(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920471
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】三次元繊維強化複合材及び三次元繊維強化複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 39/10 20060101AFI20160428BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20160428BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20160428BHJP
D03D 25/00 20060101ALI20160428BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20160428BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20160428BHJP
【FI】
B29C39/10
B29C67/14 X
B29B11/16
D03D25/00
D03D1/00 A
B29K105:08
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-531631(P2014-531631)
(86)(22)【出願日】2013年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2013072158
(87)【国際公開番号】WO2014030632
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2015年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-182548(P2012-182548)
(32)【優先日】2012年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安江 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 良平
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
(72)【発明者】
【氏名】都築 誠
【審査官】
井上 由美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−073918(JP,A)
【文献】
特開2007−291582(JP,A)
【文献】
特開2007−269034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10
C08J 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
B29C 70/00−70/68
D03D 1/00
D04H 3/04
B32B 1/00−43/00
B29C 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に積層された複数の繊維束層を含む積層体であって、前記繊維束層は第1及び第2の最外層を含む前記積層体と、
前記積層体に含浸されたマトリックス樹脂と、
前記第1の最外層の表面に沿って延びる抜け止め糸と、
前記繊維束層を積層方向に結合する結合糸と、を備え、
前記結合糸は、
前記抜け止め糸の積層方向の外側を通り折り返される折り返し部と、
前記折り返し部に連続し、各繊維束層の面に直交する方向に延びる第1横断糸部及び第2横断糸部と、
前記第2の最外層の表面で、該第2の最外層の面に沿って前記抜け止め糸と略直交する方向へ延びる表層糸部と、を有し、
前記表層糸部は、前記第2の最外層の表面で前記第1横断糸部及び第2横断糸部から相反する方向へ延びる二股部を有し、
前記二股部と、該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間、
前記第1及び第2横断糸部の各々とそれに隣り合う繊維束との間の空間、
及び前記第1横断糸部と前記第2横断糸部との間の空間に、
それぞれ添加剤と前記マトリックス樹脂とが配置されており、
前記添加剤は、バインダと混合されて前記積層体に付着され、
前記添加剤と前記バインダとを合わせた体積は、前記二股部と該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間の10〜50%である三次元繊維強化複合材。
【請求項2】
積層方向に積層された複数の繊維束層を含む積層体であって、前記繊維束層は第1及び第2の最外層を含む前記積層体と、
前記積層体に含浸されたマトリックス樹脂と、
前記第1の最外層の表面に沿って延びる抜け止め糸と、
前記繊維束層を積層方向に結合する結合糸と、を備え、
前記結合糸は、
前記抜け止め糸の積層方向の外側を通り折り返される折り返し部と、
前記折り返し部に連続し、各繊維束層の面に直交する方向に延びる第1横断糸部及び第2横断糸部と、
前記第2の最外層の表面で、該第2の最外層の面に沿って前記抜け止め糸と略直交する方向へ延びる表層糸部と、を有し、
前記表層糸部は、前記第2の最外層の表面で前記第1横断糸部及び第2横断糸部から相反する方向へ延びる二股部を有し、
前記二股部と、該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間、
前記第1及び第2横断糸部の各々とそれに隣り合う繊維束との間の空間、
及び前記第1横断糸部と前記第2横断糸部との間の空間に、
それぞれ添加剤と前記マトリックス樹脂とが配置されており、
前記繊維束層、前記抜け止め糸及び前記結合糸は炭素繊維で形成され、
前記添加剤は、カーボンブラック又はカーボンナノチューブである三次元繊維強化複合材。
【請求項3】
前記バインダは、熱可塑性樹脂である請求項1又は請求項2に記載の三次元繊維強化複合材。
【請求項4】
三次元繊維強化複合材の製造方法であって、
積層方向に積層された複数の繊維束層を含む積層体を準備することであって、前記繊維束層が第1及び第2の最外層を含むことと、
前記第1の最外層の表面に沿って延びる抜け止め糸を準備することと、
結合糸によって前記繊維束層を積層方向に結合することであって、前記結合糸は、前記抜け止め糸の積層方向の外側を通り折り返される折り返し部と、前記折り返し部に連続し、各繊維束層の面に直交する方向に延びる第1横断糸部及び第2横断糸部と、前記第2の最外層の表面で、該第2の最外層の面に沿って前記抜け止め糸と直交する方向へ延びる表層糸部と、を有し、前記表層糸部は、前記第2の最外層の表面で前記第1横断糸部及び第2横断糸部から相反する方向へ延びる二股部を有することと、
前記第2の最外層の表面の外側から前記二股部に添加剤を供給しつつ前記第1の最外層の表面の外側から前記添加剤を吸引することにより、前記二股部と該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間、前記第1横断糸部及び前記第2横断糸部の各々とそれら横断糸部に隣り合う繊維束との間の空間、及び前記第1横断糸部と前記第2横断糸部との間の空間に、前記添加剤を配置することと、
前記添加剤を含んだ前記積層体にマトリックス樹脂を含浸することと、を含む三次元繊維強化複合材の製造方法。
【請求項5】
前記添加剤は、バインダと混合されて前記積層体に供給され、
前記添加剤と前記バインダとを合わせた体積は、前記二股部と該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間の10〜50%である請求項4に記載の三次元繊維強化複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結合糸によって繊維束層を積層方向に結合して形成された積層体にマトリックス樹脂を含浸させて形成される三次元繊維強化複合材、及び該三次元繊維強化複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量かつ高強度の材料として三次元繊維強化複合材が使用されている。三次元繊維強化複合材は、マトリックス樹脂中に、複数の繊維束層を結合糸で結合して形成された積層体を有する。このため、三次元繊維強化複合材は、マトリックス樹脂のみを含む素材に比べて力学的特性(機械的特性)に優れるため、構造部品として好ましい。また、三次元繊維強化複合材は、二次元繊維強化複合材と比較して、結合糸によって積層方向における強度が向上している。
【0003】
この種の三次元繊維強化複合材としては、例えば、特許文献1に開示されたものが挙げられる。
図5に示すように、特許文献1の三次元繊維強化複合材80は平板状の3次元織布86を有し、この3次元織布86は、複数のたて糸81と複数のよこ糸82とからなる面内方向糸83と、面内方向糸83の基準面に対して直交する複数の面外方向糸84と、面外方向糸84を固定する耳糸85とから形成される。この3次元織布86に樹脂が含浸され、樹脂が硬化されて三次元繊維強化複合材80が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−152672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、三次元繊維強化複合材80において、3次元織布86の製織時に面外方向糸84を3次元織布86に挿入する際に、3次元織布86に加わる張力によって、面外方向糸84と、その面外方向糸84に隣り合う面内方向糸83との間や、面外方向糸84において相反する方向に延びる部位の間には隙間が形成されてしまう。そして、3次元織布86に樹脂が含浸されると、これら隙間に樹脂が残存して樹脂溜まり87が形成されてしまう。このような樹脂溜まり87においては、樹脂の硬化収縮等によって樹脂溜まり87内に内部応力が発生し、三次元繊維強化複合材80において面外方向糸84の周辺にクラックが生じる虞がある。
【0006】
本開示の目的は、樹脂溜まりでのクラックの発生を抑制することができる三次元繊維強化複合材、及び該三次元織物複合材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するための三次元繊維強化複合材は、積層方向に積層された複数の繊維束層を含む積層体であって、前記繊維束層は第1及び第2の最外層を含む前記積層体と、前記積層体に含浸されたマトリックス樹脂と、前記第1の最外層の表面に沿って延びる抜け止め糸と、前記繊維束層を積層方向に結合する結合糸と、を備え、前記結合糸は、前記抜け止め糸の積層方向の外側を通り折り返される折り返し部と、前記折り返し部に連続し、各繊維束層の面に直交する方向に延びる第1横断糸部及び第2横断糸部と、前記第2の最外層の表面で、該第2の最外層の面に沿って前記抜け止め糸と略直交する方向へ延びる表層糸部と、を有し、前記表層糸部は、前記第2の最外層の表面で前記第1横断糸部及び第2横断糸部から相反する方向へ延びる二股部を有し、前記二股部と、該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間、前記第1及び第2横断糸部の各々とそれに隣り合う繊維束との間の空間、及び前記第1横断糸部と前記第2横断糸部との間の空間に、それぞれ添加剤と前記マトリックス樹脂とが配置されて
おり、前記添加剤は、バインダと混合されて前記積層体に付着され、前記添加剤と前記バインダとを合わせた体積は、前記二股部と該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間の10〜50%である。
【0008】
本構成においては、各繊維束層内において、繊維束内に結合糸が通ったり、繊維束同士の間に結合糸が通ったりして、結合糸の周囲に隙間が形成される。また、二股部や、第1横断糸部と第2横断糸部との間にも隙間が形成される。そして、各隙間に、マトリックス樹脂と添加剤とが配置されている。樹脂溜まりとなる各隙間に添加剤が配置されていることにより、樹脂溜まりでのマトリックス樹脂の割合が下がっている。よって、マトリックス樹脂を硬化させる際の硬化収縮や、マトリックス樹脂と繊維との線膨張係数の差によって各樹脂溜まり内に内部応力が発生しても、その内部応力が添加剤によって緩和され、マトリックス樹脂に作用する応力が低減される。したがって、三次元繊維強化複合材において、結合糸の周囲にクラックが生じることが抑制される。
【0010】
また、添加剤の添加量を設定することで、添加剤が少なくなり過ぎないようにして添加剤による内部応力の緩和機能を発揮させつつ、添加剤が多くなりすぎてマトリックス樹脂量が低下することを防止して三次元繊維強化複合材の機械的強度の低下を防止することができる。
前記の目的を達成するための三次元繊維強化複合材は、積層方向に積層された複数の繊維束層を含む積層体であって、前記繊維束層は第1及び第2の最外層を含む前記積層体と、前記積層体に含浸されたマトリックス樹脂と、前記第1の最外層の表面に沿って延びる抜け止め糸と、前記繊維束層を積層方向に結合する結合糸と、を備え、前記結合糸は、前記抜け止め糸の積層方向の外側を通り折り返される折り返し部と、前記折り返し部に連続し、各繊維束層の面に直交する方向に延びる第1横断糸部及び第2横断糸部と、前記第2の最外層の表面で、該第2の最外層の面に沿って前記抜け止め糸と略直交する方向へ延びる表層糸部と、を有し、前記表層糸部は、前記第2の最外層の表面で前記第1横断糸部及び第2横断糸部から相反する方向へ延びる二股部を有し、前記二股部と、該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間、前記第1及び第2横断糸部の各々とそれに隣り合う繊維束との間の空間、及び前記第1横断糸部と前記第2横断糸部との間の空間に、それぞれ添加剤と前記マトリックス樹脂とが配置されており、前記繊維束層、前記抜け止め糸及び前記結合糸は炭素繊維で形成され、前記添加剤は、カーボンブラック又はカーボンナノチューブである。
【0012】
これによれば、三次元繊維強化複合材を形成する繊維束層、抜け止め糸及び結合糸は炭素繊維で形成されるため、添加剤をカーボンブラック又はカーボンナノチューブとすることで、三次元繊維強化複合材のマトリックス樹脂以外の部分を全て炭素材料で形成することができる。よって、三次元繊維強化複合材の基材に炭素以外の材料が混在することによる強度低下がなくなる。
【0013】
前記の目的を達成するための三次元繊維強化複合材の製造方法は、積層方向に積層された複数の繊維束層を含む積層体を準備することであって、前記繊維束層が第1及び第2の最外層を含むことと、前記第1の最外層の表面に沿って延びる抜け止め糸を準備することと、結合糸によって前記繊維束層を積層方向に結合することであって、前記結合糸は、前記抜け止め糸の積層方向の外側を通り折り返される折り返し部と、前記折り返し部に連続し、各繊維束層の面に直交する方向に延びる第1横断糸部及び第2横断糸部と、前記第2の最外層の表面で、該第2の最外層の面に沿って前記抜け止め糸と直交する方向へ延びる表層糸部と、を有し、前記表層糸部は、前記第2の最外層の表面で前記第1横断糸部及び第2横断糸部から相反する方向へ延びる二股部を有することと、前記第2の最外層の表面の外側から前記二股部に添加剤を供給しつつ前記第1の最外層の表面の外側から前記添加剤を吸引することにより、前記二股部と該二股部に隣り合う前記第2の最外層の繊維束とで囲まれる空間、前記第1横断糸部及び前記第2横断糸部の各々とそれら横断糸部に隣り合う繊維束との間の空間、及び前記第1横断糸部と前記第2横断糸部との間の空間に、前記添加剤を配置することと、前記添加剤を含んだ前記積層体にマトリックス樹脂を含浸することと、を含む。
【0014】
これによれば、添加剤を吸引することで、二股部に添加された添加剤を、二股部から結合糸に沿って各隙間に選択的に添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の第1〜第4の強化繊維束層を示す分解斜視図。
【
図2】実施形態の三次元繊維強化複合材を示す斜視図。
【
図4A】添加剤を添加しつつ、吸引する工程を示す断面図。
【
図4C】マトリックス樹脂の含浸硬化工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、三次元繊維強化複合材の一実施形態を
図1〜
図4Cにしたがって説明する。
【0017】
図2及び
図3に示すように、三次元繊維強化複合材10は、積層体20及びマトリックス樹脂30を含む。積層体20は、シート状をなす複数の繊維束層、すなわち第1〜第4の強化繊維束層11〜14を積層するとともに、それら第1〜第4の強化繊維束層11〜14を結合糸21及び抜け止め糸22を用いて結合することにより形成される。マトリックス樹脂30は、積層体20に樹脂を含浸させることにより形成されている。
【0018】
図1に示すように、第1〜第4の強化繊維束層11〜14は、いずれも複数本の強化繊維を束ねてなる複数の第1〜第4の強化繊維束11a〜14aをそれぞれ含む。なお、「強化繊維束」とは、第1〜第4の強化繊維束層11〜14を、三次元繊維強化複合材10の繊維基材として使用した際に、三次元繊維強化複合材10のマトリックス樹脂30を強化する役割を担う繊維束を意味する。本実施形態では、強化繊維として炭素繊維が使用されている。以下の説明において、
図2に示すように、三次元繊維強化複合材10の面に沿う方向のうち、三次元繊維強化複合材10の一辺に沿う方向をX方向とし、このX方向に直交する方向をY方向とする。さらに、三次元繊維強化複合材10において、X方向及びY方向に直交し、第1〜第4の強化繊維束層11〜14が積層された方向を積層方向とする。
【0019】
図1に示すように、第1の強化繊維束層11は、互いに平行に並べられるとともに真っ直ぐに延びる第1の強化繊維束11aにより形成されている。第1の強化繊維束11aは、扁平状の断面を有する。第1の強化繊維束11aは、三次元繊維強化複合材10のX方向に対し90度の角度をなして延びる。複数の第1の強化繊維束11a同士は、それら第1の強化繊維束11aの配列方向に延びる補助糸11bによって連結されている。
【0020】
第2の強化繊維束層12は、互いに平行に並べられるとともに真っ直ぐに延びる第2の強化繊維束12aにより形成されている。第2の強化繊維束12aは扁平状の断面を有する。第2の強化繊維束12aは、三次元繊維強化複合材10のX方向に延びる。複数の第2の強化繊維束12a同士は、それら第2の強化繊維束12aの配列方向に延びる補助糸12bによって連結されている。
【0021】
第3の強化繊維束層13は、互いに平行に並べられるとともに真っ直ぐに延びる第3の強化繊維束13aにより形成されている。第3の強化繊維束13aは扁平状の断面を有する。第3の強化繊維束13aは、三次元繊維強化複合材10のX方向に対し+45度の角度をなして延びる。複数の第3の強化繊維束13a同士は、それら第3の強化繊維束13aの配列方向に延びる補助糸13bによって連結されている。
【0022】
第4の強化繊維束層14は、互いに平行に並べられるとともに真っ直ぐに延びる第4の強化繊維束14aにより形成されている。第4の強化繊維束14aは扁平状の断面を有する。第4の強化繊維束14aは、三次元繊維強化複合材10のX方向に対し−45度の角度をなして延びる。複数の第4の強化繊維束14a同士は、それら第4の強化繊維束14aの配列方向に延びる補助糸14bによって連結されている。
【0023】
図2及び
図3に示すように、積層体20は、積層された第1〜第4の強化繊維束層11〜14が複数の結合糸21で積層方向に結合されて形成されている。積層体20の積層方向の最外層のうち、第1の最外層である第1の強化繊維束層11の表面上には、その表面に沿って複数の抜け止め糸22がY方向へ互いに平行に延び、かつX方向に間隔を空けて設けられている。
【0024】
結合糸21及び抜け止め糸22は、炭素繊維で形成されている。そして、複数の結合糸21それぞれは、積層体20の第2の最外層である第4の強化繊維束層14の表面から積層体20内に挿入され、積層体20を積層方向に貫通した後、第1の強化繊維束層11の表面で抜け止め糸22の外側を通って折り返されている。さらに、結合糸21は、第1の強化繊維束層11の表面から積層体20内に再び挿入され、積層体20を積層方向に貫通した後、第4の強化繊維束層14の表面に引き出されている。第4の強化繊維束層14の表面に引き出された結合糸21は、既に第4の強化繊維束層14に引き出されている結合糸21とは相反する方向に向けて第4の強化繊維束層14の表面に沿って延びた後、再度、積層体20内に挿入される。したがって、一本の結合糸21は、第1の強化繊維束層11の表面で繰り返し折り返され、第4の強化繊維束層14の表面では繰り返し挿入及び引出されている。よって、一本の結合糸21は、積層体20を複数箇所で結合している。
【0025】
図3の拡大図に示すように、結合糸21は、抜け止め糸22の積層方向の外側を通って円弧状に折り返される部位である折り返し部21aと、この折り返し部21aに連続し、かつ抜け止め糸22の両側から延びて積層体20内を互いに並行に延びる部位である第1横断糸部21b及び第2横断糸部21cとを含む。さらに、結合糸21は、第4の強化繊維束層14の表面に沿って抜け止め糸22と直交する方向へ延びる部位である表層糸部21dを含む。表層糸部21dは、第4の強化繊維束層14の表面において第1横断糸部21b及び第2横断糸部21cから相反する方向へ延びる部分である二股部21eを含む。
【0026】
複数の結合糸21は、積層体20内を通過する際、第1〜第4の強化繊維束11a〜14a束内を通過したり、隣り合う第1〜第4の強化繊維束11a〜14a同士の間を通過する。このため、積層体20内では、第1横断糸部21b及び第2横断糸部21cの各々と、それら横断糸部に隣り合う第1〜第4の強化繊維束11a〜14aとの間には空間、すなわち糸隙間Sが形成されている。この糸隙間Sは、積層体20の積層方向の全体に亘って形成されている。
【0027】
また、積層体20内において、抜け止め糸22の両側から延びる第1横断糸部21bと第2横断糸部21cとの間には空間、すなわち結合糸隙間Tが形成される。この結合糸隙間Tは、積層体20の積層方向の全体に亘って形成されている。さらに、各二股部21eを形成する表層糸部21dの部分と、それに隣り合う第4の強化繊維束層14の第4の強化繊維束14aとによって囲まれる部分には、空間、すなわち二股部隙間Rが形成されている。
【0028】
糸隙間S、結合糸隙間T、及び二股部隙間R内には、マトリックス樹脂30及び添加剤23が配置(充填)されている。すなわち、結合糸21の周囲に存在する隙間には、マトリックス樹脂30及び添加剤23が配置(充填)されている。添加剤23としては、各繊維束と同じ炭素系材料であり、かつ線膨張係数の小さいカーボンブラック又はカーボンナノチューブが使用されている。添加剤23は、バインダ(図示せず)と混合されて結合糸21及び各強化繊維束11a〜14aに付着されている。バインダとしては、熱により融解することにより添加剤23を結合糸21及び各強化繊維束11a〜14aに付着させることができる材料が使用される。具体的には、バインダとしては、固形状のエポキシ主剤、又は熱可塑性樹脂(AP、PP、PPS等)が使用可能である。
【0029】
添加剤23とバインダとを合わせた体積は、二股部隙間Rの体積の10〜50%となっている。添加剤23とバインダとを合わせた体積が二股部隙間Rの体積の10%より少ないと、添加剤23による応力緩和機能が低下し、二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tが樹脂溜まりとなったときに、クラックの発生を抑制しにくく好ましくない。一方、添加剤23とバインダとを合わせた体積が二股部隙間Rの体積の50%より多いと、二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tでのマトリックス樹脂30の占める割合が低下し、三次元繊維強化複合材10としての機械的強度が低下して好ましくない。なお、「添加剤23とバインダとを合わせた体積」とは、製造後の三次元繊維強化複合材10の各二股部隙間R内に存在する添加剤23とバインダとの体積を意味する。また、「二股部隙間Rの体積」は、積層体20に存在する各二股部隙間Rの体積を意味する。
【0030】
積層体20には、積層方向の一端から他端に亘って、二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tが存在するため、積層体20の積層方向全体に亘って添加剤23が存在している。
【0031】
次に、三次元繊維強化複合材10の製造方法について説明する。なお、第1〜第4の強化繊維束層11〜14を結合糸21及び抜け止め糸22を用いて結合してなる積層体20は予め製造されているものとする。
【0032】
図4Aに示すように、まず、積層体20を吸引装置40上に載置する。吸引装置40は、板状をなす載置部41を有するとともに、この載置部41は、載置部41を貫通する複数の吸引孔42を有する。また、吸引装置40は、配管44により各吸引孔42に接続されている真空ポンプ43を有する。そして、積層体20は、第1の強化繊維束層11が載置部41上に載置され、二股部21eが上方を向く状態に載置部41に載置される。
【0033】
また、吸引装置40の上方には、添加剤23を供給する添加装置50が配設されている。この添加装置50は、図示しない移動装置によって、載置部41上を、三次元方向に移動可能に構成されている。また、添加装置50には、バインダと混ぜ合わされた粒子状の添加剤23が充填されている。
【0034】
そして、載置部41上に積層体20が載置された状態において、真空ポンプ43によって配管44及び吸引孔42を介して積層体20に対して真空引きを実施する。つまり、積層体20内の隙間に存在する空気が、積層方向に沿って吸引される。積層体20内の隙間に負圧が形成された状態で、添加装置50から各二股部21eに添加剤23を供給する。すると、二股部21eに供給された添加剤23は、積層体20の積層方向に沿って第4の強化繊維束層14から第1の強化繊維束層11へ向かって引っ張られる。つまり、添加剤23は、二股部21eから第1及び第2横断糸部21b,21c、及び折り返し部21aに向けて吸引される。その結果、添加剤23は、二股部隙間R、結合糸隙間T、及び糸隙間S内に入り込み、それら隙間に面する結合糸21及び各強化繊維束11a〜14aに付着する。すなわち、積層体20の積層方向全体に亘って添加剤23が供給される。
【0035】
次に、
図4Bに示すように、添加剤23を、ヒーター52を用いて加熱する。ヒーター52は、積層体20の上方から積層体20全体を加熱する。すると、バインダが溶融し、バインダによって添加剤23が各隙間R,S、Tに面する抜け止め糸22及び各強化繊維束11a〜14aに付着される。
【0036】
次に、
図4Cに示すように、添加剤23を付着させた積層体20をレジントランスファーモールディング(RTM)法で用いられる成形金型53内に載置する。この成形金型53内に熱硬化性樹脂を注入して積層体20の各強化繊維束層11〜14、結合糸21、及び抜け止め糸22に含浸させるとともに、二股部隙間R、糸隙間S、結合糸隙間Tに充填させる。次に、熱硬化性樹脂を加熱して硬化させ、マトリックス樹脂30を形成する。すると、マトリックス樹脂30が各強化繊維束層11〜14、結合糸21、及び抜け止め糸22の周りで硬化し、三次元繊維強化複合材10が形成される。
【0037】
次に、三次元繊維強化複合材10の作用について記載する。
【0038】
積層体20の製造時、積層体20の積層方向に結合糸21が通されることで、糸隙間S、二股部隙間R、及び結合糸隙間Tが形成される。積層体20の製造後に、マトリックス樹脂30を積層体20に含浸させて硬化させる際、樹脂溜まりとなる各隙間R,S,Tには添加剤23が存在するので、各隙間R,S,Tでのマトリックス樹脂30の占める割合が低下する。熱硬化性樹脂の硬化収縮等によって樹脂溜まり内に内部応力が発生しても、その内部応力が添加剤23によって緩和される。
【0039】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0040】
(1)結合糸21によって積層方向に結合された積層体20において、結合糸21の周囲に形成された二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tにはマトリックス樹脂30と添加剤23との両方が配置されている。このため、マトリックス樹脂30を形成する際、各隙間R,S,Tによって形成された樹脂溜まり内に内部応力が発生しても、その内部応力が添加剤23によって緩和される。したがって、三次元繊維強化複合材10において、結合糸21の周辺である二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tにクラックが生じることが抑制される。
【0041】
(2)添加剤23とバインダとを合わせた体積が、二股部隙間Rの体積の10〜50%となるように添加剤23が積層体20に付着されている。添加剤23の添加量(付着量)の下限を設定することにより、添加剤23による応力緩和機能の低下を防止して、二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tにクラックが生じることを抑制できる。また、添加剤23の添加量(付着量)の上限を設定することにより、各隙間R,S,Tでのマトリックス樹脂30の量が減ることを防止して、三次元繊維強化複合材10の機械的強度の低下を抑えることができる。
【0042】
(3)添加剤23としてカーボンブラック又はカーボンナノチューブを用いた。また、第1〜第4の強化繊維束層11〜14、結合糸21、及び抜け止め糸22を炭素繊維で形成した。このため、積層体20としては炭素材料のみで形成される。したがって、炭素繊維以外の材料が混在することによる三次元繊維強化複合材10の強度低下を無くすことができる。
【0043】
(4)結合糸21で積層体20を結合することにより、積層体20には積層方向に二股部隙間R、結合糸隙間T、及び糸隙間Sが形成される。しかし、結合糸21に沿って積層体20の積層方向全体に亘って、添加剤23が存在しているため、積層体20にクラックが生じることが抑制される。したがって、結合糸21によって、積層方向の強度が向上された三次元繊維強化複合材10に対して、添加剤23を提供することで、三次元繊維強化複合材10の積層方向への強度をより向上させることができる。
【0044】
(5)添加剤23は、バインダと混合されて結合糸21及び各強化繊維束11a〜14aに付着されている。よって、熱硬化性樹脂の注入時に添加剤23が結合糸21及び各強化繊維束11a〜14aから除去されることがなく、マトリックス樹脂30の形成時に各隙間R,S,Tでの内部応力を確実に抑制することができる。
【0045】
(6)三次元繊維強化複合材10の製造時、積層体20の二股部隙間Rに添加剤23を供給しつつ、二股部隙間Rが存在する面とは反対側の面から積層体20内の空気を吸引して、添加剤23を二股部隙間Rが存在する面とは反対側の面に向けて引っ張るようにした。このため、添加剤23を、二股部隙間Rから結合糸21に沿って積層体20の積層方向全体に亘って行き渡らせることができる。したがって、各隙間R,S,Tを形成する結合糸21の周囲に添加剤23を付着させることができる。
【0046】
(7)二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tに樹脂溜まりが形成されても、添加剤23によって樹脂溜まりの内部応力を緩和し、各隙間R,S,Tにおいてクラックが発生することを抑制できる。したがって、各隙間R,S,Tをできるだけ小さくするために結合糸21として細い糸(例えば、100デニール以下の糸)を使用する必要がなく、クラックの発生を抑制しながらも積層方向への強度を維持することができる。
【0047】
(8)二股部隙間R、糸隙間S、及び結合糸隙間Tに樹脂溜まりが形成されても、添加剤23によって樹脂溜まりの内部応力を緩和し、各隙間R,S,Tにおいてクラックが発生することを抑制できる。したがって、第1〜第4の強化繊維束11a〜14a及び結合糸21を、マトリックス樹脂30と熱的性質の近い有機繊維により形成する必要がない。第1〜第4の強化繊維束11a〜14a及び結合糸21を炭素繊維により形成することができ、クラックの発生を抑制しながらも三次元繊維強化複合材10の機械的強度を維持することができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0050】
実施形態では、マトリックス樹脂30として熱硬化性樹脂を用いたが、その他の種類の樹脂を用いてもよい。
【0051】
バインダと添加剤23とは、その合計の体積が各二股部隙間Rの体積の10〜50%を占めるように供給されているが、この残りの50〜90%はマトリックス樹脂が占めていてもよいし、空隙であってもよい。
【0052】
結合糸21及び抜け止め糸22は一本だけでもよい。
【0053】
添加剤23は、結合糸21の二股部隙間Rに供給するのではなく、積層体20の第4の強化繊維束層14の表面全体に塗布してもよい。
【0054】
積層体20は複数層であればよく、2層又は3層でもよく、或いは5層以上であってもよい。
【0055】
実施形態では、第1〜第4の強化繊維束層11〜14を補助糸11b〜14bでそれぞれ連結したが、これに限らない。例えば、第1〜第4の強化繊維束層11〜14の片面に設けた融着糸によって各強化繊維束11a〜14aを連結してもよい。また、第1〜第4の強化繊維束層11〜14において、各強化繊維束11a〜14aの軸方向の両端にピンを設け、このピンに連結糸を引っ掛けて各強化繊維束11a〜14aを連結してもよい。
【0056】
第1〜第4の強化繊維束11a〜14aを構成する繊維は炭素繊維に限らず、三次元繊維強化複合材10に要求される物性に応じて、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、及び超高分子量ポリエチレン繊維等から選択される高強度の有機繊維や、ガラス繊維及びセラミック繊維等から選択される無機繊維を使用してもよい。
【0057】
抜け止め糸22及び結合糸21は炭素繊維でなく、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維等を束ねたもの、又は撚ったものであってもよい。
【0058】
積層体20とマトリックス樹脂30とからなる三次元繊維強化複合材10を製造する方法はRTM法に限らない。