(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920873
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】潜降索投下表示装置
(51)【国際特許分類】
B63C 7/26 20060101AFI20160428BHJP
B63B 21/04 20060101ALI20160428BHJP
B63C 9/08 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
B63C7/26
B63B21/04 B
B63C9/08 F
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-260827(P2011-260827)
(22)【出願日】2011年11月29日
(65)【公開番号】特開2013-112206(P2013-112206A)
(43)【公開日】2013年6月10日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507359454
【氏名又は名称】赤城工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】圷 邦章
(72)【発明者】
【氏名】羽生 智昭
(72)【発明者】
【氏名】益子 光生
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−171695(JP,U)
【文献】
実開平03−078696(JP,U)
【文献】
特開昭60−110596(JP,A)
【文献】
特開2008−265494(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3117566(JP,U)
【文献】
特開昭60−255595(JP,A)
【文献】
米国特許第04808133(US,A)
【文献】
実開昭62−137792(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B,B63C,G01C13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標水域への潜降索の投下位置を水上で表示する装置であって、
水上に浮く浮体と、水中に投下して着底させる錘と、一端が前記錘に連結され、他端が前記浮体に巻き取られた測深ロープと、を備え、
前記浮体は、環状の浮体本体と、測深ロープの巻き取り部とを有し、
前記浮体本体の回転軸と、前記巻き取り部の回転軸とが異なっている、ことを特徴とする潜降索投下表示装置。
【請求項2】
前記浮体に救命浮環が用いられている、ことを特徴とする請求項1に記載の潜降索投下表示装置。
【請求項3】
前記測深ロープには、水深測定用の目盛が表示されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の潜降索投下表示装置。
【請求項4】
目標水域への潜降索の投下位置を水上で表示する装置であって、
水上に浮く浮体と、水中に投下して着底させる錘と、一端が前記錘に連結され、他端が前記浮体に巻き取られた測深ロープと、を備え、
前記浮体は、扁平な浮体本体と、測深ロープの巻き取り部とを有し、
前記浮体本体の回転軸と、前記巻き取り部の回転軸とが一致している、ことを特徴とする潜降索投下表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜降目標水域への潜降索の投下位置を水上で表示する浮体を備えた潜降索投下表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば水難事故による罹災者の救出および捜索、犯罪等に使用された遺留品等の捜索においては、捜索水域での潜降目標を設定する潜降索が使用されている。この潜降索は、潜水士による捜索活動を迅速かつ円滑に行えるようにすること、活動する潜水士の安全管理対策を可能とすること、などを目的として使用される。
【0003】
ところで、この種の従来の潜降索は、測深ロープの一端を水上に浮くブイ(例えば球形状の浮体)に連結し、他端を着底させる錘に連結して使用するが、潜降目標位置への投下に際しては、次のような作業手順が必要であった。
【0004】
(1)長竿等を使い、潜降索投下水域の水深を図る。長竿で足りない場合、測深ロープ等を使用する。
(2)錘に測深ロープの一端を接続し、測深ロープの他端をブイに結び、潜降索を作る。
(3)水深に合わせて測深ロープの長さを調整(編み込む)。
(4)錘を水中へ投下する。
(5)着底した錘と、水面上のブイとの間の測深ロープの余張調整を行う。即ち、干潮、満潮等における水面変位分に相当する測深ロープの長さを余分として確保する調整を行う。
【0005】
このように、従来の潜降索では、(1)〜(5)までの作業にかかる時間は、環境によっても異なるが、約10〜20分、携わる人員は2〜4人となるのが通常であった。また、水質の影響で水中視界が悪い場合には、作業時間がさらに余分にかかるだけでなく、作業困難となる問題もあった。
また、現状のブイ(浮体)は、潮流や風の影響を受けやすく、投下地点から位置がずれてしまい、潜降目標位置の誤差範囲がより大きくなってしまう問題があった。
【0006】
特許文献1には、浮体が一端に接続されているとともに、他端に係留手段が接続されており、途中に円錐形状の中間錘を有した係留索を備えた係留装置が記載されている。
この係留装置によれば、移動した浮体からの海底の係留手段に伝わる力を中間錘によって軽減することができると共に、中間錘が係留策を降下させようとする力によって、浮体の移動を抑制したり、移動した浮体を元の位置に引き寄せたりする作用を発揮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−173100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、このような係留装置の中間錘を、潜降索に適用することで、潮流や風の影響を受けにくくすることも考えられる。しかし、これには、次のような問題が生じる。
第1に、中間錘を設ける分だけ、全体として重くなり、作業性が悪くなる点。
第2に、長竿や測深ロープ等を使っての水深計測、水深に合わせた測深ロープの長さ調整、水面変位に対応させる測深ロープの余張調整などが依然として必要となる点。
【0009】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、潜降索を利用した捜索活動を迅速かつ合理的に行うことができ、これにより活動する潜水士の負担軽減及び安全管理対策の向上を図ることができる潜降索投下表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明は、目標水域への潜降索の投下位置を水上で表示する潜降索投下表示装置であって、水上に浮く浮体と、水中に投下して着底させる錘と、一端が前記錘に連結され、他端が前記浮体に巻き取られた測深ロープと、を備え、前記浮体は、水上において測深ロープの巻出しにより回転する方向に対して、水による回転抵抗が大きくなる構成であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、浮体は、水上において測深ロープの巻出しにより回転する方向に対して、水による回転抵抗が大きくなる構成としてあるので、浮体が水上で回転し難い構造となる。したがって、浮体の水上での回転抵抗を、浮体が風や潮流等の影響を受けて測深ロープが巻き出される力よりも大きく設定しておくことで、測深ロープが容易に巻き出ないようにすることができる。これにより、投下水域から浮体の位置がずれてしまい、潜降目標位置の誤差範囲が大きくなってしまうのを未然に防止することができる。
【0012】
また、浮体の回転抵抗をこのように設定しておくことで、潜降索の投下において、錘が着底した時点で浮体の回転が止まる。これにより、測深ロープに余分な緩みが生じることなく適度に張られた状態となる。したがって、この点からも浮体の位置がずれてしまうのを効果的に防ぐことができる。
そして、このような機能を発揮させるのに、潜降索の錘を潜降目標水域に投下するだけの極めて簡易な作業で済ますことができる。
【0013】
本発明の好ましい形態として、前記浮体は、環状の浮体本体と、測深ロープの巻き取り部とを有し、前記浮体本体の回転軸と、前記巻き取り部の回転軸とが異なっている、ことを特徴とする。
このような構成においては、浮体本体の回転軸と巻き取り部の回転軸とが異なっているので、即ち相互の回転軸が離間しているので、水上に浮く浮体本体には回転抵抗が生じる。この回転抵抗は例えば浮体本体の着水面が環状に形成されていても生じる。また、浮体本体の回転軸と巻き取り部の回転軸との相対的な離間距離が大きいほど、回転抵抗も大きくなるので、この回転軸どうしの間隔を調整することで、回転抵抗の大きさを調整することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記浮体に救命浮環が用いられていることを特徴とする。
救命浮環は市販されていて、防水性や耐候性にも優れており、反射シート等も装備されているので、高品質で高機能の浮体を備えた潜降索投下表示装置を低コストで製作できる利点がある。
【0015】
本発明の好ましい形態として、前記測深ロープには、水深測定用の目盛が表示されていることを特徴とする。
このように、測深ロープに水深測定用の目盛りを付した場合、潜降索の投下において、錘が着底した時点で直ちに水深を目測によって測定することが可能になる。
【0016】
本発明において、前記浮体は、扁平な浮体本体と、測深ロープの巻き取り部とを有し、前記浮体本体の回転軸と、前記巻き取り部の回転軸とが一致していることを特徴とする。
このように、浮体本体を扁平に形成しても、水上での浮体に水による回転抵抗を付与することができる。したがって、この場合には、浮体本体の回転軸と、巻き取り部の回転軸とを一致させても良いし、離間させても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、浮体の水上での回転抵抗が大きくなる構成としてあるので、浮体が水上で回転し難い構造となる。したがって、浮体の水上での回転抵抗を適度に設定しておくことで、投下位置から浮体が移動しないようにすることができる。さらに、ただ単に投下するだけで、測深ロープに余分な緩みが生じないようにすることができる。
この結果、潜降索を利用した捜索活動を従来に比べて迅速かつ合理的に行うことができ、これにより活動する潜水士の負担軽減及び安全管理対策の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態1に係る潜降索投下表示装置の正面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る潜降索投下表示装置の主要部を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る潜降索投下表示装置の浮体の構成を示す正面図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る潜降索投下表示装置の浮体の構成を示す側面図である。
【
図5】本発明の実施形態2に係る潜降索投下表示装置の浮体の構成を示す側面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る潜降索投下表示装置の作用を説明する概略側面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る潜降索投下表示装置の作用を説明する側面図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係る潜降索投下表示装置の側面図である。
【
図9】本発明の実施形態4に係る潜降索投下表示装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、
図1ないし
図9を参照して説明する。
(実施形態1)
図1及び
図2において、符号1は、目標水域への潜降索の投下位置を水上で表示する潜降索投下表示装置を示している。この潜降索投下表示装置1は、水上Wに浮く浮体2と、水中に投下して着底させる錘3と、一端が錘3に連結され、他端が浮体2に巻き取られた測深ロープ4と、を備えている。そして、浮体2は、水上Wにおいて測深ロープ4の巻出しにより回転する方向に対して、水による回転抵抗が大きくなる構成としてある。
【0020】
次いで、これらの詳細について説明すると、浮体2は、環状の浮体本体5、5と、測深ロープ4の巻き取り部7とを有している。浮体本体5、5は
図4に示すように、側面から見て環状に形成され、互いに間隔をおいて配置されている。なお、この実施形態では、浮体本体5、5として、市販されている救命浮環が2個用いられている。この救命浮環は、防水性や耐候性にも優れており、反射シート8等も装備されているので、高品質で高機能の浮体本体を構成することができる。
【0021】
巻き取り部7は、いわゆる合成樹脂で形成されたリール型(巻き取りドラム型)のもので、
図3に示すように、測深ロープ4を巻き取る円筒部71と、その円筒部71の両側に形成された円形フランジ72、72とを有している。
【0022】
この巻き取り部7は、浮体本体5、5に対して一体に連結されている。連結の形態は、浮体本体5、5の回転軸5aと、巻き取り部7の回転軸7aとが異なるように配慮されている。これにより、浮体本体5、5の回転軸5aと、巻き取り部7の回転軸7aとが、所定の距離だけ互いに離間している。なお、回転軸7aは連結ロッドを兼ねていて、浮体本体5、5及び巻き取り部7との間で相対回転可能に設けられている。この回転軸7aには浮体本体5、5の外側に位置する抜け止め7bが設けられている。
【0023】
本実施形態の潜降索投下表示装置1は、
図2に示すように、視認ポール9に取り付けた国際信号旗10により、視認性を高める構成としている。視認ポール9の下部には浮き11とバランスウエイト12が設けられ、視認ポール9が水面上に鉛直に起立可能なように構成されている。視認ポール9と浮体2との間には、連結ロープ13が設けられている。
【0024】
浮体2の巻き取り部7に巻き取られた測深ロープ4には、水深測定用の目盛4a、4b、4c、4d、4f、…4kが表示されている。このように、測深ロープ4に水深測定用の目盛りを付すことによって、潜降索の投下において、錘3が水底Bに着底した時点で直ちに水深を目測によって測定することが可能になる。
【0025】
この水深測定用の目盛りの表示方法としては特に限定されないが、この実施形態では、
図1に示すように、1mおきに異なる色に着色表示した目盛りが付されている。この着色表示した目盛りは、測深ロープ4の錘3への結合具であるカラビナ41の1m上の高さ位置から始まり、それぞれが50cmの長さ(高さ)を有している。
【0026】
具体的には、測深ロープ1mごとに、赤、黄、青、緑、黒の順番で、50cm長の色分けが施されている。一巡した後(5m地点)に、さらに一巡まで(10m地点)、赤い太線で印(横線)43が付けられ、その本数は一巡ごとに増えていくようにしている。したがって、赤い太線の印43が一本付された黒色に着色表示した目盛り4kの場合、10mを示していることになる。また、赤い太線の印43が二本付された黒色に着色表示した目盛りの場合、15mを示していることになる。
【0027】
本実施形態によれば、浮体2は、水上において測深ロープ4の巻出しにより回転する方向に対して、水による回転抵抗が大きくなる構成としてあるので、浮体2が水上で回転し難い構造となる。したがって、浮体2の水上での回転抵抗を、浮体2が風や潮流等の影響を受けて測深ロープ4が巻き出される力よりも大きく設定してあり、測深ロープ4が容易に巻き出ないようにしている。これにより、投下水域から浮体2の位置がずれてしまい、潜降目標位置の誤差範囲が大きくなってしまうのを防止することができる。
【0028】
また、浮体2の回転抵抗をこのように設定しておくことで、錘3の投下において、
図1に示すように錘3が着底した時点で浮体2の回転が止まる。これにより、測深ロープ4に余分な緩みが生じることなく適度に張られた状態となる。したがって、この点からも浮体2の位置がずれてしまうのを効果的に防ぐことができる。
そして、このような機能を発揮させるのに、錘3を潜降目標水域に投下するだけの極めて簡易な作業で済ますことができる。
【0029】
ここで、
図6のように、浮体2の回転軸(中心)と巻き取り部7の回転軸とが一致している場合、浮体2に対する水による回転抵抗は小さいので、風や潮流等の影響を受けると浮体2は巻き取り部7と一体に回転し続ける。そのため測深ロープ4が伸びて正確な水深が測れないだけでなく、錘3の投下位置から浮体2が大きくずれてしまう。
【0030】
図7は浮体2に水による回転抵抗が生じる原理を示したものである。
同図に示すように、浮体本体5、5の回転軸5aと巻き取り部7の回転軸7aとが異なっているので、即ち相互の回転軸5a、7aが離間しているので、水上に浮く浮体本体5、5には回転抵抗(回転に逆らう力)Fが生じる。浮体2を回転させる力は、浮体2の回転抵抗力より大きいので、錘3が着底するまで回転する。そして、錘3が着底した時点で、回転力はなくなり、浮力と釣り合う張力のみとなるので、浮体2はその位置へ保持される。
【0031】
この回転抵抗Fは例えば浮体本体5、5の着水面が図示例のように環状に形成されていても生じる。また、浮体本体5、5の回転軸5aと巻き取り部7の回転軸7aとの相対的な離間距離が大きいほど、回転抵抗Fも大きくなるので、この回転軸5a、7aどうしの間隔を調整することで、回転抵抗Fの大きさを調整することができる。
【0032】
(実施形態2)
実施形態1では、浮体2に救命浮環を用いた例を示したが、
図5に示すように、浮体2と、巻き取り部7とを、合成樹脂等により一体に形成してもよい。このように構成すれば、さらに低コストで製作することも可能になる。
【0033】
また、浮体2として、扁平な浮体本体と、測深ロープの巻き取り部とを有し、浮体本体の回転軸と、巻き取り部の回転軸とが一致している構成とすることもできる。
このように、浮体本体を扁平に形成しても、水上での浮体に水による回転抵抗を付与することができる。したがって、この場合には、浮体本体の回転軸と、巻き取り部の回転軸とを一致させても良いし、離間させても良い。
また、浮体2としては、水による回転抵抗が生じる構成であれば良く、他の構成を採用することもできる。
【0034】
(実施形態3)
図8は本発明の実施形態3を示している。この実施形態3では、浮体5を、側面からみて矩形状に形成すると共に、浮体5の回転軸5aとリール7の回転軸7aとを離間させた構成としたものである。
このように構成しても、上記実施形態1、2とほぼ同様の作用効果を発揮させることができる。
【0035】
(実施形態4)
図9は本発明の実施形態4を示している。この実施形態4では、浮体5を、側面からみて半円形状に形成すると共に、浮体5の回転軸5aとリール7の回転軸7aとを離間させた構成としたものである。
なお、この実施形態においても、上記実施形態1、2、3とほぼ同様の作用効果を発揮させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 潜降索投下表示装置
2 浮体
3 錘
4 測深ロープ
4a、4b、4c、4d、4e、4k 目盛り
5 浮体本体
5a 7a 回転軸
7 巻き取り部
8 反射シート
9 視認ポール
10 国際信号旗
11 浮き
12 バランスウエイト
13 連結ロープ