(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係るスピーカを、好ましい実施例及び変形例により
図1〜
図17を用いて説明する。
【0014】
<実施例1>
図1は、実施例1のスピーカ51を説明するための断面図である。以下の説明における前後の各方向は、
図1に矢印で示された方向で規定する。
スピーカ51は、軸線CL1を中心とし後方側ほど縮径する階段状の環状外周壁を形成するフレーム1と、フレーム1に対して前後方向に振動可能に取り付けられた振動部SDと、フレーム1の後方部位に取り付けられ振動部SDのボイスコイル6(後述)との協働で入力電気信号を機械振動に変換させる磁気回路部ZKと、を有している。
フレーム1は例えば金属で形成され、外周壁には、周方向において所定間隔で複数の開口部1cが形成されている。
また、フレーム1の内面の、前後方向において開口部1cに概ね対応した位置には、環状のダンパホルダ7が固定されている。ダンパホルダ7には、周方向において所定間隔で複数の開口部7aが形成されている。
フレーム1の開口部1cとダンパホルダ7の開口部7aとは、周方向において互いに対応した位置と範囲に設けられているとよい。
【0015】
振動部SDは、フレーム1の前方側端部に環状に形成されたフランジ1aに対し、外周側縁部が取り付けられた環状のエッジ2と、軸線CL1を中心とする略すり鉢状に形成され、外周縁部がエッジ2の内周側縁部に連結された振動板3と、振動板3に対しその中央部に形成された円形の開口部3aを塞ぐように取り付けられ、断面形状が前方に突出する弧状となるよう形成されたセンターキャップ4と、軸線CL1を中心とする円筒形状に形成され、前方端部側が開口部3a内に挿通して取り付けられたボイスコイルボビン5と、ボイスコイルボビン5の後方端側から前方に向かう所定範囲に巻回されたボイスコイル6と、略円盤状であって同心の凹凸リブの繰り返しによる蛇腹状に形成されると共に、外周縁部がダンパホルダ7に固定され、内周縁部がボイスコイルボビン5の先端側外周面に固定されたダンパ8と、を有して構成されている。
【0016】
この構成において、振動板3は、振動板3と一体化されているセンターキャップ4並びにボイスコイルボビン5及びボイスコイル6と共に、フレーム1に対し、エッジ2及びダンパ8を介して前後方向に振動可能に支持されている。
【0017】
ボイスコイル6のリードは、繊維被覆電線9を介してフレーム1に固定された接続端子10に接続されている。従って、外部から入来する入力音声信号は、接続端子10及び繊維被覆電線9を介してボイスコイル6に供給される。
【0018】
磁気回路部ZKは、リング状のマグネット11と、マグネット11の前側に固定された環状平板のトッププレート12と、マグネット11及びトッププレート12の中央開口部に後方側から挿通されたポールピース13aとポールピース13aの後端側に径方向外側に張り出すように形成されたフランジ部13bとを有してマグネット11の後側に固定されたヨーク13と、を備えて構成されている。
磁気回路部ZKは、フレーム1の後端部1bに対し、トッププレート12がねじ止め等で固定されることにより一体化されている。
【0019】
上述の構成において、ボイスコイル6は、ポールピース13aとトッププレート12との間の狭い環状の空間であるギャップGpに、ポールピース13a及びトッププレート12と接触しないように配設されている。
従って、接続端子10を介してボイスコイル6に交流の入力音声信号が供給されると、ボイスコイル6は入力音声信号に対応して生じるローレンツ力によって前後方向に振動する。すなわち、ボイスコイル6と、ボイスコイル6と一体のボイスコイルボビン5及び振動板3と、が、前後方向に一体的に振動する。
それに連動して、振動板3と接続されたエッジ2及びボイスコイル6に接続されたダンパ8も、前後方向に移動する。
【0020】
ダンパ8は、エッジ2と共に、振動板3をボイスコイル6がギャップGp内でトッププレート12及びポールピース13aに接触しないよう支持すると共に、振動に所定の制動を与えるものである。
また、ダンパ8の通気性の有無、及び通気性を有する場合の通気程度は限定されない。
【0021】
スピーカ51において、ポールピース13aには、前後方向に沿う貫通孔13a1が形成されている。貫通孔13a1は、例えば軸線CL1を中心とする孔でる。
貫通孔13a1における前方側の開口部13a2近傍の詳細構造を、
図2及び
図3も参照して説明する。
図2は開口部13a2近傍の拡大断面図であり、
図3は開口部13a2近傍構成の斜視的分解図である。
【0022】
貫通孔13a1の開口部13a2は、ポールピース13aの前面13a3に対して円形に凹んだ凹部13a4の底面13a5に開口している。
前面13a3と底面13a5とは、底面13a5に向かうに従って縮径する傾斜部13a6により連結されている。
底面13a5には、弁規制部材14と弁部材15とが、弁部材15を前方側として重ね合わされて取り付けられている。以下、弁規制部材14と弁部材15とを合わせて弁16とも称する。
【0023】
弁規制部材14は、環状の外枠部14kと外枠部14kに支持された網部14aとを有している。網部14aは充分な通気性を有しており、網の態様は例えば平織り状である。
弁規制部材14において、網部14aの直径は、貫通孔13a1の内径以上となるように設定されている。また、網部14aは、空気が前後いずれの方向にも自由に流通可能なよう織り目の間に充分な隙間を有している。網の織り態様は、平織りに限るものではない。
弁規制部材14の材質は外枠部14k及び網部14aいずれも金属に限定されるものではない。それぞれ異なる材料であってもよい。金属以外の材料例は、樹脂、織布、不織布である。
また、網部14aは、網ではなくて所謂パンチングメタル(金属製、樹脂製
樹脂)であってもよい。また、通気性を有するシート状の織布又は不織布であってもよい。
【0024】
弁部材15は、環状の外枠部15kと、外枠部15kから中心に向かって延出すると共に複数の放射状切り込み切り込み15aにより複数枚に分割されたフラップ15bと、を有している。この例では、切り込み15aは例えば十文字状とされてフラップ15bは4枚となっている。切り込み15aの形状及びフラップ15bの枚数は限定されるものではない。
【0025】
弁部材15は、柔軟性を有する材料(例えばシリコーンゴム)により形成されている。
環状の外枠部15kから内径方向に延出形成された各フラップ15bは、その厚さが充分に薄いものとされている。詳しくは、フラップ15bの厚さは、その材質に係る特性を考慮して、弁部材15を通過しようとする僅かな空気流動に対して容易に変形し、その流動を許容するように設定されている。
そのため、
図2において、例えば貫通孔13a1側(後方側)の圧力が高くなって、空気が貫通孔13a1の内部を前方に向け流れようとした場合には、空気は弁規制部材14の網部14aを通過した後、弁部材15のフラップ15bを二点鎖線で示されるように押し曲げて空気流動に充分な隙間を形成することができる。これにより、空気は弁規制部材14及び弁部材15を通過し、前方側へ抜ける。すなわち、弁部材15において後方から前方への空気流動(白ヌキ矢印参照)は許容される。
【0026】
一方、貫通孔13a1よりも前方側の圧力が高くなって、空気が貫通孔13a1の内部を後方側に向け流れようとした場合には、空気は、まずフラップ15bを後方側に変形させようとする。
しかしながら、フラップ15bの後方側には近接して網部14aが配設されているので、フラップ15bは、僅かな変形をしたところで網部14aに当接し、それ以上変形できないようになっている。
そのため、隙間はほとんど形成されず貫通孔13a1内の前方側から後方側への空気流動は実質的に禁止される。
このように、弁16は、弁規制部材14と弁部材15との協働により、貫通孔13a1内の空気流動の方向を一方向に規制するように作動する。
【0027】
弁16を備えたスピーカ51の駆動状態(音声出力状態)での空気の流れについて、
図4及び
図5を参照して詳述する。
図4は、スピーカ51の駆動状態において振動部SDが基準状態に対し前方側に移動した状態を示す断面図であり、
図5は、振動部SDが基準状態に対し後方側に移動した状態を示す断面図である。空気の流れは、黒三角ヘッドの矢印で示されている。ここで、振動部SDが移動していない基準状態は、
図1に示される状態である。
【0028】
スピーカ51は、ボイスコイル6に交流音声信号が流れると、信号の時間波形に応じて振動部SDが基準状態の位置に対して前後方向に往復移動(振動)する。
この振動で基準状態よりも前方側へ移動しているとき、センターキャップ4,振動板3,ボイスコイルボビン5,及びポールピース13aで囲まれた内部空間SP1の容積は基準状態と比較して増加する。
内部空間SP1と外部空間SPとを繋ぐ流路は、ギャップGp,ダンパホルダ7の開口部7a,及びフレーム1の開口部1cを通る流路(以下、ギャップ流路と称する)と、弁16及び貫通孔13a1を通る流路(以下、貫通孔流路と称する)と、の二つがある。
ここで、振動部SDの前方側移動によって空間SP1の容積が増加すると、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して負圧となるため、外部空間SPから内部空間SP1への空気流入が図られる。
このときのギャップ流路の流路抵抗は、流路断面積が小さいことに加え、貫通孔流路が擁する弁16が空気の前方への流れを許容することから、貫通孔流路の流路抵抗と比べて遙かに大きい。
そのため、外部空間SPにおけるスピーカ51の後方側の空気は、弁部材15のフラップ15bを前方側に開いて流路を形成するよう変形させつつ、貫通孔流路を通って内部空間SP1に流入する。すなわち、貫通孔13a1,弁規制部材14,及び弁部材15を通って内部空間SP1に流入する(黒三角ヘッド矢印参照)。
【0029】
本構成における振動部SDの基準状態に対して後方側へ移動した状態を
図5に示す。
この後方側に移動した状態で、内部空間SP1の容積は基準状態と比べて減少しており、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して正圧となって内部空間SP1から外部空間SPへの空気流出が図られる。
このとき、貫通孔経路が擁する弁16が空気の後方への流れを禁止することから、ギャップ流路の流路抵抗は流路断面積が小さいながらも貫通孔流路の流路抵抗と比べて小さくなっている。
そのため、内部空間SP1の空気は、弁部材15のフラップ15bに対して後方側の網部14aに向け付勢する一方、ギャップGpを通り、フレーム1の開口部1cから側方側の外部空間SPへ流出する。
【0030】
空気がギャップGpを通過する際には、まず、内部空間SP1からポールピース13aの外周面とボイスコイルボビン5の内周面との間の隙間に流入して後方側へ抜ける。
次いでボイスコイルボビン5の後方側端面を外方側に向けて越えたら流れの方向を前方に向け反転させ、ボイスコイル6の外周面とマグネット11の内周面との間の隙間を前方に移動し、さらにボイスコイル6の外周面とトッププレート12との間の隙間を通ってダンパ8の後方側の空間(以下、ダンパ後方空間SP2とも称する)へ至る。
振動の継続により、
図4と
図5とに示された空気の流れが交互に連続して行われる。
【0031】
上述のように、スピーカ51において、吸気孔と排気孔との位置は、それぞれフレーム1に対する後面側と側面側とにあって、両位置は充分に離隔している。
従って、内部空間SP1に熱気が流入することはなく、流入する外気は常に常温であるので、良好な放熱効果が得られる。
また、振動部SDの前後動に伴い生じる空気流の方向が、弁16によって概ね一定の方向に決まる。すなわち、ポールピース13aの貫通孔13a1、内部空間SP1、ギャップGp、ダンパ後方空間SP2、ダンパホルダ7の開口部7a、フレーム1の開口部1c、というルートである。
厳密には、ダンパ後方空間SP2において、ダンパ8の前後移動に伴って往復動する空気流が生じ得るが、顕著に昇温する部位にあるギャップGpにおける空気の流れ方向は、ほぼ完全に一定方向に定まって維持される。
【0032】
これにより、ギャップGpには断続的に外部から流入した常温の空気が供給され、その常温の空気がギャップGpを通過する際にボイスコイル6及びその近傍の熱を充分に奪って昇温し、昇温してなる熱気は再びギャップGpに戻ることなく外部に排出されるので、スピーカ51は高い放熱効率が発揮される。
また、ギャップGpの狭い隙間に空気が流入することによる流速の上昇も放熱効率の改善に寄与している。
【0033】
<実施例2>
図6及び
図7は、実施例2のスピーカ52の動作を説明するための断面図である。
図6は、スピーカ52の駆動状態において振動部SDが基準状態に対し前方側に移動した状態を示す断面図であり、
図7は、振動部SDが基準状態に対し後方側に移動した状態を示す断面図である。
図6及び
図7は、それぞれ
図4及び
図5に対応して比較可能な図である。
【0034】
スピーカ52は、実施例1のスピーカ51に対して、弁16の取り付け位置と前後方向の向きとが異なるものである。
具体的には、スピーカ52において、弁16は、ポールピース13aの貫通孔13a1における後方側の端部に設けられている。また、弁16は、弁規制部材14が前方側(内部空間SP1側)、弁部材15が後方側(外部空間SP側)となるように重ね合わされて取り付けられている。
【0035】
より詳しく説明すると、貫通孔13a1における後方側の端部には、貫通孔13a1よりも大径の凹部13a8が形成されている。貫通孔13a1における、外部空間SPに連通する開口部13a7は、その凹部13a8の底面13a9に設けられている。
そして、弁16は、底面13a9に取り付けられている。
上述のように、弁規制部材14が弁部材15の前方側に配設されているため、後方の外部空間SPから貫通孔13a1に進入しようとする空気の流れは禁止され、内部空間SP1から貫通孔13a1を通して外部空間SPに流出する空気の流れは許容されるようになっている。
【0036】
このスピーカ52の構成において、内部空間SP1と外部空間SPとを繋ぐ流路は、実施例1のスピーカ51と同様に、ギャップGp,ダンパホルダ7の開口部7a,及びフレーム1の開口部1cを通るギャップ流路と、弁16及び貫通孔13a1を通る貫通孔流路と、の二つがある。
ここで、
図6に示されたような、振動部SDが基準状態の位置に対して前方に移動した状態になると、内部空間SP1の容積が基準状態の容積よりも増加し、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して負圧となって外部空間SPから内部空間SP1への空気流入が図られる。
このとき、貫通孔経路が擁する弁16が外部空間SPから貫通孔13a1内に流入しようとする空気の流れを禁止することから、ギャップ流路の流路抵抗は流路断面積が小さいながらも貫通孔流路の流路抵抗と比べて小さくなっている。
そのため、外部空間SPにおけるスピーカ52の後方側の空気は、弁部材15のフラップ15bに対して前方側の網部14aに向け付勢する一方、スピーカ52の側方側の空気はフレーム1の開口部1cからダンパホルダ7の開口部7aを通ってダンパ後方空間SP2に流入し、さらにギャップGpを通って内部空間SP2に流入する(黒三角ヘッド矢印参照)。
【0037】
本構成における振動部SDの基準状態に対して後方側へ移動した状態を
図7に示す。
この後方側に移動した状態で、内部空間SP1の容積は基準状態と比べて減少しており、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して正圧となって内部空間SP1から外部空間SPへの空気流出が図られる。
このとき、ギャップ流路の断面積が小さいことに加え、貫通孔流路が擁する弁16が空気の後方への流れ、すなわち貫通孔13a1を経た外部空間SPへの空気流出を許容することから、貫通孔流路の流路抵抗と比べてギャップ流路の流路抵抗は遙かに大きい。
そのため、内部空間SP1の空気は、弁部材15のフラップ15bを後方側に開いて流路を形成するよう変形させつつ、貫通孔流路を通って後方側の外部空間SPへ流出する。すなわち、貫通孔13a1,弁規制部材14,及び弁部材15を通って後方側の外部空間SPに流出する(黒三角ヘッド矢印参照)。
振動の継続により、
図6及び
図7で示された空気の流れが交互に連続して行われる。
【0038】
上述のように、スピーカ52において、吸気孔と排気孔との位置は、それぞれフレーム1に対する側面側と後面側とにあって両位置は充分に離隔している。
従って、内部空間SP1内に熱気が流入することはなく、流入する外気は常に常温であるので、良好な放熱効果が得られる。
また、振動部SDの前後動に伴い生じる空気流の方向が、概ね一定の方向に決まる。すなわち、フレーム1の開口部1c、ダンパホルダ7の開口部7a、ダンパ後方空間SP2、ギャップGp、内部空間SP1、ポールピース13aの貫通孔13a1、というルートである。
厳密には、ダンパ後方空間SP2において、ダンパ8の前後移動に伴い、往復動する空気流が生じ得るが、顕著に昇温する部位にあるギャップGpにおける空気の流れ方向は、ほぼ完全に一定方向に定まって維持される。
【0039】
これにより、ギャップGpには断続的に外部から流入した常温の空気が供給され、その常温の空気がギャップGpを通過する際にボイスコイル6及びその近傍の熱を奪って昇温し、昇温してなる熱気は再びギャップGpに戻ることなく外部に排出されるので、スピーカ52は高い放熱効率が発揮される。
【0040】
<実施例3>
図8及び
図9は、実施例3のスピーカ53の動作を説明するための断面図である。
図8は、スピーカ53の駆動状態において振動部SDが基準状態に対し前方側に移動した状態を示す断面図であり、
図9は、振動部SDが基準状態に対し後方側に移動した状態を示す断面図である。
図8及び
図9は、それぞれ
図4及び
図5に対応して比較可能な図である。
【0041】
スピーカ53は、実施例1及び実施例2のスピーカ51,52に対し、弁16の取り付け位置がセンターキャップ4である点及びポールピース13aの貫通孔13a1が形成されてない点で異なっている。
図8に示されるように、スピーカ53におけるセンターキャップ4には、中央部に平坦な座部4aが形成されている。座部4aの中央には開口部4bが形成されている。開口部4bの形状は例えば円形である。
また、座部4aの径方向外側には、強度向上などのための環状凹部4cが形成されている。
弁16は、この座部4aの後面(ポールピース13a側の面)側における開口部4bに対応した位置に取り付けられている。また、弁16は、弁規制部材14が前方側(外部空間SP側)、弁部材15が後方側(内部空間SP1側)となるように重ね合わされて取り付けられている。
そのため、前方の外部空間SPから開口部4bを通って内部空間SP1に進入しようとする空気の流れは許容され、内部空間SP1から開口部4bを通して外部空間SPに流出しようとする空気の流れは禁止されるようになっている。
【0042】
このスピーカ53の構成において、内部空間SP1と外部空間SPとを繋ぐ流路は、ポールピース13aに貫通孔13a1が形成されていないことから、ギャップGp,ダンパホルダ7の開口部7a,及びフレーム1の開口部1cを通るギャップ流路と、弁16とセンターキャップ4の開口部4bを通るセンターキャップ通路と、の二つである。
ここで、
図8に示されたような、振動部SDが基準状態の位置に対して前方に移動した状態になると、内部空間SP1の容積が基準状態の容積よりも増加し、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して負圧となって外部空間SPから内部空間SP1への空気流入が図られる。
このとき、ギャップ流路の断面積が小さいことに加えてセンターキャップ流路が擁する弁16が空気の後方への流れ(内部空間SP1への流入)を許容することから、センターキャップ流路の流路抵抗と比べてギャップ流路の流路抵抗は遙かに大きい。
そのため、スピーカ53の前方側の外部空間SPの空気は、弁部材15のフラップ15bを後方側に開いて流路を形成するよう変形させつつ、センターキャップ流路を通って内部空間SP1に流入する。すなわち開口部4b,弁規制部材14,及び弁部材15を通って内部空間SP1に流入する(黒三角ヘッド矢印参照)。
【0043】
本構成における振動部SDの基準状態に対して後方側へ移動した状態を
図9に示す。
この後方側に移動した状態で、内部空間SP1の容積は基準状態と比べて減少しており、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して正圧となって内部空間SP1から外部空間SPへの空気流出が図られる。
このとき、センターキャップ経路が擁する弁16が内部空間SP1から外部空間SPへ向かう前方への流れを禁止することから、ギャップ流路の流路抵抗は流路断面積が小さいながらもセンターキャップ流路の流路抵抗と比べて小さくなっている。
そのため、内部空間SP1の空気は、弁部材15のフラップ15bに対しては前方側の網部14aに付勢する一方、ギャップGp,ダンパホルダ7の開口部7a,及びフレーム1の開口部1cを通って側方側の外部空間SPに流出する(黒三角ヘッド矢印参照)。
振動の継続により、
図8及び
図9で示された空気の流れが交互に連続して行われる。
【0044】
上述のように、スピーカ53において、吸気孔と排気孔との位置は、それぞれフレーム1に対する前方側と側面側とにあって両位置は充分に離隔している。
従って、内部空間SP1内に熱気が流入することがなく、流入する外気は常に温であるので、良好な放熱効果が得られる。
また、振動部SDの前後動に伴い生じる空気流の方向が、概ね一定の方向に決まる。すなわち、センターキャップ4の開口部4b、内部空間SP1、ギャップGp、ダンパ後方空間SP2、ダンパホルダ7の開口部7a、フレーム1の開口部1c、というルートである。
厳密には、ダンパ後方空間SP2において、ダンパ8の前後移動に伴い、往復動する空気流が生じ得るが、顕著に昇温する部位にあるギャップGpにおける流れ方向は、ほぼ完全に一定方向に定まって維持される。
【0045】
これにより、ギャップGpには断続的に外部から流入した常温の空気が供給され、ギャップGpを通過する際にボイスコイル6及びその近傍の熱を奪って昇温し、昇温してなる熱気は、再びギャップGpに戻ることなく外部に排出されるので、高い放熱効率が発揮される。
【0046】
<実施例4>
図10及び
図11は、実施例4のスピーカ54の動作を説明するための断面図である。
図10は、スピーカ54の駆動状態において振動部SDが基準状態に対し前方側に移動した状態を示す断面図であり、
図11は、振動部SDが基準状態に対し後方側に移動した状態を示す断面図である。
図10及び
図11は、それぞれ
図8及び
図9に対応して比較可能な図である。
【0047】
スピーカ54は、実施例3のスピーカ53に対し、センターキャップ4に取り付けられた弁16の取り付け位置を内側面から外側面とし、かつ内部空間SP1から外部空間SPへ向け流出する空気の流れを許容し、その逆の流れを禁止するようにした点で異なっている。
図10に示されるように、スピーカ54におけるセンターキャップ4は、中央部に凹部4dが形成されている。凹部4dの底面4d1は平坦面とされており、底面4d1の中央部には開口部4eが形成されている。開口部4eの形状は例えば円形である。
弁16は、底面4d1の前面(外部空間SP側の面)側における開口部4eに対応した位置に取り付けられている。
この弁16は、弁規制部材14が後方側、弁部材15が前方側となるように重ね合わされて取り付けられている。
そのため、前方の外部空間SPから開口部4eを通って内部空間SP1に進入しようとする空気の流れは禁止され、内部空間SP1から開口部4eを通して外部空間SPに流出しようとする空気の流れは許容されるようになっている。
【0048】
このスピーカ54の構成において、内部空間SP1と外部空間SPとを繋ぐ流路は、ポールピース13aに貫通孔13a1が形成されていないことから、ギャップGp,ダンパホルダ7の開口部7a,及びフレーム1の開口部1cを通るギャップ流路と、弁16とセンターキャップ4の開口部4eを通るセンターキャップ通路と、の二つである。
ここで、
図10に示されたような、振動部SDが基準状態の位置に対して前方に移動した状態になると、内部空間SP1の容積が基準状態の容積よりも増加し、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して負圧となって外部空間SPから内部空間SP1への空気流入が図られる。
このとき、センターキャップ経路が擁する弁16が空気の後方への流れ(内部空間SP1への流入)を禁止することから、ギャップ流路の流路抵抗は流路断面積が小さいながらもセンターキャップ流路の流路抵抗と比べて小さくなっている。
そのため、外部空間SPにおけるスピーカ54の前方側の空気は、弁部材15のフラップ15bに対して後方側の網部14aに付勢する一方、スピーカ54の側方側の空気はフレーム1の開口部1cからダンパ後方空間SP2に流入し、さらにギャップGpを通って内部空間SP2に流入する(黒三角ヘッド矢印参照)。
【0049】
本構成における振動部SDの基準状態に対して後方側へ移動した状態を
図11に示す。
この後方側に移動した状態で、内部空間SP1の容積は基準状態と比べて減少しており、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して正圧となって内部空間SP1から外部空間SPへの空気流出が図られる。
このとき、ギャップ流路の断面積が小さいことに加え、センターキャップ流路が擁する弁16が空気の前方への流れ(外部空間SPへの流出)を許容することから、ギャップ流路の流路抵抗はセンターキャップ流路の流路抵抗と比べて遙かに大きい。
そのため、内部空間SP1の空気は、弁部材15のフラップ15bを前方側に開くように変形させつつセンターキャップ流路を通って前方の外部空間SPへ流出する。すなわち、開口部4e,弁規制部材14,及び弁部材15を通ってスピーカ54の前方側の外部空間SPに流出する(黒三角ヘッド矢印参照)。
振動の継続により、
図10及び
図11で示された空気の流れが交互に連続して行われる。
【0050】
上述のように、スピーカ54において、吸気孔と排気孔との位置は、それぞれフレーム1の側面側と前方側とにあって両位置は充分に離隔している。
従って、内部空間SP1に熱気が流入することがなく、流入する外気は常に常温であるので、良好な放熱効果が得られる。
また、振動部SDの前後動に伴い生じる空気流の方向が、概ね一定の方向に決まる。すなわち、フレーム1の開口部1c、ダンパホルダ7の開口部7a、ダンパ後方空間SP2、ギャップGp、内部空間SP1、センターキャップ4の開口部4e、というルートである。
厳密には、ダンパ後方空間SP2において、ダンパ8の前後移動に伴い、往復動する空気流が生じ得るが、顕著に昇温する部位にあるギャップGpにおける流れ方向は、ほぼ完全に一定方向に定まって維持される。
【0051】
これにより、ギャップGpには断続的に外部から流入した常温の空気が供給され、ギャップGpを通過する際にボイスコイル6の熱を奪って昇温し、昇温してなる熱気は、再びギャップGpに戻ることなく外部に排出されるので、高い放熱効率が発揮される。
【0052】
<実施例5>
図12(a)及び
図12(b)は、実施例5のスピーカ55を説明するための前面図及び断面図である。
図12(a)の前面図において、スピーカ55の振動部SDは不図示としてある。また、
図12(b)は、振動部SDを含むスピーカ55を、
図12(a)における切断線A−O−Bで切断した断面図である。
【0053】
図12(a)において、フレーム1の開口部1cは、一つが角度範囲θaで開口するように形成されている。この開口部1cがフレーム1には角度間隔90°で四つ設けられている。
ポールピース13aには、貫通孔13a1が形成され、内部空間SP1と外部空間SPとが連通されている。
ダンパ8は空気が通過しない材料、又は僅かに通過する材料で形成されている。また、ダンパ後方空間SP2と外部空間SPとを実質的に連通する空気流路は、ギャップ流路以外では開口部1cを介する流路のみとなっている。従って、ダンパ後方空間SP2は、この二つの流路以外において実質的に閉じた空間となっている。
スピーカ55では、この複数の開口部1cそれぞれに対応して弁17が設けられている。弁17は、例えばダンパホルダ7に設けられている。
弁17は、空気の流れ方向が外部空間SPから開口部1cを通ってダンパ後方空間SP2に向かう流入を許容し、その逆の、内部空間SP1から開口部1cを通って外部空間SPへ流出する空気の流れを禁止するように動作する。
【0054】
弁17の構造例を
図13に示す。弁17は、ダンパホルダ7に取り付けられ一対の鰭状のフラップ17a,17bを有している。
図13(a)は、弁17の自由状態を説明する断面図である。
【0055】
図13(a)において、弁17は、フラップ17a,17bの先端部が内方側に偏倚した位置で当接し、流路を閉鎖するようになっている。
また、フラップ17a,17b自体も、外方側には変形し難く、内方側に変形し易いように形成されている。
従って、内方から外方へ向かおうとする空気流(破線矢印参照)がフラップ17a,17bを付勢すると、その付勢はフラップ17a,17bの閉鎖を強めるように作用し、さらに付勢方向がフラップ17a,17bを変形し難い方向なので、弁17は閉状態が維持される。
【0056】
一方、
図13(b)に示されるように、外方から内方に向かう空気流(実線矢印参照)がフラップ17a,17bを付勢すると、その付勢はフラップ17a,17bの閉鎖を解除するように作用し、さらに付勢方向がフラップ17a,17bが変形し易い方向なので、弁17は開状態となり空気が流れる。
【0057】
この構造の弁17が各開口部1cに設けられているので、振動部SDが前方側に移動すると、ダンパ後方空間SP2には開口部1c及び弁17を通過して外部空間SPの側方側から空気が流入する。また、内部空間SP1には、常開放状態の貫通孔13a1を通って外部空間SPから空気が流入する。
次いで振動部SDが後方側に移動すると、ダンパ後方空間SP2の内圧が高くなるが、ここで弁17は、ダンパ後方空間SP2から外部空間SPへの空気流出を禁止するので、ダンパ後方空間SP2内の空気は、ギャップ経路を通り内部空間SP1を経て外部空間SPへ流出する。
振動の継続により、この空気流入と流出との繰り返しが交互に連続して行われる。
【0058】
上述のように、スピーカ55において、吸気孔と排気孔との位置は、それぞれフレーム1の側面側と後方側とにあって両位置は充分に離隔している。
従って、内部空間SP1に熱気が流入することがなく、流入する外気は常に常温の外気であるので、良好な放熱効果が得られる。
また、振動部SDの前後動に伴い生じる空気流の方向が、概ね一定の方向に決まる。すなわち、フレーム1の開口部1c、弁17、ダンパ後方空間SP2、ギャップGp、内部空間SP1、貫通孔13a1、というルートである。
厳密には、内部空間SP1において、振動板3及びセンターキャップ4等の前後移動に伴い、常時開放状態の貫通孔13a1を介して外部空間SPとの間で往復動する空気流が生じ得るが、顕著に昇温する部位にあるギャップGpにおける流れ方向は、ほぼ完全に一定方向に定まって維持される。
【0059】
これにより、ギャップGpには断続的に外部から流入した常温の空気が供給され、ギャップGpを通過する際にボイスコイル6の熱を奪って昇温し、昇温してなる熱気は、再びギャップGpに戻ることなく排出されるので、放熱効率が向上する。
この実施例5は、実施例4と組み合わせて、貫通孔13a1は形成せず、替わりにセンターキャップ4に常時開放した孔を設け、フレーム1の開口部1cの空気流を規制する弁17を備えたものとしてよい。
【0060】
図14(a)〜
図14(e)は、それぞれ上述の実施例1〜5の構成を、一般化して模式的に示した図である。
具体的には、
図14(a)に示される実施例1のスピーカ51は、内部空間SP1の容積が、振動部SDの内の主に振動板3及びセンターキャップ4により増減される。ギャップGpは、内部空間SP1に連通する流路R1を有すると共にダンパ後部空間SP2に連通する流路R2を有し、ボイスコイル6に対して回り込むように配設された細い通路である。
ダンパ後方空間SP2は、ダンパ8の振動により容積が増減する。ダンパ後方空間SP2は、開口部1cにより側方の外部空間SPに連通している。
この構成において、内部空間SP1と外部空間SPとは逆止弁である弁16を介して流路R3により接続されている。スピーカ51においては、弁16は、外部空間SPから内部空間SP1へ向かう空気流のみ通過させる。
【0061】
図14(b)に示される実施例2のスピーカ52は、
図14(a)のスピーカ51に対して逆止弁である弁16が許容する流れ方向が逆となっている。
【0062】
図14(c)に示される実施例3のスピーカ53は、内部空間SP1の容積を増減させるセンターキャップ4と外部空間SPとが逆止弁である弁16を介して流路R4で接続されている。一方、流路R3は形成されていない。
図14(d)に示される実施例4のスピーカ54は、
図14(c)のスピーカ53に対して逆止弁である弁16が許容する流れ方向が逆となっている。
【0063】
図14(e)に示される実施例5のスピーカ55は、ダンパ後方空間SP2と側方側の空間SPとが、逆止弁である弁17を介して流路R5で接続されている。また、内部空間SP1には、ギャップGpへ向かう流路R1と外部空間SPへ向かう常時開放された流路R3とが接続されている。
【0064】
これらの模式図から明らかなように、実施例1〜5のスピーカ51〜55は、外部からの入力音声信号に基づく振動で容積変化する二つの空間である第1の空間(内部空間SP1)と第2の空間(ダンパ後方空間SP2)とが、ギャップGpを介して接続されており、第1の空間と外部空間とを直接連通する第1の連通路(流路R3又は流路R4)と、第2の空間と外部空間とを直接連通する第2の連通路(開口部1c又は流路R5)と、を有し、第1の連通路又は第2の連通路に流れの方向を一方向に規制する逆止弁(弁16又は弁17)が設けられているものである。
【0065】
上述の各実施例1〜5は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形した変形例としてもよい。
【0066】
(変形例1)
変形例1は、弁16,17を着脱自在としたものである。ここでは、
図15を参照し、元になる実施例の代表例を実施例2のスピーカ52として説明する。
図15は、
図6で説明した実施例2のスピーカ52において、弁16を交換可能としたものを示している。
具体的には、ポールピース13aにおける凹部13a8底面13a9に雌ねじ部13eを形成しておき、ワッシャ18及び雄ねじ19を用いて弁規制部材14及び弁部材15を締結固定したものである。
【0067】
この構造によれば、弁16,17の着脱が使用者でも容易に行える。従って、例えばスピーカ製品出荷時は弁16,17を非装着とし、使用状況に応じて(例えば大音量を要求される使用用途の場合など)弁16,17を後付する、という対応が容易である。
また、弁16の種類を異なるものに交換することが、使用者でも容易に行える。
弁16の種類の異なるものとしては、例えば、開状態の流路断面積の異なるもの、開状態となる圧力差が異なるもの、などである。
弁16の着脱可能な構造は、ねじによるものに限らない。例えば、面ファスナーを用いて着脱可能としてもよい。また、互いに係合する爪形状を設けて凹凸嵌合やスナップフィット等の周知の着脱構造を採用してもよい。
【0068】
(変形例2)
変形例2は、流路開閉の閾値を調節できる弁20を用いた例であり、
図16を及び
図17を参照して説明する。
図16(a)及び
図16(b)は、それぞれ
図6及び
図7と対比可能な断面図であり、
図17は弁20を説明するための断面図である。
図16に示されたスピーカ52Aは、代表例として実施例2のスピーカ52に対し、弁16を弁20に置き換えたものである。以下の説明では、主にスピーカ52に対して異なる部分について説明する。
【0069】
スピーカ52Aにおいては、ポールピース13aの後方側端面に、後方側が大径となる段付き凹部13dが形成されている。
段付き凹部13dの底面13d1には、リング状の受け座13cが取り付けられている。受け座13cは、ゴム等の柔軟性を有する材料で形成されている。
段付き凹部13dの段部13d2には、プレート21が取り付けられている。
プレート21は、中心に形成された雌ねじ部21aと、その周囲に周方向に離隔形成された複数の開口部21bと、を有し金属等で形成されている。
プレート21の雌ねじ部21aには、調節ネジ22の雄ねじ部22sが螺合されている。調節ネジ22の頭部22tの周面にはローレットが形成され、調節ネジ22は、使用者の指により容易に回すことができるようになっている。
調節ネジ22の雄ねじ部22sにおけるプレート21と頭部22tとの間に、ロックナット23が螺合している。
また、調節ネジ22の先端側には、丸盆状のバネ座部22aが取り付けられている。
バネ座部22aには、コイルバネ24の一端側が嵌着されている。
そのコイルバネ24の他端側には、傘状の当接部25が嵌着されている。当接部25は、ゴム等の柔軟性を有する材料で形成されている。
受け座13c及び当接部25の具体的材料例として、柔軟性を有するゴムやエラストマや、柔軟性に加えて耐熱性及び静音性にも優れたシリコーンゴムがある。
【0070】
上述の弁20は、自然状態におけるプレート21から当接部25の先端までの距離Haを、調節ネジ22の螺合における繰り出し量に応じて調節することができ、調節した任意の位置を、ロックナット23を締め付けることで維持することができる。
そして、弁20がスピーカ52Aに装着された状態で、コイルバネ24が所定量縮まって当接部25が受け座13cに当接するようになっている。すなわち、自然状態で当接部25が受け座13cにコイルバネ24の付勢力で押し付けられるようになっている〔
図16(a)の状態〕。
【0071】
弁20を開状態にするには、当接部25をコイルバネ24の付勢力以上の抗力で押し返す必要がある。従って、調節ネジ22の繰り出し量を増減することで弁20を開閉するための閾値を調節することが可能になっている。
すなわち、弁20を設けたスピーカ52Aにおいて、空気が内部空間SP1から弁20を通って外部空間SPに抜けようとする場合、内部空間SP1と外部空間SPとの間の圧力差が所定値(以下、閾値Psと称する)以上となった場合に開状態となり、未満の場合には閉状態となる。
また、内部空間SP1の圧力が外部空間SPの圧力に対して負圧になった場合の外部空間SPから内部空間SP1への空気流は、弁20を開状態にできないので常に禁止される。
【0072】
このスピーカ52Aの構成において、内部空間SP1と外部空間SPとを繋ぐ流路は、ギャップGp,ダンパホルダ7の開口部7a,及びフレーム1の開口部1cを通るギャップ流路と、貫通孔13a1及び弁20を通る貫通孔流路と、の二つである。
ここで、
図16(a)に示されるような振動部SDが基準状態の位置に対して前方に移動した状態になると、内部空間SP1の容積が基準状態の容積よりも増加し、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して負圧となって外部空間SPから内部空間SP1への空気流入が図られる。
このときのギャップ流路の流路抵抗は、流路断面積が小さいながらも、貫通孔経路が擁する弁20が外部空間SPから貫通孔13a1内に流入しようとする空気の流れを禁止することから、貫通孔流路の流路抵抗と比べて小さくなっている。
そのため、外部空間SPにおけるスピーカ52Aの側方側の空気はフレーム1の開口部1cからダンパ後方空間SP2に流入し、さらにギャップGpを通って内部空間SP1に流入する(黒三角ヘッド矢印参照)。
【0073】
図16(a)に示される振動部SDの前方移動から時間が経過すると、振動部SDは基準状態に対して後方側に移動し
図16(b)の状態になる。
この後方側に移動した状態で、内部空間SP1の容積は標準状態の容積より減少しており、内部空間SP1の圧力が外部空間SPに対して正圧となって内部空間SP1から外部空間SPへの空気流出が図られる。
このときのギャップ流路の流路抵抗は、内部空間SP1と外部空間SPとの圧力差が、弁20の開閉の閾値Ps未満の場合は、貫通孔流路よりもギャップ流路の方が流路抵抗が小さいので、内部空間SP1からギャップGpを通して外部空間SPへ空気は流出する。圧力差が閾値Ps未満となるのは、振動部SDの振幅が所定値未満の場合に該当する。
【0074】
一方、内部空間SP1と外部空間SPとの圧力差が閾値Ps以上の場合、貫通孔流路が擁する弁20が空気の後方への流れ、すなわち貫通孔13a1を経た外部空間SPへの流出を許容することから、ギャップ流路の流路抵抗よりも貫通孔流路の流路抵抗が小さくなる。
具体的には、圧力差が閾値Ps以上になると、内部空間SPの空気が、弁20の当接部25をコイルバネ24の付勢力に抗して後方側に向け押し下げることができ、弁20が開状態になる。
これにより、圧力差が閾値Ps以上となっている間、内部空間SPの空気は貫通孔流路を通って、すなわち貫通孔13a1及び弁20を通って外部空間SPに流出する(黒三角ヘッド矢印参照)。
【0075】
上述のように、変形例2のスピーカ52Aは、弁20の開閉について、調節ネジ22を回して調節することで任意の閾値Psを設定できる。
これにより、スピーカ52Aの動作を、振動部SDの前後移動(振動)中でも常に弁20を閉状態として、内外間の空気流動を少量とした通常放熱モードと、振動部SDの後方側移動がある程度以上の場合に弁20を開状態にして、内外間及びギャップGpにおける多量の空気流動を可能とする積極放熱モードと、の二つのモードの切り替えを行うことができる。
閾値Psは、その値の大小が振動部SDの振幅の大小(換言するならば入力音声信号の強弱)に対応するので、例えば、通常音量の再生において通常放熱モードとし、振幅が大きい大音量再生が行わた場合にのみ積極放熱モードに移行させて蓄熱進行により磁気回路の過剰昇温を回避する、という放熱制御が可能となる。
【0076】
スピーカ52Aの内部空間SP1及びダンパ後方空間SP2の圧力変動は、振動部SDの振動様式に影響がある。すなわち音質に影響が及ぶ。
従って、例えば、スピーカ52Aをキャビネットに搭載したスピーカシステムとして、スピーカ52Aを通常放熱モードとして充分吟味した音質チューニングをしておき、磁気回路等の過剰な昇温が懸念される程の大音量再生が行われた場合にのみ、スピーカ52Aの不具合発生防止のために積極放熱モードに移行するよう閾値Psを設定しておく、というような二つのモードの使い分けは、大変有効である。
【0077】
上述の各実施例及び各変形例で説明した弁16,17,20は、空気流通の開閉に寄与するフラップ15b,17a,17b,当接部25が、軟らかい材料で形成されているので、開閉に伴って叩き音などの雑音が実質的に発生しない。これにより、スピーカの再生音質に影響を及ぼすことなく、良好な放熱効果を発揮することができる。
【0078】
上述の各実施例及び各変形例で用いる、弁を含む流動方向規制構造(部材)は、一方向に流れる流量と他方向に流れる流量との比率を任意に調節できる構造としてもよい。
例えば、弁16,17,20は、流量比率を調節できる構造において、一方向に流れる流量を実質的にゼロにした場合に相当する。
このように、弁を含む流動方向規制部材は、広い意味で、一方向の流量と他方向との流量とに対し異なる規制をする又は流れの方向を一方向のみに規制する流れ規制部として機能すればよい。
【0079】
上述の実施例及びその変形例は、上述した構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲においてさらに別の変形例としてもよい。また、各実施例,各変形例,及び別の変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0080】
上述の弁16,17,20は、空気の流路内に配設され、その流路内の空気の流動方向を一方向のみに限定する流動方向規制構造(部材)として機能するものである。
従って、弁16,17,20の替わりに、部材の機械的移動又は変形により流路の開状態と閉状態とをそれぞれ作り出して流動方向を規制する所謂可動弁構造を有する以外の流動方向規制構造(部材)を適用してもよい。
また、弁を含めた流動方向規制構造(部材)は、規制した一方向とは反対側の他方向の流れを完全に遮断するものでなくてもよく、許容する一方向の流れと、禁止する他方向の流れと、を、その流量比が1を越えるように流量差をつけるものであれば、放熱効果が発揮される。
また、その放熱効果は、概して流量比に応じたものとなる。すなわち、流量比が大きいほど放熱効果は大きくなることが期待される。
弁構造以外の流動方向規制構造(部材)としては、流れ方向によって異なる流動抵抗を示すいわゆる流体ダイオードがある。
【0081】
ギャップGpにおいて定められた一方向の空気の流れを許容するものであれば、流動方向規制構造(部材)を複数設けてもよい。
例えば、
図14(c)で模式構造が示された実施例3のスピーカ53において、
図14(a)で模式構造が示された実施例1のスピーカ51における弁16を含む流路R3を、内部空間SP1に対し流路R4と共に設けてもよい。
【0082】
実施例1において、、ポールピース13aの後面に円形に凹んだ凹部13a8を形成してその底面13a9に貫通孔13a1を開口させる(
図1参照)と共に、弁16を、底面13a9に対し、弁規制部材14を後方側、弁部材15を前方側として重ね合わせて取り付けた変形例としてもよい。
この実施例1の変形例においても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
また、実施例2において、弁16を、ポールピース13aの前面に形成された凹部13a4の底面13a5(
図6参照)に、弁規制部材14を前方側、弁部材15を後方側として重ね合わせて取り付けた変形例としてもよい。
この実施例2の変形例においても、実施例2と同様の効果を得ることができる。