【実施例】
【0037】
図1は本発明の実施例で、水中の構造物からの音響信号を船上局で受信する際の一例を説明するための概略図である。
図1において、本発明の水中音響観測装置は、たとえば、護岸工事を行うような場合、水中に入れられる構造物(物体)14に、後述の水中局11を取り付け、前記水中局11から送信される信号を船上局12で受信する。前記船上局12は、前記受信した信号を解析することにより、前記構造物(物体)14の方位を正確、かつ、迅速(リアルタイム)に決定することができる。
【0038】
前記水中局11は、2つの音響デジタル信号16を所定間隔を置いて送信する。前記船上局12は、水中局11から送信された2つの音響デジタル信号16を受信し、前記2つの音響デジタル信号の間隔を基にして、前記構造物の現在の方位を解析することにより、工事を正確、かつ、迅速に行うことができる。
【0039】
前記水中局11は、たとえば、電源部111と、方位を検出する方位センサー部112と、音響デジタル信号を送信する音響送信部113と、前記音響デジタル信号を前記船上局12に送る送波器114とから少なくとも構成されており、前記構造物14上に取り外し可能な状態で取り付けられている。前記構造物14は、たとえば、海底15に置かれ、その位置(方位)が所望の状態になっているか否かを前記音響送信部113から送信される音響デジタル信号によって船上局12に知らされる。方位センサー部112は、基準となる位置からどの程度ずれている否かを調べる。
【0040】
前記方位センサー部112は、前記水中局11に取り付けられている格納容器(図示されていない)の外部に基準線が設けられている。前記基準線は、前記方位センサ部112の基準とする。前記水中局11の方位センサ部112の基準線は、前記船上局12との間の相関関係を規定するものであり、厳密な方位を規定する必要がない。
【0041】
前記方位センサー部112によって得られた方位は、音響送信部113によって、予め決められた2つの音響デジタル信号となって、送波器14から海中に発振される。前記船上局12は、たとえば、受波器121と、音響受信部および信号処理部122と、パースナルコンピュータ(センサー値表示部を含む)123とから少なくとも構成されている。前記パースナルコンピュータ123は、前記受波器121よって受信した2つの音響デジタル信号を音響受信部および信号処理部122によって処理して、前記構造物14の正しい方位を知る。
【0042】
図2は本発明の実施例で、水中局から音響デジタル信号が送信され、船上局で受信する例を説明するための概略図である。
図2における水中局11および船上局12は、
図1と同じものであるが、さらに、詳細に説明する。水中局11は、方位センサー部(たとえば、方位)112と、前記方位センサー部112のアナログデータをデジタルデータに変換するA/Dconvertor(以下、単にADCと記載する)21と、デジタル値生成部22と、送信信号生成回路23と、外部I/F回路24と、送信回路25と、送波器114と、電源部111とから構成されている。
【0043】
前記デジタル値生成部22は、方位センサー部112で検出した方位をデジタル値に変換する。たとえば、360度の角度は、0.00から359.99の数字に割り振る。前記デジタル値生成部22は、前記方位が123.45度の時、123.45というデジタル値を生成する。また、たとえば、方位が45.450度の時、45.450というデジタル値を生成する。前記デジタル値は、小数点2桁の分解能を有する。
【0044】
前記方位センサー部112の値がたとえば、123.45度である場合、前記ADCによって変換されたデジタルデータは、送信信号生成回路23によって、所定の間隔を有する2つの音響デジタル信号16として生成される。前記送信信号生成回路23は、外部I/F回路24によって、設定を変更することができるようになっている。たとえば、前記123.45というデジタル値は、123.45sec という時間差を持った2つの音響デジタル信号を生成する。前記2つの音響デジタル信号16は、送信回路25および送波器114を介して水中に送信される。
【0045】
船上局12は、受波器121と、受信回路26と、受信信号復元回路122と、相関信号部1222と、外部IF回路27とから構成されている。前記受信回路26は、たとえば、バンドパスフィルター(BPF)、自動利得制御回路(AGC)、A/Dconvertor(以下、単にADCと記載する)から構成されている。前記受信回路26は、雑音を除去し、所定のバンド幅と利得からなる2つの音響デジタル信号16を生成する。
【0046】
受信信号復元回路122は、水中局11で生成された方位に基づく2つの間隔を有する音響デジタル信号を再現する。相関処理部1222は、間隔が前記例の123.45μsec が方位123.45度であることが関連付けられる。外部I/F回路27は、船上局12の内部設定を行い、また、方位が何度であったかを画面上に出力する。
【0047】
二次元データからなる位置情報は、2組からなる二次元情報による時間間隔で表現することができる。前記位置情報は、X座表およびY座標における一点であるため、X座標を2つの音響デジタル信号で表し、Y座標を2つの音響デジタル信号で表すことができる。たとえば、座標軸x、yの座標位置は、x(0,20)、y(30,0)と仮定すると、次のように表現できる。すなわち、二組の音響デジタル信号は、(0,20)、(0,30)という二組の音響デジタル信号で表現できる。前記二組の音響デジタル信号は、最初の2つの音響デジタル信号がX軸、次の音響デジタル信号がY軸と予め決めて置くことにより正確な位置を表現することができる。
【0048】
同様に、たとえば、姿勢のような三次元のデータからなるものであっても、X座標、Y座標、Z座標からなる立体座標を前記二次元情報と同様に扱うことができる。前記二次元データあるいは三次元データは、方位または温度と同様に、X座標、Y座標、Z座標を表す2つの音響デジタル信号からなる2組または3組のデータによって表現することが可能である。前記二次元データあるいは三次元データは、多少データ量が多くなるが、ハンドシェイク時間が不要であるため、リアルタイムで情報を送ることができる。
【0049】
前記水中局11の電源は、前記水中局11の連続稼働時間に必要十分な容量を持つ電池パック(電源部111)を使用する。前記水中局11は、前記電源部111を構造物14に対して、取り付けおよび取り外しが可能な構造になっている。たとえば、前記構造物14は、まず、前記水中局11(方位センサー内蔵)が基準面に取り付けられる。次ぎに、前記構造物14は、図示されていない作業船のクレーンを使い、水中に降ろされる。
【0050】
前記船上局12の受波器121は、作業船(図示されていない)の舷側から水中に垂らされ( 作業船の船底より深い水深まで垂らす) 、前記水中局11からの2つの音響デジタル信号を受信し、現在の構造物14の方位を監視する。前記水中局11は、希望する方位で前記構造物14が海底に設置された後、ダイバー( 潜水士) によって、取り外され、前記作業船に回収される。
【0051】
前記水中局11から送信した音響デジタル信号は、M系列などの疑似乱数コードにより変調される。一方、前記船上局12で受信した音響デジタル信号は、前記水中局11から送信される際に、他に作業船等から発するノイズ、および海底や岸壁などによる多重反射信号( マルチパス) が含まれている。前記ノイズ、および歪を受けた受信信号の中から、前記水中局11が送信した2つの音響デジタル信号の立ち上がりを正確に検出し、それらの時間間隔を算出するために相関処理が必要となる。
【0052】
前記相関処理は、船上局12が受信した2つの音響デジタル信号に対し、水中局11が送信した2つの音響デジタル信号と同じ変調信号を用いて、時間軸での相関関数を求める必要がある。前記相関関数には、2つのピークが現れるはずで、その2つのピーク間の時間間隔が前記水中局11の方位センサー部112の値となる。
【0053】
前記M系列コードは、人工的な規則に基づいて生成された疑似ランダム信号である。これらの信号は、自己相関値が鋭いピークを示すと同時に自分以外との相関値が極めて低いという性質を持っている。そのため、前記信号は、周辺雑音等により受信信号が不明瞭な場合であっても、相関処理により伝搬時間を正しく判別することができるという利点を有している。
【0054】
以下、前記受信信号復元回路122における処理を説明する。
(1) 前記水中局11が送信する特定のM系列コードで変調した波形( 相関リファレンス) を高速フーリエ変換する。( 初回のみ) この結果、周波数成分ごとに実数、虚数のパワーが得られる−Aとする。
(2) 前記船上局12で受信した音響デジタル信号をA/D変換する。( デジタルデータに変換)
(3) 前記受信信号に対し高速フーリエ変換処理(FFT) を行う。周波数成分ごとに実数、虚数のパワーが得られる−Bとする。
(4) 前記(3) で得られた複素数B(X+jY)、複素共役(X−jY)を求め、その複素共役を前記Aに乗算する。その結果をCとする。
(5) 周波数軸で表されるCに対し、逆フーリエ変換(IFFT)を行うと、時間軸での相関関数が求められる。
【0055】
図5(イ)から(ニ)は本発明の水中音響観測装置を水槽において試験した結果を説明するための図である。
図6は本発明の水中音響観測装置を水槽において試験する際の水槽試験方法を説明するための図である。
図6において、真水67が一杯に入っている試験水槽66には、送信用ハイドロホン68と、受信用ハイドロホン69と、ノイズ発生用ハイドロホン70が設けられている。
【0056】
また、前記水槽試験装置は、音響コードデータべースおよび受信波形データを生成する処理装置61と、前記水槽試験を行うための処理を行う処理装置62と、送信装置63、受信装置64、およびノイズ発生装置65とから構成されている。前記水槽試験装置は、
図5(イ)に示す第1パルスおよび第2パルスを発生するとともに、
図5(ロ)に示すように発生したノイズおよび前記2つの音響デジタル信号であるパルスが受信されている。前記第1パルスおよび第2パルスは、
図5(ハ)および(ニ)に示されているように送受信される。そして、前記第1パルスおよび第2パルスは、
図5(ニ)示されるように、発信時と受信時にΔT秒の遅れが生じる。
【0057】
図5に示す第1パルスM1および第2パルスM2は、
図6における送信装置63から空き時間500000μsec を持った状態で、
図6に示す送信用ハイドロホン68に送信される。
図6に示されたノイズ発生器65から発生したノイズは、実際の場合と同様に、前記第1パルスM1および第2パルスM2とともに受信用ハイドロホン69を介して、受信装置64で受信される。前記受信装置64によって受信された前記第1パルスM1および第2パルスM2は、
図5(ハ)に示された状態のパルスが船上局で受信される。
【0058】
図6に示された処理装置62は、前記第1パルスM1および第2パルスM2の相関処理を行って、パルス間の空き時間を計測する。前記処理装置62は、前記
図5(イ)において与えられた空き時間との誤差ΔTを計測する。
【0059】
図7は本発明の水中音響観測装置を水槽試験した結果(その1)の相関関係を説明するための図である。
図7(イ)は、前記処理装置62によって受信した受信波形である。
図7(ロ)は、前記第1パルスM1および第2パルスM2の空き時間を示すものであり、たとえば、誤差ΔT=+3μsec であることを表している。
【0060】
図8は本発明の水中音響観測装置を水槽試験した結果(その2)の相関関係を説明するための図である。
図7と同様に、誤差ΔT=+13μsec であることを表している。前記処理装置62は、前記誤差ΔTという誤差を考慮して、実際の音響デジタル信号の間の時間を決定し、正確な方位を知ることができる。
【0061】
図9(イ)から(ニ)は本発明の水中音響観測装置を使用した実際の水槽試験写真を説明するための図である。
図9(イ)において、試験水槽911は、たとえば、長さ2650mm、幅1750mm、深さ620mmとした。前記試験水槽911は、送信装置の出力部912と、ノイズ出力部913と、送信信号およびノイズ受信部914が設けられている。
図9(ハ)は、受信波形および相関関係を示した図である。
図9(ニ)は、実験に使用されたノイズ生成器917および処理装置918を示すものである。
【0062】
図10は本発明の音響デジタル信号を複数のチャンネルとして送信した例を説明するための図である。
図10における水中局からの送信信号は、送信コードを順番に切り替えて、2つの音響デジタル信号を送信することにより、複数の異なるセンサーの値、たとえば、4チャンネルM1からM4を順番に船上局に伝送することができる例が示されている。たとえば、M1は方位、M2はピッチ、M3はロール、M4は温度を表すことができる。
【0063】
図11(イ)および(ロ)は本発明の音響デジタル信号を複数のチャンネルとして送信した例を説明するための図である。
図11(イ)および(ロ)は、水中局が構造物に複数設置された場合である。前記複数の水中局は、それぞれ異なる送信コード体系を割り当てることにより、より多くの伝送チャンネルを確保することができる。
【0064】
図12(イ)は本発明の方法により3次元情報を説明するための図である。図(ロ)は前記3次元の情報を2組のづつの情報として表す例を説明するための図である。
図12(イ)は3次元情報として、方位、ロール、ピッチを測定する場合を説明するための図である。
図12(ロ)は、前記方位No1ロール、ピッチNo2、ロールNo3とし例が示されている。本発明は、このように、2つの音響デジタル信号の間隔という情報により、シェークハンドすることなく、簡単に情報を一方通行で送信することが可能になった。
【0065】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではない。そして、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。本発明の船上局および水中局、送受信装置、あるいはデータ処理装置等は、公知の通信工学および音響工学の技術によって構成されるもので、特許請求の範囲を逸脱しないがぎり変形することが可能である。