特許第5920189号(P5920189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920189
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】鋳造装置及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/08 20060101AFI20160428BHJP
   B22D 18/04 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B22D18/08 501B
   B22D18/04 Z
   B22D18/04 K
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-261611(P2012-261611)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-104504(P2014-104504A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】宇部興産機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三吉 博晃
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−131261(JP,A)
【文献】 特開昭59−156564(JP,A)
【文献】 特開2003−275857(JP,A)
【文献】 特開平05−293625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/00−18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に開口を有するキャビティを形成する金型と、
前記金型の下方に配置されて溶湯を収容すると共に溶湯の上部に密閉空間を形成する加圧室と、
上端開口が前記キャビティの開口に連通し下端開口が前記加圧室内の溶湯の内部に浸漬された筒状のストークと、
ガス通路を開閉する先端開閉部が前記キャビティの前記ストーク上部近傍に臨む弁機構と、
前記加圧室の密閉空間に第1ガスを供給する第1のガス供給手段と、
前記弁機構を介して前記キャビティの前記ストーク上部近傍に第2ガスを供給する第2のガス供給手段と、
前記第1及び第2のガス供給手段を制御して、前記金型の型開動作に先立って前記第1ガスを前記加圧室に導入すると共に前記第2ガスを前記キャビティの前記ストーク上部近傍に導入し、前記第1ガス及び第2ガスのガス圧を徐々に低下させながら前記ストーク内の溶湯の湯面を前記加圧室内の溶湯の湯面のレベルまで低下させる制御装置と
を備えたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1ガスのガス圧が、前記第2ガスのガス圧よりも大きくなるように前記第1及び第2のガス供給手段を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記弁機構は、
前記金型を貫通する外筒と、
前記外筒内に移動自在に収容されて先端が前記外筒の下端から進退する可動ピンと、
前記可動ピンを駆動する駆動手段と
を有し、
前記外筒と前記可動ピンの間には前記ガス通路が形成され、前記可動ピンの進退動作によって前記ガス通路が開閉される
ことを特徴とする請求項1記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記弁機構は、
前記金型を移動自在に貫通し前記キャビティの開口を塞ぐゲートシールピン及び前記キャビティを加圧する加圧ピンを兼用する外筒と、
前記外筒内に移動自在に収容されて先端が前記外筒の下端から進退する可動ピンと、
前記外筒及び前記可動ピンを駆動する駆動手段と
を有し、
前記外筒と前記可動ピンの間には前記ガス通路が形成され、前記可動ピンの進退動作によって前記ガス通路が開閉される
ことを特徴とする請求項1記載の鋳造装置。
【請求項5】
溶湯を収容した加圧室に第1ガスを導入して前記加圧室を加圧することにより下端が前記溶湯に浸漬されたストークを介して金型のキャビティに前記溶湯を充填する第1工程と、
前記第1ガスを前記加圧室に導入すると共に第2ガスを前記キャビティの前記ストーク上部近傍に導入し、前記第1ガス及び第2ガスのガス圧を徐々に低下させながら前記ストーク内の溶湯の湯面を前記加圧室内の溶湯の湯面のレベルまで低下させる第2工程と、
前記金型を型開して前記キャビティ内の鋳造製品を取り出す第3工程と
を有することを特徴とする鋳造方法。
【請求項6】
前記第1工程の終了後、前記第2工程に先立って、前記加圧室内の第1ガスを大気開放する
ことを特徴とする請求項5記載の鋳造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低圧鋳造又は低中圧鋳造に用いられる鋳造装置及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミホイール等のアルミニウム複合製品を低圧鋳造又は低中圧鋳造により製造する鋳造装置が知られている。この種の鋳造装置では、加圧室(るつぼ)内に溶湯を収容した状態で加圧室内の圧力を高め、この圧力により溶湯を加圧室からストークを介して金型のキャビティに充填する。続いて、所定の加圧状態を維持しつつ、溶湯をキャビティ内で凝固させて金属製品を鋳造する。最後に型開を行って、鋳造製品を取り出す。
【0003】
例えば特許文献1に開示された鋳造装置では、上述の鋳造工程に先立って、ストークの上部に加圧ガスを導入し、ストーク内の溶湯を一端、加圧室内部に押し出して、粒子を含む溶湯を攪拌したのちに再度ストーク内に導入することがなされている(特許文献1)。このような鋳造装置では、鋳造開始時にストーク内に加圧ガスを導入するかどうかに拘わらず、型開時にはストーク内に一気に空気を巻き込む。このため、溶湯中のガス含有量が増加し、鋳造製品にガスホールやシュリンケージが発生するという問題がある。また、ストーク内面に酸化皮膜が形成され、この酸化皮膜が鋳造製品に取り込まれて鋳造製品の品質が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、型開前に加圧室の圧力を若干高めて、型開時のストーク内の溶湯の湯面の高さがあまり低下しないようにすることにより、ストーク内への空気の巻き込み量を抑制するようにした鋳造装置も知られている(特許文献2)。しかし、この鋳造装置でも、型開時にストーク内へ一気に空気を巻き込むことに変わりはない。また、ストーク上部に溶湯を残すと、溶湯の温度が低下し、キャビティ内に導入される溶湯の流動性が低下して、鋳造製品の品質低下を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−275857
【特許文献2】特開平5−131261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、型開時のストーク内への空気の巻き込みを防止して、鋳造製品の品質を向上させることができる鋳造装置及び鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鋳造装置は、下方に開口を有するキャビティを形成する金型と、前記金型の下方に配置されて溶湯を収容すると共に溶湯の上部に密閉空間を形成する加圧室と、上端開口が前記キャビティの開口に連通し下端開口が前記加圧室内の溶湯の内部に浸漬された筒状のストークと、ガス通路を開閉する先端開閉部が前記キャビティの前記ストーク上部近傍に臨む弁機構と、前記加圧室の密閉空間に第1ガスを供給する第1のガス供給手段と、前記弁機構を介して前記キャビティの前記ストーク上部近傍に第2ガスを供給する第2のガス供給手段と、前記第1及び第2のガス供給手段を制御して、前記金型の型開動作に先立って前記第1ガスを前記加圧室に導入すると共に前記第2ガスを前記キャビティの前記ストーク上部近傍に導入し、前記第1ガス及び第2ガスのガス圧を徐々に低下させながら前記ストーク内の溶湯の湯面を前記加圧室内の溶湯の湯面のレベルまで低下させる制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る鋳造方法は、溶湯を収容した加圧室に第1ガスを導入して前記加圧室を加圧することにより下端が前記溶湯に浸漬されたストークを介して金型のキャビティに前記溶湯を充填する第1工程と、前記第1ガスを前記加圧室に導入すると共に第2ガスを前記キャビティの前記ストーク上部近傍に導入し、前記第1ガス及び第2ガスのガス圧を徐々に低下させながら前記ストーク内の溶湯の湯面を前記加圧室内の溶湯の湯面のレベルまで低下させる第2工程と、前記金型を型開して前記キャビティ内の鋳造製品を取り出す第3工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ストーク内の溶湯の湯面のレベルを下げる際に加圧室内に第1ガスを供給すると共に弁機構によりストーク内に第2ガスを供給し、第1ガス及び第2ガスのガス圧を徐々に低下させながらストーク内の溶湯の湯面を加圧室内の溶湯の湯面のレベルまで低下させるようにしている。このため、本発明では、ストーク内への空気の巻き込みをを抑え、製品の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る鋳造装置を示す概略図である。
図2図1のA部の拡大図である。
図3図2のB−B’断面図である。
図4】弁機構60の他の状態を示す図である。
図5】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図6】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図7】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図8】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図9】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図10】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図11】第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図12】ストーク40内の圧力A、ストーク40の溶湯10の湯面レベルB、及び加圧室30内の圧力Cの変化を示す図である。
図13】第1の実施の形態の圧力印加パターンを変更した第2の実施の形態に係る鋳造方法を示す図である。
図14】第3の実施の形態に係る鋳造装置を示す概略図である。
図15】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図16】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図17】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図18】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図19】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図20】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図21】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図22】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図23】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図24】第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。
図25】ストーク40内の圧力A、ストーク40の溶湯10の湯面レベルB、及び加圧室30内の圧力Cの変化を示す図である。
図26】第3の実施の形態の圧力印加パターンを変更した第4の実施の形態に係る鋳造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して実施の形態に係る鋳造装置、及び鋳造方法を詳細に説明する。
【0012】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る鋳造装置を示す概略図である。本実施の形態は、本発明を低圧鋳造法に適用した例を示している。鋳造装置は、図1に示すように、溶湯10を保持する保持室20と、この保持室20と連通路21を介して連通されて保持室20から供給された溶湯10を収容する加圧室(るつぼ)30とを有する。保持室20及び加圧室30には、それぞれ溶湯10を500℃〜700℃程度の溶融状態を維持するのに必要な温度まで加熱するヒータ23,24が設置されている。
【0013】
保持室20には、溶湯10の加圧室30への供給を制御するストッパー22が設けられている。ストッパー22は、鋳造工程の始めの状態において、加圧室30内に常に一定の溶湯10が収容されるように、後述するコントローラ90の制御に基づき、保持室20の連通路21への入口を開閉する。
【0014】
加圧室30の上端開口部は、固定板33によって閉塞され、加圧室30内の溶湯10の上面空間は密閉空間となる。この密閉空間に固定板33内に形成されたガス供給路31が連通している。ガス供給路31は、不活性ガスを第1ガスとして加圧室30内に供給する。また、固定板33には溶湯10の液面に向けて湯面検知棒32が設置されている。湯面検知棒32は、保持室20から加圧室30に溶湯10が送られる際、加圧室30内の溶湯10の湯面レベルが所定レベルに達したか否かを検知する。
【0015】
固定板33の中央には、両端が開口した筒状のストーク40の上端が固定されている。ストーク40の下端は、加圧室30内の溶湯10の内部に浸っている。
【0016】
固定板33の上面には、固定金型51が装着されている。また、固定金型51に対して上方に移動可能に構成された可動板34の下面には、可動金型52が装着されている。固定金型51と可動金型52とは、型閉したときにキャビティ50を形成する。固定金型51の中央部には、キャビティ50に連通するゲート部分に開口511が形成され、この開口511にストーク40の上端部が連通している。開口511は、第1開口部511Aと、第1開口部511Aの下方に設けられた第2開口部511Bを有する。第2開口部511Bは、上端でから下端にいくほど大きい径を有する直線的にテーパ状に形成される。可動金型52には、先端がキャビティ50の中央上部に臨むピン状の弁機構60が装着されている。
【0017】
弁機構60は、可動金型52の中央に形成された孔部522を塞ぐように孔部522に挿入されて可動金型52に取り付けられる。弁機構60は、開口511の上方からガス供給路521を介してストーク40内に不活性ガスを供給可能に構成される。図2図1に示すA部の拡大図であり、図3図2のB−B’断面図である。図4は、弁機構60の他の状態を示す図である。弁機構60は、図1図4に示すように、外筒61と、この外筒61内に移動自在に収容されて先端が外筒61の下端から進退する可動ピン62とを有する二重構造となっている。可動ピン62の外筒61への収容部分621の外周には、例えば周方向に均等に4つの縦溝621Aが形成されている。これら縦溝621Aは、それらの下端部で可動ピン62の周方向に延びる環状溝621Bによって相互に連結されている。そして、これら縦溝621Aと環状溝621Bとで、不活性ガスのガス供給路621Cを形成している。
【0018】
可動ピン62は、上端部が駆動手段としてのピストン機構63に連結されて外筒61の内部を上下方向に駆動され、下端部が外筒61の下端から進退するようになっている。可動ピン62の下端部622は下向きの円錐状に形成され、その基端外周部が、図2に示すように、可動ピン62の後退時に、外筒61の下端部開口の内面を塞ぐ弁となる機能を有している。図4に示すように、可動ピン62が外筒61の下端から突出した場合には、弁が開いてガス供給路621Cに導入された不活性ガスが下方に排出される。
【0019】
また、鋳造装置は、図1に示すように、第1ガス供給部70、第2ガス供給部80、及びコントローラ(制御部)90を有する。第1ガス供給部70は、弁71,72及びガス供給路31を介して加圧室30に第1ガスである不活性ガスを供給する。また、第1ガス供給部70は、ガス供給路31及び弁73を介して加圧室30を大気解放する。第2ガス供給部80は、計量器83で計量された第2ガスである不活性ガスを、弁81,82、ガス供給路521及び弁機構60のガス供給路621Cを介してストーク40内に供給する。
【0020】
コントローラ90は、これらの不活性ガスの供給をコントロールするため、弁71〜73及び弁81,82の開閉を制御する。
【0021】
次に、図5図12を参照して、第1の実施の形態に係る鋳造装置を用いた鋳造方法について説明する。図5図11は、第1の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。図12は、ストーク40内の圧力A、ストーク40の溶湯10の湯面レベルB、及び加圧室30内の圧力Cの変化を示す図である。
【0022】
先ず、図5に示すように、時刻t1では、加圧室30が大気開放された状態で固定金型51と可動金型52とを型閉させる。そして、ガス供給路31を介して加圧室30に不活性ガスを供給する。すると、不活性ガスの圧力により加圧室30の溶湯10の湯面レベルが下がり、ストーク40内の溶湯10の湯面レベルが上昇する。これにより、図6に示すように、時刻t2では、ストーク40を介して溶湯10がキャビティ50内に充填される。次に時刻t2から時刻t3まで加圧室30内の圧力を一定に保つ。
【0023】
続いて、図7に示すように、時刻t3で、加圧室30を大気開放する。このとき、キャビティ50及びストーク40内は真空状態であるため、ストーク40内の溶湯10は下がってこない。この加圧室30の大気開放により、加圧室30の加圧に要するエネルギーを削減できると共に、加圧室30の加圧による破損を抑制できる。
【0024】
加圧室30の圧力が大気まで低下したら、固定金型51及び可動金型52の冷却を開始する。図8に示すように、時刻t4で、加圧室30内に不活性ガスを導入すると同時に、弁機構60の可動ピン62を下側に突出させて不活性ガスをストーク40内に導入する。ストーク40内の不活性ガスの導入により、弁機構60の先端の溶湯10が下方に移動してゲート近傍部分であるストーク40の上端にガス溜まりが形成される。このときストーク40内に導入される不活性ガスは、計量器83で計量された量だけ導入される。図12に示すように、このときの加圧室30のガス圧力は、ストーク40内のガス圧よりも大きい圧力とする。そして、加圧室30のガス圧力とストーク40のガス圧力とは、バランスを取りながら大気開放に向けて徐々に低下するように制御される。これにより、ストーク40内の溶湯10の湯面レベルが徐々に低下し、図9に示すように、時刻t5で加圧室30及びストーク40共に大気圧まで低下する。
【0025】
続いて、図10に示すように、時刻t6で型開を行い、図11に示すように、時刻t7で図示しない押出ピンにより製品10Aを取り出す。
【0026】
ここで、本実施の形態と異なり、時刻t4〜t5において、加圧室30及びストーク40内にガスを供給しない比較例を検討する。この比較例では、加圧室30を大気解放させた後、型開すると、ストーク40内の溶湯10の湯面は急激に下がる。したがって、比較例では、ストーク40内に空気を巻き込むことにより、ストーク40内の溶湯10に空気が混入されたり酸化物が発生し易くなる。そして、このような空気の混入や酸化物の発生は、製品10Aの品質を低下させる。
【0027】
そこで、本実施の形態は、上記図8及び図9に示した時刻t4〜t5の制御において、ストーク40内の溶湯10の湯面のレベルを下げる際にストーク40内の圧力と加圧室30内の圧力の差を小さくし、且つ両圧力をバランスさせながら徐々に低下させている。このため、本実施の形態においては、加圧室30を大気解放させる際に、ストーク40内の溶湯10の湯面は比較例よりも緩やかに下がる。したがって、本実施の形態では、比較例よりもストーク40内への空気の巻き込みを抑え、ストーク40内の溶湯10に空気が混入したり酸化物が発生するのを抑制することができる。これにより、本実施の形態は、製品10Aの品質の低下を抑制できる。
【0028】
[第2の実施の形態]
図13は、上記第1の実施の形態の圧力印加パターンを変更した第2の実施の形態に係る鋳造方法を示す図である。この実施の形態では、時刻t3で加圧室30を大気開放せずに、加圧室30とストーク40に同時に不活性ガスを導入するようにしている。この第2の実施の形態は、キャビティ50内の溶湯10の冷却時間が十分に短い場合に適用される。
【0029】
この実施形態によれば、先の実施形態における時刻t3の大気開放から時刻t4の加圧室30及びストーン40内の加圧までの時間を短縮することができ、1サイクルの時間を短縮することができるので、生産性を向上させることができる。
【0030】
[第3の実施の形態]
図14は、第3の実施の形態に係る鋳造装置を示す概略図である。本実施の形態は、本発明を低中圧鋳造法に適用した例を示している。鋳造装置は、基本的には、図1と同様であり、図1と重複する部分の説明は割愛する。
【0031】
この鋳造装置は、図1の弁機構60に代えて、弁機構を兼用するゲートシール・加圧ピン100を備えている。ゲートシール・加圧ピン100は、可動金型52に対して上下方向に進退自在に取り付けられている。ゲートシール・加圧ピン100は、外筒101と、この外筒101内に移動自在に収容されて先端が外筒101の下端から進退自在に突出する可動ピン102とを有する二重構造となっている。外筒101と可動ピン102との間のガス供給路などの構成は、先の実施形態における可動ピン62と外筒61の構造と同様である。
【0032】
この実施形態では、キャビティ50への溶湯10の充填時に、ゲートシール・加圧ピン100自体が可動金型52から突出して溶湯10を加圧する。このため、駆動手段としてのピストン機構103は、可動ピン102を駆動する部分と、外筒101も含めてゲートシール・加圧ピン100全体を駆動する部分とを有する。
【0033】
次に、図15図25を参照して、第3の実施の形態に係る鋳造装置を用いた鋳造方法について説明する。図15図24は、第3の実施の形態に係る鋳造装置の動作を示す概略図である。図25は、ストーク40内の圧力A、ストーク40の溶湯10の湯面レベルB、及び加圧室30内の圧力Cの変化を示す図である。
【0034】
先ず、図15に示すように、時刻t1では、加圧室30が大気開放された状態で固定金型51と可動金型52とを型閉させる。そして、ガス供給路31を介して加圧室30に不活性ガスを供給する。すると、不活性ガスの圧力により加圧室30の溶湯10の湯面レベルが下がり、ストーク40内の溶湯10の湯面レベルが上昇する。これにより、図16に示すように、時刻t2では、ストーク40を介して溶湯10がキャビティ50内に充填される。次に、図17に示すように、時刻t3でゲートシール・加圧ピン100をキャビティ50内に押し込んで、キャビティ50内を加圧する。このとき、ゲートの開口511は、ゲートシール・加圧ピン100の先端部により塞がれる。時刻t3からt4までキャビティ50内の圧力を一定に保つ。
【0035】
続いて、図18に示すように、時刻t4で、加圧室30を大気開放する。このとき、キャビティ50及びストーク40内は真空状態であるため、ストーク40内の溶湯10は下がってこない。加圧室30の圧力が大気まで低下したら、固定金型51及び可動金型52の冷却を開始する。図19に示すように、時刻t5で、加圧室30内に不活性ガスを導入すると同時に、ゲートシール・加圧ピン100の可動ピン102を下側に突出させて不活性ガスをストーク40内に導入する。ストーク40内の不活性ガスの導入により、ゲートシール・加圧ピン100の先端の溶湯10が下方に移動してゲート近傍部分であるストーク40の上端にガス溜まりが形成される。このときストーク40内に導入される不活性ガスは、計量器83で計量された量だけ導入される。図25に示すように、このときの加圧室30のガス圧力は、ストーク40内のガス圧よりも大きい圧力とする。そして、加圧室30のガス圧力とストーク40のガス圧力とは、バランスを取りながら大気開放に向けて徐々に低下するように制御される。これにより、ストーク40内の溶湯10の湯面レベルが徐々に低下し、図20に示すように、時刻t6で加圧室30及びストーク40共に大気圧まで低下する。
【0036】
続いて、図21に示すように、時刻t7で型開を行い、図22に示すように、時刻t8で加圧ピン100を後退させ、図23に示すように、時刻t9で図示しない押出ピンにより製品10Aを取り出し、図24に示すように、時刻t10で固定金型51及び可動金型52の洗浄を行う。
【0037】
この実施形態によれば、ゲートシール・加圧ピン100を用いた低中圧鋳造においても、第1の実施の形態で述べた効果を奏することができる。
【0038】
[第4の実施の形態]
図26は、上記第3の実施の形態の圧力印加パターンを変更した第4の実施の形態に係る鋳造方法を示す図である。この実施の形態では、時刻t4で加圧室30を大気開放せずに、加圧室30とストーク40に同時に不活性ガスを導入するようにしている。
【0039】
この実施形態によれば、先の実施形態における時刻t4の大気開放から時刻t5の加圧室30及びストーン40内の加圧までの時間を短縮することができ、1サイクルの時間を短縮することができるので、生産性を向上させることができる。
【0040】
以上、発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加等が可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…溶湯、 10A…製品、 20…保持室、 21…連通路、 22…ストッパー、 30…加圧室、 31…ガス供給路、 32…湯面検知棒、 40…ストーク、 50…キャビティ、 51…固定金型、 52…可動金型、 521…ガス供給路、 60…弁機構、 61,101…外筒、 62,102…可動ピン、 70…第1ガス供給部、 80…第2ガス供給部、 90…コントローラ、 100…ゲートシール・加圧ピン。
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