特許第5920586号(P5920586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920586エジェクター式溶射装置用のデフューザー
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  • 特許5920586-エジェクター式溶射装置用のデフューザー 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920586
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】エジェクター式溶射装置用のデフューザー
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/12 20160101AFI20160428BHJP
【FI】
   C23C4/12
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-282357(P2012-282357)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-125650(P2014-125650A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】西口 英邦
(72)【発明者】
【氏名】小橋 尭文
(72)【発明者】
【氏名】藤山 宙洋
(72)【発明者】
【氏名】笹井 洋一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正和
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−275816(JP,A)
【文献】 特開平7−127769(JP,A)
【文献】 特開平7−277430(JP,A)
【文献】 特開2003−286083(JP,A)
【文献】 特開2011−149078(JP,A)
【文献】 特開2008−253889(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3171530(JP,U)
【文献】 特開2006−225205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積固有抵抗率が10Ω・cm以下であり、且つ、破壊靭性値が5MPa・m1/2以上であるセラミックスを用いたことを特徴とするエジェクター式溶射装置用のデフューザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業窯炉、特に珪石れんがを使用しているコークス炉炭化室の補修に使用されるエジェクター式溶射装置のデフューザーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業窯炉や溶融金属容器等においては、その使用に伴って、耐火物からなる内張り等に損傷が発生する。このような損傷に対しては、適宜、補修が実施される。例えば、製鉄所のコークス炉は、建設してから20年以上のものが多く、特に、炭化室の壁は補修を繰り返しながら操業を継続している。
【0003】
ここで、上記操業を継続しながら補修する技術として補修材を溶融しながら補修箇所に吹き付ける溶射補修法がある。当該溶射補修法には、例えば、プラズマ溶射、レーザー溶射、火炎溶射が挙げられる。しかしながら、これらの溶射補修法には大掛かりな装置が必要であり、コストがかかる難点がある。
【0004】
そのため、近年、比較的簡易な装置で実現可能な溶射補修法として、金属の酸化発熱反応を利用した溶射方法が利用されている。当該溶射方法は、まず、金属粉末(燃焼剤)と耐火性粉末の混合物(溶射材)を酸素で搬送し、高熱の補修面に吹き付ける。これによって、被補修面からの受熱により金属粉末が酸化発熱反応を起こして燃焼する。そこで発生する熱で上記耐火性粉末を溶融し、併せて生成する金属酸化物とともに耐火性組成物を形成・溶融した溶射体を補修面に付着させるようになっている。当該溶射方法の材料については、例えば、特許文献1、2に開示され、また、その装置については特許文献3に開示されている。
【0005】
上記金属の酸化発熱反応を利用した溶射を行う際に、溶射材を補修面に吹き付けるための粉流体輸送手段としてエジェクター式溶射装置が使用される。当該エジェクター式溶射装置は、高速流体をノズルから噴出して、その伴流によって吸引力が発生する現象、すなわちエジェクター効果を利用する。
図1に、エジェクター式溶射装置の模式図を示す。図1に示すように、エジェクター式溶射装置1には、溶射材を粉粒体で貯蔵するホッパー40と、その下側に設けられ、酸素を駆動流体として上記溶射材を吸引・吐出するエジェクター10とからなる。当該エジェクター10の下流側には、通常、ゴムホースが繋がれ、その先端に溶射ランスが接続されている。
上記エジェクター10は、上記酸素を吹き込むためのエジェクターノズル11と、その吐出端が開口し、かつ、上記ホッパー40が開口する吸入室20と、その下流に設けられたデフューザー30とからなる構成となっている。上記デフューザー30は、内径が一旦急激に狭くなる絞り部31と、該絞り部31の内径をそのまま延伸したストレート部32と、該ストレート部32の下流端から内径が次第に大きくなる拡張部33とから構成されている。
【0006】
上記構成で、上記エジェクターノズル11から上記デフューザー30の絞り部31に向かって酸素ガスを噴出すると、当該酸素ガスは、上記吸引室20にある空気を巻き込み、当該空気を巻き込んだ流れは加速され、その伴流によって周囲は減圧となる。そして、上記ホッパー40に貯蔵された溶射材は、重力と減圧による吸引力で吸引室20に供給され、当該吸入室20内で酸素とが混合される。当該溶射材と酸素との混合物は上記デフューザー30を通り、溶射ランス先端まで搬送される。当該溶射ランス先端から吐出された溶射材は、高温のコークス炉の熱を受け、金属が酸化燃焼し、耐火性粉末を溶融させ、炉壁に付着させることで溶射体が形成される。
【0007】
当該上記エジェクター式溶射装置1の場合、上記デフューザー30内壁に硬い耐火性粉末が衝突するため、当該デフューザー内壁30が摩耗し、内径が拡大するという問題がある。当該デフューザー30の摩耗は、自身の絞り部31の下流側からストレート部32で発生しやすく、この部分での内径が大きくなると、酸素の流速が低下して吸引力が低下し、溶射材の吐出量が低下する。例えば、内径が約10%拡大すると、同一酸素量での溶射材の輸送量は約10%減少する。
【0008】
良好な溶射体を形成するためには、輸送される溶射材と供給する酸素量の比を好適な値に保つ必要があり、初期においては、その比が保たれ、設計に従って溶射を行うことができる。ところが、上記デフューザー30内壁の摩耗が起こると、上記の適切な比を保てなくなり、上記デフューザー30の交換が必要となる。
上記交換頻度を少なくするためには、耐摩耗性が高い材料を使用したデフューザー30を使用する必要がある。そこで、特許文献4には、上記デフューザーの形状を改善して、この摩耗を少なくする方法が提案されている。上記デフューザーの内壁形状に注目し、断面積が単調に低下する絞り部と、一定長さのストレート部と、断面積が単調に増加する拡張部とを持たせ、上記ストレート部を長くするという構成である。
この構成を採用することで、耐摩耗性の高いタングステンカーバイドや炭化ホウ素を用いても十分には防止できなかった摩耗を、防止又は減少することができる溶射装置を提供するとし、ステンレス鋼(SUS304)により形成したとしても摩耗は極めて小さくほとんど摩耗は生じないことが明らかになったとしている。
しかしながら、上記ストレート部を長くすると圧損が大きくなり、効率的に溶射材を輸送できないという問題点があった。
【0009】
さらに、最近の傾向としては補修が必要な窯数と補修範囲が拡大したため、補修量が飛躍的に増大し、上記デフューザー内壁の損耗量はそれに比例するように大きくなった。また、補修量の増大に対応として、単位時間当たりの溶射材の吐出量も従来の50kg/h未満から100kg/h以上へと増加されるようになってきた。この単位時間当たりの吐出量の増加によって、上記デフューザー内壁の摩耗も大きくなり、上記特許文献4に開示の構成を採用しても、十分とは言えない状況になってきた。具体的には、ステンレス鋼(SUS304)からなるデフューザーを用いて100kg/hの条件で溶射した際、200kg程度の溶射材の吐出で、内壁摩耗のために当該デフューザーの交換が必要となった。
【0010】
上記耐摩耗性を高めるため、デフューザーの材質を改良することも試みられている。特許文献5には、エジェクターを利用したコールドスプレー用ノズル(デフューザー)について提案されているが、その材質に窒化珪素、炭化ケイ素、ジルコニアなどの高い耐摩耗性を有するセラミックスを用いた実施例が示されており、また、一般的にも使用されている。
【0011】
他方、上記金属の酸化発熱反応を利用した溶射は可燃物質と支燃物質を同一配管で搬送するため、燃焼が逆方向に進む逆火が生じたり、配管内部における流れが攪乱された際の摩擦で生じる火花やスパークによって発火が生じたりする。これらは大きな爆発音を伴う他、損傷した配管によって作業者が怪我をしたり、損傷した配管から噴き出る火炎で作業者がやけどをしたりする可能性があるため、大きな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−120406号公報
【特許文献2】特開2012−188345号特開
【特許文献3】特開2011−149078号公報
【特許文献4】特開2007−275816号公報
【特許文献5】特開2008−253889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記したように、エジェクター式溶射装置では、一方で、デフューザーの耐磨耗性を高めて交換頻度を低減する必要性がある。ところが耐摩耗性の高い材質、例えばセラミック等は体積固有抵抗率が高くなる傾向がある。
他方で、本願が適用される金属の酸化発熱反応を利用した溶射は、上記したように、可燃物質と支燃物質を同一配管で搬送するため、燃焼が逆方向に進む逆火が生じたり、火花やスパークによって発火が生じたりする問題がある。特に、上記のように耐摩耗性の高いセラミック等の材質では体積固有抵抗率が高いため、後述するように静電気が蓄積しやすく、従って火花やスパークによる発火が起こりやすいという問題があった。
【0014】
本発明では、上記従来技術に鑑みて提案されたものであり、吐出量増加の要求に対して耐摩耗性が高く、しかも逆火の発生を抑えることが可能なエジェクター式溶射装置用のデフューザーを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、エジェクター式溶射装置においてデフューザー内壁の耐摩耗性を考慮しつつ、逆火の原因を探索した結果、逆火には、主として2つの原因があることを発見した。
【0016】
即ち、逆火の一つの原因は、溶射ランス先端での着火であり、その着火によって燃焼が材料輸送用のゴムホース内の溶射材料に拡大して逆火に至る。もう一つの原因は、デフューザー内での発火である。
【0017】
さらに、上記デフューザー内での発火原因については、以下の2つの原因があることを見出した。
【0018】
第一の原因(1)は、デフューザー内壁を鉄鋼材料のような酸化しやすい材質とした場合、デフューザー内壁への耐火性粒子の衝突によって摩擦熱が発生し、雰囲気の酸素と結合することで酸化燃焼するか、あるいは、摩耗によって剥離した側壁材料に着火するかする。それが原因となり、デフューザー内で発火する。例えば、鉄鋼材料の中では、比較的耐摩耗性の大きい工具鋼SKDを上記デフューザーに使用した場合、溶射開始後、直ちに発火した。尚、上記工具鋼SKDは、デフューザーとしては耐摩耗性が劣り、現実に上記デフューザーに使用できない。
【0019】
第二の原因(2)は、静電気に起因するスパークの発生である。上記デフューザーの導電性が低い場合、当該デフューザー中を流れる耐火性粒子とデフューザー壁との間で摩擦による静電気が発生する。当該デフューザーの導電性が低いと、上記静電気が溜まって、次第に高電圧になる。そして、高電圧になると雰囲気中に放電し、スパークが発生する。これが着火源となり、共存する金属粒子に引火して発火する。例えば、耐摩耗性の高いアルミナセラミックスを上記デフューザーに使用した場合、溶射開始後、直ちに発火した。従って、エジェクター式溶射装置用のデフューザー材質として耐摩耗性の高いセラミックスを適用する場合、体積固有抵抗率を抑えて静電気を外に逃がして高電圧とならない対策を取ることが必要と考えられる。
【0020】
本発明は、上述のような発見に基づいて行われたものである。即ち、本発明は、体積固有抵抗率が10Ω・cm以下であり、且つ、破壊靭性値が5MPa・m1/2以上であるセラミックスを用いたことを特徴とするエジェクター式溶射装置用のデフューザーである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エジェクター式溶射装置用のデフューザーにおいて、吐出量増加の要求に対して耐摩耗性が高く、逆火の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】エジェクター式溶射装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の画像形成装置の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0024】
本発明は、体積固有抵抗率が10Ω・cm以下であり、且つ、破壊靭性値が5MPa・m1/2以上であるセラミックスを用いたことを特徴とするエジェクター式溶射装置用のデフューザーである。
【0025】
ここで、体積固有抵抗率が10Ω・cm以下である構成を採用すると、上記デフューザー内壁で発生した静電気が、当該デフューザー本体を通じて金属製の保持部材へ流れ、外部へ放散される。そのため、上記デフューザー本体が高電圧とならず、その結果、スパークも発生しない。本発明では、上記体積固有抵抗率が10Ω・cm以下であれば、特に限定は無いが、例えば、上記体積固有抵抗率が10Ω・cm以下であると、効果的に静電気の放散を促進することが出来るため、好ましい。尚、上記体積固有抵抗率とは、導電率(電気伝導率)の逆数であり、導電率が高いときには小さい値となり、導電率が低いときには高い値となる。
【0026】
一方、本発明では、上記体積固有抵抗率が10Ω・cmより高い場合、上記デフューザー壁と耐火性粒子間の摩擦で発生する静電気を十分に外部へ放散できず、当該静電気が上記デフューザー本体に溜まって、高電圧となる。そのため、上記デフューザー内において、酸素気流中でスパークが発生し、当該デフューザー内での発火の原因となり、好ましくない。更に、上記デフューザー内での発火が起こると、それに起因して逆火に至り、作業が中断されるばかりでなく、作業者の安全上の問題となるため、好ましくない。
【0027】
ここで、上述のように、耐摩耗性が低いデフューザーでは、継続した溶射の使用により、当該デフューザー内壁の摩耗が著しくなり、当該デフューザーの交換頻度が高くなる。そのため、本発明では、上記デフューザーの材質として、耐摩耗性の高いセラミックスを採用する。
【0028】
すなわち、破壊靭性値は5MPa・m1/2以上である構成を採用すると、上記デフューザー内径の摩耗が生じ難くなり、当該デフューザーの交換頻度を低下させる。又、セラミックス製のデフューザー内壁の摩耗の原因は、耐火性粒子の衝突による微小破壊と考えられており、破壊靭性が高いと、当該微小破壊が起こりにくくなるため、損耗が起こり難くなる。本発明では、上記破壊靭性値は5MPa・m1/2以上であれば、特に限定は無いが、例えば、上記破壊靭性値は6MPa・m1/2以上であると、効果的に微小破壊の発生を防止することが出来るため、好ましい。
【0029】
一方、本発明では、上記破壊靭性値は5MPa・m1/2より低い場合、上記微小破壊が頻繁に起こり、損耗が進行し易くなり、好ましくない。
【0030】
従って、本発明では、上述のように、上記体積固有抵抗率が10Ω・cm以下として静電気によるスパークの発生を抑えつつ、同時に上記破壊靭性値が5MPa・m1/2以上として微小破壊の発生を防止する、耐摩耗性の高いセラミックス製のエジェクター式溶射装置用のデフューザーである。
【0031】
ここで、本発明に係るデフューザーの材質は、上記体積固有抵抗率が10Ω・cm以下で、且つ、上記破壊靭性値が5MPa・m1/2以上であるセラミックスであれば、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。上記デフューザーの材質として、例えば、高靱性セラミックスに導電率の高いセラミック粒子を添加することで得られたセラミックスが挙げられる。具体的には、Si、ZrO、SiC、α−SiAlON、β−SiAlON等の破壊靭性値が5MPa・m1/2以上の高靱性セラミックスに、TiC、ZrC、VC、TaC、MoC等の炭化物やTiN、ZrN、VN、TaN、NbN等の窒化物、TiSi、ZrSi、NbSi,MoSi、PtSi等のシリ化物から選ばれる1種または2種以上の導電率の高いセラミック粒子を添加することで得られたセラミックスである。ここで、上記高導電率のセラミック粒子の添加濃度は、例えば、外掛けで5〜40体積%の範囲内が好ましい。
【0032】
また、セラミックス材料においては、硬度の高い材料が比較的耐摩耗性が高いと言われており、硬度はビッカース硬度計によって測定されるビッカース硬度によって評価される。本発明に係わるデフューザーにおいては、先に述べた高靱性であることと、体積固有抵抗率が一定値以下であることが肝要であるが、さらに、本発明に係わるデフューザーの材質は、ビッカース硬度が1200以上であることが好ましく、更に、ビッカース硬度が1350以上であると、より好ましい。
【0033】
ところで、上記デフューザーの材質として、WC−Co超硬合金を利用することも考えられるが、特許文献4に記載されている通り、上記WC−Co硬合金では、十分な耐摩耗性が得られなかった。その原因は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。即ち、上記WC−Co超硬合金は、Coを焼結助剤としてWC粒子を焼結したものであり、耐摩耗性材料として知られている。上記WC粒子そのものの硬度は高いものの、結合助剤のCoの硬度は低い。そのため、上記WC−Co超硬合金の全体としての材質は、硬度がSi、SiAlON等のセラミックスに比べると低く、そのため、耐摩耗性に劣ったと考えられる。又、結合剤のCoは、鉄鋼材料のように酸化し易く、耐火性粒子の衝突によって微小部分に熱が発生し、当該熱で微小な酸化が進行し、その結果、損耗が全体として大きくなったものと推定される。
【0034】
又、本発明に係るデフューザーを使用するエジェクター式溶射装置は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はなく、一般的なエジェクター式溶射装置が適用される。ここで、上記エジェクター式溶射装置の溶射量は、ホッパーの容量、エジェクターおよびエジェクターのサイズ、エジェクターからの酸素ガスの噴出量等によって変化するが、一般的には、数十kg/hから2百kg/hの範囲内に設定される。又、上記デフューザーの下流側には、通常、ゴムホースが繋がれ、その先端に溶射ランスが接続される。上記ゴムホースの長さは、特には限定されないが、例えば、数mから数十mの範囲内である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例および比較例を提示して、本発明に係るエジェクター式溶射装置用のデフューザーを具体的に説明する。
【0036】
先ず、α−SiAlON(Si:Y:AlN=91:5:4、α−SiAlONとβ−Si複合体)をベースにTiNを外掛けで20体積%添加した材料で作成したデフューザーを実施例1とした。又、α−SiAlONをベースにTiNを外掛けで15体積%添加した材料で作成したデフューザーを実施例2とし、更に、α−SiAlONをベースにTiNを外掛けで10体積%添加した材料で作成したデフューザーを実施例3とした。
【0037】
一方、デフューザーの材質を金属として、SUS304を用いて作成したデフューザーを比較例1とし、工具鋼SKDを用いて作成したデフューザーを比較例2とした。又、WC−Co超硬合金を用いて作成したデフューザーを比較例3とした。更に、デフューザーの材質をセラミックスとして、α−SiAlONをベースにした(実施例1のTiNを無添加とする)材料で作成したデフューザーを比較例4とし、β−SiAlON(z=0.5)をベースにした材料で作成したデフューザーを比較例5とした。更に、耐摩耗性の高いセラミックスとして、ZrOをベースにした材料で作成したデフューザーを比較例6とし、SiCをベースにした材料で作成したデフューザーを比較例7とし、Alをベースにした材料で作成したデフューザーを比較例8とし、BCをベースにした材料で作成したデフューザーを比較例9とした。
【0038】
又、溶射試験は、上記作成したデフューザーを通常のエジェクター式溶射装置に装着し、金属Si粉末15質量%と耐火粒子として珪石85質量%とからなる溶射材料を溶射することで行った。ここで、搬送ガスは純度100%の酸素とし、流量は32Nm/hとし、材料供給速度は100kg/hとした。
【0039】
ここで、上記作成したデフューザー内における発火の有無の評価は、上記溶射材料2kgを溶射するうちに発火するかどうかを目視で確認することで行った。発火した場合は「有」とし、発火しなかった場合は「無」とした。
【0040】
又、上記作成したデフューザー内における当該デフューザー内壁の摩耗量の評価は、絞り部の内径10.0mmのデフューザーを用い、上記溶射材料を50kgの所定量溶射した後のデフューザー内径の変化量(直径の拡大量)を測定することで行った。このデフューザー内径の変化量がデフューザーの損耗量に対応する。上記評価で発火の発生が無く耐摩耗性も比較的良好な材質に関して、200kg溶射(実使用)及び10000kg溶射(実使用)へと通過量を増加させ、その際の内径の変化量を調べた。尚、上述した発火の有無の評価において発火したデフューザーについては本評価(摩耗試験)を行わなかった。又、本評価で所定の溶射量においてデフューザー内径の変化量が著しい場合は、それ以上多量の溶射量で本評価を行わなかった。本評価を行わなかった場合は、「−」とした。
【0041】
表1には、エジェクター式溶射装置のデフューザーの材質を変更させた際の発火の有無、摩耗量の評価結果を示す。
【0042】
表1に示すように、実施例1−3では、いずれも発火が無く、更に、10000kgの現場使用に対応する溶射量であっても磨耗が認められず、良好な耐摩耗性を示すことが理解される。
【0043】
一方、比較例1では、体積固有抵抗率が十分低いため、発火は認められなかったものの、耐摩耗性が劣り、200kgの溶射量の溶射で内径が2.0mmも拡大している。ここで、下記のSKDが、体積固有抵抗率が低いにも関わらず発火しているのに対して、比較例1に用いたSUSが発火しなかった原因は、材質のSUS材が酸化し難いため、発火源とならなかったものと推定される。又、比較例2では、体積固有抵抗率が十分低かったが、先に説明した通り、溶射開始直後に発火した。更に、比較例3では、体積固有抵抗率が十分低く、発火は無かったが、200kgの溶射量の溶射では、僅かな磨耗が観察された。しかしながら、10000kgの溶射量の溶射(実機溶射)では、内径が当初の10.0mmから1.0mm拡大して11.0mmとなった。その結果、上述のように溶射材料吐出量が約10%低下したため、デフューザー交換の必要が生じた。従って、比較例3では、実施例1−3と比較すると耐摩耗性が不十分であった。
【0044】
又、比較例4−8では、いずれの場合でも、溶射直後に発火した。これは、比較例4−8のいずれの材質も、体積固有抵抗率が10Ω・cmより高く、静電気によるスパークで発火したものと推定される。
【0045】
更に、比較例9では、体積固有抵抗率が6.7Ω・cmと小さいため、発火は起こらなかったものの、破壊靱性値が3MPa・m1/2と低かったため、磨耗が観察され、実施例1−3と比較すると耐摩耗性が不十分であった。
【0046】
このように、本発明に係るエジェクター式溶射装置用のデフューザーは、体積固有抵抗率が10Ω・cm以下であり、且つ、破壊靭性値が5MPa・m1/2以上であるセラミックスを用いたことを特徴とする。これにより、吐出量増加の要求に対して耐摩耗性が高く、逆火の発生を抑えることが可能となる。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、工業窯炉、特に珪石れんがを使用しているコークス炉炭化室の補修に使用されるエジェクター式溶射装置のデフューザーにおいて、特に、吐出量増加の要求に対して耐摩耗性が高く、逆火の発生を抑えることが可能なエジェクター式溶射装置用のデフューザーとして有用である。
図1