特許第5920961号(P5920961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920961
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】磁気エンコーダの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20160510BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20160510BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   G01D5/245 110M
   H01F1/113
   H01F7/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-560478(P2015-560478)
(86)(22)【出願日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2015064243
(87)【国際公開番号】WO2015174546
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2015年12月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-102827(P2014-102827)
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂手 和志
(72)【発明者】
【氏名】笠本 忠志
(72)【発明者】
【氏名】片山 竜雄
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−145067(JP,A)
【文献】 国際公開第01/41162(WO,A1)
【文献】 特開2003−183518(JP,A)
【文献】 特許第5637338(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/245
H01F 7/02
H01F 1/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有し、
ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり
フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上であり、かつ
フェライト磁性粉(B)が、その粒度分布において複数のピークを有することを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
【請求項2】
磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有し、
ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり
フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上であり、かつ
前記磁性ゴム組成物の180℃における加硫曲線を測定した際のトルクの最小値MLが0.294〜0.785N・m(3〜8kgf・cm)であることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
【請求項3】
磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有し、
ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり
フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上であり、かつ
前記混合工程において、ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから、60〜130℃で10〜60分間混練することによって磁性ゴム組成物を得ることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
【請求項4】
フェライト磁性粉(B)が、異方性磁性粉である請求項1〜3のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法。
【請求項5】
前記磁場の印加された金型中で140〜250℃で1〜30分間加硫する、請求項1〜のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法。
【請求項6】
回転体に取り付け可能な支持部材と、該支持部材に装着された環状の磁性ゴム成形品を備え、該磁性ゴム成形品がN極とS極とが円周方向に交互に着磁された磁気エンコーダを製造する、請求項1〜のいずれかに記載の磁気エンコーダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム及びフェライト磁性粉を含有する磁性ゴム組成物を加硫した磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムと磁性粉を含む磁性ゴム組成物を加硫させて得られる磁性ゴム成形品は、様々な用途に用いられている。中でも磁性ゴム成形品の好適な用途の一つが、磁気エンコーダであり、磁性ゴム成形品を着磁させることによって製造される。このとき、製品の要求性能に対応して様々なゴムが用いられるが、耐油性や耐熱性、価格などのバランスからニトリルゴムが好適に用いられる。また磁性粉としては、フェライト磁性粉や希土類磁性粉などが要求性能に応じて使い分けられているが、コストや耐久性の観点からフェライト磁性粉が好適に用いられている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
磁気エンコーダを用いた各種センサの精度向上や小型化のためには、磁性ゴム成形品の磁気特性の向上が強く求められている。そのため、磁性粉を大量に配合することによって磁気特性を向上させることが行われているが、配合量が多すぎると成形性が低下してしまうので、配合量にも限界があった。したがって、成形性を確保しながら磁気特性を向上させることのできる磁性ゴム成形品が求められていた。
【0004】
特許文献4には、粒度分布において複数のピークを有し、圧縮密度(CD)が3.5g/cm以上であり、圧粉体の保磁力(p−iHc)が2100Oe以上であるフェライト粉末を使用した異方性ボンド磁石が記載されている。具体的には、前記フェライト粉末と6−ナイロンとを含有する組成物を磁界中で射出成形することによって、異方性ボンド磁石を作製することが記載されている。これにより、保磁力を維持しながらも、充填性と配向性に優れた高磁力を有するボンド磁石を作製することができるとされている。
【0005】
特許文献4で用いられているポリアミド(6−ナイロン)は、融点を超える高温下では低粘度であり、大量のフェライト磁性粉を含有していても、高速で射出成形することが可能である。一方、磁性ゴム成形品は、低温で高粘度の磁性ゴム組成物を長時間混練してから、加硫することによって製造される。しかしながら、フェライト磁性粉を大量に含む高粘度の磁性ゴム組成物を長時間混練すると、含まれているフェライト磁性粉が激しいせん断力を長時間にわたって受けるために、加硫後に得られる磁性ゴム成形品の保磁力が大きく低下することがわかった。この点は、特許文献4に記載されているような、ポリアミド含有ボンド磁石を射出成形によって製造する場合などには問題とされない、磁性ゴム組成物特有の課題である。したがって、保磁力の高い磁性ゴム成形品を製造する方法が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−14405号公報
【特許文献2】特開2003−183443号公報
【特許文献3】特開2006−225601号公報
【特許文献4】特開2010−263201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、成形性の良好な磁性ゴム組成物を加硫することによって、保磁力と残留磁束密度が高い磁性体を備えた磁気エンコーダを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有し、
ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり
フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上であり、かつ
フェライト磁性粉(B)が、その粒度分布において複数のピークを有することを特徴とする磁気エンコーダの製造方法を提供することによって解決される。
【0009】
また上記課題は、磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有し、
ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり、
フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上であり、かつ
前記磁性ゴム組成物の180℃における加硫曲線を測定した際のトルクの最小値MLが0.294〜0.785N・m(3〜8kgf・cm)であることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法を提供することによっても解決される。
【0010】
さらに上記課題は、磁性ゴム成形品からなる磁性体を備えた磁気エンコーダの製造方法であって、
ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有し、
ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり、
フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上であり、かつ
前記混合工程において、ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから、60〜130℃で10〜60分間混練することによって磁性ゴム組成物を得ることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法を提供することによっても解決される。
【0011】
上記各製造方法において、フェライト磁性粉(B)が異方性磁性粉であることが好ましい。また、前記磁場の印加された金型中で140〜250℃で1〜30分間加硫することも好ましい。さらに、製造されるエンコーダが、回転体に取り付け可能な支持部材と、該支持部材に装着された環状の磁性ゴム成形品を備え、該磁性ゴム成形品がN極とS極とが円周方向に交互に着磁されたものであること好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、成形性の良好な磁性ゴム組成物を加硫することによって、保磁力と残留磁束密度が高い磁性体を備えた磁気エンコーダを製造することができる。本発明の方法によって製造される高性能の磁気エンコーダは、それを用いた各種センサの精度向上や小型化に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における磁気エンコーダは、磁性ゴム成形品からなる磁性体を備える。当該磁性ゴム成形品は、ニトリルゴム(A)及びフェライト磁性粉(B)を含有する磁性ゴム組成物を加硫したものである。このとき、ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量が700〜1500質量部であり、かつ、フェライト磁性粉(B)の圧縮密度が3.5g/cm以上である。このように、本発明で用いられる磁性ゴム組成物は、圧縮密度の高い磁性粉を高濃度で配合することを特徴とするものである。
【0014】
着磁された磁性ゴム成形品の残留磁束密度を高くするには、磁性粉を大量に配合すれば良いことが知られている。そこで本発明者らは、様々な磁性粉をニトリルゴムに対して大量に配合した磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して、得られた磁性ゴム成形品の磁気特性を測定した。その結果、圧縮密度が高い磁性粉を用いたときに、高濃度の磁性粉を含みながらも磁性ゴム組成物の成形性が良好であり、しかも、高粘度の磁性ゴム組成物を長時間混練したにもかかわらず、保磁力の高い磁性ゴム成形品が得られることがわかった。そして、磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫することにより、磁性ゴム成形品の残留磁束密度を高めることもできた。残留磁束密度が高く、同時に保磁力も高い磁性ゴム成形品は、高性能の磁気エンコーダに求められているものである。
【0015】
本発明の磁性ゴム組成物は、ニトリルゴム(A)を含有する。本発明で用いられるニトリルゴム(A)は特に限定されず、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンの共重合体を用いることができる。重合後の1,3−ブタジエン単位に残存する二重結合への水素添加は任意である。水素添加されていないもの(NBR)と水素添加されたもの(HNBR)とを用途に応じて使い分けることができる。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、他の共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいても構わない。そのような構成単位は、例えば、カルボキシル基又はカルボン酸無水物基のような官能基を含むものであってもよい。
【0016】
ニトリルゴム(A)中のアクリロニトリル単位の含有量は、15〜50質量%であることが好ましい。また、1,3−ブタジエン単位の含有量は水添されたものも含めて、50〜85質量%であることが好ましい。ニトリルゴム(A)は、未水添のもの(NBR)であってもよいし、水添されたもの(HNBR)であってもよい。ニトリルゴム(A)のムーニー粘度(ML1+10、100℃)は20〜100であることが好ましい。大量に磁性粉を含みながらも成形性を維持するためには、ムーニー粘度が低い方が良いので、70以下であることがより好ましく、55以下であることがさらに好ましい。室温(25℃)で液状のニトリルゴムを併用しても構わないが、操作性の面からは、室温で固体のニトリルゴムのみを用いることが好ましい。
【0017】
本発明の磁性ゴム組成物は、フェライト磁性粉(B)を含有する。フェライト磁性粉(B)は特に限定されず、ストロンチウムフェライト磁性粉やバリウムフェライト磁性粉が好適に用いられる。本発明のフェライト磁性粉(B)の圧縮密度は3.5g/cm以上であることが必要であり、3.55g/cm以上であることが好ましい。これによって、成形性が良好で磁気特性にも優れる磁性ゴム成形品を得ることができる。圧縮密度は、通常4g/cm以下である。ここで、フェライト磁性粉(B)の圧縮密度(g/cm)は、内径2.54cmの円筒形の金型に、フェライト磁性粉10gを充填した後に、1ton/cmの圧力で圧縮した試料の密度である。このような圧縮密度を有するためには、粒度分布において複数のピークを有するものであることが好ましい。フェライト磁性粉(B)の粒度分布は、乾式レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。フェライト磁性粉(B)の平均粒径は0.5〜2μmであることが好ましい。また、フェライト磁性粉(B)は異方性磁性粉であることが好ましい。異方性磁性粉を用いて、磁場の印加された金型中で加硫することによって、磁気特性に優れた磁性ゴム成形品を得ることができる。このような加硫方法に適した異方性磁性粉は、一般に「磁場配向用」として市販されている。磁場配向用の磁性粉は、磁場を印加した際にゴム組成物中で容易に回転できるように、そのアスペクト比(板状体における(直径/厚み)比)が小さいものである。一方、磁場を印加せずに機械的変形に伴って配向させる方法に対しては、一般に「機械配向用」として市販されているアスペクト比の大きいものが用いられる。
【0018】
本発明の磁性ゴム組成物における、ニトリルゴム(A)100質量部に対するフェライト磁性粉(B)の含有量は700〜1500質量部である。フェライト磁性粉(B)の含有量が700質量部未満の場合には、通常のフェライト磁性粉を用いても成形性悪化や保磁力低下の問題がないので、本発明を採用する意義が小さい。フェライト磁性粉(B)の含有量は、好適には850質量部以上であり、より好適には1000質量部以上である。
【0019】
本発明の磁性ゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ニトリルゴム以外のゴムを含んでも構わない。しかしながらその含有量は、通常ゴム成分全量のうちの10質量%以下であり、5質量%以下であることが好ましく、ニトリルゴム以外のゴムを実質的に含まないことがより好ましい。また、本発明の磁性ゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、フェライト磁性粉以外の磁性粉、例えば希土類磁性粉を含んでいても構わない。しかしながらその含有量は、通常、磁性粉全量のうちの10質量%以下であり、5質量%以下であることが好ましく、フェライト磁性粉以外の磁性粉を実質的に含まないことがより好ましい。
【0020】
本発明の磁性ゴム組成物は、加硫剤(C)を含む。加硫剤(C)としては、硫黄、過酸化物、ポリアミン化合物など、ニトリルゴム(A)の加硫に通常用いられるものを採用することができる。加硫剤(C)の含有量は、ニトリルゴム(A)100質量部に対して、通常0.1〜10質量部である。
【0021】
本発明の磁性ゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)以外の成分を含んでいても構わない。磁性ゴム組成物において通常使用される、加硫促進剤、加硫助剤、受酸剤、着色剤、フィラー、可塑剤など、各種の添加剤を含むことができる。
【0022】
本発明の磁気エンコーダの製造方法は、ニトリルゴム(A)、フェライト磁性粉(B)及び加硫剤(C)を混合してから混練することによって磁性ゴム組成物を得る混合工程、及び該磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る成形工程を有する。
【0023】
上記混合工程において、上記各成分を混合することによって磁性ゴム組成物が製造される。混合する方法は特に限定されず、オープンロール、ニーダ、バンバリーミキサ、インターミキサ、押出機などを用いて混練する方法が採用される。なかでも、オープンロール又はニーダを用いて混練することが好ましい。混練時の磁性ゴム組成物の温度は60〜130℃とすることが好ましい。混練時間は、10〜60分であることが好ましい。
【0024】
このように、比較的低温で高粘度の組成物を比較的長時間混練してから加硫に供するのが、ゴム成形品を製造する際の通常の方法である。しかしながら、フェライト磁性粉を大量に含む磁性ゴム組成物を、高粘度で長時間混練すると、フェライト磁性粉が激しいせん断力を長時間にわたって受けるために、得られる磁性ゴム成形品の保磁力が低下することがわかった。このとき、圧縮密度が3.5g/cm以上であるフェライト磁性粉(B)を用いることによって、このような問題を低減できることが明らかになった。この点は、ポリアミド含有ボンド磁石を射出成形して製造する場合などでは観察されない、磁性ゴム組成物特有の問題である。
【0025】
こうして得られた磁性ゴム組成物の180℃における加硫曲線を測定した際のトルクの最小値MLが、3〜8kgf・cmであることが好ましい。MLが3kgf・cm未満である場合、成形品にエアが残るおそれがある。一方、MLが8kgf・cmを超える場合には、成形性が不十分になって充填不足となるおそれがある。
【0026】
引き続き、磁性ゴム組成物を磁場の印加された金型中で成形するとともに加硫して磁性ゴム成形品を得る工程が成形工程である。成形工程においては、通常、上記磁性ゴム組成物を所望の形状に成形し、加熱することにより加硫する。磁性ゴム組成物の成形方法としては、押出成形、圧縮成形などが挙げられる。中でも圧縮成形が好適である。加硫温度は、140〜250℃であることが好ましい。加硫時間は、1〜30分であることが好ましい。また、磁性ゴム成形品の形状や寸法などによっては、表面が加硫されていても内部まで十分に加硫されていない場合があるので、さらに加熱して二次加硫を行ってもよい。加硫するための加熱方法としては、圧縮加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などの、ゴムの加硫に用いられる一般的な方法が用いられるが、圧縮加熱が好適である。
【0027】
本発明の製造方法では、磁場の印加された金型中で加硫する。これにより、磁性ゴム成形品の残留磁束密度を高めることができる。このとき、圧縮成形する際に、成形品の表面に垂直な方向の磁場を印加することが好適である。
【0028】
本発明の方法で製造される磁気エンコーダは、以上のようにして得られた磁性ゴム成形品が着磁されてなる磁性体を備えたものである。当該磁性体は、S極及びN極を1組だけ有するものであっても構わないが、多くの場合、交互に磁極が配置された多極磁性体である。ただし、着磁態様はこれらに限られるものではない。当該磁性体の形状は特に限定されないが、回転運動を検出する際には、円盤状あるいは円筒状など、環状であることが好ましい。この場合には、S極とN極が円周方向に交互に配置されて角度を検出することができ、実用上最も重要な態様である。一方、直線運動を検出する用途などでは、平坦な帯状の磁性体であっても構わない。S極とN極が接近して形成され、各極の寸法が小さい場合に、高い保磁力が要求されるので、本発明の方法で製造される磁気エンコーダを採用する利益が大きい。
【0029】
本発明の方法で製造される磁気エンコーダは、必要に応じて当該磁性体を支持する支持部材を備える。当該支持部材は、金属部材、特に金属板であることが好ましい。磁性ゴム成形品と支持部材との接着方法は特に限定されず、磁性ゴム成形品を加硫する際に直接そのまま両者を接着しても構わない。しかしながら、本発明の磁性ゴム組成物を支持部材により強固に接着するためには、磁性ゴム成形品と前記支持部材とを、熱硬化性接着剤で接着することが好ましい。この場合、磁性ゴム組成物を成形して加硫させた後に熱硬化性接着剤を硬化させて、磁性ゴム成形品を熱硬化性接着剤で支持部材に固着させてもよいし、磁性ゴム組成物を成形して加硫させるのと同時に熱硬化性接着剤を硬化させて、磁性ゴム成形品を熱硬化性接着剤で支持部材に固着させてもよい。ここで用いられる熱硬化性接着剤は、熱によって架橋反応が進行して硬化するタイプの接着剤であれば特に限定されない。フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、未加硫ゴムを溶剤に溶かしたゴム糊、シランカップリング剤などを用いることができる。
【0030】
本発明の方法で製造される磁気エンコーダの好適な実施態様は、回転体に取り付け可能な支持部材と、該支持部材に装着された環状の磁性ゴム成形品を備え、該磁性ゴム成形品がN極とS極とが円周方向に交互に着磁された磁気エンコーダである。これは、回転運動を検出する磁気エンコーダとして有用である。細かい角度を精度よく測定する場合などに、高い保磁力を有する磁性ゴム成形品を備えた磁気エンコーダを採用する利益が大きい。
【0031】
本発明の方法で製造される磁気エンコーダの用途は特に限定されない。磁気エンコーダのうち、周方向に交互に磁極が配置された環状又は円盤状の多極磁性体を含むものは、回転運動を検出するセンサに用いられる。例えば、車軸の回転速度検出装置、クランク角検出装置、モーターの回転角度検出装置などに用いられる。また、直線方向に交互に磁極が配置された多極磁性体を含むものは、直線運動を検出するセンサに用いられる。例えば、リニアガイド装置、パワーウインドウ、パワーシート、ブレーキ踏み込み量検出装置、事務機器などに用いられる。中でも、車両用アンチロックブレーキシステムのセンサーローター用の磁気エンコーダとして用いることが、柔軟性と磁気特性に優れ、残留磁束密度と保磁力が高い本発明の方法で製造される磁気エンコーダの最も有用な用途である。
【実施例】
【0032】
実施例1
[未加硫ゴムシートの作製]
以下に示す原料を、8インチ径のオープンロールを用いて、組成物の温度を60〜100℃に維持して35分間混練し、厚さ1mm、1.5mm及び2mmの未加硫ゴムシートを作製した。
・ニトリルゴム(未水素添加:NBR):100質量部
アクリロニトリル含有量34%、ムーニー粘度(ML1+10、100℃)45
・ストロンチウムフェライト磁性粉A(磁場配向用):1100質量部
平均粒子径1.2μm(粒度分布において複数のピークを有する。)
圧縮密度3.6g/cm
圧縮体の残留磁束密度196mT
圧縮体の保磁力236kA/m
・可塑剤TOTM[トリメリット酸トリス(2−エチルへキシル)]:3質量部
・亜鉛華:4質量部
・ステアリン酸:3質量部
・老化防止剤[4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン]:5質量部
・固形パラフィン:2質量部
・硫黄:0.4質量部
・加硫促進剤MBTS(2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド):2質量部
・加硫促進剤TETD(テトラエチルチウラムジスルフィド):1.5質量部
【0033】
[加硫特性]
得られた未加硫ゴムシートを試料とし、JIS K6300−2に準拠し、株式会社エー・アンド・デイ製の「キュラストメーター7」を用いて測定した。測定温度180℃で5分間の加硫曲線を測定し、縦軸をトルク、横軸を時間としたグラフのトルクの最小値ML(kgf・cm)、最大値MH(kgf・cm)、MHの10%のトルクになるまでの時間t10(分)及びMHの90%のトルクになるまでの時間t90(分)を求めた。
【0034】
[機械特性]
JIS K6251に準拠して引張試験を行った。得られた未加硫ゴムシートを用い170℃で10分間プレス加硫して厚さ1mmの加硫ゴムシートを得た。得られた加硫ゴムシートを打ち抜いて得られた、ダンベル状3号形の試験片を用い、23℃、相対湿度50%において、引張速度500mm/分の引張速度で、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。その結果、引張強さは4.0MPaであり、伸びは30%であった。
【0035】
[硬度]
JIS K6253に準拠して測定した。引張試験と同様に作製した厚さ2mmの加硫ゴムシートを3枚重ね、タイプAデュロメータを用いて、23℃、相対湿度50%において測定を行い、ピーク値を読み取った。その結果、A硬度は90であった。
【0036】
[磁気特性]
得られた未加硫ゴムシートを用い、直径18mm、厚さ6mmの円盤状試験片を作成し、試験片の厚み方向に磁場をかけながら、170℃で10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得た。得られた成形品の残留磁束密度及び保磁力を、メトロン技研株式会社製の直流磁化特性試験装置「BHカーブトレーサー」によって測定した。その結果、残留磁束密度は300mTであり、保磁力は270kA/mであった。
【0037】
[支持部材への接着性]
支持部材(スリンガ)として、板厚0.6mmのSUS430からなる、断面L字型で円環状のものを用いた。当該支持部材の寸法は、内径側円筒部の内径が55mm、外側円輪部の外径が67mm、内径円筒部の軸方向長さが4.0mmであった。一方、得られた厚さ1.5mmの未加硫ゴムシートを、内径56mm、外径67mmのドーナツ状に打ち抜いて、フェノール樹脂を原料とする接着剤を予め塗布した支持部材上に載置した。引き続き、180℃で3分間プレス加硫して、内径56mm、外径67mm、厚さ1.0mmの磁性体を形成した。当該磁性体は支持部材に強固に接着しており、接着性は良好であった。以上の結果を表1にまとめて示す。
【0038】
実施例2
実施例1において、ストロンチウムフェライト磁性粉Aの代わりにストロンフェライト磁性粉Bを用いた以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。ストロンチウムフェライト磁性粉Bの特性は下記の通りである。得られた未加硫ゴムシートを用いて実施例1と同様にして、加硫特性、磁気特性、及び支持部材への接着性を測定した。結果を表1にまとめて示す。
平均粒子径1.14μm(粒度分布において1つのピークを有する。)
圧縮密度3.5g/cm
圧縮体の残留磁束密度185mT
圧縮体の保持力273kA/m
【0039】
実施例3
実施例1において、ニトリルゴム(NBR)の代わりに水素添加ニトリルゴム(HNBR)を用い、ステアリン酸の配合量を2質量部とし、硫黄の配合量を0.5質量部とした以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。ここで用いた水素添加ニトリルゴムの特性は下記の通りである。得られた未加硫ゴムシートを用いて実施例1と同様にして、加硫特性、磁気特性、及び支持部材への接着性を測定した。結果を表1にまとめて示す。
アクリロニトリル含有量36%
ムーニー粘度(ML1+10、100℃)57
ヨウ素価28g/100g
【0040】
比較例1
実施例1において、ストロンチウムフェライト磁性粉Aの代わりにストロンチウムフェライト磁性粉C(磁場配向用)を用いた以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。ストロンチウムフェライト磁性粉Cの特性は下記の通りである。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして、加硫特性、磁気特性、及び支持部材への接着性を測定した。結果を表1にまとめて示す。
平均粒子径1.4μm(粒度分布において1つのピークを有する。)
圧縮密度3.4g/cm
圧縮体の残留磁束密度185mT
圧縮体の保磁力207kA/m
【0041】
比較例2
実施例1において、ストロンチウムフェライト磁性粉Aの代わりにストロンチウムフェライト磁性粉D(機械配向用)を用い、磁場を印加せずにプレス加硫した以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。ストロンチウムフェライト磁性粉Dの特性は下記の通りである。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして、加硫特性、磁気特性、及び支持部材への接着性を測定した。結果を表1にまとめて示す。
平均粒子径1.1μm(粒度分布において1つのピークを有する。)
圧縮密度3.2g/cm
圧縮体の残留磁束密度193mT
圧縮体の保磁力235kA/m
【0042】
【表1】
【0043】
表1からわかるように、圧縮密度が3.5g/cm以上の磁性粉を用いて磁場を印加しながら加硫した実施例1〜3では、残留磁束密度、保磁力ともに高い磁性体を得ることができた。また、実施例1〜3では、加硫曲線におけるML値が小さく、成形時の流動性も良好であった。特に、磁性粉の粒度分布において複数のピークを有する実施例1では、ML値が特に低くなり、流動性が大きく改善されていることがわかる。一方、圧縮密度が3.5g/cm未満の磁性粉を用いて磁場を印加しながら加硫した比較例1の磁性体では、混練時に受けたせん断力によって保磁力が低下した。また、プレス加硫時に磁場を印加せず機械配向させた比較例2の磁性体では、磁性粉の配向が不十分であり残留磁束密度が小さくなった。