(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920728
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ルーメン液によるセルロース含有廃棄物を用いた有機酸発酵方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/54 20060101AFI20160428BHJP
C12P 5/00 20060101ALI20160428BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20160428BHJP
C12P 7/52 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
C12P7/54
C12P5/00
C12P7/40
C12P7/52
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-539779(P2012-539779)
(86)(22)【出願日】2011年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2011074277
(87)【国際公開番号】WO2012053631
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-237676(P2010-237676)
(32)【優先日】2010年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】中井 裕
(72)【発明者】
【氏名】馬場 保徳
(72)【発明者】
【氏名】多田 千佳
(72)【発明者】
【氏名】福田 康弘
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−232892(JP,A)
【文献】
特開平10−229889(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/024294(WO,A1)
【文献】
Biol. Wastes, 1987, Vol.22, No.2, pp.81-95
【文献】
畜産技術, 2010.10.01, No.665, pp.7-11
【文献】
J. Anim. Sci, 1986, Vol.63, No.6, pp.1949-1959
【文献】
J. Appl. Microbiol, 2007, Vol.103, No.5, pp.1757-1765
【文献】
Appl. Environ. Microbiol., 1992, Vol.58, No.1, pp.99-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00−7/66
C12P 5/00−5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物から採取したルーメン液をセルロース含有廃棄物と反応させる工程を含む、メタン発酵原料となる有機酸を製造する方法において、反芻動物から採取したルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応系にシステインを0.1〜0.25重量%で共存させた嫌気的条件下で反応させることを特徴とする、メタン発酵原料となる酢酸の生成量を増加させる方法。
【請求項2】
セルロース含有廃棄物が古紙である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反芻動物が牛である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
窒素又は水素雰囲気下での閉鎖系でルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
反応系を30℃〜45℃に維持する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応系のpHが5.0〜8.0の範囲である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応系におけるセルロース含有廃棄物の濃度が0.5〜7重量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酢酸の最終生成濃度が10g/L(反応液)以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法で製造された有機酸又は該有機酸を含むルーメン液処理物を原料としてメタン発酵を行い、メタンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛等の反芻動物から採取したルーメン液をセルロース含有廃棄物に作用させることによって、酢酸及びプロピオン酸等のメタン発酵原料及び各種有用物質の原料を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、機密文書などとして使用済のオフィス用紙はシュレッダーなどで細かく裁断処理されている。また古紙から再生紙を生産する際、紙として一定以上の強度を維持する必要から再利用回数に限りがあり、回収古紙すべてが再生に適するわけではない。
【0003】
従来、裁断されたオフィス用紙や再生に適さない古紙に代表されるセルロース含有廃棄物は焼却処分されることが多く、有効利用されていない。焼却することはエネルギーロスである。また、温暖化ガスである二酸化炭素を大量に排出する。そのため、リサイクルが困難な古紙の活用法が求められている。
【0004】
最近ではセルラーゼ等の酵素(特許文献1及び特許文献2)や酸(特許文献3)によってこれらのセルロース含有廃棄物を糖化して発酵によりエタノールを得る技術(酵素糖化方法及び酸処理法)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−176997号公報
【特許文献2】特開2002−186938号公報
【特許文献3】特開2007−202518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の酵素糖化方法及び酸処理法は処理速度が相対的に速い、という利点を有する。しかしながら、酵素(セルラーゼ)は高価でありその回収・再利用法が確立されていない。加えて、該酵素は糖化を阻害するリグニンを分解できないことが問題とされている。一方、酸処理法はその後の廃液の中和が必要な上に環境上好ましくない。加えて、酸の過分解により部分的に糖の骨格自体が破壊されることが問題とされている。以上のことから、従来の酵素法及び酸処理法は高コスト、高環境負荷、及び低収率という問題点を抱えていた。
【0007】
上記のようなセルロース含有廃棄物は良質の発酵資源であるセルロース系バイオマスであり、その有効な利用方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、古紙を生ルーメン液に浸漬したところ、メタン発酵の基質である有機酸、特に、メタン生成菌が最も利用しやすい酢酸が主要な分解物として得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]
反芻動物から採取したルーメン液をセルロース含有廃棄物と反応させる工程を含む、メタン発酵原料となる有機酸を製造する方法。
[態様2]
セルロース含有廃棄物が古紙である、態様1記載の方法。
[態様3]
反芻動物が牛である、態様1又は2記載の方法。
[態様4]
反芻動物から採取したルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応を嫌気的条件下で行う、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]
反芻動物から採取したルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応系にシステイン、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール酸、及びDTTからなる群から選択される還元作用を有する化合物の一種又は数種の組み合わせを共存させることによって嫌気的条件を生じさせる、態様4記載の方法。
[態様6]
反応系におけるシステイン濃度が0.025〜0.25重量%である、態様5記載の方法。
[態様7]
窒素又は水素雰囲気下での閉鎖系でルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応を行う、態様5記載の方法。
[態様8]
反応系を30℃〜45℃に維持する、態様4〜7のいずれか一項に記載の方法。
[態様9]
反応系のpHが5.0〜8.0の範囲である、態様4〜8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]
反応系におけるセルロース含有廃棄物の濃度が0.5〜7重量%である、態様1〜9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]
酢酸の最終生成濃度が10g/L(反応液)以上である、態様1〜10のいずれか一項に記載の方法。
[態様12]
態様1〜11のいずれか一項に記載の方法で製造された有機酸又は該有機酸を含むルーメン液処理物を原料としてメタン発酵を行い、メタンを製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によって、古紙などのセルロース系バイオマスを有機酸に変換することで、酢酸、プロピオン酸及び酪酸等の良質なメタン発酵原料が得られた。更に、従来の方法に比べて、メタン発酵原料の生成に要する反応時間の短縮化(酸発酵の迅速化)及びメタン発酵原料用の主な最終生成物である酢酸の生産量が顕著に増加した。こうして得られる酢酸等の有機酸又は該有機酸を含むルーメン液処理物をメタン発酵原料としてメタン発酵を行うことによって、効率良くメタンを製造することができた。
【0011】
本発明方法は廃棄物である家畜屠殺後の廃ルーメン液を使用することが出来るために低コストであること;処理後の反応液はそのままメタン発酵に供するため廃液処理も必要がないため低環境負荷であること;ルーメン液中にはリグニンの主要な結合であるエーテル結合を切断する微生物が存在するため、古紙の糖化を促進させること;及び、微生物処理はマイルドなため、糖の骨格破壊を招かない;等の従来技術に較べて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明方法におけるシステイン添加量に対する酢酸生産量の結果を示す。
【
図2】本発明方法におけるシステイン添加量に対する酢酸生産量の結果を示す。
【
図3】本発明方法におけるシステイン添加に対する酢酸生産量の経時変化を示す。
【
図4】本発明方法におけるシステイン添加量に対するプロピオン酸生産量の結果を示す。
【
図5】本発明方法におけるシステイン添加量に対するプロピオン酸生産量の結果を示す。
【
図6】本発明方法におけるシステイン添加量に対する酪酸生産量の結果を示す。
【
図7】本発明方法におけるシステイン添加量に対する酪酸生産量の結果を示す。
【
図8】本発明方法における反応温度に対する酢酸生産量の結果を示す。
【
図9】本発明方法における反応温度に対するプロピオン酸生産量の結果を示す。
【
図10】本発明方法における反応温度に対する酪酸生産量の結果を示す。
【
図11】本発明方法における古紙濃度に対する酢酸生産量の結果を示す。
【
図12】本発明方法における古紙濃度に対するプロピオン酸生産量の結果を示す。
【
図13】本発明方法における古紙濃度に対する酪酸生産量の結果を示す。
【
図14】本発明方法のメタン発酵におけるメタンガス生成量の一日あたりの平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、反芻動物から採取したルーメン液をセルロース含有廃棄物と反応させる工程を含む、メタン発酵原料となる、酢酸、プロピオン酸及び酪酸等の有機酸を製造する方法に係る。
【0014】
「セルロース含有廃棄物」とは、各種の産業活動又は日常の消費活動の結果生じる廃棄物であって、セルロースを主な成分として含むものを意味し、特にその由来・種類などに限定はされない。その代表例として、使用済のオフィス用紙等の古紙を挙げることが出来る。ルーメン液と反応させる前に、このようなセルロース含有廃棄物の形状・状態等に応じて、適宜、破砕・粉砕・切断等の前処理加工を施すことが出来る。
【0015】
「ルーメン」は、牛等の反芻動物が植物の繊維質をエネルギー源とするために有しているもので、例えば、牛の場合には腹腔の左側ほとんど全部と、右側の後ろ半分を占める巨大な嚢(第一胃)である。第一胃〜第四胃からなる複胃全体の8割を占め、乳牛(成牛)では約200リットルの大きさがある。ルーメンでは多量の飼料を貯蔵し、ルーメン内に生息する微生物によって飼料が分解される。ルーメン内容物の約9割は水分であり、微生物による発酵が充分に行われる。
【0016】
ルーメン内には無数の微生物が生息し、ルーメン内容物1g当たり60種類以上の約10
9〜10
11個の細菌類(セルロース分解菌、デンプン分解菌、蛋白質分解菌等)と90種類以上の約10
5〜10
6個のプロトゾア(原生動物)が生息しており、これらの微生物(セルロース分解菌、デンプン分解菌、蛋白質分解菌等)の働きにより、ルーメン内において飼料成分の分解と合成が盛んに行われている。
【0017】
本発明方法で使用する「ルーメン液」は、このような反芻動物のルーメン内の生息する各種の微生物を含む水溶液(第一胃内液)であり、牛一頭あたり200L程度になる。このルーメン液は、当業者に公知の任意の方法で反芻動物のルーメンから容易に採取することが出来る。例えば、生きている家畜から採取したルーメン液、又は、従来は家畜の屠殺後に廃棄物として処理されていたルーメン液を使用することが出来る。
【0018】
使用に際して、採取したルーメン液は特に前処理等を施す必要はなく、採取したままの状態(「生ルーメン液」)で使用することが出来る。また、ルーメン液は凍結等によって保存後に使用することも可能である。
【0019】
ルーメン液に含まれる微生物の活性が十分に発揮され、有機酸の製造効率が上がるように、反芻動物から採取したルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応を嫌気的条件下で行うことが好ましい。
【0020】
嫌気的条件は、例えば、ルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応系に、システイン、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール酸、及び/又はDTT等の還元作用を有する化合物(一種の化合物又は数種類の化合物の適当な組み合わせ)を共存させることによって生じさせることが出来る。例えば、システインを単独で共存させる場合には、反応系全体に対するその濃度は好ましくは0.025〜0.25重量%、より好ましくは約0.1重量%である。その他、例えば、窒素又は水素雰囲気下での閉鎖系でルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応を行うことによって、嫌気的条件下を達成することも可能である。
【0021】
反応系の温度は、反芻動物の体温及びそのルーメン内の温度を中心とした温度範囲が好ましく、例えば、牛由来のルーメン液を使用する場合には、30℃〜45℃、より好ましくは37℃〜42℃の範囲である。
【0022】
又、反応系のpHは、ルーメン液に含まれる微生物の活性が十分に発揮され、有機酸の製造効率が上がるような範囲が好ましく、例えば、5.0〜8.0、より好ましくは6.0〜7.0の範囲である。
【0023】
反応系におけるセルロース含有廃棄物の濃度は、その種類等に応じて適宜調節することが出来るが、通常、反応系全体に対して約1〜10重量%程度、例えば、0.5〜7重量%、好ましくは5〜7重量%である。
【0024】
尚、ルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応時間は、セルロース含有廃棄物の種類・量、ルーメン液の状態等の様々な反応条件に応じて、所望の有機酸量が発酵によって製造されるように当業者が適宜調整することが出来る。
【0025】
更に、反応は当業者に公知の適当な装置及び手段で実施することが出来る。例えば、本明細書の実施例に記載のように、反応容器内でルーメン液とセルロース含有廃棄物を含む混合物を攪拌又は振盪しながら反応させることが出来る。例えば、数時間〜十数時間とすることができる。尚、本発明方法におけるルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応の結果得られるルーメン液処理物を用いてメタン発酵を行う場合には、ルーメン液とセルロース含有廃棄物との反応時間は24時間以下、例えば、6時間程度が好ましい。
【0026】
本発明方法によって、数時間の間に、メタン発酵の主な原料物質である酢酸の最終生成濃度として10g/L(反応液)以上、好ましくは12g/L(反応液)以上、更に好ましくは15g/L(反応液)以上であって、約18g/L(反応液)以下までの量で製造することが出来る。更に、酪酸及びプロピオン酸も以下の反応式の通り酢酸まで分解されメタン発酵の原料となる。
【0028】
更に、本発明は、このような方法で製造された有機酸又は該有機酸を含むルーメン液処理物を原料として用いて、当業者に公知の任意の方法でメタン発酵を行い、メタンを製造する方法にも係るものである。メタン発酵における資材としてはメタン生成菌を含む任意の資材、例えば、嫌気性排水処理施設の消化汚泥のような、生活廃棄物又は産業廃棄物の各種処理施設において発生する汚泥等を上げることができる。
【0029】
以下に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のために提供されているものである。従って、これらの実施例は、本願で開示する発明の範囲を限定し、又は制限するものではない。本発明では、特許請求の範囲の請求項に記載された技術的思想に基づく様々な実施形態が可能であることは当業者には容易に理解される。
【実施例】
【0030】
1.生ルーメン液の採取
飼料摂取後1時間ほど経過した乳牛から、牛用胃汁採取器を用いてルーメン液を経口採取したのち、ただちに37℃に予備加温済みのインキュベータに保存した。
2.システイン添加量の検討
(1)材料
生ルーメン液:300 ml
古紙(A〜Zを黒インクで49字×17行印字した古紙):3 g(1%(w/v))
L-システイン塩酸塩一水和物:0 g(0%(w/v))〜9 g(3%(w/v))
(2)方法
ガス採取袋を取り付けた500 mlの反応容器に、300 mlの生ルーメン液、3 gの古紙および0 g(0%(w/v))〜9 g(3%(w/v))のL-システイン塩酸塩一水和物を添加した。37℃、140 rpm、72時間で振盪培養したサンプルを0.25μmのメンブレンフィルターで濾過滅菌したのち、HPLCにて有機酸を測定した。
(3)結果
以下の表1及び表2、及び、
図1、
図2、
図4〜
図7に示した結果から、システインを添加することでメタン生成菌が利用しやすい酢酸が増加したことが明らかとなった。システインの添加濃度は0.025%〜0.25%が好ましく、0.1%がより好ましい。上記範囲より少ない添加量とすると十分な効果が得られず、上記範囲より多い添加量とすると、低pHおよびSH基の影響で阻害が起こるので好ましくない。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2における添加システイン濃度が0%区と0.1%区では2回試験して2回とも酢酸生成量が約1.3g増加(表1:10.021→11.337g/L、表2:9.667→10.971g/L)しており再現性があり、従って、システイン0.1%添加は酢酸生成量増加に対して強い関与が認められた。更に、システイン添加時にプロピオン酸及び酪酸の生成も確認できた。また、
図3に示した酢酸生成量の経時変化から明らかなように、システイン0%区では72時間後に10g/L生産されるのに対し、システイン0.1%区では24時間短縮されて48時間後に10g/L生産された。このように、システイン添加効果として酢酸生成に要する反応時間の短縮化(酸発酵の迅速化)が確認された。
【0034】
3.反応温度の検討
(1)材料
生ルーメン液:300 ml
古紙(A〜Zを黒インクで49字×17行印字した古紙 ):3 g(1%(w/v))
L-システイン塩酸塩一水和物 0.3 g(0.1%(w/v))
(2)方法
ガス採取袋を取り付けた500 mlの反応容器に、300 mlの生ルーメン液、3 gの古紙および0.3 gのL-システイン塩酸塩一水和物を添加した。37℃、39.5℃および42℃、140 rpm、72時間で振盪培養したサンプルを0.25μmのメンブレンフィルターで濾過滅菌したのち、HPLCにて有機酸を測定した。
(3)結果
以下の表3、
図8〜
図10に示した結果から、牛の体温(直腸温度:38.5℃、ルーメン内温度:39.5℃)よりも低い37℃で古紙の可溶化が可能であることが初めて示された。反応温度は37℃〜42℃であることが好ましく、加温のエネルギーを考慮すると37℃がより好ましい。上記範囲より低い温度であると、古紙分解活性が低下し、上記範囲より高い温度であると、古紙分解活性が低下するかもしくは失活する。
【0035】
【表3】
【0036】
4.古紙濃度の検討
(1)材料
生ルーメン液:300 ml
古紙(A〜Zを黒インクで49字×17行印字した古紙):1.5g(0.5%(w/v))〜30 g(10%(w/v))
L-システイン塩酸塩一水和物 0.3 g(0.1%(w/v))
(2)方法
ガス採取袋を取り付けた500 mlの反応容器に、300 mlの生ルーメン液、1.5g(0.5%(w/v))〜30 g(10%(w/v))の古紙および0.3 gのL-システイン塩酸塩一水和物を添加した。37℃、190 rpm、72時間で振盪培養したサンプルを0.25μmのメンブレンフィルターで濾過滅菌したのち、HPLCにて有機酸を測定した。
(3)結果
以下の表4、
図11〜
図13に示した結果から、古紙濃度は、0.5%〜7%が好ましく、5%〜7%であることがより好ましい。上記範囲より低い濃度とすると単位面積あたりの有機物量が低いため非効率であるし、上記範囲より高い濃度とすると古紙の溶解が不十分である。
【0037】
【表4】
【0038】
5.評価法
測定した有機酸のうち、メタン生成菌がもっとも利用しやすいといわれる酢酸濃度で評価した。尚、HPLCによる有機酸の測定は、BTB試薬を用いたポストカラム法で行った。以下に測定条件を記す。
Pump:PU-980(JASCO)
Detector:870-UV
Wave length:445nm
Column:RSpak HC-G、RSpak KC-811(Shodex)
Flow rate:0.8 ml/min
Temperature:60℃(カラム)、20℃(室温)
Reagent Pump:PU-980(JASCO)
Regent floe rate:1.2 ml/min
【0039】
6.ルーメン液処理物のメタン発酵
(1)材料
1)ルーメン液処理物の調整
生ルーメン液:300 ml(前述の通りに採取したもの)
古紙(A〜Zを黒インクで49字×17行印字した古紙):3g(1%(w/v))
L-システイン塩酸塩一水和物 0.3 g(0.1%(w/v))
2)メタン発酵のための種汚泥の調整
嫌気性排水処理施設の消化汚泥2Lに対し、表5に示した基質及び栄養塩を添加し、1ヶ月間培養したものを種汚泥とした。
【0040】
【表5】
【0041】
(2)方法
ガス採取袋を取り付けた500 mlの反応容器に、300 mlの生ルーメン液、3g(1%(w/v))の古紙および0.3 gのL-システイン塩酸塩一水和物を添加した。37℃、140 rpmで、6時間および24時間処理することで古紙を処理した。得られたルーメン液処理物を600 mlの種汚泥に対し30ml/day(HRT20日)の割合で添加し、35℃、150 rpmでメタン発酵を20日間行った。発生したバイオガスはガスクロマトグラフィによりガス組成を分析した。対照区は、ルーメン液処理をしないで、0.3gの古紙及び30mlの蒸留水を毎日添加した。
(3)結果
図14にメタンガス生成量の一日あたりの平均値を示した。その結果、ルーメン液で6時間処理したルーメン液処理物をメタン発酵に供した区が最も高いガス生成量を示し(177.7 ml/day:標準偏差16.1 ml/day)、次いで24時間ルーメン液処理物(142.0 ml/day:標準偏差13.4 ml/day)、対照区(71.7 ml/day:標準偏差19.6 ml/day)であった。
【0042】
更に、ルーメン液処理物(300ml容量)において発生したメタンガス量(ルーメン液処理物(6h):14 ml、ルーメン液処理物(24h):147 ml)を一日分の投入量である30 mlに換算した値を、上記のメタン発酵におけるガス生成量と合算し、メタン収率を求めた(表6)。収率計算に使用した理論値は、古紙およびルーメン液のCODに基づいて算出した(表7:ルーメン液処理、表8:対照区)。
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
ここで、CH
4 + 2O
2 → CO
2 + 2H
2O であり、64 gの酸素が22.4LのメタンのCODと等しいため、COD 1g = CH
4 0.35L(=22.4÷64) = CH
4 350 ml、となる。
【0047】
表6より、ルーメン液処理物(6h)>ルーメン液処理物(24h)>対照区の順にメタン収率は高く、ルーメン液処理の有効性が示された。また、対照区については定期的に窒素源として炭酸アンモニウムを添加しない限り、メタン発酵を継続することは困難であった(データ省略)。これに対して、ルーメン液処理物はルーメン液由来の可溶性窒素が300-400 mg/Lが存在するため、窒素源を外添する必要はなかった。以上より、ルーメン液は古紙可溶化触媒であると同時に窒素源としても有効であることが示された。
【0048】
尚、ルーメン液処理物(24h)は、古紙がよく可溶化され酢酸生成量は多いが、ルーメン液処理時に発生するCO
2量は6h処理区よりも約20倍高かった。その結果、原料C(古紙由来の炭素)のCO
2としてのロスが大きいため、ルーメン液処理物(24h)のメタン生成量はルーメン液処理物(6h)に比較して低下する傾向がみられた。以上の結果より、反応時間は24時間以下、例えば、6時間程度が好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、古紙等のセルロース含有廃棄物からメタン発酵原料となる有機酸を製造し、更にこれを原料としてメタンガスを発酵生産することで、最終生成物として燃料用ガス及び電気の生産等の産業分野に利用することが出来る。