(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
圧着端子が絶縁電線の端部に取り付けられる場合、圧着部での固着力が十分に大きいこと、及び、芯線と圧着端子との間の接続抵抗が十分に小さいことが重要である。
【0003】
なお、固着力は、圧着端子から絶縁電線を引き抜く方向の力が端子付電線に加わった場合に、圧着端子と絶縁電線とが分離するに至るのに要する力のことである。また、接続抵抗は、端子付電線における芯線(絶縁電線の導体)と圧着端子との間の電気的抵抗のことである。
【0004】
特許文献1に示されるように、端子付電線において、圧着端子の芯線圧着部による芯線の圧縮度合いと接続抵抗及び固着力各々との関係は以下に示す通りである。なお、以下の説明において、芯線の圧縮度合いが大きいことは、芯線の圧縮率が小さいこと、又は芯線圧着部のクリンプハイトが小さいことを意味する。芯線の圧縮率は、芯線の元々の断面積に対する圧縮後の芯線の断面積の比率である。クリンプハイトは、芯線に圧着された芯線圧着部の底面から頭頂面までの高さである。
【0005】
即ち、接続抵抗は、芯線の圧縮度合いが所定の適正範囲内であれば十分小さい。しかしながら、芯線の圧縮度合いがその適正範囲を下回っても上回っても、接続抵抗は使用に適さないほど大きくなる。
【0006】
また、芯線の圧縮度合いが、接続抵抗を十分に小さく抑えることができる範囲内である場合においては、芯線の圧縮度合いが小さいほど固着力が大きくなる。また、実際の端子付電線においては、芯線の圧縮度合いにばらつきが生じ、また、芯線の圧縮度合いと接続抵抗及び固着力との相関のばらつきも生じる。
【0007】
従って、従来の一般的な端子付電線の製造工程においては、接続抵抗及び固着力の両方の要求仕様を確実に満たすために、芯線の圧縮度合いのばらつき抑制に関する圧着工程のパラメータを厳格に管理することが必要となる。
【0008】
特に、いわゆるアルミ電線が採用される場合、接続抵抗及び固着力を両立するための芯線の圧縮度合いの範囲がより狭くなり、接続抵抗及び固着力の両立がより難しくなる。なお、アルミ電線は、アルミニウムを主成分とする芯線と絶縁被覆とを有する絶縁電線である。
【0009】
また、特許文献1に示される端子付電線において、芯線圧着部における先端側(接点部側)の部分は、基端側(被覆圧着部側)の部分よりも芯線の圧縮度合いが高くなるようにより強く圧着されている。
【0010】
より具体的には、特許文献1に示される芯線圧着部の底板部において、幅方向の中央部分は、電線の長手方向において段差無く成形されている。さらに、底板部における中央部分の両側の部分は、先端側の一部の領域において基端側の残りの領域よりも深く凹んだ形状に成形されている。そのため、芯線圧着部の底板部における中央部分の両側には、先端側の領域と基端側の領域との境界となる段差が形成されている。
【0011】
芯線圧着部の底板部及び一対のかしめ部は、芯線圧着部が芯線に圧着される際に圧着機のアンビル(下金型)及びクリンパ(上金型)によってプレス成形される。なお、芯線圧着部において、底板部は芯線を支える部分であり、一対のかしめ部は芯線に向けて折り返される部分である。
【0012】
特許文献1に示される端子付電線が採用されれば、芯線圧着部のうち、段差から先端側の部分を、主として接続抵抗を小さくすることに適した強さで圧着し、段差から基端側の部分を、主として固着力を大きくすることに適した強さで圧着することが可能となる。その結果、端子付電線の製造における圧着工程のパラメータの管理が容易となる。
【0013】
なお、端子付電線の製造において、絶縁電線に対する圧着端子の圧着状態を検査し易いこと、及び圧着機の金型を構成するクリンパ及びアンビルの製造が容易であることも重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、特許文献1に示される端子付電線において、接続抵抗及び固着力を両立するために、芯線圧着部により大きな段差を形成することが必要となる場合がある。例えば、太い芯線が採用される場合、或いはアルミニウムの芯線のように比較的破断しやすい(粘りの弱い)金属の芯線が採用される場合などに、芯線圧着部の段差を大きくすることが必要となる。
【0016】
しかしながら、芯線圧着部の圧着工程、即ちプレス加工工程において芯線圧着部に大きな段差を形成することは、芯線圧着部に亀裂を生じさせる原因となる。
【0017】
本発明は、小さい接続抵抗と大きな固着力とを両立しやすく、かつ、芯線圧着部の圧着工程で芯線圧着部に亀裂が生じにくい端子付電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1態様に係る端子付電線は、絶縁電線と圧着端子とを備える。上記圧着端子は、芯線圧着部と被覆圧着部と接点部とを有する。上記芯線圧着部は、上記絶縁電線の芯線の端部に圧着された部分である。上記被覆圧着部は、第一端側に形成され上記絶縁電線の絶縁被覆の部分に圧着された部分である。上記接点部は、第二端側に形成され相手側端子に接続される部分である。上記芯線圧着部は、上記芯線を支える底板部とその底板部との間に上記芯線を挟み込んで上記絶縁電線の長手方向に沿う稜線を成す状態に折り返された一対のかしめ部とを有している。さらに、上記芯線圧着部の上記底板部は、上記第一端側から上記第二端側へ向かうにつれて徐々に上記一対のかしめ部側へ深く凹んだ傾斜部を含む形状に成形されている。
【0019】
第1態様に係る端子付電線において、上記芯線圧着部の上記底板部は、隆起部と一対の麓部とを含む。上記隆起部は、幅方向における中央領域で上記一対のかしめ部の稜線に平行な稜線を成して上記芯線側の反対側へ隆起した形状に成形された部分である。上記一対の麓部は、上記隆起部の両側における上記傾斜部を含む部分である。なお、本明細書において、複数の線が平行であるということは、複数の線が厳密に平行であることに限らず、複数の線が概ね平行であることも含む。
【0020】
第1態様に係る端子付電線において、上記芯線圧着部の上記底板部における上記一対の麓部の上記傾斜部は、上記第一端側から上記第二端側へ向かうにつれて徐々に上記一対のかしめ部側へ深く凹んで形成されているとともに徐々に幅が広がって形成されている。
【0021】
第
2態様に係る端子付電線は、第
1態様に係る端子付電線の一態様である。第
2態様に係る端子付電線において、上記芯線圧着部の上記底板部における上記一対の麓部は、上記傾斜部の上記第二端側に形成され上記一対のかしめ部との間隔が上記絶縁電線の長手方向において一定の平行部をさらに含む。
【0023】
第
3態様に係る端子付電線は、第
2態様に係る端子付電線の一態様である。第
3態様に係る端子付電線において、上記芯線圧着部の上記底板部に、上記傾斜部と上記平行部との境界位置の目印となる凸部もしくは凹部が形成されている。
【発明の効果】
【0024】
上記の各態様において、芯線圧着部の底板部は、圧着端子の第一端側(被覆圧着部側)から第二端側(接点部側)へ向かうにつれて徐々に一対のかしめ部側へ深く凹んだ傾斜部を含む形状に成形されている。即ち、芯線圧着部における傾斜部が形成された部分は、第一端側から第二端側へ近づくほど芯線の圧縮度合いが徐々に大きくなるように圧着されている。
【0025】
従って、上記の各態様によれば、芯線圧着部における傾斜部が形成された部分のうち、第一端寄りの部分を、主として固着力を大きくすることに適した強さで圧着し、第二端寄りの部分を、主として接続抵抗を小さくすることに適した強さで圧着することが可能となる。その結果、端子付電線の製造における圧着工程のパラメータの管理が容易となり、小さい接続抵抗と大きな固着力との両立が容易となる。
【0026】
さらに、芯線圧着部の底板部において凹みを形成する傾斜部は、絶縁電線の長手方向において緩やかに形状が変化している。従って、芯線圧着部の圧着工程において、そのような傾斜部を成形するアンビル(下金型)が底板部に押し当てられても、芯線圧着部に亀裂は生じにくい。
【0027】
また、第
1態様においては、芯線圧着部の底板部は、幅方向における中央領域を占める隆起部とその両側に位置する一対の麓部とを含み、傾斜部は一対の麓部各々に含まれる。さらに、一対のかしめ部の稜線と底板部における隆起部の稜線とが平行である。
【0028】
従って、第
1態様においては、芯線圧着部の底板部に傾斜部が形成されているにもかかわらず、芯線圧着部のクリンプハイトは絶縁電線の長手方向において一定である。一般に、クリンプハイトは、圧着端子の圧着状態の重要な検査パラメータである。第
1態様によれば、クリンプハイトの計測位置の自由度が高いため、クリンプハイトの検査が容易となる。
【0029】
また、第
1態様においては、一対の麓部の傾斜部は、第一端側から第二端側へ向かうにつれて徐々に一対のかしめ部側へ深く凹んで形成されているとともに徐々に幅が広がって形成されている。後述するように、そのような傾斜部を成形するための金型(アンビル)は、金属部材に断面形状が一定の溝を形成する工程と、その溝の両側の縁部を斜めにカットする工程とによって容易に低コストで製造可能である。
【0030】
また、第
2態様においては、芯線圧着部の底板部は、傾斜部と、傾斜部の第二端側に形成された平行部とを含む。平行部は、一対のかしめ部との間隔が絶縁電線の長手方向において一定の部分である。この場合、芯線圧着部における平行部を含む部分においては、絶縁電線の長手方向におけるいずれの位置の断面をとっても芯線の圧縮率が概ね等しくなる。芯線の圧縮率は、圧着端子の圧着状態の重要な検査パラメータである。第
2態様によれば、芯線の圧縮率の測定位置の自由度が高いため、芯線の圧縮率の検査が容易となる。
【0031】
ところで、平行部に対する傾斜部の角度がごく小さい場合、目視による平行部と傾斜部との区別が難しい。そのため、芯線の圧縮率の測定位置を特定することが難しい。第
3態様においては、芯線圧着部の底板部に、傾斜部と平行部との境界位置の目印となる凸部もしくは凹部が形成されている。その結果、平行部と傾斜部とを区別して芯線の圧縮率の測定位置を特定することが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら実施形態について説明する。以下に示される各実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。各実施形態に示される端子付電線は、例えば自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスに適用される。
【0034】
<第1実施形態>
まず、
図1〜4を参照しつつ、第1実施形態に係る端子付電線1の構成について説明する。
図1に示されるように、端子付電線1は、絶縁電線9とその絶縁電線9の端部に取り付けられた圧着端子10とを備えている。
【0035】
<絶縁電線>
圧着端子10が取り付けられる対象となる絶縁電線9は、長尺な導体である芯線91と、その芯線91の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆92と、を有する電線である。通常、芯線91は、細い導体からなる複数の素線が撚り合わされた撚り線である。しかしながら、芯線91が単線であることも考えられる。
【0036】
絶縁電線9の端部は、予め一定の長さの分の芯線91の周囲から絶縁被覆92が剥がれた状態、即ち、一定の長さ分の芯線91が絶縁被覆92から伸び出た状態に加工されている。絶縁電線9の芯線91は、例えば、銅又はアルミニウムを主成分とする金属の線材である。
【0037】
<圧着端子>
圧着端子10は、直線方向に沿って一列に並んで形成された、被覆圧着部20、第一連結部30、芯線圧着部40、第二連結部50及び接点部60を備えている。
【0038】
また、圧着端子10における被覆圧着部20から芯線圧着部40及び接点部60へ向かう直線方向を延伸方向と称する。延伸方向は、圧着端子10が取り付けられた絶縁電線9の長手方向でもある。
【0039】
圧着端子10は、金属の板材の折り曲げ加工によって得られる。また、圧着端子10を構成する金属の板材は、メッキが形成された板状の金属の母材に対する打ち抜き加工によって得られる。
【0040】
例えば、圧着端子10を構成する板材は、銅又は銅の合金など、銅を主成分とする金属材料からなる基材とその基材の表面に形成された金属メッキとを含む。金属メッキの材料は、例えば、錫(Sn)もしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金など、錫を主成分とする金属材料である。
【0041】
<圧着端子:被覆圧着部>
被覆圧着部20は、曲がって形成された板状の部分であり、絶縁電線9に圧着される前の状態において、絶縁電線9における絶縁被覆92の部分が挿入される溝を形成している。被覆圧着部20は、その溝の内側に挿入された絶縁被覆92の部分の周囲に沿って曲げられることにより、絶縁被覆92の部分に対して圧着される。
【0042】
<圧着端子:接点部>
接点部60は、圧着端子10の接続相手となる不図示の相手側端子と嵌り合うことによって相手側端子と直接接触する部分である。
図1に示される接点部60は、相手側端子が嵌め入れられる孔が形成された筒状の部分である。なお、接点部60が、相手側端子の端子挿入孔に嵌め入れられる棒状の導体である場合もある。
【0043】
<圧着端子:第一連結部及び第二連結部>
第一連結部30は、被覆圧着部20と芯線圧着部40とを繋ぐ部分である。また、第二連結部50は、芯線圧着部40と接点部60を繋ぐ部分である。第一連結部30及び第二連結部50の各々は、曲がって形成された板状の部分であり、溝を形成している。
【0044】
<圧着端子:芯線圧着部>
芯線圧着部40は、絶縁電線9に圧着される前の状態において、絶縁電線9の芯線91の端部が挿入される溝を形成する曲がった板状の部分である。そして、芯線圧着部40は、芯線圧着部40が形成する溝の内側に挿入された芯線91の端部に対して圧着される。
【0045】
端子付電線1において、芯線圧着部40は、底板部41と一対の芯線かしめ部42とを有する。底板部41は、絶縁電線9の芯線91の端部を支える部分である。また、一対の芯線かしめ部42は、底板部41から芯線91の端部の両側へ起立して形成された一対の側壁に連なる部分である。
【0046】
以下、底板部41と一対の芯線かしめ部42とが対向する方向を厚み方向と称する。厚み方向は延伸方向に直交する方向である。さらに、延伸方向及び厚み方向に直交する方向を幅方向と称する。従って、底板部41は、芯線91の端部を厚み方向における一方の側から支える。端子付電線1において、芯線圧着部40の厚みは、いわゆるクリンプハイトである。
【0047】
一対の芯線かしめ部42は、底板部41との間に芯線91の端部を挟み込んで延伸方向に沿う稜線を成す状態に折り返された部分である。一対の芯線かしめ部42は、それらの先端部が底板部41に対向する向きへ折り曲げられて芯線91の端部にかしめられている。本実施形態に示される芯線圧着部40は、一対の芯線かしめ部42が重ならない突き合わせタイプである。
【0048】
芯線圧着部40の底面は、芯線91の端部を支える底板部41の外側面である。また、被覆圧着部20の上面は、一対の芯線かしめ部42の外側面である。なお、本明細書において、芯線圧着部40の底面及び上面との用語は、便宜上、芯線圧着部40の四方の面を区別するために用いられており、端子付電線1が敷設された状態における上下左右の方向とは関係しない。
【0049】
以下の説明において、圧着端子10における被覆圧着部20側の端のことを第一端101と称し、接点部60側の端のことを第二端102と称する。
【0050】
芯線圧着部40の底板部41は、第一端101側から第二端102側へ向かうにつれて徐々に一対の芯線かしめ部42側へ深く凹んだ傾斜部441を含む形状に成形されている。
【0051】
図2(a)、
図2(b)及び
図2(c)は、それぞれ
図1におけるII−II平面、III−III平面及びIV−IV平面での断面図である。より具体的には、
図2(a)は、芯線圧着部40における後述する平行部442の位置での端子付電線1の断面図である。平行部442は、傾斜部411よりも第二端102側の部分である。
図2(b)は、芯線圧着部40の傾斜部441における第二端102寄りの位置での端子付電線1の断面図である。
図2(c)は、芯線圧着部40の傾斜部441における第一端101寄りの位置での端子付電線1の断面図である。
【0052】
本実施形態においては、芯線圧着部40の底板部41は、隆起部43と一対の麓部44とを含み、傾斜部441は一対の麓部44各々に含まれる。
【0053】
隆起部43は、幅方向における中央領域で芯線91側の反対側へ隆起した形状に成形された部分である。底板部41において、芯線91側の反対側の面は外側の面(底面)である。隆起部43は、一対の芯線かしめ部42の稜線に平行な稜線を成して隆起している。
【0054】
従って、
図2に示されるように、芯線圧着部40のクリンプハイトは、厚み方向における一対の芯線かしめ部42の稜線と隆起部43の稜線との間隔h0と等しくなる。この場合、底板部41が傾斜部441を含むにもかかわらず、芯線圧着部40のクリンプハイトは、第一端101側の端部及び第二端102側の端部に形成されたベルマウス421の部分を除き、延伸方向において一定である。
【0055】
なお、一対の芯線かしめ部42の稜線と隆起部43の稜線とが平行であるということは、両者が厳密に平行であることに限らず、両者が概ね平行であることも含む。
【0056】
本実施形態における隆起部43の表面は、湾曲した凸面であり、例えば、断面の輪郭が円弧状の凸面である。従って、隆起部43は、その両側の一対の麓部44から幅方向の中心の頭頂部まで徐々に高くなるように形成されている。
【0057】
また、一対の麓部44は、隆起部43の両側における傾斜部441を含む部分である。本実施形態における一対の麓部44各々は、傾斜部441とその傾斜部441の第二端102側に形成された平行部442とを含む。平行部442は、一対の芯線かしめ部42との間隔が延伸方向(絶縁電線9の長手方向)において一定の部分である。
【0058】
前述したように、傾斜部441は、第一端101側から第二端102側へ向かうにつれて徐々に一対の芯線かしめ部42側へ深く凹んで形成されている。
【0059】
従って、
図2に示されるように、傾斜部441の第一端101寄りの部分における隆起部43の頭頂部に対する傾斜部441の深さh3は、傾斜部441の第二端102寄りの部分における隆起部43の頭頂部に対する傾斜部441の深さh2よりも浅い。また、隆起部43の頭頂部に対する平行部442の深さh1は、傾斜部441の第二端102側の端における隆起部43の頭頂部に対する傾斜部441の深さに等しい。
【0060】
また、底板部41における一対の麓部44の傾斜部441は、第一端101側から第二端102側へ向かうにつれて徐々に一対の芯線かしめ部42側へ深く凹んで形成されているとともに徐々に幅が広がって形成されている。
【0061】
従って、
図2に示されるように、傾斜部441の第一端101寄りの部分の幅W3は、傾斜部441の第二端102寄りの部分の幅W2よりも広い。また、平行部442の幅W1は、傾斜部441の第二端102側の端部の幅に等しい。
【0062】
また、本実施形態においては、芯線圧着部40の底板部41に、傾斜部441と平行部442との境界位置の目印となる凸部431が形成されている。
図1〜3に示される例では、凸部431は、隆起部43の稜線上における、傾斜部441と平行部442との境界位置に対応する位置に形成されている。
【0063】
以上に示された芯線圧着部40の底板部41は、芯線圧着部40が芯線91の端部に圧着される際に、
図4に示されるアンビル81によって成形される。アンビル81は、圧着機8が備える金型の一部であり、芯線圧着部40は、圧着機8のアンビル81(下金型)及びクリンパ82(上金型)によってプレス成形されることにより、芯線91の端部に圧着される。
【0064】
図4に示されるアンビル81は、金型の母材に対する簡易な切削工程によって容易に製造可能である。
【0065】
即ち、まず、直線に沿う溝83が、アンビル81の母材における矩形状の表面における幅方向の中央領域に形成される。溝83の最深部は、溝83の幅方向における中心部である。溝83は、芯線圧着部40の底板部41における隆起部43を成形する部分である。なお、
図4には、溝83が形成される前のアンビル81の母材の輪郭形状が仮想線(二点鎖線)で描かれている。
【0066】
溝83が形成された時点において、溝83の両側の一対の縁部84の頭頂面は、溝83の長手方向において幅が一定の平坦面である。また、その時点において、溝83の深さは、その溝83の長手方向において一定である。即ち、溝83の最深部と一対の縁部84の頭頂面との段差が、溝83の長手方向において一定である。なお、溝83の長手方向は、溝83が沿う直線の方向である。
【0067】
図4に示される溝83の内側面は、湾曲した凹面であり、例えば、断面の輪郭が円弧状の凹面である。金属部材に直線に沿う一定深さの溝83を形成する加工は容易である。
【0068】
次に、アンビル81の母材における溝83の両側の一対の縁部84の一部が、元の平坦な頭頂面に対し傾斜した平面に沿って切除される。これにより、アンビル81が完成する。金属部材の一部を平面に沿って切除する加工は容易である。
【0069】
一対の縁部84の一部が傾斜した平面に沿って切除されると、溝83の両側の一対の縁部84は、溝83の最深部が沿う直線に対して傾斜した頭頂面を有する一対の傾斜縁部841と、溝83の最深部が沿う直線に平行な頭頂面を有する一対の非傾斜縁部842とを含む状態となる。
【0070】
一対の傾斜縁部841の頭頂面は、一対の非傾斜縁部842の頭頂面と連なる第一端からその反対側の第二端へ向かうにつれて溝83の最深部との間の段差が徐々に小さくなるように傾斜して形成されている。
【0071】
また、溝83は、その両側の一対の縁部84から幅方向の中心の最深部まで徐々に深くなるように形成されている。そのため、一対の縁部84の一部が斜めに切除されることによって形成された一対の傾斜縁部841の頭頂面は、非傾斜縁部842側の第一端から第二端へ向かうにつれて徐々に幅が広がって形成されている。
【0072】
アンビル81において、溝83は、芯線圧着部40の底板部41における隆起部43を成形する部分である。また、一対の傾斜縁部841は、芯線圧着部40の底板部41における傾斜部441を成形する部分である。また、一対の非傾斜縁部842は、芯線圧着部40の底板部41における平行部442を成形する部分である。
【0073】
また、アンビル81には、溝83の長手方向における一対の傾斜縁部841と一対の非傾斜縁部842との境界位置に対応する部分に凹部831が形成されている。
図4に示される例では、凹部831は、溝83の最深部における一対の傾斜縁部841と一対の非傾斜縁部842との境界位置に対応する位置に形成されている。凹部831は、底板部41における傾斜部441と平行部442との境界位置の目印となる凸部431を成形する部分である。
【0074】
また、上記境界位置の目印を成形するための凹部831又は凸部が、アンビル81における一対の縁部84の一方又は両方に形成されることも考えられる。この場合、底板部41において上記境界位置の目印となる凸部431もしくは凹部は、一対の麓部44の一方又は両方に形成される。
【0075】
<芯線圧着部の圧着工程>
続いて、
図5,6を参照しつつ、端子付電線1の製造工程の一部である芯線圧着部40の圧着工程について説明する。
図5は、圧着工程における圧着端子10、絶縁電線9、アンビル81及びクリンパ82の側面図である。
図6は、圧着工程における圧着端子10及び絶縁電線9の断面図、並びにアンビル81及びクリンパ82の背面図である。
【0076】
図5,6に示されるように、圧着機8はアンビル81(下金型)及びクリンパ82(上金型)を備える。圧着工程において、芯線91の端部は、芯線圧着部40における一対の芯線かしめ部42の間に配置される。その状態で、圧着端子10の芯線圧着部40は、底板部41に対向して配置されたアンビル81と一対の芯線かしめ部42に対向して配置されたクリンパ82との間に挟み込まれることによってプレス成形される。
【0077】
クリンパ82の成形面85は、一対の芯線かしめ部42を底板部41側へ折り返して成形する溝状の一対の湾曲面を含む。
図5,6に示される例では、クリンパ82の成形面85は、一対の芯線かしめ部42の両端部のベルマウス421を成形するベルマウス成形面851をさらに含む。
【0078】
芯線圧着部40が、アンビル81とクリンパ82との間に挟み込まれると、一対の芯線かしめ部42は、底板部41との間に芯線91の端部を挟み込んで延伸方向に沿う稜線を成して折り返された形状に成形される。これにより、一対の芯線かしめ部42の先端部が芯線91の端部にかしめられる。また、折り返された一対の芯線かしめ部42が形成する稜線は、延伸方向に平行である。
【0079】
また、芯線圧着部40がアンビル81とクリンパ82との間に挟み込まれることにより、芯線圧着部40の底板部41は、前述したように隆起部43、傾斜部441、平行部442及び凸部431を含む形状に成形される。
【0080】
<効果>
端子付電線1において、芯線圧着部40の底板部41は、圧着端子10の第一端101側から第二端102側へ向かうにつれて徐々に一対のかしめ部42側へ深く凹んだ傾斜部441を含む形状に成形されている。即ち、
図1,2に示されるように、芯線圧着部40における傾斜部441が形成された部分は、第一端101側から第二端102側へ近づくほど芯線91の圧縮度合いが徐々に大きくなるように圧着されている。
【0081】
即ち、
図1,2に示されるように、芯線圧着部40の傾斜部441は、より第二端102に近い部分ほど一対の芯線かしめ部42側へより深く凹んで成形される。そのため、
図2に示されるように、主として芯線91における幅方向の両側の部分が、第二端102に近い位置ほど圧縮度合いが徐々に大きくなるように、即ち、第二端102に近い位置ほど芯線91の圧縮率が徐々に小さくなるように圧着されている。
【0082】
従って、端子付電線1が採用されれば、芯線圧着部40における傾斜部441が形成された部分のうち、第一端101寄りの部分を、主として固着力を大きくすることに適した強さで圧着し、第二端102寄りの部分を、主として接続抵抗を小さくすることに適した強さで圧着することが可能となる。
【0083】
図7に示されるグラフは、端子付電線1及び従来の端子付電線におけるクリンプハイト(C/H)と固着力との関係を表すグラフである。
図7のグラフにおいて、実線のグラフは端子付電線1についての測定結果を表し、破線のグラフ線は従来の端子付電線についての測定結果を表す。また、比較対象となる従来の端子付電線の芯線圧着部は、端子付電線1の芯線圧着部40における傾斜部441が平行部442に置き換わった構造、即ち、一対の麓部44全体が平行部442となった構造を有している。
【0084】
また、
図7のグラフに示されるクリンプハイトの測定範囲は、端子付電線1及び従来の端子付電線のいずれにおいても、要求仕様を満たす程度に十分に低い接続抵抗が得られる範囲である。
【0085】
図7のグラフが示すように、端子付電線1及び従来の端子付電線のいずれにおいても、接続抵抗を十分に小さく抑えることができるクリンプハイトの範囲においては、クリンプハイトが大きいほど固着力が大きくなる。なお、クリンプハイトが大きいことは、芯線の圧縮の程度が小さい、即ち、芯線の圧縮率が大きいことを意味する。
【0086】
さらに、
図7のグラフは、クリンプハイトが同じ条件の下では、端子付電線1における芯線圧着部40の固着力が、従来の端子付電線における芯線圧着部の固着力よりも大きいことを示している。
【0087】
従って、
図7のグラフに示されるように、固着力が要求される下限値Ns以上となるという条件の下で、端子付電線1におけるクリンプハイトの許容下限値H2は、従来の端子付電線におけるクリンプハイトの許容下限値H1よりも大幅に小さくなる。即ち、端子付電線1は、従来の端子付電線に比べ、要求される固着力を得るために許容されるクリンプハイトの範囲が広い。
【0088】
以上の結果、端子付電線1の製造における圧着工程のパラメータの管理が容易となり、小さい接続抵抗と大きな固着力との両立が容易となる。特に、絶縁電線9の芯線91がアルミニウムを主成分とする導体である場合、接続抵抗及び固着力の両立が容易となる効果はより顕著となる。
【0089】
さらに、芯線圧着部40の底板部41において凹みを形成する傾斜部441は、絶縁電線9の長手方向において緩やかに形状が変化している。従って、芯線圧着部40の圧着工程において、そのような傾斜部441を成形するアンビル81(下金型)が底板部41に押し当てられても、底板部41に亀裂は生じにくい。
【0090】
なお、端子付電線1において、第二連結部50の底板部に比較的大きな段差が形成されることが考えられる。しかしながら、第二連結部50は、圧着機8によるプレス加工がなされない部分である。即ち、第二連結部50は大きな剪断力が加わらない部分である。そのため、第二連結部50の亀裂は生じにくい。
【0091】
また、端子付電線1においては、芯線圧着部40の底板部41は、幅方向における中央領域を占める隆起部43とその両側に位置する一対の麓部44とを含み、傾斜部441は一対の麓部44各々に含まれる。さらに、一対の芯線かしめ部42の稜線と底板部41における隆起部43の稜線とが平行である。
【0092】
従って、芯線圧着部40の底板部41に傾斜部441が形成されているにもかかわらず、芯線圧着部40のクリンプハイトは絶縁電線9の長手方向において一定である。一般に、クリンプハイトは、圧着端子の圧着状態の重要な検査パラメータである。端子付電線1が採用されれば、クリンプハイトの計測位置の自由度が高いため、クリンプハイトの検査が容易となる。
【0093】
また、一対の麓部44の傾斜部441は、第一端101側から第二端102側へ向かうにつれて徐々に一対のかしめ部42側へ深く凹んで形成されているとともに徐々に幅が広がって形成されている。
図4に示されるように、そのような傾斜部441を成形するためのアンビル81(下金型)は、金属部材に断面形状が一定の溝83を形成する工程と、その溝83の両側の一対の縁部84を斜めにカットする工程とによって容易に製造可能である。
【0094】
また、芯線圧着部40の底板部41は、傾斜部441と、傾斜部441の第二端102側に形成された平行部442とを含む。この場合、芯線圧着部40における平行部442を含む部分においては、絶縁電線9の長手方向におけるいずれの位置の断面をとっても芯線91の圧縮率が概ね等しくなる。芯線91の圧縮率は、圧着端子の圧着状態の重要な検査パラメータである。端子付電線1が採用されれば、芯線91の圧縮率の測定位置の自由度が高いため、芯線91の圧縮率の検査が容易となる。
【0095】
また、平行部442に対する傾斜部441の角度がごく小さい場合、目視による平行部442と傾斜部441との区別が難しい。そのため、芯線91の圧縮率の測定位置を特定することが難しい。端子付電線1においては、芯線圧着部40の底板部41に、傾斜部441と平行部442との境界位置の目印となる凸部431が形成されている。その結果、平行部442と傾斜部441とを区別して芯線91の圧縮率の測定位置を特定することが容易となる。
【0096】
<第2実施形態>
次に、
図8を参照しつつ、第2実施形態に係る端子付電線1Aについて説明する。端子付電線1Aは、
図1〜3に示された端子付電線1と比較して、芯線圧着部40の底板部41における隆起部43が省略された構成を有している。
図8において、
図1〜3に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、端子付電線1Aにおける端子付電線1と異なる点についてのみ説明する。
【0097】
端子付電線1Aは、絶縁電線9とその端部に取り付けられた圧着端子10Aとを備えている。圧着端子10Aの底板部41は、傾斜部411と平行部442とを含む。但し、圧着端子10Aの傾斜部441は、底板部41の幅方向全体に亘って形成されている。同様に、圧着端子10Aの平行部442も、底板部41の幅方向全体に亘って形成されている。
【0098】
端子付電線1Aが採用される場合も、端子付電線1が採用される場合と同様に、小さい接続抵抗と大きな固着力とを両立しやすく、かつ、圧着工程で芯線圧着部40に亀裂が生じにくいという効果が得られる。
【0099】
端子付電線1Aの芯線圧着部40においても、平行部442が形成されているため、クリンプハイトの測定が容易である。
【0100】
なお、圧着端子10Aの底板部41にも、傾斜部441と平行部442との境界位置の目印となる凸部431が形成されている。
【0101】
<応用例>
端子付電線1,1Aにおいて、傾斜部441と平行部442との境界位置の目印が凹部であることも考えられる。また、端子付電線1において、傾斜部441と平行部442との境界位置の目印となる凸部431もしくは凹部が、一対の麓部44の一方又は両方に形成されることも考えられる。
【0102】
また、アンビル81が、凹部831の代わりに凸部を有することも考えられる。この場合、底板部41に形成される傾斜部441と平行部442との境界位置の目印は凹部となる。但し、アンビル81において、凹部831は、凸部よりも耐久性が良いと考えられる。
【0103】
なお、本発明に係る端子付電線は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは各実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。