特許第5920797号(P5920797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920797
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】水中音響観測装置
(51)【国際特許分類】
   G08C 19/00 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   G08C19/00 Q
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-200185(P2014-200185)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-71619(P2016-71619A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】500548231
【氏名又は名称】株式会社エス・イー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】中川 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 照喜
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英晴
(72)【発明者】
【氏名】中川 哲志
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 淳一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 大雄
(72)【発明者】
【氏名】高野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】南 誠一
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−066460(JP,U)
【文献】 実開昭57−173007(JP,U)
【文献】 特開昭59−000964(JP,A)
【文献】 実公昭47−030467(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08C 13/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に備えた方位センサーにより方位を観測し、一方通行の音響信号として船上局に送信することができる水中音響観測装置において、
前記構造物の状態が方位センサによって決まる一定の時間差をもった2つの音響デジタル信号に置き換えて前記船上局に対して送信する前記構造物からなる水中局と、
前記水中局から送信された一定の時間差を有する2つの前記デジタル音響信号を受信するとともに、前記音響デジタル信号の時間差に基づく水中における構造物の位置状態を復元する受信信号復元回路を備えた船上局と、
から少なくとも構成されていることを特徴とする水中音響観測装置。
【請求項2】
構造物に備えた方位センサーにより方位を観測し、一方通行の音響信号として船上局に送信することができる水中音響観測装置において、
前記構造物の状態が方位センサによって決まる一定の時間差をもった2つの音響デジタル信号に置き換えて前記船上局に対して送信する前記構造物からなる水中局と、
前記水中局から送信された一定の時間差を有する2つの前記デジタル音響信号を受信するとともに、前記音響デジタル信号の時間差に基づく水中における構造物の角度状態を復元する受信信号復元回路を備えた船上局と、
から少なくとも構成されていることを特徴とする水中音響観測装置。
【請求項3】
前記2つの音響デジタル信号の間隔は、0.00から359.99に分割されていることを特徴とする請求項2に記載された水中音響観測装置。
【請求項4】
前記2つの音響デジタル信号の時間間隔は、二次元の対照表を持つことにより方位、温度、位置、あるいは姿勢のいずれかを表すことができることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された水中音響観測装置。
【請求項5】
二次元のデータを表す時間間隔は、2つの音響デジタル信号を二組とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載されたれ水中音響観測装置。
【請求項6】
三次元のデータを表す時間間隔は、2つの音響デジタル信号を三組とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載されたれ水中音響観測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中(たとえば、海、港湾、防波堤近傍、河川、湖等、以下、単に水中と記載する)に、構造物(物体)を沈めて構築する場合、あるいは消波装置等を正確な位置に設置する場合の水中音響観測装置に関するものである。本発明は、構造物あるいは消波装置等(たとえば、テトラポット−商標)を前記水中に沈めて構築する場合、正しい方位に設置することができる水中音響観測装置に関するものである。本発明は、水中における構造物(以下、本明細書において、水中に沈める物体を全て、単に、構造物と記載する)の方位、温度、位置、あるいは姿勢等を船上局と水中局の間で、ハンドシェイクすることなく、リアルタイムで即時知ることができる水中音響観測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電波あるいは光は、水中に正確に届かないため、前記水中における構造物の状態を正確に観測することが困難であった。前記水中における構造物は、船上局から水中局に向けて発射された音響信号の返信信号を前記船上局で受信することによって測定が可能である。前記船上局と水中局との通信は、音響モデムと称されるシステムを使用し、双方において、変調された音響信号の送受信を行うことにより、0または1のデジタルデータを伝送する方式を採用している。
【0003】
図3は従来例を説明するための図で、音響信号を使用して構造物の方位を知るための図である。図4は従来例を説明するための図で、音響信号を使用してテトラポットを水中に正確な位置に沈めるための方法を説明する図である。図3において、港湾あるいは河川等における船上の構造物14′は、クレーン31によって水中10に下ろされる。水中に入った前記構造物14は、目で直接見ることが困難であるため、音響信号等を使用した水中センサ112によって、方位が監視できるような状態にする必要がある。
【0004】
前記水中センサ112によって決まる方位は、音響信号として船上の受信装置121によって受信される。前記構造物14は、連続して設置する場合、通常、図示されていない少なくとも一つの凹凸部によって連結され、固定されるようになっている。前記構造物14等は、常にリアルタイムの情報を基にして、前記凹凸部を正確な位置で、互いに嵌合することによる設置作業が要望されている。
【0005】
図4はテトラポットのような消波装置を沈めるためのものである。図4において、テトラポット41′は、クレーン31によって所定の位置で積み重ね合わせられる。前記テトラポット41′は、設置する際の向きや重ね方によって、消波効果に大きな相違が出てくる。前記構造物14またはテトラポット41に付けられた方位センサー112は、船上局12と互いに情報のやり取りを行うことにより、所望の位置に正確に設置することができる。
【0006】
たとえば、船上局と複数の水中局との間の通信は、本出願人の提案した特願2013−102097号(平成25年5月14日出願)にかかる発明において、同じIDコードと同じ測距信号を一斉に送り、前記海上局からそれぞれ別々のIDコードと前記同じ測距信号を船上局に返信していた。前記水中音響測位システムは、送受信が行われる際に、互いの通信規定があり、正確なデータを得ることができるが、前記通信規定に従ったデータのやり取りに時間がかかり、前記港湾等における作業を行う場合に多くの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2013−102097号(平成25年5月14日出願)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特願2013−102097号(平成25年5月14日出願)に記載された発明において、船上局と海底局は、データを伝送する前に、両者の間で通信条件を決定するための前処理が必要であり、そのための所要時間が数秒から数10秒必要であった。また、前記海底局は、電源として、電池を使用するのが一般的であり、通常休眠状態からwakeup状態にした後、計測を開始する。そのための所要時間は、さらに、数秒から数10秒必要であった。
【0009】
デジタルデータを音響信号により搬送するには、伝送したいデジタルデータの総ビット数に比例したパルス長の音響信号を送受信する必要がある。前記ビット数が増加すると、音響パルスの送信/受信時間も長くなり、環境ノイズや周辺構造物により影響を受ける度合いが増加する。そのため、データ伝送エラーは、増加し、リトライ処理による伝送遅延時間が発生する。
【0010】
また、音響信号の伝送は、伝送したいデジタルデータの総ビット数に比例したパルス長の信号を送受信する必要があるため、1回のデータ伝送処理に時間がかかる。そのため、リアルタイムのデータ監視に要求される短い周期(<1秒)でのデータ伝送には対応できない。伝送するビット数に比例する長さの音響パルス信号は、送信する際に、伝送するデータ容量に比例した電力を消費する。すなわち、電池の消耗は、早くなるという問題があった。
【0011】
以上のような課題を解決するために、本発明は、既存の音響モデムが用いるデジタルデータそのものをキャリア波に乗せて伝送する方式を採用するのではなく、送信するデジタル値を2つの音響パルス信号の送信遅延時間に置き換え、水中局から音響デジタル信号を送信する水中音響観測装置を提供することを目的とする。本発明は、船上局において、受信した前記2つの音響デジタル信号の時間差を相関処理して、精密に測定し、前記2つのデジタル信号の時間差をデジタル値逆変換することにより、水中の方位を迅速かつ正確に得るための水中音響観測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(第1発明)
第1発明の水中音響観測装置は、構造物に備えた方位センサーにより方位を観測し、一方通行の音響信号として船上局に送信することができるものであり、前記構造物の状態が方位センサによって決まる一定の時間差をもった2つの音響デジタル信号に置き換えて前記船上局に対して送信する前記構造物からなる水中局と、前記水中局から送信された一定の時間差を有する2つの前記デジタル音響信号を受信するとともに、前記音響デジタル信号の時間差に基づく水中における構造物の位置状態を復元する受信信号復元回路を備えた船上局と、から少なくとも構成されていることを特徴とする。
【0013】
(第2発明)
第2発明の水中音響観測装置は、構造物に備えた方位センサーにより方位を観測し、一方通行の音響信号として船上局に送信することができるものであり、前記構造物の状態が方位センサによって決まる一定の時間差をもった2つの音響デジタル信号に置き換えて前記船上局に対して送信する前記構造物からなる水中局と、前記水中局から送信された一定の時間差を有する2つの前記デジタル音響信号を受信するとともに、前記音響デジタル信号の時間差に基づく水中における構造物の角度状態を復元する受信信号復元回路を備えた船上局と、から少なくとも構成されていることを特徴とする。
【0014】
(第3発明)
第3発明の水中音響観測装置において、前記2つの音響デジタル信号の間隔は、0.00から359.99に分割されていることを特徴とする。
【0015】
(第4発明)
第4発明の水中音響観測装置において、前記2つの音響デジタル信号の時間間隔は、二次元の対照表を持つことにより方位、温度、位置、あるいは姿勢のいずれかを表すことができることを特徴とする。
【0016】
(第5発明)
第5発明の水中音響観測装置において、二次元のデータを表す時間間隔は、2つの音響デジタル信号を二組とすることを特徴とする。
【0017】
(第6発明)
第6発明の水中音響観測装置において、三次元のデータを表す時間間隔は、2つの音響デジタル信号を三組とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水中の方位情報を2つの音響デジタル信号のみで表現できるようにしているため、水中局と船上局との間で、ハンドシェイク時間(前処理時間)に要する時間が不要となり、通信可能となるまでの時間、および通信時間が短縮される。
【0019】
本発明によれば、デジタルデータを構成する全てのビットをコード化して音響デジタル信号として伝送する必要がないため、2つの音響デジタル信号の送出時間が格段に短くなり、データ伝送周期を早くすることができる。
【0020】
本発明によれば、音響モデムのように、一つの送受波器に対して、送信/受信の切替を行っていないため、データ伝送の前後に余分な音響通信時間が発生しない。すなわち、本発明は、水中側から船上側への一方向通信であるため、ハンドシェイク処理が不要であるだけでなく、データ伝送時間の短縮、およびデータ伝送の精度を図ることができる。
【0021】
従来の音響モデムを使用する場合、センサーデータの出力周期が速いと、大量のデータが送信バッファに蓄積され、これらが一時的にまとめて船上局側に送られるため、一定周期のデータ観測が行えないのに対して、本発明によれば、通信処理時間が短いため、送信データのバッファリングを必要としないので、船上局側で、リアルタイムでデータを監視することが可能である。すなわち、本発明によれば、水中におけるリアルタイムの作業が要求されるような構造物を設置する仕事に向いている。
【0022】
本発明によれば、M系列やBent系列の疑似乱数系列コードを使用した音響デジタル信号を用いて相関処理を行うため、ノイズあるいはマルチパスの影響を受ける環境下であっても、伝送データの誤差を低く抑えることができる。
【0023】
本発明によれば、M系列やBent系列などの疑似乱数系列コードの種類を使い分けることにより、複数の方位センサー部のデータを順番に船上局側へ伝送することができる。また、複数の伝送チャネルの伝送データに対し、異なる変調コードを与えることにより、多チャネル同時データ伝送も可能である。
【0024】
本発明によれば、原理上、2つの音響デジタル信号を送信する遅延時間を長くすることにより、データ伝送の分解能(精度)を容易に向上させることができる。データ伝送周期とデータ分解能は、相反するので、要求条件に対応した柔軟な動作設定がハードウエアの変更なしに容易に実現できる。
【0025】
本発明によれば、短い2つの音響デジタル信号の送信により、伝送するデータ容量を減少した状態で伝送できるため、水中局側の電源(電池)の消耗が少ないだけでなく、作業の終了後、他の水中局に電池を付け替えて使用するこも可能である。
【0026】
本発明によれば、2つの音響デジタル信号を複数組とすることで、二次元または三次元データを複数組送信することができるため、複雑な向きであっても、シェークハンドすることなく、データを伝送することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は本発明の実施例で、水中の構造物からの音響デジタル信号を船上局で受信する際の一例を説明するための概略図である。
図2図2は本発明の実施例で、水中局から音響デジタル信号が送信され、船上局で受信する例を説明するための概略図である。
図3図3は従来例を説明するための図で、音響デジタル信号を使用して構造物の方位を知るための図である。
図4図4は従来例を説明するための図で、音響デジタル信号を使用してテトラポットを水中に正確な位置に沈めるための方法を説明する図である。
図5図5(イ)から(ニ)は本発明の水中音響観測装置を水槽において試験した結果を説明するための図である。
図6図6は本発明の水中音響観測装置を水槽において試験する際の水槽試験方法を説明するための図である。
図7図7は本発明の水中音響観測装置を水槽試験した結果(その1)の相関関係を説明するための図である。
図8図8は本発明の水中音響観測装置を水槽試験した結果(その2)の相関関係を説明するための図である。
図9図9(イ)から(ニ)は本発明の水中音響観測装置を使用した実際の水槽試験写真を説明するための図である。
図10図10は本発明の音響デジタル信号を複数のチャンネルとして送信した例を説明するための図である。
図11図11(イ)および(ロ)は本発明の音響デジタル信号を複数のチャンネルとして送信した例を説明するための図である。
図12図12(イ)は本発明の方法により3次元情報を説明するための図である。図(ロ)は前記3次元の情報を2組のづつの情報として表す例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1発明)
第1発明の水中音響観測装置は、水中局の状態を2つのデジタル音響信号の時間差に置き換えて、前記水中局から船上局に送信する。前記水中局は、たとえば、水中の構造物の状態によって決まる一定の時間差をもった2つの音響デジタル信号を前記船上局に対して一方通行で送信する。前記船上局は、前記水中局から送信された2つの前記デジタル音響信号の時間差を前記船上局で受信する。
【0029】
前記船上局における受信信号復元回路は、前記2つのデジタル音響信号の時間差を測り、前記音響デジタル信号の時間差に基づく状態を復元する。前記構造物は、前記水中局から船上局への一方通行の通信を行うことにより、水中局における水中での状態を迅速で正確に把握することができるため、水中での工事等が短時間で正確に行うことが可能になった。
【0030】
(第2発明)
第2発明の水中音響観測装置は、水中局に取り付けられた方位センサーを用いて、構造物の方位データを2つのデジタル音響信号の時間差として船上局に送信する。前記船上局において、前記方位データは、一方通行の通信によって、容易、かつ迅速に知ることができる。たとえば、前記構造物に取り付けられた方位センサーは、前記構造物とともに水中にクレーン等によって投入される。前記構造物からなる前記水中局は、取り付けられている方位センサーの角度によって決まる一定の時間差をもった2つの音響デジタル信号を前記船上局に対して一方的に送信する。
【0031】
前記船上局は、前記水中局から送信された2つの前記デジタル音響信号を時間差として受信する。前記船上局における受信信号復元回路は、前記2つのデジタル音響信号の時間差を測り、前記音響デジタル信号の時間差に基づく角度を復元する。水中の構造物は、クレーンで下ろされた位置において、正確な角度が迅速に判るため、組立あるいは配置が正確にできる。
【0032】
(第3発明)
第3発明の水中音響観測装置は、2つの音響デジタル信号の間隔を0.00から359.99に分割する。すなわち、前記音響デジタル信号は、角度が0.00、1.00、2.00、3.00、・・・357.00、358.00、359.99のように1.00度ごとにパルスを割り振ることができるため、前記パルス間の時間を測ることにより、正確な角度が判る。
【0033】
(第4発明)
第4発明の水中音響観測装置は、前記音響デジタル信号の時間間隔と、方位、温度、位置、あるいは姿勢とを関連付けることにより、水中局の状態を知ることができる。前記方位または温度は、一次元であるため、2つの音響デジタル信号の間隔で表現される。前記位置の場合、2次元の情報であるが、第1発明または第2発明の連続した音響デジタル信号の代わりに、時間間隔と二次元の対照表を受信信号復元回路に備えることによって可能である。同様に、姿勢は、3次元となるが、時間間隔と三次元の対照表を前記受信信号復元回路に備えることにより実現できる。
【0034】
本発明は、各種状態が2つの音響デジタル信号で表現できるようにしているため、船上局と水中局の間で、ハンドシェイク時間が不要となり、各種状態のデータをリアルタイムで処理できるだけでなく、通信装置を簡単にすることができる。特に、水中(たとえば、海、港湾、防波堤近傍、河川、湖等)における構造物の設置等は、工事が短時間で、正確に行うことが可能となった。
【0035】
(第5発明)
第5発明は、たとえば、位置情報のような二次元のデータからなるものであり、一次元の方位および温度と異なり、2組からなる二次元情報による時間間隔で表現することができる。前記位置は、座標軸で表される二次元情報であるため、たとえば、X座表およびY座標の二組のデータ(2つの音響デジタル信号を二組)とすることで、前記座標軸の1点を表現することができる。
【0036】
(第6発明)
第6発明は、たとえば、姿勢のような三次元のデータからなるものであり、X座標、Y座標、Z座標からなる立体座標を使用することにより可能である。三次元のデータは、X座標、Y座標、Z座標を表す2つの音響デジタル信号からなる3組のデータによって表現することが可能である。第5発明および第6発明は、第1発明から第4発明より、データ量が多少増加するが、一方通行の通信であるとともに、それぞれの通信処理時間が短いため、送信データのバッファリングが不要であり、リアルタイムでデータをやり取りすることが可能になる。
【実施例】
【0037】
図1は本発明の実施例で、水中の構造物からの音響信号を船上局で受信する際の一例を説明するための概略図である。図1において、本発明の水中音響観測装置は、たとえば、護岸工事を行うような場合、水中に入れられる構造物(物体)14に、後述の水中局11を取り付け、前記水中局11から送信される信号を船上局12で受信する。前記船上局12は、前記受信した信号を解析することにより、前記構造物(物体)14の方位を正確、かつ、迅速(リアルタイム)に決定することができる。
【0038】
前記水中局11は、2つの音響デジタル信号16を所定間隔を置いて送信する。前記船上局12は、水中局11から送信された2つの音響デジタル信号16を受信し、前記2つの音響デジタル信号の間隔を基にして、前記構造物の現在の方位を解析することにより、工事を正確、かつ、迅速に行うことができる。
【0039】
前記水中局11は、たとえば、電源部111と、方位を検出する方位センサー部112と、音響デジタル信号を送信する音響送信部113と、前記音響デジタル信号を前記船上局12に送る送波器114とから少なくとも構成されており、前記構造物14上に取り外し可能な状態で取り付けられている。前記構造物14は、たとえば、海底15に置かれ、その位置(方位)が所望の状態になっているか否かを前記音響送信部113から送信される音響デジタル信号によって船上局12に知らされる。方位センサー部112は、基準となる位置からどの程度ずれている否かを調べる。
【0040】
前記方位センサー部112は、前記水中局11に取り付けられている格納容器(図示されていない)の外部に基準線が設けられている。前記基準線は、前記方位センサ部112の基準とする。前記水中局11の方位センサ部112の基準線は、前記船上局12との間の相関関係を規定するものであり、厳密な方位を規定する必要がない。
【0041】
前記方位センサー部112によって得られた方位は、音響送信部113によって、予め決められた2つの音響デジタル信号となって、送波器14から海中に発振される。前記船上局12は、たとえば、受波器121と、音響受信部および信号処理部122と、パースナルコンピュータ(センサー値表示部を含む)123とから少なくとも構成されている。前記パースナルコンピュータ123は、前記受波器121よって受信した2つの音響デジタル信号を音響受信部および信号処理部122によって処理して、前記構造物14の正しい方位を知る。
【0042】
図2は本発明の実施例で、水中局から音響デジタル信号が送信され、船上局で受信する例を説明するための概略図である。図2における水中局11および船上局12は、図1と同じものであるが、さらに、詳細に説明する。水中局11は、方位センサー部(たとえば、方位)112と、前記方位センサー部112のアナログデータをデジタルデータに変換するA/Dconvertor(以下、単にADCと記載する)21と、デジタル値生成部22と、送信信号生成回路23と、外部I/F回路24と、送信回路25と、送波器114と、電源部111とから構成されている。
【0043】
前記デジタル値生成部22は、方位センサー部112で検出した方位をデジタル値に変換する。たとえば、360度の角度は、0.00から359.99の数字に割り振る。前記デジタル値生成部22は、前記方位が123.45度の時、123.45というデジタル値を生成する。また、たとえば、方位が45.450度の時、45.450というデジタル値を生成する。前記デジタル値は、小数点2桁の分解能を有する。
【0044】
前記方位センサー部112の値がたとえば、123.45度である場合、前記ADCによって変換されたデジタルデータは、送信信号生成回路23によって、所定の間隔を有する2つの音響デジタル信号16として生成される。前記送信信号生成回路23は、外部I/F回路24によって、設定を変更することができるようになっている。たとえば、前記123.45というデジタル値は、123.45sec という時間差を持った2つの音響デジタル信号を生成する。前記2つの音響デジタル信号16は、送信回路25および送波器114を介して水中に送信される。
【0045】
船上局12は、受波器121と、受信回路26と、受信信号復元回路122と、相関信号部1222と、外部IF回路27とから構成されている。前記受信回路26は、たとえば、バンドパスフィルター(BPF)、自動利得制御回路(AGC)、A/Dconvertor(以下、単にADCと記載する)から構成されている。前記受信回路26は、雑音を除去し、所定のバンド幅と利得からなる2つの音響デジタル信号16を生成する。
【0046】
受信信号復元回路122は、水中局11で生成された方位に基づく2つの間隔を有する音響デジタル信号を再現する。相関処理部1222は、間隔が前記例の123.45μsec が方位123.45度であることが関連付けられる。外部I/F回路27は、船上局12の内部設定を行い、また、方位が何度であったかを画面上に出力する。
【0047】
二次元データからなる位置情報は、2組からなる二次元情報による時間間隔で表現することができる。前記位置情報は、X座表およびY座標における一点であるため、X座標を2つの音響デジタル信号で表し、Y座標を2つの音響デジタル信号で表すことができる。たとえば、座標軸x、yの座標位置は、x(0,20)、y(30,0)と仮定すると、次のように表現できる。すなわち、二組の音響デジタル信号は、(0,20)、(0,30)という二組の音響デジタル信号で表現できる。前記二組の音響デジタル信号は、最初の2つの音響デジタル信号がX軸、次の音響デジタル信号がY軸と予め決めて置くことにより正確な位置を表現することができる。
【0048】
同様に、たとえば、姿勢のような三次元のデータからなるものであっても、X座標、Y座標、Z座標からなる立体座標を前記二次元情報と同様に扱うことができる。前記二次元データあるいは三次元データは、方位または温度と同様に、X座標、Y座標、Z座標を表す2つの音響デジタル信号からなる2組または3組のデータによって表現することが可能である。前記二次元データあるいは三次元データは、多少データ量が多くなるが、ハンドシェイク時間が不要であるため、リアルタイムで情報を送ることができる。
【0049】
前記水中局11の電源は、前記水中局11の連続稼働時間に必要十分な容量を持つ電池パック(電源部111)を使用する。前記水中局11は、前記電源部111を構造物14に対して、取り付けおよび取り外しが可能な構造になっている。たとえば、前記構造物14は、まず、前記水中局11(方位センサー内蔵)が基準面に取り付けられる。次ぎに、前記構造物14は、図示されていない作業船のクレーンを使い、水中に降ろされる。
【0050】
前記船上局12の受波器121は、作業船(図示されていない)の舷側から水中に垂らされ( 作業船の船底より深い水深まで垂らす) 、前記水中局11からの2つの音響デジタル信号を受信し、現在の構造物14の方位を監視する。前記水中局11は、希望する方位で前記構造物14が海底に設置された後、ダイバー( 潜水士) によって、取り外され、前記作業船に回収される。
【0051】
前記水中局11から送信した音響デジタル信号は、M系列などの疑似乱数コードにより変調される。一方、前記船上局12で受信した音響デジタル信号は、前記水中局11から送信される際に、他に作業船等から発するノイズ、および海底や岸壁などによる多重反射信号( マルチパス) が含まれている。前記ノイズ、および歪を受けた受信信号の中から、前記水中局11が送信した2つの音響デジタル信号の立ち上がりを正確に検出し、それらの時間間隔を算出するために相関処理が必要となる。
【0052】
前記相関処理は、船上局12が受信した2つの音響デジタル信号に対し、水中局11が送信した2つの音響デジタル信号と同じ変調信号を用いて、時間軸での相関関数を求める必要がある。前記相関関数には、2つのピークが現れるはずで、その2つのピーク間の時間間隔が前記水中局11の方位センサー部112の値となる。
【0053】
前記M系列コードは、人工的な規則に基づいて生成された疑似ランダム信号である。これらの信号は、自己相関値が鋭いピークを示すと同時に自分以外との相関値が極めて低いという性質を持っている。そのため、前記信号は、周辺雑音等により受信信号が不明瞭な場合であっても、相関処理により伝搬時間を正しく判別することができるという利点を有している。
【0054】
以下、前記受信信号復元回路122における処理を説明する。
(1) 前記水中局11が送信する特定のM系列コードで変調した波形( 相関リファレンス) を高速フーリエ変換する。( 初回のみ) この結果、周波数成分ごとに実数、虚数のパワーが得られる−Aとする。
(2) 前記船上局12で受信した音響デジタル信号をA/D変換する。( デジタルデータに変換)
(3) 前記受信信号に対し高速フーリエ変換処理(FFT) を行う。周波数成分ごとに実数、虚数のパワーが得られる−Bとする。
(4) 前記(3) で得られた複素数B(X+jY)、複素共役(X−jY)を求め、その複素共役を前記Aに乗算する。その結果をCとする。
(5) 周波数軸で表されるCに対し、逆フーリエ変換(IFFT)を行うと、時間軸での相関関数が求められる。
【0055】
図5(イ)から(ニ)は本発明の水中音響観測装置を水槽において試験した結果を説明するための図である。図6は本発明の水中音響観測装置を水槽において試験する際の水槽試験方法を説明するための図である。図6において、真水67が一杯に入っている試験水槽66には、送信用ハイドロホン68と、受信用ハイドロホン69と、ノイズ発生用ハイドロホン70が設けられている。
【0056】
また、前記水槽試験装置は、音響コードデータべースおよび受信波形データを生成する処理装置61と、前記水槽試験を行うための処理を行う処理装置62と、送信装置63、受信装置64、およびノイズ発生装置65とから構成されている。前記水槽試験装置は、図5(イ)に示す第1パルスおよび第2パルスを発生するとともに、図5(ロ)に示すように発生したノイズおよび前記2つの音響デジタル信号であるパルスが受信されている。前記第1パルスおよび第2パルスは、図5(ハ)および(ニ)に示されているように送受信される。そして、前記第1パルスおよび第2パルスは、図5(ニ)示されるように、発信時と受信時にΔT秒の遅れが生じる。
【0057】
図5に示す第1パルスM1および第2パルスM2は、図6における送信装置63から空き時間500000μsec を持った状態で、図6に示す送信用ハイドロホン68に送信される。図6に示されたノイズ発生器65から発生したノイズは、実際の場合と同様に、前記第1パルスM1および第2パルスM2とともに受信用ハイドロホン69を介して、受信装置64で受信される。前記受信装置64によって受信された前記第1パルスM1および第2パルスM2は、図5(ハ)に示された状態のパルスが船上局で受信される。
【0058】
図6に示された処理装置62は、前記第1パルスM1および第2パルスM2の相関処理を行って、パルス間の空き時間を計測する。前記処理装置62は、前記図5(イ)において与えられた空き時間との誤差ΔTを計測する。
【0059】
図7は本発明の水中音響観測装置を水槽試験した結果(その1)の相関関係を説明するための図である。図7(イ)は、前記処理装置62によって受信した受信波形である。図7(ロ)は、前記第1パルスM1および第2パルスM2の空き時間を示すものであり、たとえば、誤差ΔT=+3μsec であることを表している。
【0060】
図8は本発明の水中音響観測装置を水槽試験した結果(その2)の相関関係を説明するための図である。図7と同様に、誤差ΔT=+13μsec であることを表している。前記処理装置62は、前記誤差ΔTという誤差を考慮して、実際の音響デジタル信号の間の時間を決定し、正確な方位を知ることができる。
【0061】
図9(イ)から(ニ)は本発明の水中音響観測装置を使用した実際の水槽試験写真を説明するための図である。図9(イ)において、試験水槽911は、たとえば、長さ2650mm、幅1750mm、深さ620mmとした。前記試験水槽911は、送信装置の出力部912と、ノイズ出力部913と、送信信号およびノイズ受信部914が設けられている。図9(ハ)は、受信波形および相関関係を示した図である。図9(ニ)は、実験に使用されたノイズ生成器917および処理装置918を示すものである。
【0062】
図10は本発明の音響デジタル信号を複数のチャンネルとして送信した例を説明するための図である。図10における水中局からの送信信号は、送信コードを順番に切り替えて、2つの音響デジタル信号を送信することにより、複数の異なるセンサーの値、たとえば、4チャンネルM1からM4を順番に船上局に伝送することができる例が示されている。たとえば、M1は方位、M2はピッチ、M3はロール、M4は温度を表すことができる。
【0063】
図11(イ)および(ロ)は本発明の音響デジタル信号を複数のチャンネルとして送信した例を説明するための図である。図11(イ)および(ロ)は、水中局が構造物に複数設置された場合である。前記複数の水中局は、それぞれ異なる送信コード体系を割り当てることにより、より多くの伝送チャンネルを確保することができる。
【0064】
図12(イ)は本発明の方法により3次元情報を説明するための図である。図(ロ)は前記3次元の情報を2組のづつの情報として表す例を説明するための図である。図12(イ)は3次元情報として、方位、ロール、ピッチを測定する場合を説明するための図である。図12(ロ)は、前記方位No1ロール、ピッチNo2、ロールNo3とし例が示されている。本発明は、このように、2つの音響デジタル信号の間隔という情報により、シェークハンドすることなく、簡単に情報を一方通行で送信することが可能になった。
【0065】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではない。そして、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。本発明の船上局および水中局、送受信装置、あるいはデータ処理装置等は、公知の通信工学および音響工学の技術によって構成されるもので、特許請求の範囲を逸脱しないがぎり変形することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
10・・・水中
11・・・・水中局
111・・・電源部
112・・・方位センサー部
113・・・音響送信部
114・・・送波器
12・・・・船上局
121・・・受波器
122・・・音響信号復元回路
1221・・2つの音響信号
1222・・相関処理部
123・・・ホストパソコン
13・・・・水中
14・・・・構造物
15・・・・海底
16・・・・音響デジタル信号
21・・・・ADC
22・・・・デジタル値生成部
23・・・・送信信号生成回路
24・・・・外部I/F回路
25・・・・送信回路
26・・・・受信回路
27・・・・外部I/F回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図12