【実施例】
【0047】
[実施例1]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ15μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0048】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
図5に示す製造装置を用いて、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。まず、元幅約6mmの炭素繊維束を48mm間隔で7本配列して開繊処理した。最初の開繊部では、繊維束1本が24mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定し、次の開繊部では24mmに開繊した開繊糸が48mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定した。炭素繊維束に付与される初期張力を150gに設定し、炭素繊維束を搬送速度5m/分で搬送した。開繊部における吸引気流の流速(炭素繊維束のない開放状態)は20m/秒で、開繊される炭素繊維に吹き付けられる熱風の吹き出し温度は120℃とした。縦振動付与部は、振動回数600rpmで、炭素繊維束を押圧するロールのストローク量は10mmに設定した。横振動付与部は、振動回数が450rpmで、開繊糸を幅方向に振動させるストローク量は5mmに設定した。なお、縦振動付与部のロールの直径は10mm、横振動付与部のロールの直径は25mmで、それぞれ表面は梨地加工を施している。
【0049】
以上のように設定した開繊機構に炭素繊維束を搬送して、シート幅約340mmの補強繊維シート材を連続形成した。補強繊維シート材は、炭素繊維が幅方向に均一に分散されて隙間が生じておらず、その目付け量は約21g/m
2であった。
【0050】
連続形成される補強繊維シート材をそのまま連続搬送しながらPPS樹脂フィルムを離型シートにとともに重ね合わせて挟み込み、加熱加圧ロール及び冷却加圧ロールの間を通過させた。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は250℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分である。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0051】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は220℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m
2(片面の目付け、両面の合計42g/m
2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0052】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、
図4に示すように重ね合わせて
図6に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。
図6に示す製造装置では、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部の各ブロック部を幅1000mm、シート材の搬送方向長さ350mmに設定した。上下ブロック部及びシート材の間には、加圧部材として厚さ2mmのC/Cコンポジット(株式会社アクロス製)をそれぞれセットして、さらに、上下ブロック部とC/Cコンポジットとの間には膨張黒鉛シート(PERMA―FOIL、厚み0.5mm、東洋炭素株式会社製)をクッション部材としてセットした。
【0053】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度150℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度320℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0054】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m
2及び樹脂重量含有率約40%のプリプレグシート材が得られた。
図9は、プリプレグシート材の断面を撮影した写真である。得られたプリプレグシート材は、若干のボイド(色の黒い部分)が存在するものの、各熱可塑性樹脂材料が炭素繊維間に含浸した状態となっている。写真では、多数の小さい白い丸が炭素繊維の断面である。表層にはPPS樹脂領域(色の薄い部分)が形成され、内層にはPA6樹脂領域(色の濃い部分)が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0055】
[実施例2]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例1と同じものを用いた。
【0056】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0057】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例1の場合と同様に重ね合わせ、
図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0058】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0059】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m
2及び樹脂重量含有率約40%のプリプレグシート材が得られた。
図10は、プリプレグシート材の断面を撮影した写真である。得られたプリプレグシート材は、実施例1と同様に、PPS樹脂領域及びPA6樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例1に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。
【0060】
[実施例3]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム;ビクトレックス株式会社製(厚さ16μm)
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ15μm)
【0061】
<熱可塑性樹脂材料の流動特性について>
PEEK樹脂及びPEI樹脂について、流動特性の違いについて検証した。JIS K7199 キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法に準じ、キャピラリーレオメータを用いて、PEEK樹脂(ビクトレックス社製グレード450G)及びPEI樹脂(SABIC社製Ultem1000)の見掛け粘度を測定した。温度370℃で見掛けせん断速度1.216×e
2/秒の条件において、PEEK樹脂の見掛け粘度は1.447×e
3Pa・s、PEI樹脂の見掛け粘度は1.006×e
3Pa・sであった。この測定結果から、PEEK樹脂の方がPEI樹脂に比べて粘度が高く、流動性が低い特性を有していることがわかる。
【0062】
したがって、こうした所定温度状態で流動特性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いることで、マトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。なお、温度状態の設定については、成形圧力との関係で樹脂材料の流動する程度に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
また、同じ種類の樹脂材料でも流動特性が異なる場合には、それらを組み合せることもできる。例えば、PEI樹脂では、SABIC社製Ultem1000のメルトフローレート(337℃、6.6kgf)は9g/10分で、SABIC社製Ultem1010ではメルトフローレート(337℃、6.6kgf)は17.8g/10分とされており、同じ樹脂材料でも流動特性か異なっている。この場合には、Ultem1010の方が流動性が高いと考えられるため、同じ種類の樹脂材料でも流動性の違いを利用してマトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。
【0064】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の製造装置を用いて製造した。実施例1と同様に、炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材としてPEEK樹脂フィルムと重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給した。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。冷却加圧ロールから搬出した後上下両側の離型シートを巻き取り、目付け約21g/m
2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0065】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は300℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け約21g/m
2(片面の目付け、両面の合計42g/m
2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0066】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、
図4に示すように重ね合わせて実施例1と同様にプリプレグシート材を製造した。
【0067】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度250℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度380℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0068】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m
2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、
図9に示す写真と同様に、表層にはPEEK樹脂層が形成され、内層にはPEI樹脂層が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0069】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES−FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は119.5×10
-4N・m
2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は3.3×10
-4N・m
2/mであった。
【0070】
[実施例4]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例3と同じものを用いた。
【0071】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例3と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0072】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例2の場合と同様に重ね合わせ、
図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0073】
加熱加圧ロールの加熱温度は340℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0074】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m
2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、
図10に示す写真と同様に、PEEK樹脂領域及びPEI樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例3に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。
【0075】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES−FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は57.6×10
-4N・m
2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は0.7×10
-4N・m
2/mであった。実施例1で製造された樹脂が十分含浸したプリプレグシート材に比べ、曲げ剛性が低く、曲がり易いプリプレグシート材が得られたことがわかる。
【0076】
[実施例5]
実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層して
図8に示す加熱加圧成型工程を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例4において得られた半含浸状態のプリプレグシート材を用いて、繊維方向を0度として、[45度/0度/−45度/90度]2Sの構成となるようにプリプレグシート材を積層し、300mm×300mmのサイズの積層材を製造した。製造した積層材を平板状の成形型体の間にセットした。成形型体の表面には離型剤を塗布した。
【0077】
ここで、[45度/0度/−45度/90度]2Sという表記法は、積層材の構成を表わすもので、45度、0度、−45度、90度は繊維方向を示し、[ ]2Sは[ ]内の積層構造を2回繰り返し、厚さ方向に対称(Symmetry)となるように積層することを示している。例えば、[0度/90度]2Sは、0度、90度、0度、90度、90度、0度、90度、0度の構成で8枚のプリプレグシート材を積層した構造となる。
【0078】
シート片をセットした成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃、圧力2MPaで15分間の加熱プレス成形を行った。その後、成形型体を冷却プレス装置に設置して、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0079】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。
図11は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、ボイドの無い積層板が得られたことがわかる。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0080】
[実施例6]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、
図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例5と加熱加圧成形の条件を変えることで、層間に樹脂層が形成された積層板を得た。まず、実施例5と同様の方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、
図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度350℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて低温高圧で加熱加圧成形しているため、低温にすることでシート片の表層のPEEK樹脂を流動性の低い状態に設定し、かつ、高圧にすることでPEEK樹脂及びPEI樹脂とも炭素繊維の間への含浸が促進されるように設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0081】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。
図12は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、各層間にPEEK樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。さらに、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内には大きなボイドもなく、積層板として品質の良いものが成形できた。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0082】
[実施例7]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、
図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。この例では、実施例5に比べて加熱加圧成形時間の条件を変えて成形を行った。まず、実施例5と同様な方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、
図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃及び圧力4MPaで3分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて、高圧で短時間の成形時間に設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで水冷冷却を行った。実施例5及び6に比べて、水冷冷却にすることで短時間で冷却するようにした。約5分間室温まで冷却されたところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0083】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。
図13は、積層板の断面を撮影した写真である。この例では、熱可塑性樹脂材料の含浸時間を短時間に設定しても十分な含浸が行われることを確認できた。これは、補強繊維シート材の厚さを薄くすることで、厚み方向に配列される補強繊維の数が減少し、樹脂の含浸距離が短くなったことによる効果と考えられる。なお、積層板の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚みと炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0084】
[実施例8]
半含浸状態のプリプレグシート材及び熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層した後、
図8に示す加熱加圧成型を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ50μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0085】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の方法により、厚さ50μmのPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が目付け21g/m
2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面に熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、及び、厚さ20μmのPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m
2(片面の目付け、両面の合計42g/m
2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0086】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材をそれぞれ1枚ずつ用いて重ね合わせ、
図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。2枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0087】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。得られたプリプレグシート材は、実施例2と同様に、層間に樹脂の未含浸部分が拡がって樹脂が半含浸状態となっていた。
【0088】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の製造>
実施例5と同様に、製造された半含浸状態のプリプレグシート材から、繊維方向を0度方向として、45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片を複数枚切り出した。また、PA6樹脂フィルムの両面に炭素繊維シートを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材から、繊維方向を0度方向として、0度方向、90度方向、−45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片をそれぞれ複数枚切り出した。
【0089】
熱可塑性樹脂補強シート材から切り出したシート片を、[0度/−45度/90度]Sの構成で積層し、その両表層にプリプレグシート材から切り出したシート片を配置して、成形型体の間にセットした。この場合、セットされたシート片の積層構成は、[45度/0度/−45度/90度]Sとなっている。
【0090】
図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度280℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約15分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0091】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方の熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。
図14は、積層板の−45度方向と直角方向に切断した断面を撮影した写真である。写真を見ると、両側表層にPPS樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。そして、PPS樹脂は、炭素繊維に沿って含浸してPA6樹脂に入り込んだ状態となっていることが確認された。また、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内に大きなボイドは生じておらず、成形板として品質の良いものが成形できたことが確認された。