(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明に基づくベルトを備えた実施の形態1の画像形成装置の要部構成を示す概略構成図である。
【0011】
同図に示す画像形成装置1は、中間転写方式のカラー電子写真プリンタとしての構成を備え、装置内部には、記録媒体としての記録用紙25を収納する給紙カセット31が装着され、記録用紙25を給紙カセット31から取り出す図示しない給紙ローラ、記録用紙25を2次転写部まで搬送する搬送ローラ32が配置される。また、画像形成装置1内には、画像形成部として、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー画像を形成するトナー画像形成部11〜14が、ベルト23の回転移動方向(同図の矢印方向)に沿って上流側から順に、トナー画像形成部の各感光体ドラム51がベルト23に当接するように配置されている。これらのトナー画像形成部は、それぞれが所定色のトナーを使用する以外は同じ構成を有する。
【0012】
例えばイエロー(Y)のトナーを使用するトナー画像形成部11に示すように、各トナー画像形成部は、静電潜像担持体としての感光体ドラム51、感光体ドラム51の表面に電荷を供給して帯電させる帯電ローラ52、帯電された感光体ドラム51の表面に画像データをもとに選択的に光を照射して静電潜像を形成するLEDヘッド53、感光体ドラム51に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー画像を形成する現像部54、及び感光体ドラム51の表面に残留したトナーを除去すべく、感光体ドラム51に接触して配置されるクリーニングブレード56を備える。
【0013】
また、画像形成装置1内には、転写ユニット10として、中間転写ベルトとしのベルト23、図示せぬ駆動部より回転されてベルト23を矢印方向に駆動する駆動ローラ20、駆動ローラ20と共に無端状のベルト23を所定の張架圧力によって張架する支持ローラ21,22、及び感光体ドラム51上に形成されたトナー画像をベルト23に1次転写すべく、ベルト23を挟むように各感光体ドラム51に対向して配置された1次転写ローラ26が備えられている。
【0014】
ベルト23を介して支持ローラ21に対向する位置には、ベルト23のトナー画像を記録用紙25上に2次転写する2次転写ローラ33が配置され、ベルト23を介して支持ローラ22に対向する位置には、ベルト23上に付着した残トナーを掻き取りクリーニングするクリーニング部材24が配置されている。そして、記録用紙25上に形成されたトナー画像を、熱及び圧力を加えることによって定着させる定着装置34、定着装置34を通過した記録用紙25を搬送し、画像が定着された記録用紙25を装置外に排出する搬送ローラ35が配置されている。
【0015】
以上の構成において、画像形成装置1による印刷処理動作について説明する。尚、
図1中の点線矢印は、搬送される記録用紙25の搬送方向を示す。
【0016】
各トナー画像形成部11〜14において、各感光体ドラム51の表面は、図示しない電源装置により電圧が印加された帯電ローラ52により帯電される。続いて、感光体ドラム51が矢印方向に回転することによって、帯電された感光体ドラム51表面がLEDヘッド53の付近に到達すると、画像データをもとに選択的に光を照射するLEDヘッド53によって露光され、感光体ドラム51の表面に静電潜像が形成される。この静電潜像は、現像部54により現像され、感光体ドラム51の表面にトナー画像が形成される。
【0017】
各感光体ドラム51に形成されたトナー画像は、ベルト23に接する転写位置を通過する際に、図示しない電源装置により電圧が印加されている転写ローラ26によって、それぞれベルト23上に1次転写される。このとき、ベルト23に転写される各色のトナー像が、ベルト23上に順次重ねて転写されるように、各感光体ドラム51へのトナー画像形成タイミングが計られている。この段階で、ベルト23上には、重ねられた、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー画像によりカラー画像が形成される。
【0018】
一方、上記したベルト23上へのカラー画像の形成と並行して、給紙カセット31にセットされた記録用紙25は、図示しない給紙ローラによって給紙カセット31から取り出され、搬送ローラ32により、2次転写位置である2次転写ローラ33とベルト23の接合部まで搬送される。そして、記録用紙25が、この転写位置を通過する際に、電源装置により電圧が印加されている2次転写ローラ33によって、ベルト23上のカラー画像が記録用紙25上の所定位置に2次転写される。
【0019】
続いて、表面に各色のトナー画像によるカラー画像が形成された記録用紙25は、図示しない搬送手段によって定着装置34に搬送される。記録用紙25上のトナー画像は、定着装置34によって加圧しながら加熱することにより溶融し、記録用紙25上に固定される。トナー画像が定着した記録用紙25は、搬送ローラ35によって装置外の図示しないスタッカ部に排出され、印刷処理動作が終了する。この間、記録用紙25を分離した後のベルト23は、ベルト23上に残留したトナーやその他の異物を除去するクリーニング部材24により清掃される。
【0020】
次に、上記した画像形成装置1で使用されるベルト23について詳しく説明する。
【0021】
図2は、本実施の形態1で使用されるベルト23の構造を示す断面図である。ベルト23は、
図2に示すように、基層23a、弾性層23b、表面層23cを順次積層したような3層の積層体構造をしたシームレスの無端状ベルトである。ここでは3層としているが、3層以上の積層構造を有しているものでもよく、例えば基層と弾性層の間に層を形成したものや、弾性層と表面層の間に層を形成させたものでもよい。このようなベルト23を、
図1に示した画像形成装置1に中間転写ベルトとして使用する場合、表面層(外周面)23cはトナー等が接する面であり、基層(内周面)23aはベルトが走行回転中に駆動ローラ20や支持ローラ21,22と直接接触し、摺動する面である。
【0022】
ここでは、ベルト23の基層23aとしてイオン導電化剤を適量混合したPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を選択し、弾性層23bとしてJISA硬度40°の熱可塑性ポリウレタン(TPU)にイオン導電化剤を適量混合した材料を選択した。これらの材料を押出し成型によって、基層23aと弾性層23bの2層膜厚の和が400±40μmであり、内周長が624mmとなるシームレスベルト成型した後、228mmの幅長に適宜切断した。基層や弾性層の成型方法については、押し出し成型に限定されるものではなく、材料の種類によって、回転成型、遠心成型、インフレーション成型を利用してもよく、また、各層を各々製膜したのちに、接着剤等で貼りあわせてもよい。
【0023】
次に、以上のようにして形成した基層23aと弾性層23bの積層体を所定寸法の治具にセットし、スプレーコートにより、メチルエチルケトン等の有機溶剤で希釈した末端にアクリル基を有するアクリルモノマーを塗布した後、その表面にUV照射することで硬化させ、表面層23cを有する3層のベルト23を得た。ここでは、UV反応硬化型のポリアクリルを主鎖とする樹脂を選択した。ポリアクリルは、1種類又は数種類のモノマーを混合した溶液をベルトなどの表面に塗装することでドライ膜厚を作製した後に、UVの照射によって短時間で硬化反応が終了するので、簡便に層形成をすることができる。硬化手法はUV照射に限られるものではなく、材料の種類によって、例えば、熱による硬化反応等を利用してもよい。
【0024】
ここで使用したポリアクリルは、ポリマーを構成するモノマーユニット、又はプレポリマーユニットの構成比(混合比)を変えることで、その硬さを調整することが可能である。また、表面層樹脂中にフッ素系又はシリコーン系の撥水材を適量添加することで、硬さを変えず、異なった臨界表面張力γcを有する表面層を形成することができる。但し、添加剤を過剰に加えると、経時で添加剤が表面へブリードする現象が発生しやすく、ブリード物が感光体ドラム51へ付着し、画像欠陥を引き起こすことがある。このため、臨界表面張力を小さくする際には、撥水剤の添加量に十分留意する必要がある。表面層23cの膜厚は、塗布する材料の濃度や、塗布量によって適宜調整することができ、ここでは3μmとした。
【0025】
尚、ベルト23を構成する材料は、上記した内容のものに限定されるものではなく、以下に示すような材料を使用してもよい。
【0026】
基層23aを形成する材料としては、樹脂材料であることが好ましく、耐久性や機械的特性の観点から、ベルト駆動時の張力変形が一定であることが望ましく、また蛇行規制手段と繰り返し摺動することによる、側部磨耗、側部オレ、割れ等のダメージが受けにくいことが必要である。例えば、基層23aを構成する樹脂として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンスルホネート(PPS)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好適であり、特にPI、PAI、PVDFが好んで使用される。
【0027】
基層23aには、イオン導電剤やカーボンブラックなどの導電剤を含有しており、その種類や添加量によって狙った導電性を発現させている。イオン導電化剤としては、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、テトラフルオロボラン酸リチウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウムなどのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩、有機リン塩、ホウ素酸塩などが挙げられる。また、カーボン導電剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらを単独使用、又は複数のカーボンブラックを併用し、狙った抵抗を発現させてもよい。基層
23aの膜厚は、前述したような機械的耐久性の観点から、基層を構成する材料の弾性率の大小によって決定されるが、一般的にその膜厚は60〜200μmである。
【0028】
弾性層23bを構成する弾性材料は、エラストマーであることが望ましい。弾性層を形成するエラストマーについても、基層23aと同様に導電性を発現させるために、適宜カーボンブラックや、イオン導電化剤を適量添加することが必要である。弾性層23bに導電性を付与する手段として、ベルト1本内の抵抗ばらつきを小さく抑え、均一な抵抗体を形成させるために、イオン導電剤を添加する手法が好んで使用される。
【0029】
また弾性層23bを形成する材料には、ポリウレタンが好まれて使用されており、媒体の凹凸に対してより確実に追従させるために、JISA硬度が70°以下、好ましくはJISA硬度が25〜50°のポリウレタンが好まれて使用されている。また、媒体の凹凸に効率よく追従させるために、弾性層23bは厚いほど好ましい。
【0030】
次に表面層23cを構成する材料ついて説明する。表面層23cに求められる特性は、トナーのリリース性を有すると共に、その性能を寿命まで維持できるような耐久性、特に耐摩耗性に優れた樹脂を選択する必要がある。表面層23cを形成する材料としては、例えば、ポリアクリル、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、スチレン化合物、ナフタレン化合物やPTFEなどのフッ素系化合物が好ましい。
【0031】
以下、上記構成のベルト23について、表面特性の異なる材料を使用して行った印刷(転写)試験及びその試験結果について説明する。
【0032】
ベルト23の表面特性として、表面の硬さ及び離型性に着目し、表面硬さについては押込みヤング率E_ITを指標とし、離型性については臨界表面張力γcを指標として、これらの特性の異なるベルトを試料として複数用意して行った、印刷(転写)試験とその評価結果について以下に説明する。
【0033】
まず、ベルト表面の硬さを評価する押込みヤング率E_ITの測定方法について説明する。ベルト表面層の硬さの評価は、東陽テクニカ製G200を使用し、測定端子としてBerkovich(TB13289)を用いて測定した。厚さ10μmの表面層をPI(ポリイミド)フィルムまたはPVDF(ポリビニリデンフルオライド)フィルムの上に形成させた硬さ測定用の試料を準備し、材料の硬さを測定した。即ち、IS014577−1に準拠して測定し、0.1[mN]で押込んだときの押し込みヤング率E_ITを求めた。この場合、押し込みヤング率E_ITが大きいほどベルト表面は硬いといえる。
【0034】
次に、ベルト表面の離型性を評価する算出方法について説明する。離型性は、Zisman法から求めた臨界表面張力によって評価した。一般的に測定対象固体表面よりも液体の表面張力が大きければ、液体はその液滴を保ち、逆にそれよりも小さければ、液滴はよく広がってよく濡れる状態となる。また、それぞれの液体の接触角の余弦を液体の表面張力に対してプロットすると直線となり、その余弦が1(完全に濡れた状態)となるように外挿した点の表面張力が、測定した固体の臨界表面張力(γc)となる。臨界表面張力γcが小さいほど離型性が高い表面であるといえる。
【0035】
本願では、ベルト表面に対する接触角を接触角計(協和界面科学(株)社製 接触角計 CA−X型)用いて25℃50%RH環境下で測定した。液体としてはnードデカン(25.0[mN/m])、ジヨードメタン(50.8[mN/m])、純水(72.8[mN/m])の3種液体を使用し、得られた接触角から
図3に示すようにZisman−Plotを用いて、ベルト表面層の臨界表面張力γcを算出した。
【0036】
上記した方法で形成し、且つ表面の硬さ及び臨界表面張力を測定したNo.1〜No.29(表1参照)までの複数の無端状のベルトを試験試料として用意して行なった転写試験とその結果に基づく評価について説明する。
尚、便宜上、試験に使用される試料としてのベルトは全て符号23を付して説明するが、本発明に基づく実施の形態1のベルト23に相当するのは、後述する試験結果に基づいて特定される、押込みヤング率E_IT及び臨界表面張力γcを備えたものである。
【0037】
<1次転写工程における評価方法について>
1次転写工程におけるベルト上のドット中抜け、及び細線の中抜けの評価は、例えば
図1に示す画像形成装置1と同構成の画像形成装置を使用し、試験試料としてのベルト23の表面にイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー像を互いに重ならないように1次転写により形成し、そのトナー像を実体顕徴鏡で観察し、ドット中抜け及び細線の中抜けの有無、及びそのレベルを判定した。
その他の試験条件は以下の通りである。
・形成するトナー像:幅1.5mmの細線
・試験環境:NN環境下(23℃50%RH)
・画像形成装置の解像度:600dpi
・形成する画像:ハーフトーン
これは、ベタ画像と違い、ドットが独立して観測できるためである。
・トナー:粉砕法で主構成組成としてポリエステル樹脂を用い、粒径が4.5〜6.5μmで真球度が0.90〜0.94のものを使用
・ベルトの表面粗さRa:0.1μm〜0.3μm
・1次転写位置での圧接力:152N
【0038】
観察によるドット中抜けレベル判定基準は以下の通りである(
図4(a)参照)。
○:ドット中抜けがなく、円形状のドットがきれいに再現されている
△:ドットの中抜けはないが、変形したドットが存在している、または極軽微な中抜けが存在する
×:ドットがドーナツ状になっており、ドットの形状も大きく変形している
【0039】
観察による細線中抜けレベル判定基準は以下の通りである(
図4(b)参照)。
○:細線中抜けがない
△:細線の中央部がややかすれており、薄くなっている
×:細線の中央部にトナー存在しておらず、2本の線になっている
【0040】
<2次転写工程における評価方法について>
2次転写工程における画像品質評価は、例えば
図1に示す画像形成装置1と同構成の画像形成装置を使用し、試験試料としてのベルト23の表面にイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のべタ画像を互いに重ならないように媒体印字し、ベルト上のトナー像が効率よく紙面上へ転写されているか目視判定した。例えば、2次転写工程でベルト23から紙面上へ効率よく転写されない場合、紙面上のべタ画像は
図4(c)の×欄に示したようにカスレが発生する。
その他の試験条件は以下の通りである。
・試験環境:NN環境下(23℃50%RH)
・画像形成装置の解像度:600dpi
・形成する画像:ベタ画像(全面)
・トナー:粉砕法で主構成組成としてポリエステル樹脂を用い、粒径が4.5〜6.5μmで真球度0.90〜0.94のものを使用
・記録用紙:A4のPPC(Plain Paper Copy)用紙
・ベルトの表面粗さRa:0.1μm〜0.3μm
・2次転写位置での圧接力:90N
【0041】
観察による印刷紙面上のベタ画像のカスレレベル判定基準は以下の通りである(
図4(c)参照)。
○:かすれていない
△:極一部で軽徴なカスレが存在するものの、実用上問題なし
×:画像全体がかすれており、実用上問題あり
【0042】
1次、2次の各転写工程での上記したドット中抜けレベル、細線中抜けレベル、及びカスレレベルの各レベル判定は、例えば、
図4(a)、(b)及び(C)にそれぞれ示すような各状態を基準として、目視または実体顯徴鏡による観察によってレベル判定した。
【0043】
<1次転写工程及び2次転写工程における画像の総合評価方法について>
1次転写工程及び2次転写工程における画像の総合評価として、以下のような基準で判定した。
○:カスレ、中抜けが発生していない
□:軽微なカスレ、或いは軽微な中抜けが存在している。実用上問題ないが、好ましくない
■:ベタ画像のカスレが顕著で実用上問題あり
【0044】
表1に上記した各転写試験の各評価結果を示し、
図5に、No.1〜No.29の試験試料ベルトの各指標に対応する座標に総合評価の判定結果をプロットした分布図を示す。
【0046】
図5に示す、総合評価の判定結果をプロットした分布図から明らかなように、使用するベルトの押込みヤング率E_IT及び臨界表面張力γcは、それぞれ
E_IT≦4.6[GPa]、 γc≦15[mN/m] (1)
とすることによって、実用上問題が生じない程度の品位での印刷が可能となり、更に
2.0[GPa]≦E_IT≦4.6[GPa]でγc≦15[mN/m]、且つ
0.5[GPa]≦E_IT<2.0[GPa]でγc≦10[mN/m] (2)
とすることによって、カスレも中抜けも生じない高品位の印刷が可能となることが理解される。
【0047】
尚、上記の(1)、(2)の不等式では、臨界表面張力γcの下限値については示していませんが、実測では、γc=2[mN/m](Zisman−Plot:相関係数=0.9998)のレベルまで確認している。
【0048】
表1に示す評価結果から、1次転写工程においてドット中抜けや細線中抜けを発生させないためには、表面層の押込みヤング率E_ITを4.6[GPa]以下にする必要があることがわかる。また、2次転写工程においてカスレのない画像を提供するためには、臨界表面張力γcを15[mN/m]以下にすることが必要であり、且つ、押し込みヤング率E_ITを2.0[GPa]以上とすることが好ましい。更に、臨界表面張力γcを10[mN/m]以下にすることで、押し込みヤング率が0.5[GPa]の表面層を使用してもカスレなどの画像欠陥を生じないことがわかった。
【0049】
以下に、上記した傾向を示す理由について説明する。
【0050】
ドットや細線の中抜け現象は、感光体ドラム51上のトナー像をベルト23上へ1次転写する工程で発生し、次のような理由で発生することが知られている。即ち、感光体ドラム51とベルト23の間にトナー像が挟まれた際に、トナー像が圧接され、トナーが密集するドットや、特に、細線の中央付近では、トナーへの応力が集中する。このため、過度の圧力が加わったトナー粒子は塑性変形し、粒子間での付着力や、感光体ドラム51との付着力が増大するため、ベルト23上に1次転写されにくくなる。更に、塑性変形によって増大した感光体ドラム51とトナーの付着力は、圧力の開放によっても弱まらず、転写電界によってトナー粒子に加わるクーロン力よりも大きいため、感光体ドラム51からベルト23へ1次転写されにくい。一方、ドットや細線の外周付近では、外側へ応力が分散するため、トナー粒子の塑性変形は生じない。このため、応力によって増大したトナーの付着力は、圧力の開放によって戻るため、感光体ドラム上51のトナー像は、転写電界によってベルト23上に1次転写されると考えられる。
【0051】
従ってこれらの現象に対する対策として、ベルト23の最表面の押込みヤング率E_ITを4.6[GPa]以下にすることで、1次転写時にトナー像に加わる圧力をベルト23の表面層で適度に吸収・分散し、トナー像の中抜けを防ぐことが可能になる。
【0052】
また、ベルト23の表面の押し込みヤング率E_ITが2.0[GPa]未満の場合、1次転写時のトナー像の中抜けは改善されるが、ベルト23と2次転写ローラ33が直接又は記録用紙25を介して圧接する2次転写部において、ベルト23上のトナー像が記録用紙25へ2次転写されにくくなってしまう。これは、ベルト23の表面の押込みヤング率が2.0[GPa]よりも小さいと、ベルト23に接するトナーが、2次転写ローラ33と2次転写部でベルト23の内側に接する支持ローラ21間の押圧荷重によってベルト面に押圧される際、ベルト表面が微小変形することでトナーとの接触面積が増加し、ベルト23とトナーとの付着力が増大するためであると考えられる。
【0053】
また、ベルト23の表面の臨界表面張力γcが15[mN/m]よりも大きいと、ベルト23とトナーとの付着力が大きくなるため、ベルト23上のトナーが十分に記録用紙25へ2次転写されず、画像欠陥(ここでは、カスレ)を助長していると考えられる。
【0054】
しかしながら、臨界表面張力γcを小さくしてベルト23とトナーの付着力を小さくし、トナー像が転写電界によって容易に記録用紙25の面上へ転写しやすくしても、押し込みヤング率E_ITが0.5[GPa]未満の柔らかな表面層を使用した場合には、十分に満足のいく画像は得られなかった。これは、ベルト23上のトナー像が2次転写工程において押圧されてベルト表面が微小変形した際に、トナー粒子がベルト表面層に理没してしまうため、ベルト表面のトナーに対する離型性とは別の次元で、紙面上へ転写されにくくなったためであると考えられる。
【0055】
また、固体表面の臨界表面張力γcとは、表面張力がγIの液体を固体表面に滴下し液滴が形成されたときに、その液滴と固体表面とのなす角が0°となった場合に、γc=γIとなることを示している。すなわち、γcは、理論上0よりも大きい。しかしながら、測定する固体の表面形状や測定する液体と個体とのSP値の関係によっては、計算上0を下回ることがある。しかし、それら固体表面の臨界表面張力が小さいことは明らかであり、本実施の形態で評価に使用した3種液体を用いて測定及び算出したベルト表面の臨界表面張力は、小さいほどトナーの離型性が高いことを示しており、2次転写工程におけるカスレに対して有効である。
【0056】
以上のように、中間転写方式の画像形成装置において、ベルト表面の硬さ(押し込みヤング率E_IT)及び離型性(臨界表面張力γc)が、それぞれ本実施の形態で説明したように所定の範囲に限定したベルトを中間転写ベルトとして使用することにより、1次転写及び2次転写時に発生する、ドットや細線の中抜け現象やカスレ現象を抑制することができる。
【0057】
実施の形態2.
本実施の形態では、前記した実施の形態1で説明した不等式(1)、(2)で、押し込みヤング率E_IT及び臨界表面張力γcの設定範囲を特定したベルトに対し、更に表面粗さRaを特定することにより、より細線の印字に適したベルトを求める。
【0058】
例えば、表面層の押込みヤング率E_ITが4.6[GPa]、臨界表面張力γcが5[mN/m]のベルトにおいて、表面粗さRaが0.04〜1.5μmまでの複数の無端状のベルトを試験試料として用意し、一次転写試験を行って、細線中抜を評価した。以下、更に詳細に説明する。
【0059】
本実施の形態で用意するベルト23は、前記した実施の形態1で
図2を参照して説明したように、基層23aとしてイオン導電化剤を適量混合したPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を選択し、弾性層23bとしてJISA硬度40°の熱可塑性ポリウレタン(TPU)にイオン導電化剤を適量混合した材料を選択した。これらの材料を押出し成型によって、基層23aと弾性層23bの2層膜厚の和が400±40μmであり、内周長が624mmとなるシームレスベルト成型した後、228mmの幅長に適宜切断した。
【0060】
その後、表面層の押し込みヤング率が4.6[GPa]であり、臨界表面張力が5[mN/m]であるコート溶液中に、平均粒径が0.3〜3μmのアクリル粒子を適宜添加分散させ、スプレー塗装にて膜厚3μmの表面層23c(
図2)を形成し、所定の表面粗さRaを有するベルト23を得た。ここでは、添加粒子としてアクリル粒子を使用したが、シリコーン、PTFEなどの粒子を使用してもよく、コート材料への分散性、有機溶剤への耐溶解性を考慮して適宜使用する。
【0061】
上記した方法で形成し、且つ表面粗さRaが異なるNo.30〜No.38(表2参照)までの複数の無端状のベルトを試験試料として用意して行なった転写試験とその結果に基づく評価について説明する。
尚、便宜上、試験に使用される試料としてのベルトは全て符号23を付して説明するが、本発明に基づく実施の形態2のベルト23に相当するのは、後述する試験結果に基づいて特定される、押込みヤング率E_IT、臨界表面張力γc、及び表面粗さRaを備えたものである。
【0062】
前記した実施の形態1での評価方法と同様に、1次転写工程におけるベルト上の細線中抜けの評価は、例えば
図1に示す画像形成装置1と同構成の画像形成装置を使用し、試験試料としてのベルト23の表面に2次色である赤(マゼンタ(M)+イエロー(Y))の細線を形成させ、そのトナー像を実体顕微鏡で観察し、中抜けの有無及びそのレベル判定を行い評価した。その他の試験条件は、前記した実施の形態1での<1次転写工程における評価方法について>の段落で記述した通りなのでここでの説明は省略する。
【0063】
2次色を選択した理由は、単一色の画像に比べてベルト上にトナー像を多く積層するため、感光体ドラム51とベルト23の押し圧力によって、トナー像に加わる応力が分散されにくく、細線の中央が白く抜けやすくなることによる。
【0064】
観察による細線中抜けレベル判定基準は以下の通りである(
図4(b)参照)。
○:細線中抜けがない
△:細線の中央部がややかすれており、薄くなっている
×:細線の中央部にトナー存在しておらず、2本の線になっている
【0065】
表2に上記した各転写試験の各評価結果を示す。
【0067】
表2に示す評価結果から、赤のような複数のトナーを積層して構成されるトナー像をベルト状に形成させた場合、特に細線を印字する場合には、表面粗さRaが0.1μm以上であることが好ましいことがわかる。
尚、ここでは、表面層の押し込みヤング率が4.6[GPa]であり、臨界表面張力が5[mN/m]のベルトについて説明したが、押し込みヤング率E_IT及び臨界表面張力γcの設定範囲が、前記した実施の形態1で説明した不等式(1)、(2)で特定したベルトにおいても同様の傾向を示す。
【0068】
以下に、上記した傾向を示す理由について説明する。
【0069】
前記の実施の形態1でも説明したように、中抜け現象は、トナー像が感光体ドラム51とベルト23との押し圧力によって応力集中を受けることにより発生するため、使用するベルトの表面層の硬度の上限を定めることで対応するが、特に複数のトナー像が積層された2次色の場合には、トナー像内部の応力が分散しにくくなるため中抜けが顕著になると考えられる。一方、ベルト23の表面形状に凹凸を有している場合、感光体ドラム51上に形成されたトナー像は、感光体ドラム51とベルト23間の押し圧力によって応力を受けても、トナー像が受ける応力は感光体ドラム51とベルト23を結ぶ上下方向ではなく、複雑に応力が分散するため、細線中央部のような、応力集中を受けやすい部位でも、効率的に中抜けを防ぐことが可能になる。このため、ベルト23の表面粗さRaが所定値以上の場合には、中抜けを防ぐことができると考えられる。
【0070】
表2に示す評価結果によれば、表面粗さRaが1.0μmよりも大きい場合にも、中抜け評価に関しては良好な結果が得られた。しかしながら、表面粗さRaが大きくなるとクラックが生じて表面が脆くなる問題が生じる。以下にこの点について説明する。
【0071】
表3は、表2に示すNo.30〜38のベルト(試験試料)に対して行ったベルト表面の耐クラック性の評価結果を示し、
図6は、その説明に供する図である。
【0072】
耐クラック性の評価方法は、50×100mmの短冊状に裁断したベルトをφ5〜φ16mmのシャフトに巻き付け、24時間静置した後、ベルト表面を実体顕微鏡によって観察し、クラックの有無を、以下の評価基準に基づいて評価したものである。
○:クラック発生なし
×:ベルト表面にクラックが発生
【0074】
表3に示すように、表面粗さRaが1.0μmより大きい場合には、表面層にクラックが発生し、表面の粗さが大きいほど、クラックが入り易いことがわかった。これは、表面粗さRaを1.0μmより大きくする場合、表面層を形成する樹脂中に多量のフィラーを添加する必要があり、この添加量の増加に伴って、コート剤(バインダ樹脂)に対してフィラーの占有率が大きくなるため、フィラーを結着するバインダ樹脂が相対的に小さくなってしまう。例えば、表面粗さRa=1.3μmのベルト(No.37)表面は、
図6に示すような表面状態となる。
【0075】
図6において、白くなっている部分が、フィラーが表面層から突き出て凸状になっている部分を示し、黒く塗りつぶされている部分が表面層のバインダ樹脂部分を示している。このようにバインダ樹脂が少なくなると、樹脂がフィラーを結着する点が少なくなり、結果としてシャフトに巻きつけた際、表面層のフィラーと樹脂の界面で小さなクラックが発生してしまうと考えられる。このことから、表面層の耐クラック性を低下させないためには、表面粗さRaを1.0[μm]以下とする必要がある。
【0076】
従って、ベルト23の表面粗さRaを
0.1μm≦Ra≦1.0μm
とすることで、複数のトナー像が積層された2次色のように中抜けが発生し易いトナー像に対しても中抜けを防止することができ、且つ表面層でのクラック発生を防止することができる。
【0077】
以上のように、中間転写方式の画像形成装置において、ベルト表面の硬さ(押し込みヤング率E_IT)及び離型性(臨界表面張力γc)をそれぞれ所定の範囲に限定し、更に表面の粗さRaを所定の範囲に限定したベルトを中間転写ベルトとして使用することにより、細線中抜けが発生し易い、複数のトナーを積層した厚いトナー像をベルト上に形成する場合でも、トナー像に加わる応力を効率的に分散し、細線中抜けの発生を抑制できるため、より高精細な画像を長期に亘って提供することが可能となる。