【実施例】
【0048】
合成
変更した文献方法を使用して、全ての新規のハロゲンを含まないホウ素をベースとするイオン液体(hf−BIL)を合成および精製した。
【0049】
実施例1:トリブチルオクチルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート([P4448][BMB])
50mLの水中の炭酸リチウム(0.369g、5mmol)およびホウ酸(0.618g、10mmol)の水溶液に、マンデル酸(3.043g、20mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、トリブチルオクチルホスホニウムクロリド(3.509g、10mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2有機層を60mLの水で3回洗浄した。CH
2Cl
2を減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。粘性の無色イオン液体が84%の収率(5.30g)で得られた。m/z ESI−MS(−):311.0[BMB]
−;m/z ESI−MS(+):315.3[P4448]
+。
【0050】
実施例2:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート([P44414][BMB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(3.043g、20mmol)のマンデル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が81%の収率(5.75g)で得られた。m/z ESI−MS(−):310.9[BMB]
−;m/z ESI−MS(+):399.2[P44414]
+。
【0051】
実施例3:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マンデラト)ボレート([P66614][BMB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(3.043g、20mmol)のマンデル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が91%の収率(7.25g)で得られた。m/z ESI−MS(−):311.0[BMB]
−;m/z ESI−MS(+):483.3[P66614]
+。
【0052】
実施例4:トリブチルオクチルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート([P4448][BScB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸およびトリブチルオクチルホスホニウムクロリド(3.509g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が88%の収率(5.28g)で得られた。m/z ESI−MS(−):283.1[BScB]
−;m/z ESI−MS(+):315.3[P4448]
+。
【0053】
実施例5:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート([P44414][BScB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が94%の収率(6.44g)で得られた。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB]
−;m/z ESI−MS(+):399.4[P44414]
+。
【0054】
実施例6:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(サリチラト)ボレート([P66614][BScB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が95%の収率(7.30g)で得られた。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB]
−;m/z ESI−MS(+):483.5[P66614]
+。
【0055】
実施例7:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート([P44414][BOB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(1.80g、20mmol)のオキサル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0056】
実施例8:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(オキサラト)ボレート([P66614][BOB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(1.80g、20mmol)のオキサル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。m/z ESI−MS(−):[BOB]
−;m/z ESI−MS(+):483.5[P66614]
+。
【0057】
実施例9:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート([P44414][BMLB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.081g、20mmol)のマロン酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0058】
実施例10:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(マロナト)ボレート([P66614][BMLB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.081g、20mmol)のマロン酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。m/z ESI−MS(−):[BMLB]
−;m/z ESI−MS(+):483.5[P66614]
+。
【0059】
実施例11:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート([P44414][BSuB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.362g、20mmol)のコハク酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0060】
実施例12:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(スクシナト)ボレート([P66614][BSuB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.362g、20mmol)のコハク酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0061】
実施例13:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート([P44414][BGlB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.642g、20mmol)のグルタル酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0062】
実施例14:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(グルタラト)ボレート([P66614][BGlB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.642g、20mmol)のグルタル酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0063】
実施例15:トリブチルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート([P44414][BAdB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.923g、20mmol)のアジピン酸およびトリブチルテトラデシルホスホニウムクロリド(4.349g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0064】
実施例16:トリヘキシルテトラデシルホスホニウムビス(アジパト)ボレート([P66614][BAdB])
手順は、[P4448][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.923g、20mmol)のアジピン酸およびトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド(5.189g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性の無色イオン液体が得られた。
【0065】
実施例17:コリンビス(サリチラト)ボレート([Choline][BScB])
40mLの水中の炭酸リチウム(0.738g、10mmol)およびホウ酸(1.236g、20mmol)の水溶液に、サリチル酸(5.524g、40mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、コリンクロリド(2.792g、20mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2有機層を80mLの水で3回洗浄した。CH
2Cl
2を減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。CH
2Cl
2から白色固体イオン液体を再結晶化した(5.44g、収率70%)。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB]
−;m/z ESI−MS(+):103.9[Choline]
+。
【0066】
実施例18:N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(サリチラト)ボレート([EMPy][BScB])
40mLの水中の炭酸リチウム(0.738g、10mmol)およびホウ酸(1.236g、20mmol)の水溶液に、サリチル酸(5.524g、40mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、N−エチル−N−メチルピロリジニウムヨージド(4.822g、20mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2有機層を80mLの水で3回洗浄した。CH
2Cl
2を減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。CH
2Cl
2から白色固体イオン液体を再結晶化した(6.167g、収率78%)。m/z ESI−MS(−):283.0[BScB]
−;m/z ESI−MS(+):113.9[EMPy]
+。
【0067】
実施例19:N−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(マンデラト)ボレート([EMPy][BMB])
手順は、[EMPy][BScB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(3.043g、20mmol)のマンデル酸およびN−エチル−N−メチルピロリジニウムヨージド(2.41g、10mmol)を使用して反応を開始した。粘性のイオン液体が67%の収率(2.85g)で得られた。MS(ESI) [C
6H
16N]
+の理論値 m/z 114.2;実測値 m/z 114.1;[C
16H
12O
6B]
−の理論値 m/z 311.0;実測値 m/z 311.0。
【0068】
実施例20:1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(マンデラト)ボレート([EMIm][BMB])
50mLの水中の炭酸リチウム(0.369g、5mmol)およびホウ酸(0.618g、10mmol)の水溶液に、マンデル酸(3.043g、20mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド(2.52g、10mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の下層を80mLのCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2有機層を100mLの水で3回洗浄した。CH
2Cl
2を減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、最終生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。粘性のイオン液体が78%の収率(3.40g)で得られた。MS(ESI) [C
7H
13N
2]
+の理論値 m/z 125.2;実測値 m/z 125.2;[C
16H
12O
6B]
−の理論値 m/z 311.0;実測値 m/z 311.1。
【0069】
実施例21:1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(サリチラト)ボレート([EMIm][BScB])
手順は、[EMIm][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸および1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド(2.52g、10mmol)を使用して反応を開始した。白色固体生成物が83%の収率(3.38g)で得られた。MS(ESI) [C
7H
13N
2]
+の理論値 m/z 125.2;実測値 m/z 125.1;[C
14H
8O
6B]
−の理論値 m/z 283.0;実測値 m/z 283.0。
【0070】
実施例22:1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH
2ビス(マンデラト)ボレート([MImN111BH
2][BMB])
50mLの水中の炭酸リチウム(0.369g、5mmol)およびホウ酸(0.618g、10mmol)の水溶液に、マンデル酸(3.043g、20mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、1−メチルイミダゾールトリメチルアミンBH
2ヨージド(2.81g、10mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の下層を80mLのCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2有機層を100mLの水で3回洗浄した。CH
2Cl
2を減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、最終生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。
【0071】
実施例23:1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH
2ビス(マンデラト)ボレート([MMImN111BH
2][BMB])
手順は、[MImN111BH
2][BMB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸を使用して反応を開始し、1,2−ジメチルイミダゾールトリメチルアミンBH
2ヨージド(2.841g、10mmol)を添加した。液体生成物が得られた。
【0072】
実施例24:1−メチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH
2ビス(サリチラト)ボレート([MImN111BH
2][BScB])
40mLの水中の炭酸リチウム(0.738g、10mmol)およびホウ酸(1.236g、20mmol)の水溶液に、サリチル酸(5.524g、40mmol)をゆっくり添加した。この溶液を約60℃まで2時間加熱した。反応物を室温まで冷却して、1−メチルイミダゾールトリメチルアミンBH
2ヨージド(5.62g、20mmol)を添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。形成した反応生成物の有機層を80mLのCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2有機層を80mLの水で3回洗浄した。CH
2Cl
2を減圧下、ロータリーエバポレーションで蒸発させ、生成物を60℃の真空オーブン中で2日間乾燥させた。液体生成物が得られた。
【0073】
実施例25:1,2−ジメチルイミダゾール−トリメチルアミン−BH
2ビス(サリチラト)ボレート([MMImN111BH
2][BScB])
手順は、[MImN111BH
2][BSB]の合成において使用されたものと同様である。(0.369g、5mmol)の炭酸リチウム、(0.618g、10mmol)のホウ酸、(2.762g、20mmol)のサリチル酸を使用して反応を開始し、1,2−ジメチルイミダゾールトリメチルアミンBH
2ヨージド(2.841g、10mmol)を添加した。液体生成物が得られた。
【0074】
本発明で使用された器具
NMR実験は、30℃において、Z勾配で、5mm広帯域オートチューナブルプローブによって、Bruker Avance 400(9.4 Tesla magnet)において収集した。NMRスペクトルを収集し、分光計「Topspin」2.1ソフトウェアを使用して処理した。
1Hおよび
13Cスペクトルは、内部TMSおよびCDCl
3を基準とした。
31P(85%H
3PO
4)および
11B(Et
2O・BF
3)においては外部基準を利用した。
【0075】
Micromass Platform 2 ESI−MS計測器を用いて、陽イオンおよび陰イオンエレクトロスプレー質量分析スペクトルを得た。
【0076】
hf−BILの熱挙動を研究するために、示差走査熱量(DSC)測定には、Q100TA計測器を使用した。平均重量5〜10mgの各試料をアルミニウムパンに密封し、10.0℃/分の走査速度で−120℃まで冷却し、次いで50℃まで加熱した。
【0077】
密封したサンプル管を使用して、20〜90℃の温度範囲で、AMVn Automated Microviscometerを用いて、これらのhf−BILの粘度を測定した。
【0078】
直径45mmのAA2024アルミニウムディスク上で6mmの100Cr6ボールを使用して、ASTM G99に従って、Nanoveaピンオンディスク試験機上、室温(22℃)において摩耗試験を実行した。鉄鋼ボールおよびアルミニウムディスクの組成、Vicker硬度および平均粗度R
aを表1に示す。ディスクを0.1mLの潤滑剤で潤滑した。1000mの距離で20Nおよび40Nの負荷下、直径20mmの摩耗痕跡および0.2m/秒の速度で実験を行った。実験を通して摩擦係数を記録した。摩耗試験の終了時に、Dektak 150スタイラスプロフィロメーターを使用して摩耗量を測定した。
【0079】
本発明の結果および考察
hf−BILの熱挙動
図1に、検討中のhf−BILの示差走査熱量計(DSC)のトレースを示す。これらのhf−BILは全て室温で液体であり、室温より低いガラス転移温度(−44℃〜−73℃)を示す。これらのhf−BILのガラス転移温度(T
g)は表2にも作表されている。オルトボレートイオン液体のT
gは、フッ素化アニオンの相当する塩に関するものよりも高いことが知られている。カチオンP66614
+および様々なアニオンによるオルトボレートイオン液体のT
gは、BMB
−>BScB
−>BOB
−>BMLB
−の順番で低下し、BMB
−およびBScB
−によるhf−BILは、BOB
−およびBMLB
−によるhf−BILのものと比較して著しく高いT
g値を有する。これはおそらく、前者のアニオン(BMB
−およびBScB
−)の構造に存在するフェニル環によるものである。
【0080】
様々なホスホニウムカチオンとの一般的なオルトボレートアニオンに関して、カチオン中のアルキル鎖のサイズの増加に伴ってT
gの低下が観察される。この傾向はBScB
−アニオンおよび様々なホスホニウムカチオンによるhf−BILにおいてより容易に見られ、T
gは、P4448
+(−49℃)>P44414
+(−54℃)>P66616
+(−56℃)の順で低下した(表2を参照のこと)。Del Sestoらは、ビストリフィルアミド(NTf
2)およびジチオマレオニトリル(dtmn)アニオンとのホスホニウムカチオンのイオン液体に関しても同様の傾向があることを観察している。hf−BILの最も低いT
g値(P66614−BMLBに関して−73℃まで)は、カチオンとしてP66616
+を用いた時に達し、これはおそらく、このカチオンのサイズがより大きいこと、対称性がより低いこと、および充填効率が低いことによるためである。
【0081】
hf−BILの密度測定
図2に、hf−BILの温度に対する密度の線形変化を示す。hf−BILの密度に及ぼすアニオンの効果を比較すると、密度は、BScB
−>BMB
−>BOB
−>BMLB
−の順番で低下する。同一アニオンに関して、hf−BILの密度は、P4448
+>P44414
+>P66616
+のようにカチオンのサイズの増加に伴って低下する。P44414−BMBおよびP44414−BScBの密度値は、全ての測定温度において非常に類似している。hf−BILの密度は、ファンデルワールス相互作用が低下し、イオンのより効率的ではない充填が導かれるため、カチオンのアルキル鎖の長さの増加に伴って低下する。温度の関数としてこれらのhf−BILの密度を特徴づけるパラメーターを表2に作表する。+20℃〜+90℃の温度増加に関して、hf−BILの密度は線形に低下する。このような挙動はイオン液体では通常である。
【0082】
hf−BILの動的粘度
図3に、hf−BILの粘度の温度依存性を示す。研究された全温度範囲において、これらの依存性を粘度のアレニウス方程式、η=η
o(E
a(η)/k
BT)に当てはめることができる。式中、η
oは一定であり、E
a(η)は粘性流の活性エネルギーである。様々なhf−BILの活性エネルギーE
a(η)を表2に作表する。
【0083】
新規hf−BILのうちのいくつかは、20〜30℃の温度範囲において非常に高い粘度を示し、これは本研究で使用した粘度計では測定不可能であった。しかしながら、hf−BILの粘度は、温度の増加とともに著しく低下した(約20℃で約1000cPから約90℃で約20cP、
図3を参照のこと)。イオン液体の粘度は、静電気力およびファンデルワールス相互作用、水素結合、イオンの分子量、カチオンおよびアニオンの形状(立体配座的自由度、対称性およびアルキル鎖の柔軟性)、電荷の非局在化、置換基の性質ならびに配位能力に依存する。所与のカチオン、P66616
+に関して、粘度は、BMB
−(E
a=11.6kcalmol
−1)>BOB
−(E
a=11.6kcalmol
−1)>BScB
−(E
a=10.6kcalmol
−1)>BMLB
−(E
a=10.0kcalmol
−1)の順番で低下する(表2を参照のこと)。
【0084】
hf−BILのトライボロジー性能
図4では、1000mの滑り距離で、20Nおよび40N負荷での、hf−BILの耐摩耗性能と、15W−50エンジンオイルの耐摩耗性能を比較する。15W−50エンジンオイルの摩耗量は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ、1.369μmおよび8.686μmであった。hf−BILでは、本研究において使用されたアルミニウムの摩耗が、特に高負荷(40N)において著しく減少した。例えば、P66614−BMBで潤滑したアルミニウムでは、摩耗量は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ、0.842μmおよび1.984μmであった。
【0085】
選択されたhf−BILの平均摩擦係数を、15W−50エンジンオイルと比較して、
図5に示す。15W−50エンジンオイルの摩擦係数は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ0.093および0.102であった。試験したhf−BILの全ては、15W−50エンジンオイルと比較して、より低い平均摩擦係数を有した。例えば、P66614−BMBの摩擦係数は、20Nおよび40N負荷において、それぞれ0.066および0.067であった。
【0086】
図6および7には、1000mの滑り距離間の20N(
図6)および40N(
図7)での選択されたhf−BILおよび15W−50エンジンオイルの摩擦係数の時間トレースを示す。摩擦係数は、20Nにおいては15W−50エンジンオイルおよびhf−BILの両方で一定である。本明細書で試験された潤滑剤の全てに関して、試験終了まで、摩擦係数における増加はない。全試験時間において、hf−BILの摩擦係数は、15W−50エンジンオイルの摩擦係数よりも低かった(
図3を参照のこと)。
【0087】
40N負荷時では、15W−50エンジンオイルの摩擦係数は、滑り距離において著しく変化した。試験開始時、摩擦係数は一定であったが、約200mの滑り距離において突然増加し、400m滑り距離で高いままであった。試験開始時には、薄いトライボフィルムが表面を分離し、そして直接金属−金属接触を防いでいた。摩擦係数の突然の増加は、15W−50エンジンオイルに存在する標準添加剤によって形成されたトライボフィルムがアルミニウム表面において安定ではない証拠である。
【0088】
対照的に、本発明による新規hf−BILは、15W−50エンジンオイルとは異なる傾向を示す。P66614−BMBおよびP66614−BMLBの場合、トライボロジー試験の全期間において摩擦係数の増加はなかった。(P66614−BScBおよびP66614−BOBに関しては)試験の極めて初期に摩擦係数が増加したが、50mの滑り距離の後、安定化した。したがって、新規hf−BILによって潤滑されたアルミニウム表面では、短い滑り距離の後、安定なトライボフィルム(少なくとも1000m滑り距離まで)がすでに形成している。
【0089】
安定性研究
P−C結合のみを含有するホスホニウムカチオンをベースとする本発明によるテトラアルキルホスホニウム−オルトボレートは、例えば、P−N結合を含んでなる化合物の例と比較して、加水分解に対して著しく安定している。新規hf−BILの加水分解安定性を実験的に証明した。[P
6,6,6,14][BScB]の少量の液滴を蒸留水に加え、10日間水中に入れたままにしておき、これらのhf−BILの加水分解安定性を確認した。見掛け上は変化はなかった。ESI−MSによって試料を分析したところ、ESI−MSスペクトルには、それぞれ、[C
32H
68P]
+および[C
14H
8O
6B]
−に対するm/z 483.5およびm/z 283.0におけるピークがあり、他のピークはなかったことから、これらのhf−BILの加水分解安定性が確認された。