【0007】
本発明を以下において詳細に説明する。
本発明は、上記のとおり、(a)人工多能性幹細胞から心筋細胞、内皮細胞および壁細胞を製造する工程、および(b)当該心筋細胞、内皮細胞および壁細胞を用いてシートを形成させる工程を含む、人工多能性幹細胞から心筋シートを製造する方法およびこの方法によって得られた心筋シートを含む心疾患の治療剤に関する。
<人工多能性幹細胞の製造方法>
本発明において、人工多能性幹(iPS)細胞は、ある特定の核初期化物質を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することまたは薬剤によって当該核初期化物質の内在性のmRNAおよびタンパク質の発現を上昇させることによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K.Takahashi and S.Yamanaka(2006)Cell,126:663−676、K.Takahashi et al.(2007)Cell,131:861−872、J.Yu et al.(2007)Science,318:1917−1920、M.Nakagawa et al.(2008)Nat.Biotechnol.,26:101−106、国際公開WO 2007/069666および国際公開WO 2010/068955)。核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物であればよく、特に限定されないが、例えば、Oct3/4,Klf4,Klf1,Klf2,Klf5,Sox2,Sox1,Sox3,Sox15,Sox17,Sox18,c−Myc,L−Myc,N−Myc,TERT,SV40 Large T antigen,HPV16 E6,HPV16 E7,Bmil,Lin28,Lin28b,Nanog,Esrrb,EsrrgまたはGlis1が例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよい。例えば、上記初期化物質を、少なくとも1つ、2つもしくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つを含む組み合わせである。
上記の各核初期化物質のマウスおよびヒトcDNAのヌクレオチド配列並びに当該cDNAにコードされるタンパク質のアミノ酸配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照すること、またL−Myc、Lin28、Lin28b、Esrrb、EsrrgおよびGlis1のマウスおよびヒトのcDNA配列およびアミノ酸配列情報については、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。当業者は、当該cDNA配列またはアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
L−Myc NM_008506 NM_001033081
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
Glis1 NM_147221 NM_147193
これらの核初期化物質は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell,126,pp.663−676,2006;Cell,131,pp.861−872,2007;Science,318,pp.1917−1920,2007)、アデノウイルスベクター(Science,322,945−949,2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.85,348−62,2009)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science,322:949−953,2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができる。使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV−TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLVLTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが挙げられる。さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji,K.et al.,(2009),Nature,458:771−775、Woltjen et al.,(2009),Nature,458:766−770、WO 2010/012077)。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルスおよび牛乳頭腫(Bovinepapillomavirus)の起点とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA−1およびoriPもしくはLarge TおよびSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201およびWO 2009/149233)。また、複数の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRESまたは口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい(Science,322:949−953,2008およびWO 2009/092042、WO 2009/152529)。
核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat.Biotechnol.,26(7):795−797(2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’−azacytidine)(Nat.Biotechnol.,26(7):795−797(2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX−01294(Cell Stem Cell,2:525−528(2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9asiRNA(human)(Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L−channel calcium agonist(例えばBayk8644)(Cell Stem Cell,3,568−574(2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)(Cell Stem Cell,3,475−479(2008))、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell,3,132−135(2008))、LIFまたはbFGFなどの増殖因子、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat.Methods,6:805−8(2009))、mitogen−activated proteinkinase signalling阻害剤、glycogen synthase kinase−3阻害剤(PloS Biology,6(10),2237−2247(2008))、miR−291−3p、miR−294、miR−295などのmiRNA(R.L.Judson et al.,Nat.Biotech.,27:459−461(2009))、等を使用することができる。
薬剤によって核初期化物質の内在性のタンパク質の発現を上昇させる方法における薬剤としては、6−bromoindirubin−3’−oxime、indirubin−5−nitro−3’−oxime、valproic acid 、2−(3−(6−methylpyridin−2−yl)−1H−pyrazol−4−yl)−1,5−naphthyridine 、1−(4−methylphenyl)−2−(4,5,6,7−tetrahydro−2−imino−3(2H)−benzothiazolyl)ethanone HBr(pifithrin−alpha)、prostaglandin J2およびprostaglandin E2等が例示される(WO 2010/068955)。
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1)10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2)bFGFまたはSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX−WES培地、トロンボX社)または霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地(リプロセル、京都、日本)、mTeSR−1)、などが含まれる。
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO
2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培地中で体細胞と核初期化物質(DNAまたはタンパク質)を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日またはそれ以上ののちにES細胞様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5−10%と低い酸素濃度の条件下で培養してもよい。
あるいは、その代替培養法として、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。
本明細書中で使用する「体細胞」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
本発明において、体細胞を採取する由来となる動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA−A、HLA−BおよびHLA−DRの3遺伝子座あるいはHLA−Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
<人工多能性幹細胞から心筋細胞、内皮細胞および壁細胞を同時に製造する方法>
本発明において心筋細胞とは、少なくとも心筋トロポニン(cTnT)またはαMHCを発現している細胞を意味する。cTnTは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000364が例示され、マウスの場合、NM_001130174が例示される。αMHCは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_002471が例示され、マウスの場合、NM_001164171が例示される。
本発明において内皮細胞とは、PE−CAM、VE−cadherinおよびフォン−ウィルブラント因子(vWF)のいずれか一つを発現している細胞を意味する。また、壁細胞とは、Smooth muscle actin(SMA)を発現している細胞を意味する。ここで、PE−CAMは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000442が例示され、マウスの場合、NM_001032378が例示される。VE−cadherinは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_001795が例示され、マウスの場合、NM_009868が例示される。vWFは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000552が例示され、マウスの場合、NM_0011708が例示される。SMAは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_001141945が例示され、マウスの場合、NM_007392が例示される。
本発明は、次の工程により、人工多能性幹細胞から心筋細胞、内皮細胞および壁細胞を同時に製造することができる;
(a)人工多能性幹細胞から心筋細胞を製造する工程、および
(b)前記心筋細胞をVEGFの存在下で培養する工程。
ここで、人工多能性幹細胞から心筋細胞を製造する方法として、例えばLaflamme MAらにより報告された多能性幹細胞を心筋細胞を製造することができる(Laflamme MA & Murry CE,Nature 2011,Review)。この他にも特に特定されないが、例えば、人工多能性幹細胞を浮遊培養により細胞塊(胚様体)を形成させて心筋細胞を製造する方法、BMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2005/033298)、Activin AとBMPを順に添加させて心筋細胞を製造する方法(WO2007/002136)、カノニカルWntシグナル経路の活性化を促す物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2007/126077)および人工多能性幹細胞からFlk/KDR陽性細胞を単離し、シクロスポリンAの存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2009/118928)が例示される。
本発明はさらに、上記の工程により作製された心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の混合細胞から未分化な細胞を除去する工程を含むことができる。
〔人工多能性幹細胞から心筋細胞を製造する方法〕
本発明では、好ましくは、次の工程による心筋細胞を製造する方法が例示される;
(i)人工多能性幹細胞を、Activin Aを含む培地で培養する工程、および
(ii)工程(i)の後、さらに、BMP4とbFGFとを含む培地で培養する工程。
(i)Activin Aを含む培地で培養する工程
本工程では、前述のように得られた人工多能性幹細胞を任意の方法で分離し、浮遊培養により培養してもよく、コーティング処理された培養皿を用いて接着培養してもよい。好ましくは、接着培養である。ここで、分離の方法としては、力学的、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)が挙げられる)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離液を用いてもよい。好ましくは、コラゲナーゼ活性のみを有する分離液を用いて解離し、力学的に細かく分離する方法である。ここで、用いる人工多能性幹細胞は、使用したディッシュに対して80%コンフルエントになるまで培養されたコロニーを用いることが好ましい。
ここで浮遊培養とは、細胞を培養皿へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないもの、もしくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly−HEMA)によるコーティング処理)したものを使用して行うことができる。
また、接着培養においては、コーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で培養する。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。より好ましくは、マトリゲルでコーティング処理された培養皿へ人工多能性幹細胞を接着させ、さらにマトリゲルを添加することで、人工多能性幹細胞全体をマトリゲルでコーティングするマトリゲルサンドイッチ法による接着培養である。
本工程における培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Doulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、RPMI 1640培地である。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2 サプリメント(Invitrogen)、B27 サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本発明において好ましい増殖因子とは、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt7a、TGF−β、Activin A、Nodal、BMP2、BMP4、BMP6、BMP7、GDF、bFGFおよびVEGFが挙げられる。少なくとも、本工程ではActivin A(例えば、(組換え)ヒトActivin A)を増殖因子として用いることが望ましい。
本発明において好ましい培地として、L−グルタミン、B27 サプリメントおよびActivin Aを含有するRPMI培地が例示される。
培地に添加されるActivin Aの濃度は、例えば、10ng/mL、25ng/mL、50ng/mL、60ng/mL、70ng/mL、80ng/mL、90ng/mL、100ng/mL、110ng/mL、120ng/mL、130ng/mL、140ng/mL、150ng/mL、175ng/mLまたは、200ng/mLであるがこれらに限定されない。好ましくは、培地に添加されるActivin Aの濃度は、100ng/mLである。
培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養時間は、例えば1日から5日間の培養であり、好ましくは1日である。
(ii)BMPおよびbFGFを含む培地で培養する工程
本工程では、前工程が浮遊培養で行われた場合、得られた細胞集団をそのままコーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で培養してもよい。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。または、前工程が接着培養で行われた場合、培地の交換により培養を続けてもよい。
本工程で用いる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Doulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、RPMI 1640培地である。培地には、血清が含まれていないことが望ましい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS−X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2 サプリメント(Invitrogen)、B27 サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本発明において好ましい増殖因子とは、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt7a、TGF−β、Activin A、Nodal、BMP2、BMP4、BMP6、BMP7、GDF、bFGFおよびVEGFが挙げられる。少なくとも、本工程ではBMP4(例えば、(組換え)ヒトBMP4)およびbFGF(例えば、(組換え)ヒトbFGF)を増殖因子として用いることが望ましい。
本発明において好ましい培地として、L−グルタミン、B27サプリメント、BMP4およびbFGFを含有するRPMI培地が例示される。
培地に添加されるBMP4の濃度は、例えば、0.1ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL、2.5ng/mL、5ng/mL、6ng/mL、7ng/mL、8ng/mL、9ng/mL、10ng/mL、11ng/mL、12ng/mL、13ng/mL、14ng/mL、15ng/mL、17.5ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mLまたは50ng/mLであるがこれらに限定されない。好ましくは、培地に添加されるBMP4の濃度は、10ng/mLである。
培地に添加されるbFGFの濃度は、例えば、0.1ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL、2.5ng/mL、5ng/mL、6ng/mL、7ng/mL、8ng/mL、9ng/mL、10ng/mL、11ng/mL、12ng/mL、13ng/mL、14ng/mL、15ng/mL、17.5ng/mL、20ng/mL、30ng/mL、40ng/mLまたは50ng/mLであるがこれらに限定されない。好ましくは、培地に添加されるbFGFの濃度は、10ng/mLである。
培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養時間は、例えば1日から10日間の培養であり、好ましくは4日である。
〔VEGFの存在下で心筋細胞を培養する方法〕
本工程では、前述した方法で得られた心筋細胞をさらにVEGFの存在下で培養することにより、心筋細胞、内皮細胞および壁細胞が所望の構成比率から成る混合細胞を製造することができる。
例えば、得られた心筋細胞は、前工程が、浮遊培養後の細胞集団の場合、コーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で培養してもよい。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。または、本工程では前述の工程で接着培養により得られた細胞を、培地の交換により培養を続けてもよい。
本工程で用いる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Doulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、RPMI 1640培地である。培地には、血清が含まれていないことが望ましい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS−X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2 サプリメント(Invitrogen)、B27 サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本発明において好ましい増殖因子とは、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt7a、TGF−β、Activin A、Nodal、BMP2、BMP4、BMP6、BMP7、GDF、bFGFおよびVEGFが挙げられる。少なくとも、本工程ではVEGFを増殖因子として用いることが望ましい。
本発明において好ましい培地として、L−グルタミン、B27サプリメントおよびVEGFを含有するRPMI 1640培地が例示される。
培地に添加されるVEGFの濃度は、例えば、10ng/mL〜500ng/mL、25ng/mL〜300ng/mL、40ng/mL〜200ng/mL、50ng/mL〜100ng/mL、60ng/mL〜90ng/mLまたは65ng/mL〜85ng/mLの範囲内であり得る。好ましくは、培地に添加されるVEGFの濃度は、50ng/mL〜100ng/mLである。また、培地に添加されるVEGFの濃度は、10ng/mL、25ng/mL、50ng/mL、55ng/mL、60ng/mL、65ng/mL、70ng/mL、75ng/mL、80ng/mL、85ng/mL、90ng/mL、95ng/mL、100ng/mL、110ng/mL、120ng/mL、130ng/mL、140ng/mL、150ng/mLまたは200ng/mLであってもよいがこれらに限定されない。好ましくは、培地に添加されるVEGFの濃度は、75ng/mLである。
培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養時間は、例えば4日から20日間(例えば、5〜15日間)の培養であり、好ましくは10日である。
本方法により作製された心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の細胞構成比は、以下のものに限定されないが、心筋細胞40〜80%、内皮細胞1〜20%、壁細胞1〜40%、未分化細胞0.1〜10%である。少なくとも、内皮細胞は、3%程度含有していることが好ましい。心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の構成比は、心筋細胞62.7%、内皮細胞7.9%、壁細胞18.3%、未分化細胞2.7%の構成比の混合細胞が例示される。本発明による心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の細胞構成比は、VEGFの濃度およびその他の種々の培養条件により、任意に変化させることが可能であり、細胞をシート化した際に適度な強度を保つことができる範囲内で任意に変化し得る。
〔未分化な細胞(TRA−1−60陽性細胞)を除去する工程〕
本発明はさらに、上記の工程により作製された心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の混合細胞から未分化な細胞を除去する工程を含むことができる。
本工程は、混合細胞中の心筋細胞、内皮細胞および壁細胞と未分化な細胞を分離し得る任意の方法を採用することができる。心筋細胞、内皮細胞および壁細胞と未分化な細胞の分離は、未分化な細胞の指標をもとに混合細胞から未分化な細胞のみを取り出す方法であってもよく、または心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の指標をもとに混合細胞から心筋細胞、内皮細胞および壁細胞を取り出す方法であってもよい。好ましくは、本工程において前者の方法が用いられる。
未分化な細胞の指標は、例えば、未分化な細胞に特異的に発現している遺伝子またはタンパク質であり得る。これらの遺伝子またはタンパク質は、当分野において十分に知られており(Cell.,2005 Sep 23;122(6):947−56,Stem Cells.,2004;22(1):51−64,Mol Biol Cell.,2002 Apr;13(4):1274−81)、例えば、Oct3/4、Nanog(以上、転写因子)、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81(以上、細胞表面抗原)などが挙げられるがこれらに限定されない。本工程における指標は、好ましくは、細胞表面抗原が用いられ、特に好ましくは、TRA−1−60が指標として用いられる。
心筋細胞、内皮細胞および壁細胞それぞれの指標としては、例えば、cardiactroponin−T(cTnT)(心筋細胞)、VE−cadherin(内皮細胞)、PDGFRb(壁細胞)などが用いられるがこれらに限定されない。
本工程における未分化な細胞の除去は、上記の指標をもとに、例えば、フローサイトメトリー(FACS)、磁気細胞分離法(MACS)などの方法を用いて行われる。好ましくは、MACSが用いられる。
本発明の好ましい態様において、混合細胞から未分化な細胞を除去する工程は、TRA−1−60抗体により未分化な細胞を捕捉し、捕捉した未分化な細胞(TRA−1−60陽性細胞)を免疫磁性的な方法(MACS)で除去することにより行われる。
未分化な細胞を除去する工程を行った後の混合細胞は、心筋細胞、内皮細胞および壁細胞のみで構成されていてもよく、または心筋細胞、内皮細胞および壁細胞に加えて任意の細胞が含まれていてもよい。任意の細胞の中には、未分化な細胞が含まれていることもあり得る。
<心筋シートを製造する方法>
本発明において、心筋シートとは、心臓または血管を形成する各種細胞から成り、細胞間結合により細胞同士が連結されたシート状の細胞集合体を意味する。ここで、心臓または血管を形成する各種細胞とは上述の心筋細胞、内皮細胞および壁細胞が例示される。
本発明において好ましい心筋シートは、自己拍動しており、細胞間の電気的結合および配向性を有しており、拍動に応答して一様なカルシウムイオン濃度勾配の変化を有する。
心筋シートは、少なくとも、上述の方法で同時に作製された心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の混合細胞をさらに培養することによって製造される。
上記培養には、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(特開2010−255001)、又はビニルエーテル誘導体を重合させた温度応答性ポリマーを被覆した培養器材を用いてもよく、好ましくは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを固定した培養器材である。尚、本培養器材は、UpCellとしてWAKO社より購入することもできる。
上記培養に用いられる培養器材は、さらに任意のコーティング剤によりコーティング処理されていてもよい。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、ゼラチンである。
本工程で用いる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Doulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、αMEM培地またはRPMI 1640培地である。培地には、血清が含まれていることが望ましいが、必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ITS−X(Invitrogen)(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム含有)、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素などに代替されてもよい。本培地には、さらに、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本発明において好ましい増殖因子とは、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt7a、TGF−β、Activin A、Nodal、BMP2、BMP4、BMP6、BMP7、GDF、bFGFおよびVEGFが挙げられる。少なくとも、本工程ではVEGFを増殖因子として用いることが望ましい。さらに、低分子化合物として、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤が例示される。
ROCK阻害剤は、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y−27632(例えば、Ishizaki et al.,Mol.Pharmacol.57,976−983(2000);Narumiya et al.,Methods Enzymol.325,273−284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(例えば、Uenata et al.,Nature 389:990−994(1997)参照)、H−1152(例えば、Sasaki et al.,Pharmacol.Ther.93:225−232(2002)参照)、Wf−536(例えば、Nakajima et al.,Cancer Chemother Pharmacol.52(4):319−324(2003)参照)およびそれらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の低分子化合物も知られているので、本発明においてはこのような化合物またはそれらの誘導体も使用できる(例えば、米国特許出願公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号、同第20030087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、1種または2種以上のROCK阻害剤が使用され得る。
本発明において好ましい培地として、血清、Y−27632およびVEGFを含有するαMEM培地または血清およびVEGFを含有するRPMI 1640培地が例示される。
本工程において、培養に供する各細胞の細胞数は、所望のシートの大きさによって適宜変更できるが、例えば1×10
4〜1×10
8であるが、心筋シートの大きさは培養器材に依拠して変化させることができる。また、培養日数は、1日から10日でよく、好ましくは4日である。
上述の方法で同時に作製された心筋シートに含有される心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の細胞構成比はシートの形成前後で変化していても良く、前記構成比は、以下のものに限定されないが、心筋細胞30〜70%、内皮細胞0.1〜20%、壁細胞1〜40%、未分化細胞0.1〜10%である。例えば、心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の構成比は、心筋細胞47.0%、内皮細胞4.1%、壁細胞22.5%、未分化細胞2.2%である。
心筋シート製造のための培養において、心筋シート移植後の腫瘍の形成を防ぐ目的で多能性を保持している未分化細胞を除外して培養することが望まれる。多能性を保持している未分化細胞は、例えば、NanogまたはOct3/4により認識することが可能である。
作製した心筋シートは、積層化して用いても良く、好ましくは、3層重ねた心筋シートである。積層化は、心筋シートを培養液中で重ねた(好ましくは、各心筋シートをずらして重ねた)後、培養液を除去する事によって接合させることができる。複数枚重ねる場合は、一度に同作業を行っても良く、好ましくは、1層ごとに同作業を行う。
<心疾患の治療>
上記方法でえられた心筋細胞、内皮細胞および壁細胞から構成される混合細胞および心筋シートは、動物(好ましくはヒト)の心疾患の治療剤として用いることができる。心疾患の治療方法は、混合細胞である場合、直接心臓の心筋層へ投与してもよい。この時、細胞単体で投与してもよく、好ましくは、生着を促すような足場材と共に投与され得る。ここで足場材とは、コラーゲンなどの生体由来の成分やこれに代替するポリ乳酸などの合成ポリマーが例示されるが、これらに限定されない。心筋シートを投与する場合、所望の部分を覆うように配置することによって達成される。ここで、所望の部分を覆うように配置することは、当該分野において周知技術を用いて行うことができる。配置に際し、所望の部分が大きい場合は、組織を取り巻くように配置してもよい。また、投与は、所望の効果を得るため、同部分へ数回の配置を行うこともできる。数回の配置を行う場合、所望の細胞が組織へ生着し、血管新生を行うために十分な時間をおいて行うことが望ましい。このような心疾患の治療の機序は、心筋シートの生着により生じる効果であってもよく、あるいは細胞の生着によらない間接的な作用(例えば、誘引物質を分泌することによるレシピエント由来細胞の損傷部位への動員による効果)であってもよい。
本発明における心筋シートは、心筋細胞、内皮細胞および壁細胞に加えて、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の細胞足場材料(スキャホールド)を含んでいてもよい。あるいは、本発明における心筋シートは、心筋細胞、内皮細胞および壁細胞以外の任意の細胞(複数も可)を含んでいてもよい。
心疾患の治療において用いられる前記混合細胞または心筋シートは、疾患の対象となる動物種、疾患の治療部位の大きさ、疾患の治療方法などに応じて任意の細胞数もしくは任意の大きさまたは数のシートを用いることができる。一般には、動物種や個体の大きさの巨大化に伴い、治療のために必要とされる細胞数の増加もしくは心筋シートのサイズの大型化またはシート数の増加がなされる。
本発明において治療される心疾患は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拡張型心筋症などの疾患または障害による欠損等が挙げられるがこれらに限定されない。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0008】
〔実施例1:ヒトiPS細胞から心筋細胞、内皮細胞および壁細胞への分化誘導〕
ヒトiPS細胞(201B6)は、京都大学の山中教授より受領し、以前に報告された方法(Uosaki H.et al.PLoS One 2011;6:e23657)と同様の方法を用いて維持培養を行った。詳細には、次のとおりである。未分化hiPS細胞を、マトリゲル(growth factor reduced,1:60希釈、Invitrogen)でコーティングされたFALCON培養皿(10cm)に播種し、マウス胎児性線維芽細胞(MEF)からのconditioned medium(培養上清)(MEF−CM)に4ng/mLのヒトbFGF(hbFGF,WAKO)を添加した培地を用いて培養維持を行った。この際、10cm dishに対して10mlの培地を使用した。Conditioned mediumの基礎培地は、Knockout DMEM(GIBCO)471mL,Knockout serum replacement(KSR)120mL,NEAA 6mL,200mM L−Glutamine 3mL,55mM 2−ME(メルカプトエタノール(GIBCO),4ng/ml hbFGF)を混合することにより作製された。MEFは、Mitomycin−C(MMC)(WAKO)により2.5時間処理されたものを用いた。
4−6日毎に、CTK solution(0.1% Collagenase IV,0.25% Trypsin,20% KSR,および1mM CaCl
2 in Phosphate buffered saline(PBS))を用いて細胞コロニーを剥離し、セルストレーナーでsmall clumpの状態にして継代培養した。
続いて、Versene(Invitrogen)を用いて37℃で3−5分間インキュベートすることにより、hiPS細胞を培養皿から剥離した。Verseneを吸引した後、MEF−CMにてピペッティングし、single cellにて回収した後、遠心分離して細胞数をカウントした。100,000細胞/cm
2をマトリゲルでコーティングした6well plate(Growth Factor Reduced Matrigel,BD Biosciences)に播種した。培地としては、4ng/mL hbFGF添加したMEF−CM(6well plateに対し5ml)を用いた。培地の交換なしに2−3日間培養し、コンフルエントになった段階で、マトリゲル(1:60希釈)および4ng/mL hbFGFを含んだMEF−CMで培地交換を行った(マトリゲルサンドイッチ)。
24時間後に、心筋細胞を分化誘導するために、100ng/mLのActivin A(ActA;R&D Systems)を添加したRPMI+B27培地(RPMI1640(GIBCO),2mM L−glutamine,x1 B27 supplement without insulin(GIBCO))に交換した(この日を分化誘導0日目とする)。24時間の培養後、10ng/mL human Bone morphogenetic protein 4(BMP4;R&D)と10ng/mLのhbFGFを添加したRPMI+B27培地に交換した(1日目)。4日間の培養後、内皮細胞および壁細胞をさらに誘導するため3種の濃度(0、50または100ng/ml)のVEGF(rhVEGF,WAKO)を添加したRPMI+B27培地に交換した(5日目)。2日おきに同様の培地にて培地交換を行い、10日間の培養後、AccuMax(Innovative Cell Technologies)を用いて細胞を回収し、一部をFACS解析に用いた(15日目)。
FACSによる解析には、下記の抗体を用いた。
A)心筋細胞に対しては、monoclonal antibodies for cardiac troponin−T(cTnT)(Neomarkers)(Zenon Mouse IgG Labeling Kits(Molecular Probes)を用いてAlexa Fluor 488にて標識したものを使用);
B)内皮細胞に対しては、anti−human VE−cadherin−FITC(BD);および
C)壁細胞に対しては、anti−human PDGFRb−FITC(BD)。
その結果、細胞構成比は、(1)0ng/ml VEGFの場合:0ng/ml VEGFの場合心筋細胞(CM):55.7%,内皮細胞(EC):0.4%,壁細胞(MC):34.4%、(2)50ng/ml VEGFの場合:CM:54.1%,EC:13.4%,MC:16.9%、および(3)100ng/ml VEGFの場合;CM:35.7%,EC:27.4%,MC:18.0%であることが示された(
図1)。
〔実施例2:心筋シートの作製〕
実施例1の方法により作製された心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の混合細胞(1,000,000細胞/well)を、50nM VEGF(rhVEGF,WAKO)と10μM Y−27632(Rockinhibitor,WAKO)を添加した1mlのaMEM+FBS培地(alpha minimum essential medium(αMEM)(GIBCO,Grand Island,NY),10% fetal bovine serum(FBS)および5.5mM 2−ME)中、ゼラチン(Sigma−Aldrich)コートした温度感受性培養皿(UpCell,WAKO)12−multiwell plate上に播種し、37℃にて培養した。培養2日後、培地を50nM VEGF(rhVEGF,WAKO)を添加したRPMI+FBS培地(RPMI 1640,L−glutamineおよび10%FBS)に交換した。さらに2日間の培養後、UpCellを37℃から室温にもどすことにより、細胞をシート状に剥離させ、心筋シートを得た。
〔実施例3:心筋シートの細胞構成〕
実施例2の方法により作製された心筋シートを用いてFACS解析を行った。解析には、下記の抗体を用いた。
A)心筋細胞に対しては、monoclonal antibodies for cardiac troponin−T(cTnT)(Neomarkers)(Zenon Mouse IgG Labeling Kits(Molecular Probes)を用いてAlexa Fluor 488にて標識したものを使用);
B)内皮細胞に対しては、anti−human VE−cadherin−FITC(BD);
C)壁細胞に対しては、anti−human PDGFRb−FITC(BD);および
D)未分化細胞に対しては、anti−human TRA1−60−FTTC(BD)。
シート化前の細胞(UpCellに播種する直前の細胞:Pre−sheet)およびシート化後の細胞(4日間の心筋シート作製工程を経て作製された心筋シートの回収直後の細胞:Post−sheet)を用いて各々FACS解析を行った。その結果、シート化前の細胞構成比は、CM:62.7±11.7%,EC:7.9±4.9%,MC:18.3±11.0%および未分化細胞(Undifferentiated):2.7±1.3であったが、シート化後では、CM:47.0±15.9%,EC:4.1±3.7%,MC:22.5±15.7%およびUndifferentiated:2.2±1.1であることが示された(
図2)。
〔実施例4:心筋シートの電気生理学的評価〕
電気生理学的評価を行うため、0.1%ゼラチンにてコーティングした電極付き培養皿(MED64 system,アルファメッド・サイエンス)の電極上に、上記方法により作製した心筋シートを静置した。続いて、培地を吸引することで電極とシートを固定した後、ゆっくり培地を加え、培養継続した。2日後、それぞれの電極の電位を測定することにより、シート上での電位の伝導を記録した。その結果を
図3に示す。細胞外電位測定により、拍動が電気的に連続して一方向性に伝導することを確認した。また、不整脈の誘因となりうる不規則で周囲との同期を認めないような異常電位発生部位は観察されなかった。
〔実施例5:心筋シートのカルシウム濃度変化による評価〕
カルシウム濃度変化による評価を行うために、実施例4と同様の方法で心筋シートをFALCON培養皿上に固定させ、培養を継続した。培養の2日後に、最終5μMの濃度になるようにFluo8(ナカライテスク)を溶解させた培地へ交換した。37℃で1時間のインキュベーションの後、PBSにて2回洗浄し、Fluo8を含まない培地を入れた。BZ−9000(キーエンス)にて、蛍光を検出することでカルシウム濃度変化を測定したところ、自己拍動に沿って一様な濃度勾配の変化が観察された(
図4)。
〔実施例6:心筋シートの積層化〕
ゼラチンにてコーティングしたディッシュ上に、実施例1および2の方法で作製した心筋シートを広げて静置し、培地を吸引し培養皿とシートを固定後、培地を加えて37℃にて30分インキュベートした。別の心筋シートを広げてディッシュに固定したシートの上へ静置し、培地を吸引して積層させた。同様の工程を3層分繰り返し、2,3層目は元のシートから少しずつ位置をずらして積層化させた。その後、ピペットマンを用いて培養皿底面を沿わせるように培地を流し、積層化された細胞シートを培養皿からはがした(
図5および6)。
〔実施例7:疾患モデルラットに対する心筋シート移植および心機能評価〕
10−13週齢、250〜330gの無胸腺免疫不全ラット(F344/N Jcl−rnu/rnu)(日本クレア)より次の方法で亜急性期心筋梗塞(MI)モデルを作成した。当該ラットをラット用人工呼吸器にて呼吸管理し、イソフルラン吸引により麻酔した。続いて、少量の酸素による人工呼吸下で左肋間開胸による心膜切開より心臓を露出後、前下行枝を第一中隔枝末梢で6−0ポリプロピレン糸にて結紮した。末梢灌流領域の収縮低下および色調変化を確認(それらを認めない場合再度結紮を施行)した後、4−0ポリプロピレン糸にて閉創した。6日後に心臓超音波検査(Vivid7,GE横河メディカル)にてMIの有無を確認した。左室内径短縮率(FS)が40%を超えるものは不適モデルとして除外した。このようにMI導入後7日目に、上記の方法において作製した3枚の心筋シートを積層化して用いた。移植は、MIモデルラットに対しジエチルエーテルにて麻酔導入後、ラット用人工呼吸器にて呼吸管理し、イソフルランにて麻酔を維持した。左肋間開胸にて開胸、肺・胸壁との癒着を慎重に剥離し心筋梗塞部を露出させ、積層化心筋シートを梗塞部に移植した。15分静置ののち4−0ポリプロピレン糸にて閉創した。Sham手術群に対しては心筋梗塞部露出を同様に行い、15分後に同様に閉創した。
移植後4週および3カ月に心臓超音波検査により心機能を測定した。治療群とSham群についてそれぞれ評価し比較した(移植後4週:n=20(治療群)/18(Sham群)、移植後3カ月:n=11(治療群)/8(Sham群))。
心臓超音波検査は次の方法で行った。ジエチルエーテルにて麻酔導入後、ラット用人工呼吸器にて呼吸管理し、イソフルランにてRR間隔120〜200msecになるような深度で麻酔を維持した。続いて、10S プローブ(4.0〜11.0MHz)を用いて測定した。Mモードにて拡張期および収縮期の中隔径、左室内腔径、後壁径を測定し、左室内径短縮率(fractional shortening;FS)および収縮期壁厚増加率(systolic thickening)を計算した。Bモードにて拡張期および収縮期の左室内腔面積および左室周囲長を測定し、左室断面積変化率(fractional area change;FAC)および非収縮範囲(akinetic lesion;AL)を計算した。測定時には、人工呼吸を停止し、呼吸によるバイアスを除いた。その結果、左室収縮能を示すFS,FACおよびsystolic thickeningは、治療群において、治療後4週および3カ月で治療前に比べ改善を認め、Sham群に比べ有意に高値であることが示された。またALで示される梗塞範囲についても治療前に比べ4週および3カ月で縮小し、Sham群と比較して有意に限定されていた。左室拡張期の直径については、4週の段階でSham群は治療群に対して有意に左室拡大を認めた(
図7および8)。
〔実施例8:大型シートの作製〕
実施例1の方法により作製された心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の混合細胞(8,000,000−10,000,000細胞/well)を、50nM VEGF(rhVEGF,WAKO)と10μM Y−27632(Rock inhibitor,WAKO)を添加した17mLのaMEM+FBS培地(alpha minimum essential medium(αMEM)(GIBCO,Grand Island,NY),10% fetal bovine serum(FBS)および5.5mM 2−ME)中、ゼラチン(Sigma−Aldrich)コートした温度感受性培養皿(10cm UpCell dish,WAKO)上に播種し、37℃にて培養した。培養の2日後、培地を50nM VEGF(rhVEGF,WAKO)を添加したRPMI 1640+L−glutamine+10% FBS培地に交換した。さらに2日間の培養後、UpCellを37℃から室温にもどすことにより、細胞をシート状に剥離させ、大型心筋シートを得た。
〔実施例9:混合細胞からのTRA−1−60陽性細胞の除去〕
実施例1の方法により得られた15日目の心筋細胞、内皮細胞および壁細胞の混合細胞を、AccuMax(Innovative Cell Technologies)を用いて回収した。回収した細胞にAnti−Human TRA−1−60−FITC抗体(BD)を加えて、室温にて20分間インキュベートした。続いて、Anti−FITC MACS beads(Miltenyi)を加えて、4℃にて20分間インキュベートした。洗浄後、autoMACS(Miltenyi)を用いて、dep1025モードにてTRA−1−60陽性細胞を免疫磁性的に除去した。TRA−1−60陰性細胞の回収率を表1に示す。
【表1】
〔実施例10:心筋シートの作製〕
実施例9の方法により作製されたTRA−1−60陽性細胞除去後の混合細胞(1,000,000細胞/well)を用いて、実施例2と同様の方法により、心筋シートを作製した。
〔実施例11:疾患モデルラットに対する心筋シート移植および心機能評価〕
実施例7と同様の方法により、実施例10の方法により作製された心筋シートの疾患モデルラットへの移植後の心機能を評価した。心機能は、左室内径短縮率(FS)、収縮期壁厚増加率、非収縮範囲(AL)、左室拡張期の直径(LVDd)についてそれぞれ評価した。結果を
図10に示す。
この結果、実施例10の方法により作製された心筋シートは、疾患モデルラットへの移植後2週間で心機能の回復を認め、以後4週間においてもその効果を認めた。また、この4週後までの観察において、腫瘍の形成は見られなかった。