特許第5920900号(P5920900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンツトキン,オレク エヌ.の特許一覧 ▶ シャー,ファイズ ウラアの特許一覧 ▶ グラヴァトスキフ,セルゲイの特許一覧

特許5920900イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤
<>
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000029
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000030
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000031
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000032
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000033
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000034
  • 特許5920900-イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤 図000035
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920900
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】イオンを含んでなるイオン液体をベースとする潤滑剤および潤滑添加剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/78 20060101AFI20160428BHJP
   C10M 105/74 20060101ALI20160428BHJP
   C10M 105/62 20060101ALI20160428BHJP
   C10M 105/70 20060101ALI20160428BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160428BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20160428BHJP
【FI】
   C10M105/78
   C10M105/74
   C10M105/62
   C10M105/70
   C10N30:06
   C10N40:25
【請求項の数】20
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-501041(P2014-501041)
(86)(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公表番号】特表2014-508847(P2014-508847A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】SE2012050317
(87)【国際公開番号】WO2012128714
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年2月20日
(31)【優先権主張番号】1150255-6
(32)【優先日】2011年3月22日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】513235821
【氏名又は名称】アンツトキン,オレク エヌ.
【氏名又は名称原語表記】ANTZUTKIN,Oleg N.
(73)【特許権者】
【識別番号】513235832
【氏名又は名称】シャー,ファイズ ウラア
【氏名又は名称原語表記】SHAH,Faiz Ullah
(73)【特許権者】
【識別番号】513235843
【氏名又は名称】グラヴァトスキフ,セルゲイ
【氏名又は名称原語表記】GLAVATSKIKH,Sergei
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】アンツトキン,オレク エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】シャー,ファイズ ウラア
(72)【発明者】
【氏名】グラヴァトスキフ,セルゲイ
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−074947(JP,A)
【文献】 特開2001−220393(JP,A)
【文献】 特開2002−187893(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0007693(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0234966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)マンデラトボレートアニオン、サリチラトボレートアニオン、オキサラトオキサラトボレートアニオン、マロナトボレートアニオン、スクシナトボレートアニオン、グルタラトボレートアニオンおよびアジパトボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも1種のアニオンと、
b)テトラアルキルホスホニウムカチオン、コリンカチオン、イミダゾリウムカチオンおよびピロリジニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のカチオンと
を含んでなる潤滑剤成分において、前記少なくとも1種のカチオンが、一般式CnH2n+1(式中、1≦n≦80)を有する少なくとも1個のアルキル置換基を有することを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤成分において、1≦n≦60であることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項3】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記アニオンが、ビス(マンデラト)ボレートアニオン、ビス(サリチラト)ボレートアニオンおよびビス(マロナト)ボレートアニオンからなる群から選択され、前記カチオンがテトラアルキルホスホニウムカチオンであることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項4】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記アニオンがビス(オキサラト)ボレートであり、前記カチオンがテトラアルキルホスホニウムカチオンであることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項5】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記アニオンがビス(スクシナト)ボレートアニオンであり、前記カチオンがテトラアルキルホスホニウムカチオンであることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項6】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記アニオンが、ビス(グルタラト)ボレートアニオンおよびビス(アジパト)ボレートアニオンからなる群から選択され、前記カチオンがテトラアルキルホスホニウムカチオンであることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の潤滑剤成分において、前記唯一のカチオンが、一般式PR’R3+(式中、R’およびRはCnH2n+1である)を有するテトラアルキルホスホニウムであることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項8】
請求項7に記載の潤滑剤成分において、R’がC8H17およびC14H29からなる群から選択され、RがC4H9およびC6H13からなる群から選択されることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項9】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記潤滑剤成分が、トリブチルオクチルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート、トリブチルオクチルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート、コリンビス(サリチラト)ボレート、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(サリチラト)ボレート、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(マンデラト)ボレート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(マンデラト)ボレート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(サリチラト)ボレート、1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH2ビス(マンデラト)ボレート、1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH2ビス(マンデラト)ボレート、1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH2ビス(サリチラト)ボレートおよび1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH2ビス(サリチラト)ボレートからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項10】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記潤滑剤成分が、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレートを含んでなることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項11】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記潤滑剤成分が、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレートを含んでなることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項12】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記潤滑剤成分が、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレートを含んでなることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項13】
請求項1または2に記載の潤滑剤成分において、前記潤滑剤成分が、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレートを含んでなることを特徴とする潤滑剤成分。
【請求項14】
0.05〜100重量%の請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分を含んでなることを特徴とする潤滑剤。
【請求項15】
0.05〜20重量%の請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分を含んでなることを特徴とする潤滑剤。
【請求項16】
0.1〜5重量%の請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分を含んでなることを特徴とする潤滑剤。
【請求項17】
0.5〜5重量%の請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分を含んでなることを特徴とする潤滑剤。
【請求項18】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分の使用において、摩耗低減および摩擦低減から選択される少なくとも1つを目的とすることを特徴とする使用。
【請求項19】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分を含む潤滑剤の使用を含んでなることを特徴とする摩擦を低減する方法。
【請求項20】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の潤滑剤成分を含む潤滑剤の使用を含んでなることを特徴とする摩耗を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択されたイオン液体を含んでなる耐摩耗および摩擦低減潤滑剤成分、ならびに上記潤滑剤成分を含んでなる潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
不適切な潤滑は高い摩擦および摩耗損失をもたすことがあり、これは続いて、燃費、エンジンの耐久性、環境および人の健康に悪影響を及ぼすおそれがある。軽量非鉄材料、有害性のより低い燃料、制御された燃料燃焼プロセスまたはより効率的な排ガス後処理の使用などの新しい技術的解決策を開発することは、機械の経済的および環境的影響を低減させるために可能な方法である。商業的に入手可能な潤滑剤は、今のところ、軽量非鉄材料には不適切である。
【0003】
イオン液体(IL)は、純粋にイオン性の塩様物質であり、通常、低温(100℃未満)で液体である。0℃未満の融点を有するILもある。ILは、触媒、液晶、有機合成におけるグリーン溶媒、金属イオンの分離、電気化学、光化学、CO貯蔵デバイスなどの多様な用途がすでに見出されている。ILには、揮発性が無視できる程度である、可燃性が無視できる程度である、熱および化学安定性が高い、融点が低い、ならびに有機化合物および基油との混和性が制御可能であるなどの多くの魅力的な特性がある。最近、ILが、様々な滑り対偶のための基油およびグリースにおいて用途の広い潤滑剤および潤滑剤成分として作用することが可能であることがわかった。米国特許第3,239,463号明細書、米国特許出願公開第2010/0227783A1号明細書、米国特許出願公開第2010/0187481A1号明細書、米国特許第7,754,664B2号明細書(2010年7月13日)、米国特許出願公開第2010/0105586A1号明細書を参照のこと。それらの分子構造および電荷のため、ILは摩擦対の滑り面に容易に吸収されることが可能であり、それによって、境界トライボフィルムが形成される。これによって、低負荷および高負荷における摩擦および摩耗の両方が低減する。
【0004】
カチオンの選択は、ILの特性に影響を及ぼし、そして常にではないが、しばしばそれらの安定性を決定する。ILの官能性は、一般に、カチオンおよびアニオンの両方の選択によって制御される。広範囲の既知のカチオンおよびアニオンの様々な組み合わせによって、1018の数が導かれることが理論的に可能である。現在、約1000のみのILが文献に記載されており、そしてそれらのうちの約300が商業的に入手可能である。カチオンイミダゾリウム、アンモニウムおよびホスホニウムならびにハロゲン含有アニオン、テトラフルオロボレートおよびヘキサフルオロホスフェートを有するILがトライボロジー研究において最も一般に使用されている。アルキルイミダゾリウムテトラフルオロボレートおよびヘキサフルオロホスフェートは、様々な接触のための基油として有望な潤滑特性を示す。しかしながら、それらの構造にハロゲン原子、例えば、テトラフルオロボレートおよび/またはヘキサフルオロホスフェートを有するILのいくつかは非常に反応性であるため、鉄および非鉄との接触時にトライボ腐食(tribocorrosion)のリスクが増加し得る。
【0005】
イミダゾリウムおよび他のBFアニオンを有するIL:文献調査によると、過去10年間で様々な鉄および非鉄トライボロジー接触に良好に利用されるIL潤滑剤のほとんどが、ホウ素をベースとするアニオン、テトラフルオロボレート[BFをベースとすることが示されている[Ye,C.,Liu,W.,Chen,Y.,Yu,L.:Room−temperature ionic liquids:a novel versatile lubricant.Chem. Commun.2244−2245(2001).Liu,W.,Ye,C.,Gong,Q.,Wang,H.,Wang,P.:Tribological performance of room−temperature ionic liquids as lubricant.Tribol.Lett.13(2002)81−85.Chen,Y.X.,Ye,C.F.,Wang,H.Z.,Liu,W.M.:Tribological performance of an ionic liquid as a lubricant for steel/aluminium contacts.J.Synth.Lubri.20(2003)217−225.Jimenez,A.E.,Bermudez,M.D.,Iglesias,P.,Carrion,F.J.,Martinez−Nicolas,G.:1−N−alkyl−3−methylimidazolium ionic liquids as neat lubricants and lubricant components in steel aluminum contacts.Wear 260(2006)766−782.Yu,G.,Zhou,F.,Liu,W.,Liang,Y.,Yan,S.:Preparation of functional ionic liquids and tribological investigation of their ultra−thin films.Wear 260(2006)1076−1080.]。
【0006】
Zhangらは、BFアニオンを有するニトリル官能化ILが、NTfおよびN(CN)アニオンを有するILよりも鋼鉄−鋼鉄および鋼鉄−アルミニウム接触において著しく良好なトライボロジー性能を有することを報告している[Q.Zhang,Z.Li,J.Zhang,S.Zhang,L.Zhu,J.Yang,X.Zhang,Y.J.Deng.Physicochemical properties of nitrile−functionalized ionic liquids.J.Phys.Chem.B,2007,111,2864−2872]。BFアニオンが優れたトライボロジー性能を有することが示唆されているが、残念ながら、詳細な機構については記載されていない。
【0007】
小型けん引機(MTM)を使用しての、鉄鋼−鉄鋼の回転−滑り接触におけるBFおよびPFアニオンをベースとするイミダゾリウムILのフィルム形成特性の比較によって、BFアニオンはより厚いトライボフィルムを生じ、PF(μ=0.03)と比較して、より低い摩擦(μ=0.01)をもたらすことが明らかとなった[H.Arora,P.M.Cann.Lubricant film formation properties of alkyl imidazolium tetrafluoroborate and hexafluorophosphate ionic liquids.Tribol.Int.43(2010)1908−1916.]。チタン−鉄鋼接触における同族のILでは、BFアニオンをベースとするILは室温より高い温度では不合格であるが、PFアニオンをベースとするILは200℃まで良好に機能することが示された[A.E.Jimenez,M.D.Bermudez.Ionic liquids as lubricants of titanium−steel contact.part 2:friction,wear and surface interactions at high temperature.Tribol.Lett.37(2010)431−443.]。鉄鋼−アルミニウム接触においては、BFアニオンをベースとするホスホニウムILは、PFアニオンを有する従来のイミダゾリウムILと比較して、摩擦低減、耐摩耗および負荷容量を含むより優れたトライボロジー特性を示した[X.Liu,F.Zhou,Y.Liang,W.Liu.Tribological performance of phosphonium based ionic liquids for an aluminum−on−steel system and opinions on lubrication mechanism.Wear 261(2006)1174−1179.]。同様に、BFアニオンを有するホスホニウムILは、イミダゾリウム−PFならびにX−IPおよびペルフルオロポリエーテルPFPEなどの従来の高温潤滑剤と比較して、鉄鋼−鉄鋼接触において、20℃および100℃で優れたトライボロジー性能を示した[L.Wenga,X.Liu,Y.Liang,Q.Xue.Effect of tetraalkylphosphonium based ionic liquids as lubricants on the tribological performance of a steel−on−steel system.Tribol.Lett.26(2007)11−17.]。
【0008】
しかしながら、水分に対する[BFアニオンの感応性のため、そのようなILはトライボロジーおよび他の工業用途において望ましくないものとなっている。過去数年間、研究者によって、性能が改善された、加水分解安定性のハロゲンを含まないホウ素をベースとするILを設計および合成する努力がなされてきた。
【0009】
ハロゲン化アニオンを有するピロリジニウムIL:[BFアニオンを有するピロリジニウムILの潤滑特性はまだ報告されていない。しかしながら、他のハロゲン化アニオンを有するピロリジニウムILは、様々なトライボロジー用途のための優れた潤滑剤および潤滑剤成分として文献に報告されている。最近、ハロゲン化アニオンを有するピロリジニウムILによって、微小電気機械システム(MEMS)における優れた潤滑性能が示された[J.J.Nainaparampil,K.C.Eapen,J.H.Sanders,A.A.Voevodin.Ionic−Liquid Lubrication of Sliding MEMS Contacts:Comparison of AFM Liquid Cell and Device−Level Tests.J.Microelectromechanical Systems 16(2007)836−843]。
【0010】
1−ブチル−1−メチルピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートは、TiN、CrNおよびDLCなどの非鉄接触界面における有望な潤滑特性を有することが知られている[R.Gonzalez,A.H.Battez,D.Blanco,J.L.Viesca,A.Fernandez−Gonzalez.Lubrication of TiN,CrN and DLC PVD coatings with 1−Butyl−1−Methylpyrrolidinium tris(pentafluoroethyl)trifluorophosphate.Tribol.Lett.40(2010)269−277.]。
【0011】
ハロゲン化アニオンを有するコリニウムIL:コリンは、ホスファチジルコリン(リポソーム)の形態の生体分子であり、滑液表面活性リン脂質の主要成分であり、これはヒトの軟骨潤滑剤のための天然添加剤である[G.Verberne,A.Schroeder,G.Halperin,Y.Barenholz,I.Etsion,Liposomes as potential biolubricant components for wear reduction in human synovial joints.Wear 268(2010)1037−1042.]。これらの分子は、ヒト滑膜関節の摩擦および摩耗低減のための有効な生体潤滑剤において広範囲に使用されている[S.Sivan,A.Schroeder,G.Verberne,Y.Merkher,D.Diminsky,A.Priev,A.Maroudas,G.Halperin,D.Nitzan,I.Etsion,Y.Barenholz.Liposomes act as effective biolubricants for friction reduction in human synovial joints.Langmuir 26(2010)1107−1116.]。
【0012】
コリニウムIL、塩化コリンは、最近、鉄鋼−鉄鋼接触における優れた摩擦低減性能を示し、これは、完全に調合されたエンジンオイル(SAE 5W30グレード)に匹敵した[S.D.A.Lawes,S.V.Hainsworth,P.Blake,K.S.Ryder,A.P.Abbott.Lubrication of steel/steel contacts by choline chloride ionic liquids.Tribol.Lett.37(2010)103−110.]。これらのILは、グリーン潤滑剤と考えられ、優れた腐食抑制特性を有することが知られている[C.Gabler,C.Tomastik,J.Brenner,L.Pisarova,N.Doerr,G.Allmaier.Corrosion properties of ammonium based ionic liquids evaluated by SEM−EDX,XPS and ICP−OES.Green Chem.13(2011)2869−2877.]。
【0013】
米国特許出願公開第2009/0163394号明細書には、多くのイオン液体、例えば、メチル−n−ブチルビス(ジエチルアミノ)−ホスホニウムビス(オキサラト)ボレートが開示されている。上記特許出願公開には単に、イオン液体の一般用途としての潤滑油が記載されている。開示された化合物の1つの欠点は、記載されたホスホニウムベースのイオン液体のカチオン中の直接P−N結合が加水分解に感応的であり、このことは、微量の水の存在を避けることのできない商用の潤滑剤のほとんどを含む多くの重要な用途において重大である。P−N結合を有する化合物は加水分解に非常に感応的であり、加水分解して反応種を生じ得る。したがって、1つまたはそれ以上のP−N化学結合を有するホスホニウムカチオンは、潤滑剤中の微量の水の存在下で加水分解する傾向があるであろう。水との接触下の潤滑剤の安定性は非常に重要な技術的特徴である。
【0014】
トライボロジー用途において最も広く研究されているイオン液体は、通常、テトラフルオロボレート(BF)およびヘキサフルオロホスフェート(PF)アニオンを含有する。おそらく、その理由は、ホウ素およびリン原子の両方が、界面において高圧および高温下で優れたトライボロジー特性を示すことである。しかしながら、BFおよびPFアニオンは、高い極性を有し、系において水を吸収する。これらのアニオンは水分に非常に感応的であり、加水分解して、中でもフッ化水素を生じ得る。これらの生成物は、様々なトライボ化学反応によって腐食を引き起こし、それによって機械システム中の基板に損傷が引き起こされるおそれがある。加えて、ハロゲン含有ILは、周囲環境に毒性かつ腐食性のハロゲン化水素を放出し得る。
【0015】
潤滑目的に関して既知のイオン液体の主要な欠点の一つは、ハロゲンのため、例えば環境的観点から望ましくないものとなることである。いくつかの現在使用されているイオン液体、特に親水性イオン液体に関して、さらなる腐食も課題であり得る。
【0016】
したがって、疎水性でハロゲンを含まないアニオンを含有する新規ILの開発が非常に望まれている。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的の一つは、従来技術における不利益の少なくともいくつかを防ぐことであり、改良された潤滑剤成分ならびに上記成分を含んでなる潤滑剤を提供することである。
【0018】
第1の態様において、a)マンデラトボレートアニオン、サリチラトボレートアニオン、オキサラトボレートアニオン、マロナトボレートアニオン、スクシナトボレートアニオン、グルタラトボレートアニオンおよびアジパトボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも1種のアニオンと、b)テトラアルキルホスホニウムカチオン、コリンカチオン、イミダゾリウムカチオンおよびピロリジニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種のカチオンとを含んでなる潤滑剤成分において、上記少なくとも1種のカチオンが、一般式C2n+1(式中、1≦n≦80)を有する少なくとも1個のアルキル置換基を有することを特徴とする潤滑剤成分が提供される。
【0019】
一実施形態において、1≦n≦60である。
【0020】
一実施形態において、アニオンは、ビス(マンデラト)ボレートアニオン、ビス(サリチラトボレート)アニオンおよびビス(マロナト)ボレートアニオンからなる群から選択され、カチオンはテトラアルキルホスホニウムカチオンである。
【0021】
一実施形態において、アニオンはビス(オキサラト)ボレートであり、カチオンはテトラアルキルホスホニウムカチオンである。
【0022】
一実施形態において、アニオンはビス(スクシナト)ボレートアニオンであり、カチオンはテトラアルキルホスホニウムカチオンである。
【0023】
一実施形態において、アニオンは、ビス(グルタラト)ボレートアニオンおよびビス(アジパト)ボレートアニオンからなる群から選択され、カチオンはテトラアルキルホスホニウムカチオンである。
【0024】
一実施形態において、唯一のカチオンが、一般式PR’R(式中、R’およびRはC2n+1である)を有するテトラアルキルホスホニウムである。
【0025】
一実施形態において、R’はC17およびC1429からなる群から選択され、RはCおよびC13からなる群から選択される。
【0026】
一実施形態において、潤滑剤成分は、トリブチルオクチルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート、トリブチルオクチルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート、トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート、コリンビス(サリチラト)ボレート、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(サリチラト)ボレート、N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(マンデラト)ボレート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(マンデラト)ボレート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(サリチラト)ボレート、1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(マンデラト)ボレート、1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(マンデラト)ボレート、1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(サリチラト)ボレートおよび1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(サリチラト)ボレートからなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる。
【0027】
一実施形態において、潤滑剤成分は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレートを含んでなる。
【0028】
一実施形態において、潤滑剤成分は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレートを含んでなる。
【0029】
一実施形態において、潤滑剤成分は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレートを含んでなる。
【0030】
一実施形態において、潤滑剤成分は、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレートを含んでなる。
【0031】
第2の態様において、0.05〜100重量%の本明細書に記載の潤滑剤成分を含んでなる潤滑剤が提供される。潤滑剤成分は、純粋な形態で、および他の潤滑剤への添加剤としての両方で使用可能である。潤滑剤成分が純粋な形態で使用される場合、潤滑剤成分自体が単一の潤滑剤である。
【0032】
一実施形態において、潤滑剤は、0.05〜20重量%の本明細書に記載の潤滑剤成分を含んでなる。一実施形態において、潤滑剤は、0.1〜5重量%の潤滑剤成分を含んでなる。一実施形態において、潤滑剤は、0.5〜5重量%の潤滑剤成分を含んでなる。
【0033】
第3の態様において、摩耗低減および摩擦低減から選択される少なくとも1つのための、本明細書に記載の潤滑剤成分の使用が提供される。
【0034】
第4の態様において、本明細書に記載の潤滑剤成分を有する潤滑剤の使用を含んでなる摩擦低減のための方法が提供される。
【0035】
本明細書に記載の潤滑剤成分を有する潤滑剤の使用を含んでなる摩耗低減のための方法も提供される。
【発明の効果】
【0036】
本発明の利点としては、BF、PFおよびハロゲン含有イオンを、より疎水性かつハロゲンを含まないアニオンと置き換えることによって、腐食および毒性を防ぐであろうことが挙げられる。
【0037】
これらの新規のハロゲンを含まないホウ素をベースとするアニオンを有する、ハロゲンを含まないホウ素をベースとするイオン液体(=hf−BIL)によって、潤滑剤は加水分解的に安定となる。このことは、機械利用時における潤滑剤中でのフッ化水素酸(HF)形成を防ぐ助けとなる。HFは、IL中で最も一般的に使用されるアニオン(BF)および(PF)によって生じる。HFは金属に対して非常に腐食性であるため、イオン液体からのHFの形成は、そのような潤滑剤の主要な限界の1つである。本発明による新規hf−BILにはそのような限界がない。
【0038】
(カチオンとして)イミダゾリウム、ピロリジニウムおよびコリニウムならびにハロゲンをベースとするアニオンを有するイオン液体のトライボロジー研究に基づき、本発明によるイオン液体、すなわち、(カチオンとして)テトラアルキルホスホニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウムおよびコリニウムならびにハロゲンを含まないオルトボレートアニオンを有するイオン液体は、ハロゲンを含まないという利点に加えて、良好なトライボロジー性能を有するであろうことが示唆される。これらのハロゲンを含まないオルトボレートアニオンのいくつかの例は、ビス(マンデラト)ボレート、ビス(サリチラト)ボレート、ビス(オキサラト)ボレート、ビス(マロナト)ボレート、ビス(スクシナト)ボレート、ビス(グルトラト)ボレートおよびビス(アジパト)ボレートである。オルトボレートをベースとするテトラアルキルホスホニウムイオン液体に関して、鉄鋼−アルミニウム接触に対する極めて優れた耐摩耗および摩擦低減硬化が証明されており、その「重要な」役割は、これらの技術的効果に関して、潤滑剤としてのIL中のオルトボレートアニオンである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
添付の図面を参照して、以下に本発明をより詳細に説明する。
【0040】
図1図1は、新規のハロゲンを含まないホウ素をベースとするイオンhf−BIL液体のDSCサーモグラムを示す。
図2図2は、新規のハロゲンを含まないホウ素をベースとするイオン液体(hf−BIL)の温度の関数としての密度を示す。
図3図3は、選択されたhf−BILに関する温度の関数としての粘度のアレニウスプロットを示す。
図4図4は、15W−50エンジンオイルと比較して、hf−BILによって潤滑されたAA2024アルミニウムに対する100Cr6鉄鋼に関して40N負荷時の摩耗量を示す。
図5図5は、15W−50エンジンオイルと比較して、hf−BILによって潤滑されたAA2024アルミニウムに対する100Cr6鉄鋼に関して40N負荷時の摩擦係数を示す。
図6図6は、15W−50エンジンオイルと比較して、hf−BILによって潤滑されたAA2024アルミニウムに対する100Cr6鉄鋼に関して20N負荷時の摩擦係数曲線を示す。
図7図7は、15W−50エンジンオイルと比較して、hf−BILによって潤滑されたAA2024アルミニウムに対する100Cr6鉄鋼に関して40N負荷時の摩擦係数曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
テトラアルキルホスホニウムカチオンのR、R’=C2n+1中のnに関して、より短い(直鎖および分枝鎖の両方の)アルキル鎖を有するボレートは油(特に鉱油)中で混和性が低いが、より長鎖のアルキル基(直鎖および分枝鎖の両方)は鉱油に対してより高い混和性を有することに留意する。したがって、アルキル基(n)の長さの増加によって、より均質な潤滑剤がもたらされることが予期される。しかしながら、アルキル鎖が長すぎる場合、潤滑剤中の添加剤の移動性が低下し、したがって、添加剤の耐摩耗および摩擦低減効果が低下するため、RおよびR’の長さは、潤滑剤のそれぞれ特定の油の種類および最適温度間隔に関して最適化されるはずである。したがって、nは少なくとも1であり、本発明の化合物の性能に悪影響を及ぼすことなく約80までとり得る。
【0042】
それぞれ40および60炭素原子の炭素鎖長を有するPOA40およびPOA60(Statoil)などの現在のエンジンオイルとの混和性が良好であるために、nの値は、それぞれ、40以上および60以上であるべきである。したがって、一実施形態において、n≦60である。限界n≦80は、おそらく少なくともn=80までであるなおより長いアルキル鎖を有する潤滑油の今後もたらされ得る製品によってもたらされる。
【0043】
当業者は、本記載を考慮して、通常の最適化実験を行って、テトラアルキルホスホニウム、イミダゾリウムおよびピロリジニウムカチオン中のアルキル基のnの適切な値ならびに分枝鎖または/および非分枝鎖特性を決定することができる。
【0044】
金属および非金属の両方の多数の様々な材料における摩擦低減および摩耗低減のための潤滑剤成分の使用が考えられる。非金属の例としては、限定されないが、DLC(ダイアモンド様コーティング)または/およびグラフェンをベースとするコーティングを含む/含まないセラミックが含まれる。金属の例としては、限定されないが、DLC(ダイアモンド様コーティング)または/およびグラフェンをベースとするコーティングを含む/含まない合金、鉄鋼およびアルミニウムが含まれる。
【0045】
hf−BILの新しい族を、以下の改善された手順に従って合成および精製し、そして熱特性、密度および粘度を含むそれらのトライボロジーおよび物理化学的特性の詳細な研究を実行した。トライボロジー特性は、回転ピンオンディスク試験で、AA2024アルミニウムディスク上の100Cr6鉄鋼ボールを用いて研究した。
【0046】
この新しい種類のhf−BILからの試験された全ての化合物は、完全に調合されたエンジンオイルと比較して、著しく優れた耐摩耗ならびに摩擦性能を有する。
【0047】
本発明によるハロゲンを含まないホウ素をベースとするイオン液体に関する合成スキームを以下に示す。
【実施例】
【0048】
合成
変更した文献方法を使用して、全ての新規のハロゲンを含まないホウ素をベースとするイオン液体(hf−BIL)を合成および精製した。
【0049】
実施例1:トリブチルオクチルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート([P4448][BMB])
50mLの水中の炭酸リチウム(0.369g、5mmol)およびホウ酸(0.618g、10mmol)の水溶液に、マンデル酸(3.043g、20mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、トリブチルオクチルホスホニウムクロリド(3.509g、10mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCHClで抽出した。CHCl有機層を60mLの水で3回洗浄した。CHClを減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。粘性の無色イオン液体が84%の収率(5.30g)で得られた。m/z ESI−MS(−):311.0[BMB];m/z ESI−MS(+):315.3[P4448]
【0050】
実施例2:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート([P44414][BMB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(3.043g、20mmol)のマンデル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が81%の収率(5.75g)で得られた。m/z ESI−MS(−):310.9[BMB];m/z ESI−MS(+):399.2[P44414]
【0051】
実施例3:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート([P66614][BMB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(3.043g、20mmol)のマンデル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が91%の収率(7.25g)で得られた。m/z ESI−MS(−):311.0[BMB];m/z ESI−MS(+):483.3[P66614]
【0052】
実施例4:トリブチルオクチルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート([P4448][BScB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸およびトリブチルオクチルホスホニウムクロリド(3.509g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が88%の収率(5.28g)で得られた。m/z ESI−MS(−):283.1[BScB];m/z ESI−MS(+):315.3[P4448]
【0053】
実施例5:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート([P44414][BScB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が94%の収率(6.44g)で得られた。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB];m/z ESI−MS(+):399.4[P44414]
【0054】
実施例6:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート([P66614][BScB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が95%の収率(7.30g)で得られた。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB];m/z ESI−MS(+):483.5[P66614]
【0055】
実施例7:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート([P44414][BOB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(1.80g、20mmol)のオキサル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0056】
実施例8:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート([P66614][BOB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(1.80g、20mmol)のオキサル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。m/z ESI−MS(−):[BOB];m/z ESI−MS(+):483.5[P66614]
【0057】
実施例9:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート([P44414][BMLB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.081g、20mmol)のマロン酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0058】
実施例10:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート([P66614][BMLB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.081g、20mmol)のマロン酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。m/z ESI−MS(−):[BMLB];m/z ESI−MS(+):483.5[P66614]
【0059】
実施例11:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート([P44414][BSuB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.362g、20mmol)のコハク酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0060】
実施例12:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート([P66614][BSuB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.362g、20mmol)のコハク酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0061】
実施例13:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート([P44414][BGlB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.642g、20mmol)のグルタル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0062】
実施例14:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート([P66614][BGlB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.642g、20mmol)のグルタル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0063】
実施例15:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート([P44414][BAdB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.923g、20mmol)のアジピン酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0064】
実施例16:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート([P66614][BAdB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.923g、20mmol)のアジピン酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0065】
実施例17:コリンビス(サリチラト)ボレート([Choline][BScB])
40mLの水中の炭酸リチウム(0.738g、10mmol)およびホウ酸(1.236g、20mmol)の水溶液に、サリチル酸(5.524g、40mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、コリンクロリド(2.792g、20mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCHClで抽出した。CHCl有機層を80mLの水で3回洗浄した。CHClを減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。CHClから白色固体イオン液体を再結晶化した(5.44g、収率70%)。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB];m/z ESI−MS(+):103.9[Choline]
【0066】
実施例18:N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(サリチラト)ボレート([EMPy][BScB])
40mLの水中の炭酸リチウム(0.738g、10mmol)およびホウ酸(1.236g、20mmol)の水溶液に、サリチル酸(5.524g、40mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、N−エチル−N−メチルピロリジニウムヨージド(4.822g、20mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCHClで抽出した。CHCl有機層を80mLの水で3回洗浄した。CHClを減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。CHClから白色固体イオン液体を再結晶化した(6.167g、収率78%)。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB];m/z ESI−MS(+):113.9[EMPy]
【0067】
実施例19:N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(マンデラト)ボレート([EMPy][BMB])
手順は、[EMPy][BScB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(3.043g、20mmol)のマンデル酸およびN−エチル−N−メチルピロリジニウムヨージド(2.41g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性のイオン液体が67%の収率(2.85g)で得られた。MS(ESI) [C16N]の理論値 m/z 114.2;実測値 m/z 114.1;[C1612B]の理論値 m/z 311.0;実測値 m/z 311.0。
【0068】
実施例20:1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(マンデラト)ボレート([EMIm][BMB])
50mLの水中の炭酸リチウム(0.369g、5mmol)およびホウ酸(0.618g、10mmol)の水溶液に、マンデル酸(3.043g、20mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド(2.52g、10mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の下層を80mLのCHClで抽出した。CHCl有機層を100mLの水で3回洗浄した。CHClを減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、最終生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。粘性のイオン液体が78%の収率(3.40g)で得られた。MS(ESI) [C13の理論値 m/z 125.2;実測値 m/z 125.2;[C1612B]の理論値 m/z 311.0;実測値 m/z 311.1。
【0069】
実施例21:1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(サリチラト)ボレート([EMIm][BScB])
手順は、[EMIm][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸および1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド(2.52g、10mmol)を使用して反応を開始した。白色固体生成物が83%の収率(3.38g)で得られた。MS(ESI) [C13の理論値 m/z 125.2;実測値 m/z 125.1;[C14B]の理論値 m/z 283.0;実測値 m/z 283.0。
【0070】
実施例22:1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(マンデラト)ボレート([MImN111BH][BMB])
50mLの水中の炭酸リチウム(0.369g、5mmol)およびホウ酸(0.618g、10mmol)の水溶液に、マンデル酸(3.043g、20mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、1−メチルイミダゾールトリメチルアミンBHヨージド(2.81g、10mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の下層を80mLのCHClで抽出した。CHCl有機層を100mLの水で3回洗浄した。CHClを減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、最終生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。
【0071】
実施例23:1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(マンデラト)ボレート([MMImN111BH][BMB])
手順は、[MImN111BH][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸を使用して反応を開始し、1,2−ジメチルイミダゾールトリメチルアミンBHヨージド(2.841g、10mmol)を添加した。液体生成物が得られた。
【0072】
実施例24:1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(サリチラト)ボレート([MImN111BH][BScB])
40mLの水中の炭酸リチウム(0.738g、10mmol)およびホウ酸(1.236g、20mmol)の水溶液に、サリチル酸(5.524g、40mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、1−メチルイミダゾールトリメチルアミンBHヨージド(5.62g、20mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCHClで抽出した。CHCl有機層を80mLの水で3回洗浄した。CHClを減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。液体生成物が得られた。
【0073】
実施例25:1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BHビス(サリチラト)ボレート([MMImN111BH][BScB])
手順は、[MImN111BH][BSB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸を使用して反応を開始し、1,2−ジメチルイミダゾールトリメチルアミンBHヨージド(2.841g、10mmol)を添加した。液体生成物が得られた。
【0074】
本発明で使用された器具
NMR実験は、30℃において、Z勾配で、5mm広帯域オートチューナブルプローブによって、Bruker Avance 400(9.4 Tesla magnet)において収集した。NMRスペクトルを収集し、分光計「Topspin」2.1ソフトウェアを使用して処理した。Hおよび13Cスペクトルは、内部TMSおよびCDClを基準とした。31P(85%HPO)および11B(EtO・BF)においては外部基準を利用した。
【0075】
Micromass Platform 2 ESI−MS計測器を用いて、陽イオンおよび陰イオンエレクトロスプレー質量分析スペクトルを得た。
【0076】
hf−BILの熱挙動を研究するために、示差走査熱量(DSC)測定には、Q100TA計測器を使用した。平均重量5〜10mgの各試料をアルミニウムパンに密封し、10.0℃/分の走査速度で−120℃まで冷却し、次いで50℃まで加熱した。
【0077】
密封したサンプル管を使用して、20〜90℃の温度範囲で、AMVn Automated Microviscometerを用いて、これらのhf−BILの粘度を測定した。
【0078】
直径45mmのAA2024アルミニウムディスク上で6mmの100Cr6ボールを使用して、ASTM G99に従って、Nanoveaピンオンディスク試験機上、室温(22℃)において摩耗試験を実行した。鉄鋼ボールおよびアルミニウムディスクの組成、Vicker硬度および平均粗度Rを表1に示す。ディスクを0.1mLの潤滑剤で潤滑した。1000mの距離で20Nおよび40Nの負荷下、直径20mmの摩耗痕跡および0.2m/秒の速度で実験を行った。実験を通して摩擦係数を記録した。摩耗試験の終了時に、Dektak 150スタイラスプロフィロメーターを使用して摩耗量を測定した。

【0079】
本発明の結果および考察
hf−BILの熱挙動
図1に、検討中のhf−BILの示差走査熱量計(DSC)のトレースを示す。これらのhf−BILは全て室温で液体であり、室温より低いガラス転移温度(−44℃〜−73℃)を示す。これらのhf−BILのガラス転移温度(T)は表2にも作表されている。オルトボレートイオン液体のTは、フッ素化アニオンの相当する塩に関するものよりも高いことが知られている。カチオンP66614および様々なアニオンによるオルトボレートイオン液体のTは、BMB>BScB>BOB>BMLBの順番で低下し、BMBおよびBScBによるhf−BILは、BOBおよびBMLBによるhf−BILのものと比較して著しく高いT値を有する。これはおそらく、前者のアニオン(BMBおよびBScB)の構造に存在するフェニル環によるものである。
【0080】
様々なホスホニウムカチオンとの一般的なオルトボレートアニオンに関して、カチオン中のアルキル鎖のサイズの増加に伴ってTの低下が観察される。この傾向はBScBアニオンおよび様々なホスホニウムカチオンによるhf−BILにおいてより容易に見られ、Tは、P4448(−49℃)>P44414(−54℃)>P66616(−56℃)の順で低下した(表2を参照のこと)。Del Sestoらは、ビストリフィルアミド(NTf)およびジチオマレオニトリル(dtmn)アニオンとのホスホニウムカチオンのイオン液体に関しても同様の傾向があることを観察している。hf−BILの最も低いT値(P66614−BMLBに関して−73℃まで)は、カチオンとしてP66616を用いた時に達し、これはおそらく、このカチオンのサイズがより大きいこと、対称性がより低いこと、および充填効率が低いことによるためである。
【0081】
hf−BILの密度測定
図2に、hf−BILの温度に対する密度の線形変化を示す。hf−BILの密度に及ぼすアニオンの効果を比較すると、密度は、BScB>BMB>BOB>BMLBの順番で低下する。同一アニオンに関して、hf−BILの密度は、P4448>P44414>P66616のようにカチオンのサイズの増加に伴って低下する。P44414−BMBおよびP44414−BScBの密度値は、全ての測定温度において非常に類似している。hf−BILの密度は、ファンデルワールス相互作用が低下し、イオンのより効率的ではない充填が導かれるため、カチオンのアルキル鎖の長さの増加に伴って低下する。温度の関数としてこれらのhf−BILの密度を特徴づけるパラメーターを表2に作表する。+20℃〜+90℃の温度増加に関して、hf−BILの密度は線形に低下する。このような挙動はイオン液体では通常である。

【0082】
hf−BILの動的粘度
図3に、hf−BILの粘度の温度依存性を示す。研究された全温度範囲において、これらの依存性を粘度のアレニウス方程式、η=η(E(η)/kT)に当てはめることができる。式中、ηは一定であり、E(η)は粘性流の活性エネルギーである。様々なhf−BILの活性エネルギーE(η)を表2に作表する。
【0083】
新規hf−BILのうちのいくつかは、20〜30℃の温度範囲において非常に高い粘度を示し、これは本研究で使用した粘度計では測定不可能であった。しかしながら、hf−BILの粘度は、温度の増加とともに著しく低下した(約20℃で約1000cPから約90℃で約20cP、図3を参照のこと)。イオン液体の粘度は、静電気力およびファンデルワールス相互作用、水素結合、イオンの分子量、カチオンおよびアニオンの形状(立体配座的自由度、対称性およびアルキル鎖の柔軟性)、電荷の非局在化、置換基の性質ならびに配位能力に依存する。所与のカチオン、P66616に関して、粘度は、BMB(E=11.6kcalmol−1)>BOB(E=11.6kcalmol−1)>BScB(E=10.6kcalmol−1)>BMLB(E=10.0kcalmol−1)の順番で低下する(表2を参照のこと)。
【0084】
hf−BILのトライボロジー性能
図4では、1000mの滑り距離で、20Nおよび40N負荷での、hf−BILの耐摩耗性能と、15W−50エンジンオイルの耐摩耗性能を比較する。15W−50エンジンオイルの摩耗量は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ、1.369μmおよび8.686μmであった。hf−BILでは、本研究において使用されたアルミニウムの摩耗が、特に高負荷(40N)において著しく減少した。例えば、P66614−BMBで潤滑したアルミニウムでは、摩耗量は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ、0.842μmおよび1.984μmであった。
【0085】
選択されたhf−BILの平均摩擦係数を、15W−50エンジンオイルと比較して、図5に示す。15W−50エンジンオイルの摩擦係数は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ0.093および0.102であった。試験したhf−BILの全ては、15W−50エンジンオイルと比較して、より低い平均摩擦係数を有した。例えば、P66614−BMBの摩擦係数は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ0.066および0.067であった。
【0086】
図6および7には、1000mの滑り距離間の20N(図6)および40N(図7)での選択されたhf−BILおよび15W−50エンジンオイルの摩擦係数の時間トレースを示す。摩擦係数は、20Nにおいては15W−50エンジンオイルおよびhf−BILの両方で一定である。本明細書で試験された潤滑剤の全てに関して、試験終了まで、摩擦係数における増加はない。全試験時間において、hf−BILの摩擦係数は、15W−50エンジンオイルの摩擦係数よりも低かった(図3を参照のこと)。
【0087】
40N負荷時では、15W−50エンジンオイルの摩擦係数は、滑り距離において著しく変化した。試験開始時、摩擦係数は一定であったが、約200mの滑り距離において突然増加し、400m滑り距離で高いままであった。試験開始時には、薄いトライボフィルムが表面を分離し、そして直接金属−金属接触を防いでいた。摩擦係数の突然の増加は、15W−50エンジンオイルに存在する標準添加剤によって形成されたトライボフィルムがアルミニウム表面において安定ではない証拠である。
【0088】
対照的に、本発明による新規hf−BILは、15W−50エンジンオイルとは異なる傾向を示す。P66614−BMBおよびP66614−BMLBの場合、トライボロジー試験の全期間において摩擦係数の増加はなかった。(P66614−BScBおよびP66614−BOBに関しては)試験の極めて初期に摩擦係数が増加したが、50mの滑り距離の後、安定化した。したがって、新規hf−BILによって潤滑されたアルミニウム表面では、短い滑り距離の後、安定なトライボフィルム(少なくとも1000m滑り距離まで)がすでに形成している。
【0089】
安定性研究
P−C結合のみを含有するホスホニウムカチオンをベースとする本発明によるテトラアルキルホスホニウム−オルトボレートは、例えば、P−N結合を含んでなる化合物の例と比較して、加水分解に対して著しく安定している。新規hf−BILの加水分解安定性を実験的に証明した。[P6,6,6,14][BScB]の少量の液滴を蒸留水に加え、10日間水中に入れたままにしておき、これらのhf−BILの加水分解安定性を確認した。見掛け上は変化はなかった。ESI−MSによって試料を分析したところ、ESI−MSスペクトルには、それぞれ、[C3268P]および[C14B]に対するm/z 483.5およびm/z 283.0におけるピークがあり、他のピークはなかったことから、これらのhf−BILの加水分解安定性が確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7