(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の中でも、キシレン類は、ポリエステルの原料となるテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などを製造する出発原料として、極めて重要な化合物である。これらのキシレン類は、例えば、トルエンのトランスアルキル化、不均化反応などによって製造されるが、生成物中には構造異性体であるp−キシレン、o−キシレン、m−キシレンが存在する。p−キシレンを酸化することによって得られるテレフタル酸は、ポリエチレンテレフタレートの主要原料として、o−キシレンから得られる無水フタル酸は、可塑剤などの原料として、また、m−キシレンから得られるイソフタル酸は、不飽和ポリエステルなどの主要原料としてそれぞれ使用されるので、生成物の中からこれらの構造異性体を効率的に分離する方法が求められている。
【0003】
しかしながら、p−キシレン(沸点138℃)、o−キシレン(沸点144℃)、m−キシレン(沸点139℃)の沸点には、ほとんど差がなく、通常の蒸留方法によって、これらの異性体を分離することは困難である。これに対し、これらの異性体を分離する方法としては、p−、o−及びm−異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、融点の高いp−キシレンを冷却結晶化させて分離する晶析分離方法や、分子篩作用を有するゼオライト系吸着剤を用いて、p−キシレンを吸着分離する方法等がある。
【0004】
晶析分離によって、p−キシレンを選択的に分離する方法では、構造異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、冷却結晶化しなければならず、工程が多段階になり複雑になることや、精密蒸留や冷却結晶工程が製造コストを高める原因となる等の問題がある。そのため、この方法に代わって、吸着分離方法が現在もっとも広く実施されている。該方法は、原料のキシレン混合物が吸着剤の充填されている吸着塔を移動していく間に、他の異性体より吸着力の強いp−キシレンが吸着され、他の異性体と分離される方式である。ついで、脱着剤によりp−キシレンは系外に抜き出され、脱着後、蒸留により、脱着液と分離される。実際のプロセスとしては、UOPのPAREX法、東レのAROMAX法が挙げられる。この吸着分離法は、p−キシレンの回収率、純度が他の分離法と比較して高いが、その反面十〜二十数段に及ぶ疑似移動床からなる吸着塔により吸着と脱着を順次繰返し、吸着剤からp−キシレンを除去するための脱着剤を別途分離除去する必要があり、p−キシレンを高純度化する際には決して運転効率の良いものではなかった。
【0005】
これに対し、p−キシレンの吸着分離法の効率を向上させる試みがいくつかなされており、触媒に分離機能を持たせて反応させながら分離も行う方法が開示されている。例えば、下記特許文献1には、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶と分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶とからなるゼオライト結合ゼオライト触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示のゼオライト結合ゼオライト触媒は、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスまたはブリッジを形成するので、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶のゼオライト結合ゼオライト触媒中に占める割合が小さくなり、触媒活性低下の原因となるだけでなく、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスを形成する場合には、選択される分子の透過抵抗が大きくなりすぎて、分子篩作用が低下する傾向がある。さらに、形状保持のためのバインダー(担体)を使用せずに、第二ゼオライト結晶がバインダー(担体)としての役割を担うので、第一ゼオライト結晶が第二ゼオライト結晶によって凝集された又は塊状のゼオライト結合ゼオライト触媒が一旦得られる。凝集状または塊状の前記触媒は、使用に際して成形あるいは整粒する必要があると考えられるが、その場合にせん断・破砕によって第二ゼオライト結晶が剥離して、第一ゼオライト結晶が露出する部分が生じ、分子篩作用が低下する原因になる。
【0006】
また、下記非特許文献1には、HZSM−5ゼオライトをシリコンアルコキシドの化学気相蒸着(CVD)により修飾した触媒を使用して、トルエンのメタノールによるアルキル化及びトルエンの不均化によりp−キシレンを製造する手法が開示されている。しかしながら、一般に、トルエンの転化率を上昇させると、p−キシレンの選択率が低下し、非特許文献1に開示の方法では、これら二律背反の関係にあるトルエン転化率及びp−キシレン選択率を高度にバランスさせることができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、従来の技術では、異性化工程及び/又は吸着分離工程のような複雑な工程を経ずに高純度のパラ置換芳香族炭化水素、特には、パラキシレンを効率よく製造することはできなかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、異性化工程及び/又は吸着分離工程を行わなくても、効率よく高純度のパラ置換芳香族炭化水素を製造することを可能とする新規触媒及びその製造方法、並びに、該触媒を用いた高純度パラ置換芳香族炭化水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、MFI型ゼオライトをシリカで被覆してなり、MFI型ゼオライトの外表面積とシリカのケイ素原子数が特定の関係を満たし、シリカの担持量が特定の範囲にある触媒においては、選択性を持たないMFI型ゼオライトの外表面の酸点がシリカで被覆されているため反応に寄与しないこと、及びゼオライト細孔入口径が狭められる一方、特定構造の異性体のみが選択的に触媒活性なMFI型ゼオライト細孔へ浸入して選択的(特異的)な反応を起こすため、かかる触媒を用いることで、特定構造の異性体の選択率を高めて、高純度のパラ置換芳香族炭化水素、特には、パラキシレンを効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明のパラ置換芳香族炭化水素製造用触媒は、MFI型ゼオライトをシリカで被覆した触媒であって、
前記シリカは、前記MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのケイ素原子数が60〜130個/nm
2であ
り、
前記シリカの担持量が1〜10質量%であることを特徴とする。かかる本発明の触媒を用いることで、原料の転化率を向上させつつ、パラ置換芳香族炭化水素を高い選択性で製造することができる。
【0013】
本発明のパラ置換芳香族炭化水素製造用触媒は、前記シリカの担持量が1〜10質量%であ
り、原料の転化率の向上、及び、パラ置換芳香族炭化水素の選択性の向上の点で有利である。
【0014】
また、本発明のパラ置換芳香族炭化水素製造用触媒の製造方法は、
150〜280℃の範囲の温度で、MFI型ゼオライトにアルコキシシランを蒸着させる工程を含むことを特徴とする。かかる本発明の触媒の製造方法によれば、MFI型ゼオライトをシリカで均一に被覆して、上記の物性を満たす触媒を容易に製造することができる。
【0015】
本発明のパラ置換芳香族炭化水素製造用触媒の製造方法は、更に、MFI型ゼオライトに蒸着させたアルコキシシランに水を接触させ、アルコキシシランをシリカに変換する工程を含むことが好ましい。この場合、触媒上に残存する可能性の有るアルコキシシラン由来のアルコールを除去でき、また、反応中にアルコキシシランがシリカになった際に生成するアルコールが及ぼす反応への悪影響を排除することができる。
【0016】
また、本発明のパラ置換芳香族炭化水素の製造方法は、上記の触媒と芳香族炭化水素とを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行うことを特徴とする。かかる本発明のパラ置換芳香族炭化水素の製造方法によれば、原料の芳香族炭化水素の転化率を向上させつつ、目的生成物のパラ置換芳香族炭化水素を高い選択性で製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の触媒は、MFI型ゼオライトの外表面が不活性なシリカでコーティングされ、かつ細孔入口径が狭められているため、選択性を持たないMFI型ゼオライトの外表面での反応を抑制しつつ、MFI型ゼオライトの分子篩作用を利用して、パラ置換芳香族炭化水素を選択的に製造するのに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[パラ置換芳香族炭化水素製造用触媒]
本発明のパラ置換芳香族炭化水素製造用触媒は、MFI型ゼオライトをシリカで被覆した触媒であって、前記シリカは、前記MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのケイ素原子数が60〜130個/nm
2であることを特徴とする。
【0019】
本発明の触媒の核として使用するMFI構造を有するゼオライトは、芳香族炭化水素同士または芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応により、パラ置換芳香族炭化水素を構造選択的に製造するのに優れた触媒性能を発揮する。該MFI型ゼオライトとしては、特に限定されるものではないが、ZSM−5、TS−1、TSZ、SSI−10、USC−4、NU−4等各種のシリケート材料が、好適に用いられる。これらゼオライトは、細孔の大きさがパラキシレン分子の短径と同じ0.5〜0.6nmであるため、パラキシレンと、パラキシレンよりわずかに分子サイズが大きいオルトキシレンやメタキシレンとを区別することができ、目的のパラ置換芳香族炭化水素がパラキシレンである場合に、特に有効である。
【0020】
上記触媒の核となるMFI型ゼオライトは、特に限定されるものではないが、粒子径が100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下、より一層好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下であり、また、好ましくは0.1μm以上である。MFI型ゼオライトの粒子径が100μmを超えると、目的とする反応に必要な反応場、すなわち触媒の比表面積が非常に小さくなることから反応効率が低下し、また拡散抵抗が大きくなるため、原料の芳香族炭化水素の転化率やパラ選択性が低くなる。また、使用するMFI型ゼオライトの粒子径は、小さいほど細孔内拡散の影響を軽減できるため望ましいが、0.1μmに満たない粒子の場合には、粒子同士の凝集等により、外表面をシリカで均一に被覆することが困難となり、また、ろ過・洗浄などの工程で著しく生産効率を低下させる原因となる。なお、粒子径は、粒度分布計や走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定することができる。
【0021】
上記MFI型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比(モル比)は、特に限定されるものではないが、好ましくは20〜5000、より好ましくは25〜1000、より一層好ましくは25〜300であり、特に好ましくは25〜40である。SiO
2/Al
2O
3比が20より低い場合は、MFI構造を安定的に保持することが難しく、一方、5000より高い場合は、反応活性点である酸量が少なくなり、反応活性が低下する。
【0022】
本発明の触媒は、前述のMFI型ゼオライトをシリカで被覆してなる。ここで、被覆層のシリカは、非晶質であり、選択性を持たないMFI型ゼオライトの外表面の酸点を被覆して、反応の選択性を向上させる役割を担う。なお、該被覆層のシリカは、上記MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのケイ素原子数が60〜130個/nm
2であり、好ましくは90〜130個/nm
2、さらに好ましくは100〜130個/nm
2である。また、本発明の触媒におけるシリカの担持量は
、1〜10質量%であり
、好ましくは3〜6.8質量%である。ここで、シリカの担持量とは、触媒中のシリカの含有率を指す。MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が60個/nm
2未満(即ち、シリカのケイ素原子数がMFI型ゼオライトの外表面積1nm
2当たり60個未満)では、パラ置換芳香族炭化水素の選択性が低下し、一方、130個/nm
2を超えると(即ち、シリカのケイ素原子数がMFI型ゼオライトの外表面積1nm
2当たり130個を超えると)、原料の芳香族炭化水素の転化率が低下し、パラ置換芳香族炭化水素の収率が低下する。なお、
本発明において、「MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのケイ素原子数」及び「シリカの担持量」
は、以下のようにして求める
。
【0023】
シリカの担持量(wt%)=化学気相蒸着における重量増加量(g)/原料MFI型ゼオライトの使用量(g)×100
【0024】
単位外表面積当たりのケイ素原子数=シリカの担持量(wt%)/100/60.08×6.022×10
23/MFI型ゼオライトの外表面積(m
2/g)/10
18
[ここで、60.08はSiO
2の式量、6.022×10
23はアボガドロ定数(単位mol
-1)である。]
【0025】
なお、外表面積の測定法は次の文献の通りである。
M.Inomata,M.Yamada,S.Okada,M.Niwa and Y.Murakami,J.Catal.,100,264(1986).
具体的には、400℃で試料を乾燥させた後、室温で試料にベンゼンを吸着させ、その試料を−78℃でベンゼンを凍結させた後、−196℃で窒素、ヘリウム混合ガスを接触させて試料に窒素を吸着させ、次に−78℃にして脱着する窒素量を外表面に吸着した窒素量として、外表面積を求め
る。
【0026】
上記MFI型ゼオライトを被覆するシリカは、不均化反応及びアルキル化反応に不活性であることが望ましい。
【0027】
[触媒の製造方法]
本発明において、MFI型ゼオライトの個々の表面全体をシリカで被覆する方法は、特に限定されるものでないが、好ましくは化学気相蒸着(CVD)で行うことが好ましい。ここで、該CVDによるMFI型ゼオライトのシリカ被覆においては、例えば、(i)MFI型ゼオライトにアルコキシシランを蒸着させることで、MFI型ゼオライトをシリカで被覆した触媒を調製することができる。ここで、アルコキシシランはMFI型ゼオライトに接触した時点でシリカに変わり、また、一部アルコキシシランが残存しても反応中に分解してシリカになる。但し、アルコキシシランが残存するとメタノール等のアルコールが発生し、反応に悪影響を及ぼすおそれがあるので、事前に水蒸気処理することが好ましい。従って、上記(i)工程の後に、(ii)MFI型ゼオライトに蒸着させたアルコキシシランに水を接触させ、加水分解により残存するアルコキシシランをシリカに変換することが好ましい。また、該CVDは、流通法、即ち、MFI型ゼオライトにアルコキシシランを含有するガスを流通させて、MFI型ゼオライトにアルコキシシランを蒸着させることが好ましく、また、その後、水蒸気処理を行う場合は、水蒸気を含有するガスを流通させて、残存するアルコキシシランをシリカに変換することが好ましい。
【0028】
上記(i)MFI型ゼオライトへのアルコキシシランの吸着工程は、150〜280℃の範囲の温度で行うことが好ましい。MFI型ゼオライトへのアルコキシシランの吸着における温度が150℃未満では、アルコキシシランをMFI型ゼオライトに十分に吸着させることが難しくなり、一方、280℃を超えると、アルコキシシランのMFI型ゼオライトへの吸着が不均一になり、MFI型ゼオライトをシリカで均一に被覆することが難しくなる。なお、MFI型ゼオライトへのアルコキシシランの吸着工程は、150〜280℃の範囲の温度で実施した後、280℃を超える温度、及び/又は、150℃未満の温度で更に実施してもよい。
【0029】
また、MFI型ゼオライトへ吸着させるアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。これらアルコキシシランは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、通常、これらアルコキシシランは、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスに同伴させて、MFI型ゼオライトを充填した反応器に流通させることが好ましい。
【0030】
上記(i)工程の後において、(ii)MFI型ゼオライトを水蒸気処理する工程は、特に限定されるものではないが、280℃以下で行うことが好ましい。この範囲の温度であれば、MFI型ゼオライトの周りにシリカを均一に生成させることができる。なお、通常、水(水蒸気)は、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスに同伴させて、アルコキシシランを吸着させたMFI型ゼオライトを充填した反応器に流通させることが好ましい。
【0031】
上記(i)工程と(ii)工程は、それぞれ1回でもよいが、触媒におけるMFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が所定範囲を満たすのであれば複数回繰り返してもよい。(i)工程を繰り返すことで、最終的なシリカの担持量を上昇させ、MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数を上昇させることができる。また、(i)工程の条件(温度、時間、アルコキシシランの分圧等)を調整することで、最終的に得られる触媒におけるシリカの担持量や、MFI型ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数を調整することができる。
【0032】
上記(ii)工程の後、更に、(iii)触媒に酸素含有ガス(酸素、空気等)を流通させながら、200〜700℃で焼成を行うことが好ましい。この範囲の温度で焼成を行うことで、効率的にシリカ層を形成することができる。
【0033】
[パラ置換芳香族炭化水素の製造方法]
本発明のパラ置換芳香族炭化水素の製造方法は、上述の触媒の存在下で、芳香族炭化水素同士の反応(不均化)あるいは芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応(アルキル化)により、パラ置換芳香族炭化水素を選択的に製造する。ここで、パラ置換芳香族炭化水素とは、芳香環上に2つのアルキル置換基を有し、一方の置換基がもう一方の置換基に対してパラ位に位置する芳香族炭化水素をさす。
【0034】
原料の芳香族炭化水素としては、ベンゼンの他、トルエン等のアルキルベンゼンが挙げられるが、原料の芳香族炭化水素は、ベンゼン及びアルキルベンゼン以外の芳香族炭化水素を含んでいてもよい。なお、ベンゼン及び/又はトルエンを含む原料を用いて、パラキシレンを選択的に製造することは、本発明の特に好ましい実施態様であるが、パラキシレンを目的生成物とする場合は、原料にメタキシレン、オルトキシレンならびにエチルベンゼンを含むものは好ましくない。
【0035】
本発明に用いるアルキル化剤としては、メタノール、ジメチルエーテル(DME)、炭酸ジメチル、酢酸メチルなどが挙げられる。これらは、市販品を利用することもできるが、例えば、水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスから製造したメタノールやジメチルエーテル、あるいはメタノールの脱水反応で製造したジメチルエーテルを出発原料としてもよい。なお、ベンゼン、アルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、及びメタノール、ジメチルエーテルなどのアルキル化剤中に存在する可能性がある不純物としては、水、オレフィン、硫黄化合物及び窒素化合物が挙げられるが、これらは少ない方が好ましい。
【0036】
前記アルキル化反応におけるアルキル化剤と芳香族炭化水素の比率については、メチル基と芳香族炭化水素のモル比として5/1〜1/20が好ましく、2/1〜1/10がより好ましく、1/1〜1/5が特に好ましい。芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に多い場合は、望ましくないアルキル化剤同士の反応が進行してしまい、触媒劣化の原因となるコーキングを引き起こす可能性があるため好ましくない。また、芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に少ない場合には、芳香族炭化水素へのアルキル化反応の転化率が著しく低下する。また、芳香族炭化水素としてトルエンを使用した場合はトルエン同士の不均化反応が進行することになる。
【0037】
上記不均化反応またはアルキル化反応は、原料の芳香族炭化水素を液空間速度(LHSV)0.01h
-1以上、より好ましくは0.1h
-1以上であり、20h
-1以下、より好ましくは10h
-1以下で供給して、上述の触媒と接触させることにより行うことが望ましい。不均化反応またはアルキル化反応の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは250℃以上であり、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下であり、また、圧力が好ましくは大気圧以上、より好ましくは0.1MPaG以上、特に好ましくは0.5MPaG以上、好ましくは20MPaG以下、より好ましくは10MPaG以下、さらに好ましくは5MPaG以下である。
【0038】
不均化反応またはアルキル化反応の際には、窒素やヘリウムのような不活性ガスやコーキングを抑制するための水素を流通、または加圧してもよい。なお、反応温度が低すぎると、芳香族炭化水素やアルキル化剤の活性化が不充分であることなどから、原料芳香族炭化水素の転化率が低くなり、一方、反応温度が高すぎると、エネルギーを多く消費してしまうことに加え、触媒寿命が短くなる傾向がある。
【0039】
上記触媒の存在下で、芳香族炭化水素のアルキル化反応または不均化反応が進行すると、目的生成物のパラ置換芳香族炭化水素の他、構造異性体であるオルト置換芳香族炭化水素、メタ置換芳香族炭化水素、原料芳香族炭化水素よりも置換基の炭素数が増加したモノ置換芳香族炭化水素、未反応の芳香族炭化水素、アルキル化が進行した置換基を3つ以上有する芳香族炭化水素及び軽質ガスの生成が想定される。これらの中でも、パラ置換芳香族炭化水素の構成比率は高いほど好ましい。また、反応のパラ選択性の指標として、生成物中の炭素数8の芳香族炭化水素に着眼した場合、炭素数8の芳香族炭化水素のうちパラキシレンの選択性は、当反応一段工程で95mol%以上が好ましく、97.5mol%以上がより好ましく、99.5mol%以上がより一層好ましく、99.7mol%以上が特に好ましく、99.9mol%以上が最も好ましい。
【0040】
本発明によって得られる反応生成物は、既存の方法で分離・濃縮してもよいが、本発明では純度の極めて高いパラ置換芳香族炭化水素が選択的に得られるため、簡便な蒸留方法のみで単離することが可能である。すなわち、簡便な蒸留により、未反応の芳香族炭化水素よりも低沸点の留分、高純度パラ置換芳香族炭化水素、パラ置換芳香族炭化水素よりも高沸点の留分に分けることができる。また、パラ置換芳香族炭化水素よりも高沸点留分の生成量が極めて少ない場合は、軽質分の留去のみで高純度パラ置換芳香族炭化水素を単離することができる。なお、未反応の芳香族炭化水素は原料として再反応してもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
以下の触媒調製においては、水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)を使用した。なお、該HZSM−5は、上記の方法で測定したところ、外表面積が5.1m
2/gであった。
【0043】
(触媒Aの調製)
水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)2gを反応器に充填した。次に、0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、HZSM−5を充填し200℃に保持した反応器に3時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、200℃に保持した反応器に2時間流通させた。その後、反応器に酸素を流しながら、500℃で12時間焼成して、触媒Aを調製した。焼成後の触媒乾燥重量を測定したところ、得られた触媒Aは、シリカの担持量が3.4質量%であり、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が67個/nm
2であった。
【0044】
(触媒Bの調製)
水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)4gを反応器に充填した。次に、0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、HZSM−5を充填し200℃に保持した反応器に6時間流通させた。更に、反応器の温度を320℃に上昇させ、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを3時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、260℃に保持した反応器に2時間流通させた。その後、反応器に酸素を流しながら、500℃で12時間焼成して、触媒Bを調製した。焼成後の触媒乾燥重量を測定したところ得られた触媒Bは、シリカの担持量が4.7質量%であり、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が93個/nm
2であった。
【0045】
(触媒Cの調製)
水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)2gを反応器に充填した。次に、0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、HZSM−5を充填し200℃に保持した反応器に6時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、200℃に保持した反応器に2時間流通させた。その後、反応器に酸素を流しながら、500℃で12時間焼成して、触媒Cを調製した。焼成後の触媒乾燥重量を測定したところ得られた触媒Cは、シリカの担持量が5.4質量%であり、また、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が106個/nm
2であった。
【0046】
(触媒Dの調製)
水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)2gを反応器に充填した。次に、0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、HZSM−5を充填し200℃に保持した反応器に24時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、200℃に保持した反応器に2時間流通させた。その後、反応器に酸素を流しながら、500℃で12時間焼成して、触媒Dを調製した。焼成後の触媒乾燥重量を測定したところ得られた触媒Dは、シリカの担持量が6.6質量%であり、また、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が129個/nm
2であった。
【0047】
(触媒Eの調製)
水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)2gを反応器に充填した。次に、0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、HZSM−5を充填し200℃に保持した反応器に2時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、200℃に保持した反応器に2時間流通させた。その後、反応器に酸素を流しながら、500℃で12時間焼成して、触媒Eを調製した。焼成後の触媒乾燥重量を測定したところ得られた触媒Eは、シリカの担持量は2.8質量%であり、また、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が56個/nm
2であった。
【0048】
(触媒Fの調製)
水澤化学製のHZSM−5(Si/Al
2=30)2gを反応器に充填した。次に、0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、HZSM−5を充填し200℃に保持した反応器に6時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、300℃に保持した反応器に4時間流通させた。反応器の温度を200℃に保持したまま、再度、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを1時間流通させた。その後テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、室温に保持した水にヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴された水蒸気を、300℃に保持した反応器に1時間流通させた。最後に0℃に保持したテトラメトキシシランにヘリウムを吹き込み、ヘリウムに随伴されたテトラメトキシシランを、200℃に保持した反応器に1時間流通させた。テトラメトキシシラン/Heの混合ガスの流通を停止した後、反応器に酸素を流しながら、500℃で12時間焼成して、触媒Fを調製した。焼成後の触媒乾燥重量を測定したところ得られた触媒Fは、シリカの担持量が7.0質量%であり、また、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が137個/nm
2であった。
【0049】
(触媒Gの調製)
水熱合成したHZSM−5(Si/Al
2=42)0.2gをガラス製真空ライン中で微小バネばかりにつるしたバスケットに入れ、400℃で重量増加が見られなくなるまで脱気した。つぎに試料(HZSM−5)を320℃に保持し、0℃に保持したテトラメトキシシランの蒸気を導入、脱気を重量増加率が13.3質量%になるまで繰り返した(所要時間:約6時間)。その後、400℃で26.7kPaの酸素を導入し、重量変化が見られなくなるまで保持し、放冷後に取り出した。得られた触媒Gは、使用したHZSM−5の単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が260個/nm
2であり、また、シリカの担持量が13.3質量%あった。
【0050】
<トルエンの不均化>
上記のようにして調製した触媒A〜G又は原料のHZSM−5を、内径8mmのパイレックス(登録商標)を用いた固定床流通式反応装置に0.2g充填した。大気圧、10cm
3/minのHe流通下、500℃で1時間前処理した後、Heの流速と温度をそのまま保持し、無脈流ポンプを用いて0.0835cm
3/minの流速でトルエンを供給して、トルエンの不均化反応を実施した。なお、トルエンは反応管の入口で蒸発させた。生成物の捕集は、氷浴のヘキサントラップ2つで行い、1,4−ジイソプロピルベンゼンを内部標準物質として、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した。カラムとしては、Xylene Master(長さ50m、内径0.32mm)を使用した。なお、トルエン転化率、C
8芳香族化合物収率、C
8中パラキシレン選択率は以下のようにして求めた。結果を表1に示す。
【0051】
トルエン転化率(mol%)=100−[出口でのトルエン回収量(mol)]/[出口での全芳香族化合物の検出量(mol)]×100
【0052】
C
8芳香族化合物収率(mol%)=[出口でのC
8芳香族化合物の検出量(mol)]/[出口での全芳香族化合物の検出量(mol)]×100
【0053】
C
8中パラキシレン選択率(mol%)=[出口でのパラキシレンの検出量(mol)]/[出口でのC
8芳香族化合物の検出量(mol)]×100
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示す結果から、ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が60〜130個/nm
2であり、シリカの担持量が1〜10質量%である触媒を使用することで、トルエン転化率の向上とパラキシレン選択率の向上を両立できることが分かる。
【0056】
また、比較例2から、ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が60個/nm
2未満である触媒を使用すると、パラキシレンの選択率を十分に向上させられないことが分かる。
【0057】
また、比較例3及び4から、ゼオライトの単位外表面積当たりのシリカのケイ素原子数が130個/nm
2を超える触媒を使用すると、トルエンの転化率を十分に向上させられないことが分かる。