特許第5920753号(P5920753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5920753
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】液状凍結防止剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20160428BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C09K3/18
   C09K3/00 102
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-217554(P2015-217554)
(22)【出願日】2015年11月5日
【審査請求日】2015年11月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595079984
【氏名又は名称】北海道日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 峻亮
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−537611(JP,A)
【文献】 特開平06−313165(JP,A)
【文献】 特開平09−048961(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/106663(WO,A1)
【文献】 特開2005−023167(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0146408(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18、
C09K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を前記酢酸カリウムと前記グリセリン又は/及び前記プロピレングリコールとする、液状凍結防止剤であって、
前記液状凍結防止剤中における前記有効成分の含有率が40質量%〜50質量%であり、
前記有効成分中の前記グリセリン又は/及び前記プロピレングリコールの含有率が21質量%以上であり、下記式により決定される最大含有率(Z)が70質量%以下であり、
液状凍結防止剤供給装置を使用して路面に散布する、
ことを特徴とする液状凍結防止剤。
(式)Z=4X−20Y−110
X:液状凍結防止剤に対する有効成分の含有率(質量%)
Y:グリセリン混合比
グリセリン含有率(質量%)/
(グリセリン含有率(質量%)+プロピレングリコール含有率(質量%))
Z:有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの最大含有率(質量%)
【請求項2】
酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を前記酢酸カリウムと前記グリセリン又は/及び前記プロピレングリコールとする、液状凍結防止剤であって、
前記液状凍結防止剤中における前記有効成分の含有率が40質量%〜45質量%であり、
前記有効成分中の前記グリセリン又は/及び前記プロピレングリコールの含有率が21質量%〜30質量%であり、
液状凍結防止剤供給装置を使用して路面に散布する、
ことを特徴とする液状凍結防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪寒冷地において路面が滑り易い雪氷状態になるのを防止するための液状凍結防止剤に係わり、コンクリート構造物の凍害、特にスケーリングによる劣化を抑制し、塩害のない液状凍結防止剤供給装置に対応した液状凍結防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積雪寒冷地における凍結した路面の安全確保のため、凍結防止剤を散布することによる化学的凍結対策が実施されている。
寒冷地のコンクリート構造物では、コンクリート中の水分の凍結及び融解の繰り返しによりコンクリートの劣化が引き起こされる(凍害)。凍害の中でも、コンクリートの表面がフレーク状に剥離し、表面が劣化することは、スケーリングと呼ばれている。特に凍結防止剤の散布地域では、凍結防止剤に含まれている塩(塩化物)によりコンクリート毛細管中の浸透圧が大きくなり、コンクリート構造物の劣化がより促進される。
また、凍結防止剤に塩化物が含まれている場合、劣化しているコンクリートの内部への塩化物イオンの浸透速度が速くなり、鉄筋の腐食が促進され、コンクリートの耐久性の著しい低下が引き起こされる(塩害)。
そのため、凍結防止剤には、路面の凍結を防止でき、かつ凍害や塩害を引き起こさないものを使用することが望ましい。
【0003】
凍結した路面の管理の一つとして、液状凍結防止剤供給装置を使用した凍結防止剤の散布が実施されている。
液状の凍結防止剤を散布することで、通行車両の引きずり効果を利用し、凍結防止剤を散布した範囲より広い範囲の凍結した路面の凍結を防止することができる。したがって、液状凍結防止剤供給装置を使用すれば、効率的に凍結した路面の管理が可能となる。液状凍結防止剤の成分としては、無機塩化物を含有しないことによる利点を活かし、腐食性が極めて低い酢酸系液状凍結防止剤が使用されている。
【0004】
凍結防止剤の中でもスケーリングを抑制するものとして、特許文献1〜4に記載の凍結防止剤が提案されている。例えば、特許文献1では、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種類を含みマグネシウムを含まない凍結防止剤と、マグネシウム、鉄及びアルミニウムからなる群より選択される1種類からなる金属を含みアルカリ水溶液と反応して金属の水酸化物となる水溶性金属塩とを含有した凍結防止剤が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)と多価アルコール(例えば、エチレングリコール)を含有する道路用凍結防止剤が提案されている。特許文献3では、コンクリートに対する影響を低減し、さらに金属に対する腐食性を改善した無機塩化物を主成分としてアミノ酸塩及び/又はアミノ酸を含んでなる凍結防止剤が提案されている。
さらに、特許文献4では、液状凍結防止剤供給装置に使用する液状凍結防止剤として、酢酸カリウム水溶液又は酢酸カリウム水溶液に多価アルコールを添加したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−83767号公報
【特許文献2】特開平9−48961号公報
【特許文献3】特開2000−34472号公報
【特許文献4】特開2012−46870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている凍結防止剤は、粉末での使用を推奨しており、液状凍結防止剤供給装置への対応が考慮されていない。また、数種類ある凍結防止剤の中で塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の無機塩化物の使用も推奨している。無機塩化物の使用により、塩害が引き起こされ、コンクリートの耐久性が低下するおそれがある。
【0008】
特許文献2に記載されている凍結防止剤は、記載されている組成範囲では、溶解度の関係から使用する温度で液体となっていない場合もある。そのため、組成によっては、液状凍結防止剤供給装置を使用できない(例えば、酢酸ナトリウムの溶解度は0℃で36.2g/100g H2O)。また、この凍結防止剤は、凝固点降下物質に防錆剤を添加することで、車両又は橋梁等の金属の腐食を防止することを目的としており、全ての組成範囲でスケーリングを抑制する効果は得られない。
また、特許文献2に記載の凍結防止剤は、酢酸塩の濃度が低いと、凍結した路面ですべり摩擦係数を充分に上昇させることができない。なお、すべり摩擦係数を上昇させる効果を改質効果とよぶ。
【0009】
特許文献3に記載されている凍結防止剤は、無機塩化物系融雪剤にアミノ酸塩及び/又はアミノ酸を含んだ組成物であるが、無機塩化物の使用を前提にしているため、凍害や塩害によって、コンクリートの耐久性が低下するおそれがある。
また、この凍結防止剤を液状凍結防止剤供給装置の薬剤として使用した場合、乾燥した環境条件下では、凍結防止剤成分の結晶が析出してしまい、噴射ノズルが詰まるといった問題がある。
【0010】
特許文献4では、液状凍結防止剤供給装置に使用する液状凍結防止剤として酢酸カリウム水溶液又は酢酸カリウム水溶液に多価アルコールを1質量%以上添加した組成物が提案されており、この組成物は無機塩化物を含まないことによる橋梁又は道路内の鉄筋に対する悪影響が少ないとされている。しかし、スケーリング等コンクリート自体の劣化抑制効果については検討されておらず、配合組成によっては充分なスケーリングを抑制する効果が得られない。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物の凍害、特にスケーリングによる劣化を抑制し、塩害のおそれがなく、液状凍結防止剤供給装置を使用して凍結した路面に散布したときに路面の改質効果に優れる液状凍結防止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、以上の目的を達成するために鋭意検討した結果、酢酸カリウムに、特定比率のグリセリン又は/及びプロピレングリコールを配合することで、液状凍結防止剤供給装置により路面に散布した場合、凍結した路面の改質効果に優れることに加え、コンクリートのスケーリングを抑制効果があることを見出し、本発明に至った。
【0014】
(発明
本発明に係る液状凍結防止剤は、酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を酢酸カリウムとグリセリン又は/及びプロピレングリコールとする、液状凍結防止剤であって、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜50質量%であり、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%以上であり、下記式により決定される最大含有率(Z)が70質量%以下であり、液状凍結防止剤供給装置を使用して路面に散布することを特徴とする。
(式)Z=4X−20Y−110
X:液状凍結防止剤に対する有効成分の含有率(質量%)
Y:グリセリン混合比
グリセリン含有率(質量%)/
(グリセリン含有率(質量%)+プロピレングリコール含有率(質量%))
Z:有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの最大含有率(質量%)
【0015】
(発明
本発明に係る液状凍結防止剤は、酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を酢酸カリウムとグリセリン又は/及びプロピレングリコールとする、液状凍結防止剤であって、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜45質量%であり、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%〜30質量%であり、液状凍結防止剤供給装置を使用して路面に散布する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液状凍結防止剤は、凍結した路面の改質効果に優れるため、路面に散布したときに、路面が滑りにくくなり、かつ、コンクリートのスケーリングの抑制効果にも優れるため道路を構成するコンクリート構造物が劣化することを抑制することができる。
【0019】
本発明の液状凍結防止剤は、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率を40質量%〜50質量%とすることで、路面の凍結を防止する性能を十分に確保し、液状凍結防止剤供給装置に適用でき、かつ液状凍結防止剤供給装置に大きな負担をかけずにすむ。また、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%以上であり、下記式により決定される最大含有率(Z)を70質量%以下とすることで、質量減少率を40%以下とすることができ、液状凍結防止剤のスケーリングの抑制効果を顕著に発現させることができる。また、下記式から有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率を決定することにより、すべり摩擦係数を所定の範囲とすることができるため、路面の改質効果を大きくすることができる。
(式)Z=4X−20Y−110
X:液状凍結防止剤に対する有効成分の含有率(質量%)
Y:グリセリン混合比
グリセリン含有率(質量%)/
(グリセリン含有率(質量%)+プロピレングリコール含有率(質量%))
Z:有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの最大含有率(質量%)
【0020】
本発明の液状凍結防止剤は、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率を40質量%〜45質量%とすることで、路面の凍結を防止する性能を十分に確保し、液状かつ粘度を低くできるため、液状凍結防止剤供給装置に適用することができる。また、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率を21質量%〜30質量%とすることで、質量減少率を約40〜35%とすることができ、液状凍結防止剤のスケーリング抑制効果を発現させることができる。
【0021】
さらに、本発明の液状凍結防止剤は、所定の液状凍結防止剤供給装置を使用して散布することができる。液状凍結防止供給装置を使用することで、作業者が直接、凍結した路面に液状凍結防止剤を散布する手間を省くことができ、効率よく液状凍結防止剤を凍結した路面に散布できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
本実施形態では、酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を酢酸カリウムとグリセリン又は/及びプロピレングリコールとする液状凍結防止剤を使用する。
この液状凍結防止剤中における有効成分の含有率は40質量%〜50質量%であり、有効成分中におけるグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率は12質量%〜70質量%である。
【0023】
参考例
本実施形態に係る液状凍結防止剤は、凍結防止剤の主成分として酢酸カリウムを使用し、これを水に溶解させた水溶液の状態で多価アルコールであるグリセリン又は/及びプロピレングリコールを分散溶解させることで作製する。
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)39.6部を水55部に溶解させ、酢酸カリウム水溶液を作製した。この水溶液にグリセリン(関東化学製、鹿1級)2.7部及びプロピレングリコール(関東化学製、鹿1級)2.7部を添加し、均一になるまで溶解させ、参考例の液状凍結防止剤組成物を作製した。
作製した液状凍結防止剤について、凍結融解試験、融氷率測定及びすべり摩擦測定を行った。なお、実施例2〜5及び比較例1〜4で作製した液状凍結防止剤についても各測定を同様に行った。
【0024】
[凍結融解試験]
(a)モルタル製試験用小片供試体の作製
セメント(普通ポルトランドセメント、密度:3.16g/cm3)と表乾状態の細骨材(当麻産陸砂(2.5mmPass)、粗粒率:2.88、表乾密度:2.58g/cm3、吸水率:3.01%、絶乾密度:2.51g/cm3)と水を、水セメント比:0.5、砂セメント比:3となるように混合し、40×40×160mmのJISモルタル供試体成形用型に打設した。打設から24時間で脱型し、28日間水中養生を行った後、打設面及び型枠面から1.5cmを除いて、1辺8mmの立方体に切り出し、これを小片供試体とした。
(b)試験
小片供試体5個を1組とし、容量100mlのポリ容器に入れ、40gの試験溶液(凍結防止剤を有効成分3%に希釈した溶液)に浸漬させた。20℃で24時間静置した後、小片供試体の初期質量を測定した。20℃で1時間静置し、−10℃/hの冷却速度で4時間冷却し、−20℃で3時間、10℃/hの昇温速度で4時間加温した。凍結融解処理は、合計12時間を1サイクルとし、6サイクル行った。次に、小片供試体が入ったポリ容器ごと、3分間超音波処理を行った。超音波処理により崩れずに残った小片供試体の質量と初期質量から、質量減少率を算出した。塩化ナトリウム3%水溶液中における小片供試体の質量減少率を100とした場合の質量減少率を算出し、溶質がスケーリングへ与える影響を評価した。試験溶液1種類あたり上記試料を5組使用し、質量減少率はその平均値とした。
【0025】
[融氷試験]
液状凍結防止剤が氷を溶かす能力を、融氷率によって評価した。脱気した蒸留水100gを入れたガラスシャーレを−5℃の恒温槽に静置し、氷を作製した。これに5gの液状凍結防止剤を散布し、−5℃の恒温槽内で6時間静置した後、溶けた液量を測定した。融氷率は、以下の式から算出した。
融氷率=溶けた液量/液状凍結防止剤の散布量
【0026】
[すべり摩擦試験]
外気温−5℃、交通量が1日1000〜2000台の道路上に、液状凍結防止剤供給装置を使用して液状凍結防止剤を散布した。液状凍結防止剤の散布を開始してから2時間後、速度30km/hで乗用車を走行させ、散布地点から150m離れた地点で車両に急制動を掛け、車輪がロックして路面をすべるときの負の加速度(以下、減速度)を測定した。すべり摩擦係数は、以下の式から算出した。
すべり摩擦係数=減速度/重力加速度(9.8m/s2
すべり摩擦係数とは、すべり易さを表す指標として広く用いられている係数であり、この係数が「0」に近づくほどすべり易くなり、「1」に近づくほどすべり難くなることを示している。道路構造令に用いられている湿潤状態のすべり摩擦係数は、走行速度40〜60km/hにおいて、0.33〜0.38、雪氷路面では一律0.15とされている。例えば、北海道における雪氷路面のすべり摩擦係数は、0.10〜0.30程度の範囲と言われている。
【0027】
液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜50質量%であって、すべり摩擦係数が0.38以上となる、多価アルコールの最大含有率a(質量%)と有効成分b(質量%)の関係を調べた。その結果、グリセリンでは、a=4b−130となり、プロピレングリコールでは、a=4b−110となった。
これらの式より、プロピレングリコールとグリセリンの混合系における多価アルコールの最大含有率(Z)の計算式を算出したところ、下記式となった。
(式)Z=4X−20Y−110
X:液状凍結防止剤に対する有効成分の含有率(質量%)
Y:グリセリン混合比
グリセリン含有率(質量%)/
(グリセリン含有率(質量%)+プロピレングリコール含有率(質量%))
Z:有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの最大含有率(質量%)
【0028】
[実施例2]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)31.6部を水60部に溶解させ、酢酸カリウム水溶液を作製した。この水溶液にプロピレングリコール(関東化学製、鹿1級)8.4部を添加し、均一になるまで溶解させ、実施例2の液状凍結防止剤組成物をとした。
【0029】
[実施例3]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)27部を水55部に溶解させ、酢酸カリウム水溶液を作製した。この水溶液にグリセリン(関東化学製、鹿1級)18部を添加し、均一になるまで溶解させ、実施例3の液状凍結防止剤組成物とした。
【0030】
[実施例4]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)18部を水55部に溶解させ酢酸カリウム水溶液を作製する。この水溶液にグリセリン(関東化学製、鹿1級)13.5部及びプロピレングリコール(関東化学製、鹿1級)13.5部を添加し、均一になるまで溶解させ、実施例4の液状凍結防止剤組成物とした。
【0031】
[実施例5]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)15部を水50部に溶解させ酢酸カリウム水溶液を作製する。この水溶液にプロピレングリコール(関東化学製、鹿1級)35部を添加し、均一になるまで溶解させ、実施例5の液状凍結防止剤組成物とした。
【0032】
[比較例1]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)23.75部を水75部に溶解させ酢酸カリウム水溶液を作製する。これにプロピレングリコール(関東化学製、鹿1級)1.25部を添加し、均一になるまで溶解させ、比較例1の液状凍結防止剤組成物とした。
【0033】
[比較例2]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)38部を水60部に溶解させ酢酸カリウム水溶液を作製した。この水溶液にグリセリン(関東化学製、鹿1級)2部を添加し、均一になるまで溶解させ、比較例2の液状凍結防止剤組成物とした。
【0034】
[比較例3]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)25.2部を水65部に溶解させ酢酸カリウム水溶液を作製する。この水溶液にプロピレングリコール(関東化学製、鹿1級)9.8部を添加し、均一になるまで溶解させ、比較例3の液状凍結防止剤組成物とした。
【0035】
[比較例4]
酢酸カリウム(関東化学製、鹿1級)10部を水60部に溶解させ酢酸カリウム水溶液を作製する。これにグリセリン(関東化学製、鹿1級)30部を添加し、均一になるまで溶解させ、比較例4の液状凍結防止剤組成物とした。
【0036】
実施例及び比較例の各液状凍結防止剤組成物について、凍結融解試験による塩化ナトリウムを100とした場合の質量減少率、融氷試験による融氷率及びすべり摩擦試験によるすべり摩擦係数の測定結果を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
次に、有効成分中の多価アルコールの含有率と質量減少率の関係を表2に示した。
【表2】
【0039】
表2より、液状凍結防止剤中に多価アルコールを含有させると、小片試供体の質量減少率が小さくなるため、スケーリングを抑制する効果が大きくなる。また、有効成分中の多価アルコールの含有率が12質量%より大きくなると、質量減少率が50%より小さくなる。小片試供体の質量減少率が、塩化ナトリウム水溶液の場合と比較し、50%以下であることは、スケーリングの抑制効果が発現していると言える。
多価アルコールの含有率が12%以上になるにつれ、質量減少率はなだらかに減少し、多価アルコールの含有率が21質量%〜30質量%では、質量減少率が約40〜35%となることが解る。
参考例及び実施例〜5に示す液状凍結防止剤組成物は、塩化ナトリウム水溶液と比較した質量減少率は50%未満であり、比較例1〜2に示す液状凍結防止剤組成物と比較して、スケーリングの抑制効果が大きく向上していることが解る。
【0040】
また、参考例及び実施例〜4に示す液状凍結防止剤組成物は、比較例1,3及び4と比較し、融氷率が向上している。すべり摩擦係数もすべり易いと言われる0.10〜0.30から、よりすべりにくい約0.4〜0.5まで向上している。
したがって、本実施形態に係る液状凍結防止剤は、比較例1,3及び4と比較し、凍結した路面の改質効果が高い。
【0041】
ここで、スケーリングの抑制効果の重要性について説明する。
スケーリングは、構造物の美観が損なわれるだけでなく、凍害が進行した場合に鉄筋のかぶりが減少し、鉄筋の付着強度の低下や変形が起こるおそれがある。このことは有効なコンクリート断面が大きく減少し、コンクリートの耐荷力を低下させることを示唆している。凍結防止剤として塩化ナトリウムを散布している地域では、かぶりの減少とコンクリート組織の緩みのために、塩化物イオンの浸透速度が速くなり、鉄筋の腐食も促進され、コンクリートの耐久性が著しく低下(損傷)する。これら一連の事象は、コンクリート構造物の安全性に大きな影響を及ぼす劣化の要因となっている。
特に昭和30年代後半から40年代前半(高度経済成長期)に建設された橋梁は、床版への防水工は考慮されていないため、融雪水が床版上面へ浸透して滞水しやすく、これにより凍結融解作用による床版上面のスケーリングや砂利化などの劣化現象を受けやすい。RC床版の上面が劣化すると、曲げや剪断の有効面積が小さくなり、疲労耐久性が大きく低下することが考えられる。
現在、高度経済成長期に建設された橋梁は全体の3割以上を占め、今後、高齢化する道路資源が急増するため、計画的に道路管理を行い、長寿命化を進めていくことが求められている。
【0042】
このような観点で、本実施形態に係る液状凍結防止剤は、コンクリート構造物の劣化を抑制できるため、凍結防止剤の散布を必要とする積雪寒冷地におけるコンクリート構造物の長寿命化に非常に有効である。
また、例えば、コンクリート構造物である橋梁の損傷(スケーリング等)を放置した場合、橋梁の安全性が確保できず、交通規制等が必要になる、あるいは、安全な通行が困難になるなど、深刻な事態が発生する可能性があるため、適宜、補修する必要がある。したがって、橋梁の予防保全及び補修費用の削減の観点からもスケーリングの抑制効果の高い液状凍結防止剤は有効である。
【0043】
道路構造物の劣化を抑制する手段として、良質なコンクリート構造物を使用することが知られているが、そのような構造物を使用する場合、多大な費用がかかる。
本実施形態に係る液状凍結防止剤は、コンクリート構造物の特性に関わらず、その構造物の劣化を抑制することができるため、道路を整備するための費用を削減することができる。
【0044】
また、比較例から分かるようにスケーリングの抑制効果あるいは散布時の路面の改質効果の両方を兼ね備える凍結防止剤は公知の酢酸系凍結防止剤組成物によっては達成できない。本実施形態の液状凍結防止剤は、路面の改質効果に加え、スケーリングの抑制効果をも備える。
したがって、本実施形態に係る液状凍結防止剤を凍結した路面に散布することで、路面の管理が容易になり、コンクリートのスケーリングの抑制効果に優れるため、コンクリート構造物が劣化することを防止できる。
【0045】
本実施形態の液状凍結防止剤は、酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を酢酸カリウムとグリセリン又は/及びプロピレングリコールとし、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜45質量%であり、有効成分中におけるグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が12質量%〜70質量%である。
【0046】
液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が40質量%未満の場合、凍結した路面に液状凍結防止剤を散布した際の凍結を防止する性能が十分でない。一方、液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が45質量%より小さい場合、液状凍結防止剤は液状であり、かつ粘度を低くできるため、液状凍結防止剤供給装置に適用することができる。
また、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が12質量%より大きい場合、質量減少率が50%より大きくなり、スケーリングの抑制効果が大きくなる。一方、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が70質量%以上となると、路面の改質効果が小さくなる。
そのため、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率を上記の範囲とすることで、路面の改質効果を得ることができることに加え、質量減少率を50%以下に低下させ、スケーリングの抑制効果を発現させることができる。
したがって、この液状凍結防止剤を凍結した路面に散布することにより、路面が滑りにくくなり、かつ道路を構成するコンクリート構造物が劣化することを抑制することができる。
【0047】
酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールが配合され、有効成分を前記酢酸カリウムとグリセリン又は/及びプロピレングリコールとする液状凍結防止剤は、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜50質量%であり、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%以上であり、下記式により決定される最大含有率(Z)が70質量%以下である。
(式)Z=4X−20Y−110
X:液状凍結防止剤に対する有効成分の含有率(質量%)
Y:グリセリン混合比
グリセリン含有率(質量%)/
(グリセリン含有率(質量%)+プロピレングリコール含有率(質量%))
Z:有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの最大含有率(質量%)
【0048】
液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が40質量%未満の場合、凍結した路面に液状凍結防止剤を散布した際の凍結を防止する性能が十分でない。一方、液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が50質量%より大きいと、液状凍結防止剤の性状は液体から固体になる場合もあり、液状凍結防止剤装置に適用できなくなってしまったり、あるいは、液状凍結防止剤の粘度が高くなってしまい、液状凍結防止剤供給装置に大きな負担がかかり、故障の要因になる。
また、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%より大きい場合、質量減少率が40%以下となり、スケーリングの抑制効果が顕著に大きくなる。一方、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が70質量%以上となると、路面の改質効果が小さくなる。
さらに、上述した式により、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの最大含有率を決定することで、液状凍結防止剤を散布した路面のすべり摩擦係数を0.38以上とすることができ、路面の改質効果を大きくすることができる。
そのため、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率を上記の範囲とすることで、路面の改質効果を得ることができることに加え、質量減少率を40%以下に低下させ、スケーリングの抑制効果を発現させることができる。
したがって、この液状凍結防止剤を凍結した路面に散布することにより、路面が滑りにくく、かつ道路を構成するコンクリート構造物が劣化することを抑制することができる。
【0049】
本実施形態の液状凍結防止剤は、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜45質量%であり、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%〜30質量%である。
【0050】
液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が40質量%未満の場合、凍結した路面に液状凍結防止剤を散布した際の凍結を防止する性能が十分でない。一方、液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が45質量%より小さい場合、液状凍結防止剤は液状であり、かつ粘度を低くできるため、液状凍結防止剤供給装置に適用することができる。
また、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が21質量%以上であると、質量減少率が40質量%以下となり、スケーリングの抑制効果が顕著に大きくなる。さらに、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が30質量%以下であると、高い路面の改質効果を得ることができる。
そのため、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率を上記の範囲とすることで、路面の改質効果を得ることができることに加え、質量減少率を40%〜35%に低下させ、スケーリングの抑制効果を発現させることができる。
したがって、この液状凍結防止剤を凍結した路面に散布することにより、路面が滑りにくくなり、かつ道路を構成するコンクリート構造物が劣化することを抑制することができる。
【0051】
本実施形態の液状凍結防止剤は、後述する液状凍結防止剤供給装置を使用して、凍結路面に散布することができる。散布された液状凍結防止剤は、通行する車両により引きずられることで、散布した範囲より広い範囲の路面で良好な改質効果を発揮することができる。
また、本実施形態の液状凍結防止剤中の成分の結晶が析出することはないため、液状凍結防止剤供給装置を使用した場合、結晶の析出により噴射ノズルが詰まることを防止できる。そのため、液状凍結防止剤供給装置の保守点検を容易に行うことができる。
【0052】
本実施形態に係る液状凍結防止剤は、所定の液状凍結防止剤供給装置を使用し、路面に散布することができる。液状凍結防止剤供給装置を使用することで、作業者が直接散布する必要はなくなるため、液状凍結防止剤を散布する手間を省くことができ、かつ効率よく凍結した路面に液状凍結防止剤を散布することができる。
例えば、液状凍結防止剤を貯留する貯留部と、この貯留部から液状凍結防止剤が供給される貯留補助部と、この貯留補助部内に貯留する液状凍結防止剤を一定量に調整する貯留調整手段と、貯留補助部よりも低い位置に設置され、貯留補助部から液状凍結防止剤が供給されるとともに、開放した上面を露出させて埋設させた滲み出し部からなる液状凍結防止剤供給装置を使用することができる。この液状凍結防止剤供給装置は、貯留補助部と滲み出し部との高低差を相対的に調整できる高さ調整手段を設けられている。
【0053】
また、貯留部と、この貯留部の下部に一端が接続され、他端が貯留部よりも低く、道路の路面よりも高い位置に設置された供給管とを備える液状凍結防止剤装置を使用することもできる。この液状凍結防止剤装置は、貯留部内の液状凍結防止剤を、この液状凍結防止剤の液面と供給管の他端との高低差によって供給管の他端から路面へ供給することができる。
さらに、外部状況を検出するセンサー部と、貯留タンク部と、噴射ノズル部を介して液状凍結防止剤を路面へ供給する路面供給部と、センサー部の検出結果に応じて循環タンクから路面供給部へ供給する液状凍結防止剤の圧力及び路面供給部の噴射電動弁の開放時間及び開放間隔を制御する液供給制御部とを備える液状凍結防止剤装置を使用することができる。この路面供給部は、封入ガスを有する蓄圧式貯留タンクと噴射圧力調整器と噴射電動弁を有し、この蓄圧式貯留タンク内に加圧状態で貯留された液状凍結防止剤を噴射電動弁及び噴射ノズル部を介して、路面に噴射供給する。
【0054】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の設計変更が可能である。
例えば、酢酸溶液及び水酸化カリウム水溶液から合成した酢酸カリウム水溶液中に多価アルコールを分散溶解して製造することもできる。
本実施形態に係る液状凍結防止剤は塩素成分を全く含まれていないが、防錆効果を高めるために市販の防錆剤を適宜加えることができる。
また、液状凍結防止剤供給装置は、本実施形態に係る液状凍結防止剤を凍結路面に散布できればよく、本実施形態に示した液状凍結防止剤供給装置に限定されない。
【要約】
【課題】道路を構成するコンクリート構造物のスケーリングによる劣化を抑制し、塩害のおそれがなく、液状凍結防止剤供給装置を使用して凍結した路面に散布したときに、路面の改質効果に優れる液状凍結防止剤を提供する。
【解決手段】酢酸カリウムを基剤とする水溶液にグリセリン又は/及びプロピレングリコールを配合し、有効成分を酢酸カリウムとグリセリン又は/及び前記プロピレングリコールとし、液状凍結防止剤中における有効成分の含有率が40質量%〜45質量%であり、有効成分中におけるグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が12質量%〜70質量%である液状凍結防止剤により、コンクリート構造物のスケーリングによる劣化を抑制し、液状凍結防止剤供給装置を使用して凍結した路面に散布したときに路面の改質効果を発現させることができる。
【選択図】なし