特許第5920997号(P5920997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920997新規オルトラクトンおよび該化合物を含有する香料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920997
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】新規オルトラクトンおよび該化合物を含有する香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/10 20060101AFI20160510BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20160510BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20160510BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   C07D493/10 DCSP
   C11B9/00 X
   A61K8/49
   A61Q13/00 101
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-10008(P2014-10008)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-137258(P2015-137258A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 宗隆
(72)【発明者】
【氏名】小黒 大地
(72)【発明者】
【氏名】原口 賢治
(72)【発明者】
【氏名】高久 寛康
(72)【発明者】
【氏名】北原 武
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−015953(JP,A)
【文献】 特開2003−137758(JP,A)
【文献】 特開昭61−022086(JP,A)
【文献】 Naf, Regula et al.,New lactones in liquorice (Glycyrrhiza glabra L.),Flavour and Fragrance Journal ,2006年,vol.21 no.2,pp.193-197
【文献】 Rosenberger, Michael et al.,Total synthesis of leukotriene E4, a member of the SRS-A family,Journal of the American Chemical Society ,1983年,vol.105 no.11,pp.3656-3661
【文献】 Saucy, Gabriel et al.,Gas chromatographic analysis of ortho esters as a convenient new general method for determining the enantiomeric purities of chiral δ-lactones,Journal of Organic Chemistry ,1977年,vol.42 no.19,pp.3206-3208
【文献】 Ashworth, Philip et al.,A method for the chromatographic resolution of tetrahydropyran-2-ones,Tetrahedron,1991年,vol.47 no.47,pp.9939-9946
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61Q
C11B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
[式(1)中、RはC3〜C8のアルキル基、RおよびRはそれぞれ独立して水素、メチル基またはヒドロキシメチル基を示す]
で表されるδ−アルキルオルトラクトン。
【請求項2】
下記式(1)
【化2】
[式(1)中、RはC3〜C8のアルキル基、RおよびRはそれぞれ独立して水素、メチル基またはヒドロキシメチル基を示す]
で表されるδ−アルキルオルトラクトンを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含有させることを特徴とする香粧品または飲食品。
【請求項4】
請求項2に記載の香料組成物を含有させることを特徴とする香粧品または飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料化合物などとして有用な新規δ−アルキルオルトラクトンおよび該化合物を有効成分として含有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の多様化する嗜好、例えば、香粧品業界においては従来にないユニークな香気を有する化粧品へのニーズ、飲食品業界においては消費者の嗜好に合うおいしさや、天然感を有する香気・香味を有する飲食品へのニーズに応じるため様々な技術開発が望まれている。
香粧品または飲食品の一つの原料素材である香料についても、従来から提案されている香料化合物だけでは十分には対応しきれず、従来にないユニークな香気・香味特性を有し、かつ持続性に優れた香料化合物の開発が喫緊の課題となっている。
なかでもδ‐ラクトン類は香粧品香料、食品香料として幅広い製品分野で用いられ、香粧品香料においてはフルーティーノート系の香料素材として、食品香料においては、飲食品にミルク感、脂肪感、クリーム感を改良、増強する目的で使用されている。
δ−ラクトンから合成可能な誘導体も香料化合物として知られている。δ‐ラクトン環を低級アルコールとのエステル化により開環した5−ヒドロキシ酸エステルである5−ヒドロキシデカン酸エチルは、コーヒーフレーバー(特許文献1)、発酵乳様フレーバー(特許文献2)、乳系フレーバー(特許文献3)、甲殻類のフレーバー(特許文献4)、魚介類のフレーバー(特許文献5)、海藻類のフレーバー(特許文献6)への使用が開示されている。
また、5−ヒドロキシ酸エステルの水酸基をエステル化した化合物も香料として用いられ、5−アセトキシデカン酸メチルは、コーヒーフレーバー(特許文献1)、5−アセトキシデカン酸エチルはコーヒーフレーバー(特許文献1)、甲殻類のフレーバー(特許文献4)、魚介類のフレーバー(特許文献5)、海藻類のフレーバー(特許文献6)への使用が開示されている。
また、5−アシロキシデカン酸アルキル化合物はミルク感、脂肪感等を増強する化合物としての使用が開示されている(特許文献7)。
しかしながら、上記に掲げたδ−ラクトン環が開環した化合物群は香気的に必ずしも満足できるものではなく新たな誘導体の開発が求められている。
一方でラクトン環のカルボニル基をアセタール化することによりオルトラクトン(環状オルトエステル)が対応するラクトンから合成できることが知られている。その官能特性に関する詳細な研究、香料化合物としての利用に関する記述は知られていない。(非特許文献1、2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−20526号公報
【特許文献2】特開2006−124490号公報
【特許文献3】特開2005−15685号公報
【特許文献4】特開2005−160402号公報
【特許文献5】特開2005−143466号公報
【特許文献6】特開2005−143465号公報
【特許文献7】特許第5048163号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemische Berichte、1956年、2060頁
【非特許文献2】Tetrahedron、1991年、47巻、9939頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、香粧品または飲食品などに香気・香味を付与することができるδ−アルキルオルトラクトンおよび該化合物を有効成分として含有する香料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、δ‐アルキルラクトンより誘導されるδ−アルキルオルトラクトンが従来にない上品なカカオ、ハーブ、完熟したフルーツ様の香気を有し、この化合物を添加した香料組成物がユニークな香気・香味と持続性に優れていることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明は、下記式(1)
【0008】
【化1】
[式(1)中、RはC3〜C8のアルキル基、RおよびRはそれぞれ独立して水素、メチル基またはヒドロキシメチル基を示す]
で表されるδ−アルキルオルトラクトンを提供するものである。
また、本発明は、式(1)で表されるδ−アルキルオルトラクトンを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、式(1)で表されるδ−アルキルオルトラクトンを含有させることを特徴とする香粧品または飲食品を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明は、前記に記載の香料組成物を含有させることを特徴とする香粧品または飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のδ−アルキルオルトラクトンは、特徴的な香気を有し、他の香料化合物と混合した場合、その香料組成物にユニークな香気特徴を付加し、その香気・香味を改良または増強することができ、また、δ−アルキルオルトラクトンを含有する香料組成物を香粧品または飲食品などに添加することにより、その対象となる製品にユニークな香気特徴を付加し、また香気・香味を改良または増強する特徴を有し、消費者の嗜好に合うバラエティーに富んだ香粧品または飲食品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0013】
本発明の化合物である、式(1)で表されるδ−アルキルオルトラクトンは、例えば、δ‐オクタラクトンエチレングリコールアセタール(7‐プロピル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ‐ノナラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ブチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ‐デカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ‐デカラクトンプロピレングリコールアセタール(2−メチル−7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ−デカラクトングリセリンアセタール(7−ペンチル−1,4,6−トリオキサスピロ[4.5]デセ−2−イル)メタノール、δ‐ウンデカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ヘキシル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ‐ウンデカラクトンプロピレングリコールアセタール(2−メチル−7‐ヘキシル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ‐ドデカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)などが挙げられる。好ましくは、δ‐デカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)、δ‐デカラクトンプロピレングリコールアセタール(2−メチル−7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)およびδ‐ドデカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)の香料化合物としての使用が望ましいが、この限りではない。
本発明の化合物である、式(1)で表されるδ−アルキルオルトラクトンは、例えば、以下に示す反応経路に従って製造することができる。
【0014】
【化2】
[式(1)〜式(3)中、RはC3〜C8のアルキル基、R及びRはそれぞれ独立して水素、メチル基、またはヒドロキシメチル基を示す]
一般にδ−アルキルオルトラクトンの製法は、δ‐アルキルラクトン化合物(2)に対してトリアルキルオキソニウム四フッ化ホウ酸を用いたアルキル化によりジアルキルδ−アルキルオルトラクトンが合成できることが文献等で知られている。しかしながら、この反応は十分な非水条件のもとで高価な試薬を使用する必要があり、工業的に安価かつ大量にδ−アルキルオルトラクトンを得る方法には適していない。
【0015】
上記反応の原料として用いられるδ−アルキルラクトン(2)は、一般的な方法にしたがって合成されたもの、または市販品のいずれでも良い。市販品としては、δ−オクタラクトン(東京化成工業社製)、δ−ノナラクトン(シグマ−アルドリッチ社製)、δ−デカラクトン(東京化成工業社製)、δ−ウンデカラクトン(シグマ−アルドリッチ社製)、δ−ドデカラクトン(シグマ−アルドリッチ社製)などを挙げることができる。
もう一方の原料である多価アルコール(3)はエチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセリンを挙げることができる。
δ−アルキルラクトン(2)に対するオルトエステル化反応を行う場合は、酸触媒の存在下に炭化水素系溶媒中で行い、生成する水を反応系外に除去しながら反応を行う。
オルトエステル化反応に使用する多価アルコール(3)の使用量は原料のδ−アルキルラクトン(2)に対して1〜10当量、好ましくは1〜4当量の範囲で使用することができる。炭化水素系溶媒はトルエン、キシレン、ヘプタン、オクタンを使用することができ、好ましくはトルエンもしくはキシレンを使用する。使用する溶媒の量に関しては特に制約は無いが、通常使用量は原料のδ−アルキルラクトン(2)に対して1〜30倍量の範囲で使用する。
オルトエステル化反応に使用する酸触媒としてはメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸一水和物等のスルホン酸化合物もしくは塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸を使用することができ、好ましくはベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸一水和物等のスルホン酸化合物が好ましい。
使用する酸触媒の使用量に特に制約は無いが、通常原料のδ−アルキルラクトン(2)に対して0.01〜50モル%の範囲で使用する。
また本反応温度は使用する溶媒の沸点付近で反応し、生成する水を反応系外に除去しながら反応することが望ましい。反応時間は、水の留出量を目安に決定することが可能であるが、反応時に定期的にサンプリングを行い、GLC分析等で反応の終点を決定する。通常1〜12時間で反応が終了する。
反応後の後処理は一般的な有機合成反応の後処理方法に従って行い、酸触媒および残存する原料δ−ラクトンおよび多価アルコール(3)を除去する目的で反応液をアルカリ水溶液で洗浄する。
得られたδ−アルキルオルトラクトン(1)は必要に応じて、減圧蒸留、カラムクロマト等により精製して使用する。
【0016】
本発明の化合物である、式(1)で表されるδ−アルキルオルトラクトンは、上品なカカオ、ハーブ、完熟したフルーツ様の香気を有する特徴を利用して、そのまま香粧品または飲食品に配合して特徴的な香気・香味を付与または増強することができるが、他の成分と混合して柑橘系、果実系、ミント系、スパイス系、ナッツ系、ミート系、ミルク系、水産物系、野菜系、茶・コーヒー系、バニラ系等の食品用香料組成物、シトラスノート、フルーティーノート、ウッディノート等を有する香粧品用香料組成物を調製し、該香料組成物を用いて香粧品または飲食品に香気・香味を付与または増強することもできる。
さらに、本発明のδ−アルキルオルトラクトンを2種以上任意の割合で混合して用いること、また、その他の香料成分と混合して用いることもできる。δ−アルキルオルトラクトンと共に含有可能な他の香料成分としては「特許庁、周知慣用技術集(香料)第II部食品香料、頁8−87、平成12年1月14日発行」および「特許庁、周知慣用技術集(香料)第III部香粧品香料、頁49−103頁、平成13年6月15日発行」に記載されている合成香料、天然精油、天然香料、動植物エキス等を挙げることができる。
【0017】
例えば、ミルセン、カンフェン、リモネン、ターピノレン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレン、1,3,5−ウンデカトリエンなどの炭化水素類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、イソプレノール、ヘキサノール、(Z)−3−ヘキセン−1−オール、ヘプタノール、オクタノール、1−オクテン−3−オール、ノナノール、2,6−ノナジエノール、デカノール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、ジヒドロミルセノール、メントール、ターピネオール、ファルネソール、ネロリドール、サンタロール、セドロール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フルフリルアルコール、などのアルコール類;アセトアルデヒド、プロパナール、ブタナール、2−ブテナール、ヘキサナール、(E)−2−ヘキセナール、オクタナール、4−ヘプテナール、2,4−オクタジエナール、ノナナール、2−ノネナール、2,4−ノナジエナール、2,6−ノナジエナール、デカナール、2,4−デカジエナール、ウンデカナール、10−ウンデセナール、2,4−ウンデカジエナール、ドデカナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、α−アミルシンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、フルフラール、ヘリオトロピンなどのアルデヒド類;2−ヘプタノン、2−オクタノン、3−オクタノン、1−オクテン−3−オン、2−ノナノン、3−ノナノン、8−ノネン−2−オン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン、アセトイン、5−ヒドロキシ−4−オクタノン、ジアセチル、2,3−ペンタジオン、2,3−ヘキサジオン、2,3−ヘプタジオン、カルボン、メントン、ヌートカトン、ジヒドロジャスモン、α−イオノン、β−イオノン、メチルイオノン、α−ダマスコン、β−ダマセノン、アセチルセドレン、ラズベリーケトン、p−メトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、マルトール、エチルマルトール、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンなどのケトン類;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、酢酸デシル、酢酸ドデシル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸メンチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、酢酸フェネチル、乳酸エチル、酪酸エチル、2−メチル酪酸エチル、3−エチル酪酸エチル、吉草酸メチル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリル酸イソアミル、カプリル酸ヘプチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、サリチル酸メチル、コハク酸ジエチル、セバシン酸ジエチル、5−ヒドロキシヘキサン酸エチル、5−ヒドロキシデカン酸エチル、5−ヒドロキシウンデカン酸エチル、5−ヒドロキシデカン酸プロピル、5−ヒドロキシデカン酸イソプロピル、5−ヒドロキシオクタン酸2−メチルプロピル、5−ヒドロキシ−9−メチルデカン酸エチル、5−アセトキシデカン酸メチル、5−アセトキシデカン酸エチルなどのエステル類;γ−カプロラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、7−デセン−4−オリド、3−メチル−4−デセン−4−オリド、3−メチル−5−デセン−4−オリド、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、γ−トリデカラクトン、γ−テトラデカラクトン、δ−カプロラクトン、2−ヘキセン−5−オリド、2−ヘプテン−5−オリド、δ−オクタラクトン、2−オクテン−5−オリド、4−メチル−5−オクタノリド、δ−ノナラクトン、2−ノネン−5−オリド、4−メチル−5−ノナノリド、δ−デカラクトン、2−デセン−5−オリド、4−メチル−5−デカノリド、δ−ウンデカラクトン、2−ウンデセン−5−オリド、4−メチル−5−ウンデカノリド、δ−ドデカラクトン、2−ドデセン−5−オリド、4−メチル−5−ドデカノリド、δ−トリデカラクトン、2−トリデセン−5−オリド、4−メチル−5−トリデカノリド、δ−テトラデカラクトン、2−テトラデセン−5−オリド、2−ペンタデセン−5−オリド、2−ヘキサデセン−5−オリド、2−ヘプタデセン−5−オリド、2−オクタデセン−5−オリド、2−ノナデセン−5−オリド、2−エイコセン−5−オリド、ε−デカラクトン、大環状ラクトン(シクロペンタデカノリド等)などのラクトン類;ローズオキシド、セドリルメチルエーテル、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピランなどのエーテル類;プロピオン酸、酪酸、2−メチル酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、トランス−2−ヘキセン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、5−ヒドロキシノナン酸、カプリン酸、2−デセン酸、4−デセン酸、5−デセン酸、6−デセン酸、9−デセン酸、5−ヒドロキシデカン酸、5−ヒドロキシウンデカン酸、5−ヒドロキシドデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、イソペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの脂肪酸類;メチルアントラニレート、トリメチルアミン、インドール、スカトール、ピリジン、イソキノリン、ピラジン、メチルピラジン、ゲラニルニトリルなどの含窒素化合物類;メタンチオール、イソブチルメルカプタン、2,4−ジチアペンタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルスルフォン、メチルスルフォニルメタン、メチルイソチオシアネート、エチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、2−メチル−3−ブタンチオール、メチオナール、チオ酢酸エチル、チオ酪酸メチル、3−ブテニルイソチオシアネート、2−メチルチオフェン、ベンゾチアゾール、スルフロール、アセチル乳酸チオメチルエステル、プロピオニル乳酸チオメチルエステル、ブチリル乳酸チオメチルエステル、バレリル乳酸チオメチルエステル、2−メチルブチリル乳酸チオメチルエステル、デシリル乳酸チオメチルエステル、アセチル乳酸チオエチルエステル、プロピオニル乳酸チオエチルエステル、ブチリル乳酸チオエチルエステル、バレリル乳酸チオエチルエステル、イソカプロイル乳酸チオプロピルエステルなどの含硫化合物類など公知の香料化合物;オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イラン・イラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどの天然抽出物・天然精油;乳脂のリパーゼ分解物;乳タンパク質のプロテアーゼ分解物;乳、濃縮乳、粉乳、ミルクホエー、バター、チーズ、ヨーグルトもしくはこれらの混合物からの分画物などを挙げることができる。
【0018】
本発明のδ−アルキルオルトラクトンを含有する香料組成物には、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている、例えば、水、エタノールなどの溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、脂肪酸トリグリセライド、脂肪酸ジグリセリド等の香料保留剤を含有することができる。
【0019】
本発明のδ−アルキルオルトラクトンは、それ自身特徴的な香気を有するが、弱酸性の飲料、食品に用いた場合は経時変化により、δ−アルキルラクトンを生成するため、δ−アルキルラクトンのプレカーサーとしての用途も有する。
【0020】
本発明のδ−アルキルオルトラクトンは、上記記載のようにそれ自身単独で、または、δ−アルキルオルトラクトンを含有させた香料組成物を調製して、香粧品または飲食品に従来にない上品なカカオ、ハーブ、完熟したフルーツ様の香気を付与すると共に、飲食品に対しては風味またはコク味を改良または増強することもできる。
【0021】
本発明のδ−アルキルオルトラクトンを含有させた香料組成物によって香気・香味を付与すると共に、改良または増強することができる飲食品の具体例としては、コーラ飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料などの炭酸飲料類;果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などの食系飲料類;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、ミルクティー、コーヒー飲料などの嗜好飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;バター、チーズ、ミルク、ヨーグルトなどの乳製品;アイスクリーム、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類及びそれらを製造するためのミックス類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナックなどの菓子類及びそれらを製造するためのケーキミックスなどのミックス類;パン、スープ、各種インスタント食品などの一般食品類;を挙げることができるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0022】
本発明のδ−アルキルオルトラクトンを含有させた香料組成物によって香気を付与すると共に、改良または増強することができる香粧品の例として、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗剤、浴用剤、洗剤、柔軟仕上げ剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、口腔用組成物、皮膚外用剤、医薬品などを挙げることができるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0023】
本発明のδ−アルキルオルトラクトの配合量は、例えば、香料組成物中に0.01%(1.0×10ppm)〜10%(1.0×10ppm)、好ましくは0.1%(1.0×10ppm)〜5.0%(5.0×10ppm)の範囲を例示することができる。
使用対象となる製品への香料組成物の配合量はその目的あるいは対象の種類によっても異なるが、δ−アルキルオルトラクトンが全体量に対して0.1ppb〜1×10ppm、好ましくは、10ppb〜1000ppmの範囲を例示することができる。これらの範囲内では、香粧品または飲食品に対し上品なカカオ、ハーブ、完熟したフルーツ様の香気・香味を付与すると共に、改良または増強する優れた効果を有する。
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例において反応粗製物、精製物の測定は次の分析機器を用いて行なった。
GC測定:GC−2014(島津製作所社製)およびクロマトパックC−R8A(島津製作所社製)
GCカラム:ジーエルサイエンス社製TC−1701(長さ30m、内径0.53mm、液層膜厚1.00マイクロメータ)
GC/MS測定:5973N(Agilent社製)
GCカラム:ジーエルサイエンス社製TC−1701(長さ30m、内径0.25mm、液層膜厚0.25マイクロメータ)
NMR測定:ECX−400A(JEOL RESONANCE社製)。
【0026】
実施例1:7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(本発明品1)の合成
ディーン・スターク装置を装着した1L4口フラスコにδ‐デカラクトン(52.4g、0.31モル)、エチレングリコール(20.2g、0.33モル)、パラトルエンスルホン酸一水和物(2.5g、14.5ミリモル)、トルエン(300g)を加える。反応混合物から生成する水を反応系外に除去しながら110〜120℃/7時間加熱還流し冷却後、反応液から減圧下にトルエンを除去し、濃縮液を得る。
【0027】
この濃縮液に10%水酸化ナトリウム水溶液(500g)を加え、室温(20〜30℃)で4時間攪拌した後、トルエン(160g)で抽出する。有機溶媒層を水(200g)、5%食塩水(200g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウム結晶を加え有機溶媒中の水分を除去、結晶をろ過し減圧下にトルエンを除去し反応粗製物(15.1g)を得た。
【0028】
反応粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびクーゲルロール蒸留(120℃、0.4kPa)で順次精製し、目的とするδ‐デカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)8.3gを収率13%で得た。
【0029】
上記の方法で得た7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンは以下の条件で分析し純度98%であった。
GLC分析条件
カラム:TC−1701、昇温条件:100℃〜260℃、20℃/min昇温、キャリアガス:窒素、流速:60cm/sec、保持時間:5.5min
7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンの物性データ
H−NMR(400MHz、C):δppm 0.88(t、3H、J=7.2Hz)、1.08(dq、1H、J=3.6Hz、12.4Hz)、1.17−1.39(m、7H)、1.40−1.49(m、1H)、1.50−1.61(m、2H)、1.75−1.93(m、3H)、3.50−3.61(m、2H)、3.67−3.79(m、2H)、3.86−3.93(m、1H)
13C−NMR(100MHz、C):δppm 14.27、21.85、23.04、25.60、30.76、31.91、32.21、36.32、63.17、64.42、74.07、119.74。
【0030】
実施例2:2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(本発明品2)の合成
ディーン・スターク装置を装着した500mL三口フラスコにδ‐デカラクトン(10.0g、0.059モル)、1,2‐プロピレングリコール(4.75g、0.062モル)、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.51g、3.0ミリモル)、トルエン(100g)を加える。混合物を生成する水を反応系外に除去しながら110〜120℃/4時間加熱還流し冷却後、反応液から減圧下にトルエンを除去し濃縮液を得る。
【0031】
この濃縮液に10%水酸化ナトリウム水溶液(100g)を加え、室温(20〜30℃)で2時間攪拌した後、トルエン(200g)で抽出する。有機溶媒層を水(200g)、5%食塩水(200g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウム結晶を加え有機溶媒中の水分を除去、結晶をろ過し減圧下にトルエンを除去し反応粗製物(6.6g)を得た。
【0032】
反応粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびクーゲルロール蒸留(130℃、0.4kPa)で順次精製し、目的とするδ‐デカラクトンプロピレングリコールアセタール(2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)8.3gを収率22%で得た。
【0033】
上記の方法で得た2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンは実施例1に記載の条件で分析し純度99%であった。
2‐メチル‐ 7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンの物性データ
H−NMR(400MHz、C):δppm 0.85−0.92(m、3H)、0.98−1.00(m、2H)、1.10−1.16(m、2H)、1.17−1.41(m、8H)、1.45−1.65(m、3H)、1.76−1.95(m、3H)、3.20−3.26(m、1H)、3.43−3.47(m、1H)、3.69−3.90(m、2H)、3.96−4.10(m、1H)、4.21−4.30(m、1H)、4.38−4.47(m、1H)
13C−NMR(100MHz、C):δppm 14.27、14.29、18.78、19.42、20.47、20.67、21.77、21.79、21.86、23.01、23.06、25.63、25.67、25.78、30.76、30.79、30.82、30.92、32.11、32.24、32.28、32.37、32.61、32.63、36.33、36.38、36.56、69.70、69.76、70.82、70.91、71.02、71.94、73.32、73.72、73.93、74.06、120.00、120.18。
【0034】
実施例3:7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(本発明品3)の合成
実施例1と同様にδ−ドデカラクトン(19.8g、0.1モル)およびエチレングリコール(6.8g、0.11モル)と反応を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびクーゲルロール蒸留(140℃、0.2kPa)で精製し、目的とするδ−ドデカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)4.4gを収率18%で得た。
【0035】
上記の方法で得た7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンは実施例1に記載の条件で分析し純度98%であった。
【0036】
実施例4:本発明品1〜3の香気評価
実施例1で得られた7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(δ‐デカラクトンエチレングリコールアセタール、本発明品1と称する)と実施例2で得られた2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(δ‐デカラクトンプロピレングリコールアセタール、本発明品2と称する)および実施例3で得られた7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(δ‐ドデカラクトンエチレングリコールアセタール、本発明品3と称する)の0.1%エタノール溶液について、よく訓練された5名のパネラーにより香気評価を行った。香気評価は30mlサンプル瓶に前記0.1%エタノール溶液を用意し、瓶口の香気およびその溶液を含浸させたにおい紙により行った。5名の平均的な香気評価を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例5:グリーンフルーティーノート調合香料組成物への添加効果
グリーンフルーティーノートの調合香料組成物として表2の各成分(質量パーミル)を調合した。表2のグリーンフルーティーノート調合香料組成物(比較品1)に本発明品1、本発明品2および本発明品3を5.0g添加して、新規なフルーティーノート調合香料組成物として本発明品4〜6を調製した。これら、本発明品1〜3を添加した本発明品4〜6と無添加の比較品1を、よく訓練されたパネラー10名により官能評価を行った。
その結果、パネラー10名全員が、本発明品4、本発明品5および本発明品6は、比較品1に比べて、良好な上品なフルーティーノートが強調され、瑞々しい香気が付与されたと評価した。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例6:ピーチ様調合香料組成物への添加効果
ピーチ様の調合香料組成物として表3の各成分(質量パーミル)を調合した。表3のピーチ様調合香料組成物(比較品2)に本発明品1、本発明品2および本発明品3を3.0g添加して、新規なピーチ様の調合香料組成物として本発明品7〜9を調製した。これら、本発明品1〜3を添加した本発明品7〜9と無添加の比較品1を、よく訓練されたパネラー10名により官能評価を行った。
その結果、パネラー10名全員が、本発明品7、本発明品8および本発明品9は、比較品2に比べて、上品な天然感が強調され、熟成したピーチ様香気であると評価した。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例7:バター様調合香料組成物への添加効果
バター様の調合香料組成物として表4の各成分(質量%)を調合した。表4のバター様調合香料組成物(比較品3)に本発明品1、本発明品2および本発明品3を5.0g混合して、新規なバター様の調合香料組成物として本発明品10〜12を調製した。これら、本発明品1〜3を混合した本発明品10〜12と比較品3を、よく訓練されたパネラー10名により官能評価を行った。
その結果、パネラー10名全員が、本発明品10、本発明品11および本発明品12は、比較品3に比べて、良好なバター感が強調され、乳脂肪独特のリッチ感があると評価した。
【0043】
【表4】
【0044】
実施例8:バター様調合香料組成物のクッキーへの添加効果
実施例7で得られたバター様調合香料組成物(比較品3、本発明品10、本発明品11および本発明品12)を表5の処方に従い調製されたクッキー生地に添加し、220℃で7分間焼き上げクッキーを調製した。比較品3、本発明品10、本発明品11および本発明品12を添加したクッキーをそれぞれ対象品1、本発明品13、本発明品14および本発明品15とした。これらのクッキーをよく訓練されたパネラー20名により官能評価を行った。
【0045】
その結果、パネラー20名全員が、本発明品13、本発明品14および本発明品15は対象品1と比べて、独特のクリーミーな乳脂肪感が付与され、バターリッチな風味が強調されているとの評価であった。
【0046】
【表5】