(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
全テトラカルボン酸成分100モル%中、化学式(1)で表される繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分を70モル%以上、それ以外のテトラカルボン酸成分を30モル%以下で含むテトラカルボン酸成分と、全ジアミン成分100モル%中、化学式(1)で表される繰り返し単位を与えるジアミン成分を70モル%以上、それ以外のジアミン成分を30モル%以下で含むジアミン成分とから得られることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド前駆体。
純度(複数の立体異性体を含む場合は、それらを区別せず同一成分と見なした場合の純度)が99%以上のテトラカルボン酸成分と、純度が99%以上のジアミン成分とから得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
光透過率が70%以上のテトラカルボン酸成分(但し、テトラカルボン酸成分の光透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。)と、光透過率が30%以上のジアミン成分(但し、ジアミン成分の光透過率は、メタノール、水、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸もしくはこれらの塩酸溶液に、8質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率を表す。)とから得られることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホオキシド及び水より選ばれる溶媒に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が40%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のポリイミド前駆体は、前記化学式(1)で表される繰り返し単位を含んで構成されたポリイミド前駆体である。換言すれば、本発明のポリイミド前駆体は、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない脂環式テトラカルボン酸成分と、化学構造中に少なくとも一つのアミド結合と芳香族環とを有する芳香族ジアミン成分から得られる半脂環式ポリイミド前駆体(A)、または、脂肪族テトラカルボン酸成分と、化学構造中に少なくとも一つの前記化学式(2)の化学構造を有するジアミン成分から得られるポリイミド前駆体(B)である。
【0035】
本発明のポリイミド前駆体は、他のテトラカルボン酸成分および/またはジアミン成分を使用して得られるポリイミド前駆体であってもよく、例えば、全テトラカルボン酸成分100モル%中、化学式(1)で表される繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分(すなわち、ポリイミド前駆体(A)の場合は、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない脂環式テトラカルボン酸成分であり、ポリイミド前駆体(B)の場合は、脂肪族テトラカルボン酸成分である。)を70モル%以上、それ以外のテトラカルボン酸成分を30モル%以下で含むテトラカルボン酸成分と、全ジアミン成分100モル%中、化学式(1)で表される繰り返し単位を与えるジアミン成分(すなわち、ポリイミド前駆体(A)の場合は、化学構造中に少なくとも一つのアミド結合と芳香族環とを有する芳香族ジアミン成分であり、ポリイミド前駆体(B)の場合は、化学構造中に少なくとも一つの下記化学式(2)の化学構造を有するジアミン成分である。)を70モル%以上、それ以外のジアミン成分を30モル%以下で含むジアミン成分とから得られるポリイミド前駆体であってもよい。
【0036】
本発明のポリイミド前駆体(A)のテトラカルボン酸成分およびジアミン成分について説明する。
【0037】
本発明のポリイミド前駆体(A)において用いるテトラカルボン酸成分は、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない脂環式テトラカルボン酸成分であり、テトラカルボン酸成分中の6員環は複数であってよく、複数の6員環が二つ以上の共通の炭素原子によって構成されていても構わない。また、6員環は環を構成する(6員環の内部の)炭素原子同士が化学結合によって更に環を形成した架橋環型であっても構わない。
【0038】
テトラカルボン酸成分は、対称性が高い6員環構造を有するものが、高分子鎖の密なパッキングが可能となり、ポリイミドの耐溶剤性、耐熱性、機械強度に優れるため好ましい。さらに、テトラカルボン酸成分は、複数の6員環が二つ以上の共通の炭素原子によって構成された多脂環型、及び6員環が環を構成する炭素原子同士が化学結合によって更に環を形成した架橋環型であることが、ポリイミドの良好な耐熱性、耐溶剤性、低線膨張係数を達成し易いのでより好ましい。
【0039】
前記化学式(1)中のAで表されるテトラカルボン酸成分に由来する4価の基としては、例えば、前記化学式(3−1)〜(3−4)の基が好ましく、前記化学式(3−3)又は(3−4)の基がより好ましく、前記化学式(3−4)の基が特に好ましい。前記化学式(3−1)及び(3−2)の基に比べ、前記化学式(3−3)及び(3−4)の基は、架橋環型であるため、ポリイミドの耐熱性に優れ且つ線膨張係数が小さいため、より好ましい。さらに前記化学式(3−4)の基は、多脂環・架橋環型であるため、よりポリイミドの耐熱性に優れることから、特に好ましい。
【0040】
前記化学式(3−1)又は(3−2)の化学構造を導入するテトラカルボン酸成分としては、例えばシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸、4,4’−メチレンビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−オキシビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−チオビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−スルホニルビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、4,4’−(テトラフルオロプロパン−2,2−ジイル)ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)等の誘導体や、これらの酸二無水物が挙げられる。これらのうちでは、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸、[1,1’−ビ(シクロヘキサン)]−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸の誘導体や、これらの酸二無水物が、ポリイミドの耐溶剤性、機械強度に優れるため好ましい。
【0041】
これらのテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、分離精製等を行い、特定の立体異性体の比率を80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上にすることで、ポリイミドの耐熱性や耐溶剤性が向上する。そのようなテトラカルボン酸成分の特定の立体異性体としては、
1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸(以下PMTA−HSと略すことがあり、更にその酸二無水物をPMDA−HSと略すことがある。)、
1S,2S,4R,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸(以下PMTA−HHと略すことがあり、更にその酸二無水物をPMDA−HHと略すことがある。)、
(1R,1’S,3R,3’S,4R,4’S)ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(以下trans−DCTAと略すことがあり、更にその酸二無水物をtrans−DCDAと略すことがある。)、
(1R,1’S,3R,3’S,4S,4’R)ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(以下cis−DCTAと略すことがあり、更にその酸二無水物をcis−DCDAと略すことがある。)
が好ましく、PMTA−HS、trans−DCTA、cis−DCTAは、酸二無水物とした場合の反応性に優れるため、より好ましい。
【0042】
前記化学式(3−3)又は(3−4)の化学構造を導入する架橋環型又は多脂環・架橋環型のテトラカルボン酸成分としては、例えばオクタヒドロペンタレン−1,3,4,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、6−(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5−トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ−5−エン−2,3,7,8−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ−7−エン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、9−オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸等の誘導体や、これらの酸二無水物が挙げられる。これらのうちでは、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸等の誘導体や、これらの酸二無水物が、ポリイミドの製造が容易であり、得られるポリイミドの耐熱性に優れることから、より好ましい。
【0043】
これらのテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、分離精製等を行い、特定の立体異性体の比率を70%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上にすることで、低い線膨張係数を有するポリイミドを得ることができる。そのようなテトラカルボン酸成分の特定の立体異性体としては、
1rC7−ビシクロ[2.2.2]オクタン−2t,3t,5c,6c−テトラカルボン酸(以下cis/trans−BTTA−Hと略すことがあり、更にその無水物をcis/trans−BTA−Hと略すことがある。)
1rC7−ビシクロ[2.2.2]オクタン−2c,3c,5c,6c−テトラカルボン酸(以下cis/cis−BTTA−Hと略すことがあり、更にその酸二無水物をcis/cis−BTA−Hと略すことがある。)
(4arH,8acH)−デカヒドロ−1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2t,3t,6c,7c−テトラカルボン酸(以下DNTAxxと略すことがあり、更にその酸二無水物をDNDAxxと略すことがある。)
(4arH,8acH)−デカヒドロ−1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2c,3c,6c,7c−テトラカルボン酸(以下DNTAdxと略すことがあり、更にその酸二無水物をDNDAdxと略すことがある。)
が好ましい。
【0044】
前記のテトラカルボン酸成分の構造式を以下に示す。
【0046】
テトラカルボン酸成分は、前記のようなテトラカルボン酸成分を、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
また、一般的にポリイミドで使用される他の芳香族または脂肪族テトラカルボン酸成分を、本発明のポリイミドの特性が発現できる範囲内で少量(好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは10モル%未満)併用することもできる。
【0048】
本発明で使用することができる他の芳香族または脂肪族テトラカルボン酸成分としては、例えば、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、オキシジフタル酸、ビスカルボキシフェニルジメチルシラン、ビスジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド、スルホニルジフタル酸、シクロブタンテトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸等の誘導体や、これらの酸二無水物が挙げられる。
【0049】
本発明で用いるテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、純度(複数の立体異性体を含む場合は、それらを区別せず同一成分と見なした場合の純度であり、複数種のテトラカルボン酸成分を用いる場合には、最も純度の高いテトラカルボン酸成分の値、もしくは用いるすべてのテトラカルボン酸成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた純度の平均値、例えば、純度100%のテトラカルボン酸成分を70質量部、純度90%のテトラカルボン酸成分を30質量部使用したとき、使用されるテトラカルボン酸成分の純度は、97%と計算される。)が99%以上、好ましくは99.5%以上であることが好ましい。純度が98%未満の場合、ポリイミド前駆体の分子量が十分にあがらず、得られるポリイミドの耐熱性が劣ることがある。純度は、ガスクロマトグラフィー分析や
1H−NMR分析から求められる値であり、テトラカルボン酸二無水物の場合、加水分解の処理を行い、テトラカルボン酸として、その純度を求めることもできる。
【0050】
また、本発明で用いるテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、光透過率(複数種のテトラカルボン酸成分を用いる場合には、最も光透過率が優れるテトラカルボン酸成分の値、もしくは用いるすべてのテトラカルボン酸成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた光透過率の平均値、例えば、光透過率100%のテトラカルボン酸成分を70質量部、光透過率90%のテトラカルボン酸成分を30質量部使用したとき、使用されるテトラカルボン酸成分の光透過率は、97%と計算される。)が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることが好ましい。但し、ここでの光透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率である。テトラカルボン酸成分の光透過率が70%以上の場合、得られるポリイミドの着色が低減されるため、良好である。
【0051】
本発明のポリイミド前駆体(A)において用いるジアミン成分は、化学構造中に少なくとも一つのアミド結合と芳香族環とを有するジアミン成分である。
【0052】
本発明のポリイミド前駆体(A)は、ジアミン成分によってアミド結合がその化学構造中に導入される。アミド結合が導入されたポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、アミド結合によって分子間相互作用が増大されるので、線膨張係数や耐溶剤性などが改良される。したがって、ジアミン成分は、化学構造中に一つ以上のアミド結合、好ましくは複数個のアミド結合を有することが好適である。なお、ジアミン成分中のアミド結合が多過ぎると、ポリイミド前駆体の溶解性が低下することがある。
【0053】
前記化学式(1)中のBで表されるジアミン成分に由来する2価の基としては、例えば、前記化学式(4−1)〜(4−3)の基が好ましい。
【0054】
前記化学式(4−1)〜(4−3)中のAr
1〜Ar
13は、それぞれ独立に、炭素数が6〜18の芳香族環を有する2価の基である。ここでの芳香族環とは、例えばベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、アントラセンなどの2価の芳香族化合物であり、その水素の一部が炭素数1〜3のアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、水酸基、カルボン酸基等で置換されていてもよい。2価の芳香族化合物としては、ベンゼン、ビフェニルがポリイミドの光透過性が優れるため、好ましい。また、特にその限りではないが、2価の芳香族化合物の結合位置(ポリイミド主鎖を形成する結合位置)は、ベンゼン、ビフェニレン、ターフェニルではパラ位、ナフタレン、アントラセンでは2,6位であることが、ポリイミドの線膨張係数を低く出来るため好ましい。
【0055】
前記化学式(4−1)〜(4−3)の化学構造を導入するジアミン成分としては、例えば4,4’−ジアミノベンズアニリド、3’−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’,6’−ジクロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3’−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’,6’−ジメチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3−ブロモ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、3−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−クロロ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−ブロモ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、2−メチル−4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,3’−ジアミノベンズアニリド、4’−フルオロ−4,3’−ジアミノベンズアニリド、4’−クロロ−4,3’−ジアミノベンズアニリド、4’−ブロモ−4,3’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノベンズアニリド、4−クロロ−3,4’−ジアミノベンズアニリド、4−メチル−3,4’−ジアミノベンズアニリド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド(4−APTP)、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,5−ジクロロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,5−ジメチルテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラフルオロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラフルオロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラクロロテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,3,5,6−テトラブロモテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−4−ブロモイソフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−5−tert−ブチルイソフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)、N,N’−m−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)等や、これらの誘導体が挙げられる。これらのうち、ポリイミドの線膨張係数を低く出来るため、4,4’−ジアミノベンズアニリド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)が好ましく、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)がより好ましい。
【0056】
ジアミン成分は、前記のようなジアミン成分を、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0057】
また、一般的にポリイミドで使用される他のジアミン成分を、本発明のポリイミドの特性が発現できる範囲内で少量(好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは10モル%未満)併用することもできる。
【0058】
本発明で使用することができる他のジアミン成分としては、例えば、オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、p−メチレンビス(フェニレンジアミン)、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノフェニル)スルホン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、シクロヘキサンジアミン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス(アミノヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[(アミノフェノキシ)ジフェニル]スルホン等が挙げられる。併用する他のジアミン成分として、特に、p−フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、またはトランス−シクロヘキサンジアミンが、ポリイミドの線膨張係数を低く出来るため、好ましい。
【0059】
本発明で用いるジアミン成分は、特に限定されないが、純度(複数種のジアミン成分を用いる場合には、最も純度の高いジアミン成分の値、もしくは用いるすべてのジアミン成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた純度の平均値、例えば、純度100%のジアミン成分を70質量部、純度90%のジアミン成分を30質量部使用したとき、使用されるジアミン成分の純度は、97%と計算される。)が99%以上、更に好ましくは99.5%以上であることが好ましい。純度が98%未満の場合、ポリイミド前駆体の分子量が十分にあがらず、得られるポリイミドの耐熱性が劣ることがある。純度は、ガスクロマトグラフィー分析や液体クロマトグラフィー分析から求められる値である。
【0060】
また、本発明で用いるジアミン成分は、特に限定されないが、光透過率(複数種のジアミン成分を用いる場合には、最も光透過率が優れるジアミン成分の値、もしくは用いるすべてのジアミン成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた光透過率の平均値、例えば、光透過率100%のジアミン成分を70質量部、光透過率90%のジアミン成分を30質量部使用したとき、使用されるジアミン成分の光透過率は、97%と計算される。)が30%以上であることが好ましい。但し、ここでの光透過率は、メタノール、水、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸もしくはこれらの塩酸溶液に8質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率である。ジアミン成分の光透過率が30%以上の場合、得られるポリイミドの着色が低減されるため、良好である。
【0061】
次に、本発明のポリイミド前駆体(B)のテトラカルボン酸成分およびジアミン成分について説明する。
【0062】
本発明のポリイミド前駆体(B)において用いるテトラカルボン酸成分は、脂肪族テトラカルボン酸成分であれば特に限定されないが、化学構造中に少なくとも一つの脂肪族6員環を有し芳香族環を有さない脂環式テトラカルボン酸成分であることが好ましく、テトラカルボン酸成分中の6員環は複数であってよく、複数の6員環が二つ以上の共通の炭素原子によって構成されていても構わない。また、6員環は環を構成する(6員環の内部の)炭素原子同士が化学結合によって更に環を形成した架橋環型であっても構わない。
【0063】
テトラカルボン酸成分は、非対称性ではなく、対称性が高い6員環構造を有するものが、高分子鎖の密なパッキングが可能となり、ポリイミドの耐溶剤性、耐熱性、機械強度に優れるため好ましい。さらに、テトラカルボン酸成分は、複数の6員環が二つ以上の共通の炭素原子によって構成された多脂環型、及び6員環が環を構成する炭素原子同士が化学結合によって更に環を形成した架橋環型であることが、ポリイミドの良好な耐熱性、耐溶剤性、低線膨張係数を達成し易いのでより好ましい。
【0064】
前記化学式(1)中のAで表されるテトラカルボン酸成分に由来する4価の基としては、例えば、前記化学式(3−1)〜(3−4)の基が好ましく、前記化学式(3−3)又は(3−4)の基がより好ましく、前記化学式(3−4)の基が特に好ましい。前記化学式(3−1)及び(3−2)の基に比べ、前記化学式(3−3)及び(3−4)の基は、架橋環型であるため、ポリイミドの耐熱性に優れ且つ線膨張係数が小さいため、より好ましい。さらに前記化学式(3−4)の基は、多脂環・架橋環型であるため、よりポリイミドの耐熱性に優れることから、特に好ましい。
【0065】
前記化学式(3−1)又は(3−2)の化学構造を導入するテトラカルボン酸成分としては、ポリイミド前駆体(A)で挙げたものと同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0066】
前記化学式(3−3)又は(3−4)の化学構造を導入する架橋環型又は多脂環・架橋環型のテトラカルボン酸成分としては、ポリイミド前駆体(A)で挙げたものと同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0067】
テトラカルボン酸成分は、前記のようなテトラカルボン酸成分を、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
また、一般的にポリイミドで使用される他の芳香族または脂肪族テトラカルボン酸成分を、本発明のポリイミドの特性が発現できる範囲内で少量(好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは10モル%未満)併用することもできる。
【0069】
本発明で用いるテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、純度(複数の立体異性体を含む場合は、それらを区別せず同一成分と見なした場合の純度であり、複数種のテトラカルボン酸成分を用いる場合には、最も純度の高いテトラカルボン酸成分の値、もしくは用いるすべてのテトラカルボン酸成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた純度の平均値、例えば、純度100%のテトラカルボン酸成分を70質量部、純度90%のテトラカルボン酸成分を30質量部使用したとき、使用されるテトラカルボン酸成分の純度は、97%と計算される。)が99%以上、好ましくは99.5%以上であることが好ましい。純度が98%未満の場合、ポリイミド前駆体の分子量が十分にあがらず、得られるポリイミドの耐熱性が劣ることがある。純度は、ガスクロマトグラフィー分析や
1H−NMR分析から求められる値であり、テトラカルボン酸二無水物の場合、加水分解の処理を行い、テトラカルボン酸として、その純度を求めることもできる。
【0070】
また、本発明で用いるテトラカルボン酸成分は、特に限定されないが、光透過率(複数種のテトラカルボン酸成分を用いる場合には、最も光透過率が優れるテトラカルボン酸成分の値、もしくは用いるすべてのテトラカルボン酸成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた光透過率の平均値、例えば、光透過率100%のテトラカルボン酸成分を70質量部、光透過率90%のテトラカルボン酸成分を30質量部使用したとき、使用されるテトラカルボン酸成分の光透過率は、97%と計算される。)が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることが好ましい。但し、ここでの光透過率は、2規定水酸化ナトリウム溶液に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率である。テトラカルボン酸成分の光透過率が70%以上の場合、得られるポリイミドの着色が低減されるため、良好である。
【0071】
本発明のポリイミド前駆体(B)において用いるジアミン成分は、化学構造中に少なくとも一つの前記化学式(2)の化学構造を有するジアミン成分である。
【0072】
本発明のポリイミド前駆体(B)は、ジアミン成分によって前記化学式(2)の化学構造がその構造中に導入される。前記化学式(2)の化学構造が導入されたポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、導入された前記化学式(2)の化学構造によって分子間相互作用が増大されるので、線膨張係数や耐溶剤性などが改良されると考えられる。さらに、前記化学式(2)の化学構造は2つの窒素原子を有することから、得られるポリイミド中に効率よく窒素原子を導入することが可能となるため、難燃性(その指標としての酸素指数)や接着性などが改良されると考えられる。したがって、ジアミン成分は、化学構造中に一つ以上の前記化学式(2)の化学構造、好ましくは複数個の前記化学式(2)の化学構造を有することが好ましい。
【0073】
前記化学式(1)中のBで表されるジアミン成分に由来する2価の基としては、例えば、前記化学式(4−4)の基が好ましい。即ち、ジアミン成分としては、下記化学式(4−5)で表されるジアミンを好適に用いることができる。
【0074】
【化12】
(式中、Ar
14及びAr
15は、それぞれ独立に、炭素数6〜18の2価の芳香族基であり、R5は、水素原子または一価の有機基である。)
【0075】
前記の化学式(4−5)のジアミンとしては、例えば2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジエチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジフェニルアミノ−1,3,5−トリアジン等や、これらの誘導体が挙げられる。これらのうち、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジンが好ましく、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジンがより好ましい。
【0076】
ジアミン成分は、前記のようなジアミン成分を、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0077】
また、一般的にポリイミドで使用される他のジアミン成分を、本発明のポリイミドの特性が発現できる範囲内で少量(好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは10モル%未満)併用することもできる。
【0078】
本発明で用いるジアミン成分は、特に限定されないが、純度(複数種のジアミン成分を用いる場合には、最も純度の高いジアミン成分の値、もしくは用いるすべてのジアミン成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた純度の平均値、例えば、純度100%のジアミン成分を70質量部、純度90%のジアミン成分を30質量部使用したとき、使用されるジアミン成分の純度は、97%と計算される。)が99%以上、更に好ましくは99.5%以上であることが好ましい。純度が98%未満の場合、ポリイミド前駆体の分子量が十分にあがらず、得られるポリイミドの耐熱性が劣ることがある。純度は、ガスクロマトグラフィー分析から求められる値である。
【0079】
また、本発明で用いるジアミン成分は、特に限定されないが、光透過率(複数種のジアミン成分を用いる場合には、最も光透過率が優れるジアミン成分の値、もしくは用いるすべてのジアミン成分の純度を個別に求め、用いる質量比で重みをつけた光透過率の平均値、例えば、光透過率100%のジアミン成分を70質量部、光透過率90%のジアミン成分を30質量部使用したとき、使用されるジアミン成分の光透過率は、97%と計算される。)が30%以上であることが好ましい。但し、ここでの光透過率は、メタノール、水、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸もしくはこれらの塩酸溶液に8質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの透過率である。ジアミン成分の光透過率が30%以上の場合、得られるポリイミドの着色が低減されるため、良好である。
【0080】
本発明のポリイミド前駆体において、前記化学式(1)のX
1、X
2は、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数3〜9のアルキルシリル基のいずれかである。X
1、X
2は、後述する製造方法によって、その官能基の種類、及び、官能基の導入率を変化させることができる。
【0081】
X
1、X
2が水素である場合、ポリイミドの製造が容易である傾向がある。
【0082】
また、X
1、X
2が炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である場合、ポリイミド前駆体の保存安定性に優れる傾向がある。この場合、X
1、X
2はメチル基もしくはエチル基であることがより好ましい。
【0083】
更に、X
1、X
2が炭素数3〜9のアルキルシリル基である場合、ポリイミド前駆体の溶解性が優れる傾向がある。また、X
1、X
2が炭素数3〜9のアルキルシリル基である場合(即ち、シリル化剤を用いた場合)、テトラカルボン酸成分とジアミン成分(即ち、化学式(1)のA、B)にもよるが、通常、線膨張係数が更に小さくなる傾向がある。この場合、X
1、X
2はトリメチルシリル基もしくはt−ブチルジメチルシリル基であることがより好ましい。
【0084】
官能基の導入率は、特に限定されないが、アルキル基もしくはアルキルシリル基を導入する場合、X
1、X
2はそれぞれ、25%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上をアルキル基もしくはアルキルシリル基にすることができる。
【0085】
本発明のポリイミド前駆体は、X
1及びX
2が取る化学構造によって、1)ポリアミド酸(X
1、X
2が水素)、2)ポリアミド酸エステル(X
1、X
2の少なくとも一部がアルキル基)、3)ポリアミド酸シリルエステル(X
1、X
2の少なくとも一部がアルキルシリル基)に分類することができる。そして、本発明のポリイミド前駆体は、この分類ごとに、以下の製造方法により容易に製造することができる。ただし、本発明のポリイミド前駆体の製造方法は、以下の製造方法に限定されるものではない。また、前記分類の構造を、ポリイミド前駆体の同一分子鎖中に複数導入することや、複数種の前記分類のポリイミド前駆体を混合して使用することもできる。
【0086】
1)ポリアミド酸
本発明のポリイミド前駆体は、溶媒中でテトラカルボン酸成分(好ましくはテトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを略等モル、好ましくはテトラカルボン酸成分に対するジアミン成分のモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]が好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05の割合で、例えば120℃以下の比較的低温度でイミド化を抑制しながら反応することによって、ポリイミド前駆体溶液組成物として好適に得ることができる。
【0087】
限定するものではないが、より具体的には、溶媒にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃、好ましくは5〜80℃の温度範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体溶液組成物が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。上記製造方法でのジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序は、ポリイミド前駆体の分子量が上がりやすいため、好ましい。また、上記製造方法のジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序を逆にすることも可能であり、析出物が低減することから、好ましい。
【0088】
また、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比がジアミン成分過剰である場合、必要に応じて、ジアミン成分の過剰モル数に略相当する量のカルボン酸誘導体を添加し、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比を略当量に近づけることができる。ここでのカルボン酸誘導体としては、実質的にポリイミド前駆体溶液の粘度を増加させない、つまり実質的に分子鎖延長に関与しないテトラカルボン酸、もしくは末端停止剤として機能するトリカルボン酸とその無水物、ジカルボン酸とその無水物などが好適である。
【0089】
2)ポリアミド酸エステル
テトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールと反応させ、ジエステルジカルボン酸を得た後、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させ、ジエステルジカルボン酸クロライドを得る。このジエステルジカルボン酸クロライドとジアミンを−20〜120℃、好ましくは−5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。また、ジエステルジカルボン酸とジアミンを、リン系縮合剤や、カルボジイミド縮合剤などを用いて脱水縮合することでも、簡便にポリイミド前駆体が得られる。
【0090】
この方法で得られるポリイミド前駆体は、安定なため、水やアルコールなどの溶剤を加えて再沈殿などの精製を行うこともできる。
【0091】
3)ポリアミド酸シリルエステル
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得る。必要に応じて、蒸留等により、シリル化されたジアミンの精製を行う。そして、脱水された溶媒中にシリル化されたジアミンを溶解させておき、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜120℃、好ましくは5〜80℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0092】
また、前記の1)ポリアミド酸の製造方法で得たポリアミド酸に、シリル化剤を添加し、0〜180℃、好ましくは5〜150℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。特に150℃以下で反応させる場合、イミド化反応を抑制でき、ポリイミド前駆体を安定して製造できるため、好ましい。
【0093】
ここで用いるシリル化剤は、炭素数3〜9のアルキルシリル化合物であれば、特に制限はなく、例えばハロゲン化トリアルキルシリルや、ハロゲンを含有しないシリル化剤を用いることができる。ハロゲン化トリアルキルシリルとしては、トリメチルシリルクロライド、トリエチルシリルクロライド、イソプロピルジメチルシリルクロライド、t−ブチルジメチルシリルクロライド、トリイソプロピルシリルクロライドなどが好ましく、特に好ましくは、トリメチルシリルクロライド及びt−ブチルジメチルシリルクロライドが、反応性が高く、安価であることから好ましい。塩素原子等のハロゲンを含まないシリル化剤としては、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。塩素等のハロゲンを含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたジアミンを精製する必要がないため、好適である。さらに、フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0094】
また、ジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0095】
前記製造方法は、いずれも溶媒中で好適に行なうことができるので、その結果として、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を容易に得ることができる。
【0096】
ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒は、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒や水が好ましく、特にN,N−ジメチルアセトアミドが好ましいが、原料モノマー成分と生成するポリイミド前駆体が溶解すれば、どんな種類の溶媒であっても問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、水などが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0097】
ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒、及び、後記のポリイミド前駆体溶液組成物に用いる溶媒(以降、これらを併せて「使用される溶媒」と記すことがある。)は、下記の純度に関する特性、即ち、(a)光透過率、(b)加熱還流処理後の光透過率、(c)ガスクロマトグラフィー分析による純度、(d)ガスクロマトグラフィー分析による不純物ピークの割合、(e)不揮発成分の量、及び(f)金属成分の含有率からなる特性の少なくとも1つに関して、下に規定される条件を満たすことが好ましく、通常、より多くの条件を満たすことがより好ましい。
【0098】
(a)使用される溶媒として、光路長1cm、波長400nmにおける光透過率が89%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは91%以上である溶媒
(b)使用される溶媒として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、波長400nmにおける光透過率が20%以上、より好ましくは40%以上、特に好ましくは80%以上である溶媒
(c)使用される溶媒として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上である溶媒
(d)使用される溶媒として、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、0.2%未満、より好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下である溶媒
(e)使用される溶媒の250℃での不揮発成分の量が0.1%以下、より好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.01%以下であること
(f)使用される溶媒の金属成分(例えば、Li,Na,Mg,Ca,Al,K,Ca,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mo,Cd)の含有率が、10ppm以下、より好ましくは1ppm以下、特に好ましくは500ppb以下、より特に好ましくは300ppb以下であること
【0099】
これらの特性における条件は、使用される溶媒の総和に基づくものである。即ち、使用される溶媒は、1種類に限らず、2種類以上であってもよい。使用される溶媒が2種類以上とは、特定の工程において混合溶媒が使用される場合と、例えば重合溶媒と添加剤の希釈溶媒が異なる場合のように工程により異なる溶媒を使用する場合のどちらも意味する。使用される溶媒が2種類以上のときは(以下、混合溶媒という)、混合溶媒全体に対して純度に関わる各特性の条件が適用され、複数の工程で溶媒が使用される場合には、最終的にワニス中に含まれることになる全ての溶媒を混合した混合溶媒に対して、純度に関わる各特性の条件が適用される。実際に溶媒を混合して、各特性を測定してもよいし、個別の溶媒について特性を求め、計算により混合物全体の特性を求めてもよい。例えば、純度100%の溶媒Aを70部、純度90%の溶媒Bを30部使用したとき、使用される溶媒の純度は、97%と計算される。
【0100】
本発明において、ポリイミド前駆体の対数粘度は、特に限定されないが、30℃での濃度0.5g/dLのN,N−ジメチルアセトアミド溶液における対数粘度が0.2dL/g以上、好ましくは0.5dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.2dL/g以上では、ポリイミド前駆体の分子量が高く、得られるポリイミドの機械強度や耐熱性に優れる。
【0101】
本発明のポリイミド前駆体は、特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホオキシド、水より選ばれる溶媒に10質量%の濃度に溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上である。波長400nmの光透過率が、30%以上の場合、得られるポリイミドの光透過性に優れる。
【0102】
本発明において、ポリイミド前駆体溶液組成物は、少なくとも本発明のポリイミド前駆体と溶媒とを含み、溶媒とテトラカルボン酸成分とジアミン成分との合計量に対して、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との合計量が5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上の割合であることが好適である。なお、通常は60質量%以下、好ましくは50質量%以下であることが好適である。この濃度は、ポリイミド前駆体に起因する固形分濃度にほぼ近似される濃度であるが、この濃度が低すぎると、例えばポリイミドフィルムを製造する際に得られるポリイミドフィルムの膜厚の制御が難しくなることがある。
【0103】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物に用いる溶媒としては、ポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく、特にその構造には限定されない。溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、水などが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。また、これらを複数種組み合わせて使用することもできる。
【0104】
本発明において、ポリイミド前駆体溶液組成物の粘度(回転粘度)は、特に限定されないが、E型回転粘度計を用い、温度25℃、せん断速度20sec
−1で測定した回転粘度が、0.01〜1000Pa・secが好ましく、0.1〜100Pa・secがより好ましい。また、必要に応じて、チキソ性を付与することもできる。上記範囲の粘度では、コーティングや製膜を行う際、ハンドリングしやすく、また、はじきが抑制され、レベリング性に優れるため、良好な被膜が得られる。
【0105】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー、染料、顔料、シランカップリング剤などのカップリング剤、プライマー、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤などを添加することができる。
【0106】
本発明のポリイミドは、前記化学式(5)で表される繰り返し単位を含んで構成されたことを特徴とする。この本発明のポリイミドは、前記のような本発明のポリイミド前駆体を閉環反応(イミド化反応)することで好適に製造することができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、または化学イミド化の方法を好適に適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミドフィルムと他の基材との積層体、コーティング膜、粉末、ビーズ、成型体、発泡体およびワニスなどを好適に挙げることができる。
【0107】
本発明のポリイミドは、特に限定されないが、厚さ10μmのフィルムでの全光透過率(波長380nm〜780nmの平均光透過率)は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上であり、優れた光透過性を有する。
【0108】
本発明のポリイミドは、特に限定されないが、膜厚10μmのフィルムにしたとき、波長400nmにおける光透過率が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上であり、優れた透明性を有する。
【0109】
さらに、本発明のポリイミドは、特に限定されないが、フィルムにしたときの50℃〜200℃における平均線膨張係数が、好ましくは50ppm/K以下、より好ましくは40ppm/K以下、特に好ましくは20ppm/K以下であり、極めて低い線膨張係数を有する。
【0110】
本発明のポリイミドは、通常、JIS K7201に準拠して求めたフィルムとしたときの酸素指数が22%(体積分率)以上、より好ましくは24%(体積分率)以上となり、その結果として優れた難燃性を有する。特に限定されないが、高い難燃性を有する本発明のポリイミドは、ポリイミド前駆体(B)から得られ、前記化学式(5)中のAは、脂肪族の4価の基であり、Bは、化学構造中に少なくとも一つの前記化学式(2)の化学構造を有する2価の基であることが好ましい。
【0111】
なお、本発明のポリイミドからなるフィルムは、用途にもよるが、フィルムの厚みとしては、好ましくは1μm〜250μm程度、さらに好ましくは1μm〜150μm程度である。
【0112】
本発明のポリイミドは、透明性、折り曲げ耐性、高耐熱性などの優れた特性を有し、さらに極めて低い線膨張係数や優れた耐溶剤性、あるいは、優れた耐溶剤性と難燃性を併せ有することから、ディスプレイ用透明基板、タッチパネル用透明基板、或いは太陽電池用基板の用途において、好適に用いることができる。
【0113】
以下では、本発明のポリイミド前駆体を用いた、ポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムの製造方法の一例について述べる。ただし、以下の方法に限定されるものではない。
【0114】
例えばセラミック(ガラス、シリコン、アルミナ)、金属(銅、アルミニウム、ステンレス)、耐熱プラスチックフィルム(ポリイミド)などの基材に、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を流延し、真空中、窒素等の不活性ガス中、或いは空気中で、熱風もしくは赤外線を用いて、20〜180℃、好ましくは20〜150℃の温度範囲で乾燥する。次いで、得られたポリイミド前駆体フィルムを基材上で、もしくはポリイミド前駆体フィルムを基材上から剥離し、そのフィルムの端部を固定した状態で、真空中、窒素等の不活性ガス中、或いは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、200〜500℃、より好ましくは250〜450℃程度の温度で加熱イミド化することでポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムを製造することができる。なお、得られるポリイミドフィルムが酸化劣化するのを防ぐため、加熱イミド化は、真空中、或いは不活性ガス中で行うことが望ましい。加熱イミド化の温度が高すぎなければ空気中で行なっても差し支えない。ここでのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルム/基材積層体の場合は、ポリイミドフィルム層)の厚さは、以後の工程の搬送性のため、好ましくは1〜250μm、より好ましくは1〜150μmである。
【0115】
また、ポリイミド前駆体のイミド化反応は、前記のような加熱処理による加熱イミド化に代えて、ポリイミド前駆体をピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬するなどの化学的処理によって行うことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめ、ポリイミド前駆体溶液組成物中に投入・攪拌し、それを基材上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリイミド前駆体を作製することもでき、これを更に前記のような加熱処理することで、ポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムを得ることができる。
【0116】
この様にして得られたポリイミドフィルム/基材積層体、もしくはポリイミドフィルムは、その片面もしくは両面に導電性層を形成することによって、フレキシブルな導電性基板を得ることができる。
【0117】
フレキシブルな導電性基板は、例えば次の方法によって得ることができる。すなわち、第一の方法としては、ポリイミドフィルム/基材積層体を基材からポリイミドフィルムを剥離せずに、そのポリイミドフィルム表面に、スパッタ蒸着、印刷などによって、導電性物質(金属もしくは金属酸化物、導電性有機物、導電性炭素など)の導電層を形成させ、導電性層/ポリイミドフィルム/基材の導電性積層体を製造する。その後必要に応じて、基材より電気導電層/ポリイミドフィルム積層体を剥離することによって、導電性層/ポリイミドフィルム積層体からなる透明でフレキシブルな導電性基板を得ることができる。
【0118】
第二の方法としては、ポリイミドフィルム/基材積層体の基材からポリイミドフィルムを剥離して、ポリイミドフィルムを得、そのポリイミドフィルム表面に、導電性物質(金属もしくは金属酸化物、導電性有機物、導電性炭素など)の導電層を、第一の方法と同様にして形成させ、導電性層/ポリイミドフィルム積層体からなる透明でフレキシブルな導電性基板を得ることができる。
【0119】
なお、第一、第二の方法において、必要に応じて、ポリイミドフィルムの表面に導電層を形成する前に、スパッタ蒸着やゲル−ゾル法などによって、水蒸気、酸素などのガスバリヤ層、光調整層などの無機層を形成しても構わない。
【0120】
また、導電層は、フォトリソグラフィ法や各種印刷法、インクジェット法などの方法によって、回路が好適に形成される。
【0121】
本発明の基板は、本発明のポリイミドによって構成されたポリイミドフィルムの表面に、必要に応じてガスバリヤ層や無機層を介し、導電層の回路を有するものである。この基板は、フレキシブルであり、透明性、折り曲げ性、耐熱性が優れ、さらに極めて低い線膨張係数や優れた耐溶剤性を併せ有するので微細な回路の形成が容易である。したがって、この基板は、ディスプレイ用、タッチパネル用、または太陽電池用の基板として好適に用いることができる。
【0122】
すなわち、この基板に、蒸着、各種印刷法、或いはインクジェット法などによって、さらにトランジスタ(無機トランジスタ、有機トランジスタ)が形成されてフレキシブル薄膜トランジスタが製造され、そして、表示デバイス用の液晶素子、EL素子、光電素子として好適に用いられる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0125】
<テトラカルボン酸成分、ジアミン成分の評価>
[光透過率]
テトラカルボン酸成分では、所定量のテトラカルボン酸成分を溶媒(2N水酸化ナトリウム水溶液)に溶解し、10質量%溶液を得た。ジアミン成分では、所定量のジアミン成分を溶媒(メタノール)に溶解し、8質量%溶液を得た。調製した溶液を用い、大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの標準セルを用いて、溶媒をブランクとし、テトラカルボン酸成分、ジアミン成分の波長400nmにおける光透過率を測定した。
【0126】
<溶媒の評価>
[GC分析:溶媒の純度]
島津製作所製GC−2010を用い、以下の条件で測定した。純度(GC)はピーク面積分率より求めた。
カラム: J&W社製DB−FFAP 0.53mmID×30m
カラム温度: 40℃(5分保持)+40℃〜250℃(10℃/分)+250℃(9分保持)
注入口温度: 240℃
検出器温度: 260℃
キャリアガス: ヘリウム 10ml/分
注入量: 1μL
【0127】
[不揮発分]
ガラス製容器に溶媒5gを秤量し、250℃の熱風循環オーブン中で30分加熱した。室温に冷却し、その残分を秤量した。その質量より、溶媒の不揮発分(質量%)を求めた。
【0128】
[光透過率、還流後の光透過率]
大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの石英標準セルを用いて、超純水をブランクとして、溶媒の波長400nmにおける光透過率を測定した。
【0129】
また、還流後の光透過率として、酸素濃度200ppm以下の窒素雰囲気下、3時間加熱還流した溶媒の波長400nmにおける光透過率を測定した。
【0130】
[金属分の定量]
パーキン・エルマー製ElanDRC II 誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)を用い、溶媒に含まれる金属成分を定量した。
【0131】
<ポリイミド前駆体溶液組成物の評価>
[固形分濃度]
アルミシャーレにポリイミド前駆体組成物1gを量り取り、200℃の熱風循環オーブン中で2時間加熱して固形分以外を除去し、その残分の質量より固形分濃度(質量%)を求めた。
【0132】
[回転粘度]
東機産業製TV−22 E型回転粘度計を用い、温度25℃、せん断速度20sec
−1でのポリイミド前駆体溶液の粘度を求めた。
【0133】
[対数粘度]
濃度0.5g/dLのポリイミド前駆体のN,N−ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定し、対数粘度を求めた。
【0134】
[光透過率]
10質量%のポリイミド前駆体溶液となる様に、ポリイミド前駆体をN,N−ジメチルアセトアミドで希釈した。調製した溶液を用い、大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの標準セルを用いて、N,N−ジメチルアセトアミドをブランクとし、10質量%のポリイミド前駆体溶液の波長400nmにおける光透過率を測定した。
【0135】
<ポリイミドフィルムの評価>
[400nm光透過率、全光透過率]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率と、全光透過率(380nm〜780nmにおける平均透過率)を測定した。
【0136】
[弾性率、破断伸度]
膜厚10μmのポリイミドフィルムをIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間長30mm、引張速度2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度を測定した。
【0137】
[線膨張係数(CTE)]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムを幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで300℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均線膨張係数を求めた。
【0138】
[折り曲げ耐性]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムを幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、温度25℃、湿度50%RHの条件下、曲率半径1mmで折り曲げた。その後の試験片を目視で確認し、異常がないものを○、クラックが生じたものを×で示した。
【0139】
[耐溶剤性]
膜厚約10μmのポリイミド膜を温度25℃の条件下、N,N−ジメチルアセトアミドに1時間浸漬した後、膜の状態を目視で確認した。異常がないものを○、しわや一部形状が変化したものを△、溶解したり、顕著に形状が変化したものを×で示した。
【0140】
[5%重量減少温度]
膜厚10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、エスアイアイ・ナノテクノロジー製 示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6300)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/minで25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、5%重量減少温度を求めた。
【0141】
[酸素指数]
膜厚約30μmのポリイミドフィルムを試験片とし、東洋精機製作所製 キャンドル燃焼試験機D型を用い、JIS K7201に準拠した方法(試験片形状:V型 140mm×52mm×約30μm)で求めた。
【0142】
以下の各例で使用した原材料の略称、純度等は、次のとおりである。
【0143】
[ジアミン成分]
DABAN: 4,4’−ジアミノベンズアニリド〔純度:99.90%(GC分析)〕
4−APTP: N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド〔純度:99.95%(GC分析)〕
ODA: 4,4’−オキシジアニリン〔純度:99.9%(GC分析)〕
PPD: p−フェニレンジアミン〔純度:99.9%(GC分析)〕
TFMB: 2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン〔純度:99.83%(GC分析)〕
BABA: N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)〔純度:99%(LC分析)〕
AZDA: 2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジン〔純度:99.9%(GC分析)〕
[テトラカルボン酸成分]
PMDA−HS: 1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物〔PMDA−HSとしての純度:92.7%(GC分析),水素化ピロメリット酸二無水物(立体異性体の混合物)としての純度:99.9%(GC分析)〕
BPDA−H: 3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物(立体異性体の混合物)〔純度:99.9%(GC分析)〕
cis/cis−BTA−H: 1rC7−ビシクロ[2.2.2]オクタン−2c,3c,5c,6c−テトラカルボン酸−2,3:5,6−二無水物〔cis/cis−BTA−Hとしての純度:99.9%(GC分析)〕
DNDAxx:(4arH,8acH)−デカヒドロ−1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2t,3t,6c,7c−テトラカルボン酸二無水物〔DNDAxxとしての純度:99.2%(GC分析)〕
DNDAdx:(4arH,8acH)−デカヒドロ−1t,4t:5c,8c−ジメタノナフタレン−2c,3c,6c,7c−テトラカルボン酸二無水物〔DNDAdxとしての純度:99.7%(GC分析)〕
[ジアミン、酸二無水物溶液の透過率]
【0144】
【表2】
【0145】
[シリル化剤]
BSA: N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド
[溶媒]
DMAc: N,N−ジメチルアセトアミド
[溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド)の純度]
GC分析:
主成分の保持時間(min) 14.28
主成分の面積% 99.9929
短保持時間不純物のピーク面積% 0.0000
長保持時間不純物のピーク面積% 0.0071
不揮発分(質量%) <0.001
光透過率:
400nm光透過率(%) 92
還流後の400nm光透過率(%) 92
金属分:
Na(ppb) 150
Fe(ppb) <2
Cu(ppb) <2
Mo(ppb) <1
【0146】
表3に実施例、比較例で使用したテトラカルボン酸成分、ジアミン成分の構造式を記す。
【0147】
【表3】
【0148】
〔実施例1〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.27g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が15質量%となる量の25.55gを加え、50℃で2時間攪拌した。この溶液にPMDA−HS 2.23g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0149】
このポリイミド前駆体溶液の特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0150】
PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)、そのままガラス基板上で120℃で1時間、150℃で30分間、200℃で30分間、350℃まで昇温して5分間、加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。
【0151】
このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0152】
〔実施例2〜5〕
ジアミン成分、カルボン酸成分を表4−1に記載した化学組成とし、溶媒のN,N−ジメチルアセトアミドは、それぞれ仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が、15質量%となる量を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムを得た。
【0153】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0154】
〔実施例6〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.27g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の21.16gを加え、50℃で2時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 2.11g(7ミリモル)とDNDAdx 0.91g(3ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0155】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0156】
〔実施例7〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.27g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の21.16gを加え、50℃で2時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0157】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0158】
〔実施例8〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.27g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の18.06gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にBSA 4.07g(20ミリモル)を加え、室温で3時間攪拌した。次いで、この溶液にPMDA−HS 2.24g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0159】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0160】
〔実施例9〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.05g(9ミリモル)とPPD 0.11g(1ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の17.45gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にPMDA−HS 2.24g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0161】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0162】
〔実施例10〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.05g(9ミリモル)とTFMB 0.32g(1ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の18.04gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にPMDA−HS 2.24g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0163】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−1に示す。
【0164】
〔実施例11〕
窒素ガスで置換した反応容器中に4−APTP 3.46g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の25.29gを加え、50℃で2時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0165】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0166】
〔実施例12〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.27g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の21.16gを加え、50℃で2時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。その溶液にBSA 4.07g(20ミリモル)を加え、12時間攪拌した。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0167】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0168】
〔実施例13〕
窒素ガスで置換した反応容器中に4−APTP 3.46g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が15質量%となる量の36.72gを加え、50℃で2時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。その溶液にBSA 2.03g(10ミリモル)を加え、12時間攪拌した。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0169】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0170】
〔実施例14〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 1.59g(7ミリモル)とPPD 0.32g(3ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の19.85gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0171】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0172】
〔実施例15〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 1.59g(7ミリモル)とTFMB 0.96g(3ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の22.59gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0173】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0174】
〔実施例16〕
窒素ガスで置換した反応容器中に4−APTP 2.42g(7ミリモル)とPPD 0.32g(3ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の21.79gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0175】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0176】
〔実施例17〕
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 1.59g(7ミリモル)とPPD 0.32g(3ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の19.75gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。その溶液にBSA 4.07g(20ミリモル)を加え、12時間攪拌した。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0177】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0178】
〔実施例18〕
窒素ガスで置換した反応容器中にBABA 3.46g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の25.94gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。そして、実施例1と同様にしてフィルム化を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0179】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0180】
〔比較例1〜4〕
ジアミン成分、カルボン酸成分を表4−2に記載した化学組成とし、溶媒のN,N−ジメチルアセトアミドは、それぞれ仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が、比較例1,2では15質量%となる量、比較例3,4では20質量%となる量を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムを得た。
【0181】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表4−2に示す。
【0182】
【表4-1】
【0183】
【表4-2】
【0184】
表4に示した結果から、比較例1〜4に比べ、本発明のアミド結合を有するジアミンを用いた実施例1〜18では線膨張係数が小さくなり、また耐溶剤性に優れることが分かる。
【0185】
また、6員環構造を2つ有するテトラカルボン酸成分を用いた場合(実施例3)や、6員環の炭素原子が化学結合によって更に環を形成した架橋環型テトラカルボン酸成分を用いた場合(実施例4,5)には、6員環構造を1つ有するテトラカルボン酸成分を用いた場合(実施例1,2)に比べ、さらに5%重量減少温度が高く、より耐熱性に優れることが分かる。
【0186】
さらに、DNDAxxやDNDAdxの様な多脂環・架橋環型のテトラカルボン酸成分を用いた場合(実施例6,7)には、6員環構造を2つ有するテトラカルボン酸成分を用いた場合(実施例3)や、6員環の炭素原子が化学結合によって更に環を形成した架橋環型テトラカルボン酸成分を用いた場合(実施例4,5)に比べ、さらに5%重量減少温度が高く、より耐熱性に優れることが分かる。
【0187】
シリル化剤を用いた場合、破断伸度が増加したり、線膨張係数が小さくなることが分かる(実施例8,12,13,17)
【0188】
前記のとおり、本発明のポリイミド前駆体から得られたポリイミドは、優れた光透過性、折り曲げ耐性を有すると共に、低線膨張係数、耐溶剤性を有しており、本発明のポリイミドフィルムは、ディスプレイ用途などの無色透明で微細な回路形成可能な透明基板として好適に用いることができる。
【0189】
〔実施例19〕
窒素ガスで置換した反応容器中にAZDA 3.84g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が15質量%となる量の34.49gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0190】
この溶液にPMDA−HS 2.24g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0191】
このポリイミド前駆体溶液の特性を測定した結果を表5に示す。
【0192】
PTFE製メンブレンフィルターでろ過したポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)そのままガラス基板上で120℃で1時間、150℃で30分間、200℃で30分間、350℃まで昇温して5分間、加熱して熱的にイミド化を行い、無色透明なポリイミドフィルム/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmのポリイミドフィルムを得た。
【0193】
このポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表5に示す。
【0194】
〔実施例20〕
窒素ガスで置換した反応容器中にAZDA 3.84g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の27.44gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0195】
この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表5に示す。
【0196】
〔実施例21〕
窒素ガスで置換した反応容器中にAZDA 3.84g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の27.44gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0197】
この溶液にDNDAdx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0198】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表5に示す。
【0199】
〔比較例5〕
窒素ガスで置換した反応容器中にODA 2.00g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の16.98gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0200】
この溶液にPMDA−HS 2.24g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0201】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表5に示す。
【0202】
〔比較例6〕
窒素ガスで置換した反応容器中にODA 2.00g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の20.08gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0203】
この溶液にDNDAxx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0204】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表5に示す。
【0205】
〔比較例7〕
窒素ガスで置換した反応容器中にODA 2.00g(10ミリモル)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込みモノマー(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が20質量%となる量の20.08gを加え、50℃で2時間攪拌した。
【0206】
この溶液にDNDAdx 3.02g(10ミリモル)を徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0207】
このポリイミド前駆体溶液、ポリイミドフィルムの特性を測定した結果を表5に示す。
【0208】
【表5】
【0209】
表5に示した結果から、比較例5〜7に比べ、前記化学式(2)の化学構造を有するジアミンを用いた本発明の実施例19〜21は、線膨張係数が小さくなり、また耐溶剤性、耐熱性、難燃性(高い酸素指数)に優れることが分かる。
【0210】
また、テトラカルボン酸成分に多脂環・架橋環型を用いることで、400nm光透過率が向上していることが分かる。(実施例20,21)
【0211】
すなわち、本発明のポリイミド前駆体から得られたポリイミドは、優れた光透過性、折り曲げ耐性を有すると共に、低線膨張係数、耐溶剤性、難燃性を有しており、ディスプレイ用途などの無色透明で微細な回路形成可能な透明基板として好適に用いることができる。