特許第5921035号(P5921035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921035
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】地震対応人孔保護工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/12 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   E02D29/12 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-205443(P2012-205443)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-58844(P2014-58844A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220675
【氏名又は名称】東京都下水道サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】302059953
【氏名又は名称】株式会社メーシック
(73)【特許権者】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230973
【氏名又は名称】日本工営株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074181
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 明博
(74)【代理人】
【識別番号】100152249
【弁理士】
【氏名又は名称】川島 晃一
(72)【発明者】
【氏名】今▲崎▼ 雄司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 研三
(72)【発明者】
【氏名】南澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和輝
【審査官】 中槙 利明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−080668(JP,A)
【文献】 特開2002−054166(JP,A)
【文献】 特開平10−072840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層されたコンクリート側塊の接合部の耐震化を図る地震対応人孔保護工法であって、積層されたコンクリート側塊の接合部を、コンクリート側塊の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さで、接合部に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊の接合部に内周側に開口する高さ方向所定幅の周溝部を形成し、前記周溝部に、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤を充填してシールすることを特徴とする地震対応人孔保護工法。
【請求項2】
積層されたコンクリート側塊の接合部の耐震化を図る地震対応人孔保護工法であって、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で破断する合成樹脂で成形した可撓シートを基材として、前記積層されたコンクリート側塊の内周に対応した筒状体を形成し、前記筒状体における胴部外周面を接着面とした筒状シールを用意し、まず、前記コンクリート側塊の接合部を、コンクリート側塊の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さで、接合部に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊の接合部に内周側に開口する高さ方向所定幅の周溝部を形成し、つぎに、前記周溝部に、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤を充填してシールし、つぎに、前記筒状シールを、前記積層されたコンクリート側塊の内側に接合部を跨ぐように配置し前記弾性接着剤を用いて接着し固定することを特徴とする地震対応人孔保護工法。
【請求項3】
前記筒状シールにおける前記接着面には合成繊維シートが積層されていることを特徴とする請求項2に記載の地震対応人孔保護工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層されたコンクリート側塊の接合部の耐震化を図る地震対応人孔保護工法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に発生した大きな地震において、下水道施設は甚大な被害を被り、市民生活に与えた影響は深刻なものであった。そのなかで、コンクリート側塊を積層して構築された下水道用の人孔にあっては、コンクリート側塊の接合部がずれるといった被害が多くみられ、接合部のずれから土砂や水が人孔内に流入し、下水道の機能が損なわれるといった事態が発生した。
【0003】
このため、地震により人孔のコンクリート側塊の接合部がずれたとき、接合部のずれから人孔内への土砂や水の流入を防ぐ手立てが求められており、そのための手段として、積層されたコンクリート側塊の接合部の内側に、内側の上下に内部シール材を設けたゴム製保護カラーを当接して、圧接治具によりゴム製保護カラーをコンクリート側塊に圧接させる地震対応人孔保護工法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
ゴム製保護カラーは、胴部の略中央部に内方に突出して形成した伸縮調整部を設け、地震により人孔のコンクリート側塊の接合部がずれたとき、伸縮調整部が伸びてゴム製保護カラーで接合部を塞いだ状態を保持し、接合部のずれから人孔内への土砂や水の流入を防ぐことができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−291034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に記載された地震対応人孔保護工法によれば、例えば、地震によりコンクリート側塊が水平方向にずれたとき、積層されたコンクリート側塊の接合部の内側に圧接しているゴム製保護カラーには、ずれ方向(6時−12時方向)にある箇所に引っ張り応力がかかり、ずれ方向と直交する方向(3時−9時方向)にある箇所に剪断応力がかかる。すなわち、地震によりコンクリート側塊が水平方向にずれたとき、その応力は全周に均等にかからず、一点に集中することになる。そのため、ゴム製保護カラーには、一点に集中する局部的な応力に耐えられる耐力が求められる。
このようなことから、ゴム製保護カラーには、一点に集中する局部的な応力に耐えられる目標強度を設定して構造設計することが求められることになる。しかし、コンクリート側塊のずれが大きい場合、このずれにより一点に集中する局部的な応力に耐えられる目標強度をゴム製保護カラーに設定することは非常に困難であるといった問題がある。
【0006】
本発明者等は、かかる問題を解決すべく試験研究を重ねた結果、人孔のコンクリート側塊が水平方向にずれたときの水平方向にかかる応力から目標強度を設定するためには、ゴム製保護カラーで土砂流入を防ぐ形式ではなく、人孔のコンクリート側塊全周で耐力を受け持つようなシール形式の方が容易であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の目的は、地震により人孔のコンクリート側塊の接合部が水平方向にずれたとき水平方向にかかる応力に耐えられる目標強度を容易に設定できるようにし、接合部のずれから人孔内への土砂や水の流入を有効に防いで人孔を保護することができる地震対応人孔保護工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、積層されたコンクリート側塊の接合部の耐震化を図る地震対応人孔保護工法であって、積層されたコンクリート側塊の接合部を、コンクリート側塊の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さで、接合部に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊の接合部に内周側に開口する高さ方向所定幅の周溝部を形成し、前記周溝部に、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤を充填してシールすることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、積層されたコンクリート側塊の接合部の耐震化を図る地震対応人孔保護工法であって、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で破断する合成樹脂で成形した可撓シートを基材として、前記積層されたコンクリート側塊の内周に対応した筒状体を形成し、前記筒状体における胴部外周面を接着面とした筒状シールを用意し、まず、前記コンクリート側塊の接合部を、コンクリート側塊の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さで、接合部に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊の接合部に内周側に開口する高さ方向所定幅の周溝部を形成し、つぎに、前記周溝部に、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤を充填してシールし、つぎに、前記筒状シールを、前記積層されたコンクリート側塊の内側に接合部を跨ぐように配置し前記弾性接着剤を用いて接着し固定することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の、前記筒状シールにおける前記接着面には合成繊維シートが積層されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の地震対応人孔保護工法によれば、積層されたコンクリート側塊の接合部を、コンクリート側塊の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さで、接合部に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊の接合部に内周側に開口する高さ方向所定幅の周溝部を形成し、前記周溝部に、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤を充填してシールするので、地震によってコンクリート側塊の接合部が水平方向にずれたときの水平方向にかかる応力は、コンクリート側塊の接合部に沿って周方向に切削された周溝部に充填された接合部全周にある弾性接着剤層全体に均等にかかることになるから、前記応力に対する耐力の向上が図れる。また、コンクリート側塊の接合部を切削して形成された周溝部に充填されて接合部をシールする弾性接着剤層の伸びと強さは層の断面積に比例するので、前記周溝部の溝幅、深さ等を調整することにより、コンクリート側塊の接合部が水平方向にずれたときの保護範囲(ずれ量)と目標強度を容易に設定することができる。
【0012】
また、前記周溝部に充填される前記弾性接着剤で形成された弾性接着剤層は、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するので、コンクリート側塊の接合部の水平方向へのずれが周溝部に充填された弾性接着剤で形成された弾性接着剤層の伸び率を超えた場合、コンクリート側塊に先んじて弾性接着剤層が剪断することになり、コンクリート側塊の破壊を防止することができる。
【0013】
請求項2に記載の地震対応人孔保護工法によれば、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で破断する合成樹脂で成形した可撓シートを基材として、前記積層されたコンクリート側塊の内周に対応した筒状体を形成し、前記筒状体における胴部外周面を接着面とした筒状シールを用意し、まず、前記積層されたコンクリート側塊の接合部を、コンクリート側塊の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さで、接合部に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊の接合部に内周側に開口する高さ方向所定幅の周溝部を形成し、つぎに、前記周溝部に、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤を充填してシールし、つぎに、前記筒状シールを、前記積層されたコンクリート側塊の内側に接合部を跨ぐように配置し前記弾性接着剤を用いて接着し固定するので、地震によってコンクリート側塊の接合部が水平方向にずれたときの水平方向にかかる応力は、コンクリート側塊の接合部に沿って周方向に切削された周溝部に充填された接合部全周にある弾性接着剤層全体に均等にかかることになるから、前記応力に対する耐力の向上が図れる。
また、コンクリート側塊の接合部を切削して形成された周溝部に充填されて接合部をシールする弾性接着剤層の伸びと強さは層の断面積に比例するので、前記周溝部の溝幅、深さ等を調整することにより、コンクリート側塊の接合部が水平方向にずれたときの保護範囲(ずれ量)と目標強度を容易に設定することができる。
【0014】
また、前記筒状シールを前記積層されたコンクリート側塊の内側に接合部を跨ぐように接着する接着剤となる前記弾性接着剤層にあっても、所定の伸びと強さをもってコンクリート側塊の接合部の水平方向へのずれに追従するので、前記応力に対する耐力の一層の向上が図れるとともに、前記積層されたコンクリート側塊の接合部の鉛直方向へのずれによる鉛直方向にかかる応力に対する耐力の向上も図れる。
また、コンクリート側塊の接合部に前記筒状シールを接着したので、前記筒状シールが所定の伸びと強さをもってコンクリート側塊の接合部の水平方向へのずれに追従することになり、前記応力に対する耐力の一層の向上が図れるとともに、前記積層されたコンクリート側塊の接合部の鉛直方向へのずれによる鉛直方向にかかる応力に対する耐力の向上も図れ、また、周溝部に充填された接合部全周にある弾性接着剤層の劣化を防止することができる。
【0015】
また、前記周溝部に充填される前記弾性接着剤で形成された弾性接着剤層およびコンクリート側塊の接合部に前記筒状シールを接着する前記弾性接着剤で形成された弾性接着剤層は、少なくとも前記コンクリート側塊の破壊よりも弱い力で剪断するので、コンクリート側塊の接合部の水平方向へのずれが周溝部に充填された弾性接着剤層の伸び率を超えた場合、コンクリート側塊に先んじて弾性接着剤層が剪断することになり、コンクリート側塊の破壊を防止することができる。
【0016】
請求項3に記載の地震対応人孔保護工法によれば、請求項2に記載の、前記筒状シールにおける前記接着面には合成繊維シートが積層されているので、合成繊維シートの繊維がアンカーとなって、筒状シールが弾性接着剤から剥がれるといったことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る地震対応人孔保護工法の実施の形態の第1例を実施した人孔の縦断面図である。
図2】第1例で実施される人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部位に形成された周溝部の要部縦断説明図である。
図3】第1例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の水平方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図である。
図4】第2例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の鉛直方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図である。
図5】本発明に係る地震対応人孔保護工法の実施の形態の第2例を実施した人孔の縦断面図である。
図6】第2例で実施される人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部位の要部縦断説明図である。
図7】第2例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の水平方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図である。
図8】第2例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の鉛直方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る地震対応人孔保護工法を実施するための形態を詳細に説明する。
図1乃至図4は本発明に係る地震対応人孔保護工法の実施の形態の第1例を示すもので、図1は第1例を実施した人孔の縦断面図、図2は第1例で実施される人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部位に形成された周溝部の要部縦断説明図、図3は第1例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の水平方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図、図4は第1例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の鉛直方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図である。
【0019】
本例の地震対応人孔保護工法は、人孔1における上下に積層されたコンクリート側塊2,2の接合部3の耐震化を図る地震対応人孔保護工法である。
まず、積層されたコンクリート側塊の接合部3を、コンクリート側塊2,2の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さL1で、接合部3に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊2,2の接合部3に内周側に開口する高さ方向所定幅L2の周溝部4を形成する(図2参照。)。
つぎに、周溝部4に、少なくともコンクリート側塊2,2の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤5を充填してシールする。
【0020】
周溝部4の深さL1と幅L2は、次のようにして決められる。まず、地震により人孔1におけるコンクリート側塊2,2の接合部3が水平方向にずれたとき水平方向にかかる応力に耐えられる目標強度を設定する。目標強度の設定について説明すると、地震により人孔1におけるコンクリート側塊2,2の接合部3が水平方向にずれたとき水平方向にかかる応力は、コンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向への変位量によって増減するものであり、予め、コンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向への耐震変位量の限界応力値を保護範囲(ずれ量)として定め、この限界応力値に耐えられる強度を目標強度として設定する。
【0021】
コンクリート側塊2,2の接合部3の変位による応力に対する耐力は、周溝部4内に充填された弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6の伸びと強さによって決定され、弾性接着剤層6の伸びと強さは弾性接着剤層6の断面積に比例するので、周溝部4の深さL1と幅L2は、弾性接着剤層6の断面積が、設定された目標強度に応じて、応力に耐えられる強度が得られる断面積となるように決められる。
【0022】
周溝部4に充填する弾性接着剤5にあっては、弾性エポキシ樹脂、シリコンエラストマー、ゴムフィラー、ポリウエアを使用した熱硬化性樹脂等が使用されるが特に限定されないが、接着性、コンクリート側塊2,2の変位に対する追従性、更には耐薬品性、耐水性といった点から弾性エポキシ樹脂が好ましく、本例では、弾性接着剤5として弾性エポキシ樹脂を使用している。
【0023】
上記第1例の地震対応人孔保護工法によれば、積層されたコンクリート側塊2,2の接合部3を、コンクリート側塊2,2の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さL1で、接合部3に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊2,2の接合部3に内周側に開口する高さ方向所定幅L2の周溝部4を形成し、周溝部4に、弾性接着剤5を充填してシールするので、地震によってコンクリート側塊2,2の接合部3が水平方向にずれたとき、周溝部4内に充填された弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6が伸びてコンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向への変位に追従する(図3参照。)。
このときの水平方向にかかる応力は、周溝部4に充填された接合部3の全周にある弾性接着剤層6全体に均等にかかることになり、応力に対する耐力の向上が図れる。
また、コンクリート側塊2,2の接合部3が鉛直方向にずれたとき、周溝部3内に充填された弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6が伸びてコンクリート側塊2,2の接合部3の鉛直方向への変位に追従する(図4参照。)。
【0024】
また、周溝部4に充填される弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6は、少なくともコンクリート側塊2,2の破壊よりも弱い力で剪断するので、コンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向へのずれが周溝部4に充填された弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6の伸び率を超えた場合、コンクリート側塊2,2に先んじて弾性接着剤層6が剪断することになり、コンクリート側塊2,2の破壊が防止される。
また、周溝部4に充填されて接合部3をシールする弾性接着剤層6の伸びと強さは弾性接着剤層6の断面積に比例するので、周溝部4の深さL1と幅L2等を調整することにより、コンクリート側塊2,2の接合部3が水平方向にずれたときの保護範囲(ずれ量)と目標強度を容易に設定することができる。
【0025】
図5乃至図8は本発明に係る地震対応人孔保護工法の実施の形態の第2例を示すもので、図5は第2例を実施した人孔の縦断面図、図6は第2例で実施される人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部位の要部縦断説明図、図7は第2例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の水平方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図、図8は第2例を実施した人孔の積層されたコンクリート側塊の接合部の鉛直方向への変位と、変位に伴う弾性接着剤層の伸びを示す説明図である。
【0026】
本例の地震対応人孔保護工法は、前記第1例と基本構成において変わるところが無く、第1例と同一の構成については同一の符号を付し、その詳細は第1例の説明を援用する。
本例の地震対応人孔保護工法は、第1例と同様に、人孔1における上下に積層されたコンクリート側塊2,2の接合部3の耐震化を図る地震対応人孔保護工法である。
【0027】
本例では、予め、少なくともコンクリート側塊2,2の破壊よりも弱い力で破断する合成樹脂で成形した可撓シートを基材として、コンクリート側塊2,2の内周に対応した筒状体を形成し、筒状体における胴部外周面を接着面とした筒状シール7を用意する。筒状シール7にあっては、筒状体の基材となる可撓シートを成形する合成樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等が使用されるが、伸びにあっては、後述する弾性接着剤と同等の伸びを有するものが好ましい。この基材は平坦な表面を有し、その厚さはコンクリート側塊2,2の破壊よりも弱い力で破断する厚さに設定されている。また幅にあっては、後で詳述する。
また、本例では、筒状シール7における胴部外周面である接着面に合成繊維シート8が溶着されている。この合成繊維シート8は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の繊維を使用した織布、不織布の何れであってもよい。
【0028】
筒状シール8を用意したうえで、まず、第1例と同様に、積層されたコンクリート側塊2,2の接合部3を、コンクリート側塊2,2の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さL1で、接合部4に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊2,2の接合部3に内周側に開口する高さ方向所定幅L2の周溝部4を形成する。
つぎに、周溝部4に、少なくともコンクリート側塊2,2の破壊よりも弱い力で剪断するように弾性接着剤5を充填してシールする。
周溝部4の深さL1と幅L2は、第1例と同様にして決められるので、第1例の説明を援用する。周溝部4に充填する弾性接着剤5にあっても、第1例と同様なので、第1例の説明を援用する。
【0029】
つぎに、用意した筒状シール7を、積層されたコンクリート側塊2,2の内側に接合部3を跨ぐように配置し弾性接着剤9を用いて接着し固定する。弾性接着剤9にあっては、周溝部4に充填する弾性接着剤5と同じものが用いられる。筒状シール7を積層されたコンクリート側塊2,2の内側に接着する弾性接着剤9で形成される弾性接着剤層10の厚さL3、幅L4は、弾性接着剤層10の伸びと強さが、周溝部4に充填した弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6の伸びと強さによる耐力を向上させる補助的役割を果たすように設定される。
【0030】
上記第2例の地震対応人孔保護工法によれば、第1例と同様に、積層されたコンクリート側塊2,2の接合部3を、コンクリート側塊2,2の内周側から外周壁面を超えない範囲の所定の位置までの深さL1で、接合部3に沿って周方向に切削して、コンクリート側塊2,2の接合部3に内周側に開口する高さ方向所定幅L2の周溝部4を形成し、周溝部4に、弾性接着剤5を充填してシールするので、地震によってコンクリート側塊2,2の接合部3が水平方向にずれたとき、周溝部4内に充填された弾性接着剤5で形成された弾性接着剤層6が伸びてコンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向への変位に追従する。
【0031】
同時に、筒状シール7をコンクリート側塊2,2の内側の接合部3を跨ぐように接着する弾性接着剤9で形成される弾性接着剤層10にあっても、前記した伸びと強さをもってコンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向へのずれに追従し、筒状シール7にあっても、所定の伸びと強さをもってコンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向へのずれに追従する(図7参照。)。
このときの水平方向にかかる応力は、周溝部4に充填された接合部3の全周にある弾性接着剤層6、弾性接着剤層10、筒状シール7の全体に均等にかかることになり、応力に対する耐力の向上が図れる。
また、コンクリート側塊2,2の接合部3が鉛直方向にずれたとき、弾性接着剤層6、弾性接着剤層10、筒状シール7が伸びてコンクリート側塊2,2の接合部3の鉛直方向への変位に追従するので(図8参照。)、コンクリート側塊2,2の接合部3の鉛直方向へのずれによる鉛直方向にかかる応力に対する耐力の向上も図れる。
【0032】
また、弾性接着剤層6、弾性接着剤層10、筒状シール7は、少なくともコンクリート側塊2,2の破壊よりも弱い力で剪断するので、コンクリート側塊2,2の接合部3の水平方向へのずれが弾性接着剤層6、弾性接着剤層10、筒状シール7の伸び率を超えた場合、コンクリート側塊2,2に先んじて弾性接着剤層6、弾性接着剤層10、筒状シール7のいずれか、或いは全てが剪断することになり、コンクリート側塊2,2の破壊が防止される。
【0033】
また、周溝部4に充填されて接合部3をシールする弾性接着剤層6の伸びと強さは弾性接着剤層6の断面積に比例するので、第1例と同様に、周溝部4の深さL1と幅L2等を調整することにより、コンクリート側塊2,2の接合部3が水平方向にずれたときの保護範囲(ずれ量)と目標強度を容易に設定することができる。
また、筒状シール7として使用されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等は耐薬品性、耐水性に優れ、弾性接着剤層6,10への薬液浸入等による劣化を防止することができる。
また、本例では、筒状シール7における胴部外周面である接着面に合成繊維シート8が溶着されているので、弾性接着剤9により筒状シール7の接着面をコンクリート側塊2,2に接着したとき、合成繊維シート8の繊維がアンカーとなって、筒状シール7が弾性接着剤9から剥がれるといったことが防止される。
【符号の説明】
【0034】
1 人孔
2,2 コンクリート側塊
3 接合部
4 周溝部
5 弾性接着剤
6 弾性接着剤層
7 筒状シール
8 合成繊維シート
9 弾性接着剤
10 弾性接着剤層
L1 コンクリート側塊の接合部に沿って周方向に切削して形成された周溝部の接合部の 内周側からの深さ
L2 周溝部の接合部の内周側に開口する高さ方向の幅
L3 筒状シールをコンクリート側塊内側に接着する弾性接着剤で形成される弾性接着剤 層の厚さ
L4 筒状シールをコンクリート側塊内側に接着する弾性接着剤で形成される弾性接着剤 層の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8