(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物は1,2ーヒドラジンジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物をトルエン等の有機溶媒中、トリエチルアミンやピリジン等の塩基存在下、N−ブロモコハク酸イミドや塩素等の酸化剤で酸化することにより合成するという技術が知られていた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記製造方法では、例えば、塩基にピリジンを使用し、酸化剤にN−ブロモコハク酸イミドを使用した場合、等量のピリジン臭化水素塩が副生していた。当該副生塩は反応溶媒に溶解するため、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物から副生塩を完全に除去するためには、水洗浄せざるを得なかった。
【特許文献1】特許4094654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、一般式(2)で表されるアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物は、酸や塩基を含む水溶液の存在下では加水分解を受けやすく、例えば、水洗浄の時間が延びた場合など加水分解して収率が低下するおそれがあった。特に実験室スケールでは、単位操作、つまり水の仕込みや排出等に要する時間は短くて済むので影響は小さいものの、商用プラントのような大規模のスケールでは、上記単位操作には数十分から数時間所要する場合もあり、必要以上に加水分解を受けやすい環境にさらされてしまうおそれがあった。そのため、水を使用しない副生塩の除去方法の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、高収率かつ高純度のアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物の工業的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は水を使用せずに副生塩を除去し、高収率かつ高純度なアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を得る製造方法である。
項1.一般式(1);
【化1】
(式中、Aは炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
で表される1,2−ヒドラジンジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を有機溶媒中、炭酸塩およびハロゲンで酸化する
一般式(2);
【化2】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表されるアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物の製造方法。
項2.前記一般式(2)で表されるアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を合成後、水洗浄することなく副生塩を除去する項1記載の製造方法。
項3.前記副生塩を除去する方法が、ろ過である請求項2に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記一般式(1)で表される1,2−ヒドラジンジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物から、上記一般式(2)で表されるアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を有機溶媒中、炭酸塩及びハロゲンを用いて合成することで、当該有機溶媒に溶解しない副生塩を得ることができる。アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物は当該有機溶媒に溶解しているので、例えば、ろ過するだけで副生塩を完全に除去することができる。これにより、水洗浄を回避することができ、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物の加水分解を抑制することができる。すなわち、高収率、かつ高純度でアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を得ることができ、工業的に非常に有利な製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記一般式(1)、(2)におけるAについて説明する。Aは直鎖状でも分岐鎖状でも良い炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜2であり、より好ましくは炭素数1である。
【0010】
本発明では、塩基に炭酸塩、酸化剤にハロゲンを使用することが必要である。すなわち、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を合成した際の副生塩がハロゲン化水素塩のみであり、後述の有機溶媒に溶解しないことを要する。そうすることで、水洗浄をすることなく、例えば、ろ過のみによって副生塩とアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を分離することができる。
【0011】
水洗浄を回避することによって、商用プラントのような大規模のスケールであっても、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を加水分解させることなく、高純度のアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を高収率で得ることができる。
【0012】
炭酸塩の好適な具体例としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属塩や炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらの中で炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが特に好ましい。これら炭酸塩は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0013】
炭酸塩は水分量の低いものが好ましく、無水物がより好ましい。また、炭酸塩はどのような形状のものでも良いが、粒子の表面から反応するものであるので、できるだけ粒子径の小さなものが好ましい。炭酸塩の使用量は種類や粒子径にも影響されるが、1,2−ヒドラジンジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物1モルに対して、0.5モル〜5.0モルが好ましく、1.0モル〜3.0モルがより好ましい。
【0014】
ハロゲンの好適な具体例としては、塩素、臭素、ヨウ素であり、これらの中で特に塩素、臭素が好ましい。当該ハロゲンの使用量は1,2−ヒドラジンジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物1モルに対して、1.0モル〜2.0モルが好ましく、1.0モル〜1.5モルがより好ましい。
【0015】
この反応で用いる反応溶媒は、反応に使用する試剤と反応せず、副生塩および未反応の炭酸塩を溶解しないことが必要である。好適な具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロゲン化溶媒が挙げられる。これらの中で特に、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジクロロメタン、クロロホルムが好ましい。これら有機溶媒は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0016】
この反応は、原料である1,2−ヒドラジンジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物、炭酸塩とハロゲンを有機溶媒中で混合することにより行われる。反応温度は、低すぎると反応速度が小さくなり、高すぎると副生成物が多くなるため、0℃〜60℃が好ましく、0℃〜30℃程度がより好ましい。また、反応時間は0.5時間〜24時間が好ましく0.5時間〜12時間程度がより好ましい。
【0017】
反応終了後、生成したアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物は有機溶媒に溶解しているが、副生塩であるハロゲン化水素アルカリ金属塩もしくはハロゲン化水素アルカリ土類金属塩および未反応の炭酸塩は溶解していないため、水洗浄することなく、ろ過によって除去する。ろ過は、加圧ろ過であっても良いし、減圧吸引ろ過であっても良い。次いで、ろ液から反応溶媒留去等の常法を行うことで、粗生成物を得た後に、晶析、再結晶等の精製により、高純度のアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物が得られる。
【実施例】
【0018】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0019】
<GC純度の測定>
アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を酢酸エチルで溶解し、ガスクロマトグラフィー法により測定した。測定値は面積百分率である。
【0020】
<アルカリ(土類)金属含量の測定>
JIS K0127に従い、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物を塩酸で中和後、イオンクロマトグラフィー法により測定した。
【0021】
実施例1 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、酢酸エチル(40.0g)、及び無水炭酸ナトリウム(6.50g、61.33mmol)を加え、15℃以下で臭素(5.02g、31.41mmol)をゆっくり滴下した後、0.5時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(5.62g、収率94.5%、GC純度99.5%、Na含量0.2%)。
【0022】
実施例2 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、ジクロロメタン(30.0g)、及び無水炭酸ナトリウム(6.50g、61.33mmol)を加え、15℃以下で臭素(5.00g、31.29mmol)をゆっくり滴下した後、0.5時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(5.70g、収率95.8%、GC純度99.3%、Na含量0.2%)。
【0023】
実施例3 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、酢酸ブチル(40.0g)、及び無水炭酸カリウム(8.50g、61.50mmol)を加え、15℃以下で塩素(1.89g、26.65mmol)をゆっくり吹き込んだ後、0.5時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(5.59g、収率94.0%、GC純度99.4%、K含量0.2%)。
【0024】
実施例4 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、クロロホルム(30.0g)、及び無水炭酸カリウム(8.50g、61.50mmol)を加え、15℃以下で塩素(1.91g、26.94mmol)をゆっくり吹き込んだ後、0.5時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(5.55g、収率93.3%、GC純度99.1%、K含量0.3%)。
【0025】
比較例1 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、ピリジン(2.01g、25.41mmol)、トルエン(47.5g)を加え、20℃でN−ブロモコハク酸イミド(4.93g、27.70mmol)をゆっくりと加え2時間反応した。反応終了後、水(24.0g)を加え、室温下で15分撹拌し、分液した。その後、有機層を水(24.0g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱湿した後に濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得られた(3.66g、収率61.5%、GC純度98.1%)。
【0026】
比較例2 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、ピリジン(2.01g、25.41mmol)、クロロホルム(30.0g)を加え、15℃以下で塩素(1.89g、26.65mmol)を吹き込んだ後、0.5時間反応した。反応終了後、水(10.0g)を加え、室温下で15分撹拌し、分液した。その後、有機層を水(10.0g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱湿した後に濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得られた(3.89g、収率65.4%、GC純度98.5%)。
【0027】
比較例1〜2では商用プラントのような大スケールを想定し、水洗浄(すなわち、水の仕込み、洗浄、排出)に所要する時間を考慮し、反応後、水を加え室温下で15分撹拌した後、分液を行なった。その結果、アゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物が加水分解し、収率が大幅に低下した。
【0028】
比較例3 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、ピリジン(2.01g、25.41mmol)、トルエン(47.5g)を加え、20℃でN−ブロモコハク酸イミド(4.93g、27.69mmol)をゆっくりと加え2時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(8.04g、収率135.2%、GC純度70.3%)。
【0029】
比較例4 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、ピリジン(2.01g、25.40mmol)、酢酸エチル(40.0g)を加え、15℃以下で塩素(1.89g、26.67mmol)を吹き込んだ後、0.5時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(7.35g、収率123.6%、GC純度75.1%)。
【0030】
比較例5 ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの製造
100mlフラスコにビス(2−メトキシエチル)1,2−ヒドラジンジカルボン酸エステル(6.00g、25.40mmol)、酢酸エチル(40.0g)、及び無水炭酸ナトリウム(6.50g、61.33mmol)を加え、20℃でN−ブロモコハク酸イミド(4.93g、27.69mmol)をゆっくりと加え2時間反応した。反応終了後、ろ過することにより副生塩を除去し、得られたろ液を濃縮乾固した。得られたビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルの粗結晶を酢酸エチル(3.0g)、ヘプタン(13.5g)で再結晶することで、ビス(2−メトキシエチル)アゾジカルボン酸エステルを薄黄色結晶として得た(8.04g、収率135.2%、GC純度73.7%、Na含量0.5%)。
【0031】
比較例3〜5では、反応後、水を使用せず、ろ過することで副生塩を除去したが、得られたアゾジカルボン酸ビス(2−アルコキシエチル)エステル化合物に塩が大量に含まれており、非常に純度が低かった。比較例3〜5の製造方法では、反応中に生成した塩が反応溶媒に溶解するため、ろ過するだけでは完全に塩を除去することは出来ない。また、水を使用しない再結晶によっても副生塩を除去できなかった。