特許第5920290号(P5920290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920290
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】モータ、およびモータの機械角検出方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 29/00 20060101AFI20160428BHJP
   H02K 21/12 20060101ALI20160428BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20160428BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20160428BHJP
   H02K 3/18 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H02K29/00 Z
   H02K21/12 M
   H02P6/00 321H
   H02K1/22 A
   H02K3/18 P
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-158118(P2013-158118)
(22)【出願日】2013年7月30日
(65)【公開番号】特開2015-29383(P2015-29383A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】森本 進也
(72)【発明者】
【氏名】村上 宗司
(72)【発明者】
【氏名】バローチュ ノール アーメル
(72)【発明者】
【氏名】大戸 基道
(72)【発明者】
【氏名】クウォン ヨンチェオル
(72)【発明者】
【氏名】スル スン キ
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/073263(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/048211(WO,A2)
【文献】 特開2007−104738(JP,A)
【文献】 特開2012−244783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 3/18
H02K 21/12
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ータと、
前記モータを制御する制御装置と
を備え、
前記モータは、複数の相ごとに複数のコイルがスロットに巻装され、前記各相につき、前記複数のコイルのうち1つの巻数が他と異なる固定子と、前記固定子と所定のエアギャップを介して対向配置され、コアの周方向に配置された複数の永久磁石により形成される複数の磁極のうち、少なくとも1つの磁気抵抗が他と異なる回転子とを備えており、
前記制御装置は、
前記回転子において指標となる指標磁極が前記固定子の前記各スロット上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておき、
前記モータの磁気突極性を利用して前記回転子の初期電気角位相を検出し、
前記初期電気角位相に基づいて、前記指標磁極を、任意の第1の相と一致する第1の位置に移動させ、前記第1の相に高周波信号を印加して第1のインダクタンスを測定し、
前記指標磁極を前記第1の位置と隣り合う第2の相に対応する第2の位置へ移動させ、当該第2の相に高周波信号を印加して第2のインダクタンスを測定し、
さらに、前記指標磁極を、前記第1の位置および第2の位置と異なる第3の相に対応する第3の位置へ移動させ、当該第3の相に高周波信号を印加して第3のインダクタンスを測定し、
複数の前記各位置において測定した第1〜第3のインダクタンスの大小関係と、記憶した前記インダクタンス特性とに基いて前記回転子の機械角を求める
ことを特徴とするモータの機械角検出方法。
【請求項2】
ータと、
前記モータを制御する制御装置と
を備え、
前記モータは、複数の相ごとに複数のコイルがスロットに巻装され、前記各相につき、前記複数のコイルのうち1つの巻数が他と異なる固定子と、前記固定子と所定のエアギャップを介して対向配置され、コアの周方向に配置された複数の永久磁石により形成される複数の磁極のうち、少なくとも1つの磁気抵抗が他と異なる回転子とを備えており、
前記制御装置は、
前記回転子において指標となる指標磁極が前記固定子の前記各スロット上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておき、
前記モータの磁気突極性を利用して前記回転子の初期電気角位相を検出し、
前記指標磁極を、任意の第1の相の位置に移動して高周波信号を印加することによって第1のインダクタンスを求め、
次いで、前記磁極の位置を、前記第1の相に隣り合う第2の相の位置に移動して高周波信号を印加して第2のインダクタンスを求め、
前記第1のインダクタンスと前記第2のインダクタンスの差分値と、前記記憶しているインダクタンス特性とに基づいて前記回転子の機械角を求める
ことを特徴とするモータの機械角検出方法。
【請求項3】
ータと、
前記モータを制御する制御装置と
を備え、
前記モータは、複数の相ごとに複数のコイルがスロットに巻装され、前記各相につき、前記複数のコイルのうち1つの巻数が他と異なる固定子と、前記固定子と所定のエアギャップを介して対向配置され、コアの周方向に配置された複数の永久磁石により形成される複数の磁極のうち、少なくとも1つの磁気抵抗が他と異なる回転子とを備えるとともに、前記回転子は、前記複数の磁極のうち、指標となる2つの指標磁極が点対象位置に設けられており、
前記制御装置は、
前記指標磁極が前記固定子の各前記スロット上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておき、
前記モータの磁気突極性を利用して前記回転子の初期電気角位相を検出し、
前記初期電気角位相が−150度から30度の間、または30度から210度の間の範囲の中で、前記2つの指標磁極のうち一方を第1の任意の相の位置に移動して高周波信号を印加することによって第1のインダクタンスを求め、
前記範囲の中で、他方の指標磁極を第2の任意の相の位置に移動して高周波信号を印加することによって第2のインダクタンスを求め、
前記第1のインダクタンスと前記第2のインダクタンスの差分値と前記記憶しているインダクタンス特性とに基づいて前記回転子の機械角を求める
ことを特徴とするモータの機械角検出方法。
【請求項4】
前記回転子は、
前記複数の磁極のうち少なくとも1つに含まれるコア部分に溝部が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のモータの機械角検出方法
【請求項5】
前記回転子は、
前記複数の磁極のうち少なくとも1つに含まれるコア部分に、複数の小孔が周方向に沿って形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のモータの機械角検出方法
【請求項6】
前記回転子は、
前記複数の磁極のうち、対向する1対の磁極に含まれるコア部分における前記エアギャップの広さが他と異なる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のモータの機械角検出方法
【請求項7】
前記回転子は、
略V字形に配設された前記永久磁石により1つの磁極が形成される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のモータの機械角検出方法
【請求項8】
前記固定子は、
3相9スロットであり、
前記回転子は、
前記エアギャップに面する磁極総数が6である
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のモータの機械角検出方法
【請求項9】
複数の相ごとに複数のコイルがスロットに巻装され、前記各相につき、前記複数のコイルのうち1つの巻数が他と異なる固定子と、
前記固定子と所定のエアギャップを介して対向配置され、コアの周方向に配置された複数の永久磁石により形成される複数の磁極のうち磁気抵抗が他と異なる指標磁極が、180度の間隔をあけて2つ設けられた回転子と
を備えることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、モータ、モータシステムおよびモータの機械角検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転を制御するために、回転子の位置を検出することが行われる。従来、モータの回転子の回転位置を検出するためには、エンコーダなどの位置検出器を用いることが一般的であった。しかし、省配線,省スペース,過酷な環境での信頼性の向上という観点から、エンコーダを用いることなく回転子の位置を検出する技術が模索されてきた。
【0003】
かかる技術の一例として、回転子の回転位置(機械角の変位による位置)の変化による固定子側のコイル巻線のインダクタンスの変化が、回転軸に取付けられた磁極部の磁気抵抗の変化に対応した値になることを利用したものがある。(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−166711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、あくまでも電気角を介した相対的な機械角しか推定できなかった。すなわち、特許文献1をはじめとする従来の技術では、回転子の絶対位置を示す絶対的な機械角を直接推定することはできなかった。
【0006】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、回転子の絶対的な機械角を推定可能なモータ、モータシステムおよびモータの機械角検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係るモータの機械角検出方法は、モータと、前記モータを制御する制御装置と
を備え、前記モータは、複数の相ごとに複数のコイルがスロットに巻装され、前記各相につき、前記複数のコイルのうち1つの巻数が他と異なる固定子と、前記固定子と所定のエアギャップを介して対向配置され、コアの周方向に配置された複数の永久磁石により形成される複数の磁極のうち、少なくとも1つの磁気抵抗が他と異なる回転子とを備えており、前記制御装置は、前記回転子において指標となる指標磁極が前記固定子の前記各スロット上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておき、前記モータの磁気突極性を利用して前記回転子の初期電気角位相を検出し、前記初期電気角位相に基づいて、前記指標磁極を、任意の第1の相と一致する第1の位置に移動させ、前記第1の相に高周波信号を印加して第1のインダクタンスを測定し、前記指標磁極を前記第1の位置と隣り合う第2の相に対応する第2の位置へ移動させ、当該第2の相に高周波信号を印加して第2のインダクタンスを測定し、さらに、前記指標磁極を、前記第1の位置および第2の位置と異なる第3の相に対応する第3の位置へ移動させ、当該第3の相に高周波信号を印加して第3のインダクタンスを測定し、複数の前記各位置において測定した第1〜第3のインダクタンスの大小関係と、記憶した前記インダクタンス特性とに基いて前記回転子の機械角を求める
【発明の効果】
【0008】
実施形態の一態様によれば、エンコーダを用いることなく回転子の回転位置を正確に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るモータシステムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、同上のモータシステムが備えるモータの縦断面視による説明図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るモータの横断面視による説明図である。
図4図4は、機械角を検出するための基礎データの一例となるグラフであり、モータの各相位置における高周波電圧印加に対する電流振幅を示す図である。
図5図5は、同上のモータの機械角の検出方法の一例の手順を示す説明図である。
図6A図6Aは、同上のモータの機械角の検出方法の一例の手順前半を示す説明図である。
図6B図6Bは、同上のモータの機械角の検出方法の一例の手順後半を示す説明図である。
図7A図7Aは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
図7B図7Bは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
図7C図7Cは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
図8図8は、第2の実施形態に係るモータの横断面視による説明図である。
図9図9は、第3の実施形態に係るモータの横断面視による説明図である。
図10A図10Aは、同上のモータの機械角の検出方法の一例の手順前半を示す説明図である。
図10B図10Bは、同上のモータの機械角の検出方法の一例の手順後半を示す説明図である。
図11図11は、機械角を検出するための基礎データの一例となるグラフであり、モータの各相の機械角に応じた電流の値を示す図である。
図12A図12Aは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
図12B図12Bは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
図12C図12Cは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
図12D図12Dは、同上のモータの回転子の移動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するモータ、モータシステムおよびモータの機械角検出方法の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下の実施形態における例示で本発明が限定されるものではない。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るモータシステムの概略構成を示すブロック図である。図示するように、モータシステム1は、モータ10と制御装置20とを備える。制御装置20は、回転子制御部21(以下、単に「制御部21」とする場合がある)、インダクタンス計測部22(以下、単に「計測部22」とする場合がある)、記憶部23および機械角推定部24を備える。
【0012】
図2は、同上のモータシステム1が備えるモータ10の縦断面視による説明図、図3は、第1の実施形態に係るモータ10の横断面視による説明図である。
【0013】
モータ10は、回転軸11の軸心Axを中心に、円筒状の回転子コア17aおよび永久磁石18を有する回転子17と、この回転子17とエアギャップ19を介して対向配置される固定子16とが同心円的に配置される。
【0014】
また、回転子17は、図2に示すように、回転軸11が軸受14A,14Bにより、フレーム12に締結されたブラケット13A,13Bに回転可能に保持される。固定子16は、その外周をフレーム12により保持される。
【0015】
回転子17は、エアギャップ19に面する表面上における磁極の総数(磁極数)が、少なくとも4以上であることが好ましい。ここでは、回転子17は、エアギャップ19に面する6つの磁極を有する。
【0016】
回転子17は、図3に示すように、回転子コア17a内に、一対の永久磁石18,18を略V字形に配設して形成した磁極が、周方向に6つ設けられる。すなわち、本実施形態に係る回転子17は、総磁極数が6つの永久磁石内蔵型モータ(IPM)である。
【0017】
6つの磁極のうち、少なくとも1つの磁気抵抗を他と異ならせている。磁気抵抗が他と異なる磁極を、回転子17において指標となる指標磁極181とする。第1の実施形態における指標磁極181は、図3に示すように、コア部分に溝部182が形成された構成としている。
【0018】
すなわち、一対の永久磁石18,18が配設されて構成される磁極のうちの一つに、円周方向に所定間隔をあけて設けられた一対の溝部182,182を形成して指標磁極181としている。ここでは、回転子コア17aの周縁側に向かって広がる略V字形に配設された永久磁石18,18における各外側端部に対向する位置に溝部182が形成されている。なお、ここでは、指標磁極181を一つとしたが、複数個設けることもできる。
【0019】
各溝部182は、図示するように、鍵穴形状に形成される。すなわち、溝部182は、固定子コア17aの周縁から内部に切欠された方形溝部182aと、この方形溝部182aと連続する円形溝部182bとから形成される。ここでは、円形溝部182bの直径を、略正方形とした方形溝部182aの一辺の長さよりも大としている。
【0020】
なお、溝部182の形状は、必ずしも鍵穴形状に限定されるものではない。適宜の形状とすることができる。また、回転子コア17aの周縁に連続する溝部182に代えて、回転子コア17aの周縁から離隔して形成される孔とすることもできる。そして、かかる孔の形状も適宜設計可能である。また、溝部182の数にしても、その配置にしても、適宜設計することは可能である。
【0021】
このように、本実施形態におけるモータ10は、回転子コア17aの周方向に配置された複数の永久磁石18により形成される複数の磁極のうち、磁気抵抗を他よりも大とした少なくとも1つの指標磁極181を有する。
【0022】
一方、固定子16は、複数の相ごとに複数のコイル162がスロット161に巻装され、各相につき、複数のコイル162のうち1つの巻数が他と異なる。すなわち、本実施形態に係るモータ10では、固定子16が3相9スロットであり、A(A1,A2,A3)相とB(B1,B2,B3)相とC(C1,C2,C3)相とが、それぞれ120度の位相で設けられる。
【0023】
そして、本実施形態に係る固定子16は、図3に示すように、交流3相の各相において集中巻きされたコイル162のうち、A相では相A2、B相では相B1、C相では相C3の巻数をN2ターンとし、他をN1ターンとしている。
【0024】
また、図示するように、回転子17を、機械的に、反時計回りに機械角120度(電気角で360度)間隔で、Sector1,2,3に区画し、各Sector1,2,3にそれぞれN2ターンのコイル162が存在するようにしている。なお、巻数を示すN1ターン、ン2ターンについては、例えば、30ターン、60ターンなど、両者が異なるように適宜な数に設定される。
【0025】
上述してきた構成により、磁束が溝部182の部分で通り難くなるため、固定子16におけるスロット161の巻数と、回転子17の指標磁極181との関係によって、インダクタンスが異なることになる。したがって、隣り合う相とのインダクタンスの差によって、機械角の検出が可能となる。
【0026】
このように、本実施形態に係るモータ10は、回転子17の磁極が磁気抵抗において非回転対称を有し、固定子16は、スロット161へのコイル162の巻数において、非回転対称を有することになる。そのため、例えば、回転子17が発生するエアギャップ19中の磁束密度は、機械角360度を1周期とした場合に、指標磁極181の位置ごとに変化し、磁束の分布が回転子17の周方向に回転対称でなくなる。
【0027】
かかる磁束密度の変化は、例えば、インダクタンスの変化として表れる。そして、このインダクタンスの変化は、高周波電圧の印加時には電流振幅を測定することにより、また、高周波電流の印加時には、電圧振幅を測定することにより検出することができる。したがって、インダクタンスを直接計算あるいは計測する必要はない。
【0028】
そのため、図1に示した制御装置20のインダクタンス計測部22では、高周波電圧の印加時における電流振幅を測定することによりインダクタンスの変化を検出している。
【0029】
ここで、図1図3に加え、図4および図5を用いて、機械角の検出方法について説明する。図4は、機械角を検出するための基礎データの一例となるグラフであり、本実施形態に係るモータ10の各相位置における高周波電圧印加に対する電流振幅を示す図である。なお、この図4では、コイル162の巻数がN1<N2である場合を条件としている。また、図5は、モータ10の機械角の検出方法の一例の手順を示す説明図である。
【0030】
本実施形態のモータ10における回転子17の機械角の検出は、エンコーダなどの位置検出器を利用することなく実行することができる。すなわち、図1に示した制御装置20により、回転子17の機械角の検出が図5に示す手順で実行される。
【0031】
制御装置20の記憶部23は、図5の手順に入る前に、予め回転子17の指標磁極181が固定子16の各スロット161に対応する位置にあるときのインダクタンス特性を記憶しておく。
【0032】
例えば、図4に示すように、回転子17の位置を示す機械角と、高周波電圧の印加時における電流の実効値とを関係付けたデータをテーブル化するなどして記憶部23に記憶させておく。図4では、指標磁極181が、各相に一致する位置にあるときに、高周波電圧を印加したときの電流の実効値を示す。図3および図4に示したA(A1,A2,A3)相とB(B1,B2,B3)相とC(C1,C2,C3)相とは互いに対応している。なお、図4では電流の実効値を示しているが,電流の実効値の代わりに電流振幅のピーク値を用いても良い。
【0033】
図5の手順に移ると、制御装置20の制御部21は、先ず、初期電気角位相を検出する(ステップS100)。検出した初期電気角位相は、記憶部23に記憶される。なお、この初期電気角位相の検出は、モータ10の磁気突極性を利用するものであり、例えば、高周波信号と、磁気飽和特性または磁気ヒステリシス特性などを利用した周知の検出方法で行うことができる。
【0034】
次いで、制御部21は、指標磁極181を最も近い第1の相と一致する位置(電気角0,120,240度のいずれか)に移動させ、計測部22は第1のインダクタンスを測定する(ステップS110)。例えば、制御装置20は、図3において、電気角0度であり、かつAで示され、コイル162のターン数がN1の位置に指標磁極181を移動して第1のインダクタンスを測定する。
【0035】
次いで、制御部21は、指標磁極181を、隣の第2の相と一致する位置に移動させ、計測部22は第2のインダクタンスを測定する(ステップS120)。例えば、制御装置20は、指標磁極181を、図3において、電気角120度であり、かつB1で示され、コイル162のターン数がN2の位置に移動して第2のインダクタンスを測定する。
【0036】
さらに、制御部21は、指標磁極181を、第3の相と一致する位置に移動させ、計測部22が第3のインダクタンスを測定する(ステップS130)。例えば、制御装置20は、図3において、電気角240度であり、かつC1で示され、コイル162のターン数がN1の位置に指標磁極181を移動して第2のインダクタンスを測定する。その後、制御部21は、処理をステップS140に移す。
【0037】
ステップS140において、制御部21は、機械角推定部24に、ステップS110,120,130で測定したインダクタンスと、記憶部23に予め記憶されているインダクタンス特性とを比較させる。そして、機械角推定部24は、測定した複数(ここでは3つ)のインダクタンスの値の大小関係と、図4に示されるインダクタンス特性とから、回転子17の機械角を検出(推定)する(ステップS150)。例えば,ステップS110,120,130が,それぞれA相,B相,C相の位置で測定したとすれば,測定したインダクタンスのうち,第2のインダクタンスが最も大きい場合はA,B,Cのいずれかであり,最後のステップS130の位置がC相であれば,求められる機械角はC,つまり80度となる。
【0038】
このように、制御装置20は、予め、回転子17の指標磁極181が固定子16の各スロット161に対応する位置にあるときのインダクタンス特性を記憶しておくとともに、初期電気角位相を検出している。そのため、制御装置20は、基礎データ(図4参照)を用い、検出したインダクタンスと比較することで、回転子17の機械角を検出することができる。
【0039】
なお、図5に基く手順の中で、インダクタンスを測定するとした説明は、前述したように、高周波電圧の印加時における電流振幅を測定と読み替えることができる。
【0040】
上述してきたモータ10の機械角検出方法は、制御装置20により実行される以下のステップを有することになる。
【0041】
(a)回転子17において指標となる指標磁極181が固定子16の各スロット161上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておくステップ。(b)モータ10の磁気突極性を利用して回転子17の初期電気角位相を検出するステップ。(c)初期電気角位相に基いて、指標磁極181を、任意の第1の相と一致する第1の位置に移動させるステップ。(d)第1の相に高周波信号を印加して第1のインダクタンスを測定するステップ。(e)指標磁極181を第1の位置と隣り合う第2の相に対応する第2の位置へ移動させるステップ。(f)第2の相に高周波信号を印加して第2のインダクタンスを測定するステップ。(g)指標磁極181を、第1の位置および第2の位置と異なる第3の相に対応する第3の位置へ移動させるステップ。(h)第3の相に高周波信号を印加して第3のインダクタンスを測定するステップ。(i)複数の位置において測定した第1〜第3のインダクタンスの大小関係と、記憶したインダクタンス特性とに基いて回転子17の機械角を求めるステップ。なお、(c)のステップにおける、任意の第1の相としては、図5を用いて説明したように、移動量を少なくするため、例えば、最も近接する第1の相を選択することができる。
【0042】
図3に示した第1の実施形態に係るモータ10における回転子17の機械角の検出方法としては、図6A,6Bの手順とすることもできる。この場合においても、図4に示すような基礎データを用いるとよい。以下、図6A図7Cを用いて、回転子17の機械角の検出方法の変形例を説明する。
【0043】
図6Aは、モータ10の機械角の検出方法の一例の手順前半を、図6Bは、手順後半を示す説明図である。また、図7A図7Cは、モータ10の回転子17の移動を示す説明図である。なお、以下において、電気角をθeで表したり、機械角をθmで表したりする場合がある。
【0044】
なお、この場合においても、制御装置20の記憶部23は、図6Aの手順に入る前に、予め回転子17の指標磁極181が固定子16の各スロット161に対応する位置にあるときのインダクタンス特性を記憶しておく。
【0045】
そして、図6Aの手順に移ると、制御装置20の制御部21は、先ず、初期電気角位相を検出する(ステップS200)。なお、この場合でも、初期電気角位相の検出は前述した周知の検出方法で行うことができる。
【0046】
次いで、制御部21は、検出した初期電気角位相が、第1の電気角位相(0〜120度)であるか否かを判定する(ステップS210)。第1の電気角位相であると判定された場合(ステップS210:Yes)、制御部21は、ステップS220の処理に移す。一方、第1の電気角位相ではないと判定された場合(ステップS210:No)、制御部21は、処理をステップS230に移す。
【0047】
検出した初期電気角位相が、第1の電気角位相(0〜120度)の場合、制御部21は、電気角0度に指標磁極181を移動する。そして、計測部22は、高周波信号を印加することにより、電流振幅(I_0)を検出する(ステップS220)。すなわち、制御装置20は、電気角0度であり、指標磁極181がA,A2,A3のいずれかの位置にて高周波信号を印加することにより、第1のインダクタンスを測定することになる。
【0048】
次いで、制御部21は、電気角120度に指標磁極181を移動し、計測部22は、高周波信号を印加することにより、電流振幅(I_120)を検出する(ステップS221)。すなわち、制御装置20は、電気角120度であり、指標磁極181がB,B,Bのいずれかで示される位置にて高周波信号を印加することにより、第2のインダクタンスを測定することになる。
【0049】
その後、制御部21は、処理を図6BのステップS260に移し、機械角推定部24に、(I_120)−(I_0)がI_shよりも大であるか否かを判定させる。ここで、I_shとは適宜定められた判定基準値である。
【0050】
(I_120)−(I_0)>I_shであれば(ステップS260:Yes)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが40度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角120度(機械角40度、160度、280度のいずれか)の位置と電気角0度(機械角0度、120度、240度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が正の傾きを取るのは、指標磁極181が電気角0度と電気角120度がそれぞれ機械角0度と機械角40度の位置にあるときである。これは、第1のインダクタンスを図3に示したように指標磁極181がAの位置で、第2のインダクタンスを図7Aに示したように指標磁極181がBの位置で測定した場合に相当する。
【0051】
一方、(I_120)−(I_0)>I_shでない場合(ステップS260:No)、機械角推定部24は、(I_120)−(I_0)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS261)。
【0052】
そして、(I_120)−(I_0)<−I_shであれば(ステップS261:Yes)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが160度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角120度(機械角40度、160度、280度のいずれか)の位置と電気角0度(機械角0度、120度、240度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が負の傾きを取るのは、指標磁極181が電気角0度と電気角120度がそれぞれ機械角120度と機械角160度の位置である。これはつまり、指標磁極がそれぞれAとBの位置におけるインダクタンスを測定した場合に相当する。
【0053】
他方、(I_120)−(I_0)<−I_shでない場合(ステップS261:No)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが280度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角120度(機械角40度、160度、280度のいずれか)の位置と電気角0度(機械角0度、120度、240度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、指標磁極181が電気角0度と電気角120度がそれぞれ機械角240度と機械角280度の位置にあるときである。
【0054】
一方、ステップS230において、制御部21は、初期電気角位相が、第2の電気角位相(120〜240度)であるか否かを判定する。そして、第2の電気角位相(120〜240度)であると判定された場合(ステップS230:Yes)、制御部21は、電気角120度に指標磁極181を移動する。そして、計測部22は、高周波信号を印加することにより、電流振幅(I_120)を検出する(ステップS240)。すなわち、制御装置20は、電気角120度であり、指標磁極181がB,B,Bのいずれかの位置にて高周波信号を印加することにより、第1のインダクタンスを測定することになる。
【0055】
次いで、制御部21は、電気角240度に指標磁極181を移動し、計測部22は、高周波信号を印加することにより、電流振幅(I_240)を検出する(ステップS241)。すなわち、制御装置20は、電気角240度であり、指標磁極181がC,C,Cのいずれかの位置にて高周波信号を印加することにより、第2のインダクタンスを測定することになる。
【0056】
その後、制御部21は、処理を図6BのステップS270に移し、機械角推定部24に、(I_240)−(I_120)がI_shよりも大であるか否かを判定させる。
【0057】
機械角推定部24は、(I_240)−(I_120)>I_shであれば(ステップS270:Yes)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが320度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角240度(機械角80度、200度、320度のいずれか)の位置と電気角120度(機械角40度、160度、280度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が正の傾きを取るのは、機械角320度の位置である。
【0058】
一方、(I_240)−(I_120)>I_shでない場合(ステップS270:No)、機械角推定部24は、(I_240)−(I_120)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS271)。
【0059】
そして、(I_240)−(I_120)<−I_shであれば(ステップS271:Yes)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが80度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角240度(機械角80度、200度、320度のいずれか)の位置と電気角120度(機械角40度、160度、280度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が負の傾きを取るのは、機械角80度の位置である。これは、第1のインダクタンスを図7Aの位置で、第2のインダクタンスを図7Bの位置で計測した場合に相当する。
【0060】
他方、(I_240)−(I_120)<−I_shでない場合(ステップS271:No)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが200度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角240度(機械角80度、200度、320度のいずれか)の位置と電気角120度(機械角40度、160度、280度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、機械角200度の位置である。
【0061】
一方、ステップS230において、第1の電気角位相(0〜120度)でも第2の電気角位相(120〜240度)でもないと判定された場合(ステップS230:N0)、機械角推定部24は、処理をステップS250に移す。
【0062】
すなわち、制御部21は、第3の電気角位相(240〜360(0)度)であると判定し、電気角240度に指標磁極181を移動する。そして、計測部22は、高周波信号を印加することにより、電流振幅(I_240)を検出する(ステップS250)。すなわち、制御装置20は、電気角240度であり、指標磁極181がC,C,Cのいずれかの位置にて高周波信号を印加することにより、第1のインダクタンスを測定することになる。
【0063】
次いで、制御部21は、電気角360(0)度に指標磁極181を移動し、計測部22は、高周波信号を印加することにより、電流振幅(I_0(360))を検出する(ステップS251)。すなわち、制御装置20は、電気角360度であり指標磁極181がA,A,Aのいずれかの位置にて高周波信号を印加することにより、第2のインダクタンスを測定する。
【0064】
その後、制御部21は、処理を図6BのステップS280に移し、機械角推定部24は、(I_0)−(I_240)がI_shよりも大であるか否かを判定する。
【0065】
機械角推定部24は、(I_0)−(I_240)>I_shであれば(ステップS280:Yes)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが120度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角0(360)度(機械角0度、120度、240度のいずれか)の位置と電気角240度(機械角80度、200度、320度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が正の傾きを取るのは、機械角120度の位置である。これは第1のインダクタンスを図7Bの位置,第2のインダクタンスを図7Cの位置で計測した場合に相当する。
【0066】
一方、(I_0)−(I_240)>I_shでない場合(ステップS280:No)、機械角推定部24は、(I_0)−(I_240)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS281)。
【0067】
そして、(I_0)−(I_240)<−I_shであれば(ステップS281:Yes)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが0度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角0(360)度(機械角0度、120度、240度のいずれか)の位置と電気角240度(機械角80度、200度、320度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が負の傾きを取るのは、機械角0度の位置である。
【0068】
他方、(I_0)−(I_240)<−I_shでない場合(ステップS281:No)、基礎データ(図4参照)を参照することにより、機械角θmが240度であるとする。すなわち、図4を見たとき、電気角0(360)度(機械角0度、120度、240度のいずれか)の位置と電気角240度(機械角80度、200度、320度のいずれか)の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、機械角240度の位置である。
【0069】
このように、変形例に係る機械角の検出方法では、指標磁極181の移動順番は問われず、最後に移動した位置によって機械角θmが求まる。また、先の検出方法(図5参照)では、回転子17を、機械角で最大100度回転させる必要があるが、本検出方法では最大40度でよい。また、本検出方法によれば、回転子17を、特にSector分けする必要もない。
【0070】
上述してきたモータ10の変形例に係る機械角検出方法は、制御装置20により実行される以下のステップを有することになる。
【0071】
(a)回転子17において指標となる指標磁極181が固定子16の各スロット161上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておくステップ。(b)モータ10の磁気突極性を利用して回転子17の初期電気角位相を検出するステップ。(c)指標磁極181を、任意の第1の相の位置に移動して高周波信号を印加することによって第1のインダクタンスを求めるステップ。(d)指標磁極181の位置を、第1の相に隣り合う第2の相の位置に移動して高周波信号を印加して第2のインダクタンスを求めるステップ。(e)第1のインダクタンスと第2のインダクタンスの差分値と、記憶しているインダクタンス特性とに基づいて回転子17の機械角を求めるステップ。なお、(c)のステップにおける任意の第1の相としては、図6Aを用いて説明したように、移動量を少なくするため、例えば、最も近接する第1の相を選択することができる。そして、(d)のステップでは、次に近い位置として、第1の相に隣り合う第2の相の位置に移動する。
【0072】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係るモータ10Aの横断面視による説明図である。モータ10Aは、基本的には、図2および図3に示した第1の実施形態に係るモータ10と同じ構成である。すなわち、モータ10Aがモータ10と異なる点は、磁気抵抗が他よりも大きな指標磁極181の数と形状にある。
【0073】
図8に示すように、モータ10Aでは、指標磁極181が180度の間隔をあけて2つ設けられている。すなわち、2つの指標磁極181が点対称位置に設けられている。また、第1の実施形態に係るモータ10では、溝部182の形成により指標磁極181が設けられていたが、第2の実施形態に係るモータ10Aでは、複数の小孔183が周方向に沿って形成されて指標磁極181が設けられる。その他の構成については、第1の実施形態に係るモータ10と同じ構成であり、ここでの説明は省略する。
【0074】
このように、第2の実施形態に係るモータ10Aの回転子17は、複数(6つ)の磁極のうち少なくとも1つに含まれるコア部分に、複数の小孔183が周方向に沿って形成されて指標磁極181とした構成になっている。なお、複数の小孔183に代えて、例えば弧状の長孔を設けることもできる。
【0075】
また、図示するように、回転子17を、機械角10度の位置を基点として、反時計回りに機械的に60度(電気角で180度)間隔で、Sector1,2,3,4,5,6に区画している。
【0076】
そして、9つのスロット161に対し、反時計回りにSector1にN2ターンのコイル162が、Sector2にN1ターンとN2ターンのコイル162が、Sector3にN1ターンのコイル162が設けられている。続いて、Sector4に2つのN1ターンのコイル162が、Sector5にN1ターンのコイル162が、Sector6にN2ターンとN1ターンのコイル162が設けられている。
【0077】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係るモータ10Bの横断面視による説明図である。モータ10Bは、基本的には、図8に示した第2の実施形態に係るモータ10Aと同じ構成である。モータ10Bがモータ10Aと異なる点は、指標磁極181の形状にある。
【0078】
図9に示すように、モータ10Bにおいても、モータ10Aと同じように指標磁極181が180度の間隔をあけて2つ設けられている。そして、モータ10Aでは、複数の小孔183の形成により指標磁極181が設けられていた。
【0079】
しかし、モータ10Bでは、対向する1対の磁極に含まれるコア部分におけるエアギャップ19の広さを他と異ならせて指標磁極181が設けられる。具体的には、指標磁極181のコア部分におけるエアギャップ19の幅を、他の部分よりも広く形成し、磁気抵抗を大きくしている。なお、その他の構成については、第1、第2の実施形態と同じ構成であり、ここでの説明は省略する。
【0080】
次に、第2、第3の実施形態に係るモータ10A,10Bの機械角の検出方法について、図10A図12Dを用いて説明する。図10Aは、モータ10Aの機械角の検出方法の一例の手順前半を、図10Bは手順後半を示す説明図である。また、図11は、機械角を検出するための基礎データの一例となるグラフであり、モータ10Aの各相の機械角に応じた電流の値を示す図である。なお、この図11では、コイル162の巻数がN1<N2である場合を条件としている。そして、図12A図12Dは、モータ10Aの回転子17の移動を示す説明図である。なお、ここでは、第2の実施形態に係るモータ10Aを用いているが、第3の実施形態に係るモータ10Bを用いることもできる。
【0081】
制御装置20の記憶部23は、図10Aの手順に入る前に、予め回転子17の指標磁極181,181が固定子16の各スロット161に対応する位置にあるときのインダクタンス特性を記憶しておく。
【0082】
そして、図10Aの手順に移ると、制御装置20の制御部21は、先ず、初期電気角位相を検出する(ステップS300)。なお、この場合でも、初期電気角位相の検出は前述した周知の検出方法で行うことができる。
【0083】
次いで、制御部21は、検出した初期電気角位相が、第1の電気角位相(30〜120度)であるか否かを判定する(ステップS310)。第1の電気角位相であると判定された場合(ステップS310:Yes)、制御部21は、図10Bに示すステップS350の処理に移す。一方、第1の電気角位相ではないと判定された場合(ステップS310:No)、制御部21は、処理をステップS320に移す。
【0084】
ステップS320において、制御部21は、検出した初期電気角位相が、第2の電気角位相(120〜210度)であるか否かを判定する。第2の電気角位相であると判定された場合(ステップS320:Yes)、制御部21は、図10Bに示すステップS360の処理に移す。一方、第2の電気角位相ではないと判定された場合(ステップS320:No)、制御部21は、処理をステップS330に移す。
【0085】
ステップS330において、制御部21は、検出した初期電気角位相が、第3の電気角位相(210〜300度)であるか否かを判定する。第3の電気角位相であると判定された場合(ステップS330:Yes)。制御部21は、図10Bに示すステップS370の処理に移す。一方、第3の電気角位相ではないと判定された場合(ステップS330:No)、制御部21は、処理をステップS340に移す。このステップS340では、制御部21は、検出した初期電気角位相が第4の電気角位相(300〜390(30)度)であると判断する。
【0086】
ところで、本検出方法は、Sectorを跨いでは機械角の検出ができないため、ステップS310以降の処理は、初期電気角位相が−150度から30度の間(図8におけるSector2またはSector4またはSector6)、または30度から210度の間(図8におけるSector1またはSector3またはSector5)の範囲の中という制限下で行うものとする。
【0087】
図10Bに示すように、ステップS350では、すなわち、検出した初期電気角位相が、第1の電気角位相の場合、制御部21は、一方の指標磁極181をθ1(電気角60度)に移動させる。例えば、図12Aに示すように、一方の指標磁極181は、N1ターンのAとN2ターンのBのコイル162との間に位置し、他方の指標磁極181は、N1ターンのCのコイル162と対向する位置をとる。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_1)を検出する。
【0088】
次いで、制御部21は、指標磁極181,181をθ2(電気角120度)に移動させる。例えば、図12Bに示すように、一方の指標磁極181は、N2ターンのBのコイル162と対向し、他方の指標磁極181は、2つのN1ターンのC,Aのコイル162,162の間に位置する。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_2)を検出する(ステップS351)。
【0089】
その後、制御部21は、処理をステップS352に移し、機械角推定部24に、(I_2)−(I_1)がI_shよりも大であるか否かを判定させる。ここで、I_shとは適宜定められた判定基準値である。
【0090】
(I_2)−(I_1)>I_shであれば(ステップS352:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが40度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角120度の位置と電気角60度の位置とにおいて、インダクタンス差が正の傾きを取るのは、指標磁極181が機械角40度(電気角120度)の位置(Sector1)にあるときである。これは、指標磁極181,181が、図12A図12Bに示した位置である場合に相当する。
【0091】
一方、(I_2)−(I_1)>I_shでない場合(ステップS352:No)、機械角推定部24は、(I_2)−(I_1)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS353)。
【0092】
そして、(I_2)−(I_1)<−I_shであれば(ステップS353:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが160度であるとする。すなわち、図12を見たとき、電気角120度の位置と電気角60度の位置とにおいて、インダクタンス差が負の傾きを取るのは、指標磁極181がる機械角160度(電気角120度)の位置(Sector3)にあるときである。
【0093】
他方、(I_2)−(I_1)<−I_shでない場合(ステップS353:No)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが280度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角120度の位置と電気角60度の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、指標磁極181が機械角280度(電気角120度)の位置(Sector5)にあるときである。
【0094】
一方、初期電気角位相が第2の電気角位相(120〜210度)であると判定された場合(ステップS320:Yes)、制御部21は、ステップS360において、指標磁極181,181をθ1(電気角120度)に移動させる。例えば、図12Bに示すように、一方の指標磁極181は、N2ターンのBのコイル162と対向し、他方の指標磁極181は、2つのN1ターンのC,Aのコイル162,162の間に位置する。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_1)を検出する。
【0095】
次いで、制御部21は、指標磁極181をθ2(電気角180度)に移動させる。例えば、図示しないが、一方の指標磁極181は、N2ターンのBとN1ターンのCのコイル162,162の間に位置し、他方の指標磁極181は、N1ターンのAのコイル162に対向する位置をとる。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_2)を検出する(ステップS361)。
【0096】
その後、制御部21は、処理をステップS362に移し、機械角推定部24に、(I_2)−(I_1)がI_shよりも大であるか否かを判定させる。
【0097】
(I_2)−(I_1)>I_shであれば(ステップS362:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが300度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角180度の位置と電気角120度の位置とにおけるインダクタンス差が正の傾きを取るのは、指標磁極181が、機械角300度(電気角180度)の位置(Sector5)にあるときである。
【0098】
一方、(I_2)−(I_1)>I_shでない場合(ステップS362:No)、機械角推定部24は、(I_2)−(I_1)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS363)。
【0099】
そして、(I_2)−(I_1)<−I_shであれば(ステップS363:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが60度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角180度の位置と電気角120度の位置とにおけるインダクタンス差が負の傾きを取るのは、指標磁極181が機械角60度(電気角180度)の位置(Sector1)にあるときである。これは、指標磁極181,181が、図12Bおよび段落[0095]にて例示した位置(一方の指標磁極181は、N2ターンのBとN1ターンのCのコイル162,162の間に位置し、他方の指標磁極181は、N1ターンのAのコイル162に対向する位置)である場合に相当する。
【0100】
他方、(I_2)−(I_1)<−I_shでない場合(ステップS363:No)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが180度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角180度の位置と電気角120度の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、指標磁極181が機械角180度(電気角180度)の位置(Sector3)にあるときである。
【0101】
また、初期電気角位相が第3の電気角位相(210〜300度)であると判定された場合(ステップS330:Yes)、制御部21は、ステップS370において、指標磁極181,181をθ1(電気角240度)に移動させる。例えば、図12Cに示すように、一方の指標磁極181は、N1ターンのCのコイル162と対向し、他方の指標磁極181は、2つのN1ターンのA,Bのコイル162,162の間に位置する。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_1)を検出する。
【0102】
次いで、制御部21は、指標磁極181をθ2(電気角300度)に移動させる。例えば、図12Dに示すように、一方の指標磁極181は、N1ターンのCとN2ターンのAのコイル162,162の間に位置し、他方の指標磁極181は、N1ターンのBのコイル162に対向する位置をとる。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_2)を検出する(ステップS371)。
【0103】
その後、制御部21は、処理をステップS372に移し、機械角推定部24に、(I_2)−(I_1)がI_shよりも大であるか否かを判定させる。
【0104】
(I_2)−(I_1)>I_shであれば(ステップS372:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが220度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角300度の位置と電気角240度の位置とにおけるインダクタンス差が正の傾きを取るのは、指標磁極181が、機械角220度(電気角300度)の位置(Sector4)にあるときである。
【0105】
一方、(I_2)−(I_1)>I_shでない場合(ステップS372:No)、機械角推定部24は、(I_2)−(I_1)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS373)。
【0106】
そして、(I_2)−(I_1)<−I_shであれば(ステップS373:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが340度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角300度の位置と電気角240度の位置とにおけるインダクタンス差が負の傾きを取るのは、指標磁極181が機械角340度(電気角300度)の位置(Sector6)にあるときである。
【0107】
他方、(I_2)−(I_1)<−I_shでない場合(ステップS373:No)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが100度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角300度の位置と電気角240度の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、指標磁極181が機械角100度(電気角300度)の位置(Sector2)にあるときである。これは、指標磁極181,181が、図12C図12Dに示した位置である場合に相当する。
【0108】
また、初期電気角位相が第4の電気角位相(300〜390(30)度)である場合(ステップS340)、制御部21は、ステップS380において、指標磁極181,181をθ1(電気角300度)に移動させる。例えば、図12Dに示すように、一方の指標磁極181は、N1ターンのCとN2ターンのAのコイル162,162との間に位置し、他方の指標磁極181は、N1ターンのBのコイル162に対向した位置をとる。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_1)を検出する。
【0109】
次いで、制御部21は、指標磁極181をθ2(電気角0度)に移動させる。例えば、図示しないが、一方の指標磁極181は、N2ターンのAのコイル162に対向し、他方の指標磁極181は、N1ターンのBとN2ターンのCのコイル162,162の間に位置する。かかる位置において、計測部22は高周波信号を印加して、電流振幅(I_2)を検出する(ステップS381)。
【0110】
その後、制御部21は、処理をステップS382に移し、機械角推定部24に、(I_2)−(I_1)がI_shよりも大であるか否かを判定させる。
【0111】
(I_2)−(I_1)>I_shであれば(ステップS382:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが120度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角0度の位置と電気角300度の位置とにおけるインダクタンス差が正の傾きを取るのは、指標磁極181が、機械角120度(電気角360(0)度)の位置(Sector2)にあるときである。
【0112】
一方、(I_2)−(I_1)>I_shでない場合(ステップS382:No)、機械角推定部24は、(I_2)−(I_1)が−I_shよりも小であるか否かを判定する(ステップS383)。
【0113】
そして、(I_2)−(I_1)<−I_shであれば(ステップS383:Yes)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが240度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角0度の位置と電気角300度の位置とにおけるインダクタンス差が負の傾きを取るのは、指標磁極181が機械角240度(電気角360(0)度)の位置(Sector4)にあるときである。
【0114】
他方、(I_2)−(I_1)<−I_shでない場合(ステップS383:No)、基礎データ(図11参照)を参照することにより、機械角θmが0度であるとする。すなわち、図11を見たとき、電気角0度の位置と電気角300度の位置とにおけるインダクタンス差が殆ど無く、傾きがゼロに近い、すなわち、差分の絶対値がI_shよりも小さいのは、指標磁極181が機械角0度(電気角360(0)度)の位置(Sector6)にあるときである。
【0115】
上述してきたモータ10A,10Bの機械角検出方法は、制御装置20により実行される以下のステップを有することになる。
【0116】
(a)回転子17において、複数の磁極のうち、点対象位置に設けられた指標となる2つの指標磁極181が固定子16の各スロット161上にある場合のインダクタンス特性を予め記憶しておくステップ。(b)モータ10A,10Bの磁気突極性を利用して回転子17の初期電気角位相を検出するステップ。(c)初期電気角位相が−150度から30度の間、または30度から210度の間の範囲の中で、2つの指標磁極181の一方を第1の任意の相の位置に移動して高周波信号を印加することによって第1のインダクタンスを求めるステップ。(d)ステップ(c)の範囲の中で、他方の指標磁極181を第2の任意の相の位置に移動して高周波信号を印加することによって第2のインダクタンスを求めるステップ。(e)第1のインダクタンスと第2のインダクタンスの差分値と記憶しているインダクタンス特性とに基づいて回転子17の機械角を求めるステップ。なお、ステップ(c)における第1の任意の相としては、初期電気角位相に最も近い相を選択することができる。また、ステップ(d)における第2の任意の相としては、初期電気角位相から180度の位置に最も近い相を選択することができる。
【0117】
上述してきたモータ10,10A,10B、モータシステム1およびモータ10,10A,10Bの機械角検出方法によれば、回転子17の絶対位置を直接推定することが可能となる。
【0118】
上述した機械角の検出方法では、指標磁極181が2つあり、Sectorも6つあるため、機械角を検出するための回転子17の必要な回転量を半減することができる。
【0119】
以上、実施形態および変形例を通して本発明を説明してきたが、モータ10,10A,10Bの種類や、モータ10,10A,10Bの極数やスロット数などは適宜設定することができる。
【0120】
上述した実施形態のさらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 モータシステム
10 モータ
16 固定子
17 回転子
17a 回転子コア
18 永久磁石
20 制御装置
21 回転子制御部
22 インダクタンス計測部
23 記憶部
24 機械角推定部
161 スロット
162 コイル
181 指標磁極
182 溝部
183 小孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図12D