(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機溶媒(D)が、ラクトン系溶媒及び含窒素化合物系溶媒を含有しないことを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、ラクトン系溶媒に対する溶解性が高いものの、グリコールエーテル系溶媒に対する溶解性は低い。よって、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とグリコールエーテル系溶媒を組み合わせて用いると、インクの吐出安定性及び保存安定性が低下する。
【0005】
また、ラクトン系溶媒を含むインク組成物は、水に接すると、該ラクトン系溶媒が加水分解を起こす。従って、湿気が高いと、インク組成物中のラクトン系溶媒が加水分解を起こす結果、インク組成物と接触した金属、例えばインクジェットプリンタの金属部品が腐食したり、インク組成物中の顔料が凝集を起こしたりする傾向がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ラクトン系溶媒の使用を必要としないポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物であって、耐エタノール性に優れた印刷物を形成可能で且つ吐出安定性及び保存安定性に優れるポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の分子量分布及び単量体単位の質量比を持つ塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、特定の構造を有するグリコールエーテル系溶媒を組み合わせることにより、耐エタノール性に優れた印刷物を形成可能で且つ吐出安定性及び保存安定性に優れるポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明のポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物は、顔料(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)と、顔料分散剤(C)と、下記式(1):
R
1O−(AO)n−R
2 ・・・(1)
[式中、AOは、炭素数が2又は3のアルキレンオキサイドであり、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、nは、1〜4の整数である]によって表される化合物を含有する有機溶媒(D)とを含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とする。
【0009】
本発明のポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物の好適例は、前記有機溶媒(D)が、ラクトン系溶媒及び含窒素化合物系溶媒を含有しない。
【0010】
本発明のポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物の他の好適例において、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、重量平均分子量が50,000〜80,000である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐エタノール性に優れた印刷物を形成可能で且つ吐出安定性及び保存安定性に優れるポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物(以下、単に本発明のインク組成物とも称する)を詳細に説明する。本発明のインク組成物は、顔料(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)と、顔料分散剤(C)と、式(1):R
1O−(AO)n−R
2[式中、AOは、炭素数が2又は3のアルキレンオキサイドであり、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、nは、1〜4の整数である]によって表される化合物を含有する有機溶媒(D)とを含み、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とする。本発明のインク組成物は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂の溶解性を確保するためにラクトン系溶媒を使用する必要がないため、インク組成物と接触した金属、例えばインクジェットプリンタの金属部品が腐食したり、インク組成物中の顔料が凝集を起こしたりすることを防ぐことができる。従って、本発明のインク組成物は、インクジェットプリンタによる印刷時に、金属部品の腐食や顔料の凝集に起因するノズル詰まりも防ぐことができる。
【0013】
本発明のインク組成物に用いる顔料(A)は、特に限定されず、体質顔料、着色顔料等の公知の顔料を使用することができる。例えば、着色顔料としては、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、31、55、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、181、185、ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、244、254、ピグメントバイオレット19、23、29、30、32、37、40、50、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、30、64、80、ピグメントグリーン7、36、ピグメントブラウン23、25、26、ピグメントブラック7、26、27、28、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄、群青、黄鉛、硫化亜鉛、コバルトブルー、硫酸バリウム、ジルコニア、アルミナ、炭酸カルシウム、樹脂ビーズ等を挙げることができる。なお、これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明のインク組成物において、顔料(A)の配合量は、顔料の種類等によって任意に決定できるものの、通常0.1〜15質量%であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0014】
本発明のインク組成物は、上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)を含むため、ポリ塩化ビニル基材に対する密着性が高い印刷物を形成することができる。また、上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、式(1)で表される化合物を含有する有機溶媒(D)に対する溶解性が高いため、インクの吐出安定性及び保存安定性に優れる。
【0015】
上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、重量平均分子量/数平均分子量(分子量分布)が5.0〜7.0であることを要する。該分子量分布が5.0未満では、印刷物の耐エタノール性が低下し、一方、7.0を超えると、有機溶媒(D)に対する溶解性が低下し、インクの吐出安定性及び保存安定性が悪化する。また、上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、重量平均分子量が50,000〜80,000であることが好ましい。該重量平均分子量が上記特定した範囲内にあれば、有機溶媒(D)に対する溶解性及び耐エタノール性を更に向上させることができる。なお、本発明において、重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布は、ゲル濾過クロマトグラフィーで測定した値であり、標準物質にはポリスチレンが使用され、移動相にはテトラヒドロフランが使用される。
【0016】
上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、懸濁重合や乳化重合など既知の重合法を用いて合成できるが、分子量分布の調整の観点から、末端にイオン性基を有する重合開始剤を用いた乳化重合が好ましい。また、分子量分布の調整には、重合開始剤と連鎖移動剤を併用することが好ましく、該連鎖移動剤の使用量を適宜調整することによって、分子量分布を容易に調整することが可能となる。
【0017】
また、上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であることを要する。なお、塩化ビニル単位は、塩化ビニルに由来する単量体単位であり、酢酸ビニル単位は、酢酸ビニルに由来する単量体単位である。ここで、樹脂(B)を構成する単量体単位の全体に占める塩化ビニル単位の割合が80質量%未満では、印刷物の耐エタノール性が低下し、一方、90質量%を超えると、有機溶媒(D)に対する溶解性が低下する。
【0018】
更に、上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となる。該ヘイズ値が10.0%を超えると、有機溶媒(D)に対する溶解性が低下し、インクの吐出安定性及び保存安定性が悪化する。上記樹脂溶液のヘイズ値は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量分布との関連性が高く、例えば、分子量分布が5.0未満であるか又は7.0を超えると、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂の溶解性が低くなり、ヘイズ値は大幅に上昇することになる。なお、ヘイズ値は、ヘイズメーターを用いることによって測定でき、本発明においては、攪拌温度30℃、攪拌速度500〜1,200rpm及び攪拌時間2時間の条件下で調製された樹脂溶液に対してヘイズメーターNDH5000(日本電色工業株式会社製)を用いて測定された値である。
【0019】
本発明のインク組成物において、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)の配合量は、2.0〜5.0質量%が好ましい。該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)の配合量が2.0質量%未満では、印刷物の耐エタノール性が低下する場合があり、一方、5.0質量%を超えると、インクの保存安定性が低下する場合がある。
【0020】
本発明のインク組成物に用いる顔料分散剤(C)は、顔料分散性及びインクの保存安定性を向上させる役割を果たす。なお、顔料分散剤(C)には、樹脂も含まれ得るが、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)以外の樹脂である。顔料分散剤(C)としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアミドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアミドと酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合体、酸末端ポリエステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。これら顔料分散剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記顔料分散剤(C)は、例えばポリスチレン換算数平均分子量が1,000〜10,000であることが好ましい。なお、本発明のインク組成物において、顔料分散剤(C)の配合量は、顔料の種類等によって任意に決定されるが、通常、0.1〜15質量%が好ましい。顔料分散剤(C)の配合量が上記好適な範囲から外れると、インクの保存安定性が低下する場合がある。
【0021】
本発明のインク組成物に用いる有機溶媒(D)は、下記式(1):
R
1O−(AO)n−R
2 ・・・(1)
[式中、AOは、炭素数が2又は3のアルキレンオキサイドであり、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、nは、1〜4の整数である]によって表される化合物を含有することを要する。上記式(1)で表される化合物を用いることにより、上記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)の溶解性を改善することができる。本発明のインク組成物において、有機溶媒(D)の配合量は、80〜95質量%が好ましい。有機溶媒(D)の配合量が80質量%未満では、インクの粘度が高くなり、吐出が不良になる場合があり、一方、95質量%を超えると、色味が薄くなったり、印刷物の耐エタノール性が低下したりする場合がある。なお、有機溶媒(D)中における式(1)で表される化合物の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上が更に好ましい。また、有機溶媒(D)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、有機溶剤(D)は、上記顔料分散剤(C)以外の物質である。
【0022】
上記式(1)において、AOは、炭素数が2又は3のアルキレンオキサイドであり、具体的には、−C
2H
4−O−、−C
3H
6−O−等が挙げられる。なお、上記アルキレンオキサイドの末端炭素原子がR
1Oの酸素原子と結合している。
【0023】
また、上記式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0024】
更に、上記式(1)において、nは、1〜4の整数であり、1〜2の整数が好ましい。
【0025】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジノルマルブチルエーテル、ジエチレングリコールノルマルブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールノルマルブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。なお、これら化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明のインク組成物に用いる有機溶媒(D)は、上記式(1)で表される化合物以外の溶媒を含有してもよいが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。
【0027】
また、本発明のインク組成物に用いる有機溶媒(D)は、ラクトン系溶媒を含有しないことが好ましいが、本発明の目的を害しない範囲であれば含有することもできる。ラクトン系溶媒としては、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0028】
更に、本発明のインク組成物に用いる有機溶媒(D)は、含窒素含有化合物系溶媒を含有することもできるが、含窒素含有化合物系溶媒は、高温時のインク保存安定性を悪化させる場合があるため、含窒素含有化合物系溶媒を含有しないことが好ましい。含窒素含有化合物系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等の含窒素化合物が挙げられる。
【0029】
本発明のインク組成物には、インク業界で通常使用される添加剤、例えば、可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定剤、酸化防止剤等を本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0030】
本発明のインク組成物は、上記顔料(A)、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)、顔料分散剤(C)及び有機溶媒(D)と、必要に応じて適宜選択される各種成分とを混合し、必要に応じて、使用するインクジェットプリントヘッドのノズル径の約1/10以下のポアサイズを持つフィルターを用い、得られた混合物を濾過することによって、調製できる。
【0031】
また、本発明のインク組成物は、通常のインクジェット印刷用インク組成物と同様に、インクジェットプリンタによる印刷に適した特性を備えていることが望ましく、例えば、粘度は1〜100cP(20℃)であることが好ましく、表面張力は2×10
-2〜6×10
-2N/mであることが好ましく、比重は0.8〜1.2であることが好ましい。
【0032】
本発明のインク組成物は、種々のインクジェットプリンタに使用することができる。インクジェットプリンタとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインク組成物を噴出させるインクジェットプリンタを挙げることができる。また、本発明のインク組成物は、特に大型インクジェットプリンタ(例えばラージフォーマットインクジェットプリンタ)、具体例としてはサインディスプレイ等の屋外用物品に印刷することを目的としたインクジェットプリンタによる印刷に好適に適用できる。
【0033】
本発明のインク組成物は、上述のように、ポリ塩化ビニル基材へのインクジェットプリンタを用いた印刷に使用することが可能なインク組成物であるが、ここで、ポリ塩化ビニル基材は、特に限定されず、基材の用途に応じて、様々な形状の基材を選択することができる。ポリ塩化ビニル基材の用途としては、例えば、サインディスプレイ等の屋外用物品が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(製造例1)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製>
2.0Lオートクレーブ(製番NO.109:日東反応機製作所社製)中に、脱イオン水670g、塩化ビニル単量体510g、酢酸ビニル単量体80g、及び5質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)水溶液60gを仕込み、温度を66℃に上げて、3質量%過硫酸カリウム(重合開始剤)水溶液3g及び酢酸ビニル単量体10gにドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.055gを溶解させた溶液を仕込み、乳化重合を開始した。温度を66℃に保ちつつ、重合開始から60分経過した後、5質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液130gと5質量%ラウリン酸カリウム(界面活性剤)水溶液46gを290分間かけて連続添加した。最終的に遠心分離機を用いて、乾燥後、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を下記方法により測定したところ、重量平均分子量が57,848であり、数平均分子量が10,593であり、分子量分布が5.5であり、ヘイズ値が1.1%であった。
【0036】
(製造例2)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Bの調製>
ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.055gをドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.045gに変更した以外は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製例と同様にして調製を行い、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Bを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を下記方法により測定したところ、重量平均分子量が65,929であり、数平均分子量が10,732であり、分子量分布が6.1であり、ヘイズ値が1.4%であった。
【0037】
(製造例3)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Cの調製>
ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.055gをドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.035gに変更した以外は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製例と同様にして調製を行い、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Cを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を下記方法により測定したところ、重量平均分子量が74,675であり、数平均分子量が10,945であり、分子量分布が6.8であり、ヘイズ値が1.9%であった。
【0038】
(製造例4)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Dの調製>
ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.055gをドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.065gに変更した以外は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製例と同様にして調製を行い、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Dを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を下記方法により測定したところ、重量平均分子量が43,046であり、数平均分子量が9,112であり、分子量分布が4.7であり、ヘイズ値が48.9%であった。
【0039】
(製造例5)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Eの調製>
ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.055gをドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.025gに変更した以外は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製例と同様にして調製を行い、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Eを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を下記方法により測定したところ、重量平均分子量が85,046であり、数平均分子量が11,439であり、分子量分布が7.4であり、ヘイズ値が71.2%であった。
【0040】
(製造例6)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Fの調製>
ステンレス鋼製のオートクレーブ(製番NO.109:日東反応機製作所社製)中に、加水分解率(ケン化度)80モル%のポリビニルアルコール(分散剤)1.8gを水中に溶解した溶液900g、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.39g、酢酸ビニル単量体10gにドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)を0.06g溶解させた溶液、及び酢酸ビニル35gを仕込んだ後、蓋を閉め、オートクレーブを−20℃に冷却した。次に、蓋を開け、充分に冷却したロートを用いて、液状塩化ビニルモノマー255gを仕込み、撹拌しながらオートクレーブを58℃にまで昇温し、この温度で懸濁重合反応を進めた。9時間後に圧力が3kg/cm
2G以下になったので、重合反応を終了した。残留モノマーは、パージ口より除去し、窒素置換を行い、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Fを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を上記方法により測定したところ、重量平均分子量が58,212であり、数平均分子量が10,620であり、分子量分布が5.5であり、ヘイズ値が9.5%であった。
【0041】
(製造例7)
<塩化ビニル単独重合体樹脂Gの調製>
塩化ビニル単量体510g及び酢酸ビニル単量体90gを塩化ビニル単量体600gに変更した以外は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製例と同様にして調製を行い、塩化ビニル単独重合体樹脂Gを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を上記方法により測定したところ、重量平均分子量が58,445であり、数平均分子量が10,423であり、分子量分布5.6であり、ヘイズ値が55.6%であった。
【0042】
(製造例8)
<塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Hの調製>
塩化ビニル単量体510g及び酢酸ビニル単量体90gを塩化ビニル単量体450g及び酢酸ビニル単量体150gに変更した以外は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Aの調製例と同様にして調製を行い、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂Hを粉末で得た。重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布及びヘイズ値を上記方法により測定したところ、重量平均分子量が56,025であり、数平均分子量が10,511であり、分子量分布5.3であり、ヘイズ値が2.5%であった。
【0043】
<重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mn>
重量平均分子量及び数平均分子量の測定は、ゲル濾過クロマトグラフ装置HLC−8220GPC(東ソー社製)(カラム:TSKgel SuperMultipore HZ−M×2、東ソー社製)によって行われた。なお、標準物質として、ポリスチレンを用い、移動相にはテトラヒドロフランを用いた。また、分子量分布は、得られた重量平均分子量及び数平均分子量の値を用いて算出した。
【0044】
<ヘイズ値>
ヘイズ値(%)は、攪拌温度30℃、攪拌速度500〜1,200rpm及び攪拌時間2時間の条件下で、樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製し、ヘイズメーターNDH5000(日本電色工業株式会社製)を用いて測定された。
【0045】
第1表又は第2表に示す配合処方に従う混合物を得、これをサンドミルにて3時間練合して、実施例1〜5及び比較例1〜7のインクを調製した。なお、表中、インクを構成する成分の配合量は、「質量部」で示される。
【0046】
顔料としては、カーボンブラック:モナーク1000(キャボット社製)を用い、顔料分散剤としては、ポリエステルポリアミド樹脂:ソルスパース37500(固形分濃度40%)(ルーブリゾール社製)を用い、溶媒としては、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(日本乳化剤社製)、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(日本乳化剤社製)、ガンマブチロラクトン(三菱化学社製)及びジメチルアセトアミド(三菱ガス化学社製)を用いた。
【0047】
次いで、上記インクに関して、下記の方法により、吐出安定性、耐エタノール性、保存安定性及び腐食性を評価した。結果を第1表及び第2表に示す。
【0048】
<吐出安定性>
温度20〜30℃及び湿度35〜60%の条件下で、ラージフォーマットインクジェットプリンタによってポリ塩化ビニル基材(PVC100MP:リンテック株式会社社製)上に画像を印刷し、その吐出安定性を下記の基準に従い目視で評価した。
○:ノズル詰まりを起こすことなく、画像を所定の位置に印刷することができる。
×:ノズル詰まりが発生して、画像に抜けが生じ、更には、インクを所定の位置に付着できず、綺麗な画像を印刷することができない。
【0049】
<耐エタノール性>
ラージフォーマットインクジェットプリンタによってポリ塩化ビニル基材(PVC100MP:リンテック株式会社社製)上に画像を印刷し、60質量%エタノール水をしみ込ませた布で画像をこすり、その耐エタノール性を下記の基準に従い目視で評価した。
◎:全く変化なし。
○:画像表面の一部が削り取られる。
×:画像が削り取られ、ポリ塩化ビニル基材が見える。
【0050】
<保存安定性>
インクを60℃で1ヶ月間保存し、試験前後の粘度及び顔料の平均粒子径(D50)の変化を観察し、下記の基準で、保存安定性を評価した。なお、インクの粘度は、ブルックフィールドB型粘度計(英弘精機株式会社製)を用いて、20℃の条件下で測定され、顔料の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定器(SALD−7000:株式会社島津製作所社製)を用いて、20℃の条件下で平均粒子径(D50)を測定した。
◎:保存の前後で、インクの粘度及び顔料の粒子径の変化率がいずれも5%以内である。
○:保存の前後で、インクの粘度及び顔料の粒子径の変化率がいずれも5%を超え且つ10%以内である。
×:保存の前後で、インクの粘度及び顔料の粒子径のうち少なくとも一方の変化率が10%を超える。
【0051】
<腐食性>
インク20ml中にニッケルプレート(1cm×2cm×0.05cm)を浸漬させ、温度50℃及び湿度80%の高温多湿の条件下、インク中でニッケルプレートを2週間放置し、試験前後のニッケルイオン濃度の変化を観察し、下記の基準で、腐食性を評価した。なお、インク中のニッケルイオン濃度は、ICP発光分析(ICPS−7510:株式会社島津製作所製)にて測定された。
○:試験の前後で、ニッケルイオン濃度の差が2質量ppm以下である。
×:試験の前後で、ニッケルイオン濃度の差が2質量ppmを超える。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
第1表に示すデータから明らかなように、実施例1〜5のインクは、各試験項目について良い評価結果が得られ、良好なインクが得られた。
【0055】
一方、比較例1〜3のインクは、吐出安定性、耐エタノール性及び保存安定性が不良となった。比較例4のインクは、耐エタノール性が不良となった。比較例5のインクは、耐エタノール性及び腐食性が不良となった。比較例6のインクは、耐エタノール性及び保存安定性が不良となった。比較例7のインクは、吐出が不良であり、印刷ができなかった。また、比較例7のインクは、保存安定性も不良となった。