【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属元素がニッケルおよび/またはコバルトであり、前記第6族元素がモリブデンおよび/またはタングステンであることを特徴とする請求項1記載の燃料油の製造方法。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの削減に対する社会的要請の高まりや、原油価格の高騰および石油資源の保全の必要性といった観点から、従来の石油に替わる燃料油の原料として、非枯渇性資源であり、大気中の二酸化炭素濃度を増加させない(いわゆる「カーボンニュートラル」な)バイオマス系原料が注目を集めている。
【0003】
バイオマス系原料より生産されるバイオ燃料としては、サトウキビやトウモロコシ等に含まれる糖質の直接発酵、あるいは間伐材等に含まれるセルロースを分解して得られる糖質の発酵により得られるバイオアルコール燃料、動植物油脂のエステル交換反応により得られる脂肪酸メチルエステルを燃料油として使用するバイオディーゼル燃料(BDF)等が知られている。これらのうち、サトウキビやトウモロコシ等を原料とするバイオアルコール燃料には、食糧の安定供給への影響、水分の除去に多大なエネルギーを必要とすること、航空燃料への適用が困難なこと等の課題が存在する。セルロースを原料とするバイオアルコール燃料には、製造コストが高いことや、やはり航空燃料への適用が困難なこと等の課題が存在する。
【0004】
バイオディーゼル燃料は、従来の石油系燃料に添加または混合して用いられていることから(例えば、特許文献1参照)、石油系原料の完全な代替技術としては未だ不十分であると共に、酸化による劣化や低温固化等の課題も存在する。また、副生するグリセリンの処理や生成油の洗浄が必要なため製造コストが高いことが、価格競争が激しくなりつつある運輸業界への普及の障害となっているのが現状である。
さらに、油脂を構成する脂肪酸基の炭素数が多すぎたり、直鎖状であるために、そのままでは十分なオクタン価が得られない等の課題も存在する。
【0005】
上記のような課題に鑑みて、減圧軽油水素化分解装置等を用いて、水素ガスや触媒の存在下で動植物油を分解するプロセスにより得られ、炭化水素系化合物を主成分とするバイオハイドロクラッキング燃料(BHF)が提案されている。分解の過程において、カルボキシル基の還元や、炭化水素鎖の短縮、直鎖アルキル基の分岐鎖アルキル基への異性化等の反応が進行し、所望の炭素数や分岐を有する炭化水素化合物からなる混合物が得られる(例えば、特許文献2〜7参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2〜4、6〜7記載の軽油組成物の製造は、2〜13MPaという高い水素圧力の下で行われるため、高圧容器を必要とすることから、これらの軽油組成物については、製造コストが高くなるという課題が存在する。
特許文献5記載の輸送燃料の製造についても、水素化処理は約0.7〜約14MPaという高い水素圧力を必要とする。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、水素圧力を低減しつつも、脂肪酸トリグリセリドを含む原料油から、n−パラフィンまたはイソパラフィンを主成分とする燃料油またはその原料を安価かつ高収率に製造できる原料油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の[1]〜[1
2]のいずれかに記載の燃料油の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
[1] 脂肪酸トリグリセリドを含む原料油と、水素ガスとを、水素圧力
1MPa以下の条件下で、周期表の第9族または第10族に属する1または複数の金属元素および周期表の第6族に属する1または複数の第6族元素酸化物を多孔質金属酸化物担体上に担持させた触媒と接触させ、n−パラフィンおよびイソパラフィンの一方または双方を主成分とする燃料油を製造する工程を有し、前記触媒に含まれる前記第6族元素の前記金属元素に対する重量比が、金属換算で1.0を超えない燃料油の製造方法。
[2] 前記金属元素がニッケルおよび/またはコバルトである上記
[1]記載の燃料油の製造方法。
[3] 前記金属元素がニッケルであり、前記第6族元素がモリブデンである上記
[2]記載の燃料油の製造方法。
[4] 前記多孔質金属酸化物担体がγ−アルミナまたはその修飾物である上記[1]から
[3]のいずれか1項記載の燃料油の製造方法。
[5] 前記原料油と、水素ガスと、前記触媒とを、
液空間速度0.5〜20hr
-1、反応温度250〜400℃の条件下で接触させる上記[1]から
[4]のいずれか1項記載の燃料油の製造方法。
[6] 前記原料油に含まれる脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸基組成における炭素数8〜14の飽和脂肪酸基の含有量が40重量%以上であることを特徴とする上記[1]から
[5]のいずれか1項記載の燃料油の製造方法。
[7] 前記脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸基組成におけるラウリン酸の含有量が40重量%以上である上記
[6]記載の燃料油の製造方法。
[8] 前記原料油が植物または細菌類由来の油脂である上記[1]から
[7]のいずれか1項記載の燃料油の製造方法。
[9] 前記植物由来の油脂が、2種類以上の植物に由来する油脂の混合物である上記
[8]記載の燃料油の製造方法。
[10] 前記植物由来の油脂がココナッツ油もしくはパーム核油または両者の混合物である上記
[8]または
[9]記載の燃料油の製造方法。
[11] 前記植物由来の油脂が藻類由来の油脂であることを特徴とする上記
[8]または
[9]記載の燃料油の製造方法。
[12] 得られた前記燃料油を主成分とする燃料油が、ASTM D 7566に規定された航空油燃料の要件を満たしている上記[1]から
[11]のいずれか1項記載の燃料油の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、2MPa以下、好ましくは1MPa以下という低い水素圧力下で、原料油に含まれる脂肪酸トリグリセリドを水素化分解することにより、燃料油の原料となるn−パラフィンおよびイソパラフィンの一方または双方を主成分とする燃料油を安価かつ高収率で製造できる。そのため、植物性油脂等のカーボンニュートラルな原料から、高品位な燃料油を低コストで製造できる。したがって、従来の化石燃料由来の燃料油に対する有力な代替燃料を提供でき、ひいては化石燃料の枯渇、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの削減等の環境問題に対し、有効な解決策を提示するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次いで、本発明を具現化するための具体的な実施形態について説明する。
本発明の燃料油の製造方法の実施に用いられる触媒(以下、「触媒」と略称する。)は、周期表の第9族または第10族に属する1または複数の金属元素および周期表の第6族に属する1または複数の第6族元素の酸化物を多孔質金属酸化物担体上に担持させたものである。
【0013】
多孔質金属酸化物担体としては、アルミナや、アルミナを主成分としたシリカ等の複合酸化物を含有するもの等を使用することができる。これらのうち、その触媒の比表面積を大きくする観点から、アルミナまたはアルミナを主成分とする修飾アルミナが好ましい。上記アルミナとしては、多孔質であるγ−アルミナ(γ−Al
2O
3)が特に好ましいが、α−アルミナ、β−アルミナ、非晶質アルミナなどであってもよい。
【0014】
担体の主成分であるアルミナは、アルミニウム塩をアルカリで中和して得られる水酸化アルミニウムを熱処理する方法、アルミニウム塩とアルミン酸塩を中和または加水分解する方法、あるいはアルミニウムアマルガムまたはアルミニウムアルコレートを加水分解する方法のいずれの方法を用いて製造してもよく、これらの方法以外に市販のアルミナ中間体やベーマイトパウダー等を前駆体として使用して製造してもよい。
【0015】
多孔質無機酸化物担体は、アルミナの他にもシリカ(SiO
2)、シリカ−アルミナ(SiO
2/Al
2O
3)、ボリア(B
2O
3)、チタニア(TiO
2)、マグネシア(MgO)、活性炭、五酸化二リン(P
2O
5)またはこれらの複合酸化物等を含んでもよい。
【0016】
さらに、上記多孔質無機酸化物担体は、シリカ−アルミナ(SiO
2/Al
2O
3)としてゼオライト(Zeolite)を含んでもよい。ゼオライトは、結晶中に微細孔を有するアルミノケイ酸塩の総称であり、その具体例としては、アミサイト(単斜晶系)、アンモニウム白榴石、方沸石、バレル沸石、ベルベルゲイト、ビキタイト、ボッグサイト、菱沸石、灰菱沸石、ソーダ菱沸石、カリ菱沸石、斜プロチル沸石、カリ斜プロチル沸石、ソーダ斜プロチル沸石、灰斜プロチル沸石、コウルス沸石、ダキアルディ沸石、灰ダキアルディ沸石、ソーダダキアルディ沸石、エディトン沸石、剥沸石、エリオン沸石、ソーダエリオン沸石、カリエリオン沸石、灰エリオン沸石、フェリエ沸石、苦土フェリエ沸石、カリフェリエ沸石、ソーダフェリエ沸石、ガロン沸石、ギスモンド沸石、グメリン沸石、ソーダグメリン沸石、灰グメリン沸石、カリグメリン沸石、ゴビンス沸石、ゴナルド沸石、重土十字沸石、輝沸石、灰輝沸石、ストロンリチウム輝沸石、ソーダ輝沸石、カリ輝沸石、濁沸石、白榴石、灰レビ沸石、ソーダレビ沸石、中沸石、ソーダ沸石、十字沸石、ソーダ十字沸石、カリ十字沸石、灰十字沸石、ポルクス石、スコレス沸石、ステラ沸石、束沸石、灰束沸石、ソーダ束沸石、トムソン沸石、ワイラケ沸石、湯河原沸石等の天然ゼオライト化合物およびA型ゼオライト、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、ZSM−5ゼオライト等の合成ゼオライト化合物が挙げられる。
【0017】
また、多孔質金属酸化物担体としてゼオライトを用いる場合、その構造は特に制限されず、例えば、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、ZSM−5ゼオライト等であってもよく、これらの任意の2以上を含む混合物であってもよい。
【0018】
「周期表の第9族または第10族」とは、それぞれ、長周期型(IUPAC形式)周期表の第9族または第10族を意味し、これらの族に属する金属元素の具体例としては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)が挙げられる。これらの金属元素のうち、触媒活性、価格等の点で好ましいのはコバルトおよびニッケルであり、特に好ましいのはニッケルである。触媒はこれらの金属のうち1種、または任意の2種以上を任意の割合で含んでおり、これらは金属の形態で多孔質金属酸化物担体の表面に担持されている。
【0019】
「周期表の第6族」とは、長周期型(IUPAC形式)周期表の第6族を意味し、これらの族に属する元素(本発明において「第6族元素」という。)の具体例としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)が挙げられる。これらのうち好ましいのはモリブデンおよびタングステンであり、特に好ましいのはモリブデンである。触媒はこれらの金属のうち1種、または任意の2種以上を任意の割合で含んでおり、これらは酸化物の形態で多孔質金属酸化物担体の表面に担持されている。
【0020】
周期表の第9族または第10族に属する金属元素は、原料油に含まれる脂肪酸トリグリセリドの水素化分解反応に対する触媒活性を有しており、周期表の第6族に属する元素の酸化物は、触媒への塩基性の付与や、上記の金属の分散性の向上に寄与していると考えられる。周期表の第9族または第10族に属する金属元素に対する第6族元素の重量比は、金属換算で1.0を超えない。すなわち、周期表の第9族または第10族に属する金属元素の重量をw
1、第6族元素の金属換算重量をw
2とした場合、(w
2/w
1)≦1である。w
2/w
1が1を超えると水素化分解活性が低下するため、原料油の変換効率および炭化水素の収率が低下する。w
2/w
1の好ましい範囲は0.05以上1.0以下、より好ましくは0.1以上0.7以下、さらに好ましくは0.15以上0.5以下である。
【0021】
触媒は、多孔質金属酸化物担体に第6族元素の塩を含む水溶液および周期表の第9族または第10族に属する金属の塩を含む水溶液を含浸させ、焼成後、水素還元処理を行うことにより製造される。触媒の製造に用いられる塩は、水溶性を有している限りにおいて特に制限されず、硝酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、カルボン酸塩等の有機酸塩を用いることができる。なお、第6族元素の塩としては、比較的に安価に入手可能なポリ酸塩またはヘテロポリ酸塩が好ましく用いられる。第6族元素の塩および周期表の第9族または第10族に属する金属の塩は、両者を含む水溶液を含浸後、焼成および水素還元処理を行うことにより同時に担持させてもよいが、どちらか一方を含浸させ、焼成および水素還元後、他方について含浸させ、焼成および水素還元を行うようにしてもよい。あるいは、含浸および焼成を順次行った後、水素還元処理を行うようにしてもよい。
【0022】
燃料油の製造に用いられる原料油としては、脂肪酸トリグリセリドを主成分として含有している任意の動物性または植物性油脂を特に制限なく用いることができる。原料油に含まれる脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸基組成(脂肪酸基の炭素数および不飽和度)は、得られる燃料油を構成する各炭化水素化合物の炭素数および含有率等に影響を与えるため、所望の燃料油に要求される性能や炭素数等に応じて適当な原料油を適宜選択して用いることができる。原料油として用いられる油脂の具体例としては、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油(キャノーラ油)、米油、糠油、椿油、サフラワー油 (ベニバナ油)、パーム核油、ココナッツ油、綿実油、ひまわり油、荏油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、カカオバター、パーム油、海藻類や微細藻類等の藻類の産生する油脂等の植物性油脂、魚油、鯨油、鮫油、肝油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、乳脂、バター等の動物性油脂、細菌類が産生する油脂が挙げられる。
【0023】
上記の動物性および植物性油脂は、食品原料でもある農作物および家畜類に由来するものも多く、食品資源との競合の問題や、大量栽培が困難なため安定供給の観点から課題を有しているものも存在する。そこで、食品と競合しない原料油として、ヤトロファ油等の非食用植物由来の油脂等も用いることもでき、なかでも、繁殖力に優れ、単位体積あたりの油脂の産生量が多く、大量培養が容易な微細藻類由来の油脂を用いてもよい。微細藻類由来の原料油を用いることには、原料油の調達コストや輸送コストを大幅に低減でき、燃料油の価格を低く抑えることができるという利点も存在する。
【0024】
原料油の供給源として使用可能な微細藻類としては、ボトリオコッカス・ブラウニー(Botoryococcus braunii)、クロレラ(Chlorella)、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)類等が挙げられる。航空燃料油の製造に適した脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸基組成における炭素数8〜14の飽和脂肪酸基の含有量が40重量%以上である脂肪酸トリグリセリドを主成分とする微細藻類由来の原料油としては、例えば、受託番号FERM P−22090として寄託された微細藻類由来の油脂が挙げられる。
【0025】
燃料油のうち、航空燃料については、炭素数8〜14程度のn−パラフィンおよびイソパラフィンを主成分とし、低温特性(曇点、固化温度)に優れている必要がある。このような要求を満たすことができる燃料油を効率的に製造するための原料油としては、原料油に含まれる脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸基組成における炭素数8〜14の飽和脂肪酸基の含有量が40重量%以上である脂肪酸トリグリセリドを主成分とする原料油が好ましく、これらのうち、ラウリン酸基の含有量が40重量%以上であるものが特に好ましい。上記の動物性および植物性油脂のうち、航空燃料の原料として好ましいものの具体例としては、ココヤシの種子より採取されるココナッツ油およびアブラヤシの種子より採取されるパーム核油等や、藻類、特に微細藻類等より採取される油脂等が挙げられる。
【0026】
原料油の遊離脂肪酸含有量が高い場合、必要に応じて遊離脂肪酸を除去するための前処理を行ってもよいが、脂肪酸トリグリセリドよりも厳しい条件が必要となるものの、水素化により遊離脂肪酸を炭化水素に変換することも可能であるため、遊離脂肪酸を含む原料油をそのまま用いてもよい。
【0027】
上記の触媒および原料油を組み合わせて用いることにより、2MPa以下、好ましくは1MPa以下の低い水素圧力、250〜400℃という比較的低い反応温度の下で、効率よく燃料油を得ることができる。水素圧力を低くすることができるため、高い耐圧性を有する反応容器を用いる必要がなく、金属製の反応容器における水素脆化の影響も相対的に受けにくくなることから、製造設備による制約を受けにくく、低コストで燃料油の製造が可能になる。
【0028】
反応時の液空間速度(LHSV)は、例えば、0.5〜20hr
−1、水素/油比は、例えば、50〜4000NL/Lである。これらの数値は、原料油の組成、燃料油の要求性能(炭素数、低温流動特性等)等に応じて適宜調節される。
【0029】
このようにして得られる燃料油は、原料油に含まれる脂肪酸基の炭素数とほぼ等しい炭素数のn−パラフィンが主成分となる。イソパラフィンの含有率を向上させる必要がある場合には、白金触媒や固体酸触媒等の任意の公知の触媒を用いて異性化処理を行ってもよい。なお、多孔質金属酸化物担体としてγ−アルミナ等を使用した場合には、これが固体酸触媒として作用することにより異性化が同時に進行して、イソパラフィンの生成が認められる場合がある。このような場合には、イソパラフィンの含有率を向上させるために必要な異性化工程に要する時間を短縮でき、場合によっては異性化工程を省略できる。そのため、特にイソパラフィンの含有率を向上させる必要がある場合には、燃料油の製造コストを低減できる。
【0030】
必要に応じて、抗酸化剤、凍結防止剤等の添加剤を適量添加することにより、燃料油を得ることができる。特に、ヤシ油や微細藻類由来の油脂を原料油として使用した場合、ASTM D 7566等に規定された航空油燃料の要件を満たす燃料油が得られる。
【0031】
ASTM D 7566(米国材料試験協会)に規定された合成炭化水素を含む航空タービン燃料油に関する主要な規格は、下記のとおりである。
・炭化水素油:99.5%以上
・シクロパラフィン15%以下
・パラフィン系炭化水素油:70%〜85%
・オレフィン系炭化水素:5%以下
・芳香族系化合物:0.5%以下
・酸度:0.10mgKOH/g以下
・硫黄化合物:3ppm以下
【実施例】
【0032】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:触媒の調製
<1>γ−Al
2O
3担体の調製
濃度2.67mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液3900ccを調製すると共に、濃度14重量%のアンモニア水溶液3900ccを用意した。次に、30Lのホーロー容器に純水20Lを入れ、撹拌しながら70℃に加温し、更に撹拌を継続しながら、上記硝酸アルミニウム水溶液650ccを投入して5分間撹拌し(pH値:2.0)、次いで上記アンモニア水溶液650ccを投入して5分間撹拌する(pH値:7.4)pHスイング操作を6回繰り返し行った。得られた水酸化アルミニウムのスラリー水溶液を濾過してケーキを回収し、次いで、このケーキを純水20Lに再分散させて再び濾過する洗浄操作を3回繰り返し行い、水酸化アルミニウムの洗浄ケーキを得た。次に、洗浄ケーキを風乾して水分調整を行った後、押出成形機で直径1.6mmの棒状に成形し、120℃、3時間の条件で乾燥した後、長さ約1cm程度に粉砕し、マッフル炉にて500℃、3時間の条件で焼成してγ−アルミナ担体を得た。
【0033】
得られたγ−アルミナ担体の表面積は275m
2/g、細孔容積は0.65cc/g、平均細孔径は8.9nm(89Å)、全細孔容積に対して平均細孔径±3nm(30Å)の細孔が占める割合は91%であった。上記の方法により得られたγ−アルミナ担体の細孔径分布は非常に小さく、細孔径の揃った多孔質構造を有していることが確認できた。
【0034】
<2>水素化分解触媒の調製(1)
上記の多孔質無機酸化物担体を使用し、0.5mol/Lの濃度に調製した硝酸ニッケル水溶液97ccに上記多孔質無機酸化物担体の100gを含浸して密閉容器中にて12時間静置した後、エバポレーターにて常温で水分を除去し、電気炉にて空気中200℃、3時間の条件で焼成し、多孔質無機酸化物担体にニッケル(Ni)が担持された各焼成物を得た。次に、これら各焼成物を流通式水素還元装置に充填し、水素気流下に370℃、15時間の条件で水素還元を行い、水素化分解触媒(1)を得た。
【0035】
<3>水素化分解触媒の調製(2)
上記で得られた水素化分解触媒(1)を100gに対して、7.19gのモリブデン酸アンモニウム[(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O]を純水65.92ccに溶かした水溶液を含浸させ密閉容器中にて12時間静置した後、エバポレーターにて常温で水分を除去し、電気炉にて空気中200℃、3時間の条件で焼成し、次に、この焼成物を流通式水素還元装置に充填し、水素気流下に370℃、15時間の条件で水素還元してモリブデン酸(MoO
3)が上記水素化分解触媒基準で5重量%の割合で添加された水素化分解触媒(2)を調製した。
得られた水素化分解触媒(2)における金属Ni換算のニッケル担持量(Ni担持量)は22重量%、及びモリブデン酸(MoO
3)担持量(MoO
3担持量)は5重量%(金属Mo換算担持量:3.33重量%)であり、Mo/Niは0.15である。
【0036】
<4>水素化分解触媒の調製(3)
上記で得られた水素化分解触媒(1)を100gに、4.72gのタングステン酸アンモニウム[5(NH
4)
2・12WO
3・5H
2O]をアミノエタノール水溶液65.92ccに溶かした溶液を含浸させ密閉容器中にて12時間静置した後、エバポレーターにて常温で水分を除去し、電気炉にて空気中200℃、3時間の条件で焼成し、次に、この焼成物を流通式水素還元装置に充填し、水素気流下に370℃、15時間の条件で水素還元してタングステン酸(WO
3)が水素化分解触媒(1)基準で5重量%の割合で添加された水素化分解触媒(3)を調製した。得られた水素化分解触媒(3)における金属Ni換算のニッケル担持量(Ni担持量)は15重量%、及びタングステン酸(WO
3)担持量(WO
3担持量)は5重量%(金属W換算担持量:3.96重量%)であり、W/Niは0.26である。
【0037】
実施例2:ココナッツ油を原料油とする燃料油の製造
原料油として使用したハイブリッドココナッツ油は、ラウリン酸(12:0)45〜52重量%、ミリスチン酸(14:0)15〜22重量%、カプリル酸(8:0)6〜10重量%、カプリン酸(10:0)4〜12重量%、ステアリン酸(18:0)1〜5重量%、オレイン酸(18:1)2〜10重量%、リノール酸(18:2)1〜3重量%を主な構成脂肪酸基として含んでいた(なお、括弧内の数字は、炭素数:二重結合数を示す。また、百分率は重量%である。以下同じ。)。このようなハイブリッドココナッツ油を原料油として、下記の条件下で水素化分解を行った。
・反応温度:350℃
・LHSV:1.0h
−1
・反応圧力:0.8MPa
・H
2/脂肪酸トリグリセリドの流量比=1250NL/L
・触媒量:2.0mL
・触媒粒径:355〜600μm
なお、使用した触媒は上記実施例1の<3>で調製した水素化分解触媒(2)であり、前処理として370℃、GHSV=5000h
−1で7時間水素還元処理を行った。反応時間と転化率の関係を
図1に、得られた炭化水素の炭素数分布を
図2にそれぞれ示す。
【0038】
図1に示されるように、本反応においても転化率はほぼ100%を示し、
図2に示されるように、生成物はC
11の炭化水素がメインであり、それらのほぼ全てがノルマルパラフィンであった。また、得られた液体状の炭化水素の収率、液体炭化水素に占める航空燃料留分(C
7〜C
16)の割合を示す航空燃料留分収率および航空燃料留分の平均炭素数を算出した結果を、下記の表1に示しているが、液炭化水素収率は94.6%、航空燃料留分収率は89.7%と非常に高く、微細藻類由来の油脂より得た脂肪酸トリグリセリドを原料油として用いた場合とほぼ同等の結果が得られたことが確認された。また、曇点、酸度、硫黄化合物含有率のいずれについても、ASTM D 7566の規格を満足していた。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例3:微細藻類油脂由来の脂肪酸トリグリセリドを原料油とする燃料油の製造
受託番号FERM P−22090として寄託された微細藻類を培養し、採取した脂肪酸トリグリセリドの脂肪酸基組成(メタノールを用いたエステル交換法により生成した脂肪酸メチルエステルのGC/MS分析により分析した。)は、下記の表2に示すとおりであり、脂肪酸基組成におけるラウリン酸(C
11H
23COOH)基の占める割合が40重量%以上であることがわかる。
【0041】
【表2】
【0042】
微細藻類油脂由来脂肪酸トリグリセリドを原料油として、上記実施例2と同様の条件下で水素化分解を行った。転化率、パラフィンおよびオレフィン含有率、液炭化水素収率、航空燃料留分収率および航空燃料留分平均炭素数を表3に示す。また、燃料油における炭素数分布の測定結果を表4に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
表3に示すように、水素化分解触媒(2)を用いた場合、非常に高い炭化水素収率および航空燃料留分収率を得ることができた。また、全ての原料が脱酸素すると仮定したときの収率を100%とし、液炭化水素収率、液炭化水素中の航空燃料留分(C
7〜C
16)収率および平均炭素数を算出している。表4に示すように、生成物はC
11を中心として分布しており、奇数と偶数の炭化水素が生成されていること、奇数:偶数の割合はほぼ2:1であることが確認された。生成物のほとんどはノルマルパラフィンであるが、常温でも液体であることから、流動性に関しては問題ないと考えられる。また、−40℃まで冷却してもワックス分の結晶の析出は観察されなかった。酸度および硫黄含有量についても、ASTM D 7566の規格を満足する数値が観測された。
【0046】
なお、実施例3では、受託番号FERM P−22090として寄託された微細藻類を培養して採取された脂肪酸トリグリセリドを原料油として使用したが、既知の2種以上の植物(微細藻類を含む藻類、細菌類であってもよい。)に由来する油脂(脂肪酸トリグリセリド)を任意の比率でブレンドすることにより、例えば表2に示すような脂肪酸基組成を有する脂肪酸トリグリセリド混合物を調製し、原料油として使用してもよい。