特許第5920977号(P5920977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920977球状シリカの製造方法及び半導体素子用封止材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920977
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】球状シリカの製造方法及び半導体素子用封止材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/12 20060101AFI20160510BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20160510BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C01B33/12 Z
   H01L23/30 R
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-111018(P2012-111018)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-129587(P2013-129587A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2015年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-255127(P2011-255127)
(32)【優先日】2011年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−258852(JP,A)
【文献】 特開2008−162813(JP,A)
【文献】 特開2003−048704(JP,A)
【文献】 特開2009−137798(JP,A)
【文献】 特開2003−128920(JP,A)
【文献】 特開昭60−166025(JP,A)
【文献】 特開2001−278612(JP,A)
【文献】 特開2011−011928(JP,A)
【文献】 特開平11−199220(JP,A)
【文献】 特開2002−287410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B33/00−33/193
H01L23/28−23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンインゴットから半導体チップ用又は太陽電池用の半導体に至るまでの製造工程の一部を兼ね、且つ、切断工程及び研削工程の少なくとも一方を含み、前記シリコンインゴットから体積平均粒径が5.5μm以下、0.01μm以上のシリコン粒子を含む加工屑を製造するシリコン粒子製造工程と、
前記シリコン粒子の粉塵を酸素を含有する気体中で生成し、その状態で反応させることで球状シリカを得る球状シリカ生成工程と、
を有することを特徴とする球状シリカの製造方法。
【請求項2】
前記加工屑は、
50質量%以上のケイ素元素を含み、
残部がC、N、O、Ge、又はSからなる請求項1に記載の球状シリカの製造方法。
【請求項3】
前記シリコン粒子製造工程及び研削工程は表面に、C、N、O、Ge、S、及びSi以外の元素を含まない砥粒を用いて行う請求項1又は2に記載の球状シリカの製造方法。
【請求項4】
前記シリコン粒子製造工程は有機物から構成される冷却液の存在下で行われており、
前記シリコン粒子製造工程と前記球状シリカ生成工程との間に前記シリコン粒子製造工程で得られた前記シリコン粒子と前記冷却液との混合物から前記冷却液を除去する固液分離工程をもつ請求項1〜3のうちの何れか1項に記載の球状シリカの製造方法。
【請求項5】
前記シリコン粒子製造工程により得られた前記シリコン粒子の表面に対し、疎水基を有するシランカップリング剤を接触させて表面疎水性シリコン粒子を生成する疎水化工程をもつ請求項1〜4のうちの何れか1項に記載の球状シリカの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちの何れか1項に記載の球状シリカの製造方法により球状シリカを製造する工程
前記球状シリカと熱硬化性樹脂組成物との混合物を調製する工程とを有する
前記シリコンインゴットから製造された半導体素子を封止するための半導体素子用封止材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状シリカを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球状シリカはその物理的・化学的な安定性が高いことや熱膨張率が樹脂などよりも低いことから、物理的強度や化学的な安定性が必要な分野におけるフィラーなどとして汎用されている。
【0003】
球状シリカを製造する方法としては、金属シリコン粒子を酸素と反応させる方法(いわゆるVMC法:Vaperized Metal Combustion)、石英などの二酸化シリコンの粒子を加熱溶融する方法(いわゆる熔融法)、物理化学的な方法(ゾルゲル法など)にて製造されることが一般的である。
【0004】
ここで純度が高い球状シリカが要求される分野に用いる場合にはVMC法やゾルゲル法などが球状シリカの粒径に応じて採用されることが多い。これらの方法では原料として純度を向上しやすい金属シリコンやシリコン化合物を用いるからである。特にVMC法では金属シリコンからなるシリコン粒子と酸素とを反応させて球状シリカの製造を行うため、金属シリコンの純度に応じた球状シリカが製造できる。
【0005】
純度が高い金属シリコンは半導体分野(ICチップの製造や太陽電池の製造など)での利用が中心になる。半導体分野では金属シリコンに対して制御されたドーパントをドーピングすることにより所望の性能を引き出しているため、金属シリコンとしては非常に高い純度のものを要求する。
【0006】
半導体分野では金属シリコンの表面近傍を利用しているため、金属シリコンから形成される薄板(シリコンウェハ)が多用されている。シリコンウェハの製造は純度が高い金属シリコンのインゴットを用意して切断(スライシング)することにより行う。その時に切断に伴う切断屑が生じることになる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−200772号公報
【特許文献2】特開2011−207753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、この切断屑が純度の高い金属シリコンインゴットに由来するため、純度の高い球状シリカを製造するための原料としては非常に好適なものにできる可能性に気が付いた。
【0009】
ところで、金属シリコンインゴットを切断する方法としては従来SiCの研磨材を懸濁したスラリ状の研磨液中にてワイヤーソー等により研磨することで行う方法が汎用されている。この方法によると切断速度が高くできるが、研磨により生成する切断屑中にSiCからなる研磨材が混入することになり、純度が高い金属シリコン粒子を得るためにはSiCを分離する必要があった(特許文献2)。特許文献2ではSiCと金属シリコン粒子とを含有する研磨液から金属シリコン粒子だけを分離する方法を開示している。
【0010】
また、従来のシリコン粒子の製造方法は、金属シリコンの塊を適宜粉砕することで行われている。粉砕は製造する粒子の粒径が小さくなるほど大きな投入エネルギーが必要であり、一定粒径より小さな粒子になるまで粉砕を行うことはコスト的な観点からも技術的な観点からも望ましくないため、ある程度の大きさ(小さくても十数μm程度から数十μm)にまで粉砕した後にVMC法に供することになる。
【0011】
しかしながら、VMC法において採用されるシリコン粒子の粒径は小さい方がシリコン粒子と酸素との反応に要するエネルギーを小さくすることが可能になってエネルギー低減の観点からは好ましい。
【0012】
本発明では上記実情に鑑み完成したものであり、できるだけ廉価にできるだけ高純度なシリカから構成される球状シリカを製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0013】
また、上記球状シリカの製造方法にて製造された球状シリカを含有する半導体素子用封止材の製造方法を提供することを別に解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。すなわち、シリコンウェハをスライシングする際に、SiCを含有する研磨材を用いること無く、表面にダイヤモンド砥粒を付着させたワイヤーソーを用いてスライシングを行うことにより得られた切断屑は、SiCを混入させることを無くすことができ、SiCに由来する不純物の量が低減できる。また、SiCを含有する研磨材を用いた工程から得られた切削屑の場合もVMC法により製造されたシリカに炭素などの不純物が残存しないことを見出したため、炭素の混入に関しての影響はない。また、残存しても問題が無い元素も存在する。ここで、ワイヤーソーなどにてシリコンインゴットをスライシングしていることにより、得られたシリコン粒子の粒径は粉砕により得られた粒子よりも小さくすることが容易である。例えば粉砕で得られるシリコン粒子の粒径は高々十数μm程度にしかできないが、ダイヤモンド砥粒を付着させたワイヤーソーによると更に細かいシリコン粒子を容易に得ることが可能になる。また、ワイヤーソー以外の方法にて切断を行うとしてもロスを低減するために切断の幅は小さくするので得られるシリコン粒子も小さくなる。
また、ワイヤーソーに付着させたダイヤモンド砥粒は万が一脱落してもVMC法で球状シリカを形成する際に二酸化炭素になって除去できるため、得られる球状シリカにおける純度に大きな影響を与えない。このような知見に基づき本発明者らは以下の発明を完成した。
【0015】
(1)すなわち、上記課題を解決する本発明の球状シリカの製造方法は、シリコンインゴットから半導体チップ用又は太陽電池用の半導体に至るまでの製造工程の一部を兼ね、且つ、切断工程及び研削工程の少なくとも一方を含み、前記シリコンインゴットから体積平均粒径が5.5μm以下、0.01μm以上のシリコン粒子を含む加工屑とを製造するシリコン粒子製造工程と、
前記シリコン粒子の粉塵を酸素を含有する気体中で生成し、その状態で反応させることで球状シリカを得る球状シリカ生成工程と、
を有することを特徴とする。
ここで、「体積平均粒径」はレーザー回折・散乱法にて測定される値である。
【0016】
上述した(1)に記載の球状シリカの製造方法は以下に記す(2)〜(5)のうちの少なくとも1つの構成を付加することができる。(2)前記加工屑は、50質量%以上のケイ素元素を含み、残部がC、N、O、Ge、又はSからなる。残部としてこれらの元素が混入しても球状シリカ生成工程において酸素と反応して蒸散するか又はシリカ中にて安定化されるため、混合が許容される。更にはこれらの元素の存在が必要であれば積極的に混合が求められることも考えられる。(3)前記シリコン粒子製造工程は表面に、C、N、O、Ge、S、及びSi以外の元素を実質的に含まない砥粒を用いて行う。(4)前記シリコン粒子製造工程は有機物から構成される冷却液の存在下で行われており、前記シリコン粒子製造工程と前記球状シリカ生成工程との間に前記シリコン粒子製造工程で得られた前記シリコン粒子と前記冷却液との混合物から前記冷却液を除去する固液分離工程をもつ。(5)前記シリコン粒子製造工程により得られた前記シリコン粒子の表面に対し、疎水基を有するシランカップリング剤を接触させて表面疎水性シリコン粒子を生成する疎水化工程をもつ。シリコンインゴットから得られたシリコン粒子の表面を疎水化することによりその後に行う球状シリカ生成工程時にシリコン粒子がバラバラになりやすくなってシリコン粒子と酸素との反応を円滑に進行することができる。(6)上記課題を解決する本発明の半導体素子用封止材は、上述した(1)〜(5)のうちの何れかに記載の球状シリカの製造方法により製造された球状シリカと熱硬化性樹脂組成物との混合物であって、前記シリコンウェハから製造された半導体素子を封止することを特徴とする。
【0017】
(1)〜(5)に記載された球状シリカの製造方法はシリコンウェハなども併せて製造する方法であるため、球状シリカの生産量はシリコンウェハの生産量と連動させることが可能になる。そのため、球状シリカの量をシリコンウェハなどの生産量に併せて適正に制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例においてシリコン粒子から球状シリカを製造するときに用いた製造装置を示す概略図である。
図2】実施例においてシリコン粒子から球状シリカを製造するときに用いた製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の球状シリカの製造方法及び半導体素子用封止材について実施形態に基づき詳細に説明する。なお、本発明の球状シリカの製造方法及び半導体素子用封止材は以下の実施形態の態様に制限されるものでは無く、発明の趣旨を逸脱しない限度でその構成を変化させることができる。
【0020】
(球状シリカの製造方法)
本実施形態の球状シリカの製造方法はシリコン粒子製造工程と球状シリカ生成工程とその他必要に応じて採用されるその他の工程とを有する。
【0021】
シリコン粒子製造工程はシリコンインゴットから半導体チップ用又は太陽電池用の半導体に至るまでの製造工程の一部(切断工程及び研削工程の少なくとも一方を含む)を兼ねる工程である。ここで本工程ではシリコン粒子の他、シリコンウェハや半導体などが製造される。シリコンウェハなどは、その後、半導体チップ(集積回路など)や太陽電池を作成するための後工程に供されることもある。シリコンインゴットから半導体にいたるまでの製造工程(シリコン粒子製造工程)について参考までに補足する。シリコン粒子製造工程としてはシリコンウェハを製造する工程(シリコンウェハ製造工程)とシリコンウェハに対して加工を行い半導体を製造する工程(半導体製造工程)とに大別できる。シリコンウェハや半導体を製造する時には種々の加工が行われてシリコン粒子が生成する。その加工の種類については特に限定しないが、一般的に行われている加工を例示する。シリコンインゴットを製造した後、円筒研削、ブロック切断、スライシング、面取り、ラッピング、エッチング、ポリッシングの加工工程を経てシリコンウェハが製造される。その後半導体として完成する過程において、バックグラインド、ダイシングが行われる。これらの工程においてそれぞれシリコン粒子が生成する。それぞれの工程毎に生成するシリコン粒子の特性(粒径分布、純度、不純物の混入量など)が異なるため、必要な特性をもつシリコン粒子が得られる工程にて生成したシリコン粒子を選択的に採用することもできる。
【0022】
本工程では、シリコンウェハなどと加工屑とが生成する。加工屑にはシリコンインゴットが削れることに由来するシリコン粒子と切断工程や研削工程に用いた加工装置に由来する粒子とを含む。シリコン粒子は体積平均粒径が5.5μm以下、0.01μm以上である。加工屑全体としてもこの粒径分布を示すこと(例えば上述の粒径範囲に体積基準で80%以上の粒子が含まれること)が望ましい。
【0023】
本工程がもつ切断工程及び研削工程では砥粒を用いることが望ましい。切断工程では表面に砥粒を付着させたワイヤーソーや円板状の砥石などにより行うことができる。研削工程では何らかの液体中に砥粒を分散させた研削液を用いて研削を行うことができる。砥粒としてはC、N、O、S、Ge、及びSi以外の元素を実質的に含まないものを採用することが望ましい。例えばダイヤモンド砥粒、SiC砥粒、シリカ砥粒である。ダイヤモンド砥粒だけを採用すると不純物の混入が少なくなるため望ましい。
【0024】
シリコン粒子製造工程は有機物からなる冷却液の存在下で行うことが望ましい。有機物としてはジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。冷却液中には最終的製造する球状シリカに混入しない方が望ましい物質が含まれないことが望ましい。なお、シリカ粒子からなる砥粒を含有する場合には本製造方法により製造された球状シリカを用いることが望ましい。
【0025】
シリコンインゴットは金属シリコン及び先述したような混合が許容される元素から形成される。シリコンインゴットを形成する金属シリコンの純度はシリコンウェハに要求される純度に調整されている。純度の調整方法は常法により行うことができる。
【0026】
ワイヤーソーを採用する場合について説明を行う。ワイヤーソーはワイヤーの表面にダイヤモンド砥粒などの砥粒を付着させたものである。付着させる砥粒としては特に限定されず前述のものが採用できる。砥粒をワイヤーに付着させる方法についても限定しないがワイヤーの表面から脱離したときに不純物にならないような組成(有機物などが望ましい)であることが望ましい。ワイヤーの素材・形態としては特に限定しない。ワイヤーソーは複数のワイヤーソーを並列に用いるマルチワイヤーソーとして用いることもできる。
【0027】
得られるシリコン粒子の粒径は体積平均粒径で5.5μm以下である。シリコン粒子の粒径が5.5μm以下になるとVMC法に要するエネルギーを小さくすることができる。更には3.5μm以下にすることで更に投入エネルギー量を小さくできる。詳しくは実施例にて説明する。また、比表面積としては大きい方がエネルギー投入量を減らすことができる。比表面積としては3.6m/g以上にすることが望ましく、3.9m/g以上にすることが更に望ましい。
【0028】
得られるシリコンウェハの厚みはシリコンウェハの用途により適正に決定される。サブミリオーダーからミリオーダー程度にすることが通常である。得られたシリコンウェハはその後表面にラッピング加工を行い平滑にする。
【0029】
球状シリカ生成工程はいわゆるVMC法と称する方法である。VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中にシリコン粒子を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせてシリカ粒子を得る方法である。
【0030】
VMC法の作用について説明すれば以下のようになる。まず、容器中に反応ガスである酸素を含有するガスを充満させ、この反応ガス中で化学炎を形成する。次いで、この化学炎にシリコン粒子を投入し高濃度(例えば500g/m以上)の粉塵雲を形成する。すると、化学炎によりシリコン粒子表面に熱エネルギーが与えられ、シリコン粒子の表面温度が上昇し、シリコン粒子表面から金属シリコンの蒸気が周囲に広がる。この金属シリコン蒸気が酸素ガスと反応して発火し火炎を生じる。この火炎により生じた熱は、さらにシリコン粒子の気化を促進し、生じた金属シリコン蒸気と反応ガスが混合され、連鎖的に発火伝播する。従って、シリコン粒子の粒径は小さいほど比表面積が大きくなり反応性が向上することから投入するエネルギーを少なくできる。
【0031】
このように連鎖的な発火が進行することによってシリコン粒子自体も破壊して飛散し、火炎伝播を促す。燃焼後に生成ガスが自然冷却されることにより、シリカ粒子(球状シリカ)の雲ができる。得られた球状シリカは、バグフィルターや電気集塵器等により捕集される。
【0032】
VMC法は粉塵爆発の原理を利用するものである。VMC法によれば、瞬時に大量の球状シリカが得られる。得られる球状シリカは、略真球状の形状をなす。投入するシリコン粒子の粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、得られる球状シリカの粒子径分布を調整することが可能である。また、原料物質としてはシリコン粒子に加えて、シリカ粉末も添加することができる。シリカ粉末は本方法により得られる球状シリカ粉末を採用することで得られる球状シリカ粉末の純度を保つことができる。
【0033】
(その他の工程)
・固液分離工程:シリコン粒子製造工程において冷却液を用いた場合には冷却液とシリコン粒子とを分離する固液分離工程を行う。固液分離工程は、冷却液中にシリコン粒子が分散した状態からシリコン粒子と冷却液とを分離する工程である。固液分離工程は特に限定しないが、シリコン粒子を凝集させる凝集剤を添加して後にろ過などにより分離する方法が挙げられる。凝集剤としては特に限定しないが、ゼータ電位によるシリコン粒子間の反発を抑制する無機イオンを含有する無機凝集剤が望ましい。
・疎水化工程:シリコン粒子製造工程により得られたシリコン粒子の表面を疎水化する疎水化工程をもつことができる。疎水化工程はシリコン粒子の表面に疎水基を有するシランカップリング剤を反応させることにより行う。疎水基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基、フェニル基等の芳香族基などが例示できる。疎水基を導入することにより水中にて凝集させることが可能になり水中でのろ過洗浄による高純度化が容易になる。
【0034】
(半導体素子用封止材)
本実施形態の半導体素子用封止材は上述した球状シリカの製造方法により製造された球状シリカとその球状シリカを分散する熱硬化性樹脂組成物とを有する。この半導体素子用封止材が封止する半導体素子は前述した製造方法にて製造されたシリコンウェハから製造された半導体素子である。
【0035】
球状シリカについては上述した通りなので更なる説明は省略する。球状シリカは全体の質量を基準として40質量%以上含有することが望ましく、更には50質量%以上含有することがより望ましい。
【0036】
熱硬化性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂、オキシラン樹脂、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルトエステル化合物、ビニル化合物などが挙げられ、これらの化合物を単独で、又は複数種類混合して用いることができる。
【0037】
特に、エポキシ樹脂が入手性、取扱性などの観点から好ましい。エポキシ樹脂は特に限定されないが、1分子中に2以上のエポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマーが挙げられる。例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0038】
エポキシ樹脂以外の具体例としては、フェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシド、エピクロロヒドリンなどのオキシラン化合物;トリメチレンオキサイド、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタンなどのオキセタン化合物;テトラヒドロフラン、2,3−ジメチルテトラヒドロフラン、トリオキサン、1,3−ジオキソフラン、1,3,6−トリオキサシクロオクタンなどの環状エーテル化合物;β−プロピオラクトン、ε−カプロラクトンなどの環状ラクトン化合物;エチレンスルフィド、3,3−ジメチルチイランなどのチイラン化合物;1,3−プロピンスルフィド、3,3−ジメチルチエタンなどのチエタン化合物;テトラヒドロチオフェン誘導体などの環状チオエーテル化合物;エポキシ化合物とラクトンとの反応によって得られるスピロオルトエステル化合物;スピロオルトカルボナート化合物;環状カルボナート化合物;エチレングリコールジビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテルなどのビニル化合物;スチレン、ビニルシクロヘキセン、イソブチレン、ポリブタジエンなどのエチレン性不飽和化合物が例示できる。カチオン重合性化合物としては、エポキシ樹脂及びこれらの化合物を単独で、又は複数種類混合して用いることができる。
【0039】
エポキシ樹脂を採用した場合などに添加する硬化剤としては1級アミン、2級アミン、フェノール樹脂、酸無水物を用いることがあり、硬化触媒としてはブレンステッド酸、ルイス酸、塩基性触媒などが用いられる。塩基性触媒としては、イミダゾール系、ジシアンジアミド系、アミンアダクト系、ホスフィン系、ヒドラジド系が用いられる。
【実施例】
【0040】
(試験1)
VMC法において着火エネルギーとシリコン粒子の粒径との関係を検討した。
【0041】
シリコン粒子としては本発明のシリコン粒子製造工程の条件を変化させて得た種々の粒径分布を持つシリコン粒子を用いた。具体的には体積平均粒径が1.0μm(試験例1)、3.5μm(試験例2)、5.5μm(試験例3)、7.8μm(試験例4)、18.5μm(試験例5)のシリコン粒子を試験に供した。
【0042】
これらの試験例のシリコン粒子について比表面積と着火に必要なエネルギーとを測定した。比表面積は窒素ガスを用いたBET法にて測定した。着火エネルギーの測定は着火エネルギー装置及び吹き上げ式粉じん爆発試験装置を組み合わせ測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1より明らかなように、体積平均粒径が5.5μm(試験例3)を超えると(特に3.5μmを超えると)着火エネルギーが急激に大きくなることが明らかになった。従って、シリコン粒子の体積平均粒径としては5.5μm以下(特には3.6μm以下)にすることにより着火エネルギーを小さくすることが可能になることが分かった。
【0045】
また、比表面積が3.6m/gより小さい(特に3.9m/gより小さいと)着火エネルギーが急激に大きくなることが明らかになった。従って、シリコン粒子の比表面積としては3.6m/g以上(3.9m/g以上)にすることにより着火エネルギーを小さくすることが可能になることがわかった。
【0046】
体積平均粒径が0.01μm以上にすると粉じん爆発の可能性を小さくできるため、工業的には、体積平均粒径が5.5μm以下、0.01μm以上のシリコン粒子を用いると着火エネルギーが小さくなることにより燃焼が安定するため好ましい。
【0047】
(試験2)
試験例2−1
エチレングリコールを冷却液として用いてシリコンインゴットをダイヤモンドワイヤーソーでスライスした時(シリコン粒子製造工程)に発生したエチレングリコールのシリコン粒子懸濁液(シリコン粒子の体積平均粒径は1.0μm)をセラミックスフィルターで濃縮したのち、脱イオン水を入れて、鉱酸でpHを5に調整した。シリコン粒子100質量部に対してメチルトリメトキシシラン1.5質量部添加して表面処理を行った(疎水化工程)。フィルタープレスで固液分離し、ケーキを脱イオン水で洗浄した(固液分離工程及び洗浄工程)。ケーキを乾燥して試験例2−1の表面疎水性シリコン粒子を得た。
試験例2−2
エチレングリコールを冷却液として用いてシリコンインゴットをダイヤモンドワイヤーソーでスライスした時(シリコン粒子製造工程)に発生したエチレングリコールのシリコン粒子懸濁液(シリコン粒子の体積平均粒径は1.0μ)を遠心分離機で固液分離し、ケーキを脱イオン水で洗浄した(固液分離工程及び洗浄工程)。ケーキを乾燥して試験例2−2のシリコン粒子を得た。
【0048】
・球状シリカ生成工程(その1)
試験例2−1及び2−2のシリコン粒子についてVMC法により球状シリカを製造した。以下、具体的に説明する。図1に本工程で使用した製造装置の概要を示す。この製造装置は、反応室10をもつ反応容器1と、反応容器1の上部に設けられ反応室10に開口する燃焼器2と、反応容器1の下部側壁に設けられ反応室10と連通する捕集装置3と、ホッパー4と、ホッパー4内の原料粉末を燃焼器2へ供給する粉末供給装置5とから構成されている。
【0049】
燃焼器2は、図2に拡大して示すように、軸中心に設けられ反応室10に開口する粉末供給路20と、粉末供給路20と同軸的に設けられ反応室10にリング状に開口する可燃ガス供給路21と、可燃ガス供給路21の外側に同軸的に設けられ反応室10にリング状に開口する酸素供給路22とから構成されている。捕集装置3は、反応室10に開口する排気管30と、排気管30の他端に接続されたバグフィルタ31と、ブロア32とからなり、ブロア32の駆動により反応室10内の燃焼排ガスを吸引して排気するとともに、生成した球状シリカを捕集する。なお、ブロア32の吸引により、反応室10内は負圧に保たれる。
【0050】
上記した製造装置を用い、以下に示す製造方法により球状シリカを製造した。試験例2−1にて得た、体積平均粒径1.0μmのシリコン粒子(純度99.9%以上)を原料にした。
【0051】
このシリコン粒子をホッパ4に投入し、粉末供給装置5から空気とともに反応室10内に供給した。このときシリコン粒子は80kg/hrの割合で供給され、搬送空気の量は20Nm3 /hrであった。また、着火用の燃料である可燃ガスは、可燃ガス供給路21から7Nm3 /hrの量で供給され、支燃性ガスである酸素ガスは、酸素供給路22から140Nm3 /hrの量で供給した。
【0052】
すなわち粉末供給装置5から燃焼器2へ供給された混合粉末は、酸素ガスとともに連続的に可燃ガスの燃焼により形成された着火炎で着火され、爆発的に燃焼して火炎を生成した。この火炎は燃焼器2から反応室10に延び、生成した球状シリカが捕集装置3により捕集される。この操作を表2に示す時間だけ継続して行った。
【0053】
試験例5のシリコン粒子を原料として同様の操作を行い球状シリカを得た。このようにして得られた球状シリカについて、粒径、比表面積をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より明らかなようにこの結果から、試験例2−1のシリコン粒子を原料として用いると、試験例5のシリコン粒子を原料に用いた場合と比べて粒径及び比表面積のバラツキが小さくなることが分かった。これは試験例2−1のシリコン粒子が試験例5のシリコン粒子よりも体積平均粒径が小さく、特に試験例2−1のシリコン粒子の体積平均粒径が1.0μmと5.5μmよりも小さかったため着火エネルギーが小さくなって安定的な火炎を生成することができたことが一因であると推測された。
【0056】
・球状シリカ生成工程(その2)
球状シリカ生成工程(その1)に記した装置と同様な製造装置を用い、試験例2−2のシリコン粒子と試験例5のシリコン粒子とを原料に用いて球状シリカを製造した。
【0057】
これらのシリコン粒子をホッパ4に投入し、粉末供給装置5から空気とともに反応室10内に供給した。このときシリコン粒子は60kg/hrの割合で供給され、搬送空気の量は15Nm3 /hrであった。また、着火用の燃料である可燃ガスは、可燃ガス供給路21から0.5Nm3 /hrの量で供給し、支燃性ガスである酸素ガスは、酸素供給路22から70Nm3 /hrの量で供給した。
【0058】
すなわち粉末供給装置5から燃焼器2へ供給された混合粉末は、酸素ガスとともに連続的に可燃ガスの燃焼により形成された着火炎で着火され、爆発的に燃焼して火炎を生成した。この火炎は燃焼器2から反応室10に延び、生成した二酸化珪素粉末が捕集装置3により捕集された。このようにして得られる球状シリカについて、粒径、比表面積をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3より明らかなようにこの結果から、試験例2−2のシリコン粒子を原料として用いると、試験例5のシリコン粒子を原料に用いた場合と比べて粒径及び比表面積のバラツキが小さくなることが分かった。これは試験例2−2のシリコン粒子が試験例5のシリコン粒子よりも体積平均粒径が小さく、特に試験例2−2のシリコン粒子の体積平均粒径が1.0μmと5.5μmよりも小さかったため着火エネルギーが小さくなって安定的な火炎を生成することができたことが一因であると推測された。なお、本試験において搬送空気の供給速度、可燃ガスの供給速度、支燃ガスの供給速度をその1の試験の条件から変化させていることにより、試験例2−1のシリコン粒子を用いた場合よりも試験例2−2のシリコン粒子を用いて得られた球状シリカの平均粒径が大きくなった。
【0061】
なお、疎水化されたシリコン粒子は凝集性が低いため、疎水化していない場合と比べて、搬送空気の供給速度を相対的に小さくすることができ、最終的に得られる球状シリカの体積平均粒径などを変化させる幅を大きくすることも原理的に可能である。
【0062】
(試験3)
シリコン粒子製造工程にて採用する砥粒の組成の影響についての検討
試験2−1にて用いた表面疎水性シリコン粒子についてSiC粒子を混合した以外、同様の方法にて試験を行った。得られた球状シリカ粒子について炭素の含有量を測定したが検出限界(1質量%)以下であった。なお、SiCの混合量は11%、33%、55%とした。
【符号の説明】
【0063】
10:反応室 1:反応容器 2:燃焼器 3:捕集装置 4:ホッパー 5:粉末供給装置
図1
図2