い熱伝達経路が形成されている。このため、
筐体(34)の内部空間に回路部(28)が配置されながらも、回路部(28)の生じる熱を、
筐体(34)、ひいては筐体(34)の外部に逃がすことができる。したがって、筐体(34)の意匠性を確保しつつ、温度上昇によって回路部(28)の性能が低下するのを抑制することができる。
【0011】
また、使用環境での熱応力、車両の振動、回路部(28)が実装された基板(26)を筐体(34)に組み付ける際の応力などが、回路部(28)とアンテナ素子部(42)との接続部に作用する。特に上記のように、回路部(28)と
筐体(34)との間に熱伝達経路が形成される構成では、回路部(28)が実装された基板(26)を筐体(34)に組み付ける際に、接続部に応力が作用する。特に筐体(34)に対する組み付けばらつきが大きいと、作用する応力も大きくなる。また、組み付けた後も、筐体(34)と基板(26)との間で回路部(28)が挟まれた状態にあり、接続部に応力が作用する。また、車両振動が、基板(26)だけでなく、筐体(34)を介して接続部に作用する。さらには、例えば筐体(34)と基板(26)との線膨張係数差に基づく応力、すなわち熱応力も接続部に作用する。これに対し、本発明では、回路部(28)とアンテナ素子部(42)が、固相拡散接合により電気的に接続されている。この固相拡散接合は、液相拡散接合であるはんだ接合に較べ、歪に対して変形しにくい。したがって、回路部(28)と
筐体(34)との間に熱伝達経路が形成され、接続部に応力が作用しやすい構成を採用しながらも、接続部の寿命を向上することができる。
【0012】
また、本発明のさらなる特徴は、車両(10)のルーフ(11)に取り付けられるベース(22)を備え、基板(26)はベース(22)に立設され、基板(26)及び回路部(28)は、ベース(22)と
筐体(34)とにより形成される空間に収容されており、回路部(28)と
筐体(34)との間には、ベース(22)を介さずに、熱伝達経路が形成されていることにある。
【0013】
車載用アンテナ装置が車両(10)のルーフ(11)に配置される場合、ルーフ(11)が太陽の輻射熱を受け、その熱がベース(22)に伝達されるため、回路部(28)の温度が上昇したり、空間に熱がこもることが考えられる。すなわち、回路部(28)は、より厳しい環境に晒される。これに対し、本発明では、熱伝達経路により、回路部(28)から
筐体(34)に放熱することができるので、筐体(34)の意匠性を確保しつつ、温度上昇によって回路部(28)の性能が低下するのを抑制することができる。なお、立設とは、基板(26)の板厚方向が、ベース(22)に対する垂直方向と異なるように、基板(26)がベース(22)に配置された状態を指す。
【0014】
また、本発明のさらなる特徴は、回路部(28)は、ベース(22)に対する垂直方向において、ベース(22)から離れた位置で基板(26)に実装されていることにある。
【0015】
このように、回路部(28)をベース(22)から離れた位置とすることで、回路部(28)に伝達される太陽輻射熱を低減することができる。すなわち、温度上昇によって回路部(28)の性能が低下するのを抑制することができる。
【0016】
また、本発明のさらなる特徴は、基板(26)及び回路部(28)の一方は、他方との対向面をなす熱可塑性樹脂層(46)を有し、熱可塑性樹脂層(46)に形成された孔部(48)に、回路部(28)とアンテナ素子部(42)とを電気的に接続する接続部材(50)が配置され、熱可塑性樹脂層(46)により、基板(26)及び回路部(28)の対向面が互いに密着し、接続部材(50)を含む、回路部(28)とアンテナ素子部(42)との電気的な接続部が、熱可塑性樹脂層(46)によって封止されていることにある。
【0017】
これによれば、熱可塑性樹脂層(46)により、回路部(28)と基板(26)が密着しているため、これにより、アンテナ素子部(42)と回路部(28)との機械的な接続強度が増し、接続部の寿命を向上することができる。また、接続部が、熱可塑性樹脂層(46)によって封止されている。このように、接続部が熱可塑性樹脂層(46)によって外部から保護されているため、これによっても、接続部の寿命を向上することができる。また、封止と電気的な接続は同一工程でなされるため、製造工程を簡素化することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。なお、各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る車載用アンテナ装置20は、車両10のルーフ11に取り付けられる。このような車載用アンテナ装置20は、シャークフィン型のアンテナ装置として知られている。以下、車載用アンテナ装置20を、単にアンテナ装置20と示す。
【0021】
アンテナ装置20は、要部として、
図2に示すように、ベース22と、ベース22に立設された基板26と、基板26に実装された回路部28と、樹脂材料を用いて形成され、車両外郭の突起部をなす筐体34と、を備えている。
【0022】
ベース22は、基板26を車両10に固定するための基材である。本実施形態では、固定部材24を介してルーフ11に取り付けられている。このベース22は、平板状をなしており、ルーフ11に対して略平行に配置されるとともに、固定部材24を介してルーフ11と電気的に接続される場合、地板として機能する。地板として用いるか否かは、アンテナ装置20の用途に応じて適宜選択される。
【0023】
基板26は、後述する
図3に示すように、アンテナ素子部42を有している。
図2では、アンテナ素子部42を省略して図示している。本実施形態では、アンテナ素子部42として、例えば5.9GHz帯を使用電波の周波数とする車々間通信用のアンテナが形成されている。
【0024】
この基板26は、所謂プリント基板であり、プリント基板を構成する配線パターンの一部としてアンテナ素子部42が形成されている。
図3に示すように、基板26は、電気絶縁材料からなる基材40を有している。電気絶縁材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、さらにはこれら樹脂にガラス繊維やアラミド繊維を含浸させたものなどを採用することができる。本実施形態では、ガラスエポキシからなる基材40を採用している。
【0025】
基材40における少なくとも一方の表面には、配線パターンとしてアンテナ素子部42が配置されている。本実施形態では、基材40の両表面に配置された銅箔が、それぞれパターニングされてアンテナ素子部42が形成されている。そして、両表面のアンテナ素子部42は、基材40に形成された層間接続ビア44により、電気的に接続されている。本実施形態では、アンテナ素子部42が、モノポール構造のアンテナエレメントと、アンテナエレメントの一端に連結され、グランドとして機能する幅広部と、を有している。そして、両表面の幅広部同士が、複数の層間接続ビア44により電気的に接続されている。
【0026】
また、基材40の表面には、アンテナ素子部42を覆うように熱可塑性樹脂層46が貼り付けられている。この熱可塑性樹脂層46としては、基材40が熱分解しない温度で軟化して、対象物に熱圧着が可能なものを採用することができる。本実施形態では、一例としてポリエーテルイミドを採用している。また、基材40の両表面全面に、熱可塑性樹脂層46が貼り付けられている。
【0027】
この熱可塑性樹脂層46の所定位置には、アンテナ素子部42を底部とする孔部48が形成されている。そして、孔部48には、アンテナ素子部42と、回路部28の電極52とを電気的に接続する接続部材50が配置されている。本実施形態では、この接続部材50が、主としてAg
3Snを含むAg−Sn合金からなる。また、銅からなるアンテナ素子部42と、Ag−Sn合金からなる接続部材50との界面には、CuとSnとが相互に拡散してなる固相拡散層(Cu−Sn合金層)が形成されている。
【0028】
回路部28は、基板26に実装されている。この回路部28は、アンテナ素子部42と電気的に接続され、アンテナ素子部42を介して外部と無線通信を行う無線通信回路の少なくとも一部をなすものである。本実施形態では、回路部28として、送信信号を増幅するパワーアンプを含んでいる。それ以外にも、回路部28として、パワーアンプとともに、受信信号を増幅するローノイズアンプを含んでも良い。さらには、パワーアンプ、ローノイズアンプに加え、給電ラインを送信側及び受信側のいずれかに切り替えるスイッチを含んでも良い。また、パワーアンプ、ローノイズアンプ、スイッチに加え、送信側のバンドパスフィルタ、受信側のバンドパスフィルタを含む構成としても良い。さらには、無線通信回路全体を含む構成としても良い。
【0029】
この回路部28としては、プリント基板に電子部品が実装されてなる回路基板、半導体チップなどの電子部品がパッケージ化されたもの、回路が1つの半導体チップに集積されたもの、を採用することができる。本実施形態では、回路部28としてモールドパッケージを採用している。また、回路部28は、アンテナ素子部42の幅広部に対応して配置されている。回路部28における基板26との対向面28aには、接続部材50に対応して電極52が形成されている。この電極52は例えば少なくとも表層にNiを有する。そして、回路部28の電極52と、Ag−Sn合金からなる接続部材50との界面には、NiとSnとが相互に拡散してなる固相拡散層(Ni−Sn合金層)が形成されている。
【0030】
また、回路部28の対向面28aには、基材26を構成する熱可塑性樹脂層46が密着している。そして、熱可塑性樹脂層46により、接続部材50を介したアンテナ素子部42と回路部28の電極52との接続部が封止されている。
【0031】
このように回路部28が実装された基板26、すなわちアンテナユニット30は、固定部材32によって、ベース22に固定されている。換言すれば、基板26は、ベース22に立設されている。なお、立設とは、基板26の板厚方向が、ベース22に対する垂直方向と異なるように、基板26がベース22に配置された状態を指す。ベース22に対する垂直方向は、換言すればベース22の厚み方向である。本実施形態では、基板26におけるアンテナ素子部42の形成面と、ベース22における基板26の配置面とが略直交するように、固定部材32によって基板26がベース22に固定されている。換言すれば、基板26の板厚方向とベース22の厚み方向が略直交するように、基板26がベース22に固定されている。
【0032】
また、アンテナユニット30は、筐体34内に配置されている。この筐体34は、樹脂材料を用いて形成され、車両外郭の突起部をなしている。本実施形態では、筐体34とベース22とにより形成される空間に、アンテナユニット30が収容されている。また、筺体34は、ルーフ11の突起部をなすように、所謂シャークフィン状に形成されている。
【0033】
本実施形態に係るアンテナ装置20は、さらに熱伝導部材36を備えている。この熱伝導部材36は、空気よりも熱伝導率の高い材料からなる。そして、回路部28における基板26とは反対の面と筐体34との両者に接触して、回路部28と筐体34との間に熱伝達経路を形成する。本実施形態では、銅からなる熱伝導部材36を採用している。この熱伝導部材36は、回路部28における基板26と反対の面に接着固定されている。そして、熱伝導部材36を含むアンテナユニット30が
筐体34に対して圧入され、熱伝導部材36は筐体34の内面に接触している。
【0034】
ここで、回路部28とアンテナ素子部42との接続部の接続強度を、第1接続強度と示し、回路部28の対向面28aに対する熱可塑性樹脂層46の密着強度を、第2接続強度と示す。また、回路部28と筐体34との熱伝達経路の接続強度を、第3接続強度と示す。そして、本実施形態では、第1接続強度>第2接続強度>第3接続強度の関係を満たしている。なお、回路部28と筐体34との熱伝達経路の接続強度とは、圧入による筐体34と熱伝導部材36との接続強度、及び、回路部28に対する熱伝導部材36の接続強度のうち、接続強度の低い方である。
【0035】
次に、上記したアンテナユニット30の製造方法について、
図4を用いて説明する。
【0036】
先ず、アンテナ素子部42を表面に有する基材40を準備する。本実施形態では、
図4(a)に示すように、両表面にアンテナ素子部42を有する基材40を準備する。そして、基材40の一面に、アンテナ素子部42を覆うように、熱可塑性樹脂層46を貼り付ける。上記したように、熱可塑性樹脂層46は、基材40が熱分解しない温度で軟化する。本実施形態では、熱可塑性樹脂層46としてポリエーテルイミドを採用しており、220〜260℃で、基材40に熱圧着する。
【0037】
次に、
図4(b)に示すように、熱可塑性樹脂層46の所定位置に、炭酸ガスレーザなどによって、アンテナ素子部42を底部とする孔部48を形成する。そして、孔部48に、焼結後に接続部材50となる導電性ペースト50aを充填する。導電性ペースト50aは、導電性粒子に、テルピネオールなどの有機溶剤を加えた状態で混練することで得ることができる。本実施形態では、導電性粒子として、Ag粒子とSn粒子を所定の比率で含む導電性ペースト50aを用いる。なお、導電性粒子中におけるAg粒子の含有比率を、60〜73重量%とすると、導電性と接合性のバランスがより優れたものとなる。本実施形態では、65重量%のSn粒子と35重量%のAg粒子の混合物に、有機溶剤としてテルピネオールを、導電性粒子に対して5〜6%添加して、導電性ペースト50aを形成した。なお、導電性粒子としては、上記例以外にも、Cu粒子を用いることができる。また、適宜、低融点ガラスフリットや、バインダとしての有機樹脂、無機フィラーを添加混合しても良い。
【0038】
次に、
図4(c)に示すように、基材40における一面と反対の裏面にも、一面同様、熱可塑性樹脂層46を貼り付ける。また、孔部48を形成して、孔部48に導電性ペースト50aを充填する。以上により、焼結前の導電性ペースト50aの状態ではあるものの、基板26が形成される。
【0039】
次に、例えばパルスヒート方式の熱圧着ツールなどにより、回路部28を、電極形成面の裏面側から加熱しつつ基板26に向けて加圧する。このとき、熱可塑性樹脂層36が軟化する温度(220〜260℃)で加熱しつつ、熱可塑性樹脂層46側に加圧する。この加熱と加圧により、Ag粒子とSn粒子は焼成し、主としてAg
3Snを含むAg−Sn合金の接続部材50が形成される。なお、形成されたAg
3Snの溶融温度は480℃である。また、過剰なSn粒子は、アンテナ素子部42を構成するCuと相互に固相拡散接合し、接続部材50とアンテナ素子部42の界面に固相拡散層を形成する。さらには、過剰なSn粒子は、回路部28の電極52を構成するNiと相互に固相拡散接合し、接続部材50と回路部28の電極52の界面に固相拡散層を形成する。
【0040】
また、軟化した熱可塑性樹脂層46は、圧力を受けて流動し、回路部28の対向面28a、電極52、接続部材50に密着する。したがって、
図3に示したように、熱可塑性樹脂層46によって、回路部28とアンテナ素子部42との電気的な接続部を封止することができる。このようにして、アンテナユニット30を形成する。
【0041】
次に、アンテナ装置20の作用効果について説明する。
【0042】
本実施形態では、回路部28が、アンテナ素子部42を有する基板26に実装されている。換言すればアンテナ素子部42の近くに回路部28が配置されている。このため、使用電波の周波数が数GHzと高くても、伝送損失を抑制することができる。したがって、車々間通信や路車間通信に用いられるアンテナ装置20として好適である。
【0043】
このように基板26に回路部28を実装しただけでは、
図5の第1参考例に示すように、回路部28と筐体34との間に存在する空気層を介して、回路部28の生じた熱、例えばパワーアンプの生じた熱が、筐体34に伝達される。したがって、回路部28から
筐体34への放熱効率が低い。これに対し、本実施形態では、
図2に示したように、回路部28と筐体34との間に熱伝導部材36が介在され、これにより、回路部28と
筐体34との間に、空気よりも熱伝導率の高い熱伝達経路が形成されている。このため、
筐体34の内部空間に回路部28が配置されながらも、回路部28の生じる熱を、
筐体34に効率良く逃がすことができる。そして、走行時の気流により、筐体34を冷却することができる。したがって、冷却ファンの取り付けや、通気用の孔部を形成することなく、すなわち、筐体34の意匠性を確保しつつ、温度上昇によって回路部28の性能が低下するのを抑制することができる。
【0044】
また、回路部28が実装された基板26において、回路部28とアンテナ素子部42との電気的な接続部には、使用環境での熱応力、車両の振動、走行時の風力、回路部28が実装された基板を筐体に組み付ける際の応力などが作用する。特に
図6の第2参考例に示すように、回路部28と
筐体34との間に熱伝達経路が形成される構成では、回路部28が実装された基板26を筐体34に組み付ける際、例えば圧入する際に、接続部に応力が作用する。特に筐体34に対してアンテナユニット30の組み付けばらつきが大きいと、作用する応力も大きくなる。また、組み付けた後も、筐体34と基板26との間で回路部28が挟まれた状態にあり、接続部に応力が作用する。また、車両振動が、基板26だけでなく、筐体34を介しても、接続部に作用する。さらには、例えば筐体34と基板26との線膨張係数差に基づく応力、すなわち熱応力も接続部に作用する。したがって、
図6に示すように、はんだを介して回路部28とアンテナ素子部42が電気的に接続される構成では、接続部の寿命として所望の寿命を確保できない虞がある。はんだのヤング率は、共晶はんだで22GPa程度、鉛フリーはんだで25〜40GPa程度である。
図6では、回路部28が、はんだボールを有するBGA型のパッケージとなっている。
【0045】
これに対し、本実施形態では、回路部28とアンテナ素子部42を接続する接続部材50が、主としてAg3Snを含むAg−Sn合金からなる。Ag3Snのヤング率は、引っ張り環境温度が室温の場合、75GPa程度、上記温度が100℃の場合、60GPa程度、上記温度が150℃の場合、52GPa程度である。このように、本実施形態に係る接続部材50のほうが、はんだに較べて高強度で硬く、応力によって歪んだり変形し難い。また、銅からなるアンテナ素子部42と、Ag−Sn合金からなる接続部材50との界面には、CuとSnとが相互に拡散してなる固相拡散層(Cu−Sn合金層)が形成される。また、回路部28の電極52と、Ag−Sn合金からなる接続部材50との界面には、NiとSnとが相互に拡散してなる固相拡散層(Ni−Sn合金層)が形成される。このように、回路部28及びアンテナ素子部42と、接続部材50との界面には、固相拡散層が形成されるため、液相拡散であるはんだ接合に較べ、歪に対して変形しにくい。以上により、回路部28と
筐体34との間に熱伝達経路が形成され、接続部に応力が作用しやすい構成を採用しながらも、接続部の寿命を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態では、アンテナ装置20が、車両10のルーフ11に取り付けられるベース22を備えている。また、基板26はベース22に立設されており、基板26及び回路部28は、ベース22と
筐体34とにより形成される空間に収容されている。そして、回路部28と
筐体34との間には、ベース22を介さずに、熱伝達経路が形成されている。
【0047】
アンテナ装置20が車両10のルーフ11に配置される場合、ルーフ11が太陽の輻射熱を受け、その熱がベース22に伝達される。そして、ベース22に伝達された熱は、基板26を介して回路部28に伝達される。また、ベース22から、ベース22と
筐体34とにより形成される空間に放熱される。このため、回路部28の温度が上昇しやすい。また、空間に熱がこもりやすい。すなわち、回路部28は、より厳しい環境に晒される。これに対し、本実施形態では、回路部28と筐体34との間に熱伝導部材36が介在され、これにより、回路部28と
筐体34との間に、空気よりも熱伝導率の高い熱伝達経路が形成されている。このため、熱伝達経路により、回路部28から
筐体34に放熱することができるので、筐体34の意匠性を確保しつつ、温度上昇によって回路部28の性能が低下するのを抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態では、回路部28が、ベース22に対する垂直方向において、ベース22から離れた位置で基板26に実装されている。このように、回路部28をベース22から離れた位置とすることで、回路部28に伝達される太陽輻射熱を低減することができる。すなわち、温度上昇によって回路部28の性能が低下するのを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、回路部28が、無線通信回路の中で最も発熱量が大きいパワーアンプを含んでいる。しかしながら、上記したように、回路部28と筐体34との間に、空気よりも熱伝導率の高い熱伝達経路が形成されているため、パワーアンプを含みながらも、回路部28の性能低下を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、基板26が、回路部28との対向面をなす熱可塑性樹脂層46を有しており、熱可塑性樹脂層46により、回路部28と基板26が密着している。このため、アンテナ素子部42と回路部28との機械的な接続強度が増し、接続部の寿命を向上することができる。また、熱可塑性樹脂層46に形成された孔部48に、回路部28とアンテナ素子部42とを電気的に接続する接続部材50が配置されている。そして、熱可塑性樹脂層46により、接続部材50を含む、回路部28とアンテナ素子部42との電気的な接続部が封止されている。このように、接続部が熱可塑性樹脂層46によって外部から保護されているため、これによっても、接続部の寿命を向上することができる。また、封止と電気的な接続は、上記したように同一の工程でなされるため、製造工程を簡素化することもできる。
【0051】
また、本実施形態では、上記したように、第1接続強度>第2接続強度>第3接続強度の関係を満たしている。したがって、回路部28に対して応力が作用した場合、先ず、回路部28と筐体34との熱伝達経路を形成する接続が解除される。次いで、回路部28の対向面28aに密着する熱可塑性樹脂層46に、剥がれや亀裂等が生じる。したがって、回路部28とアンテナ素子部42との電気的な接続を確保することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0053】
本実施形態では、アンテナ装置20が、ルーフ11に配置される例を示した。すなわち、車両外郭の突起部をなす筐体34が、ルーフ11に配置されるアンテナ装置20の
筐体である例を示した。しかしながら、アンテナ装置20の配置は上記例に限定されるものではない。例えば
図7に示すように、車両10のドアミラー12にアンテナ装置20が配置される構成としても良い。この場合、アンテナ素子部42を有する基板26と、基板26に実装された回路部28と、筐体34を少なくとも備えれば良い。この場合、筐体34は、ドアミラー12の
筐体である。
【0054】
本実施形態では、回路部28と筐体34との間に、Cuからなる熱伝導部材36が介在されて熱伝達経路が形成される例を示した。しかしながら、熱伝達経路は上記例に限定されるものではない。例えば、ゴム、樹脂、ゲルなどからなる熱伝導部材36を採用することもできる。また、複数の部材により、熱伝導部材36が構成されても良い。さらには、
図8に示すように、熱伝導部材36を介さずに、回路部28を
筐体34の内面に直接的に接触させてなる熱伝達経路を採用することもできる。
図8に示す例では、
筐体34に、部分的に厚肉部34aが形成され、圧入により、厚肉部34aに対して回路部28が接触している。なお、厚肉部34aは、筐体34における回路部28との対向部分に少なくとも設けられれば良い。
【0055】
本実施形態では、基板26が、熱可塑性樹脂層46、孔部48、及び接続部材50を有する例を示した。しかしながら、回路部28がプリント基板を備える構成においては、回路部28側に、熱可塑性樹脂層46、孔部48、及び接続部材50を設けても良い。すなわち、基板26及び回路部28のいずれかに、熱可塑性樹脂層46、孔部48、及び接続部材50が形成されれば良い。
【0056】
本実施形態では、回路部28が、ベース22から離れた位置で基板26に実装される例を示した。しかしながら、回路部28は基板26に実装されていればよく、ベース22に対する位置は上記例に限定されるものではない。例えばベース22に接触しても良い。しかしながら、離れて設けたほうが良いのは、上記したとおりである。
【0057】
上記実施形態では、アンテナ素子部42として、例えば5.9GHz帯を使用電波の周波数とする車々間通信用のアンテナが形成される例を示した。しかしながら、アンテナ素子部42の使用電波の周波数、用途は上記例に限定されるものではない。