特許第5920788号(P5920788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920788
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】酸化物基複合材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20160428BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C04B35/80 Z
   C04B35/00 H
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-547924(P2012-547924)
(86)(22)【出願日】2011年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2011078563
(87)【国際公開番号】WO2012077787
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2013年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-275180(P2010-275180)
(32)【優先日】2010年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】原田 広史
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 利光
(72)【発明者】
【氏名】川岸 京子
(72)【発明者】
【氏名】谷 月峰
(72)【発明者】
【氏名】横川 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏治
(72)【発明者】
【氏名】長田 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】鐘 志宏
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−291874(JP,A)
【文献】 特開2001−019538(JP,A)
【文献】 特開2008−024585(JP,A)
【文献】 特開2002−173376(JP,A)
【文献】 ZHI, WANG et al.,Mullite Fiber Reinforced Alumina Ceramic Matrix Composites,Key Engineering Materials,2008年,Vols. 368-372,pp. 710-712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種以上の酸化物または複合酸化物よりなる繊維(ただし、イットリア・アルミナ複合酸化物を除く)と、少なくとも一種以上の酸化物または複合酸化物(ただし、イットリアおよびムライト−アルミナ複合酸化物を除く)よりなるマトリックスとを複合化して得られる酸化物基複合材料であって、前記繊維と前記マトリックスSi,Ti,Zr,Mg,Hf,Alまたは希土類元素の酸化物または複合酸化物から形成され(ただし、前記繊維については、イットリア・アルミナ複合酸化物を除き、前記マトリックスについては、イットリアおよびムライト−アルミナ複合酸化物を除く)、前記繊維と前記マトリックスは、溶融温度を超えない温度域で互いに熱力学的に平衡を維持し、融合せず、界面が維持され、かつ、平衡時の前記繊維の繊維径が複合化開始時と比較して1/2以上を維持することを特徴とする酸化物基複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物または複合酸化物のマトリックスを酸化物または複合酸化物の繊維で強化した酸化物基複合材料に関する。詳しくは、製造過程および高温での使用中に生じるマトリックスと繊維の反応を防止するために導入されていた界面層を有しない酸化物基複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基複合材料は、金属材料が使用困難な1000℃以上の超高温で使用可能な耐熱材料として近年注目され、一部実用化されている。また、軽量であることを活用して1000℃以下の用途にも実用化されている。セラミック基複合材料の特徴は、セラミックマトリックスをセラミック繊維で強化したことであり、従来のモノリシックなセラミックにおいて致命的な欠陥とされてきた靱性を改善している。この靱性を改善するために、セラミック基複合材料では、マトリックスと繊維を複合化し、多数の界面を導入している。
【0003】
一般に、セラミックは、金属材料よりも高温強度に優れているが、その反面非常に脆いと言う欠点を有している。このため、一旦発生したき裂は、材料中を容易に、最短距離を直線的に伝播するため、巨視的な破壊が短期間で生じる。これが現在までモノリシックなセラミックがほとんど使われていなかった最大の理由である。
一方、セラミック基複合材料では、マトリックスと繊維の界面が多数存在する。このため、マトリックスに発生したき裂は界面で一旦止められ、例えば、水平方向から界面に沿った垂直方向に方向を変えて伝播する。その結果、き裂の伝播方向は直線的ではなく、偏向し、伝播距離が長くなる。また、繊維による架橋効果および引き抜き効果により、モノリシックセラミックにはない応力緩和も生じ、き裂の進展速度は遅くなる。
このようなき裂の偏向、架橋効果および引き抜きによる破壊靱性の向上により、モノリシックセラミックスにおいて最大の欠点であった急速破断およびそれによる低信頼性を抜本的に改善することが可能である。このため、セラミックが有する、金属材料を遙かに超える優れた高温強度を活用できる用途への適用が可能となっている。
【0004】
セラミック基複合材材料には、代表的なものとして、SiC(炭化ケイ素)のマトリックスをSiC繊維で強化した、いわゆるSiC/SiC複合材料や、アルミナのマトリックスをSiC繊維で強化した複合材料等が挙げられる。これらのセラミック基複合材料を製造し、使用する上では、靱性確保の観点から、界面をいかに保つかが最大の技術的課題となっている。例えばSiC/SiC複合材料の場合、マトリックスと繊維は同質の材料であるため、特に界面層に配慮することなく複合材料を作製すると、製造時にマトリックスを焼成するための高温保持や、部材として使用中の高温保持によって、マトリックスと繊維の一体化が生じ、モノリシックセラミックと同じ構造になってしまう。その結果、セラミック基複合材料の最大の長所である、き裂の進展の抑制が損なわれる。
このように、セラミック基複合材料については、マトリックスと繊維の反応が高温において生じないように、界面を維持させる必要がある。そこで、従来のSiC/SiC複合材料では、製造過程において、繊維にC(炭素)をコーティングし、コーティングしたCを界面層とすることで、製造時の高温保持および使用中の高温保持においてマトリックスと繊維の反応を防止している。
【0005】
しかしながら、SiC/SiC複合材料では、高温での使用中に界面層のCが著しく酸化しやすい。製造時では、非酸化雰囲気での焼成により酸化を回避することができるが、高温酸化雰囲気中で高温部品として使用する場合、Cの耐酸化性はSiCに比べ大幅に劣るため、Cが優先的に酸化されてしまう。Cの酸化にともない、セラミック基複合材料の内部全体が酸化されることとなり、素材全体の変形や酸化等が生じ、高温部品として必要な特性を維持することができなくなる。また、たとえ界面層をなくしたとしても、SiCは使用環境下において本質的に酸化するため、SiC/SiC複合材料には耐酸化性の向上が必要不可欠である。
なお、界面層として耐酸化性が良好なBN(窒化ホウ素)をSiC繊維にコーティングすることが検討されているが、Cを界面層とするSiC/SiC複合材料に比べて製造コストが著しく高く、また、安定した界面の形成が難しいなどの問題があるため、これまで実用化されていない。
【0006】
もう一つの代表的なセラミック基複合材料として、酸化物系繊維を酸化物に複合化した、例えばアルミナ/アルミナ複合材料が開発されている。アルミナ/アルミナ複合材料は、モノリシックの酸化物系セラミックスと異なり、大きな破壊抵抗を持つことが確認されている。このようなセラミック基複合材料では、酸化物系繊維と酸化物系マトリックスとの反応を防止するために、繊維1本ずつにコーティングが施される。コーティングを施した酸化物系繊維と酸化物系マトリックスとを複合化した複合材料は、単味の酸化物系セラミックスに対し、大きな破壊抵抗を示すことが確認されている。ここで、酸化物系とは、酸化物または複合酸化物のことを意味する。
ところで、コーティングは、繊維1本1本に均一に数ミクロン以下の厚みで施されるべきものである。
しかしながら、多くの繊維からなる繊維束やシート状の酸化物または複合酸化物では、これまでに知られているセラミック基複合材料の製造方法を適用した場合、繊維1本1本に均一なコーティングを施すことは困難であり、また、製造時にコーティングが剥げ落ちやすく、コーティング後の繊維の取扱いは必ずしも容易ではなかった。複合化の工程で一部のコーティングが剥げ落ちて繊維とマトリックスが直接接触する部分が生じると、その接触部分で繊維による補強効果が損なわれるため、セラミック基複合材料の複合化のメリットが激減してしまう。繊維の取扱いを慎重にし、コーティングの剥離を防ぎ、最適な界面を実現することは、技術的に難しく、また、製造コストが高くなる。
【0007】
このような酸化物系繊維を酸化物系マトリクスに複合化したセラミック基複合材料が有する問題を解決するために、いくつかの方法が提案されている。例えば、セラミックス繊維の主成分と異なる金属または金属酸化物を含浸させた一次複合体を金属酸化物マトリックスと複合して焼成する方法や、酸化物系繊維の表層に繊維と反応し難いリン酸アルミニウムを含浸させるか、またはマトリックスとしてリン酸アルミニウムを使用すること等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−49570号公報
【特許文献2】特開2002−173376号公報
【特許文献3】特開2003−40685号公報
【特許文献4】特開平9−67194号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Akihiko OTSUKA, Yoshiharu WAKU, Kuniyuki KITAGAWA and Norio ARAI, J. Ceram. Soc. Japan, Vol. 111, pp.87-92 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、現在のセラミック基複合材料では、マトリックスと繊維の反応や融合を防止するために、異質な材料を導入して界面層を形成する必要があるが、そのことが別の弊害をもたらすという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、異質な材料を導入することなく、高温で長時間保持してもマトリックスと繊維の反応や融合が生じず、安定した界面が形成された酸化物基複合材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の酸化物基複合材料は、少なくとも一種以上の酸化物または複合酸化物よりなる繊維(ただし、イットリア・アルミナ複合酸化物を除く)と、少なくとも一種以上の酸化物または複合酸化物(ただし、イットリアおよびムライト−アルミナ複合酸化物を除く)よりなるマトリックスとを複合化して得られる酸化物基複合材料であって、前記繊維と前記マトリックスSi,Ti,Zr,Mg,Hf,Alまたは希土類元素の酸化物または複合酸化物から形成され(ただし、前記繊維については、イットリア・アルミナ複合酸化物を除き、前記マトリックスについては、イットリアおよびムライト−アルミナ複合酸化物を除く)、前記繊維と前記マトリックスは、溶融温度を超えない温度域で互いに熱力学的に平衡を維持し、融合せず、界面が維持され、かつ、平衡時の前記繊維の繊維径が複合化開始時と比較して1/2以上を維持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温においても繊維とマトリックスは熱力学的に平衡を維持しているため、繊維とマトリックスの間の界面の移動は起こらない。このため、酸化物基複合材料を製造した際に形成された界面はそのままの状態で維持され、高温での使用中においても繊維とマトリックスの反応や融合は生じない。安定した界面が形成された酸化物基複合材料が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の酸化物基複合材料のモデル図である。
図2】実施例として作製した酸化物基複合材料であり、二次元的に織り込まれたムライト繊維の間にアルミナマトリックスを含浸させたものを積層した後、大気中において、常圧で1500℃、2時間焼成処理したセラミック基複合材料の外観写真である。
図3図2に示した酸化物基複合材料の断面におけるミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。
図4図2に示した酸化物基複合材料を強制的に破壊した際の破面を示す光学顕微鏡写真である。
図5】比較例として作製した酸化物基複合材料であり、二次元的に織り込まれた80mass%AlO+20mass%SiO繊維の間にアルミナマトリックスを含浸させたものを積層した後、大気中において、常圧で1500℃、2時間焼成処理した酸化物基複合材料の外観写真である。
図6図5に示した酸化物基複合材料の断面におけるミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。
図7図5に示した酸化物基複合材料を強制的に破壊した際の破面を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の酸化物基複合材料では、少なくとも一種以上の酸化物または複合酸化物よりなる繊維と、少なくとも一種以上の酸化物または複合酸化物よりなるマトリックスには、溶融温度を超えない温度域で互いに熱力学的に平衡を維持し、かつ、平衡時の繊維の繊維径が複合化開始時と比較して1/2以上を維持する成分組成が選択されている。平衡時の繊維の繊維径が複合化開始時と比較して1/2以上を維持することによって、酸化物基複合材料が本来有する優れた靱性を保持することができる。好ましくは、平衡時の繊維の繊維径が複合化開始時と比較して3/4以上を維持する成分組成とする。
図1に、本発明の酸化物基複合材料のモデル図を示す。
繊維1とマトリックス2が熱力学的に平衡していると、酸化物基複合材料の製造時および高温使用時においても両者間に存在する界面3は保持される。このため、酸化物基複合材料中のき裂の伝播は抑制され、酸化物基複合材料の靱性向上という効果は堅持される。一方、繊維1とマトリックス2とが熱力学的に平衡していない場合には、繊維1とマトリックス2とは高温下で反応して当初の界面が消失する、または、繊維を構成する成分がマトリックスへ移動し、繊維径が減少して酸化物基複合材料が本来有する良好な靱性が損なわれる。
【0015】
本発明の酸化物基複合材料では、特に雰囲気を制御することなく、大気中で焼成しても、繊維とマトリックスは反応せず、境界には界面が形成される。界面層を形成するために繊維の表面にコーティングを施す従来の方法は、コーティングの不完全さに伴う界面の消失という大きな問題があるが、本発明の酸化物基複合材料では、繊維と高温において熱力学的に平衡となるマトリックスを使用しているため、界面は、そのままの状態で維持され、高温での使用中においても繊維とマトリックスの反応や融合は生じない。安定した界面が維持される。また、本発明の酸化物基複合材料には、大気中で焼成できるため、製造コストが大幅に低減するというメリットもある。なお、もちろん、本発明の酸化物基複合材料は、非酸化雰囲気化や加圧化での焼成によっても製造可能である。
【0016】
繊維およびマトリックスの成分組成としては、例えば、Si,Ti,Zr,Mg,Hf,Alまたは希土類元素の酸化物または複合酸化物が例示される。繊維およびマトリックスの成分組成の組み合わせは、具体的には以下に挙げられる。しかし、本発明の趣旨に沿うものである限り、下記の組み合わせに限られない。また、平衡状態を保つ限り、成分組成が化学量論組成より変動しても良い。
【0017】
その1: Siの酸化物とTiの酸化物の組み合わせ
・SiO2-TiO2
その2: Siの酸化物とMgの酸化物の組み合わせ
・MgO-Mg2SiO4
・Mg2SiO4-MgSiO3
・MgSiO3-SiO2
その3: Siの酸化物とHfの酸化物の組み合わせ
・HfO-HfSiO4
・HfSiO4-SiO2
その4: Siの酸化物とAlの酸化物の組み合わせ
・Al2O3-3Al2O32SiO2(ムライト)
・3Al2O32SiO2(ムライト)-SiO2
その5: Tiの酸化物とZrの酸化物の組み合わせ
・TiO2-ZrTi2O6
・ZrTi2O6-ZrO2
その6: Tiの酸化物とMgの酸化物の組み合わせ
・TiO2-MgTi2O5
・MgTi2O5-MgTiO3
その7: Tiの酸化物とHfの酸化物の組み合わせ
・TiO2-Ti0.5Hf0.5O2
・Ti0.5Hf0.5O2-HfO2
その8: Tiの酸化物とAlの酸化物の組み合わせ
・TiO2-Al2O3
その9: Zrの酸化物とMgの酸化物の組み合わせ
・MgO2-ZrO2
その10: Zrの酸化物とAlの酸化物の組み合わせ
・ZrO2-Al2O3
その11: Mgの酸化物とAlの酸化物の組み合わせ
・Al2O3-MgAl2O4
・MgAl2O4-MgO
その12: Hfの酸化物とAlの酸化物の組み合わせ
・HfO2-Al2O3
その13: Siの酸化物と希土類元素の酸化物の組み合わせ
・SiO2-Y2Si2O7
その14: Tiの酸化物と希土類元素の酸化物の組み合わせ
・TiO2-Yb2Ti2O7
・TiO2-Lu2Ti2O7
・TiO2-Ho2Ti2O7
・TiO2-Y2O3
・TiO2-Dy2Ti2O7
その15: Zrの酸化物と希土類元素の酸化物の組み合わせ
・ZrO2-La1.64Zr0.27O3
・ZrO2-Gd2Zr2O7
・ZrO2-Y2O3
その16: Mgの酸化物と希土類元素の酸化物の組み合わせ
・MgO-Y2O3
その17: Hfの酸化物と希土類元素の酸化物の組み合わせ
・HfO2-Hf2La2O7
・HfO2-Yb2O3
・HfO2-Tb2O3
・HfO2-Lu2O3
・HfO2-Ho2O3
・HfO2-Eu2O3
・HfO2-Eu2Hf2O7
・HfO2-Er2O3
・HfO2-Gd2O3
・HfO2-Gd2Hf2O7
・HfO2-Y2O3
・HfO2-Dy2O3
その18: Alの酸化物と希土類元素の酸化物の組み合わせ
・Al2O3-Y3Al5O12
・Al2O3-Er3Al5O12
・Al2O3-GdAlO3
・Al2O3-Dy3Al5O12
【0018】
また、繊維およびマトリックスの成分組成の組み合わせは、三成分以上の多成分系で平衡を保つものであっても良い。一例として、Al2O3-Y3Al5O12-ZrO2の組み合わせが挙げられる。
繊維の形状は、短繊維、長繊維でも、繊維束、不織布、二次元または三次元的なシート形状、繊維積層体であってもよい。マトリックスとなる酸化物または複合酸化物は、通常粉末形状で用いられるが、場合によっては、酸化物または複合酸化物の前駆体を用いることもできる。酸化物または複合酸化物としての純度は高い方が好ましい。純度として97質量%以上、好ましくは99質量%以上のものを使用するのが一般的である。
本発明の酸化物基複合材料の製造方法については特に制限はない。一例として、二次元または三次元的に織り込まれた酸化物または複合酸化物よりなる繊維シートを、マトリックスとする酸化物または複合酸化物の粉末を分散させたスラリー中に浸漬し、この浸漬を繰り返し行い、繊維の間に酸化物または複合酸化物の粉末を十分充填させた後、乾燥・高温における焼成を行うことが例示される。焼成工程の前段階で加圧成形を行って空隙率の制御を行うこともできる。
焼成工程で使用される温度条件としては、通常、繊維とマトリックスの平衡状態が維持される高温、例えば1000℃以上が例示される。ただし、温度条件はこれに限定されない。
また、本発明の酸化物基複合材料を耐熱部材に適用する際には、一例として、耐熱部材の応力方向を勘案して三次元的に編み上げた繊維を用い、この繊維にマトリックス成分を含浸させ、液相が生成する温度以下においてマトリックスを焼成することで緻密化を行うことができる。なお、ホットプレス等を用いて高温において圧縮荷重を負荷すれば、マトリックスをより緻密化させることが可能である。
これらの製造方法では、原料の溶融過程を経ることがないため、繊維とマトリックスの界面が維持される。このため、溶融後の冷却過程で微細な複合組織を発達させて製造されるセラミック基複合材料で問題となっている靱性低下の問題を解消することができる。
【0019】
以下、実施例を示し、本発明の酸化物基複合材料について、さらに具体的に詳しく説明する。もちろん、本発明は、以下の実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0020】
繊維径が約10μmの3AlO2SiO(ムライト)繊維が二次元的に織り込まれた10cm角のシートを用いた。このシートを、マトリックスとするAlO(アルミナ)粉末が溶け込んだスラリー中に浸漬することで、繊維の間にアルミナ粉末を十分充填させた後、引き上げた。この作業をシート1枚ずつについて実施し、シートを20枚積層した。この積層体を80℃で5時間保持する乾燥処理を行った後、アルミナマトリックスの焼成のため、大気中において、常圧で1500℃、2時間の焼成処理を実施した。焼成後の供試材について、図2に外観を、また、図3に断面におけるミクロ組織を示す。外観写真から、当初の繊維の編み上げ形状がそのまま残っていることが確認される。また、ミクロ組織より、繊維とマトリックスは融合せず、繊維径は約10μmのままで、かつ繊維とマトリックスの間に明確な界面(境界線)が存在することが確認される。図4に強制的に破壊した際の破面を示す。繊維が残留しているため、破面の凹凸は大きく、良好な靱性を示唆する破面を呈している。さらに、焼成処理した積層体を大気中、常圧で1300℃、100時間の高温条件下で耐熱試験を行ったが、試験後の断面のミクロ組織は、図3と同様であり、明確な変化は認められなかった。
このように、高温で平衡する成分組成を繊維とマトリックスに用いているため、製造時および使用時に大気中で高温に保持しても、繊維とマトリックスの反応や融合はなく、繊維とマトリクスの境界には界面が維持される。このため、酸化物基複合材料本来の性能が維持されることが確認される。
【比較例】
【0021】
繊維のみを変更し、他は実施例と同じ条件で供試材を作製した。使用した繊維は、繊維径が約10μmの80mass%AlO+20mass%SiOの繊維が二次元的に織り込まれたものである。なお、この成分組成は、アルミナマトリックスとは熱力学的に平衡しない成分組成である。焼成後の供試材について、図5に外観を、また、図6に断面におけるミクロ組織を示す。外観写真から、当初の繊維の編み上げ形状は消失していることが確認される。ミクロ組織では、繊維とマトリックスは一体化し、粒成長している。このため、当初繊維径が約10μmであった繊維とマトリックスの間の界面は全くなく、モノリシックセラミックと同様になっていることが確認される。図7に強制的に破壊した際の破面を示す。繊維が消失して、モノリシックセラミックと同様になっているため、破面は、平坦であり、靱性が低いことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の酸化物基複合材料は、性能を劣化させる異質な材料を導入することなく、製造時および使用時に高温に保持しても、繊維とマトリックスの間の界面が維持され、靱性の向上を実現する。このため、耐熱部材等への適用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7