(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920846
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ナノ粒子含有高分子ナノワイヤー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20160428BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20160428BHJP
C08K 3/00 20060101ALI20160428BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20160428BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20160428BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20160428BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20160428BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
C08L101/00
C08K3/00
C08K5/00
C08J7/00 302
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-549319(P2013-549319)
(86)(22)【出願日】2012年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2012082421
(87)【国際公開番号】WO2013089201
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-273538(P2011-273538)
(32)【優先日】2011年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 道子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真宏
(72)【発明者】
【氏名】笠原 章
(72)【発明者】
【氏名】知京 豊裕
(72)【発明者】
【氏名】土佐 正弘
【審査官】
久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−076044(JP,A)
【文献】
特開2009−179922(JP,A)
【文献】
M. Goto, A. Kasahara and M. Tosa,Synthesis of Polymer Nanowires by Pulsed LaserIrradiation,Applied Physics Express,日本,The Japan Society of Applied Physics,2009年 6月 5日,065503
【文献】
後藤真宏, 笠原章, 土佐正弘,高分子ナノワイヤー,工業材料,日本,株式会社日刊工業新聞社,2010年 1月,Vol.58, No.1,p30-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00−27/42
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−3/40
C08K 5/00−5/59
C08J 7/00−7/18
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、高分子を含む少なくとも1枚の高分子層と、ナノ粒子を担持させた少なくとも1枚のナノ粒子層とを含む薄膜と、前記ナノ粒子を含有し、前記薄膜から伸びる高分子ナノワイヤーとを有する、薄膜・高分子ナノワイヤー複合体であって、前記高分子はメタクリレート系高分子、ポリビニル系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子からなる群から選択される少なくとも一種類の高分子である、薄膜・高分子ナノワイヤー複合体。
【請求項2】
基板上に、メタクリレート系高分子、ポリビニル系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子からなる群から選択される少なくとも一種類の高分子を含む少なくとも1枚の高分子層と、光吸収材料として機能するナノ粒子を担持させた少なくとも1枚のナノ粒子層とを含む薄膜を形成し、前記基板側から前記薄膜にレーザーを照射することにより、前記薄膜の前記レーザーが照射された位置の前記基板とは反対側の面から前記ナノ粒子を含有する高分子ナノワイヤーを成長させる、ナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
基板上に、メタクリレート系高分子、ポリビニル系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子からなる群から選択される少なくとも一種類の高分子を含む少なくとも1枚の高分子層と、ナノ粒子を担持させた少なくとも1枚のナノ粒子層とを含む薄膜を形成し、前記基板側から前記薄膜にレーザーを照射することにより、前記薄膜の前記レーザーが照射された位置の前記基板とは反対側の面から前記ナノ粒子を含有する高分子ナノワイヤーを成長させる、ナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法であって、前記薄膜は更に前記高分子層および前記ナノ粒子層のうちの少なくとも一方の層に入れられた光吸収材料を含む、ナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
前記光吸収材料は光増感色素である、請求項3に記載のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
前記レーザーはパルスレーザーである、請求項2から4の何れかに記載のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性ナノ粒子などのナノ粒子を含有させた高分子ナノワイヤー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ナノワイヤーは、無機材料からなるナノワイヤー類とは異なり、柔軟性が高いことや光学的に透明であるために、それらの性質を生かしてセンサー、発光素子、光スイッチ素子、電子デバイス、メモリ、熱電変換デバイス、マイクロマシン、摩擦デバイス、駆動機構などのナノデバイスとしての応用が期待されている。しかしながら、この研究や応用展開は、高分子ナノワイヤー自体の作製が容易でないために、多くはなされていない。
【0003】
高分子ナノワイヤーの一番典型的な作製方法は、サブミクロンレベルの多数の孔が開いているポーラスアルミナ基板をテンプレート(鋳型)として、その孔の中に高分子材料を溶かし込み、固化させた後に、アルミナ材料を溶かすことにより、高分子ナノワイヤーを析出させるというものであった。
【0004】
この方法では大量の高分子ナノワイヤーを作製することはできるものの、作製されるナノワイヤーの直径は、細くても300nm程度が限界であり、直径数十nm以下の細線化が必要とされる、量子効果等を期待したナノデバイスへの応用は困難であった。
【0005】
また、エッチングプロセスによりテンプレートをエッチングして高分子ナノワイヤーを取り出すという処理を要するために、用いる高分子材料に制約があることや、ナノワイヤーへのダメージが起こりやすいという問題があった。
【0006】
この問題に対して本願発明者等は、パルスレーザー照射による無添加の高分子ナノワイヤー生成現象を発見し(非特許文献1)、これに基いた高分子ナノワイヤー及びその製造方法を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−076044号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Masahiro Goto, Akira Kasahara, Masahiro Tosa, "Synthesis of Polymer Nanowires by Pulsed Laser Irradiation," Appl Phys. Express. 2 (2009) 065503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高分子ナノワイヤーを各種のナノデバイスに応用しようとすると、何も添加していないそのようなナノワイヤーでは不十分で、所要の機能・特性を発現させるために他のナノ材料をドープする必要がある場合が多い。ところが、特許文献1では、必要とする機能性ナノ材料をドープし、それに新規機能性を付加するには至っていなかった。
【0010】
本発明の課題は機能性ナノ粒子などのナノ粒子を含有した高分子ナノワイヤーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によれば、ナノ粒子を含有する高分子ナノワイヤーが与えられる。
【0012】
ここで、直径が500nm未満であってよい。
【0013】
また、直径が0.2nm以上であってよい。
【0014】
また、長さが100nm以上であってよい。
【0015】
また、前記ナノ粒子の直径は0.1nm以上300nm未満であってよい。
【0016】
前記高分子はメタクリレート系高分子、ポリビニル系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリピロール系高分子からなる群から選択される少なくとも一種類の高分子であってよい。
【0017】
また、前記ナノ粒子は磁性体であり、磁界の印加により駆動されてよい。
【0018】
本発明の他の側面によれば、ナノ粒子を含有する高分子を含む薄膜と、前記ナノ粒子を含有し、前記薄膜から伸びる前記高分子ナノワイヤーとを有する、薄膜・高分子ナノワイヤー複合体が与えられる。
【0019】
本発明の更に別の局面によれば、少なくとも高分子及びナノ粒子を含む薄膜にレーザーを照射することにより、前記薄膜の前記レーザーが照射された位置から前記ナノ粒子を含有する高分子ナノワイヤーを成長させる、ナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法が与えられる。
【0020】
ここで、前記薄膜は更に光吸収材料を含んでよい。
【0021】
また、前記光吸収材料は光増感色素であってよい。
【0022】
また、前記レーザーはパルスレーザーであってよい。
【0023】
また、前記高分子ナノワイヤーは前記薄膜のうちの前記レーザーを照射した面とは反対側の面から成長してよい。
【0024】
また、前記薄膜は前記高分子と前記ナノ粒子の両者を含む単一の層からなってよい。
【0025】
また、前記薄膜は、前記高分子を含む少なくとも1枚の層と、前記ナノ粒子を含む少なくとも1枚の層とを含んでよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、母材の高分子だけではなく、含有しているナノ粒子の性質に基く新しい特性を高分子ナノワイヤーにもたせることができるので、これに限定されるものではないが、本発明により例えば微小なアクチュエータなどのマイクロマシンやセンサーなどの基幹構成要素を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーを成長させる薄膜の層構成の各種の例を示す図。
【
図2】本発明の一実施例の製造方法に使用する装置構成を説明する図。
【
図3】本発明の一実施例のナノ粒子含有高分子ナノワイヤー全体の電子顕微鏡写真。
【
図4】
図3に示すナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの細部を拡大した電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、特許文献1に記載された高分子ナノワイヤーの製造方法を改良することにより、機能性ナノ粒子などのナノ粒子を含んだ高分子ナノワイヤーを得るものである。
【0029】
具体的には、本発明のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの製造方法では、先ず、高分子とナノ粒子と光増感色素とを含む薄膜を準備する。この薄膜は、例えばスピンコート法などの多様な方法を使用して形成することができる。
【0030】
この薄膜中ではナノ粒子を高分子中に一様に分散させても(単層構造)良い。この場合を
図1(a)に示す。同図において、下部の細かな点が多数描かれている層はガラス製などの基板、その上に載っている層が薄膜である。薄膜中の円は高分子を、また四角形はナノ粒子を示している。この表記は
図1の(b)から(d)でも同様である。
【0031】
あるいはナノ粒子が高分子中に分散しにくいなどの都合によっては、分散させる代わりに、
図1(b)に示すように、高分子層を形成した後、その上にナノ粒子を担持させることでナノ粒子層を載せるという多層構造を形成することで、全体として所要成分を全て含む薄膜を作製してもよい。
【0032】
また、
図1(c)のように、ナノ粒子層と高分子層の上下の位置を逆にしても良い。
【0033】
またこのような多層構造の薄膜は、上述した構成(高分子層−ナノ粒子層の二層構造)を繰り返すなどによって三層以上の構成を持つようにすることもできる。その一例を
図1(d)に示す。
【0034】
ナノ粒子の担持方法としては、形成された高分子膜上にナノ粒子を分散させた液体をスプレーしても良いし、あるいはスピンコート法などの他の多様な方法を使用しても良い。
【0035】
なお、このような多層膜構造を採用した場合、光吸収材料は通常は高分子層に入れる。それは、ナノ粒子が溶媒に溶けない場合が多いからである。しかし、光吸収材料をナノ粒子側の層に含ませておけばそのナノ粒子のドープ量を増加させることができると期待される。従って、光吸収材料は各種の条件に応じて何れの層に入れても良いし、また両者に入れても良い。
【0036】
また、この薄膜の厚さは必要とするナノ粒子含有高分子ナノワイヤーの長さや細さにより異なる。例えば、短いナノ粒子含有高分子ナノワイヤーでよければ薄い薄膜でも十分である。必要とされる薄膜の厚さは、使用する特定の高分子、ナノ粒子、光吸収材料、パルスレーザーの出力や照射時間等によって大きく変化するので、これらの条件全てに渡って適用可能な一般的な厚さ範囲を示すことはできない。
【0037】
次に、上のようにして準備された薄膜にパルスレーザーを照射する。照射されるレーザーの強度等の照射条件は、原料として使用する高分子、ナノ粒子、光増感色素等によって変化するが、照射対象に合わせて照射条件を最適化することによって、高分子ナノワイヤーが薄膜表面上のレーザー照射位置から薄膜中のナノ粒子を伴った形で成長する。また、使用するレーザーの波長は薄膜中に含まれる光吸収材料に効率よく吸収されるように、その吸収波長により選択することが望ましい。
【0038】
なお、最適化すべき照射条件としては、レーザーの強度以外にも、照射領域などがある。ここで照射領域とは、具体的には膜の厚み方向についてどのあたりにある領域を照射するかということを指す。例えば、薄膜のうちの基板との界面近くに焦点を結ぶようにして照射するのか、膜の厚み方向の真ん中付近なのか、それともナノワイヤーが成長する表面近くに焦点を置くのか、等である。多層構造の薄膜の場合には、高分子層に焦点をおくのか、ナノ粒子層に焦点を置くのか、また同じ層が繰り返されている構造の場合はたとえば上から何枚目の層に焦点を置くのか、等を言う。また上述した薄膜の構造(単層膜/多層膜)によっても照射条件が影響を受ける。
【0039】
本発明のナノ粒子含有高分子ナノワイヤー製造方法によれば、直径が好ましくは0.2nm以上500nm未満、より好ましくは2nm以上300nm未満、長さが好ましくは100nm以上、より好ましくは100nm以上800μm未満の範囲のナノワイヤーを製造することができる。また、径方向の断面形状は、使用する原料、各種の製造条件により、円形、その他の各種の形状を取り得る。ここでナノワイヤーの直径は、電子顕微鏡による観察像によって、断面形状が円形の場合は円の直径として、断面形状がその他の形状の場合は断面周縁間の最も長い距離として測定することができる。ナノワイヤーの長さは、電子顕微鏡による観察像から測定することができる。
【0040】
上記製造方法において、高分子としては多様な物質が使用できるが、例えばPMMA、PBMA、PEMAなどのメタクリレート系、ポリスチレンなどのポリビニル系、ポリチオフェン系、ポリアセチレン系、ポリアニリン系、ポリピロール系が好適に使用可能である。
【0041】
また、ナノ粒子としては、以下で説明する実施例においては酸化鉄のナノ粒子を例示したが、他の物質のナノ粒子を含有した高分子ナノワイヤーを製造することも当然可能である。また、実施例では酸化鉄のナノ粒子を含有させることによって磁気的な機能性をナノワイヤーに付与しているが、当然ながらナノ粒子を含有させることによって付与可能な機能性としては磁気に限定させるものではなく、これに限定しようという意図はないが、例えばCdTeなどのナノ材料をドープすれば光学特性(蛍光)などを変化させることができる。
【0042】
ナノ粒子の機能性材料の種類としては、次のものが挙げられる。
【0043】
磁気特性を付与する機能性材料としては、Fe、Ni、Co、Mnなどの磁性金属、それらの酸化物などあらゆる磁性体、また、金属錯体強磁性体などが挙げられる。
【0044】
光学特性を付与する機能性材料としては、CdTe、ZnTe、CdS、ZnS、CdSe、ZnSeなどの量子ドット、フタロシアニン(Pc)、PcZn、PcNi、PcH
2などのフタロシアニン化合物、ポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン、ポルフィリン系化合物、テトラフェニルポルフィリン系化合物、アントラセン、アントラセン化合物、ピレン、ピレン化合物、ルブレン、クマリン、クマリン化合物、フルオレセイン、ローダミン、ローダミン化合物などの全ての有機分子が挙げられる。
【0045】
電気特性を付与する機能性材料としては、金属など導電性を持つ物質が全て対象となる。
【0046】
放射性を付与する機能性材料としては、ウラン、カリウム、ラジウム、ラドン、プルトニウム、セシウム、コバルト、ヨウ素、トリウム、炭素などが挙げられる。
【0047】
更には、実施例ではナノ粒子としてアスペクト比の小さなほぼ球状のナノ粒子を使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、線状、板状などの各種の形状のナノ粒子を使用しても良いことは言うまでもない。ナノ粒子のサイズとしては、ナノワイヤー直径にもよるが、0.1nm以上300nm未満の範囲が好適であり、1nm以上300nm未満の範囲がさらに好適である。
【0048】
なお、上述の薄膜を準備するに当たっては、光増感色素を使用したが、実際には光を吸収する物質(光吸収材料)であれば色素以外でも何でも使用することができる。高分子材料は透明なものが多いので、そのままではレーザー光の吸収量がわずかである。そこで、代わりに色素等の光吸収材料を光励起して、そのエネルギーを高分子へ伝えることにより、高分子を熱的に硬化させている。更にはナノ粒子が光吸収材料としても機能する場合には光増感色素等の光吸収材料を使用しなくても良い。光増感色素を使用する場合には、例えばクマリン、ピレン、ペリレン、アントラセン、ポルフィリン、フタロシアニンなど、光照射により安定した(光分解の起きにくい)性質を有する色素が好適である。
【0049】
また、上記製造プロセスは、使用する原料の何れかが大気成分から好ましくない影響を受けるものでない限り、大気中で行うことができる。
【0050】
また、本発明の製造方法はレーザーを用いた単純な生成プロセスであることから、一点を照射してそこだけでナノワイヤー成長を行わせるのではなく、レーザーの大面積スキャン方式やフライアイレンズなどを用いて一度に広範囲を光照射することも可能である。これにより薄膜上の広い面積に渡って本発明のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーを多数同時に成長させることで量産化を容易に実現できる。また、薄膜上の多数の所望位置を選択して当該位置だけに本発明のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーを選択的に成長させることで複雑な機能を発揮する集積化デバイスも可能である。なお、これに限定するものではないが、例えばこのような集積化デバイスの応用の場合には、成長したナノワイヤーだけを切り取って利用する代わりに、ナノワイヤーがそこから成長したままの状態の薄膜、あるいは更にその薄膜が載っている基板からなる複合体を所望デバイス等の構成要素として利用することができる。
【0051】
また、上記説明ではパルスレーザーを使用するとしたが、例えばレーザーでスキャンすることで広い面積に渡ってナノワイヤー成長を行う等の場合にはCWレーザーを使用することもできる。CWレーザーで特定の一点だけを照射すると、その場所では照射時間が長くなるので高分子が硬化しにくくなる。しかしガルバノスキャナーなどを使用して高速スキャンすれば、レーザーが照射される個々の位置ではパルスレーザーを使用した場合と同等の極めて短時間の照射が行われるので、それらの位置に本発明の高分子ナノワイヤーが生成される。ただし、この場合には当然高強度のレーザーが必要となる。
【0052】
本発明の製造方法及びそれによって製造されたナノワイヤーは、高分子材料種や含有するナノ粒子種の選択肢が極めて広範であるために、これらを適宜選択することで、多様な応用分野で必要とされる機能を発揮する高分子ナノワイヤーを設計、製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
図2に、本発明の一実施例によりナノ粒子含有高分子ナノワイヤーを製造する際に使用した装置の概念的な構成図を示す。
【0055】
基板101として厚さ170μmのポリシリケートグラスを使用した。また、高分子としてポリスチレン(PS)を、ナノ粒子として約20nmの粒径を有する酸化鉄ナノ粒子(複数の価数の酸化鉄の混ざっているナノ粒子を使用したが、以下ではこれをFeOと表記する)を、光吸収材料としてはクマリン6(C6)を使用した。
【0056】
先ず、クロロベンゼンもしくはキシレン中でPS及びC6を8時間以上攪拌し溶解させた後、FeOを添加して、酸化鉄ナノ粒子分散ポリスチレン(nanoFeO−PS)溶液を調整した。
【0057】
上記のようにして調整したnanoFeO−PS溶液をスピンコート法により基板101上に成膜した。成膜後、8時間以上大気環境下で乾燥させてnanoFeO−PS薄膜103を作製した。
【0058】
レーザー発生装置105からの波長440nm、パルス幅900psのパルスレーザーを1パルス、色素111と光学系を介して20倍の対物レンズ107に導入し、この対物レンズ107によってnanoFeO−PS薄膜103に集光させることで、背面、つまり基板101側からレーザー照射を行った。使用される原料によって決まる所要の条件でレーザー照射を行うことにより、PS中にFeOナノ粒子が添加されたナノ粒子含有高分子ナノワイヤー109がnanoFeO−PS薄膜103表面、つまり基板101とは反対側から垂直方向に成長した。
【0059】
図3に、このようにして製造されたナノ粒子含有高分子ナノワイヤー全体の電子顕微鏡写真を示す。
図3から、酸化鉄ナノ粒子が分散された、直径25nm、長さ約20μmのポリスチレンナノワイヤーが作製できていることがわかる。
【0060】
更にその細部を拡大した電子顕微鏡写真を
図4に示す。この図から、ポリスチレンの高分子ナノワイヤーのいたるところに直径約20nmの酸化鉄ナノ粒子(矢印で示す)が含有されている様子が分かる。なお、本実施例において薄膜103の厚さを1〜100μmの範囲で変化させたが、この範囲のどの厚さでもナノ粒子含有高分子ナノワイヤーが得られることが確認された。
【0061】
本実施例では高分子ナノワイヤー中に典型的な磁性材料である酸化鉄を含有させたことにより、高分子ナノワイヤーに新たに磁気的な機能性を付加することができた。このナノワイヤーは、磁場を印加することで運動する機能を有するため、例えば、生物の鞭毛のような運動を引き起こすことができる。そのため、例えば人体血管内を移動する生体用マイクロマシンの駆動源の極めて微小なアクチュエータとしての応用が期待される。もちろん、含有させるナノ粒子の選択により、高分子ナノワイヤーにこれとは別の任意の機能性を持たせることができるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のナノ粒子含有高分子ナノワイヤーでは使用する高分子材料種及びナノ粒子種の選択肢が極めて広範であるために、これらを適宜選択することで、多様な応用分野に適合する高分子ナノワイヤーを提供することができる。従って、本発明は多くの応用分野で使用される分子デバイス、マイクロマシン等に利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0063】
101:基板
103:薄膜
105:レーザー発生装置
107:対物レンズ
109:ナノ粒子含有高分子ナノワイヤー
111:色素