(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ESCA(Electron Spectroscope for Chemical Analysis)測定での珪素検出量が10atom%以下である液遮断層を含み、前記液遮断層は炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系はっ水はつ油加工剤が塗布されていることを特徴とする防護衣材料。
【背景技術】
【0002】
化学防護衣服は、一般に有毒な液状有機化学物質、ガス状有機化学物質、および粒子状物質から人体を保護する目的で着用される特殊衣服である。化学防護衣服では、有毒な液状有機化学物質、ガス状有機化学物質、および粒子状物質が防護衣服内部に侵入しないよう、通常、生地にはっ水はつ油剤による処理が予め施されている。
【0003】
有毒な有機化学物質などから人体を保護する防護衣材料としては、従来から様々なものが提案されている。例えば、活性炭の脱落、飛散抑制のために、織物や不織布等により活性炭を挟みこんだ、または包み込んだ吸着シートが提案されている。しかし、液状の有機化学物質に対する浸透抑制能を向上させるため、従来よりフッ素系のはっ水はつ油剤が使用されてきた。フッ素系の処理剤の中でも、特に、炭素数は8以上のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体が一般的に使用されている。
【0004】
しかしながら、最近になりテロメリゼーションによって得られる炭素数8のフルオロアルキル基を含有する化合物が、分解または代謝によりperfluoro−octanoic acid(以下、PFOAと略す)を生成する可能性があると公表されている(EPA OPPT FACT SHEET April 14,2003)。また、このPFOAの生体蓄積性を問題視する報告も種々なされている。
【0005】
一方で、炭素数が8より短い短鎖のパーフルオロアルキル、特に炭素数7以下のものについては、生体蓄積性が低いと言われている。そこで、環境負荷を下げるために、短鎖のパーフルオロアルキル基を側鎖に有する含フッ素アクリレート重合体が求められている。しかしながら、短鎖のパーフルオロ基で構成された含フッ素アクリレート重合体は、パーフルオロ基のフッ素数の減少に伴って、そのパーフルオロアルキル基の結晶化度が低下し、結晶融点(Tm)を示さず、十分なはっ水はつ油性が得られないという問題があった。
【0006】
従来から提案されている文献等においては、高いはっ水はつ油性能が必要とされる分野では、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を含有する化合物から構成されるはっ水はつ油加工剤を併用しているものがほとんどである。特許文献1には、防汚性ポリエステルフィラメントカーペットの製法において、はっ水はつ油性に優れて、汚染されにくく、長期間美しさを保持し、裏打ち層の強度も十分なポリエステルフィラメントからなるカーペットが提案されている。この文献では、残留油分を0.05〜0.3%まで除去し、油剤除去後の脱水、防汚加工処理において、脱水における含水率を15〜25%に制御することが記載されているが、防汚加工剤処理においての残留珪素率についての詳細は記載されていない。
【0007】
特許文献2には、防汚原着糸およびその製造方法が例示されている。原着顔料および/または原着染料を含有する熱可塑性合成繊維からなる原着糸において、その繊維表面に常温で固状の疎水性平滑剤を主成分とする油剤が、対繊維重量で0.3重量%以下付着されている防汚原着糸が提案されている。しかし、この文献についても、加工剤の種類、付着量等における記載はなく、はつ油性能等の要求される性能が不明瞭である。
【0008】
特許文献3には、紡績工程で繊維に付着した紡績油剤をカーペットのバツキング後のキュアリング工程において繊維表面より少なくとも一部除去することを特徴とするはっ水はつ油性カーペットの製造方法が記載されている。しかしながら、キュアリング処理で処理できない油剤成分等についての対応処方等の記載はない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の防護衣材料は、ESCA(Electron Spectroscope for Chemical Analysis)測定での珪素検出量が10atom%以下である液遮断層を含み、前記液遮断層は炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系はっ水はつ油加工剤が塗布されている防護衣材料である。
【0016】
液遮断層とは、はっ水はつ油材による加工を施すことにより、有害な液状有機化学物質に対する耐液浸透性を付与した、比較的緻密な構造の層であり、繊維を含むシート状物からなる層である。
【0017】
本発明の繊維を含むシート状物からなる液遮断層を構成する繊維は、特に限定されるものではなく、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテート、トリアセテート、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリプロピレン、PVDF、PPS等を素材とする繊維が挙げられ、これらの繊維を複数混紡・混綿して使用してもよい。
【0018】
液遮断層の形態は、織物、編物、組物、レース、網、不織布等のシート状物や、これらの積層体が好ましく使用できる。中でも、織物、編物、不織布等が好適に使用できる。
【0019】
前記織物や編物には、加圧下での液滴の浸透を効果的に防止できる「カットパイル織編物」も含まれる。「カットパイル織編物」とは、片面または両面にパイルを形成した織編物について、形成されたパイルの一部または全部をカットした織編物である。例えば、特開平8−308945号公報に示されているカットパイル編物も本発明には好ましく使用できる。
【0020】
本発明の液遮断層の厚さは、0.1〜2.0mmであることが好ましい。かかる範囲とすることにより、粒子除去性能、加圧時における耐液性能、さらには、通気性、使用感のバランスに優れた、液遮断層が得られる。
【0021】
本発明の液遮断層の通気性は、JIS L 1096(2010) 8.26.1に記載のフラジール法による通気性試験で、5〜100cm
3/cm
2・secであることが好ましく、7〜80cm
3/cm
2・secであることがより好ましい。通気性が5cm
3/cm
2・sec未満であると、防護衣着用時の蒸れ感につながり、使用感を満足出来ない原因となる。一方、100cm
3/cm
2・secを超える場合には、粒子除去性能、さらには加圧時における耐液性能が悪くなる。
【0022】
本発明の液遮断層の防水性は、JIS L 1092(2009) 7.1に記載の方法による耐水圧試験(静水圧法)で、20〜1500mmであることが好ましく、50〜1300mmであることがより好ましい。防水性が20mm未満であると、加圧時の耐液性能、粒子除去性能を満足出来ない原因となる。一方、1500mmを越えると、防護性能は高くなるが、通気性が低く、防護衣とした場合の着用間、使用感の優れたものとはならない。
【0023】
本発明に用いる液遮断層へは、液状有機化学物質に対する防護性を発現させるために、はっ水はつ油加工を施すことが必要である。はっ水はつ油加工は従来公知のいかなる方法でもよく、特に限定されるものでない。液遮断層のJIS L 1092(2009) 7.2に記載の方法によるはっ水度試験(スプレー試験)ではっ水度が2級以上、AATCC Test Method 118法によるはつ油度が3級以上であることが好ましい。
【0024】
本発明で使用するはっ水はつ油加工剤は、はっ水性、はつ油性および経時的なはつ油性能の安定性を考慮するとフッ素樹脂系のはっ水はつ油加工剤が好ましい。
【0025】
本発明の液遮断層はESCA(Electron Spectroscopy forChemical Analysis)測定で、珪素検出量が10atom%以下である。珪素検出量が10atom%を超える液遮断層では、はつ油度が3級以上のはつ油性能が発現せず、はつ油性能の経時的な安定性も欠ける結果となる。
【0026】
本発明の液遮断層のESCA測定による珪素検出量を上記範囲とする方法としては、液遮断層をシート状物やその積層体とした後にバッチ法や連続法により精練する方法やシート状やその積層体とする前のカセやチーズなどの糸状の状態でバッチ法により精練する方法がある。精練には、通常使用される精練剤を使用する方法や熱水による方法などが使用可能である。いずれの方法によっても、ESCA測定による珪素検出量が10atom%となるように精練を実施することが必要である。
【0027】
本発明の防護衣材料には、液遮断層の上および下の一方側、または、両側にガス吸着層を積層することで、ガスに対する防護性も付与できるものとなる。ガス吸着層の使用するガス吸着材としては、活性炭やカーボンブラックなどの炭素系吸着材、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、または活性アルミナなどの無機系吸着材等からなるガス吸着材が挙げられるが、対象とする被吸着物質に応じて適宜選択されることができる。その中でも広範囲なガスに対応できる活性炭が好ましく、特に吸着速度や吸着容量が大きく少量の使用で効果的なガス透過抑制能が得られる繊維状活性炭がより好ましい。
【0028】
ガス吸着層の被吸着物質としてのガスには、炭素元素を1つ以上持つガス状化合物が含まれる。例えば、ガス状化合物には、50以上の比較的大きな分子量を持ち、活性炭等のガス吸着層が吸着可能なガス状化学物質が含まれる。具体的には、農薬、殺虫剤、除草剤に使用される有機リン系化合物や、塗装作業などに使用されるトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶剤が挙げられる。
【0029】
ガス吸着層に繊維状活性炭を用いる場合、そのBET比表面積は、700〜3000m
2/gが好ましく、1000〜2500m
2/gがより好ましい。BET比表面積が上記範囲未満であると、十分な防護性を得るために多くの活性炭が必要となり材料が重くなり、柔軟性が劣ることが懸念される。一方、上記範囲より大きくなると、吸着したガス状有機化学物質を脱離する問題が起こりうる。
【0030】
ガス吸着層に含有する繊維状活性炭の質量としては、50〜300g/m
2が好ましく、70〜250g/m
2がより好ましい。質量が上記範囲未満であると、吸着できる容量が小さくなり使用時間が制限される。一方、上記範囲より大きくなると、材料の柔軟性が劣ることが懸念される。
【0031】
前記繊維状活性炭の原料としては、綿、麻といった天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸法によるといった再生セルロース繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール系繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が挙げられるが、得られる繊維状活性炭の物性(強度等)や吸着性能から再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維が好ましい。繊維状活性炭は、従来公知の方法によって製造されることができるが、例えばこれらの原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛に必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活することによって製造されることができる。
【0032】
ガス吸着層の作成方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えばシート基材にガス吸着材をバインダーにより接着する方法、ガス吸着材を適当なパルプおよびバインダーを含めスラリー状とし、湿式抄紙機により抄造する方法、またはガス吸着材の原料繊維をあらかじめ製織、製編、不織布化し、必要に応じて耐炎化処理したのち炭化・賦活する方法を採用することができる。
【0033】
ガス吸着層は、織物、編物、不織布、またはフェルトのいずれかの形態を有することが好ましい。これらのうち織物または編物の形態が通気性、積層の容易性、柔軟性などの面からより好ましい。
【0034】
液遮断層とガス吸着層の積層手段としては、通気性を考慮すると、部分的に接着されていることが好ましい。部分接着に使用する接着剤としては、特に限定されないが、合成ゴム、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂系、ポリエステル系、塩化ビニル等の溶剤型または無溶剤接着剤が好ましい。なお、溶剤系接着剤を使用する場合には、接着剤に含有する有機溶剤がガス吸着層により吸着され、ガス吸着性能が低下する恐れがあるため、脱着工程により十分に接着剤中の溶剤を気化させる必要がある。ガス吸着層に吸着された溶剤の脱着方法については、接着剤に使用されている溶剤の種類に応じて設定する必要がある。ガス吸着層に対する残存溶剤率は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0035】
部分接着の方法としては、特に限定されないが、柔軟性、通気性等を考慮すると、グラビア方式やスクリーン方式、スプレー塗工等により非全面のドット状、格子状、スパイラル状、棒状に接着剤を均一に塗布して接着する方法が好ましい。なお、接着剤は、液遮断層面またはガス吸着層面のいずれでも塗布することが可能であるが、ガス吸着性能を考慮すると、液遮断層面へ塗布することが好ましい。
【0036】
接着剤の塗布量としては、5〜50g/m
2であることが好ましく、10〜40g/m
2であることがより好ましい。塗布量が上記範囲未満であると、接着強度の低下の問題が生じ、一方、上記範囲を越えると、柔軟性と通気性が低下する原因となる。
【0037】
部分接着時の接着面積の割合(ガス吸着層の面積に対する接着剤塗布面積の割合)は5〜80%であることが好ましく、10〜70%であることがより好ましい。割合が上記範囲未満であると、接着強度が低下する問題が発生し、一方、上記範囲を越えると、接着剤の塗布量が大きくなり、部分接着にはなりにくく、柔軟性、通気性が低下する問題が発生する。
【0038】
グラビア方式、スクリーン方式、またはスプレー方式により部分接着させる場合、使用するグラビアロール、スクリーンまたはスプレーノズル条件等は、接着面積および接着剤塗布重量に応じて適宜選択することができる。グラビア方式の場合には、グラビアの線数、深度により、スクリーン方式の場合には、メッシュ厚みと開口率、スプレー方式の場合には、ノズル形状、ノズル圧等によりこれらを任意に設定することが可能である。
【0039】
液遮断層とガス吸着層との接着剤を介した接着界面での剥離強度は、材料の長さ方向と幅方向の両方において30gf/cm以上であることが好ましく、40gf/cm以上であることがより好ましい。剥離強度が低いと、液遮断層とガス吸着層の剥離が生じ、ガス吸着層の強度または衣服としたときの取り扱い性等の問題が発生する。剥離強度の上限は、現実的には150gf/cmである。
【0040】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護材料の質量としては、500g/m
2以下が好ましく、400g/m
2以下がより好ましい。積層体の質量が上記範囲を越えると、重量が重く柔軟性に乏しい材料にとなり、防護衣服とした場合には、着用性、運動追従性、使用感を満足出来ないといった問題となる。質量の下限は、現実的には100g/m
2である。
【0041】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料の厚みとしては、5.0mm以下が好ましく、4.0mm以下がより好ましい。厚みが上記範囲を越えると、積層体のごわつきが大きくなり、防護衣への加工性が悪くなる。厚みの下限は、現実的には1.0mmである。
【0042】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料の柔軟性の指標となる剛軟度は、材料の長さ方向と幅方向の両方において0.08N・cm以下であることが好ましく、0.05N・cm以下であることがより好ましい。剛軟度が上記範囲を越えると、材料が堅くなり、吸着シートとしての加工が困難になる。剛軟度の下限は、現実的には0.002N・cmである。
【0043】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料の通気性は、5〜100cm
3/cm
2・sであることが好ましく、10〜80cm
3/cm
2・sであることがより好ましい。通気性が上記範囲未満では、通気性が劣り、上記範囲を越えると接着が不充分な材料となり、剥離の問題が生じ、さらには、耐粒子性に劣ることがある。
【0044】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料のトルエン吸着性能(トルエンガス平衡吸着量)としては、20g/m
2以上であることが好ましく、25g/m
2以上であることがより好ましい。トルエン吸着性能が上記範囲未満では、吸着性が劣りガスに対する防護性が劣る結果となる。トルエン吸着性能の上限は、現実的には200g/m
2である。
【0045】
防護衣材料の液状有機化学物質に対する防護性をより向上させるために、ガス吸着層にあらかじめはっ水はつ油加工を施した材料を使用してもよい。はっ水はつ油加工は従来公知のいかなる方法でもよく、特に限定されるものでない。防護衣材料を構成するガス吸着層のJIS L 1092(2009) 7.2に記載の方法によるはっ水度試験(スプレー試験)を実施した場合のはっ水度が2級以上、AATCC Test Method 118法による撥油度が3級以上であることが好ましい。
【0046】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料に、機械的強度の大幅な向上を目的としたり、対象ガスが複数にわたる時などは、液防護層およびガス吸着層をそれぞれ必要枚数重ね合わせて使用することは有効である。
【0047】
液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料の最も外側に外布を、最も内側に内布を、少なくともそれぞれ1層以上必要に応じて設けても良い。
【0048】
外布の目的としては、外部から与えられる機械的な力から液防護層およびガス吸着層を保護することと、はっ水性とはつ油性が付与されている織物、編物、または不織布を外布に適用することで、耐液浸透性をさらに向上させることが可能となる。外布としては、本発明の液遮断層と同様の手法により得られるJIS L1092(2009) 7.2に記載のはっ水度試験(スプレー試験)を実施した場合のはっ水度が2級以上、AATCC Test Method 118法によるはつ油度が3級以上である織物、編物、または不織布などが好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。液遮断層とガス吸着層の積層体からなる防護衣材料と外布とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、防護衣服を作製してもよい。
【0049】
内布の目的としては、外部から与えられる機械的な力から液防護層およびガス吸着層を保護する役割と防護衣着用者の汗によるべたつき感を抑制する役割である。内布としては、織物、編物、不織布、または開孔フィルム等の材料があげられるが、通気性、柔軟性等の観点から粗い密度で製織または製編された織物もしくは編物が好ましい。液防護層とガス吸着層の積層体からなる材料と内布とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、または、あらかじめガス吸着層とキルティング加工した後、液遮断層と積層を行っても良い。キルティング加工は、従来公知の方法を採用することができ、ポリエステル、ナイロン、綿等のミシン糸が好ましく使用される。液状物質に対する防護性を考慮すると、撥油性ミシン糸を使用することが特に好ましい。
【0050】
液防護層およびガス吸着層に外布および/また内布をさらに積層した防護衣材料の質量としては、700g/m
2以下が好ましく、600g/m
2以下がより好ましい。質量が700g/m
2を超えると防護衣服の重量が大きくなり熱ストレスの原因となる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例および比較例を用いて本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例に記載の評価方法は以下の通りである。
【0052】
(1)はつ油度
AATCC Test Method 118法による。
【0053】
(2)はつ油度の経時変化
はつ油加工後1ヶ月経過品のAATCC Test Method 118法による。
【0054】
(3)珪素含有率
アルバック・ファイESCA5801MCを用いて、全元素スキャンを行い、その後検出された元素と存在が予想される元素についてナロースキャンを行い、存在比を評価した。
【0055】
<実施例1>
液遮断層を以下の方法で作製した。22ゲージ6枚筬ダブルラッセル機により、地糸としてナイロンフィラメント糸(84dtex、24フィラメント)を、パイル糸としてナイロンフィラメント(176dtex、モノフィラメント)を夫々供給し、図
1の組織および糸配列で経編地を編成した後精錬し、パイル先端部を熱溶融し球状物を形成させた。
その先端溶融パイル布のESCAによる珪素含有率は、0.5atom%であった。また、液遮断層を3wt%のフッ素系撥水剤(日華化学株式会社製 NKガードS−11 PFOAフリー)の加工浴に浸漬して乾燥し、100℃で乾燥処理し、150℃まで上げてキュアを施した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度および1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0056】
<実施例2>
液遮断層を以下の方法で作製した。22ゲージ6枚筬ダブルラッセル機により、地糸としてナイロンフィラメント糸(84dtex、24フィラメント)を、パイル糸としてナイロンフィラメント(176dtex、モノフィラメント)を夫々供給し、図
1の組織および糸配列で経編地を編成した後精錬し、パイル先端部を熱溶融し球状物を形成させた。
その先端溶融パイル布のESCAによる珪素含有率は、2.0atom%であった。また、液遮断層を3wt%のフッ素系撥水剤(日華化学株式会社製 NKガードS−11 PFOAフリー)の加工浴に浸漬して乾燥し、100℃で乾燥処理し、150℃まで上げてキュアを施した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度および1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0057】
<実施例3>
液遮断層を以下の方法で作製した。22ゲージ6枚筬ダブルラッセル機により、地糸としてナイロンフィラメント糸(84dtex、24フィラメント)を、パイル糸としてナイロンフィラメント(176dtex、モノフィラメント)を夫々供給し、図
1の組織および糸配列で経編地を編成した後精錬し、パイル先端部を熱溶融し球状物を形成させた。
その先端溶融パイル布のESCAによる珪素含有率は、7.0atom%であった。また、液遮断層を3wt%のフッ素系撥水剤(日華化学株式会社製 NKガードS−11 PFOAフリー)の加工浴に浸漬して乾燥し、100℃で乾燥処理し、150℃まで上げてキュアを施した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度および1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0058】
<実施例4>
液遮断層を以下の方法で作製した。下層としてPET製スパンレース不織布(ユウホウ株式会社製、質量40g/m
2)を使用し、該PET製スパンレース不織布の片面に、ポリエステル系不織布状熱可塑性接着剤(呉羽テック株式会社製「ダイナック(登録商標)LNS0015」、質量15g/m
2)を重ね合わせた。該ポリエステル系不織布状熱可塑性接着剤側の表面へ、Ny製メルトブローン不織布(平均単繊維直径0.5μm、質量15g/m
2)を重ね合わせた。その後、該ポリウレタン製ナノファイバー不織布側に、前記ポリエステル系不織布状熱可塑性接着剤を重ね、その上に前記PET製スパンレース不織布を積層し、加熱ローラで圧着することで液遮断層を作製した。その液遮断層のESCAによる珪素含有率は、0atom%であった。また、液遮断層を3wt%のフッ素系撥水剤(日華化学株式会社製 NKガードS−11 PFOAフリー)の加工浴に浸漬して乾燥し、100℃で乾燥処理し、150℃まで上げてキュアを施した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度および1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0059】
<参考例>
液遮断層を処理するフッ素系撥水剤として、旭硝子株式会社製「AG−7105(PFOA含有)」を使用した以外は実施例1と同様の方法で液遮断層を作製した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度および1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0060】
<比較例1>
先端溶融パイル布を精練をせずに使用したため、そのESCAによる珪素含有率が、12.0atom%となった以外は実施例1と同様の方法により防護衣材料を作製した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度および1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0061】
<比較例2>
先端溶融パイル布へのはっ水剤をシリコン系はっ水剤(日華化学社製 ドライポン600E)とした以外は実施例1と同様の方法により防護衣材料を作製した。得られた液遮断層のESCAによる珪素含有率、はつ油度及び1ヶ月経過後のはつ油度をそれぞれ表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜4の防護衣材料は、はつ油性およびはつ油性の経時変化において良好であるのに対して、比較例1、2の防護衣材料は、はつ油性が低く、比較例の防護衣材料は、いずれかの評価項目で実施例よりも劣るものであった。
【課題】液状有機化学物質の防護性能に優れ、さらには、PFOAフリーの加工剤を使用した場合に特に顕著である、はっ水、はつ油性能の低下を抑制し、優れた液浸透抑制能をもつ防護衣材料を提供することにある。
【解決手段】ESCA(Electron Spectroscope for Chemical Analysis)測定での珪素検出量が10atom%以下である液遮断層を含み、前記液遮断層は炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系はっ水はつ油加工剤が塗布されていることを特徴とする防護衣材料。