(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、車両の製造工程における部品の取り付け工数の削減がますます強く要求されている。そのため、乗員室の内側パネルの裏側へ取り付けられるワイヤハーネス及び防音材についても、従来よりも簡易に取り付けできることが望まれている。一方、車両に搭載されるワイヤハーネスを低コストで容易に製造できることも望まれている。
【0008】
また、特許文献1に示されるワイヤハーネスにおいて、基体のリブは、電線の経路の仕様ごとに異なる金型を用いて射出成形などによって形成される。従って、特許文献1に示されるワイヤハーネスは、多様な要求仕様への柔軟な対応及び低コスト化が難しいという問題点を有している。
【0009】
本発明は、車両における乗員室の内側パネルの裏側など、防音(吸音又は遮音など)が必要な場所への電線及び防音材の取り付けを簡易化でき、さらに、低コストで製造及び多様な要求仕様への柔軟な対応が容易なワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様に係るワイヤハーネスは、電線と電線留め具と防音シートとを備える。上記電線留め具は、上記電線における両端部の間の中間領域に固定された基部及び板状の支持体における取付孔の縁部に留められる留め部を有する部材である。上記防音シートは、上記電線の上記中間領域に沿う状態で上記電線と一体に組み合わされたシート状の防音材からなる部材である。
【0011】
本発明の第2態様に係るワイヤハーネスは、第1態様に係るワイヤハーネスの一態様である。第2態様に係るワイヤハーネスは、上記防音シートに重なり上記電線の上記中間領域を上記防音シートとの間に挟み込んだ状態で上記防音シートと接合された電線保護シートをさらに備える。さらに、上記電線は上記防音シートと上記電線保護シートとの間に挟み込まれることによって上記防音シートと一体に組み合わされている。さらに、上記電線留め具における上記基部と上記留め部との間の部分が上記防音シート及び上記保護シートの一方に形成された孔に貫通している。
【0012】
本発明の第3態様に係るワイヤハーネスは、第2態様に係るワイヤハーネスの一態様である。第3態様に係るワイヤハーネスにおいて、上記防音シート及び上記電線保護シートのうち上記電線留め具が貫通していない方のシートである非貫通シートにおける上記電線に対向する面に対して反対側の面に上記電線留め具の位置を示す目印が形成されている。
【0013】
本発明の第4態様に係るワイヤハーネスは、第3態様に係るワイヤハーネスの一態様である。第4態様に係るワイヤハーネスにおいて、上記非貫通シートは不織布である。さらに、上記目印は、上記電線留め具の位置においてホットプレス加工により周囲の部分よりも硬く加工された硬化部である。
本発明の第5態様に係るワイヤハーネスは、第4態様に係るワイヤハーネスの一態様である。第5態様に係るワイヤハーネスにおいて、前記電線留め部の前記留め部と前記硬化部とが重なる位置とされている。
【0014】
本発明の第
6態様に係るワイヤハーネスは、第2態様から第
5態様のいずれかに係るワイヤハーネスの一態様である。第
6態様に係るワイヤハーネスにおいて、上記防音シートは不織布からなり、上記電線保護シートは上記防音シートよりも薄い不織布からなる。
【発明の効果】
【0015】
上記各態様に係るワイヤハーネスは、電線留め具が取り付けられた電線の中間領域と防音シートとが一体に組み合わされた構造を有している。そのため、電線留め具の留め部が車両における乗員室の内側パネルの裏側などの防音を要する場所の支持体に留められるだけで、防音シートの取り付けと電線の中間領域の配線とが完了する。従って、防音を要する場所への電線及び防音シートの取り付け作業が簡易化される。
【0016】
また、上記各態様に係るワイヤハーネスは、防音シートと電線とを一体に組み合わせるという簡易な組み立て作業により得られる。また、必要とする形状の防音シートは、金型などを用いることなく母材の裁断によって低コストで得られる。従って、当該ワイヤハーネスは、低コストで容易に製造可能である。
【0017】
また、上記各態様に係るワイヤハーネスにおいて、支持体に留められる電線留め具が、電線を予め定められた経路に沿うように位置決めする。また、電線留め具の基部を電線の一部に固定することは容易である。従って、当該ワイヤハーネスが採用されれば、電線と周囲の部材との干渉を避けるため、或いは電線とノイズ源となる他の機器との間に十分な距離を確保するために、電線を予め定められた経路に沿って低コストで配線することが容易である。しかも、電線における電線留め具の取り付け位置を変更するだけで、多様な要求仕様へ柔軟に対応できる。
【0018】
また、第2態様に係るワイヤハーネスにおいては、電線は防音シートとこれに接合された電線保護シートとの間に挟み込まれることによって防音シートと一体に組み合わされている。このようなワイヤハーネスは、防音シートと電線保護シートとをそれらの間に電線を挟んで接合するという簡易な組み立て作業により得られる。また、必要とする形状の防音シート及び電線保護シートは、金型などを用いることなく母材の裁断によって低コストで得られる。従って、当該ワイヤハーネスは、低コストで容易に製造可能である。
【0019】
また、第2態様に係るワイヤハーネスにおいては、電線留め具が防音シート及び電線保護シートの一方の孔を貫通し、電線留め具の留め部が2枚のシートの外側へ露出している。そのため、電線の中間領域が2枚のシートにより保護された状態のまま、電線留め具の留め部を支持体に留めることが可能である。
【0020】
また、第3態様に係るワイヤハーネスにおいては、電線留め具の位置を示す目印が、電線留め具が貫通していない方のシートに形成されている。これにより、シート越しに電線留め具の位置を把握することができるため、電線留め具の留め部を支持体における取付孔に挿入する作業が容易となる。
【0021】
また、第4態様に係るワイヤハーネスにおいては、電線留め具の位置を示す目印が、不織布におけるホットプレス加工により硬化した部分である。この場合、目視に限らず触感によっても電線留め具の位置を把握することができる。そのため、2枚のシートを直接目視できないような体勢で電線留め具を支持体に留める作業も可能となり、電線留め具を支持体に留める作業の自由度が高まる。また、不織布の一部にホットプレス加工を施すことは容易である。
【0022】
また、第
6態様に係るワイヤハーネスにおいては、防音シート及び電線保護シートが、緩衝性に優れた不織布で構成されている。そのため、ワイヤハーネスの振動による異音の発生を防止できる。また、厚みの異なる2枚の不織布の母材が重ねられて裁断されることにより、厚みが異なり輪郭形状が同じ防音シートと電線保護シートとを容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。以下に示される各実施形態におけるワイヤハーネスは、例えば、車両における乗員室の内壁をなすインスツルメントパネルなどの内側パネルの裏側に配置される。
【0025】
<第1実施形態>
まず、
図1〜9を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネス10について説明する。
図1に示されるように、ワイヤハーネス10は、複数の電線9を含む電線束90と電線留め具5と防音シート1と電線保護シート2とを備えている。
【0026】
<電線>
電線保護シート2による保護の対象となる電線束90は、複数の電線9の束である。電線9は、長尺な導体である芯線と、その芯線の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆とを有する絶縁電線である。電線9の芯線は、例えば、銅又はアルミニウムを主成分とする金属の線材である。また、電線9の絶縁被覆は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂又はポリエステルなどの合成樹脂からなる絶縁体である。
図1に示される例では、電線9の端部にコネクタが設けられている。
【0027】
<電線留め具>
電線留め具5は、電線束90の一部を板状の支持体7における取付孔7Aが形成された部分に留める用具である。電線留め具5は、例えば、ポリプロピレン(PP)又はポリアミド(PA)などの熱可塑性樹脂からなる。本実施形態において、電線留め具5は、それ全体が一体に成形された部材である。なお、取付孔7Aは、板状の支持体7に形成された貫通孔である。
【0028】
また、本実施形態においては、複数の電線留め具5が電線束90の中間領域に固定されている。しかしながら、1つの電線留め具5のみが電線束90の中間領域に固定されていることも考えられる。
【0029】
電線留め具5は、基部52、留め部51及び連結部53を有している。基部52は、電線束90における両端部の間の中間領域に固定された部分である。留め部51は、板状の支持体7における取付孔7Aの縁部に留められる部分である。連結部53は、基部52と留め部51とを繋ぐ部分である。
【0030】
ワイヤハーネス10において、基部52の構造が異なる各種の電線留め具5が採用され得る。例えば、
図4に示されるようなベルト付留め具又は
図5に示されるような舌片付留め具が、電線留め具5として採用される。
【0031】
図4は、電線留め具5がベルト付留め具である場合におけるワイヤハーネス10の留め具5の部分の拡大図である。
図4には、電線留め具5(ベルト付留め具)及び電線束90の側面図と、防音シート1及び電線保護シート2の断面図とが示されている。また、
図4において、板状の支持体7が仮想線(二点鎖線)で描かれている。
【0032】
一方、
図5は、電線留め具5が舌片付留め具である場合におけるワイヤハーネス10の留め具5の部分の拡大図である。
図5には、電線留め具5(舌片付留め具)及び電線束90の側面図と、防音シート1及び電線保護シート2の断面図とが示されている。また、
図5において、板状の支持体7が仮想線で描かれている。
【0033】
電線留め具5の留め部51は、支持体7に形成された取付孔7Aに挿入される挿入部511と、連結部53に繋がったフランジ部512とを有している。留め部51は、挿入部511とフランジ部512とにより、支持体7における取付孔7Aの縁部を挟持する。
【0034】
連結部53がフランジ部512の一方の面に連なって形成され、挿入部511がフランジ部512の他方の面に立設されている。フランジ部512は、取付孔7Aを塞ぐように、取付孔7Aの面積よりも大きな面積の皿状に形成されている。
【0035】
挿入部511は、フランジ部512の一方の面に立設された柱部5111と、その柱部5111の両側に張り出して設けられた2つの張出部5112とを備える。2つの張出部5112は、可撓性を有し、柱部5111の両側に張り出した幅が、取付孔7Aの幅よりも大きな幅で形成されている。
【0036】
挿入部511が取付孔7Aに挿入される際に、2つの張出部5112は、取付孔7Aの縁部(支持体7)に接して押圧され、柱部5111の両側に張り出す幅が、取付孔7Aの幅まで収縮する。挿入部511が取付孔7Aの内側へさらに押し込められると、2つの張出部5112の形状は、取付孔7Aの縁部の裏側において、取付孔7Aの幅よりも大きな幅になるまで復帰する。その結果、2つの張出部5112各々の外側に形成された爪部5113が、取付孔7Aの縁部の裏側に引っ掛かり、爪部5113とフランジ部512とが、取付孔7Aの縁部を表裏両側から挟み込む。その結果、留め部51が支持体7に固定される。
【0037】
図4に示されるように、電線留め具5がベルト付留め具である場合、基部52は、電線束90に巻き付けられたベルト521と、ベルト521を環状に保持するベルト保持部522とを備えている。ベルト521が、電線束90に巻き付けられた状態でベルト保持部522によって環状に保持されることにより、基部52は、電線束90における両端部の間の中間領域の一部に固定されている。
【0038】
一方、
図5に示されるように、電線留め具5が舌片付留め具である場合、基部52は、留め部51及び連結部53から電線束90に沿って張り出して形成された舌片部523を備えている。この舌片部523は、粘着テープ又は結束ベルトなどの結束材8によって電線束90と束ねられている。これにより、基部52は、電線束90における両端部の間の中間領域の一部に固定されている。
【0039】
<防音シート>
防音シート1は、シート状の吸音材又は遮音材などの防音材であり、電線9における両端部の間の中間領域に沿って配置されている。防音シート1は、二次元状に広がった形状を有しており、要求仕様に応じた形状及び厚みで形成されている。
図1〜3,6〜9に示される例では、防音シート1は、二次元状に広がった五角形状に形成されているが、防音シート1の形状は、防音シート1が配置されるスペースの形状に応じて定められる。また、防音シート1の厚みは、要求される防音性能の高さと、防音シート1が配置されるスペースの厚みとに応じて定められる。
【0040】
防音シート1は、柔軟性及び弾性を有するシート状の防音材であり、例えば不織布である。なお、防音材は、吸音材、遮音材又は制振材などである。例えば、防音シート1は、約20mmないし約40mm程度の厚みの不織布である。
【0041】
図6に示されるように、防音シート1における電線保護シート2に対向する面である内側面には、電線9の位置を示す目印である配線用目印61が形成されている。
図3に示される例では、配線用目印61は、防音シート1の内側面において電線9の経路に沿ってインクなどにより描かれた線画である。
【0042】
図7に示されるように、ワイヤハーネス10の製造工程において、電線束90は、防音シート1上に配線用目印61に沿って配置される。
【0043】
また、
図3〜5に示されるように、防音シート1における電線束90に対向する面に対して反対側の面には、電線留め具5の位置を示す目印である留め位置目印6が形成されている。後述するように、電線留め具5は電線保護シート2に貫通しており、留め位置目印6は、2枚のシートのうち電線留め具5が貫通していない方のシートである防音シート1に形成されている。従って、本実施形態においては、電線留め具5が貫通していない方のシートを意味する非貫通シートは、防音シート1である。
【0044】
図3〜5に示される例では、防音シート1(非貫通シート)は不織布であり、留め位置目印6は、電線留め具5の位置においてホットプレス加工により周囲の部分よりも硬く加工された硬化部である。
【0045】
留め位置目印6(硬化部)は、スポット加熱を行う加熱体が防音シート1に押し当てられることによって形成される。
図4,5に示されるように、そのようにして形成された留め位置目印6(硬化部)は窪みをなしている。なお、留め位置目印6が、インクなどにより描かれたマークであることも考えられる。
【0046】
<電線保護シート>
電線保護シート2は、防音シート1に重なり電線束90の中間領域を防音シート1との間に挟み込んだ状態で防音シート1と接合された部材である。電線保護シート2は、柔軟性を有し、防音シート1よりも薄いシート状の部材である。
【0047】
電線束90は防音シート1と電線保護シート2との間に挟み込まれることによって防音シート1及び電線保護シート2と一体に組み合わされている。
【0048】
また、電線保護シート2の輪郭の少なくとも一部は、防音シート1の輪郭に沿って形成されている。
図1,2,9等に示される例では、電線保護シート2の輪郭全体が、防音シート1の輪郭全体に沿って形成されている。この場合、電線保護シート2の輪郭は、防音シート1の輪郭と一致して形成されているか、或いは、防音シート1の輪郭よりも若干内側において防音シート1の輪郭に沿って形成されている。
【0049】
また、
図8に示されるように、電線保護シート2には、電線留め具5が通される貫通孔である留め具用孔4が形成されている。ワイヤハーネス10において、電線留め具5における基部52と留め部51との間の部分である連結部53が、電線保護シート2に形成された留め具用孔4に貫通している。
【0050】
従って、電線留め具5の基部52は、電線束90とともに防音シート1と電線保護シート2との間に挟み込まれているが、電線留め具5の留め部51は、2枚のシートの外側に露出している。
【0051】
図8に示される例では、留め具用孔4はスリット状の孔である。そのため、電線留め具5が留め具用孔4に貫通した状態において、電線保護シート2における留め具用孔4の縁部と電線留め具5の連結部53との隙間を極力小さくすることが可能である。
【0052】
電線保護シート2は、熱可塑性の樹脂を含む合成樹脂からなるシート状の部材である。例えば、電線保護シート2が、不織布、ウレタン系樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)又はPET(ポリエチレンテレフタレート)などからなるシート状の部材であることが考えられる。防音シート1及び電線保護シート2の両方が不織布である場合、電線保護シート2は、防音シート1よりも薄い不織布である。
【0053】
ここで、不織布について説明する。防音シート1及び電線保護シート2として採用される不織布は、例えば、絡み合う基本繊維とバインダと称される接着樹脂とを含む。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、約110[℃]から約150[℃]の融点)を有する熱可塑性樹脂である。このような不織布は、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱されることにより、接着樹脂が溶融して基本繊維の隙間に溶け込む。その後、不織布の温度が、接着樹脂の融点よりも低い温度まで下がると、接着樹脂は、周囲に存在する基本繊維を結合した状態で硬化する。これにより、不織布の形状は、加熱前の状態よりも硬くなり、加熱時に型枠によって成形された形状で維持される。
【0054】
接着樹脂は、例えば、粒状の樹脂又は繊維状の樹脂などである。また、接着樹脂は、芯繊維の周囲を覆うように形成されることも考えられる。このように、芯繊維が接着樹脂で被覆された構造を有する繊維は、バインダ繊維などと称される。芯繊維の材料は、例えば、基本繊維と同じ材料が採用される。
【0055】
また、基本繊維は、接着樹脂の融点において繊維状態が維持されればよく、樹脂繊維の他、各種の繊維が採用され得る。また、接着樹脂は、例えば、基本繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂繊維が採用される。不織布を構成する基本繊維と接着樹脂との組合せとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を主成分とする樹脂繊維が基本繊維として採用され、PET及びPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂が接着樹脂として採用されることが考えられる。そのような不織布において、基本繊維の融点は概ね250[℃]であり、接着樹脂の融点は約110[℃]から約150[℃]の間の温度である。
【0056】
接着樹脂を含む不織布は、熱可塑性樹脂を含む他の部材と密着した状態で加熱されることにより、加熱された部分が他の部材に溶着する。
【0057】
また、不織布は、ホットプレス成形により成形可能である。ホットプレス成形は、加工対象である不織布を金型などの加熱体の間に挟み込んで加圧しつつ、その不織布を加熱することにより、不織布を加熱体の内面形状に成形することである。
【0058】
不織布は、ホットプレス成形において、型枠内で約110[℃]から約250[℃]までの範囲内の温度に加熱された後に冷却されると、接着樹脂が溶融して周囲の基本繊維を結合するため、型枠の内面に沿う形状に成形され、加熱体に接触した面が硬化する。
【0059】
不織布がホットプレス成形によって硬化した部材は、その部材自体ある程度の可撓性を有しているが、ホットプレス成形が施される前の不織布に比べ、一定の形状を保持する硬さが強化される。
【0060】
電線保護シート2は防音シート1に溶着されており、これにより、電線保護シート2は防音シート1に接合されている。そのため、電線保護シート2には、溶着によって防音シート1の一部に接合された部分である溶着部3が形成されている。本実施形態においては、溶着部3は、比較的小さな領域に局所的に形成されたスポット溶着部である。
【0061】
なお、溶着部3のスポット形状は円形には限られない。例えば、溶着部3のスポット形状が、四角形などの多角形、楕円形又はその他の異形であることも考えられる。
【0062】
また、
図8,9に示されるように、電線保護シート2における防音シート1に対向する面の反対側の面である外側面には、溶着部3各々の位置を示す目印である複数の溶着用目印62が形成されている。
図8,9に示される例では、溶着用目印62は、電線保護シート2の外側面にインクなどにより描かれたマークである。
【0063】
溶着部3は、スポット加熱を行う加熱体が防音シート1に重ねられた電線保護シート2における溶着用目印62各々の部分に押し当てられることによって形成される。スポット加熱用の加熱体としては、例えば、超音波ホッチキスなどの超音波溶着機における溶接ホーン又はヒータ内蔵の金属棒などが考えられる。
【0064】
<効果>
ワイヤハーネス10は、電線束90と防音シート1と電線保護シート2とが一体に組み合わされた構造を有している。そのため、電線留め具5の留め部51が車両における乗員室の内側パネルの裏側などの防音(吸音又は遮音など)を要する場所の支持体7に留められるだけで、防音シート1の取り付けと電線束90の中間領域の配線とが完了する。従って、防音を要する場所への電線束90、防音シート1及び電線保護シート2の取り付け作業が簡易化される。
【0065】
また、ワイヤハーネス10は、防音シート1と電線保護シート2とをそれらの間に電線束90を挟んで接合することによって防音シート1と電線束90とを一体に組み合わせる、という簡易な組み立て作業により得られる。また、必要とする形状の防音シート1及び電線保護シート2は、金型などを用いることなく母材の裁断によって低コストで得られる。従って、ワイヤハーネス10は、低コストで容易に製造可能である。
【0066】
また、ワイヤハーネス10において、支持体7に留められる電線留め具5が、電線束90を予め定められた経路に沿うように位置決めする。また、電線留め具5の基部52を電線束90の一部に固定することは容易である。従って、ワイヤハーネス10が採用されれば、電線束90と周囲の部材との干渉を避けるため、或いは電線束90とノイズ源となる他の機器との間に十分な距離を確保するために、電線束90を予め定められた経路に沿って低コストで配線することが容易である。しかも、電線束90における電線留め具5の取り付け位置を変更するだけで、多様な要求仕様へ柔軟に対応できる。
【0067】
また、ワイヤハーネス10においては、電線留め具5が電線保護シート2の留め具用孔4を貫通し、電線留め具5の留め部51が2枚のシートの外側へ露出している。そのため、電線束90の中間領域が2枚のシートにより保護された状態のまま、電線留め具5の留め部51を支持体7に留めることが可能である。
【0068】
また、ワイヤハーネス10において、電線留め具5の位置を示す留め位置目印6が、電線留め具5が貫通していない防音シート1に形成されている。これにより、防音シート1越しに電線留め具5の位置を把握することができるため、電線留め具5の留め部51を支持体7における取付孔7Aに挿入する作業が容易となる。
【0069】
また、留め位置目印6が、不織布におけるホットプレス加工により硬化した部分である場合、目視に限らず触感によっても電線留め具5の位置を把握することができる。そのため、2枚のシートを直接目視できないような体勢で電線留め具5を支持体7に留める作業も可能となり、電線留め具5を支持体7に留める作業の自由度が高まる。また、不織布の一部にホットプレス加工を施すことは容易である。
【0070】
また、防音シート1に電線束90の位置を示す配線用目印61が形成されている。そのため、ワイヤハーネス10の製造工程において、電線束90を防音シート1上に正しい経路に沿って配置する作業が容易となる。
【0071】
また、ワイヤハーネス10において、防音シート1及び電線保護シート2が、緩衝性に優れた不織布で構成されていれば、ワイヤハーネス10の振動による異音の発生を防止できる。また、厚みの異なる2枚の不織布の母材が重ねられて裁断されることにより、厚みが異なり輪郭形状が同じ防音シート1と電線保護シート2とを容易に得ることができる。
【0072】
また、ワイヤハーネス10においては、防音シート1及び電線保護シート2が溶着によって接合されている。この場合、接着剤を用いるよりも容易に、かつ、迅速に防音シート1及び電線保護シート2を接合することが可能となる。
【0073】
また、ワイヤハーネス10においては、電線保護シート2の輪郭全体が防音シート1の輪郭全体に沿って形成されている。そのため、防音シート1及び電線保護シート2を重ねて位置合わせすることが容易となる。
【0074】
<第2実施形態>
次に、
図10を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネス10Aについて説明する。
図10はワイヤハーネス10Aの平面図である。
【0075】
ワイヤハーネス10Aは、
図1〜5に示されるワイヤハーネス10と比較して、電線保護シートの輪郭形状のみが異なる構成を有している。
図10において、
図1〜9に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス10Aにおけるワイヤハーネス10と異なる点についてのみ説明する。
【0076】
ワイヤハーネス10Aは、ワイヤハーネス10と同様に、電線束90と、電線束90の中間領域に固定された電線留め具5と、電線束90の中間領域に沿う防音シート1と、防音シート1に接合された電線保護シート2Aとを備えている。電線束90の中間領域は、防音シート1と電線保護シート2Aとの間に挟み込まれている。
【0077】
ワイヤハーネス10Aにおいて、電線保護シート2Aは、防音シート1における電線束90に沿う一部の領域にのみ重なって形成されている。そして、電線保護シート2Aの輪郭の一部のみが、防音シート1の輪郭に沿って形成されている。
図6に示される例では、電線保護シート2Aの輪郭の概ね半分が、防音シート1の輪郭に沿って形成されている。
【0078】
図6に示されるワイヤハーネス10Aが採用される場合、
図1,2に示されるワイヤハーネス10が採用される場合と同様の効果が得られる。
【0079】
<防音シートの応用例>
次に、
図11,12を参照しつつ、ワイヤハーネス10に採用可能な応用例に係る防音シート1Aについて説明する。
図11は、防音シート1Aの平面図である。
図12は防音シート1A及び電線束90の断面図である。
【0080】
防音シート1Aは、
図6,7に示される防音シート1と比較して、電線9の位置を示す目印のみが異なる。
図11,12において、
図1〜9に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、防音シート1Aにおける防音シート1と異なる点についてのみ説明する。
【0081】
防音シート1Aは、電線保護シート2よりも厚みの大きな不織布である。そして、防音シート1Aの内側面に形成された配線用目印は、電線9の経路に沿って形成された溝61Aである。この溝61Aは、防音シート1Aをなす不織布の一部に対するホットプレス成形によって形成されている。電線束90は、防音シート1Aの溝61A内に挿入された状態で、防音シート1Aと電線保護シート2との間に挟み込まれる。
【0082】
ワイヤハーネス10において、防音シート1Aが防音シート1の代わりに採用された場合、ワイヤハーネス10の製造工程において、電線束90が防音シート1Aの溝61Aに挿入されるだけで、電線束90が防音シート1A上の正しい経路に沿って配置される。
【0083】
さらに、電線束90が防音シート1Aの溝61Aに嵌り込んだ状態で、防音シート1A及び電線保護シート2が重ねられて接合されるため、2枚のシートの間における電線束90の位置ずれを防止することができる。また、不織布に対するホットプレス成形によって溝61Aを形成することは容易である。
【0084】
<第3実施形態>
次に、
図13を参照しつつ、本発明の第3実施形態に係るワイヤハーネス10Bについて説明する。
図13はワイヤハーネス10Bの平面図である。
【0085】
ワイヤハーネス10Bは、
図1〜5に示されるワイヤハーネス10と比較して、溶着部の形状のみが異なる構成を有している。
図13において、
図1〜9に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス10Bにおけるワイヤハーネス10と異なる点についてのみ説明する。
【0086】
ワイヤハーネス10Bは、ワイヤハーネス10と同様に、電線束90と、電線束90の中間領域に固定された電線留め具5と、電線束90の中間領域に沿う防音シート1と、防音シート1に接合された電線保護シート2とを備えている。電線束90の中間領域は、防音シート1と電線保護シート2との間に挟み込まれている。
【0087】
ワイヤハーネス10Cの電線保護シート2には、溶着によって防音シート1の一部に接合された部分である溶着部3Aが形成されている。
図13に示される例では、溶着部3Aは、電線保護シート2の外縁部に沿って帯状に形成された溶着部である。このような溶着部3Aは、例えば超音波ミシンなどの溶着装置によって形成される。
【0088】
図13に示されるワイヤハーネス10Bが採用される場合、
図1〜5に示されるワイヤハーネス10が採用される場合と同様の効果が得られる。
【0089】
<第4実施形態>
次に、
図14を参照しつつ、本発明の第4実施形態に係るワイヤハーネス10Cについて説明する。
図14はワイヤハーネス10Cの斜視図である。
【0090】
ワイヤハーネス10Cは、
図1〜5に示されるワイヤハーネス10と比較して、電線保護シート2を備えていない点、及び留め具用孔4が防音シート1に形成されている点において異なる。
図14において、
図1〜9に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス10Cにおけるワイヤハーネス10と異なる点についてのみ説明する。
【0091】
ワイヤハーネス10Cは、電線束90と、電線束90の中間領域に固定された電線留め具5と、電線束90の中間領域に沿う防音シート1とを備えている。
【0092】
ワイヤハーネス10Cにおいて、防音シート1には、電線留め具5が通される貫通孔である留め具用孔4が形成されている。ワイヤハーネス10Cにおいて、電線留め具5における基部52と留め部51との間の部分である連結部53が、防音シート1に形成された留め具用孔4に貫通している。
【0093】
従って、電線留め具5の基部52は、防音シート1における電線束90が位置する側と同じ側に位置しているが、電線留め具5の留め部51は、防音シート1における電線束90が位置する側の反対側に位置している。
【0094】
また、ワイヤハーネス10Cにおいては、電線束90に固定された電線留め具5の基部52と留め部51とが防音シート1における留め具用孔4の縁部を挟持している。これにより、防音シート1は、電線束90の中間領域に沿う状態で電線束90と一体に組み合わされている。
【0095】
ワイヤハーネス10Cは、電線束90における防音シート1に対向する側の反対側の部分の保護が特に必要でない場合に採用可能である。
【0096】
ワイヤハーネス10Cが採用される場合、電線留め具5が防音シート1に形成されたスリット状の留め具用孔4に通されるだけで、電線束90と防音シート1とが一体に組み合わされる。
【0097】
また、スリット状の留め具用孔4が採用された場合、電線留め具5が防音シート1の留め具用孔4に貫通した状態において、防音シート1における留め具用孔4の縁部と電線留め具5の連結部53との隙間を極力小さくすることが可能である。そのため、電線留め具5が貫通することによる防音シート1の防音性能への影響は小さい。
【0098】
但し、ワイヤハーネス10Cにおいては、電線留め具5の連結部53が、防音シート1の厚みに応じて比較的長く形成されていることが望ましい。
【0099】
なお、本発明に係るワイヤハーネスは、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。
【0100】
例えば、ワイヤハーネス10において、留め具用孔4が防音シート1に形成され、電線留め具5が防音シート1を貫通した構成が採用されることも考えられる。