【0015】
上記反応の原料として用いられるδ−アルキルラクトン(2)は、一般的な方法にしたがって合成されたもの、または市販品のいずれでも良い。市販品としては、δ−オクタラクトン(東京化成工業社製)、δ−ノナラクトン(シグマ−アルドリッチ社製)、δ−デカラクトン(東京化成工業社製)、δ−ウンデカラクトン(シグマ−アルドリッチ社製)、δ−ドデカラクトン(シグマ−アルドリッチ社製)などを挙げることができる。
もう一方の原料である多価アルコール(3)はエチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセリンを挙げることができる。
δ−アルキルラクトン(2)に対するオルトエステル化反応を行う場合は、酸触媒の存在下に炭化水素系溶媒中で行い、生成する水を反応系外に除去しながら反応を行う。
オルトエステル化反応に使用する多価アルコール(3)の使用量は原料のδ−アルキルラクトン(2)に対して1〜10当量、好ましくは1〜4当量の範囲で使用することができる。炭化水素系溶媒はトルエン、キシレン、ヘプタン、オクタンを使用することができ、好ましくはトルエンもしくはキシレンを使用する。使用する溶媒の量に関しては特に制約は無いが、通常使用量は原料のδ−アルキルラクトン(2)に対して1〜30倍量の範囲で使用する。
オルトエステル化反応に使用する酸触媒としてはメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸一水和物等のスルホン酸化合物もしくは塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸を使用することができ、好ましくはベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸一水和物等のスルホン酸化合物が好ましい。
使用する酸触媒の使用量に特に制約は無いが、通常原料のδ−アルキルラクトン(2)に対して0.01〜50モル%の範囲で使用する。
また本反応温度は使用する溶媒の沸点付近で反応し、生成する水を反応系外に除去しながら反応することが望ましい。反応時間は、水の留出量を目安に決定することが可能であるが、反応時に定期的にサンプリングを行い、GLC分析等で反応の終点を決定する。通常1〜12時間で反応が終了する。
反応後の後処理は一般的な有機合成反応の後処理方法に従って行い、酸触媒および残存する原料δ−ラクトンおよび多価アルコール(3)を除去する目的で反応液をアルカリ水溶液で洗浄する。
得られたδ−アルキルオルトラクトン(1)は必要に応じて、減圧蒸留、カラムクロマト等により精製して使用する。
【実施例】
【0025】
実施例において反応粗製物、精製物の測定は次の分析機器を用いて行なった。
GC測定:GC−2014(島津製作所社製)およびクロマトパックC−R8A(島津製作所社製)
GCカラム:ジーエルサイエンス社製TC−1701(長さ30m、内径0.53mm、液層膜厚1.00マイクロメータ)
GC/MS測定:5973N(Agilent社製)
GCカラム:ジーエルサイエンス社製TC−1701(長さ30m、内径0.25mm、液層膜厚0.25マイクロメータ)
NMR測定:ECX−400A(JEOL RESONANCE社製)。
【0026】
実施例1:7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(本発明品1)の合成
ディーン・スターク装置を装着した1L4口フラスコにδ‐デカラクトン(52.4g、0.31モル)、エチレングリコール(20.2g、0.33モル)、パラトルエンスルホン酸一水和物(2.5g、14.5ミリモル)、トルエン(300g)を加える。反応混合物から生成する水を反応系外に除去しながら110〜120℃/7時間加熱還流し冷却後、反応液から減圧下にトルエンを除去し、濃縮液を得る。
【0027】
この濃縮液に10%水酸化ナトリウム水溶液(500g)を加え、室温(20〜30℃)で4時間攪拌した後、トルエン(160g)で抽出する。有機溶媒層を水(200g)、5%食塩水(200g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウム結晶を加え有機溶媒中の水分を除去、結晶をろ過し減圧下にトルエンを除去し反応粗製物(15.1g)を得た。
【0028】
反応粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびクーゲルロール蒸留(120℃、0.4kPa)で順次精製し、目的とするδ‐デカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)8.3gを収率13%で得た。
【0029】
上記の方法で得た7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンは以下の条件で分析し純度98%であった。
GLC分析条件
カラム:TC−1701、昇温条件:100℃〜260℃、20℃/min昇温、キャリアガス:窒素、流速:60cm/sec、保持時間:5.5min
7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンの物性データ
1H−NMR(400MHz、C
6D
6):δppm 0.88(t、3H、J=7.2Hz)、1.08(dq、1H、J=3.6Hz、12.4Hz)、1.17−1.39(m、7H)、1.40−1.49(m、1H)、1.50−1.61(m、2H)、1.75−1.93(m、3H)、3.50−3.61(m、2H)、3.67−3.79(m、2H)、3.86−3.93(m、1H)
13C−NMR(100MHz、C
6D
6):δppm 14.27、21.85、23.04、25.60、30.76、31.91、32.21、36.32、63.17、64.42、74.07、119.74。
【0030】
実施例2:2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(本発明品2)の合成
ディーン・スターク装置を装着した500mL三口フラスコにδ‐デカラクトン(10.0g、0.059モル)、1,2‐プロピレングリコール(4.75g、0.062モル)、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.51g、3.0ミリモル)、トルエン(100g)を加える。混合物を生成する水を反応系外に除去しながら110〜120℃/4時間加熱還流し冷却後、反応液から減圧下にトルエンを除去し濃縮液を得る。
【0031】
この濃縮液に10%水酸化ナトリウム水溶液(100g)を加え、室温(20〜30℃)で2時間攪拌した後、トルエン(200g)で抽出する。有機溶媒層を水(200g)、5%食塩水(200g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウム結晶を加え有機溶媒中の水分を除去、結晶をろ過し減圧下にトルエンを除去し反応粗製物(6.6g)を得た。
【0032】
反応粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびクーゲルロール蒸留(130℃、0.4kPa)で順次精製し、目的とするδ‐デカラクトンプロピレングリコールアセタール(2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)8.3gを収率22%で得た。
【0033】
上記の方法で得た2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンは実施例1に記載の条件で分析し純度99%であった。
2‐メチル‐ 7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンの物性データ
1H−NMR(400MHz、C
6D
6):δppm 0.85−0.92(m、3H)、0.98−1.00(m、2H)、1.10−1.16(m、2H)、1.17−1.41(m、8H)、1.45−1.65(m、3H)、1.76−1.95(m、3H)、3.20−3.26(m、1H)、3.43−3.47(m、1H)、3.69−3.90(m、2H)、3.96−4.10(m、1H)、4.21−4.30(m、1H)、4.38−4.47(m、1H)
13C−NMR(100MHz、C
6D
6):δppm 14.27、14.29、18.78、19.42、20.47、20.67、21.77、21.79、21.86、23.01、23.06、25.63、25.67、25.78、30.76、30.79、30.82、30.92、32.11、32.24、32.28、32.37、32.61、32.63、36.33、36.38、36.56、69.70、69.76、70.82、70.91、71.02、71.94、73.32、73.72、73.93、74.06、120.00、120.18。
【0034】
実施例3:7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(本発明品3)の合成
実施例1と同様にδ−ドデカラクトン(19.8g、0.1モル)およびエチレングリコール(6.8g、0.11モル)と反応を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびクーゲルロール蒸留(140℃、0.2kPa)で精製し、目的とするδ−ドデカラクトンエチレングリコールアセタール(7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン)4.4gを収率18%で得た。
【0035】
上記の方法で得た7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカンは実施例1に記載の条件で分析し純度98%であった。
【0036】
実施例4:本発明品1〜3の香気評価
実施例1で得られた7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(δ‐デカラクトンエチレングリコールアセタール、本発明品1と称する)と実施例2で得られた2‐メチル‐7‐ペンチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(δ‐デカラクトンプロピレングリコールアセタール、本発明品2と称する)および実施例3で得られた7‐ヘプチル‐1,4,6-トリオキサスピロ[4.5]デカン(δ‐ドデカラクトンエチレングリコールアセタール、本発明品3と称する)の0.1%エタノール溶液について、よく訓練された5名のパネラーにより香気評価を行った。香気評価は30mlサンプル瓶に前記0.1%エタノール溶液を用意し、瓶口の香気およびその溶液を含浸させたにおい紙により行った。5名の平均的な香気評価を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例5:グリーンフルーティーノート調合香料組成物への添加効果
グリーンフルーティーノートの調合香料組成物として表2の各成分(質量パーミル)を調合した。表2のグリーンフルーティーノート調合香料組成物(比較品1)に本発明品1、本発明品2および本発明品3を5.0g添加して、新規なフルーティーノート調合香料組成物として本発明品4〜6を調製した。これら、本発明品1〜3を添加した本発明品4〜6と無添加の比較品1を、よく訓練されたパネラー10名により官能評価を行った。
その結果、パネラー10名全員が、本発明品4、本発明品5および本発明品6は、比較品1に比べて、良好な上品なフルーティーノートが強調され、瑞々しい香気が付与されたと評価した。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例6:ピーチ様調合香料組成物への添加効果
ピーチ様の調合香料組成物として表3の各成分(質量パーミル)を調合した。表3のピーチ様調合香料組成物(比較品2)に本発明品1、本発明品2および本発明品3を3.0g添加して、新規なピーチ様の調合香料組成物として本発明品7〜9を調製した。これら、本発明品1〜3を添加した本発明品7〜9と無添加の比較品1を、よく訓練されたパネラー10名により官能評価を行った。
その結果、パネラー10名全員が、本発明品7、本発明品8および本発明品9は、比較品2に比べて、上品な天然感が強調され、熟成したピーチ様香気であると評価した。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例7:バター様調合香料組成物への添加効果
バター様の調合香料組成物として表4の各成分(質量%)を調合した。表4のバター様調合香料組成物(比較品3)に本発明品1、本発明品2および本発明品3を5.0g混合して、新規なバター様の調合香料組成物として本発明品10〜12を調製した。これら、本発明品1〜3を混合した本発明品10〜12と比較品3を、よく訓練されたパネラー10名により官能評価を行った。
その結果、パネラー10名全員が、本発明品10、本発明品11および本発明品12は、比較品3に比べて、良好なバター感が強調され、乳脂肪独特のリッチ感があると評価した。
【0043】
【表4】
【0044】
実施例8:バター様調合香料組成物のクッキーへの添加効果
実施例7で得られたバター様調合香料組成物(比較品3、本発明品10、本発明品11および本発明品12)を表5の処方に従い調製されたクッキー生地に添加し、220℃で7分間焼き上げクッキーを調製した。比較品3、本発明品10、本発明品11および本発明品12を添加したクッキーをそれぞれ対象品1、本発明品13、本発明品14および本発明品15とした。これらのクッキーをよく訓練されたパネラー20名により官能評価を行った。
【0045】
その結果、パネラー20名全員が、本発明品13、本発明品14および本発明品15は対象品1と比べて、独特のクリーミーな乳脂肪感が付与され、バターリッチな風味が強調されているとの評価であった。
【0046】
【表5】