【実施例】
【0052】
(例1)
1から15mgの薬物の封入
生理食塩液中のコレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBにおいて、異なる量、すなわち1ml当たり1mgから15mgのアンホテリシンBを、脂質の量を増加させることなくうまく間に挿入することができた。このことは、1から15mg/mlのそれぞれのアンホテリシンB製剤に対して脂質量を45mgに固定する、すなわち脂質と薬物の比率が45:1から45:15と変化することを意味する。
【0053】
導入された製剤の「ナノソームにおける薬物:脂質の比率」及び「上澄み中のアンホテリシンB」の決定:
試料明細: 製品コード
1mg/ml− NAmB−C/1
3mg/ml− NAmB−C/3
5mg/ml− NAmB−C/5
10mg/ml− NAmB−C/10
15mg/ml− NAmB−C/15
【0054】
アンホテリシンBのアッセイ及び残存メタノールの含有量を決定した。結果を以下に示す。
【0055】
観察結果:
(A)上澄み液体中のアンホテリシンBの決定−
すべての試料を遠心分離し、上澄み液体を採取して、アンホテリシンBのアッセイを実施した。UV可視分光光度計における405nmでの読取り値は無視できる程度であったが、これは上澄み液体中にアンホテリシンBが存在しないことを示しており、導入された製剤中に、封入されていないアンホテリシンBが存在しないことを意味するものである。
【0056】
(B)ナノソーム中の薬物:脂質の比率
上記製剤のナノソーム中の薬物:脂質の比率を決定した。
観察結果を以下に示す。
【表3】
【0057】
(例2)
生理食塩液とデキストロース懸濁液中のナノソーム化アンホテリシンBの腎毒性の比較
アンホテリシンBの固有の腎毒性は、広範なスペクトル及び強力な抗真菌性を持つこの薬物の完全な可能性を解放する上で大きな障害であった。先に詳述したように薬物作用に対するデキストロースの周知の欠点及び生理食塩液の利点の可能性にも関わらず、皮肉にもアンホテリシンBは生理食塩液中に沈殿することが周知であるため、デキストロースを生理食塩液と取り替えることはできなかった。このナノソーム化アンホテリシンBの固有の設計により、アンホテリシンBをナノソーム化基剤中に固定化することによって生理食塩液懸濁液中の安定な製剤が可能になった。デキストロースに対する生理食塩液の腎毒性を評価するために以下の実験を実施した。
【0058】
実験は、雄6匹及び雌6匹をそれぞれ含む2つの群のスイスアルビノマウスに対して実施した。最初の8日間は3mg/kgの1日用量、9日目及び10日目はさらに5mg/kg/日に増量し、1つの群に生理食塩液製剤を投与し、別の群にデキストロースを投与した。2日に1回、それぞれの動物群の半数の採血を行い、2日目から11日目まで1日1回、血清中クレアチニンを決定した。
【0059】
各動物臨床化学データ
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
いずれの群でも血清中クレアチニン濃度の有意な違いは観察されなかったので、より高用量の及びより長期間の実験が必要となった。
【0062】
この実験において、2つの群のマウスのそれぞれの群は、雌と雄が同数の50匹のマウスを含んだ。1日1回の投与に代えて、2日に1回の10mg/kg用量を投与し、1つの群には5%デキストロース中ナノソーム化アンホテリシンBを投与し、別の群には標準生理食塩液中ナノソーム化アンホテリシンBを投与した。週1回、採血し、血清中クレアチニン濃度を決定した。
【表6】
【0063】
デキストロース群において、2週目まで有意な違いは見られず、その後の6週目まででも血清中クレアチニン濃度の上昇は有意ではなかった。ベースラインの2倍を超える血清中クレアチニンの増加が、4週目に動物2匹に、5週目に動物3匹に、6週目に動物1匹に認められた。3週目に動物1匹が、5週目にもう1匹が死亡したことは、薬物の腎毒性と関係があると思われる。全体として腎毒性がこれら動物の14%に認められた。
【0064】
生理食塩液群において、血清中クレアチニン濃度は6週間の実験期間中変わらない。1匹においてのみ、血清中クレアチニン濃度が投与6週間後にベースラインの2倍を超えた。全体として、この群のわずか2%に腎毒性が認められる。この群のマウスのうち5匹が実験の間に死亡したが、死亡は薬物と関係がないと思われる。
【0065】
(例3)
コレステロール及び生理食塩液中のナノソームの安定化
他の膜安定剤を含まない、生理食塩液中のコレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBの2年間の安定性は本発明において報告した固有の組成によって可能であった。
【0066】
完成製品に対する実時間安定性試験
製品:生理食塩液中コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンB
保存期限:このナノソーム化アンホテリシンBは製造日から少なくとも24カ月間安定である。
提案有効期限:24カ月間
保存:2〜8℃で保存
対照バッチ:ナノソーム化アンホテリシンBの安定性試験のテストを3つのバッチにおいて実施した。
【0067】
【表7】
保存条件:長期の安定性試験の場合、製品は2〜8℃で保存する。
テスト間隔:保存した試料を所定の間隔で取り出す。間隔は次の通りである。
0カ月目
3カ月目
6カ月目
12カ月目
18カ月目
24カ月目
【0068】
生理食塩液中のコレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBの実時間安定性試験データ
バッチ番号:50F07−147
製造日:08/2007
有効期限日:07/2009
【表8】
【0069】
生理食塩液中コレステロール含有リポソーム化アンホテリシンBの実時間安定性試験データ
バッチ番号:50F07−148
製造日:08/2007
有効期限日:07/2009
【表9】
【0070】
生理食塩液中コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBの実時間安定性試験データ
バッチ番号:50F07−149
製造日:08/2007
有効期限:07/2009
【表10】
【0071】
(例4)
従来のアンホテリシンB及び生理食塩液中コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンB(NアンホテリシンB)のin−vitro活性の比較
実験は、ナノソーム化アンホテリシンBに対する一般に使用されている抗真菌剤、すなわちアンホテリシンB、ボリコナゾール、イトラコナゾール及びフルコナゾールの抗真菌スペクトラム及びMICを決定し、病原性の酵母菌及び皮膚糸状菌を含むカビに対する有効性を確実にするため行った。
【0072】
以下の臨床分離株のテストを行った。
【表11】
【0073】
生理食塩液中のコレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBのin−vitroの活性は、酵母菌及びカビの多数の臨床分離株に対して、従来のアンホテリシンBよりも数倍も高い(複数の場所で10倍及びMICはさらに低い)。さらにアンホテリシンBはこれまで皮膚糸状菌に対して有効ではないことが知られているが、一方、ナノソーム化アンホテリシンBは皮膚糸状菌、すなわちトリコフィトン・ルブラム(Trichophyton rubrum)、T.トンズランス(T.tonsurans)、T.メンタグロフィテス(T.mentagrophytes)、ミクロスポルム・ジプセウム(Microsporum gypseum)及びエピデルモフィトン・フロコッサム(Epidermophyton floccosum)に対しては有効である。より高い活性の理由は、これらのナノソーム並びに真菌の膜が両方とも、類似した好ましい親水性親油性の環境を持ち、そのためナノソームから真菌へアンホテリシンBの分子が移動しやすいためであり得る。
【0074】
この観察結果は、アンホテリシンBをコレステロール含有ナノソームとして投与すると
きの用量を減少させる可能性も支持するものである。デオキシコール酸ナトリウム中の薬物のコロイド懸濁液である従来のアンホテリシンBは、1mg/体重1kg/日の1日用量として投与されるが、用量を制限している毒性を克服するために開発された、その市販の脂質製剤の用量は3〜6mg/体重1kg/日の範囲である。用量が増えると、治療費用に影響してその薬物を入手不可能な価格とする一方で、コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBは、治療の用量が減少し、ひいては治療を入手可能な価格とする助けとなる。
【0075】
皮膚糸状菌
1.トリコフィトン・ルブラム、T.トンズランス、T.メンタグロフィテス
2.ミクロスポルム・ジプセウム
3.エピデルモフィトン・フロコッサム
【0076】
皮膚感染症を引き起こす真菌
1.カンジダ、アスペルギルス、ムコール(Mucor)
【表12-1】
【表12-2】
【表12-3】
【表12-4】
【0077】
フルコナゾール耐性種:ミクロスポルム・ジプセウム、トリコフィトン・メンタグロフィテス、トリコフィトン・ルブラム、ペニシリウム・マルネフェイ、スポロスリックス・シェンキー、スキタリジウム・ジミダタム、フィアロフォラ・ベルコーサ、クラドフィアロフォラ・バンティアナ、アルテルナリア属、クルブラリア属、アポフィソマイセス・エレガンス、ムコール属、アブシディア・コリンビフェラ、リゾプス・アルヒズス、R.プシルス、シェードアレシェリア・ボイディ、フサリウム属、アスペルスギルス・フラバス、A.フミガーツス、A.オリゼ、ペシロマイセス属。
【0078】
フルコナゾール変異種:カンジダ・アルビカンス、クリプトコッカス・ネオフォルマンス。
【0079】
ボリコナゾール耐性種:ムコール属。
【0080】
ボリコナゾール変異種:スポロスリックス・シェンキー、アブシディア・コリムビフェラ、リゾプス・アルヒザス、R.プシルス、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、カン
ジダ・アルビカンス、ペシロマイセス属。
【0081】
イトラコナゾール耐性種:トリコフィトン・ルブラム、クルブラリア属、フサリウム属、アブシディア・コリムビフェラ、ムコール属、アポフィソマイセス・エレガンス、クルブラリア属、リゾプス・アルヒザス、R.プシルス、フィアロフォラ・ベルコーサ、スキタリジウム・ジミダタム。
【0082】
イトラコナゾール変異種:スポロスリックス・シェンキー、アスペルスギルス・フラバス、A.フミガーツス、カンジダ・アルビカンス、ペシロマイセス属。
【0083】
ナノソーム化アンホテリシンB変異種:ペシロマイセス属。
【0084】
(例5)
超音波処理前及び後のTEM及び凍結割断法SEM
脂質:薬物の比率の粒子数/mlに及ぼす影響、超音波処理の粒子数/mlに及ぼす影響
ナノソームの試料は、様々な形態及び20nmからマイクロメートルスケールの範囲の様々な直径の粒子を持つ、非常に不均質な標本を示した。超音波処理を行わなかった試料と比べて、超音波処理を行った試料において、20から200nmのより小さな直径の単層ラメラのナノソームは、はるかに多く認められた。それは、超音波処理が、超音波処理を行わなかった試料に認められた大きな多層ラメラの粒子を効果的に分解させて、小さな単層ラメラのナノソームにしているように見える。それにもかかわらず、いくつかの大きな多層ラメラの粒子が超音波処理を行った試料においてなお観察され、これらの粒子は、超音波処理を行わなかった試料中の大きな多層ラメラの粒子と比べて、より分離されていた。超音波処理の延長によって大きな粒子がより完全に分解する可能性がある。
【0085】
超音波処理を行わなかった試料の比較又は超音波処理を行った試料の比較のいずれによっても、古い試料と新鮮な試料との間に目に見える明らかな違いはなかった。それゆえ、
図1及び2に示すように、これらの試料は、調査期間(2年)にわたり安定していると思われる。
【0086】
(例6)
コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBの生理食塩液懸濁液の眼科用局所使用
生理食塩液中コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBを、眼において局所的にも調べ、安全で効果があることが分かる。アスペルスギルス・フミガーツスの角膜炎モデルを、異なる濃度のナノソーム化アンホテリシンB及び従来のアンホテリシンB並びに未治療の対照で治療した。結果は、生理食塩液中コレステロール含有ナノソーム化アンホテリシンBの濃度が半分であっても、従来のアンホテリシンBのフル濃度と同様に有効であることを示している。
【0087】
ウサギにおける実験用真菌性角膜炎の治療の期間における生理食塩液中のコレステロール含有のナノソーム化アンホテリシンB製剤の有効性及び毒性の評価
【0088】
目的
a.実験用ウサギモデルにおいて誘発させた真菌性角膜炎の治療における局所的ナノソーム化アンホテリシンBの有効性を評価すること。
b.0.1%及び0.05%の濃度のナノソーム化アンホテリシンBの有効性を0.1%の濃度の従来のアンホテリシンBと比較すること。
c.ウサギにおけるナノソーム化アンホテリシンBを使用した処置による、眼のあらゆる毒性を評価し、その毒性を0.1%濃度のアンホテリシンBの局所適用による毒性と比較すること。
【0089】
方法
対象:ニュージーランド白ウサギ72匹
真菌分離株:アスペルスギルス・フミガーツス(ATCC13073)、カンジダ・アルビカンス、フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)
【0090】
アスペルスギルス・フミガーツス及びフサリウム・ソラニを、ポテトデキストロース寒天斜面培地において30℃で3〜10日間増殖した。培養物を滅菌した綿棒でそっと塗って分生子の懸濁液を調製し、これを15ml円錐管に入れた滅菌した生理食塩液3〜4mlに移した。分生子の最終の濃度は10
6分生子/mlが得られるように調節した。カンジダ・アルビカンスを、ポテトデキストロース寒天プレートで24時間、35℃で増殖した。直径1mm超のコロニーを5個採取し、滅菌した15ml円錐管内で、5mlの0.85%滅菌生理食塩液中に懸濁させた。この懸濁液をボルテックスし血球計数板を用いて細胞数を数えた。酵母菌細胞の作用懸濁液を滅菌生理食塩液中で調製し10
6CFU/mlの最終濃度を得た。
【0091】
角膜炎の誘発及び治療
合計72匹のウサギを試験に使用し、そのうち60匹のウサギをアスペルスギルス・フミガーツスの種菌に感染させ、うち22匹のウサギをコンタクトレンズモデルを使用して感染させ、38匹に基質内の技術を使用して感染させた。ウサギ8匹をカンジダ・アルビカンスの臨床分離株に感染させた(基質内の接種によって、ウサギ4匹に10
8酵母菌/ml及び2匹に10
9細胞/mlを感染させ、2匹にコンタクレンズモデルを使用することにより10
9細胞/mlを感染させた)。ウサギ4匹に種菌の用量(10
6胞子/ml)を有するフサリウム・ソラニの臨床分離株を基質内の技術によって感染させた。
【0092】
コンタクトレンズを使用した角膜炎の誘発:ウサギにケタミン及びキシラジンの筋肉内投与で麻酔をかけた。角膜の麻酔は局所用プロパラカイン0.5%を使用してかけた。右眼の瞬膜を鋭い切開で切除した。99%イソプロピルアルコール(メルク社、米国)で湿らせた7mm濾紙ディスクを角膜の中心に30秒間載せ、角膜の上皮を、組織を傷つけずに取り出した。眼を乳酸ナトリウム溶液ですすぎ、残った微量のイソプロピルアルコールを全部取り出した。角膜の中心に摩損の格子図形をつけた。真菌の種菌を、ラージボアピペットの先端を使って露出させた角膜に移し、種菌を、滅菌したコンタクトレンズ(直径14.0mm)(Pure Vision、ボッシュ&ロム社、アイルランド)を載せることによって角膜内に保持した。コンタクレンズが押し出されないように、5−0絹縫合糸を使用して瞼板縫合術を施し、瞼を閉じた。48時間後にコンタクトレンズを取り除いて眼を調べ、その後48時間ごとに調べた。これらのウサギのそれぞれの角膜ボタンを得て、微生物検査及び組織病理検査にかけた。
【0093】
種菌の基質内注射による角膜炎の誘発:ウサギにケタミン及びキシラジンの筋肉内投与で麻酔をかけた。角膜は局所用プロパラカイン0.5%を使用して麻酔をかけた。20リットルの真菌の種菌(10
6胞子/1ml)を、細隙灯の誘導下、30Gインスリン屈曲注射針を使って基質内に注射した。角膜炎の兆候がないか2日おきにウサギを調べた。
【0094】
抗真菌剤の評価:種菌の基質内注射モデルに関して持続感染症が認められたので、このモデルに対して治療試験を実施した。治療はウサギを4匹のウサギをそれぞれ含む4つの群に無作為に分けた。
アスペルスギルス・フミガーツス接種群は、
(1)0.1%ナノソーム化アンホテリシンB投与群
(2)0.1%従来のアンホテリシンB投与群
(3)0.05%ナノソーム化アンホテリシンB投与群
(4)滅菌した標準生理食塩液の点滴注入(未治療対照)群であった。
【0095】
治療の前と後の感染を、細隙灯顕微鏡を使用して決定した様々な臨床的兆候に対し複合点数をつけて等級分けを行った。臨床的点数をそれぞれの群ごとに集計し、それらの平均値を出した。
結果
コンタクトレンズモデル:真菌性角膜炎の初期の標準化において、使用したウサギ22匹のうち、ウサギ8匹をコンタクトレンズモデルによって、アスペルスギルス・フミガーツスの胞子の懸濁液のみを含有する種菌に感染させた。しかし、このことは、感染症の臨床的又は微生物学的証拠をなんら与えなかった(塗抹標本及び培養物の両方とも陰性であった(表1))。続いて、ウサギ14匹に胞子及び菌糸体の混合物を感染させたが、これにより表1に示すようにウサギに持続感染症を与えた。臨床的な持続感染症があったが、感染症の重症度は5日間を過ぎた後に低下した。したがって、5日目に治療を開始することができなかった。それゆえ、基質内注射モデルを続いての実験に採用し、抗真菌剤による治療を感染の5日目に開始した。
【0096】
【表13】
【0097】
基質内モデルを使用した抗真菌治療の評価:未処置のウサギは、15日目に平均点数16.1±4.1SDであった。しかしながら、0.1%ナノソーム化アンホテリシンBで処置したウサギは平均点数8.6±2.37SDであり、これは未処置群と比較すると統計学的に有意(p<0.001)であった。同様に、0.05%ナノソーム化アンホテリシンB及び従来の0.1%アンホテリシンBで処置した群は、それぞれ平均点数8.8±2.37SD及び平均点数8.4±2.0SDであった。
【0098】
ウサギにすべての3種類の薬物で処置したとき、未治療の群と比較して、治癒に著しい違いがあり、統計学的にも有意であった(p<0.001)。しかしながら、アスペルスギルスによる角膜炎に対して、0.05%ナノソーム化製剤の臨床的な複合点数は、従来の0.1%薬物とほぼ同じである。
【0099】
【表14】
【0100】
(例7)
革新的に設計された「リン脂質−コレステロールナノソーム介在アンホテリシンBの経皮送達」の実験的証拠
皮膚中に吸収されないことが周知であるアンホテリシンBは、有効な局所用製剤の開発を制限されてきたが、このことは、本発明により、アンホテリシンBを導入されたコレステロール/リン脂質のナノソームに封入することによって克服された。ナノソームに封入されたアンホテリシンBの透過及び経皮送達は、コレステロール−リン脂質のナノソーム固有の利点、すなわちリン脂質と細胞間脂質の相互作用、脂質に連結した水分の存在並びに所望のアンホテリシンBの分子の溶解性及び分割などの物理化学的特性の改変とみなすことができる。さらに、観察されたように、革新された製剤におけるナノソーム化アンホテリシンBの局所適用における、アンホテリシンBの実現された皮膚内の保持は、薬物−受容体の相互作用の改善並びにアンホテリシンBの持続的作用にとって最も求められてきた挙動の1つである。
【0101】
結果は、皮膚透過の挙動の調査及び蛍光標識写真解析の後で得られたが、従来の調製をしたアンホテリシンBクリームに対するナノソーム化アンホテリシンB製剤の優位性を充分に示すものである。このことは、アンホテリシンBの経皮局所送達のための、ナノソーム化アンホテリシンBの新規性の基礎をなすものである。
【0102】
目的
透過試験用の適当な試験培地の、従来のアンホテリシンBクリーム開発との比較によって、生理食塩液中のコレステロール含有ナノソームの製剤のアンホテリシンBの経皮送達に及ぼす影響を調べること
解析のための方法の開発及びバリデーション
フランツ型拡散セルを使用したin vitroの透過試験
薬物−皮膚の保持力の決定
薬物輸送の監視(蛍光標識試験)
【0103】
アンホテリシンBはBCS分類IVの薬物に分類され、それゆえ皮膚を含むあらゆる生体バリアの透過が難しい。含まれる様々な理由は次の通りである。
【0104】
薬物固有の問題
溶解性
分割
皮膚固有の問題(硬い角質ケラチンバリア)
薬物−皮膚の相互作用
薬物及び皮膚の物理化学的特性の違いによる不適正な相互作用
【0105】
これまで局所適用を有用なものにしようと試みたが、アンホテリシンBの嵩張った分子を皮膚を介して吸収することは困難である。その結果、これまでこの目標の実現に成功したものはいなかった。根本的な分子の問題はその物理化学的特性並びに皮膚バリアである。このことは、局所送達におけるナノソーム化システムの可能性を探求する論理的根拠を提供するものである。本明細書において、その仮説は、水−類脂質性の小胞状の環境条件中の薬物であれば、皮膚の層中に深く移動するために、順調に相互作用する一連の様々な物理化学的特性を獲得することになるという原理に基づいている。小胞内の水分は、従来のシステムに対して、改善された薬物運搬において、脂質−分子とともに重要な役割を果たすものである。これに加えて、リン脂質と皮膚脂質の統合は、改善された送達のため導電性の環境を構築することを助ける。
【0106】
方法
拡散及び保持試験−様々な担体システムを使用したアンホテリシンBの皮膚透過を、フランツ型拡散セルを使用して試験した。拡散セル及び受容体セルの有効な透過の面積は、3.14cm
2であり、各細胞の体積は10ml及び30mlであった。受容体の流体の温度は32±1℃に維持した。受容体の区画は、シンク条件を容易にするため、蒸留水中にBriz−35(5%)+ドキュセートナトリウム(DOS)(1%)を含有した。
【0107】
雄Lacaマウス(4から6週齢)の腹部の皮膚を、毛を剃り皮膚を脱脂した後、ドナー及びレセプター区画の間に載せた。358.5μgと同等の製剤(ナノソーム化/従来のクリーム)を、皮膚をシンク培地で2時間平衡化させた後、ドナー区画に塗布した。試料(1ml)を、レセプター区画の試料ポートから所定の間隔で引き出して、置換し、適当に希釈をした後、UV分光光度計による分析を行った。
【0108】
蛍光標識移動試験−アンホテリシンBの内在する蛍光特性を利用して薬物の時間経過にともなう移動及び局在化を可視化した。試験の前日に脱毛クリームを用いてLacaマウスの毛を剃った。所定の間隔で、マウスを人道的に屠殺し、皮膚をすぐにPBS pH7.4で洗浄し、低温顕微鏡薄切片化されるまで20℃の10%ホルマリンに保存した。切片をF2フィルター付き顕微鏡のもと視察した。
【0109】
観察結果
希釈及び保持の試験−一連の溶媒系を試みた後、最終的にBriz−35(5%)+ドキュセートナトリウム(1%)を含む系をシンク培地として選択した。試験の目的は、皮膚層中へ、皮膚層における及び皮膚層の通過における、それぞれの薬物の透過、保持、透過を評価することであった。主な観察結果は、従来のクリーム(0.142±0.05)に対して、ナノソームを塗布した後では、皮膚層内で相当な薬物の保持がある(すなわち1.291±0.04)ことである。しかしながら、透過に関しては、アンホテリシンB薬物は、皮膚層を透過できず(ナノソーム化システム及び従来のシステムの両方の場合において)、
図3に示すように有意ではない。
【0110】
図3.(a)0.5時間目に従来のアンホテリシンBクリーム、(b)1.0時間目に従来のアンホテリシンBクリーム、(c)2.0時間目に従来のアンホテリシンBクリーム、(d)0.5時間目にナノソーム化アンホテリシンB製剤、(e)1.0時間目にナノソーム化アンホテリシンB製剤、(f)2.0時間目にナノソーム化アンホテリシンB
製剤を塗布した後の皮膚の蛍光横断図。
【0111】
【表15】
【0112】
蛍光標識移動試験−薬物の皮膚層への透過を監視するための蛍光標識試験(従来の製剤及びナノソーム化製剤を塗布後)を
図1に示した。試験は、異なる時間間隔、すなわち0.5、1.0、2.0時間目における監視を含む。試験ではこれらの間隔において相当な違いがあることが分かった。最も顕著な違いがあったのは試験の2時間後であった。
【0113】
透過挙動試験(フランツ型拡散セル)及び透過試験(蛍光標識皮膚−組織学試験)の結果は、ナノソーム化小胞がアンホテリシンBの送達を改善させる能力を指摘するものである。薬物保持データ並びに2時間の皮膚−組織検査の写真が示すように、ナノソームに含有されたアンホテリシンBは、従来の薬物製剤に比べて、相当な透過能力がある。ナノソーム化アンホテリシンB並びに従来の薬物製剤の透過が劣ることは、この薬物が皮膚層を通過せず、それゆえ経皮薬物であるアンホテリシンBの送達に適さないことを示すものである。これまで、ナノソーム中のアンホテリシンBは、経皮内送達にとって高い可能性を示してきた。透過が悪くても、そのことが全身へのアンホテリシンBの吸収を妨げることになるので、それも利点として役立つことになる。