【文献】
尾渕 美弥子,診断・病態がわかる!コントロールできる!糖尿病の基本の検査11 3 ケトン体(血中・尿中),糖尿病ケア,2010年 1月 1日,Vol.7 No.1,P.22-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のインフルエンザウイルス感染症の治療薬の奏効するタイミングは感染早期(48時間以内)と限定的であり、インフルエンザウイルス感染症の治療薬の作用点は、ウイルスの増殖阻害であり、ケトン症等の重症化の引き金となる感染中後期の血管内皮細胞エネルギー代謝不全には効果がない。香港において、強毒性H5N1感染例に抗インフルエンザウイルス薬を使用した際に、4日以内の早期投与例でも50%の致死率となったという報告がある。本発明の課題は、インフルエンザウイルスの感染前、感染早期のみならず感染中後期においても奏効する、ヒトに対して安全性が高いインフルエンザウイルス感染症の予防・治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
今日行われているインフルエンザウイルス感染症に対する治療法は、体内でのウイルス増殖を阻害する抗インフルエンザウイルス薬の投与が主となっているが、感染後48時間以内の早期の投与が行われない限り奏効しない。特に乳幼児や老人がインフルエンザを発症した場合、インフルエンザ脳症の他、多臓器不全により重篤なケトン症を発症するなど重症化する例が報告されている。最近の研究により、この重症化の要因として血管内皮細胞のエネルギー代謝不全が挙げられ、これに伴い、末梢循環不全から多臓器不全へと進行することが明らかとなってきた。しかし、前述のとおり、現在有効な治療法は感染早期の抗インフルエンザウイルス薬の投与のみであり感染中後期のエネルギー代謝不全を阻止する安全な治療薬は存在しない。本発明者らは、5−ALAと鉄化合物の投与により体内エネルギー代謝の破綻に起因するインフルエンザ重症化を阻止できるのではないかと着想し、実際にインフルエンザ重症化モデルマウスを用いて、インフルエンザウイルス感染に起因する摂食量、摂水量、体重、体温の低下を防ぐことができ、インフルエンザ重症化を回避することができた結果、血中ケトン体量の増加を改善すること、血中ATP量の低下を改善すること、生存率が向上すること、体表面温度の異常を改善することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、[1]下記式(I)で示される化合物又はその塩を含有するインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)や、[2]R
1及びR
2が、水素原子であることを特徴とする上記[1]記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、[3]さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、[4]鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[3]記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、[5]鉄化合物が、クエン酸第一鉄ナトリウムであることを特徴とする上記[3]記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、[6]摂食量、摂水量、及び/又は体重の低下を改善するために使用することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、[7]血中ケトン体量の増加、及び/又は血中ATP量の低下を改善するために使用することを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、[8]生存率の低下及び/又は体表面温度の異常を改善するために使用することを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれか記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤に関する。これらインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤に関する発明の他の態様としては、インフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のための上記式(I)で示される化合物又はその塩や、インフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療に用いるための上記式(I)で示される化合物又はその塩を例示することができる。
【0008】
また本発明は、[9]上記[1]〜[8]のいずれか記載の予防及び/又は治療剤を対象に投与することを特徴とするインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療方法や、[10]a)上記式(I)で示される化合物又はその塩(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す);b)鉄化合物;を含むインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のためのキットや、[11]a)上記式(I)で示される化合物又はその塩(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す);b)鉄化合物;を同時又は前後して対象に投与することを特徴とするインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療方法に関する。
【0009】
また本発明は、[12]a)上記[1]〜[8]のいずれか記載のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤;b)抗インフルエンザ薬剤;を含む予防及び/又は治療剤の組合せや、[13]a)上記式(I)で示される化合物又はその塩(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す);b)鉄化合物;c)抗インフルエンザ薬剤;を含む予防及び/又は治療剤の組合せに関する。
【0010】
さらに本発明は、[14]上記式(I)で示される化合物(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)又はその塩を含有する血中ケトン体量の増加抑制剤に関する。この発明の他の態様としては、上記式(I)で示される化合物又はその塩を対象に投与することを特徴とする血中ケトン体量の増加抑制方法や、血中ケトン体量の増加抑制に用いるための上記式(I)で示される化合物又はその塩を例示することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、対象における摂食量、摂水量、体重、体温の低下を防止し、インフルエンザ重症化を回避して生存率が向上する、安全性が高いインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤の他、血中ケトン体量の増加抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤としては、上記式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)を有効成分として含むものであれば特に制限されないが、ALA類に加えて鉄化合物を含有するものが好ましく、さらに摂食量、摂水量及び/又は体重の低下を改善する(防ぐ)ためや、ケトン症の原因となる血中ケトン体量の増加を改善す
るためや、血中ATP量の低下を改善する(防ぐ)ためや、生存率及び/又体表面温度の異常を改善する(上昇させる)ために使用しうるものが好ましい。本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療方法は、上記本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤を、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象に投与することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のためのキットとしては、ALA類と鉄化合物とを有効成分として個別に含むキットであれば特に制限されないが、摂食量、摂水量及び/又は体重の低下を改善する(防ぐ)ためや、ケトン症の原因となる血中ケトン体量の増加を改善す
るためや、血中ATP量の低下を改善する(防ぐ)ためや、生存率及び/又体表面温度の異常を改善する(上昇させる)ために使用しうるものが好ましい。このように、本発明のキットは、インフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療用キットとしての用途に限定されるものである。そして、本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のためのキットには、一般にこの種の予防及び/又は治療キットに用いられる成分、例えば担体、pH緩衝剤、安定剤の他、取扱説明書等の添付文書が通常含まれる。かかる本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のためのキットを用いる本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療方法は、ALA類と鉄化合物とを同時又は前後してヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象に投与することを特徴とする。
【0015】
そしてまた、本発明の予防及び/又は治療剤の組合せとしては、上記本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤と、抗インフルエンザ薬剤との予防・治療学的薬剤の組合せや、ALA類と鉄化合物と抗インフルエンザ薬剤との予防・治療学的薬剤の組合せであれば特に制限されず、これら予防・治療学的薬剤の組合せを投与することによってもインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療を行うことができる。これら組合せの各製剤(成分)は、同時又は別々に投与することができる。
【0016】
また本発明の血中ケトン体量の増加抑制剤としては、ALA類を有効成分として含むものであれば特に制限されないが、ALA類に加えて鉄化合物を含有するものが好ましい。また、ALA類と鉄化合物とを有効成分として個別に含む血中ケトン体量の増加抑制のためのキットとすることもできる。かかるキットには、一般にこの種のキットに用いられる成分、例えば担体、pH緩衝剤、安定剤の他、取扱説明書等の添付文書が通常含まれる。上記血中ケトン体量の増加抑制剤を対象に投与したり、血中ケトン体量の増加抑制のためのキットを用い、ALA類と鉄化合物とを同時又は前後してヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象に投与することにより、血中ケトン体量の増加を抑制することができる。
【0017】
上記ALA類の中でも式(I)のR
1及びR
2が共に水素原子の場合である5−ALA又はその塩を好適に例示することができる。5−ALAは、δ−アミノレブリン酸とも呼ばれるアミノ酸の1種である。また、5−ALA誘導体としては、式(I)のR
1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR
2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、5−ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0018】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0019】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0020】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0021】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0022】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0023】
上記ALA誘導体としては、R
1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記R
2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記R
1とR
2の組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せなどを好適に例示することができる。
【0024】
ALA類は、生体内で式(I)の5−ALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩、エステル、または生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することができる。例えば、5−ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0025】
以上のALA類のうち、望ましいものは、5−ALA、及び5−ALAメチルエステル、5−ALAエチルエステル、5−ALAプロピルエステル、5−ALAブチルエステル、5−ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、5−ALA塩酸塩や5−ALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0026】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
上記鉄化合物としては、有機塩でも無機塩でもよく、無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができ、有機塩としては、カルボン酸塩、例えばヒドロキシカルボン酸塩である、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、硫化グリシン鉄を挙げることができるが、中でもクエン酸第一鉄ナトリウムやクエン酸鉄ナトリウムが好ましい。
【0028】
上記鉄化合物は、それぞれ単独でも、2種以上を混合しても用いてもよい。鉄化合物の投与量としては、ALA類の投与量(5−ALA換算)に対してモル比で0.01〜100倍であればよく、0.05倍〜10倍が望ましく、0.1倍〜8倍がより望ましい。
【0029】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療方法においては、ALA類と鉄化合物とを含む組成物として、あるいは、それぞれ単独で同時又は前後して投与することができる。それぞれ単独で投与する場合は同時に投与することが好ましいが、それぞれ単独で前後して投与する場合は、ALA類と鉄化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように、両者間で相当の間隔をおかずに投与することが好ましい。
【0030】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、インフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のためのキットに、さらにオセルタミビル、ザナミビル、アマンタジン、ペラミビル、ラニナミビル、ファビピラビル等の抗インフルエンザ薬剤の1種又は2種以上を組み合わせて併用することができる。本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、インフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療のためのキットは、これら既存の抗インフルエンザ薬剤とは作用メカニズムと異なるため、本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤の組合せを用いると、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。
【0031】
血中ケトン体量の増加抑制を抑制する方法としては、ALA類と鉄化合物とを含む組成物として、あるいは、それぞれ単独で同時又は前後して投与する方法を例示することができる。それぞれ単独で投与する場合は同時に投与することが好ましいが、それぞれ単独で前後して投与する場合は、ALA類と鉄化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように、両者間で相当の間隔をおかずに投与することが好ましい。
【0032】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、予防及び/又は治療のためのキットの各成分や、予防・治療学的薬剤の組合せの各成分、あるいは、血中ケトン体量の増加抑制剤や、増加抑制キットの各成分の投与経路としては、舌下投与も含む経口投与、あるいは、点鼻投与、吸入投与、点滴を含む静脈内投与、パップ剤等による経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃漏チューブ若しくは腸漏チューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。なお、予防・治療学的薬剤の組合せにおける抗インフルエンザ薬剤の投与経路は、各薬剤において既に認められている投与経路を採用することが好ましい。
【0033】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防及び/又は治療剤や、予防及び/又は治療のためのキットの各成分の剤形、あるいは、血中ケトン体量の増加抑制剤や、増加抑制キットの各成分の剤型としては、上記投与経路に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点鼻剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散在、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座剤等を挙げることができる。本発明のインフルエンザウイルス感染症予防及び/又は治療剤や、予防及び/又は治療のためのキットの各成分、あるいは、血中ケトン体量の増加抑制剤や、増加抑制キットの各成分は医薬用途の他、錠剤やカプセル剤のサプリメントの形態とすることもできる。また特に、嚥下することが困難な高齢者や乳幼児等には、口中において速やかな崩壊性を示す崩壊錠の形態や、経鼻胃管投与に適した液剤の形態が好ましい。
【0034】
本発明のインフルエンザウイルス感染症予防及び/又は治療剤や、予防及び/又は治療のためのキット、あるいは、血中ケトン体量の増加抑制剤や、増加抑制キットを調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。なお、本発明のインフルエンザウイルス感染症予防剤を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要があり、アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐこともできる。
【0035】
本発明のインフルエンザウイルス感染症予防及び/又は治療剤や、予防及び/又は治療のためのキット、あるいは、血中ケトン体量の増加抑制剤や、増加抑制のためのキットは、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなど獣医分野でも使用することができる。かかる予防及び/又は治療剤等の投与の量・頻度・期間としては、対象がヒトの場合、インフルエンザウイルス感染症患者の年齢、体重、症状等により異なるが、ALA類の投与量としては、ALAモル換算で、成人一人当たり、0.01mmol〜25mmol/日、好ましくは0.025mmol〜7.5mmol/日、より好ましくは0.075mmol〜5.5mmol/日、さらに好ましくは0.2mmol〜2mmol/日、中でも0.45mmol〜1.3mmol/日を挙げることができ、投与頻度としては、一日一回〜複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。投与期間は、当該技術分野の薬理学者や臨床医が既知の方法により決定することもできるが、その際に血中ケトン体量や血中ATP量を指標にすることもできる。
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
インフルエンザ重症化モデルマウスを用いた5−ALA塩酸塩及びクエン酸第一鉄ナトリウム投与による体重、摂食量、摂水量、生化学パラメータへの影響を調べた。すなわち、インフルエンザウイルス感染・発症マウスの病態の進行に伴い惹起する、摂水量、摂食量の減少および、グルコース代謝から脂質代謝へのシフトといった現象について、ALA+Fe投与による抑制効果を検証した。
【0038】
[実験方法]
(1)動物及び飼育条件
日本SLC株式会社よりC57BL/6Jマウスの雌を4週齢で購入し、入荷当日に視診上健康なマウスを試験に供した。入荷翌日、体重を基に無作為抽出により1群10匹として3群に分け、更に1群を1ケージ当たり3匹、3匹、4匹となるように分けた。オリエンタル酵母株式会社製の基礎飼料MFを、水道水と共に自由に摂取させ、室温23〜24℃、湿度30〜40%、12時間蛍光灯照明の飼育室において飼育した。
【0039】
(2)試験群
以下に示すとおり、ウイルス感染の有無又は投与薬剤の異なる1)−3)の3群に分けた。
1)群;ウイルス非感染群(CMC経口投与) 10匹
2)群;ウイルス感染群(CMC経口投与) 10匹
3)群;ウイルス感染+ALA+Fe投与群 10匹
【0040】
(3)インフルエンザウイルス感染
ケタラール及びセラクタールによる麻酔下において、インフルエンザウイルスPR8株溶液を両鼻腔より肺へ投与した。ウイルス量は、1匹あたり100PFUとした。本ウイルス感染日をDay−0とした。
【0041】
(4)薬剤の投与
各日、AM10:00及びPM17:00に、上記1)群及び2)群には、メチルセルロース溶液(0.5w/v% Methyl Cellulose 400cP Solution,Sterilized:和光純薬)を0.1mL、3)群には5−ALA塩酸塩、クエン酸第一鉄ナトリウムを投与直前にメチルセルロース溶液に溶解調製して、0.1mLをゾンデを用いて胃内に強制投与した。3)群における5−ALA塩酸塩の投与量は、体重1kg当たり15mgを1回量とし、1日あたり体重1kg当たり30mg量とした。また、クエン酸第一鉄ナトリウムの投与量はモル比で5−ALA塩酸塩の0.5倍量となる、体重1kg当たり23.54mgを1回量とし、体重1kg当たり47.08mgを1日量とした。
【0042】
(5)体重・摂食量・摂水量
各ケージを毎日観察し、AM10:00の薬剤投与前に各個体の体重、各ケージあたりの摂食量及び摂水量を測定した。
【0043】
(6)解剖および生化学的検査
Day.4及びDay.7に5匹ずつ解剖した。マウスの無麻酔下での断頭により採血し、血液生化学的検査(ケトン体量)を実施した。血中ケトン体量の測定には、「プレシジョンエクシード 3−ヒドロキシ酪酸キット(アボット社)」の測定キットを用いた。
【0044】
[結果]
(1)体重の変化
検査に用いた試験群の体重変化を
図1に示す。1)ウイルス非感染群、2)ウイルス感染群、3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群共に、Day−3までは同様の体重増加が見られた。ところが、2)ウイルス感染群については、Day−4から急激な体重の減少が観察され、観察最終日のDay−7においては、Day−3に比べ約20%の体重減少が見られた。一方、1)ウイルス非感染群においては、Day−5まで体重増加がみられ、その後観察最終日のDay−7まで維持された。3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群においては、Day−4まで体重増加が見られ、その後Day−7まで緩やかな減少がみられた。しかしながら、観察最終日のDay−7における体重減少はDay−4に比べ約6%にとどまった。
【0045】
(2)摂食量の変化
検査に用いた試験群の摂食量の変化を
図2に示す。1)ウイルス非感染群、2)ウイルス感染群、3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群共に、Day−2までは同様の摂食量増加が見られた。しかし2)ウイルス感染群については、Day−3でその増加率が他2群に比べ停滞傾向を示し、Day−4から急激な摂食量減少が観察された。観察最終日のDay−7においては、Day−3に比べ約90%の摂食量減少がみられた。一方、1)ウイルス非感染群においては、Day−5まで増加がみられた。3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群においては、Day−4まで摂食量増加が見られ、その後Day−7まで緩やかな減少がみられた。しかしながら観察最終日のDay−7における摂食量減少はDay−4に比べ約35%の減少にとどまった。
【0046】
(3)摂水量の変化
検査に用いた試験群の摂水量の変化を
図3に示す。2)ウイルス感染群については、Day−2までに摂水量の増加は止まり、Day−4には一旦減少した。Day−5では一旦回復したものの、その後急激な減少が見られた。観察最終日のDay−7においては、Day−3に比べ約60%の摂水量減少がみられた。3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群においては、Day−6まで摂水量増加が見られ、Day−7で緩やかな減少がみられたが、Day−6に比べ約12%の減少にとどまった。
【0047】
(4)血中ケトン体量の変化
検査に用いた試験群の血中ケトン体量の変化を
図4に示す。血中ケトン体量について、Day−7の値は、Day−4に比べ、1)ウイルス非感染群では変化が無く、3)ウイルス感染、ALA+Fe与群では25%の増加にとどまったが、2)ウイルス感染群の値は、242%の増加と著しい上昇がみられた。
【実施例2】
【0048】
インフルエンザ重症化モデルマウスを用いた5−ALA塩酸塩及びクエン酸第一鉄ナトリウム投与による生存率及び体表面温への影響を調べた。すなわち、上記実施例1でみられた、インフルエンザ重症化モデルマウスで惹起した摂水量、摂食量及び体重の減少、並びに血中ケトン量の増加といった事象に対するALA+Fe投与による抑制効果が、マウスの生存率や体温の他、血中ATP量に影響するかを検証した。
【0049】
[実験方法]
(1)動物及び飼育条件、試験群及び薬剤の投与
動物及び飼育条件、試験群並びに薬剤の投与については実施例1と同様に行った。
【0050】
(2)インフルエンザウイルス感染
ケタラール及びセラクタールによる麻酔下において、鶏卵培養直後の新鮮ウイルスで強い致死率を示すインフルエンザウイルスPR8株溶液を両鼻腔より肺へ投与した(ウイルス実験株の中でもPR8株は最も致死性の高いウイルス株であるが、その中でも培養直後のウイルス株は強い病原性を示す)。ウイルス量は、1匹あたり100PFU又は150PFUとした。本ウイルス感染日をDay−0とした。
【0051】
(3)生存率及び体表面温測定
各ケージを毎日観察し、全個体に対する生存個体数の割合を生存率とした。また、Day−6以降の、17:00における生存個体の体表面温を測定した。
【0052】
(4)解剖および生化学的検査
Day.4及びDay.7に5匹ずつ解剖した。マウスの無麻酔下での断頭により採血し、血液生化学的検査(ATP量)を実施した。血中ATP量の測定には、「XL−ATP kit(アプロサイエンス社)」の測定キットを用いた。
【0053】
[結果]
(1)生存率の推移
生存率の推移を
図5に示す。ウイルス量150PFUにて感染させると、ALA非投与の2)ウイルス感染群においてはDay−9で、3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群においてはDay−10で、全頭死亡した。ウイルス量100PFUにて感染させた場合については、ALA投与の有無でDay−9より生存率に差が発生し、ALA非投与の2)ウイルス感染群はDay−13までに全頭死亡したが、3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群は試験期間内に3頭生存した。この結果から、強い致死率を示すインフルエンザウイルスPR8株を用いた場合であっても、生存率が向上することがわかる。
【0054】
(2)体温の推移
生存しているマウス体表面温の推移を
図6に示す。ALA非投与の2)ウイルス感染群においては感染後継続して体温は低下した。死亡個体については24℃台となった翌日に死亡していた。一方、3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群においてはDay−9以降、緩やかに回復した。このように、ALA+Feを投与した場合、体表面温度の異常を改善できることがわかる。
【0055】
(3)血中ATP量の変化
検査に用いた試験群の血液中ATP量のDay−4及びDay−7の変化を
図7に示す。2)ウイルス感染群のDay−7の血液中ATP量の値は、1)ウイルス非感染群に比べて低い値を示した。一方、3)ウイルス感染、ALA+Fe投与群のDay−7の血液中ATP量の値はDay−7においても低下せず、高い値を示した。また、Day−4に比べても血液中ATP量の値が増加していた。
【0056】
[参考例]
次に、病原性の低いインフルエンザウイルスPR8株を感染させたインフルエンザ重症化モデルマウスにおける生存率を調べた。すなわち、鶏卵培養直後の新鮮ウイルスで強い致死率を示す実施例2のインフルエンザウイルスPR8株に代えて、培養後−80℃条件下に3〜6ヶ月保存経過して強い致死率を示さなくなったインフルエンザウイルスPR8株を用いて生存率を検討した。
【0057】
試験群を1)ウイルス非感染群と2)ウイルス感染群とし、実施例2のインフルエンザウイルスPR8株と比較して強い致死率を示さないインフルエンザウイルスPR8株を用いる以外の、動物及び飼育条件、インフルエンザウイルス感染、並びに薬剤の投与については実施例2と同様に行った。また、各ケージを毎日観察し、全個体に対する生存個体数の割合を生存率とした。
【0058】
生存率の推移を
図8に示す。ウイルス量100PFUにて感染させたところ、2)ウイルス感染群においてはDay−8に死亡例が出現したが、それ以降は生存率80%が維持された。この参考例における生存率の結果(Day−14で生存率80%)を、実施例2のインフルエンザウイルスPR8株を用いた場合の生存率の結果(Day−14で生存率0%;
図5参照)と比べると、実施例2のインフルエンザウイルスPR8株の方が強い致死率を示すことがわかる。このことから、強い致死率を示す実施例2のインフルエンザウイルスPR8株を用いた場合であっても、3)ウイルス感染(100PFU)、ALA+Fe投与群においては、生存率が30%にまで回復したことがわかる(
図5参照)。