【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省、平成23年度 戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の突極を有する固定子と、前記固定子の突極とは位相が異なる配置の複数の突極を有する回転子とを有し、前記固定子の各突極に巻かれた複数相のコイルを前記回転子の位置に応じて順次励磁して前記回転子を回転させるSRモータの制御方法において、
低負荷時には、励磁開始角を、回転数と負荷に応じて設定された角度θon_modeIに設定し、励磁終了角を、回転子位置45°(電気角)で電流が0になる回転子位置θ45を上限として設定された角度θoff_modeIに制御し、
中負荷時には、励磁開始角を前記θon_modeIから回転数と負荷に応じて設定された角度θon_minまでの範囲で進めたθon_modeIIに設定し、励磁終了角を前記θ45に固定し、
高負荷時には、励磁開始角を回転数と負荷に応じて設定された角度θon_modeIIIに固定し、励磁終了角を、トルク増加が望める転流角θoffmaxまでの範囲で遅らせたθoff_modeIIIに設定すること
を特徴とするSRモータの制御方法。
複数の突極を有する固定子と、前記固定子の突極とは位相が異なる配置の複数の突極を有する回転子とを有し、前記固定子の各突極に巻かれた複数相のコイルを前記回転子の位置に応じて順次励磁して前記回転子を回転させるSRモータの制御装置において、
低負荷時には、励磁開始角を、回転数と負荷に応じて設定された角度θon_modeIに設定し、励磁終了角を、回転子位置45°(電気角)で電流が0になる回転子位置θ45を上限として設定された角度θoff_modeIに制御し、
中負荷時には、励磁開始角を前記θon_modeIから回転数と負荷に応じて設定された角度θon_minまでの範囲で進めたθon_modeIIに設定し、励磁終了角を前記θ45に固定し、
高負荷時には、励磁開始角を回転数と負荷に応じて設定された角度θon_modeIIIに固定し、励磁終了角を、トルク増加が望める転流角θoffmaxまでの範囲で遅らせたθoff_modeIIIに設定する手段を設けたこと
を特徴とするSRモータの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示された方法では、始動時と極低速回転時の発生トルクのばらつきは改善されるが、通常運転時の運転効率の改善は図られていない。
【0009】
また、非特許文献1において提案された励磁方式は、運転効率の改善や発生トルクの増加を目的としたものではなく、主としてトルク脈動の減少を狙ったものである。
【0010】
非特許文献2において提案された励磁終了角の制御方法は、自己インダクタンスの変化および磁気飽和の影響を無視しているので、運転条件によっては運転効率が低下したり、必要なトルクが発生できずに運転不能になったりすることが予想される。
【0011】
さらに、従来技術によるSRモータ駆動システムは、運転条件に応じて励磁開始角と励磁終了角を適切に制御できていないので、SRモータの潜在能力を十分生かせていない。特に、既に実用化されている車両用の永久磁石同期モータ駆動システムと比較して、運転効率とエネルギー密度が低いため、SRモータ駆動システムの実用例は極めて少ない。
【0012】
そこで本発明は、SRモータ駆動システムの運転効率とエネルギー密度を永久磁石同期モータ駆動システムと同程度になるように改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、運転条件に応じてSRモータの励磁開始角と励磁終了角を最適に維持する制御手法を特徴とする。すなわち、SRモータのトルク発生原理に基づいて、静磁場解析で算出したインダクタンス曲線から運転効率を高める励磁開始角と励磁終了角を導き、運転条件に応じて最適に運用する方法である。
【0014】
本発明の第1の構成は、複数の突極を有する固定子と、前記固定子の突極とは位相が異なる配置の複数の突極を有する回転子とを有し、前記固定子の各突極に巻かれた複数相のコイルを前記回転子の位置に応じて順次励磁して前記回転子を回転させるSRモータの制御方法において、
低負荷時には、励磁開始角を、回転数と負荷に応じて設定された角度θon_modeIに設定し、励磁終了角を、回転子位置45°(電気角、以下同じ)で電流が0になる回転子位置θ45を上限として設定された角度θoff_modeIに制御し、
中負荷時には、励磁開始角を前記θon_modeIから回転数と負荷に応じて設定された角度θon_minまでの範囲で進めたθon_modeIIに設定し、励磁終了角を前記θ45に固定し、
高負荷時には、励磁開始角を回転数と負荷に応じて設定された角度θon_modeIIIに固定し、励磁終了角を、トルク増加が望める転流角θoffmaxまでの範囲で遅らせたθoff_modeIIIに設定すること
を特徴とするSRモータの制御方法である。
【0016】
制御モードIでは、インダクタンスの傾きが最も大きい区間を中心に励磁を行うので最も効率改善が期待される。
制御モードIIでは、無効領域の電流が増加するので、制御モードIと比較するとトルク増加は僅かであるが、逆トルクによる効率低下はない。
制御モードIIIは、効率を犠牲にしてもトルクを増加させる必要があるときに用いることができる。
【0017】
本発明の第
2の構成は、第
1の構成において、励磁開始角に対して負荷を変化させながらインダクタンス空間微分係数と前記θ
45の相関関係を求め、励磁開始角をパラメータとしたインダクタンス空間微分係数から前記θ
45を推定することを特徴とする。これにより、予め求めた最適のθ
45を用いることができる。
【0018】
本発明の第
3の構成は、第
1の構成において、回転子位置変化とインダクタンス変化より演算されたインダクタンス勾配に基づいて前記θ
45を運動中に自動的に演算することを特徴とする。これにより、運転中のθ
45のオートチューニングができる。
【0019】
本発明の第
4の構成は、複数の突極を有する固定子と、前記固定子の突極とは位相が異なる配置の複数の突極を有する回転子とを有し、前記固定子の各突極に巻かれた複数相のコイルを前記回転子の位置に応じて順次励磁して前記回転子を回転させるSRモータの制御装置において、
低負荷時には、励磁開始角を、回転数と負荷に応じて設定された角度θ
on_modeIに設定し、励磁終了角を、回転子位置45°で電流が0になる回転子位置θ
45を上限として設定された角度θ
off_modeIに制御し、
中負荷時には、励磁開始角を前記θ
on_modeIから回転数と負荷に応じて設定された角度θ
on_minまでの範囲で進めたθ
on_modeIIに設定し、励磁終了角を前記θ
45に固定し、
高負荷時には、励磁開始角を回転数と負荷に応じて設定された角度θ
on_modeIIIに固定し、励磁終了角を、トルク増加が望める転流角θ
offmaxまでの範囲で遅らせたθ
off_modeIIIに設定する手段を設けたこと
を特徴とするSRモータの制御装置である。
このように負荷の状況により励磁開始角と励磁終了角を切り替えることにより、運転条件で必要とされる回転数とトルクを維持するために最適な励磁開始角と励磁終了角に制御される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の特徴は、運転効率を改善しつつSRモータの潜在能力を最大限に引き出す点にある。SRモータの運転効率の改善に留まらず、高エネルギー密度化にも寄与する。
本発明による構成をSRモータ駆動システムに適用すると、運転条件で必要とされる回転数とトルクを維持するために最適な励磁開始角と励磁終了角に制御され、結果として運転効率が向上する。また運転効率に配慮しつつ高エネルギー密度化を達成できる。
本発明は、パルス幅変調により発生トルクを制御する従来技術と比較して、ワンパルスで発生トルクを制御できるので、パワー素子でのスイッチング損失が減少し、電力変換装置の効率も改善する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】SRモータの電流、電圧の基本波形を示すグラフである。
【
図2】励磁区間可変制御方法の励磁原理を示すグラフである。
【
図3】インダクタンスの最大空間微分係数の回転子位置に対する分布を示すグラフである。
【
図4】制御モードIにおける励磁開始角と励磁終了角の関係を示すグラフである。
【
図5】制御モードIIにおける励磁開始角と励磁終了角の関係を示すグラフである。
【
図6】制御モードIIIにおける励磁開始角と励磁終了角の関係を示すグラフである。
【
図7】インダクタンス空間微分係数とθ
45の関係を示すグラフである。
【
図10】シミュレーションモデルのブロック図である。
【
図11】励磁区間可変制御器の構成を示すブロック図である。
【
図14】各制御方法の効率の比較を示すグラフである。
【
図18】電圧制御器の構成を示すブロック図である。
【
図19】電流制御器の構成を示すブロック図である。
【
図20】θ
45演算器を有する励磁区間可変制御器のブロック図である。
【
図22】本発明の実験システムのブロック図である。
【
図23】SRモータの回転速度2000ppmのときの電圧制御器の実験波形図である。
【
図24】SRモータの回転速度4000ppmのときの電圧制御器の実験波形図である。
【
図25】SRモータの回転速度6000ppmのときの電圧制御器の実験波形図である。
【
図26】SRモータの回転速度2000ppmのときの電流制御器の実験波形図である。
【
図27】SRモータの回転速度4000ppmのときの電流制御器の実験波形図である。
【
図28】SRモータの回転速度6000ppmのときの電流制御器の実験波形図である。
【
図29】SRモータの回転速度2000ppmのときの励磁区間可変制御器の実験波形図である。
【
図30】SRモータの回転速度4000ppmのときの励磁区間可変制御器の実験波形図である。
【
図31】SRモータの回転速度6000ppmのときの励磁区間可変制御器の実験波形図である。
【
図32】本発明の実験システムのコンバータ効率を示すグラフである。
【
図33】本発明の実験システムのモータ効率を示すグラフである。
【
図34】本発明の実験システムの総合効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。
まず、励磁区間可変制御法について説明する。
【0023】
図1にSRモータのシングルパルス動作における基本波形を示す。なお、図示の例では固定子の突極数が6,回転子の突極数が4であるが、実機では、固定子の突極数を12、回転子の突極数を8としている。
【0024】
図1において、SRモータにおける磁気回路を線形と見なし、相互インダクタンスの影響を無視すると、SRモータの発生トルクは次式で表される。
【0026】
(1)式より、u、v、wの各相のインダクタンスの傾きがトルク発生に影響することが分かる。無効領域M−Jでは、インダクタンスの傾きが非常に小さいため、この領域で流れる電流はトルク発生に殆ど寄与せず、その多くは銅損の原因となる。またインダクタンスの傾きが負となる逆トルク領域A−Mでは、逆トルクが発生することが分かる。逆トルクは効率低下の要因となる。従って、正トルク領域A−Jに電流を集中させることによって効率を改善できる。つまり
図2に示すようにインダクタンスの空間微分係数が最大となる位置θ
dL/dθ_maxを中心に励磁を行い、負荷に比例して励磁区間を制御することで効率を改善できる。
【0027】
θ
dL/dθ_maxは、有限要素法による磁場解析または実機試験において、励磁電流を条件とした回転子位置に対するインダクタンスを計算または測定することで得られる。具体例として、
図3に有限要素法による磁場解析で求めた300W供試SRモータのインダクタンスより計算したインダクタンスの空間微分係数を示す。同図よりθ
dL/dθ_maxは14
°であることが分かる。
【0028】
図4から
図6に示すように、負荷の状態に応じて3つの制御モードを切り替えて、励磁開始角θ
on、励磁終了角θ
offを制御する。
【0029】
低負荷時で用いる制御モードIは、
図4に示すように、θ
onを回転数と負荷に応じてθ
on_modeI(ここでは簡単のため10°に設定)に決定して、回転子位置45°で電流が0Aになる回転子位置θ
45を上限としてθ
offをθ
off_modeIに制御する。この制御モードIでは、インダクタンスの傾きが最も大きい区間を中心に励磁を行うので最も効率改善が期待される。
【0030】
θ
on_modeIは、電流の立ち上がり時間を考慮して回転数と負荷に応じて演算され、θ
dL/dθ_maxよりも進んだ角度となる。θ
off_modeIは速度PI制御器出力またはアクセル連動出力が用いられる。θ
45は、回転数、負荷、θ
on_modeIの条件で変動するので、θ
offを決定するときに推定しておく必要がある。θ
45の推定法は後述する。
【0031】
中負荷時に用いる制御モードIIは、
図5に示すように、θ
offをθ
45に固定し、θ
onをθ
on_modeIから回転数と負荷に応じて設定された角度θ
on_min(ここでは簡単のため0°に設定)まで範囲で進めたθ
on_modeIIに制御する。θ
on_modeIIは速度PI制御器出力またはアクセル連動出力が用いられる。この制御モードIIでは、無効領域M−Jの電流が増加するので、制御モードIと比較するとトルク増加は僅かであるが、逆トルクによる効率低下はない。
【0032】
高負荷時に用いる制御モードIIIは、
図6に示すように、θ
onを回転数と負荷に応じて設定された角度θ
on_modeIII(ここでは簡単のため0°に設定)に固定し、トルク増加が望める転流角θ
offmaxまでの範囲でθ
offを遅らせたθ
off_modeIIIに制御する。θ
off_modeIIIは速度PI制御器出力またはアクセル連動出力が用いられる。この制御モードIIIでは、逆トルク領域A−Mに電流が流れて逆トルクが発生するため効率が低下する。この制御モードIIIは、効率を犠牲にしてもトルクを増加させる必要があるときに用いられる。
【0033】
次に、θ
45の推定法について説明する。
図7にインダクタンス空間微分係数とθ
45の関係を示す。インダクタンスは回転子位置と電流で決まる。負荷が大きくなり電流が増加すると、磁気飽和の影響でインダクタンスが減少し逆起電力が小さくなるため、転流後の回生に時間を要さないためθ
45は増加していく。逆に負荷が小さくなり電流が減少すると、磁気飽和の影響がなくなりインダクタンスが増加し逆起電力が大きくなるため、転流後の回生に時間を要するためθ
45は減少していく。つまりインダクタンスの増減とθ
45には何らかの相関関係がある。電流と回転数が一定であればインダクタンスの値とθ
45の相関関係が取れるが、電流は速度起電力の影響で変化するため相関関係が取れない。そこで、運転中の電流と速度起電力の状態を把握する指標として、θ
dL/dθ_max付近のインダクタンス空間微分係数を用いる。インダクタンスは電圧電流の検出値より演算できるので、その空間微分係数は回転子位置の微小偏差で除することで得られる。またインダクタンス空間微分係数とθ
45の相関関係は、θ
onを変化させると電流波形が変化するためθ
onにも依存する。そこで、各θ
onに対してインダクタンス空間微分係数とθ
45をシミュレーションまたは測定により予め求めておき、θ
onをパラメータとしたテーブルを作成しておけば、θ
onとインダクタンス空間微分係数からθ
45を推定することが可能となる。
【0034】
図8にθ
offをθ
45に収束させるθ
45演算フローチャートを示す。ステップS100で電流が0Aになった瞬間の回転子位置が45°未満のときはステップS110によりθ
offを0.01°増加させ、ステップS120で電流が0Aになった瞬間の回転子位置が45°以上のとき、ステップS130によりθ
offを0.01°減らす。ステップS140で電流が0Aになった瞬間の回転子位置が45°のときは、演算を終了する。このように、シミュレーションまたは測定において、
図8のフローチャートに基づいて、各θ
onに対して負荷を変化させながらインダクタンス空間微分係数とθ
45の相関関係を記録していくことで、θ
onをパラメータとしたインダクタンス空間微分係数からθ
45を推定するテーブルを作成できる。
【0035】
具体例として、
図9に300W供試SRモータに対してシミュレーションを実施し作成したθ
45テーブルを示す。なお、インダクタンス空間微分係数は、ノイズの影響による演算誤差の影響を抑えるために、回転子位置10°から20°の平均値を用いている。同図よりインダクタンス空間微分係数が0.000047より大きい範囲では、インダクタンス空間微分係数とθ
45は比例関係にあり、0.000047より小さい範囲ではθ
45は24°程度の小さな値に収束することが分かる。複雑な変化ではないのでテーブルではなく近似式を用いることも可能である。
【0036】
次に、シミュレーションによる実施例について説明する。
有限要素法による磁場解析結果を基に、起磁力テーブルi(Ψ,θ)と静止トルクテーブルT(i,θ)からなるSRモータモデルを構築し、シミュレーションにおいて励磁区間可変制御による効率改善の効果を確認する。
【0037】
図10にシミュレーションモデルを示す。シミュレーションモデルは、コンバータモデル、SRモータモデル、機械系モデル、コントローラモデルからなる。コンバータモデルでは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワースイッチング素子で生じるスイッチング損失とスイッチング遅れは考慮していない。また還流ダイオードで生じる導通損も考慮していない。各相が独立した電源に接続されていて、回生電流は相間で影響することなく元の電源に還ると仮定している。電源は電圧源と仮定し、実機において電源として使用するバッテリーと平滑コンデンサの電気的特性は考慮していない。つまりコンバータモデルは電源との接続回路を決定するスイッチング動作のみを模擬している。
【0038】
図11にシミュレーションで使用した励磁区間可変制御器を示す。各制御モードにおける励磁幅の制御は、速度PI制御器で行う。制御モードIでは励磁開始角θ
onを10°に固定し、速度PI制御器出力θ
PIとθ
45の比較を行い、θ
PI<θ
45であれば励磁終了角θ
off=θ
PIとする。ここでは簡単のため励磁開始角θ
onを10°に固定したが、実機では回転数と負荷に応じて変化させる。θ
PI>θ
45であれば制御モードIIに移行し、励磁終了角θ
off=θ
45とし、速度PI制御器出力θ
PIの比例量を10°から減じることで励磁開始角θ
onを10°から0°へ減少させていく。ここでは簡単のため励磁開始角の最小値θ
on_minを0°に固定したが、実機では回転数と負荷に応じて変化させる。励磁開始角θ
on=0°になると制御モードIIIへ移行し、励磁開始角θ
on=0°とし、励磁終了角θ
off=θ
PIとする。ここでは簡単のため励磁開始角を0°に固定したが、実機では回転数と負荷に応じて変化させる。
【0039】
励磁区間可変制御による効率改善の効果を確認するために、比較対象として励磁区間固定制御による効率を算出する。励磁区間固定制御はθ
on=0°とθ
off=30°の一定値を用いるため、速度を制御するには電圧制御もしくは電流制御を併用する必要がある。
図12に、併用する電圧制御器を示す。速度PI制御器の出力をSRモータに印加する電圧指令値V
srefとし、実機ではパルス幅変調(PWM)によりV
srefと同じ電圧を生成し印加する。シミュレーションでは、V
srefと同じ電圧がSRモータに印加されると仮定する。
図13に、併用する電流制御器を示す。速度PI制御器により電流指令値I
srefを生成し、電流P制御器によりSRモータに印加する電圧指令値V
srefを生成する。電圧制御器と同様に、実機ではパルス幅変調(PWM)によりV
srefと同じ電圧を生成し印加するが、シミュレーションでは、V
srefと同じ電圧がSRモータに印加されると仮定する。電流PI制御器を用いると電流指令値が常に変化するため遅れを生じるので、敢えて電流制御にP制御を用いている。
【0040】
図14に各制御法の効率の比較を示す。励磁区間可変制御の効率は、励磁区間固定制御(電圧制御)と比較して4.71%、励磁区間固定制御(電流制御)と比較して3.20%、効率が良い。4000rpm、0.5Nmや6000rpm、0.2Nmの動作点では、全ての方式で出力電圧が飽和して同じような励磁電圧となるため、各制御方法の効率がほぼ同じ値になっている。
【0041】
図15に動作点4000rpm、0.3Nmにおける励磁区間可変制御の各波形を示す。励磁区間可変制御法の電圧、電流、自己インダクタンス、トルクである。励磁電流は回転子位置45°で0Aとなっており、θ
onは0°〜10°となっていることから制御モードIIであることが分かる。
【0042】
図16に電圧制御の電圧、電流を示す。電圧の波高値が約18Vなので制御がきいていることが分かる。電圧波形のピーク付近が脈動しているのは速度が脈動するためである。
【0043】
図17は電流制御の電流指令、電圧、電流である。電流指令と電流を比較すると異なる波形となっている。電圧波形から一部の区間でしか電圧が変化していないことがわかる。このことから、この動作点では十分に電流制御ができていない。
【0044】
次いで、実機による実施例について説明する。
図18に電圧制御器の構成を示す。角速度の偏差を入力とした速度PI制御器によりパルス幅変調(PWM)で使用するデューティ比を調整し、時間平均的に電圧を制御する。積分器には過度の積分を避けるためにアンチリセットワインドアップを設けている。アンチリセットワインドアップは、角速度の偏差が大きい初期状態においてPI出力が飽和してPI出力通りの出力が出せず、目標値に達するまでの時間が長くなるときの積分動作を停止し、過度の積分を防止することでオーバーシュートを小さくして目標値に達する時間を短縮する。
【0045】
図19に電流制御器の構成を示す。速度を制御するための速度PI制御器と相電流を制御するために3つの電流PI制御器で構成される。電圧制御器と同様にアンチリセットワインドアップを設けている。電流PI制御器の飽和特性の最大値は、MOS−FETの最大定格値を考慮して100Aとしている。
【0046】
図20にθ
45演算器を有する励磁区間可変制御器を示す。導通角の制御は速度PI制御により行う。制御モードは速度PI制御出力、回転子位置、対向位置で電流が0Aとなる転流角により判断する。θ
45演算器は、ルックアップテーブルθ
45の自動補正のためにあるが、定常的な特性を測定する場合は、θ
45演算器の出力を直接モードコントローラに入力しても良い。しかし、実用的には過渡的な負荷が急に加わることがあるため、最適転流角を推定できるルックアップテーブルθ
45の出力を使用しなくてはならない。またθ
45演算器はルックアップテーブルθ
45を自動的に生成するオートチューニング機構としても使用できる。
【0047】
モータ端子に印加される電圧をv、相電流i、巻線抵抗をRとすると、磁束鎖交数Ψは、次式で与えられる。
【0049】
インダクタンスについては線形と見なした式を使用している。
【0051】
インダクタンス勾配L
slopeは次式となる。
【0053】
図21にFPGA(Field-Programmable Gate Array)による磁束鎖交数演算結果を示す。巻線抵抗は温度や表皮効果により変化する。すなわち、多くの電流を必要とする高負荷時や高回転時における高周波電流により抵抗値は一定ではないが、ここでは抵抗値一定としている。よって、電圧降下の波形は相電流波形と同じ形となっている。電圧降下の値は小さいため、誘導起電力がモータ端子電圧とよく似た波形となっている。磁束鎖交数は転流角を頂点とした三角形となる。SRモータの磁束鎖交数はストローク毎に0となる期間があるが、A/D変換器のオフセットやノイズが積分されるため負の値になっている。そこで、励磁開始と同時に磁束鎖交数を0にリセットする。
【0054】
図22に実験システムを示す。300W供試SRモータ1は変速器2を介して1/6に減速され、トルク検出器3および負荷機であるブラシレスDCモータ4に接続されている。SRモータ1の回転子位置検出には、360P/Rのロータリエンコーダ5を使用している。ロータリエンコーダ5の出力信号はラインレシーバ6を介して、差動信号からシングルエンド信号に変換されてFPGA7に出力される。この位置情報を基にFPGA7において各制御原理に基づいて励磁タイミングを決定し、励磁信号U_HIGH、U_LOW、V_HIGH、V_LOW、W_HIGH、W_LOWがゲート駆動回路8に出力される。ゲート駆動回路8はフォトカプラにより主回路と制御回路を電気的に分離し、励磁信号をスイッチング素子(MOS−FET)の駆動に十分な電圧に昇圧する。コンバータとしてSRモータドライブでは一般的な非対称ハーフブリッジコンバータ9を採用し、電源10の電圧はバッテリー電圧を想定して24Vとしている。A/D・D/A11は電流センサーのアナログ信号を引き込み、ディジタル信号に変換してFPGA7に渡し、FPGA7内の演算におけるディジタル信号をアナログ信号に変換し、オシロスコープ12で観測できるようにする。トルク検出器3によりSRモータ1が発生する軸トルクを検出し、トルクコンバータ13により軸トルクの検出値をアナログ信号に変換して計測器に与えると共に、実際の物理量に変換してディジタル表示する。ロータリエンコーダ14はブラシレスDCモータサーボドライブ15がベクトル制御を行うために必要とする回転子位置の検出に用いられる。ブラシレスDCモータサーボドライブ15には、ベクトル制御回路が実装されており、高精度のトルク制御および位置制御が行えるようになっている。ブラシレスDCモータサーボドライブ15は、本システムではSRモータ1に対する負荷装置として用いられ、SRモータ1の静止トルクおよび運転効率の測定に用いられる。
【0055】
図23に、速度指令2000rpm、PWM周波数20kHz、ハードスイッチングで運転したときの、負荷トルクを0.0Nmから0.5Nmまで0.1Nmずつ変えていったときの電圧制御器の実験結果を示す。電圧制御器の相電流波形は、シングルパルス励磁の相電流波形とほぼ同じで、PWM電圧波形の影響によるリプルが乗った波形となっている。
【0056】
図24に、回転速度4000rpmのときの、負荷トルクが0.0Nm、0.1Nm、0.2Nmの場合の電圧制御器の実験波形を示す。負荷トルク0.2Nmでは次のストロークまで相電流が切れない状態となっている。2000rpm、0.1Nmと4000rpm、0.1Nmを比較すると、トルク角が異なっている。トルク角は、負荷だけでなく回転速度にも関係することが分かる。
【0057】
図25に、回転速度6000rpmのときの、負荷トルクが0.0Nm、0.1Nmの場合の電圧制御器の実験波形を示す。負荷トルク0.1Nmでは、逆トルク領域に大電流が流れているため、効率が非常に悪くなっているといえる。
【0058】
図26に、速度指令2000rpm、PWM周波数20kHzでハードチョッピングしたときの電流制御器の実験波形を示す。負荷トルクは、0.1Nmから0.5Nmまで0.1Nmずつ変化させた。相電流の波高値がほぼ一定に制御されていることが分かる。負荷増加とともにトルク角が増加していくことが確認できる。
【0059】
図27に、回転数4000rpmのときの、負荷トルクが0.0Nm、0.1Nm、0.2Nmの場合の電流制御器の実験波形を示す。非対向位置からオーバーラップ角までの位置における電流が制御されていない。この領域では、インダクタンスが最小値となり、オーバーラップ角まで緩やかに増加する。インダクタンスが小さいと電流は変化しやすいので、高いPWM周波数を使用する必要がある。
【0060】
図28に、回転数6000rpmのときの電流制御器の実験波形を示す。負荷トルク0.1Nm以上では、電圧が飽和するため電流制御は行えなかった。
【0061】
図29に、2000rpmにおける、負荷トルクを0.0Nmから0.5Nmまで0.1Nmずつ変えていったときの励磁区間可変制御器の実験波形を示す。負荷が小さいほど導通角は狭く負荷が大きくなるほど広くなっているのが確認できる。同じ動作点における電圧制御および電流制御の相電流波形と比較すると明らかに面積が小さくなっている。無負荷0.0Nmではトルク脈動が殆ど無いということが、DCリンク電流から判断できる。しかし、負荷トルク0.1Nmおよび0.2NmではDCリンク電流が脈動しており、負荷トルク0.3Nm以上では脈動が収まっている。このことから、トルク脈動を抑えたいときは導通角が狭くなり過ぎないように制限をかければ良いと考えられる。
【0062】
図30に、4000rpmにおける、負荷トルクが0.0Nm、0.1Nm、0.2Nmの場合の励磁区間可変制御器の実験波形を示す。負荷トルク0.0NmにおいてDCリンク電流が脈動している。2000rpmと比較して全負荷トルクにおいて波高値が小さくなっている。速度起電力は速度に比例するため、2000rpmのときよりも速度起電力が大きくなるため、波高値が小さくなったと考えられる。4000rpmにおいても電圧制御および電流制御と比較して相電流の面積が小さくなっている。
【0063】
図31に、6000rpmにおける、負荷トルクが0.0Nm、0.1Nmの場合の励磁区間可変制御器の実験波形を示す。負荷トルク0.2Nm以上では、電圧が飽和するため励磁区間可変制御は行えなかった。6000rpmにおいても電圧制御および電流制御と比較して相電流の面積が小さくなっている。
【0064】
図32に、コンバータ効率を示す。2000rpmにおいて電圧制御および電流制御では、負荷トルク増加とともにコンバータ効率が増加している。励磁区間可変制御ではほぼ一定の値となった。電圧制御器と電流制御器は、低負荷では出力電圧が飽和することがないのでスイッチング回数が増加する。反対に高負荷では出力電圧が飽和するのでスイッチング回数が減り、コンバータの損失が減ったと考えられる。励磁区間可変制御器は、シングルパルス動作なので、1ストロークあたりのスイッチング回数は励磁開始と励磁終了の2回であるため、負荷トルクに拘らずコンバータ効率が一定となっている。
【0065】
図33のモータ効率に関しては、2000rpmにおいて励磁区間制御器による効率は、電圧制御器と電流制御器と比較して約10%高い値となった。しかし、回転数4000rpm、負荷トルク0.1Nmでは効率に差がなかった。電圧・電流PWM制御では導通角を30°に固定している。励磁区間可変制御器では負荷増加とともに導通角を広げる制御を行っているため、負荷が増加すると途中で電圧・電流PWM制御と同じ導通角30°になる。4000rpm、0.2Nmにおいて電圧制御器と電流制御器は逆トルク領域に電流が流れているため、逆トルクが発生し効率が低下する。励磁区間可変制御器は逆トルク領域に殆ど電流が流れないため、逆トルクが発生せず効率が改善する。
【0066】
図34の総合効率に関しては、全ての動作点で励磁区間可変制御器による効率が、電圧制御器と電流制御器の効率よりも10%程度高い値となった。このことから励磁区間制御器が効率面で従来の制御法である電圧制御器と電流制御器よりも優れていることが実証された。
【0067】
上述したように、本発明では、インダクタンスの空間微分係数が最大となる回転子位置を中心として、励磁区間を可変する制御方法が提供される。300W供試SRモータに対するシミュレーションにおいて、効率は、電圧制御よりも4.71%、電流制御よりも3.20%高い値を示した。また300W供試SRモータを用いた実機実験において、効率は、電圧制御と電流制御より5%以上高い値を得た。